説明

スポット溶接装置

【課題】溶接電極の加圧方向において、溶接電極の先端と加圧部材の先端との相対的な位置を調整することのできるスポット溶接装置を提供する。
【解決手段】複数の板材18a,18b,18cを重ねたワーク18を両側から把持して加圧する一対の溶接電極12,17と、溶接電極17の加圧力により板材18aが変形することを抑制するために、板材18aを加圧する加圧部材19とを有し、一対の溶接電極12,17に電流を流してナゲットを形成することにより、板材18a,18b,18c同士を相互に接合するスポット溶接装置10であって、一対の溶接電極12,17の加圧方向における溶接電極17の先端と加圧部材19の先端との位置を調整する制動機構24および電磁ソレノイド25が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接対象となるワークを両側から把持する一対の溶接電極と、ワークを片側から加圧する加圧部材とを有するスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の鋼板等の板材を重ねたワークを溶接するためにスポット溶接装置が使用されている。スポット溶接装置においては、複数枚の板材を重ねて接合対象部を形成し、その接合対象部を一対の溶接電極で両側から把持して加圧する。そして、一対の溶接電極間に電流を流し、ジュール熱によりナゲットを形成して複数枚の板材を相互に接合するものである。
【0003】
このようなスポット溶接装置の一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、一対の溶接ロボットにアームがそれぞれ設けられており、各アームには、それぞれリスト部を介してスポット溶接ガンが取り付けられている。また、各リスト部には、それぞれ位置決めゲージ(加圧部材)が個別に設けられている。一対の位置決めゲージは、各リスト部に連結されたステーの先端にリング状の押さえプレートを一体に形成したものである。そして、一対のスポット溶接ガンを所定の溶接位置に位置決めした場合に、一対の位置決めゲージがワークを挟んで相互に対向して、ワークを表裏両面から所定の圧力で加圧するように、その長さが予め設定されている。さらに、特許文献1に記載されたスポット溶接装置は、溶接対象となるワークを位置決めする位置決め治具を有している。
【0004】
この特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、まず、ワークが位置決め治具によって位置決めされてクランプされる。次いで、上下のスポット溶接ガンを溶接位置まで移動させて相互に対向させる。さらに、スポット溶接ガンの溶接電極によりワークが加圧挟持される。そして、双方の溶接電極によるワークの加圧動作に続いて通電が行われることで、スポット溶接が施される。この時、各溶接電極がワークに接触して設定加圧力に達するまでの間に、双方の位置決めゲージが正対してワークのうち溶接電極に対応する部分の周辺部を加圧挟持する。
【0005】
一方、溶接後には溶接電極の加圧力が解除される途中で位置決めゲージの加圧力が解除されるように設定されている。特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、このような工程を行うことにより、スポット溶接ガンの溶接電極の加圧力によってワークが変形してしまうことを防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−155039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スポット溶接等に使用される溶接電極は、溶接作業を繰り返すと損耗(変形或いは磨耗等)する。損耗した溶接電極で溶接作業を行うと、所望の溶接品質を得ることができなくなる。そこで、溶接電極を定期的に研磨して、溶接品質を維持するようにしている。このように、溶接電極の研磨を行うと、溶接電極の加圧方向における長さが短くなる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたスポット溶接装置によれば、位置決めゲージの長さが予め設定されている。このため、溶接電極の研磨後には、ワークの加圧方向における溶接電極の先端と、位置決めゲージの先端との相対的な位置が変化することとなる。その結果、位置決めゲージからワークに加えられる加圧力が所期の値とならない可能性があった。
