説明

スライドファスナー

【課題】弾性部材を使用することなく、スライダーを自動的にロックが可能なスライドファスナーを提供する。
【解決手段】スライダー胴体10と同スライダー胴体に回動自在に取り付けられた引手30と引手に一体に形成された停止爪31とを有するスライダー9 を備えたスライダー停止機構付きスライドファスナー1 で、停止爪はエレメント5間に嵌入する爪部を有し、爪部はスライダーの摺動操作終了後に引手が自重回動したときにファスナーストリンガー2に取着したエレメント列4の第1エレメントに当接して引手の回動を一時的に停止させる第1当接面と引手の回動停止状態にてスライダーがエレメント開離方向に強制移動を開始したときに、引手が自重回動を再開して爪部をエレメント 間に嵌入させた状態で、第2エレメントに当接してスライダーの強制移動を停止させる第2当接面とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性部材を使用することなく、スライダーを自動的にロックすることが可能なスライダー停止機構付きスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
衣服等に用いられる従来のスライドファスナーには、スライダーの非操作時に左右のファスナーストリンガーが不意に開いてしまうことを防止するため、停止機構を備えたスライダーをエレメント列に挿通したものが知られている。一般に、停止機構を備えたスライダーは、スライダーの上下翼板間に形成されたエレメント案内路に進退可能な停止爪と、同停止爪をエレメント案内路内へ付勢する板ばねとを有しており、スライダーの非操作時に停止爪を板ばねで付勢して停止爪の一部(爪部)をエレメント列に係合させることによってスライダーの移動を停止させている。
【0003】
ところで、近年では環境問題に対する取り組みとして、材料などをリサイクルし易くするために、製品を構成する各部品を同じ材質で形成することが要望されている。しかし、上述のような従来の停止機構を備えたスライダーでは、例えばスライダーや引手などを合成樹脂で成形し、その一方で弾性を有する板ばねを金属部材で形成するというように板ばねがその他の部材と異なる材質で作製されていることが多い。このため、スライダーの材料をリサイクルする際に部品の分別が必要となり、手間がかかるという問題があった。
【0004】
また、このようなリサイクルの問題を解決するために、例えば板ばね等の弾性部材を合成樹脂で作製することもあるが、通常、合成樹脂製の弾性部材は経年変形し易く、長期の使用によって弾性が発揮されなくなるという問題があった。
【0005】
更に、スライダーのリサイクルを考慮して、板ばねを使用せずに、同じ材質からなる部品を用いて構成された停止機構付きスライダーが、特開2000−333710号公報(特許文献1)に開示されている。また、米国特許第2,972,793号明細書(特許文献2)には、板ばねを用いない停止機構付きスライダーが開示されている。
【0006】
前記特許文献1に記載されているスライダーは、全ての構成部品が合成樹脂により形成されており、具体的には、スライダー胴体、引手、停止爪(爪体)、及び、引手をスライダー胴体に取り付けるためのカバー体の4つの合成樹脂製の部品から構成されている。また前記引手には、スライダー胴体に回動可能に取り付けるための取付軸(枢軸)と、同取付軸から引手長さ方向に対して直角に突設された断面親指形状のカムとが配されている。
【0007】
このような構成を有する特許文献1のスライダーは、スライダー胴体に取り付けた引手を後口側へ回動させて非操作位置に保持することにより、前記カムによってスライダー胴体に収容された停止爪が押圧される。これにより、同停止爪が左右のエレメント列を押圧するとともに同停止爪の一部がエレメント間に圧入するため、スライダーが停止状態にロックされる。
【0008】
前記特許文献2には、図13に示すように、引手82に山形状の停止爪83とフック形状の引込爪84とを備えた停止機構付きスライダー81が記載されている(特許文献2の第2図を参照)。前記特許文献2によれば、引込爪84は、引手82の押し下げによりエレメント列85に係合する最初の爪であり、引手82が非ロック位置にあるときにファスナーが動くことによって、引込爪84及び停止爪83がロック位置に引き込まれることが説明されている。即ち、前記特許文献2のスライダー81では、引込爪84がエレメント列85に引き込まれることにより、引手82が回動して停止爪83がエレメント列85に係合するため、スライダー81がロックされる。
【特許文献1】特開2000−333710号公報
