説明

スライディングゲートプレート及びスライディングノズルの再使用方法

【課題】より有効にスライディングゲートプレートを再使用可能とする。
【解決手段】スライディングゲートプレートは、固定プレートの溶湯通過穴と常に対向可能な大きさの内挿体と、内挿体を着脱可能に支持する外装体とを備える。溶湯通過穴2aの径に予め設定した溶損分相当の余裕代だけ大きくした径以上の第1の円を上記溶湯通過穴を中心に想定し、溶湯通過穴2aから上記溶損分相当離れた位置に、固定プレートの溶湯通過穴に余裕代分だけ大きくした第2の円を想定すると、内挿体は、平面視において、第1の円及び第2の円に外接する共通の2つの接線と当該第1の円及び第2の円とで規定された輪郭形状に形成される。外装体は、内挿体を嵌め込み可能な同形の空所を有し、その空所に上記内挿体を支持する。内挿体及び外装体は、ともに耐火れんがから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程や取鍋などで使用されて、溶湯容器からの溶湯の流量を調整するためのスライディングノズルの技術に関し、特に流量を調整するためのスライディングゲートプレートに特徴を有する技術である。
【背景技術】
【0002】
スライディングノズルのプレートとしては、例えば特許文献1〜5に記載のプレートがある。
特許文献1に記載のプレートは、溶湯通過穴を設けた適宜大径の円輪板部と、摺動ストロークより適宜大径の円板部とを一部重畳するようにしてなるダルマ形状の溶湯接触プレートを、このプレートの外形とほぼ同形状に貫説したプレート本体の切欠き部に嵌着した構造となっている。
【0003】
特許文献2に記載のプレートは、プレート母体れんがに貫通穴を設け、その貫通穴内に対し溶湯通過穴を設けた交換れんが部材を挿入した構造のものである。その交換れんが部材の一端に上記プレート母体れんがの摺動面と面一となる摺動面を形成すると共に、その他端に上記プレート母体れんがの非摺動面から突出する環状突起物を設ける。上記交換れんが部材の貫通穴挿入部の外径を上記環状突起部の外径以上に設定し、且つ、上記貫通穴挿入部の中途に上記プレート母体れんがの非摺動面側から摺動面側に向けて拡径する段差部を形成すると共に上記貫通穴内に上記段差部を当接支持する段差面を形成している。
【0004】
また特許文献3には、プレート本体に形成した貫通孔に対し、あご部を有するスリーブを装着することが開示されている。また特許文献4には、プレート本体に形成した貫通孔に対し、環状突起を有するスリーブを装着することが開示されている。
特許文献5に記載のプレートは、溶湯の流量制御のスライディングノズルプレートの溶湯の排出口付近およびストップゾーンまでの範囲の大きさのプレート主要部(小判型スライディングノズルプレート)をアルミナカーボンを主成分とする焼成耐火物で構成し、その焼成耐火物の外側のスライディングノズルプレートの外周部をキャスタブル耐火物で形成した構造となっている。この構造の製造は、スライディングノズルプレート外周線と同じ形をした鋳込み枠内に、小判型スライディングノズルプレートを設置し、その外周部にキャスタブル耐火物を流し込み、乾燥させて成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−124365号公報
【特許文献2】特開平9−225628号公報
【特許文献3】特開2000−117421号公報
【特許文献4】特開2000−117422号公報
【特許文献5】特開2005−34883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のプレートでは、使用後にダルマ形状の溶湯接触プレートを除去して、新たなダルマ形状の溶湯接触プレートを再固着して再生する。しかし再生する際に、溶湯接触プレートがダルマ形状であることに対応して、母体プレートに形成されたダルマ形状の括れ部が鋭角であることからその括れ部が破損し易い。また内装する溶湯接触プレートの括れ部が鋭角状の凹部となることから、当該括れ部に応力集中し亀裂が入りやすい。このようなことから、プレートの再生率が低いといった問題点がある。
また特許文献2〜4に記載のプレートでは、スライドノズルゲートとして使用中に、交換れんが部材とプレート母体れんがとの境界部に地金が差されるといったトラブルが起こりやすいという問題がある。その理由は、境界部が直接溶湯流に接するからである。このトラブルは漏鋼に至る可能性が大きく避けなければならない。
【0007】
