説明

スポット溶接装置

【課題】ワークを撓ませることなく電極チップの加圧力を変化させる。
【解決手段】ロボットアーム12に固定される溶接ガン本体13には、電極チップ14を備えるガンアーム15と、電極チップ16を備えるガンアーム17とが移動自在に設けられる。また、溶接ガン本体13には副加圧プレート18が固定される。さらに、溶接ガン本体13には、ガンアーム15,17を駆動するサーボモータ19,20が設けられる。スポット溶接時には、ガンアーム15,17を近づけてワークを電極チップ14,16間に挟み込む。続いて、溶接ガン本体13を移動させて副加圧プレート18をワーク表面に押し付ける。このとき、電極チップ14,16間のワークが撓まないように、ガンアーム15,17は溶接ガン本体13に対して相対移動する。これにより、ワークを撓ませることなく電極チップ14,16から付与される加圧力を相違させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚のパネルからなるワークを溶接するスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体組立ラインにおいては、様々なパネルを組み合わせてスポット溶接を施すことにより、自動車車体が製造されている。溶接ロボットには一対のアーム部材を備えた溶接ガンが装着されており、溶接ガンから伸びるアーム部材の先端には電極チップが取り付けられている。そして、一対の電極チップによってパネルを加圧しながら短時間に大電流を流すことにより、抵抗発熱によってパネルを溶接することが可能となっている。
【0003】
ところで、自動車車体等においては、板厚の異なる3枚以上のパネルが重ねられる構造も多く、このような構造のワークに対して溶接品質を確保しつつスポット溶接を施すことが困難であった。すなわち、薄板のパネルは厚板のパネルに比べて変形し易いことから、一対の電極チップによってワークを単に加圧した場合には、薄板と厚板との間(以下、薄板側という)の接触面積が厚板と厚板との間(以下、厚板側という)の接触面積に比べて増大することから、薄板側の抵抗が厚板側の抵抗に比べて低下する。この結果、薄板側の発熱量が厚板側の発熱量に比べて低下し、ナゲットが厚板側に偏って生成されることから、良好な溶接品質を得ることが困難となっていた。
【0004】
そこで、一対の電極チップによってワークを加圧した後に、溶接ガンを薄板側に移動させるスポット溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。溶接ガンを薄板側に移動させることにより、厚板側が凹むようにワークを撓ませることができ、薄板側の加圧力を厚板側の加圧力よりも撓み反力分だけ小さくすることが可能となる。このように、薄板側の加圧力を低下させることにより、薄板側の接触面積を減少させて抵抗を増大させることができ、薄板側の発熱量を増大させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−251469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のスポット溶接方法は、溶接ガンを移動させてワークを撓ませることにより、薄板側の加圧力を撓み反力分だけ小さくする方法である。すなわち、パネルを変形させて撓み反力を発生させる必要があるため、高剛性のパネル(例えば、高張力鋼鈑)を前提とした溶接方法であり、十分な撓み反力が得られない低剛性のパネルに適用することは困難であった。さらに、ワークを撓ませて加圧力を調整することから、ワーク表面に対して電極チップを垂直に突き当てることが不可能であり、スパッタや圧痕不良を発生させてしまうおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、ワークを撓ませることなく電極チップの加圧力を変化させて溶接品質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスポット溶接装置は、複数枚のパネルからなるワークを溶接するスポット溶接装置であって、先端に第1電極チップを備え、前記ワークの一方面に前記第1電極チップを接触させる溶接位置と前記ワークの一方面から前記第1電極チップを離す退避位置とに動作する第1アーム部材と、先端に第2電極チップを備え、前記ワークの他方面に前記第2電極チップを接触させる溶接位置と前記ワークの他方面から前記第2電極チップを離す退避位置とに動作する第2アーム部材と、前記第1および第2アーム部材が動作自在に設けられる溶接ガン本体に固定される加圧部材とを有し、前記溶接ガン本体を移動させて前記加圧部材を前記ワークの一方面または他方面に押し付け、前記ワークの一方面に対する前記第1電極チップの加圧力と前記ワークの他方面に対する前記第2電極チップの加圧力とを相違させることを特徴とする。