【0009】
本発明の目的は、溶接電極の加圧方向において、溶接電極の先端と加圧部材の先端との相対的な位置を調整することのできるスポット溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスポット溶接装置は、複数の板材を重ねたワークを両側から把持して加圧する一対の溶接電極と、いずれかの溶接電極の加圧力により板材が変形することを抑制するために、その板材を加圧する加圧部材とを有し、前記一対の溶接電極に電流を流してナゲットを形成することにより、前記板材同士を相互に接合するスポット溶接装置であって、前記一対の溶接電極の加圧方向における前記溶接電極の先端と前記加圧部材の先端との位置を調整する位置調整機構が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明のスポット溶接装置における位置調整機構は、前記一対の溶接電極の先端が研磨された後に、前記溶接電極の先端と前記加圧部材の先端との位置を調整するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスポット溶接装置によれば、一対の溶接電極によりワークを両側から把持および加圧する際に、一方の溶接電極が加圧する板材を加圧部材により加圧することができる。また、一対の溶接電極の加圧方向において、溶接電極の先端と加圧部材の先端との相対的な位置を調整することができる。したがって、加圧部材から板材に加えられる加圧力を所期の値とすることができる。
【0013】
本発明のスポット溶接装置によれば、溶接電極を研磨してその長さが短くなった場合に、一対の溶接電極の加圧方向において、溶接電極の先端と加圧部材の先端との相対的な位置を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明におけるスポット溶接装置の実施形態を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明のスポット溶接装置における一対の溶接電極でワークを把持し、かつ、加圧プレートでワークを把持した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示されたスポット溶接装置10は、C型のヨーク部材により形成される溶接ガン本体11を有している。この溶接ガン本体11は、図示しない溶接ロボットのアームに取り付けられており、溶接ロボットのアームの動作により、溶接ガン本体11が水平方向または上下方向の何れにも移動することが可能に構成されている。溶接ガン本体11の図1における下側の端部には、水平方向に延ばされた張り出し部11aが形成されており、張り出し部11aの先端には円柱形状の溶接電極(電極チップ)12が取り付けられている。本実施形態においては、溶接電極12が溶接ガン本体11に対して上下方向にも水平方向にも移動しないように取り付けられているものとして説明する。溶接ガン本体11を上下動作させると、溶接電極12を上下動させることができる。溶接電極12は垂直な軸線Aを中心として設けられており、溶接電極12の先端が上に向けられている。溶接電極12の先端は半球状に構成されている。
【0016】
一方、溶接ガン本体11の上側の端部には、溶接電極17を動作させるための電極駆動用アクチュエータ13が取り付けられている。この電極駆動用アクチュエータ13の動力により、軸線Bに沿った方向(つまり上下方向)に往復動される電極駆動ロッド14が設けられている。軸線Aと軸線Bとは相互に平行であり、同軸上には配置されていない。この電極駆動ロッド14の先端、具体的には下端には、連結ブロック15を介在させてロッド16が取り付けられている。そして、ロッド16の先端、具体的には下端に溶接電極(電極チップ)17が取り付けられている。このため、溶接ガン本体11が停止している状態で、電極駆動ロッド14が上下方向に動作すると、溶接電極17が軸線Aに沿って上下方向に移動することが可能である。溶接電極17は円柱形状に構成されており、溶接電極17は軸線Aを中心として配置されている。溶接電極17の先端は下に向けられており、溶接電極17の先端は半球状に構成されている。このようにして、電極駆動用アクチュエータ13の動力により溶接電極17が軸線Aに沿って上下方向に動作すると、溶接電極12と溶接電極17との距離が変化する。
【0017】