また特許文献5には、小判型スライディングノズルプレートの外周部を再使用するといった発想は無い。すなわち、外周部から小判型スライディングノズルプレートを外す際にキャスタブルからなる外周部が損傷し、外周部の形状を保つことが出来ない。その理由は、上記外周部は上述のようにキャスタブルから構成されているために、強度が低く、上述のように小判型スライディングノズルプレートを構成するときに壊れてしまうためである。また、再使用を繰り返すことを想定すると、使用中に骨材が剥離して摺動面に噛み込んで湯漏れが発生するおそれがある。また外周部を流し込みで形成するため、小判型スライディングノズルプレートとの隙間がほとんど形成されず、亀裂が伝搬しやすかったり、割れが発生しやすいという課題がある。また、上記小判型スライディングノズルプレートの長軸方向の長さがストップゾーン(ストロークエンド)までの長さで長いことから、不経済であると共にその分小判型スライディングノズルプレートの剛性が低くなる。
本発明は、上記のような点に着目したもので、より有効にスライディングゲートプレートを再使用可能な当該スライディングゲートプレートの構造及びスライディングノズルの再使用方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、スライディングノズルの一部を構成するスライディングゲートプレートであって、
スライディングゲートプレートの上側に位置し溶湯が通過する上部溶湯穴に対し溶湯通過穴を合わせることで溶湯を流出させ、また摺動によって上部溶湯穴と溶湯通過穴とを相対的にずらすことで流出流を絞りあるいは遮断する当該スライディングゲートプレートにおいて、
上記溶湯通過穴を有すると共に上記遮断の位置まで摺動しても上記上部溶湯穴と常に対向可能な大きさの内挿体と、その内挿体の外周部を形成して当該内挿体を着脱可能に支持する外装体と、を備え、
上記溶湯通過穴の径に予め設定した溶損分相当の余裕代だけ大きくした径以上の第1の円を上記溶湯通過穴を中心に想定すると共に、上記溶湯通過穴から上記溶損分相当若しくはそれ以上離れた位置に上記上部溶湯穴の径以上の第2の円を想定した場合に、上記内挿体は、平面視において、上記第1の円及び第2の円に外接する共通の2つの接線と当該第1の円及び第2の円とで規定された輪郭形状に形成され、
上記外装体は、上記内挿体を嵌め込み可能な当該内挿体の輪郭形状と同形の空所を有し、その空所に上記形状の内挿体が上側から嵌め込むことで当該内挿体を支持し、
上記内挿体及び外装体は、ともに耐火れんがから構成されていることを特徴とする。
【0009】
次に、請求項2に記載した発明は、上記内挿体と外装体の空所との対向する端面に段差を設けることで、外装体の空所に内挿体を支持することを特徴とする。
次に、請求項3に記載した発明は、スライディングノズルを構成する他の部品と摺動する摺動面が平滑度の0.5mm以下になるように研磨されていると共に、上記摺動面とは反対側の面において内挿体と外装体との段差が0.5mm以下になるように研磨されていることを特徴とする。
【0010】
次に、請求項4に記載した発明は、スライディングノズルを構成する他の部品と摺動する摺動面は、平滑度0.05mm以下になるように研磨されていることを特徴とする。
次に、請求項5に岸亜した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したスライディングゲートプレートを備えるスライディングノズルの再使用方法において、
上記溶湯通過穴に交換すべき損耗が発生若しくは発生すると判定すると、現在の内挿体を外して新たな内挿体を外装体の空所に取り付け、更に、他の部品との摺動面を平滑度0.5mm以下になるまで研磨すると共に、上記摺動面とは反対側の面において内挿体と外装体との段差が0.5mm以下になるまで研磨した後に、スライディングゲートプレートをスライディングノズルに組み付けて再使用することを特徴とする。
【0011】
次に、請求項6に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したスライディングゲートプレートを備えるスライディングノズルの再使用方法において、
上記溶湯通過穴に交換すべき損耗が発生若しくは発生すると判定すると、現在の内挿体を外して新たな内挿体を外装体の空所に取り付け、更に、他の部品との摺動面を平滑度0.05mm以下になるまで研磨した後に、スライディングゲートプレートをスライディングノズルに組み付けて再使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、平面視における内挿体の輪郭形状を、溶湯通過穴若しくは上部溶湯穴以上の2つの円とその共通の2本の接線で囲まれる形状とすることで、内挿体及び内挿体を嵌め込む空所に対して、周方向に沿ってみた場合に、曲率が急峻して応力が集中する角部が形成されない。このため、スライディングゲートプレートの使用時及び交換時に、当該内挿体、及びそれを空所に支持する外装体が破損し難くなる。