【0009】
本発明のスポット溶接装置は、前記第1アーム部材に取り付けられ、前記第1アーム部材を溶接位置と退避位置との間で動作させる第1アクチュエータと、前記第2アーム部材に取り付けられ、前記第2アーム部材を溶接位置と退避位置との間で動作させる第2アクチュエータとを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のスポット溶接装置は、前記第1および第2アーム部材に取り付けられ、前記第1および第2アーム部材を溶接位置と退避位置との間で動作させる第1アクチュエータと、前記第1または第2アーム部材と前記溶接ガン本体とに取り付けられ、前記溶接ガン本体に対する前記第1および第2アーム部材の位置を変化させる第2アクチュエータとを有することを特徴とする。
【0011】
本発明のスポット溶接装置は、前記第1および第2アーム部材は溶接位置と退避位置とに平行移動することを特徴とする。
【0012】
本発明のスポット溶接装置は、前記第1および第2アーム部材は溶接位置と退避位置とに揺動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶接ガン本体に、第1および第2アーム部材を動作自在に設けるとともに加圧部材を固定している。これにより、溶接ガン本体を移動させて加圧部材をワーク表面に押し付けることができ、第1電極チップの加圧力と第2電極チップの加圧力とを相違させることが可能となる。これにより、溶接品質を向上させることが可能となる。しかも、溶接ガン本体に対して第1および第2アーム部材が動作自在に設けられるため、溶接ガン本体を移動させる場合であっても、電極チップ間に挟まれるワークの撓みを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態であるスポット溶接装置としてのスポット溶接ガンを示す斜視図である。
【図2】スポット溶接ガンの使用状態を示す説明図である。
【図3】スポット溶接ガンの内部構造を示す概略図である。
【図4】(a)〜(c)はスポット溶接の手順を示す説明図である。
【図5】電極チップおよび副加圧プレートによるワークの加圧状態を示す説明図である。
【図6】(a)〜(c)はスポット溶接の手順を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガンの内部構造を示す概略図である。
【図8】本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガンの構造を示す概略図である。
【図9】本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガンの構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態であるスポット溶接装置としてのスポット溶接ガン10を示す斜視図である。また、図2はスポット溶接ガン10の使用状態を示す説明図である。図1および図2に示すように、スポット溶接ガン10は、溶接ロボット11のロボットアーム12に固定される溶接ガン本体13を備えている。この溶接ガン本体13には、先端に第1電極チップ14を備えるガンアーム(第1アーム部材)15と、先端に第2電極チップ16を備えるガンアーム(第2アーム部材)17とが移動自在に設けられている。ガンアーム15,17の電極チップ14,16は、互いに対向するように同軸上に配置されている。また、溶接ガン本体13には、先端がU字状に切り欠かれた副加圧プレート(加圧部材)18が固定されている。さらに、溶接ガン本体13には、ガンアーム15を駆動するサーボモータ(第1アクチュエータ)19が設けられており、ガンアーム17を駆動するサーボモータ(第2アクチュエータ)20が設けられている。さらに、溶接ガン本体13には、スポット溶接時の高圧電流を生成するトランス21が設けられている。図示するスポット溶接ガン10は、ガンアーム15,17を平行移動させるようにした直動Xガンである。