本実施形態のスポット溶接装置10は、一対の溶接電極12,17によりワーク18を厚さ方向、具体的には上下方向から把持(両側から挟むようにクランプ)して加圧するものである。すなわち、一対の溶接電極12,17がスポット溶接装置10における主加圧部材を構成している。また、ワーク18は、複数枚の板材、例えば、3枚の板材18a,18b,18cが厚さ方向に重ねられて溶接対象部が形成されている。3枚の板材18a,18b,18cは上下に重ねられている。この溶接対象部がスポット溶接装置10により溶接される。また、本実施形態においては、板材18a,18b,18cは厚さが異なっているものとする。具体的には、板材18aの厚さは板材18b,18cの単独の厚さよりも薄く、板材18b,18cの厚さは同じである。
【0018】
一方、電極駆動ロッド14における電極駆動用アクチュエータ13と連結ブロック15との間には、加圧部材19を支持する支持部材20が取り付けられている。支持部材20には、軸線Bに沿った方向に貫通された軸孔20aが設けられており、その軸孔20aに電極駆動ロッド14が挿入されている。つまり、電極駆動ロッド14と支持部材20とが、軸線Bに沿った方向に相対移動できるように構成されている。そして、電極駆動用アクチュエータ13と支持部材20との間には、圧縮ばね21が配置されている。この圧縮ばね21は、支持部材20を軸線Bに沿って連結ブロック15側に向けて押圧する要素である。
【0019】
前記加圧部材19は、溶接電極17と共にワーク18を加圧する機構である。加圧部材19は、軸線Aに沿った方向に延ばされた軸部19aと、軸部19aの下端から水平方向に延ばされた加圧プレート19bとを有している。具体的には、加圧プレート19bは溶接電極17側に向けて延ばされている。さらに、加圧プレート19bは、図2に示すように二股に分岐された2つの加圧部19cを有している。2つの加圧部19cは共に断面形状が四角形となっている。2つの加圧部19cは水平方向に並べて配置されており、加圧部19c同士の間隔は溶接電極17の外径よりも大きく設定されている。そして、溶接電極17が2つの加圧部19cの間で上下方向に動作するように構成されている。
【0020】
前記支持部材20には電磁ソレノイド22が設けられている。電磁ソレノイド22は、加圧部材19をワーク18に向けて、具体的には下方に向けて加圧するアクチュエータである。この電磁ソレノイド22は、支持部材20に形成されたシリンダ22aと、シリンダ22a内に上下方向に移動可能に配置されたプランジャ22bと、シリンダ22a内に設けられ、かつ、プランジャ22bを下方に移動させる磁気吸引力を生じる電磁コイル22cとを有している。特に図示はしないが、支持部材20のうち、電磁コイル22cおよびプランジャ22bが取り付けられた部分は、磁性材料、例えば、鉄などの金属により構成されており、電磁コイル22cへの通電により磁気回路が形成される。また、シリンダ22a内には、プランジャ22bを上方に向けて押圧するリターンスプリング23が設けられている。
【0021】
そして、プランジャ22bの下端が支持部材20の下方に露出されており、プランジャ22bの下端に軸部19a上端が連結されている。つまり、プランジャ22bおよび加圧部材19は上下方向に一体的に動作、または停止するように構成されている。
【0022】
上記構成において、電磁ソレノイド22の電磁コイル22cに通電が行われていない場合(オフ)は、リターンスプリング23の押圧力でプランジャ22bが押されており、加圧部材19は支持部材20に最も近い位置(初期位置)で停止している。これに対して、電磁ソレノイド22の電磁コイル22cに通電が行われ(オン)て磁気吸引力が発生すると、リターンスプリング23の押圧力に抗してプランジャ22bが下方へ向けて押圧される。その結果、加圧部材19が下方へ向けて動作する。
【0023】
このように構成された加圧部材19は、溶接電極17がワーク18の板材18aを加圧する際に、溶接電極17が加圧する位置の両側を2つの加圧部19cにより加圧することにより、板材18aが溶接電極17の加圧力で変形することを抑制する。すなわち、加圧部材19は、スポット溶接装置10における副加圧部材を構成している。
【0024】
また、本実施形態のスポット溶接装置10は、軸線Bに沿った方向において、電極駆動ロッド14と支持部材20との相対的な位置を変更できる状態と、電極駆動ロッド14と支持部材20との相対的な位置を変更できない状態とに切り替える切替機構が設けられている。本実施形態では、その切替機構の具体的な構成として制動機構24が設けられている。