【0013】
また、内挿体及び外装体をともに耐火れんがによって構成することで、内挿体を交換する際に外装体が破損することを更に抑えることが可能となる。
また、内挿体の形を規定する溶湯通過穴と第2の円間の距離を溶損分相当若しくはそれ以上とすることで、上側に位置する上部溶湯穴が遮断位置まで摺動しても、確実に上部溶湯穴を内挿体内にだけ位置させることが出来る。つまり、使用中に内挿体と外装体との境界部が溶湯に触れることがなくなるため、境界部への地金差しによる漏鋼トラブル等を回避することが出来る。更に、内挿体の長手方向の長さを必要以上に長くすることが防止されて、コスト的に有利であると共に内挿体は剛性的にも有利となる。
【0014】
また請求項2に係る発明によれば、段差によって外装体の空所と内挿体とを連結する構造となることで、確実に外装体で内挿体を受けることが可能になると共に、使用中の溶湯流の方向に内挿体がずれることも防止可能となる。なお、段差で受けることで、内挿体と外装体との表面を面一に設定しやすくなるという効果もある。
また、請求項3に係る発明によれば、摺動面の平滑度を0.5mm以下とすることで、摺動不良を防止することが可能となる。
【0015】
このとき、請求項3に係る発明によれば、摺動面の平滑度を0.5mm以下とすることに併せて、摺動面とは反対側の面において、外装体と内挿体との接合部に生じる恐れがある段差について0.5mm以下とすることによって、再生品に発生する不具合を減少させることができる。また、請求項4に係る発明によれば、摺動面の平滑度を0.05mm以下とすることで、プレート間の気密性を高めて外気の侵入を抑制し溶鋼の酸化を防止することが出来る。
【0016】
なお、摺動面において内装体と外装体との段差について注意を払うと好ましい。この段差は摺動面の他の部位と異なり、角が立っているため、固定プレートの摺動面を傷つけるおそれある。なぜなら固定プレートとスライディングゲートプレートとは気密性を高めるために強い力で押し付けられているからである。この段差は0.5mm以下、好ましくは0.05mm以下である。
【0017】
また、請求項5に係る発明によれば、上述のように再使用可能なスライディングゲートプレートについて、外装体に内挿体を取り付けた後に研磨することで、使用する際の摺動面を確実に平滑度0.5mm以下に出来ると共に、摺動面とは反対側の面においても、研磨によって外装体と内挿体とをより面一に設定して使用することが可能となる。この結果、確実に摺動不良の発生を抑えると共に、再生品に発生する不具合を減少させることができる。
また、請求項6に係る発明によれば、摺動面の平滑度を0.05mm以下とすることで、プレート間の気密性を高めて外気の侵入を抑制し溶鋼の酸化を防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るスライディングノズルを示す図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るスライディングゲートプレートを示す図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る内挿体の輪郭を説明する図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る内挿体と外装体との段差状態を示す、図2における下面側の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次の本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
まずスライディングノズルSの基本構成について説明する。
本実施形態のスライディングノズルSは、図1に示すように、固定プレート1とスライディングゲートプレート2とを備える。固定プレート1は、溶湯容器(取鍋やタンディッシュなど)に形成された開口4に溶湯通過穴1aを合わせるようにして、当該溶湯容器に取り付けられる。その固定プレート1の下側に、スライディングゲートプレート2が、固定プレート1の下面と摺動可能に配置される。このスライディングゲートプレート2は、溶湯通過穴2aを有すると共に、駆動シリンダ3の駆動によって上記固定プレート1に対して摺動可能となっている。そして上記摺動操作によって、両者1,2に設けられた溶湯通過穴1a,2aの連通位置を調整することで、溶湯(溶融金属)の流出量を調整、つまり溶湯の流量制御が行われる。ここで、固定プレート1の溶湯通過穴1aが上部溶湯穴を構成する。