【0016】
図2に示すように、溶接ロボット11の近傍には、コンピュータ等が組み込まれた溶接制御盤22が設置されている。溶接ロボット11には、予め教示された打点位置情報がケーブル23を介して送信されており、溶接ロボット11は、スポット溶接ガン10を所定の打点位置に向けて移動させる。また、スポット溶接ガン10には、打点毎に設定された溶接条件情報(加圧時間、通電時間、保持時間、通電電流等)がケーブル24を介して送信されており、スポット溶接ガン10は、溶接条件に沿ってスポット溶接を実行する。後述するように、スポット溶接時には、電極チップ14,16間にワークWが挟まれて加圧されるとともに、副加圧プレート18によってワーク表面が加圧される。なお、スポット溶接の手順については、スポット溶接ガン10の内部構造を説明した後に改めて説明する。
【0017】
図3はスポット溶接ガン10の内部構造を示す概略図である。図3に示すように、溶接ガン本体13には、互いに平行となるボールネジ30,31が設けられている。一方のボールネジ30は、プーリ機構32を介してサーボモータ19に連結されており、他方のボールネジ31は、プーリ機構33を介してサーボモータ20に連結されている。また、サーボモータ19とサーボモータ20とは同軸上に配置されている。また、サーボモータ20の本体は、サーボモータ19の駆動軸19aが貫通する中空構造となっている。同様に、サーボモータ20の駆動軸20aも、サーボモータ19の駆動軸19aが貫通する中空構造となっている。また、ガンアーム15の基端部には、ボールネジ30に結合するボールナット34が設けられるとともに、ボールネジ31が案内される貫通孔35が形成されている。さらに、ガンアーム17の基端部には、ボールネジ31に結合するボールナット36が設けられるとともに、ボールネジ30が案内される貫通孔37が形成されている。また、図1に示すように、ガンアーム15,17の基端部にはスライダ38,39が設けられており、スライダ38,39は直線状に伸びるガイドレール40に摺動自在に装着されている。
【0018】
サーボモータ19を駆動してボールネジ30を矢印A1方向に回転させると、ガンアーム15はガイドレール40に沿いながら溶接位置に向けて矢印A1方向に平行移動する。一方、サーボモータ19を駆動してボールネジ30を矢印A2方向に回転させると、ガンアーム15はガイドレール40に沿いながら退避位置に向けて矢印A2方向に平行移動する。また、サーボモータ20を駆動してボールネジ31を矢印B1方向に回転させると、ガンアーム17はガイドレール40に沿いながら溶接位置に向けて矢印B1方向に平行移動する。一方、サーボモータ20を駆動してボールネジ31を矢印B2方向に回転させると、ガンアーム17はガイドレール40に沿いながら退避位置に向けて矢印B2方向に平行移動する。また、副加圧プレート18は、溶接ガン本体13に固定されることから、ロボットアーム12に連動して溶接ガン本体13と共に移動することになる。このように、サーボモータ19,20を同軸上に配置するとともに、ボールネジ30,31を並べて配置するようにしたので、スポット溶接ガン10の小型化を達成することが可能となっている。
【0019】
続いて、スポット溶接の手順について説明する。図4(a)〜(c)はスポット溶接の手順を示す説明図である。図4(a)に示すように、溶接対象であるワークWは、3枚のパネルP1〜P3によって構成されている。上方に配置されるパネルP3は、下方に配置されるパネルP1や中央に配置されるパネルP2よりも板厚が薄く形成されている。また、薄板となるパネルP3は、厚板となるパネルP1,P2よりも剛性が低くなっている。以下の説明においては、発明の理解を容易にするため、パネルP1を厚板P1、パネルP2を厚板P2、パネルP3を薄板P3と記載する。なお、厚板P1,P2は、同じ寸法の板厚であっても良く、異なる寸法の板厚であっても良い。
【0020】