【0025】
以下、制動機構24の構成を説明する。まず、支持部材20における軸孔20aの一部を半径方向に拡大した収納室24aが設けられている。収納室24aには制動部材24bが設けられている。制動部材24bは、制動力の発生または解除を行うことにより、支持部材20と電極駆動ロッド14との相対移動を防止または可能とするための機構である。この制動部材24bは、支持軸24cを中心として所定角度範囲内で回転可能な板材である。なお、支持軸24cは水平方向に沿って設けられている。
【0026】
また、制動部材24bを厚さ方向に貫通する軸孔24dが設けられており、軸孔24d内に電極駆動ロッド14が挿入されている。軸孔24dは円形に構成されており、軸孔24dの内径は電極駆動ロッド14の外径よりも大きく設定されている。また、収納室24a内には、制動部材24bにおける支持軸24cとは反対側の端部を上方に向けて押圧する弾性部材として、ばね24eが設けられている。上記の制動部材24b、ばね24e、支持軸24c等の要素により制動機構24が構成されている。
【0027】
さらに、制動機構24での制動力の発生および解除を制御するアクチュエータとして、電磁ソレノイド25が設けられている。この電磁ソレノイド25は、ハウジング25aとシリンダ25bとプランジャ25cと電磁コイル25dとリターンスプリング25eを有している。ハウジング25aは支持部材20に固定されており、ハウジング25aにシリンダ25bが設けられている。プランジャ25cはシリンダ25b内に水平方向に移動可能に配置されている。また、電磁コイル25dはシリンダ25b内に設けられており、電磁コイル25dに通電する(オン)と、プランジャ25cを収納室24a側に移動させる磁気吸引力を生じる。なお、特に図示はしないが、ハウジング25aのうち、プランジャ25c、電磁コイル25dを支持する部分は磁性材料、例えば鉄などの金属により構成されている。したがって、電磁コイル25dへの通電により磁気回路が形成される。
【0028】
また、リターンスプリング25eはシリンダ25b内に設けられており、リターンスプリング25eは、プランジャ25cを収納室24aから離れる方向に押圧する力を生じる要素である。そして、支持部材20には収納室24aに連通する軸孔25gが形成されており、プランジャ25cの先端側が軸孔25g内に挿入されている。また、プランジャ25cの先端にはくさび形状を有するガイド部25fが形成されている。
【0029】
上記した電磁ソレノイド25の電磁コイル25dへの通電が行われていない場合(オフ)は、プランジャ25cがリターンスプリング25eにより、図1において右側に押圧されて停止している。プランジャ25cが停止していると、プランジャ25cのガイド部25fは制動部材24bに接触しない。このため、ばね24eの押圧力で制動部材24bが支持軸24cを中心として反時計方向に回転し、制動部材24bの軸孔24dの角部が2箇所で電極駆動ロッド14に係合して、摩擦力による制動力が生じる。したがって、制動部材24bと電極駆動ロッド14との摩擦力により、電極駆動ロッド14と支持部材20とが、軸線Bに沿った方向に相対移動することが防止される。つまり、制動機構24で制動力が発生しており、電極駆動ロッド14と支持部材20とは、軸線Bに沿った方向に相対移動できない状態にある。
【0030】
これに対して、電磁ソレノイド25の電磁コイル25dへの通電を行う(オン)と磁気吸引力が形成されて、プランジャ25cがリターンスプリング25eの押圧力に抗して水平方向に移動する。具体的には、プランジャ25cは収納室24aに近づく向きで移動する。すると、プランジャ25cのガイド部25fが制動部材24bの自由端に接触して、制動部材24bを下方に押圧する力(分力)が生じる。このため、制動部材24bは、ばね24eの押圧力に抗して支持軸24cを中心として時計方向に所定角度回転する。制動部材24bが時計方向に回転すると、制動部材24bの軸孔24dの角部が電極駆動ロッド14の外周面から離れる。このようにして、制動機構24の制動力が解除されて、電極駆動ロッド14と支持部材20とを、軸線Bに沿った方向に相対移動させることが可能な状態となる。
【0031】
本実施形態においては、電磁コイル22cへの通電が行われていない状態において、軸線Aに沿った方向で、溶接電極17の下端と2つの加圧部19cの下端とが同じ位置となるように、電極駆動ロッド14と支持部材20とが軸線Bに沿った方向で位置決め固定されている。なお、図1に示された26は、溶接ロボットの電力系統の一部を構成するトランス(変圧器)である。