【0020】
次に、本実施形態のスライディングゲートプレート2の構造について説明する。
スライディングゲートプレート2を構成する本実施形態のスライディングゲートプレート2は、図2に示す構造となっている。
すなわちスライディングゲートプレート2は、内挿体5と、その外周部を形成する外装体6とを備える。
スライディングゲートプレート2は、上記溶湯通過穴2aを有すると共に、上記遮断位置まで摺動しても常に上記固定プレート1の溶湯通過穴1aと対向するだけの大きさに設定されている。図2中、符号Xが本実施形態における摺動ストロークの範囲である。
【0021】
また、外装体6は、その内挿体5の外周部を形成して当該内挿体5を着脱可能に支持する。これら内挿体5及び外装体6は、それぞれ個別に耐火れんがから構成されている。
本実施形態の内挿体5の輪郭形状は、図3に示すように、上記溶湯通過穴2aの径R1に予め設定した溶損分相当αの余裕代だけ大きくした径以上の第1の円10を上記溶湯通過穴2aを中心に想定する。本実施形態では、第1の円10の径R2を、上記溶湯通過穴2aの径R1に予め設定した溶損分相当αの余裕代だけ大きくした径とする。また、上記溶湯通過穴2aから上記溶損分相当α若しくはそれ以上離れた位置に上記溶湯通過穴1aの径以上の第2の円11を想定する。本実施形態では、第2の円11の径R3を、上記溶湯通過穴1aの径に予め設定した余裕代分だけ大きな径とする。図3では、溶湯通過穴2aと第2の円11との間を溶損分相当αとした場合の例である。また、第1の円10及び第2の円11に外接する2本の接線12,13を考える。そして、上記内挿体5の輪郭形状として、平面視において、上記第1の円10及び第2の円11に外接する共通の2つの接線12,13と、当該第1の円10及び第2の円11とで規定された輪郭形状に設定する。その規定された輪郭形状は図3におけるハッチング部分である。
【0022】
また、上記外装体6は、上記内挿体5を嵌め込み可能な当該内挿体5の輪郭形状と同形の空所6aを有し、その空所6aに上記形状の内挿体5を上側から嵌め込むことで、当該内挿体5を支持する。
ここで、上記内挿体5及び外装体6は、それぞれ個別に製造された耐火れんが製である。
【0023】
また本実施形態では、内挿体5と外装体6との対向する端面に段差を設けることで、図2に示すように、外装体6の空所6aに内挿体5を支持する。具体的には、空所6aを構成する端面は、下部6a−1側が内側に張り出すようにして段差が形成され、それに併せて、内挿体5の外縁側の端面は、上部5b−1側が外方に張り出すようにして段差が形成されている。そして、空所6a側の端面の段差の下部6a−1に、内挿体5側の段差の上部5b−1が支持されることで、外装体6に内挿体5が支持されている。なお上記段差面は外周側にいくほど上側となるように傾斜している。
【0024】
また、上記外装体6と内挿体5とからなるスライディングゲートプレート2の上面(摺動面)は、平滑度0.03mm以下になるように予め研磨されている。ここで、研磨後の摺動面の平滑度は0.5mm以下、好ましくは平滑度0.05mm以下となっていれば良く、本実施形態では、その範囲内として平滑度0.03mm以下としている。
同様に、内装体と外装体との段差についても、0.03mm以下としている。
また、摺動面と反対側の面(下面)について、拡大図である図4のように、上記外装体6と内挿体5との段差δが0.5mm以下となるように研磨されている。本段差δが0.05mm以下となるように下面を研磨することが好ましい。
また、図2(b)に示すように、内挿体5の下面には、溶湯通過穴2aと同軸に且つ上記第1の円10相当の厚さ(溶損分相当αの厚さ)を有して下方に突出した突出体からなる、だぼ5aが形成されている。そのだぼ5aに対してノズル部材7が取り付けられる。
【0025】
(使用その他)
上記スライディングゲートプレート2を備えたスライディングノズルSにあっては、固定プレート1の溶湯通過穴1aにスライディングゲートプレート2の溶湯通過穴2aを合わせることで溶湯(溶融金属)が流出され、また、スライディングゲートプレート2を摺動させることで、固定プレート1の溶湯通過穴1aとスライディングゲートプレート2の溶湯通過穴2aとを相対的にずらすことで溶湯の流出流を絞り、さらに、固定プレート1の溶湯通過穴1aとスライディングゲートプレート2の溶湯通過穴2aとが予め設定した溶損分相当位置だけ、つまり遮断位置までずらすことで溶湯の流出を遮断する。図2における符号Xが、本実施形態におけるスライディングゲートプレート2の摺動ストロークの範囲を示す。また図2における符号Yは、遮断位置にずらしたときの溶湯通過穴1aの位置を示す。