また、ワークWは図示しないクランプ装置によって治具上に固定されている。このワークWに対してスポット溶接を施すため、図4(a)に示すように、ガンアーム15,17が互いに離れる方向に移動し、電極チップ14,16間に所定の隙間が設けられる。すなわち、ガンアーム15,17は、電極チップ14,16がワーク表面から離れる退避位置に動作している。そして、電極チップ14,16間にワークWを挟み込むように、ロボットアーム12はスポット溶接ガン10を移動させる。このとき、溶接ガン本体13に固定される副加圧プレート18は、薄板P3に対向する位置に移動することになる。すなわち、図示する場合には、副加圧プレート18が、薄板P3に対向する電極チップ14側に位置するように、ガンアーム15,17を動作させている。
【0021】
続いて、図4(b)に示すように、ガンアーム15は、電極チップ14が薄板P3の表面(ワークWの一方面)に接触する溶接位置に達するまで、ガンアーム17に近づく方向に移動する。同様に、ガンアーム17は、電極チップ16が厚板P1の表面(ワークWの他方面)に接触する溶接位置に達するまで、ガンアーム15に近づく方向に移動する。これにより、ワークWの打点位置には、電極チップ14から主加圧力(加圧力)FUが加えられた状態となり、電極チップ16から主加圧力(加圧力)FLが加えられた状態となる。次いで、図4(c)に示すように、溶接ガン本体13に固定される副加圧プレート18を薄板P3の表面(ワークWの一方面)に押し付けるように、ロボットアーム12は溶接ガン本体13を下方に押し下げる。このとき、電極チップ14,16によってワークWが撓むことの無いように、ガンアーム15,17は溶接ガン本体13に対して上方に移動することになる。すなわち、ロボットアーム12によって溶接ガン本体13が押し下げられても、ワークWに対するガンアーム15,17および電極チップ14,16の位置が変化することの無いようにサーボモータ19,20が制御される。
【0022】
このように、電極チップ14,16によってワークWの打点位置が主加圧力FU,FLで加圧されるとともに、副加圧プレート18によってワークWの打点位置の周囲が副加圧力Fαで加圧された状態となる。そして、この加圧状態のもとで、電極チップ14,16間には短時間に大電流が流され、パネルP1〜P3を接合するナゲットが形成される。このようなスポット溶接が完了すると、図4(a)に示すように、再びガンアーム15,17は退避位置に移動し、続く打点位置に向けてロボットアーム12はスポット溶接ガン10を移動させる。なお、副加圧プレート18は、先端の加圧ピース18aとこれを支持するプレート本体18bとによって構成されており、加圧ピース18aとプレート本体18bとの間は絶縁された状態となっている。
【0023】
ここで、図5は電極チップ14,16および副加圧プレート18によるワークWの加圧状態を示す説明図である。図5に示すように、電極チップ14から薄板P3の打点位置には主加圧力FUが付与され、電極チップ16から厚板P1の打点位置には主加圧力FLが付与される。さらに、副加圧プレート18から薄板P3の打点位置の周囲には副加圧力Fαが付与される。このとき、電極チップ16から厚板P1に付与される主加圧力FLは、薄板P3に対して電極チップ14から付与される主加圧力FUと副加圧プレート18から付与される副加圧力Fαとの総和となる(FL=FU+Fα)。すなわち、薄板P3に対して電極チップ14から付与される主加圧力FUは、厚板P1に対して電極チップ16から付与される主加圧力FLに比べて小さくなる。
【0024】
ここで、主加圧力FUと主加圧力FLとが同じ大きさであったとすると、薄板P3は厚板P1,P2に比べて変形し易いことから、薄板P3と厚板P2との接合部αにおける接触面積が、厚板P1と厚板P2との接合部βにおける接触面積に比べて増大することになる。すなわち、薄板P3側の接合部αの抵抗が厚板P1側の接合部βの抵抗に比べて低下することから、接合部αの発熱量が接合部βの発熱量に比べて低下し、ナゲットが厚板P1側に偏ることから良好な溶接品質を得ることが困難であった。これに対し、本発明のスポット溶接ガン10を用いた場合には、主加圧力FUを主加圧力FLよりも引き下げることができるため、薄板P3側の接合部αの接触面積を減少させることが可能となる。これにより、薄板P3側の接合部αの抵抗を増加させるとともに、接合部αの発熱量を増加させることができるため、ナゲットが厚板P1側に偏ることがなく良好な溶接品質を得ることが可能となる。
【0025】