【0032】
つぎに、本実施形態のスポット溶接装置10によりワーク18を溶接する工程を説明する。まず、一対の溶接電極12,17の間隔が、ワーク18における溶接対象部の厚さを超える値に保持されている状態において、ワーク18を水平方向に搬送して、一対の溶接電極12,17の間に、ワーク18の溶接対象部を進入させる。
【0033】
そして、電極駆動用アクチュエータ13の動力により、電極駆動ロッド14を軸線Bに沿って下降させると、溶接電極17が軸線Aに沿って下降する。また、電極駆動ロッド14が軸線Bに沿って下降すると、支持部材20により支持されている加圧部材19が、溶接電極17と同時に軸線Aに沿って下降する。このよにして、溶接電極17および加圧部材19が同時に下降し、ワーク18が溶接電極12,17の間に把持される。
【0034】
そして、溶接電極17が一番上の薄い板材18aを加圧し、溶接電極12が一番下の厚い板材18cを加圧する。また、板材18aにおける溶接電極17の加圧部位の両側が、加圧プレート19bの加圧部19cにより加圧される。さらに、一対の溶接電極12,17間に電流を流し、ジュール熱によりナゲットを形成して複数枚の板材18a,18b,18cを相互に接合する。
【0035】
上記の工程において、加圧プレート19bから板材18aに加えられる加圧力は、溶接電極17の加圧力で薄い板材18aが変形することを防止するためのものであり、予め所期の値(目標加圧力)が設定されている。この所期の値は、板材18aの厚さ、板材18bの厚さ、板材18aの厚さと板材18bの厚さとの比、各板材の材質および形状等の条件に基づいて予め設定されている。そして、加圧プレート19bから板材18aに加えられる実際の加圧力が、所期の値となるように、電磁コイル22cに供給される電力の電流値が制御される。
【0036】
このように、本実施形態においては、溶接電極17が板材18aを加圧する箇所の両側を、2つの加圧部19cにより加圧している。このため、「溶接電極17の加圧力で薄い板材18aが変形して、板材18aと板材18bとの間に隙間が形成されること」を防止できる。したがって、薄い板材18aと厚い板材18bとの間における電流密度の低下を抑制でき、溶接品質の低下を防止でき、かつスパッタの発生を回避できる。また、ワーク18が、板厚比が相対的に大きなもの、剛性が相対的に低い板材を備えたもの、板材の物性にバラツキがあるもの等であっても、溶接品質を安定させることができる。上記の板厚比は、薄い板材の厚さで厚い板材の厚さを除算して求めた値である。
【0037】
なお、本実施形態においては、溶接電極17が板材18aを加圧する位置の両側を、加圧プレート19bの加圧部19cにより加圧して、溶接電極17の加圧力で板材18aが変形することを防止している。このため、溶接電極17から板材18aに加えられる加圧力を、溶接電極12から板材18cに加えられる加圧力よりも低くすることができる。
【0038】
上記のようにして、ワーク18の溶接が完了すると、電極駆動用アクチュエータ13の動力により電極駆動ロッド14が上昇される。その結果、溶接電極17および加圧部材19が同時に上昇して板材18aから離れる。次いで、ワーク18は次工程へ搬送される。
【0039】
ところで、スポット溶接装置10によりワーク18を溶接する処理を繰り返していると、溶接電極12,17は損耗(変形或いは磨耗等)する。そこで、溶接電極12,17を公知の研磨機(チップドレッサー)により定期的に研磨して、溶接品質を維持する。このように、溶接電極12,17の研磨を行うと、溶接電極12,17の加圧方向における長さが短くなる。すると、溶接電極17の加圧方向、つまり、軸線Aに沿った方向において、溶接電極17の先端と2つの加圧部19cの下端との相対位置が変化する。
【0040】
この状態でスポット溶接装置10によりワーク18の溶接を行うために、溶接電極17および加圧部材19を下降させると、先に2つの加圧部19cの下端が板材18aに接触し、次いで、溶接電極17の先端が板材18aに接触する。ここで、例えば、電磁ソレノイド22への通電による加圧部材19の加圧力は、軸線Aに沿った方向で、溶接電極17の先端と2つの加圧部19cの下端とが同じ位置にあることを前提として制御されるものとする。すると、先に2つの加圧部19cの下端が板材18aに接触し、次いで、溶接電極17の先端が板材18aに接触する状態において、電磁ソレノイド22への通電を制御すると、加圧部材19から加えられる加圧力が、所期の値とは異なる可能性がある。