【0026】
ここで、溶湯に接触することで経時的に溶湯通過穴1a、2a周りが損傷(溶損)してくるため、一定期間使用すると、プレートの交換や補修が必要となる。
このとき、上記損傷のほとんどは溶湯と接触する部分である。スライディングゲートプレート2にあっては、溶湯と接触する部分は、溶湯通過穴2a近傍と、摺動によって位置が変わる固定プレート1の溶湯通過穴1aと対向する位置であるが、本実施形態では、その部分を内挿体5で構成している。
【0027】
すなわち、内挿体5の形を規定する溶湯通過穴2aと第2の円11間の距離を溶損分相当若しくはそれ以上とすることで、上側に位置する固定プレート1の溶湯通過穴1aが遮断位置まで相対変位しても(図2(a)におけるY位置)、確実に、固定プレート1の溶湯通過穴1aは内挿体5とだけ常に対向した状態となる。つまり、使用中に内挿体5と外装体6との境界部に溶湯が触れることが無いので、その境界部への地金差しによる漏鋼トラブルを回避することが出来る。これによって、再使用の場合には、外装体6から内挿体5を外して、新たな内挿体5若しくは補修した内挿体5を取り付けるだけで再使用することが出来る。
【0028】
また、上記のように溶湯に接触する部分を内挿体5だけに限定しているが、内挿体5の形を規定する2つの円10,11間の距離が小さく設置されているため、内挿体5の長手方向の長さを必要以上に長くすることが抑えられて、コスト的に有利であると共に内挿体5が剛性的にも有利となる。
また、内挿体5の輪郭形状を、2つの円10,11とその共通の2本の接線12,13で囲まれる形状とすることで、輪郭形状に対し周方向に沿って曲率が急峻する部分が存在しない。つまり応力集中する角部が形成されない。このため、スライディングゲートプレート2の使用時及び交換時に、当該内挿体5、及びそれを空所6aで支持する外装体6が破損し難くなる。
【0029】
また、内挿体5及び外装体6をともに耐火れんがによって構成することで、内挿体5を交換する際に外装体6を破損することも抑えることが可能となる。ここで、キャスタブルで構成した場合、強度が低いことから交換するときに壊れやすくなり、また再使用を繰り返した場合、使用中に骨材が剥離し揺動面間にかみ込み湯漏れの可能性が高くなる。これに対し、本実施形態のようにれんがで構成することで、このようなことも回避されて、再使用率を高くすることが出来る。
【0030】
また段差によって外装体6の空所6aに内挿体5を連結する構造とすることで、確実に外装体6で内挿体5を受けることが可能になると共に、使用中に溶湯流の方向に内挿体5がずれることも防止可能となる。なお、段差で受けることで、内挿体5と外装体6との表面を面一に設定しやすくなるという効果もある。
また、再使用する度に、外装体6に内挿体5を取り付けた状態で研磨することで、使用する際の摺動面を確実に平滑度0.03mm以下に出来ると共に、研磨によって外装体6と内挿体5とをより面一(段差δが0.05mm以下)に設定して使用することが可能となる。
【0031】
本実施形態の摺動面の平滑度を0.03mm以下と設定しているのは、平滑度を0.5mm以下にすることで、固定プレート1とスライディングゲートプレート2との間の摺動不良の発生を確実に防止できることを確認したためである。更に、摺動面の平滑度を0.05mm以下とすることで、プレート間の気密性を高めて外気の侵入を抑制し溶鋼の酸化を防止することが出来るからである。そして、摺動面の平滑度を0.03mm以下とすることで、より気密性を高めることが出来る。
【0032】
ここで、スライディングゲートプレート2をスライドさせる事による溶湯の流量制御する際に、摺動不良が発生すると、溶湯が必要量だけ流れなかったり、必要以上に流れてしまうことがある。必要量だけ流れない場合は、連続鋳造において目的の形状の鋳造寸法にならないおそれがある。また必要以上流れてしまう場合は、タンディッシュから溶湯があふれ膨大な設備被害が発生する。本実施形態では、摺動面を平滑度0.5mm以下となるように研磨することで、上述の不具合を防止すると共に、摺動面を平滑度0.05mm以下とすることで、プレート間の気密性を高めて外気の侵入を抑制し溶鋼の酸化を防止できる。
【0033】
さらに、摺動面とは反対側の面について、上記外装体6と内挿体5との接合部の段差δが0.5mm以下の面一となるように研磨することで、摺動面側の上記研磨による効果と併せて、再生品に発生する不具合を減少させることができる。上記段差δが0.05mmとなるように研磨することで、より上記不具合を減少することで出来る。