しかも、副加圧プレート18によってワーク表面を加圧する際に、ガンアーム15,17を溶接ガン本体13に対して移動させるようにしたので、電極チップ14,16によるワークWの撓みを防止することが可能となる。これにより、ワーク表面に対して電極チップ14,16を垂直に押し当てることができ、スパッタや圧痕不良の発生を抑制することが可能となる。また、副加圧プレート18の副加圧力Fαを調整することで、主加圧力FU,FLの加圧力差を調整することができるため、高精度に主加圧力FU,FLを制御することが可能となる。さらに、ワークWの撓み反力を用いて主加圧力FU,FLを調整する構成では無いため、パネルP1〜P2の剛性によって影響されることなく、主加圧力FU,FLを調整することが可能となっている。また、副加圧プレート18によって薄板P3が押さえられることから、薄板P3の湾曲変形を抑制することができ、この点からも、良好な溶接品質を得ることが可能となる。
【0026】
前述の説明では、上方つまり電極チップ14側に薄板P3が配置されているが、下方つまり電極チップ16側に薄板P3が配置されていても良い。図6(a)〜(c)はスポット溶接の手順を示す説明図である。図6(a)に示すように、溶接対象であるワークWは、前述したワークWの上下を反転させたものである。このように、ワークWの下側に薄板P3が配置される場合には、副加圧プレート18が薄板P3に対向する電極チップ16側に位置するように、溶接ガン本体13に対してガンアーム15,17を動作させる。そして、電極チップ14,16間にワークWを挟み込むように、ロボットアーム12はスポット溶接ガン10を移動させる。続いて、図6(b)に示すように、ガンアーム15は、電極チップ14が厚板P1の表面(ワークWの一方面)に接触する溶接位置に達するまで、ガンアーム17に近づく方向に移動する。同様に、ガンアーム17は、電極チップ16が薄板P3の表面(ワークWの他方面)に接触する溶接位置に達するまで、ガンアーム15に近づく方向に移動する。これにより、ワークWの打点位置には、電極チップ14から主加圧力FUが加えられた状態となり、電極チップ16から主加圧力FLが加えられた状態となる。次いで、図6(c)に示すように、溶接ガン本体13に固定される副加圧プレート18を薄板P3の表面(ワークWの他方面)に押し付けるように、ロボットアーム12は溶接ガン本体13を上方に押し上げる。このとき、電極チップ14,16によってワークWが撓むことの無いように、ガンアーム15,17は溶接ガン本体13に対して下方に移動することになる。すなわち、ロボットアーム12によって溶接ガン本体13が押し上げられても、ワークWに対するガンアーム15,17および電極チップ14,16の位置が変化することの無いようにサーボモータ19,20が制御される。このように、ワークWの下側に薄板P3が配置される場合には、副加圧プレート18によってワーク表面を下方から押し上げることにより、主加圧力FLが主加圧力FUよりも引き下げられる。これにより、ナゲットを厚板P1側に偏らせることなく、良好な溶接品質を得ることが可能となる。なお、ロボットアーム12を回転させてスポット溶接ガン10の上下を反転させることにより、下側に薄板P3が配置されるワークWに対応させるようにしても良い。
【0027】
続いて、本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガン(スポット溶接装置)50について説明する。図7は本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガン50の内部構造を示す概略図である。なお、図7において、図3に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図7に示すように、スポット溶接ガン50は、ガンアーム15,17を平行移動させるようにした直動Xガンである。溶接ガン本体13には、プーリ機構51を介してサーボモータ(第1アクチュエータ)52に連結されるボールネジ53が設けられている。また、溶接ガン本体13には、プーリ機構33を介してサーボモータ(第2アクチュエータ)55に連結されるボールネジ31が設けられている。ボールネジ30とボールネジ31とは同軸上に配置されている。また、ガンアーム15の基端部には、ボールネジ53に結合するボールナット34が設けられている。さらに、ガンアーム17の基端部には、ボールネジ56に結合するボールナット36が設けられている。また、前述したスポット溶接ガン10と同様に、ガンアーム15,17の基端部にはスライダ38,39が設けられており、スライダ38,39は直線状に伸びるガイドレール40に摺動自在に装着されている。