【0041】
そこで、本実施形態においては、溶接電極12,17の研磨および整形を行った場合は、以下の処理を実行して、軸線Aに沿った方向における溶接電極17の先端と2つの加圧部19cの下端との相対位置を調整することができる。まず、電磁コイル25dへ通電してプランジャ25cを収納室24aに近づく向きで動作させる。すると、制動部材24bが支持軸24cを中心として時計方向に所定角度回転し、制動機構24から電極駆動ロッド14に加えられる制動力が解除される。すなわち、電極駆動ロッド14と支持部材20とが軸線Bに沿った方向に相対移動可能となる。
【0042】
ついで、電極駆動用アクチュエータ13の動力により電極駆動ロッド14を下降させる。すると、先に2つの加圧部19cの下端が治具または模倣ワーク(いずれも図示せず)に接触して停止するとともに、電極駆動ロッド14と支持部材20とが相対移動して、溶接電極17の先端が治具に接触した時点で、電極駆動ロッド14を停止させる。そして、電磁コイル25dへの通電を止めてプランジャ25cを収納室24aから離れる向きで移動させる。この動作により、制動部材24bがばね24eの押圧力で支持軸24cを中心として反時計方向に回転し、制動部材24bの軸孔24dの角部が電極駆動ロッド14の外周面に係合する。このように、制動機構24から電極駆動ロッド14に制動力が加えられて、軸線Bに沿った方向において、電極駆動ロッド14と支持部材20とが位置決め固定される。すなわち、軸線Aに沿った方向において、溶接電極17の先端と2つの加圧部19cの下端との位置が同じ位置に固定される。
【0043】
そして、溶接電極17の先端と2つの加圧部19cの下端との相対位置を調整した後、スポット溶接装置10によりワーク18を溶接すると、電磁コイル22cへの通電によって得られる加圧部材19の実際の加圧力が所期の値となり、溶接品質の低下を防止できる。
【0044】
また、本実施形態においては、溶接電極17を上下方向に動作させる電極駆動用アクチュエータ13の動力により、加圧部材19を上下方向に動作させるように構成されている。つまり、加圧部材19を単独で上下方向に動作させるための専用のアクチュエータを設ける必要がなく、部品点数の増加を抑制できる。
【0045】
ここで、本実施形態で説明した構成と、本発明の構成との対応関係を説明すると、溶接電極17が、本発明の「いずれかの溶接電極」に相当し、制動機構24および電磁ソレノイド25が、本発明の位置調整機構に相当する。
【0046】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、スポット溶接装置が、溶接電極の加圧方向において、溶接電極の先端と加圧部材の端部との相対位置が、元々所定のずれ量をもたせたものであるとする。このずれ量は、ワーク全体の形状、各板材の形状などの条件により元々生じ得る。このようなワークを溶接するスポット溶接装置において、溶接電極の研磨により溶接電極が短くなった際には、元々のずれ量を確保するように、溶接電極の先端と加圧部材の端部との相対位置を調整すればよい。
【0047】
さらに、加圧部材に付着しているスパッタを除去するために加圧部材を研磨することにより、加圧部材と溶接電極との相対位置が変化した場合にも、上記実施例と同様の手順で、加圧部材と溶接電極との相対位置を調整することができる。この場合、電極駆動ロッド14に加えられる制動機構24の制動力を解除して、圧縮ばね21の押圧力により支持部材20が押されて、支持部材20と電極駆動ロッド14とが相対移動したときに、2つの加圧部19cの先端の方が、溶接電極17の先端よりも下方に位置することとなるように、支持部材20の上下方向の寸法、加圧部材19の上下方向の長さなどを決定すればよい。
【0048】
さらにまた、溶接電極の研磨または加圧部材の研磨が行われずに、溶接対象となるワークの厚さ、形状などが変化することに対応させて、溶接電極の先端と加圧部材の先端との位置関係を、上記の手順により調整することもできる。この場合、溶接対象のワークの厚さ、形状が変わる毎に、溶接電極の先端と加圧部材の先端との位置関係を調整すればよい。
【0049】