そして、以上のようなことの相乗効果によって、本実施形態では、摺動不良の発生を抑えつつ、スライディングゲートプレート2の外装体6の再使用率を高めることが出来る。
【符号の説明】
【0034】
1 固定プレート
1a 溶湯通過穴(上部溶湯穴)
2 スライディングゲートプレート
2a 溶湯通過穴
5 内挿体
5b−1 上部
6 外装体
6a 空所
6a−1 下部
10 第1の円
11 第2の円
12,13 接線
S スライディングノズル
α 溶損分相当
δ 下面に形成される段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライディングノズルの一部を構成するスライディングゲートプレートであって、
スライディングゲートプレートの上側に位置し溶湯が通過する上部溶湯穴に対し溶湯通過穴を合わせることで溶湯を流出させ、また摺動によって上部溶湯穴と溶湯通過穴とを相対的にずらすことで流出流を絞りあるいは遮断する当該スライディングゲートプレートにおいて、
上記溶湯通過穴を有すると共に上記遮断の位置まで摺動しても上記上部溶湯穴と常に対向可能な大きさの内挿体と、その内挿体の外周部を形成して当該内挿体を着脱可能に支持する外装体と、を備え、
上記溶湯通過穴の径に予め設定した溶損分相当の余裕代だけ大きくした径以上の第1の円を上記溶湯通過穴を中心に想定すると共に、上記溶湯通過穴から上記溶損分相当若しくはそれ以上離れた位置に上記上部溶湯穴の径以上の第2の円を想定した場合に、上記内挿体は、平面視において、上記第1の円及び第2の円に外接する共通の2つの接線と当該第1の円及び第2の円とで規定された輪郭形状に形成され、
上記外装体は、上記内挿体を嵌め込み可能な当該内挿体の輪郭形状と同形の空所を有し、その空所に上記形状の内挿体が上側から嵌め込むことで当該内挿体を支持し、
上記内挿体及び外装体は、ともに耐火れんがから構成されていることを特徴とするスライディングゲートプレート。
【請求項2】
上記内挿体と外装体の空所との対向する端面に段差を設けることで、外装体の空所に内挿体を支持することを特徴とする請求項1に記載したスライディングゲートプレート。
【請求項3】
スライディングノズルを構成する他の部品と摺動する摺動面が平滑度の0.5mm以下になるように研磨されていると共に、上記摺動面とは反対側の面において内挿体と外装体との段差が0.5mm以下になるように研磨されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したスライディングゲートプレート。
【請求項4】
スライディングノズルを構成する他の部品と摺動する摺動面は、平滑度0.05mm以下になるように研磨されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したスライディングゲートプレート。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したスライディングゲートプレートを備えるスライディングノズルの再使用方法において、
上記溶湯通過穴に交換すべき損耗が発生若しくは発生すると判定すると、現在の内挿体を外して新たな内挿体を外装体の空所に取り付け、更に、他の部品との摺動面を平滑度0.5mm以下になるまで研磨すると共に、上記摺動面とは反対側の面において内挿体と外装体との段差が0.5mm以下になるまで研磨した後に、スライディングゲートプレートをスライディングノズルに組み付けて再使用することを特徴とするスライディングノズルの再使用方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したスライディングゲートプレートを備えるスライディングノズルの再使用方法において、
上記溶湯通過穴に交換すべき損耗が発生若しくは発生すると判定すると、現在の内挿体を外して新たな内挿体を外装体の空所に取り付け、更に、他の部品との摺動面を平滑度0.05mm以下になるまで研磨した後に、スライディングゲートプレートをスライディングノズルに組み付けて再使用することを特徴とするスライディングノズルの再使用方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−121049(P2012−121049A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273684(P2010−273684)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】