【0028】
サーボモータ19を駆動してボールネジ53を矢印A1方向に回転させると、ガンアーム15はガイドレール40に沿いながら溶接位置に向けて矢印A1方向に平行移動する。一方、サーボモータ19を駆動してボールネジ53を矢印A2方向に回転させると、ガンアーム15はガイドレール40に沿いながら退避位置に向けて矢印A2方向に平行移動する。また、サーボモータ20を駆動してボールネジ56を矢印B1方向に回転させると、ガンアーム17はガイドレール40に沿いながら溶接位置に向けて矢印B1方向に平行移動する。一方、サーボモータ20を駆動してボールネジ56を矢印B2方向に回転させると、ガンアーム17はガイドレール40に沿いながら退避位置に向けて矢印B2方向に平行移動する。また、副加圧プレート18は、溶接ガン本体13に固定されることから、ロボットアーム12に連動して溶接ガン本体13と共に移動することになる。このように、ガンアーム15を駆動するサーボモータ19と、ガンアーム17を駆動するサーボモータ19とを分離して配置するようにしたので、スポット溶接ガン50の整備性を高めることが可能となっている。このような構造のスポット溶接ガン50であっても、副加圧プレート18の副加圧力Fαを調整することにより、電極チップ14,16から付与される主加圧力FU,FLの加圧力差を調整することができ、前述したスポット溶接ガン10と同様に、良好な溶接品質を得ることが可能となる。
【0029】
続いて、本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガン(スポット溶接装置)60について説明する。図8は本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガン60の構造を示す概略図である。なお、図8において、図3に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図8に示すように、スポット溶接ガン60は、ガンアーム62,63を揺動させるようにしたXアームガンである。ロボットアーム12に固定される溶接ガン本体61には、先端に第1電極チップ14を備えたガンアーム(第1アーム部材)62と、先端に第2電極チップ16を備えるガンアーム(第2アーム部材)63とが揺動自在に設けられている。ガンアーム62,63は、溶接ガン本体61の取付軸64を中心に揺動自在となっている。また、溶接ガン本体61には、ガンアーム62の基端部に連結されるサーボ軸(第1アクチュエータ)65が回動自在に設けられている。さらに、溶接ガン本体61には、ガンアーム63の基端部に連結されるサーボ軸(第2アクチュエータ)が回動自在に設けられている。サーボ軸65,66には図示しないサーボモータが組み込まれており、ロッド部材65a,66aを進退移動させることが可能となっている。また、前述したスポット溶接ガン10と同様に、ロボットアーム12に固定される溶接ガン本体61には、副加圧プレート18が固定されている。
【0030】
サーボ軸65を駆動してロッド部材65aを矢印A1方向に押し出すと、ガンアーム62は溶接位置に向けて矢印A1方向に揺動する。一方、サーボ軸65を駆動してロッド部材65aを矢印A2方向に引き込むと、ガンアーム62は退避位置に向けて矢印A2方向に揺動する。また、サーボ軸66を駆動してロッド部材66aを矢印B1方向に押し出すと、ガンアーム63は溶接位置に向けて矢印B1方向に揺動する。一方、サーボ軸66を駆動してロッド部材66aを矢印B2方向に引き込むと、ガンアーム63は退避位置に向けて矢印B2方向に揺動する。また、副加圧プレート18は、溶接ガン本体61に固定されることから、ロボットアーム12に連動して溶接ガン本体61と共に移動することになる。
【0031】
このような構造のスポット溶接ガン60であっても、副加圧プレート18の副加圧力Fαを調整することにより、電極チップ14,16から付与される主加圧力FU,FLの加圧力差を調整することができ、前述したスポット溶接ガン10と同様に、良好な溶接品質を得ることが可能となる。なお、副加圧プレート18によってワークWを上方から押し下げる場合には、電極チップ14,16によってワークWが撓むことの無いように、副加圧プレート18の押し下げストロークに応じて、ガンアーム62を矢印A2方向に揺動させ、ガンアーム63を矢印B1方向に揺動させることになる。一方、副加圧プレート18によってワークWを下方から押し上げる場合には、副加圧プレート18の押し上げストロークに応じて、ガンアーム62を矢印A1方向に揺動させ、ガンアーム63を矢印B2方向に揺動させることになる。