さらに、2つの加圧部の断面形状が円形に構成された加圧プレートを用いてもよい。さらに、本発明における一対の溶接電極は、所定方向に沿って相対移動することにより、ワークを把持および加圧する要素である。このため、溶接ガン本体に対して、一対の溶接電極が共に移動できるように構成されていてもよい。
【0050】
さらに、一対の溶接電極同士が水平方向に相対移動し、かつ、加圧部材が水平方向に移動するように構成されていてもよい。この場合、板材同士の重ね方向は水平方向となり、ワークの搬送方向は垂直方向または水平方向のいずれでもよい。さらにまた、スポット溶接されるワークの板材は2枚でもよいし、4枚以上でもよい。さらに、複数の板材の厚さは全て同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
さらに、制動部材として、電極駆動ロッドの周囲を取り囲むように、環状のバンドブレーキを設けておくこともできる。そして、電磁ソレノイドへの通電が行われていないときはバンドブレーキにより制動力が発生し、電磁ソレノイドに通電するとバンドブレーキの制動力が解除されるように構成することもできる。さらに、加圧部材の動作、制動機構の制動力を制御するアクチュエータとして、電磁ソレノイドに代えて、油圧シリンダ、空気圧シリンダ等のアクチュエータを用いることもできる。
【0052】
さらに、上記実施形態で説明した制動部材24bは、一端側の支持軸24cを中心として所定角度範囲内で回転するように構成されている。これに対して、両側が可動となるような制動部材を用いることもできる。さらにまた、上記実施形態における電磁ソレノイド22において、電磁コイル22cに通電されないときに、プランジャ22bを電磁コイル22cで生じる磁気吸引力とは逆向きに押圧する弾性部材を設けなくてもよい。
【0053】
ここで、上記の実施形態に開示された技術的特徴の一例を記載する。すなわち、複数の板材を重ねたワークを両側から把持して加圧する一対の溶接電極と、いずれかの溶接電極の加圧力により板材が変形することを抑制するために、その板材を加圧する加圧部材とを有し、前記一対の溶接電極に電流を流してナゲットを形成することにより、前記板材同士を相互に接合するスポット溶接装置であって、前記いずれかの溶接電極が接続された電極駆動ロッドと、前記電極駆動ロッドを所定方向に動作させる第1アクチュエータ(電磁ソレノイド22)と、前記駆動ロッドに取り付けられた支持部材とを有しており、前記支持部材と前記電極駆動ロッドとが前記一対の溶接電極の加圧方向で相対移動可能に構成されており、前記支持部材と前記電極駆動ロッドとが前記加圧方向に相対移動可能な状態と相対移動不可能な状態とに切り替える切替機構(制動機構24)と、前記支持部材と前記電極駆動ロッドとを前記加圧方向に相対移動可能な状態として、前記溶接電極の先端と前記加圧部材の先端との相対位置が調整された後に、前記溶接電極の先端と前記加圧部材の先端との位置を固定する第2アクチュエータ(電磁ソレノイド25)とが設けられていることを特徴とするスポット溶接装置である。
【符号の説明】
【0054】
10 スポット溶接装置
12,17 溶接電極
18 ワーク
18a,18b,18c 板材
19 加圧部材
24 制動機構
25 電磁ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板材を重ねたワークを両側から把持して加圧する一対の溶接電極と、いずれかの溶接電極の加圧力により板材が変形することを抑制するために、その板材を加圧する加圧部材とを有し、前記一対の溶接電極に電流を流してナゲットを形成することにより、前記板材同士を相互に接合するスポット溶接装置であって、
前記一対の溶接電極の加圧方向における前記溶接電極の先端と前記加圧部材の先端との位置を調整する位置調整機構が設けられていることを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載のスポット溶接装置において、
前記位置調整機構は、前記一対の溶接電極の先端が研磨された後に、前記溶接電極の先端と前記加圧部材の先端との位置を調整するものであることを特徴とするスポット溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−71183(P2013−71183A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214821(P2011−214821)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】