【0032】
続いて、本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガン(スポット溶接装置)70について説明する。図9は本発明の他の実施の形態であるスポット溶接ガン70の構造を示す概略図である。なお、図9において、図7に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図9に示すように、スポット溶接ガン70は、ガンアーム62,63を揺動させるようにしたXアームガンである。また、ガンアーム62,63には、ガンアーム62の基端部とガンアーム63の基端部とを連結するサーボ軸(第1アクチュエータ)71が取り付けられている。さらに、溶接ガン本体61には、ガンアーム62の基端部に連結されるサーボ軸(第2アクチュエータ)72が回動自在に設けられている。サーボ軸71,72には図示しないサーボモータが組み込まれており、ロッド部材71a,72aを進退移動させることが可能となっている。また、前述したように、溶接ガン本体61には副加圧プレート18が固定されている。
【0033】
サーボ軸71を駆動してロッド部材71aを矢印A1方向に押し出すと、ガンアーム62,63が溶接位置に向けて矢印A1方向に揺動する。一方、サーボ軸71を駆動してロッド部材71aを矢印A2方向に引き込むと、ガンアーム62,63は退避位置に向けて矢印A2方向に揺動する。また、サーボ軸72を駆動してロッド部材72aを矢印B1方向に押し出すと、ガンアーム62,63は互いの位置関係を維持したまま矢印B1方向に揺動する。一方、サーボ軸72を駆動してロッド部材72aを矢印B2方向に引き込むと、ガンアーム62,63は互いの位置関係を維持したまま矢印B2方向に揺動する。また、副加圧プレート18は、溶接ガン本体61に固定されることから、ロボットアーム12に連動して溶接ガン本体61と共に移動することになる。
【0034】
このような構造のスポット溶接ガン10であっても、副加圧プレート18の副加圧力Fαを調整することにより、電極チップ14,16から付与される主加圧力FU,FLの加圧力差を調整することができ、前述したスポット溶接ガン10と同様に、良好な溶接品質を得ることが可能となる。なお、副加圧プレート18によってワークWを上方から押し下げる場合には、電極チップ14,16によってワークWが撓むことの無いように、副加圧プレート18の押し下げストロークに応じて、サーボ軸72によってガンアーム62,63を矢印B2方向に揺動させる。一方、副加圧プレート18によってワークWを下方から押し上げる場合には、副加圧プレート18の押し上げストロークに応じて、サーボ軸72によってガンアーム62,63を矢印B1方向に揺動させることになる。
【0035】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第1および第2アクチュエータとして、電動のサーボモータ19,20,52,55やサーボ軸65,66,71,72を用いているが、これに限られることはなく、油圧や空気圧で駆動されるアクチュエータを用いても良い。また、図9に示したスポット溶接ガン70はXアームガンであるが、図9に示した溶接ガン構造を、図3や図7に示した直動Xガンタイプのスポット溶接ガン10,50に対して適用しても良い。また、前述の説明では、電極チップ14,16によってワークWを挟んだ後に、副加圧プレート18をワーク表面に押し付けているが、これに限られることはなく、副加圧プレート18をワーク表面に押し付けた後に、電極チップ14,16によってワークWを挟んでも良い。また、同じタイミングで、電極チップ14,16によってワークWを挟むとともに、副加圧プレート18をワーク表面に押し付けても良い。
【0036】
また、前述の説明では、3枚のパネルP1〜P3からなるワークWを溶接対象としているが、これに限られることはなく、4枚以上のパネルからなるワークを溶接対象としても良い。さらに、前述の説明では、板厚の異なるパネルP1〜P3からなるワークWを溶接対象としているが、これに限られることはなく、同じ板厚のパネルからなるワークを溶接対象としても良い。すなわち、同じ板厚であっても物性値としての電気抵抗が異なるパネルを組み合わせた場合には、発熱量が相違することから溶接品質を確保することが困難となるが、副加圧プレート18を用いて主加圧力FU,FLを相違させることにより、適切な溶接品質を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
10 スポット溶接ガン(スポット溶接装置)
13 溶接ガン本体
14 電極チップ(第1電極チップ)
15 ガンアーム(第1アーム部材)
16 電極チップ(第2電極チップ)
17 ガンアーム(第2アーム部材)
18 副加圧プレート(加圧部材)
19 サーボモータ(第1アクチュエータ)
20 サーボモータ(第2アクチュエータ)
50 スポット溶接ガン(スポット溶接装置)
52 サーボモータ(第1アクチュエータ)
55 サーボモータ(第2アクチュエータ)
60 スポット溶接ガン(スポット溶接装置)
61 溶接ガン本体
62 ガンアーム(第1アーム部材)
63 ガンアーム(第2アーム部材)
65 サーボ軸(第1アクチュエータ)
66 サーボ軸(第2アクチュエータ)
70 スポット溶接ガン(スポット溶接装置)
71 サーボ軸(第1アクチュエータ)
72 サーボ軸(第2アクチュエータ)
W ワーク
P1〜P3 パネル
FU 主加圧力(加圧力)
FL 主加圧力(加圧力)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のパネルからなるワークを溶接するスポット溶接装置であって、
先端に第1電極チップを備え、前記ワークの一方面に前記第1電極チップを接触させる溶接位置と前記ワークの一方面から前記第1電極チップを離す退避位置とに動作する第1アーム部材と、
先端に第2電極チップを備え、前記ワークの他方面に前記第2電極チップを接触させる溶接位置と前記ワークの他方面から前記第2電極チップを離す退避位置とに動作する第2アーム部材と、
前記第1および第2アーム部材が動作自在に設けられる溶接ガン本体に固定される加圧部材とを有し、
前記溶接ガン本体を移動させて前記加圧部材を前記ワークの一方面または他方面に押し付け、前記ワークの一方面に対する前記第1電極チップの加圧力と前記ワークの他方面に対する前記第2電極チップの加圧力とを相違させることを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載のスポット溶接装置において、
前記第1アーム部材に取り付けられ、前記第1アーム部材を溶接位置と退避位置との間で動作させる第1アクチュエータと、
前記第2アーム部材に取り付けられ、前記第2アーム部材を溶接位置と退避位置との間で動作させる第2アクチュエータとを有することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項3】
請求項1記載のスポット溶接装置において、
前記第1および第2アーム部材に取り付けられ、前記第1および第2アーム部材を溶接位置と退避位置との間で動作させる第1アクチュエータと、
前記第1または第2アーム部材と前記溶接ガン本体とに取り付けられ、前記溶接ガン本体に対する前記第1および第2アーム部材の位置を変化させる第2アクチュエータとを有することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスポット溶接装置において、
前記第1および第2アーム部材は溶接位置と退避位置とに平行移動することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスポット溶接装置において、
前記第1および第2アーム部材は溶接位置と退避位置とに揺動することを特徴とするスポット溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−71172(P2013−71172A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213827(P2011−213827)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】