【特許文献2】米国特許第2,972,793号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1に記載の合成樹脂製スライダーは、前述のように停止爪がエレメント列に押圧するとともに停止爪の一部をエレメント間に圧入することにより、スライダーが容易にロックされる。しかしながら、スライダーをこのようにロックするためには、ユーザーが引手を回動操作して、引手に設けたカムにより停止爪を押圧する必要があり、スライダーを自動的にロックすることができなかった。
【0010】
また、前記特許文献1では、スライダーをロックしたときに引手のカム及び停止爪が大きな荷重を受けることから、長期に渡って繰り返し使用することによりカムや停止爪が磨耗を起こしてしまう。その結果、スライダーのロック機能が低下したり、働かなくなるという問題もあった。更に、特許文献1のスライダーは前述のように4つの部材で構成されているものの、製造コストの低減や組み立ての容易さ等の点から、スライダーの構成部品点数をより少なくすることが望まれていた。
【0011】
前記特許文献2に記載されているスライダー81は、前述のようにファスナーが動くことにより、引込爪84がエレメント列85に引き込まれて引手82が回動するため、前記特許文献1のスライダーのようにユーザーが引手の回動操作をわざわざ行わなくても、スライダーをロックすることが可能である。
【0012】
しかし、前記特許文献2のスライダー81は、引手82に停止爪83と引込爪84の形状が異なる2つの小さな爪を形成しなければならないため、引手82の形状が複雑になるとともに、スライダー81の大型化を招くという問題があった。また、特許文献2には、引手82に形成する停止爪83及び引込爪84の位置や寸法に関する具体的な説明が全くなされていない。特許文献2のスライダー81において、停止爪83及び引込爪84の位置や寸法を適切に設定することは重要であり、停止爪83及び引込爪84の位置や寸法によっては、停止爪83を著しく磨耗させたり、スライダー81のロックを安定して行うことができないという問題を生じさせる。
【0013】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、弾性部材を使用することなく、スライダーを自動的にロックすることができ、しかも、長期に渡って繰り返し使用してもスライダーのロック機能を安定して維持することが可能なスライドファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるスライドファスナーは、基本的な構成として、一対のファスナーテープの対向するテープ側縁部にエレメント列を取着した左右一対のファスナーストリンガーと、前記エレメント列に挿通されたスライダーとを備え、前記スライダーは、窓部を有する上翼板と下翼板との間にエレメント案内路が形成されたスライダー胴体と、前記上翼板の上面側に回動自在に取り付けられた引手と、同引手に一体に形成され、前記上翼板の前記窓部を介して前記エレメント案内路に突出し、前記エレメント列を構成するエレメント間に嵌入可能な停止爪とを有するスライダー停止機構付きスライドファスナーであって、前記停止爪は、前記エレメント間に嵌入する爪部を有し、前記爪部は、前記スライダーの摺動操作終了後に前記引手が自重で回動したときに、前記エレメント列の第1エレメントに当接して前記引手の回動を一時的に停止させる第1当接面と、前記引手の回動が一時的に停止した回動停止状態にて前記ファスナーストリンガーが横引き力を受け、前記スライダーがエレメント開離方向に強制移動を開始したときに、前記回動停止状態の解除により前記引手が自重回動を再開して前記爪部を前記エレメント間に嵌入させた状態で、前記第1エレメントの後側に隣接する第2エレメントに当接して前記スライダーの強制移動を停止させる第2当接面とを有してなることを最も主要な特徴とするものである。
【0015】
このような本発明に係るスライドファスナーにおいて、前記停止爪は、前記引手の回動停止状態から前記スライダー が強制移動することにより、前記爪部の前記第1当接面を前記第1エレメントに当接させながら前記引手が自重により回動を再開するとともに、同引手の回動により前記爪部を前記第1及び第2エレメント間に嵌入させ、前記爪部が前記エレメント間に嵌入した状態で、前記スライダーが更に強制移動することにより、前記爪部の前記第2当接面を前記第2エレメントに当接させ、前記第2当接面が前記第2エレメントに当接した状態で前記引手の回動がその回動限で停止したときに、前記スライダーの強制移動を停止させるように構成されていることが好ましい。
【0016】
また、前記停止爪は、前記引手に有する回動軸部から、引手長さ方向に対して前記上翼板側に直交する方向に延設されていることが好ましい。
更に、前記停止爪は、前記引手に連結された爪体基部を有し、前記爪部は、前記爪体基部の先端から左右に1つずつ延設され、互いの位置が前記エレメント間の間隔で引手長さ方向にずらされて配されていることが好ましい。
【0017】
また本発明において、前記停止爪が前記エレメント案内路から完全に退避するときの前記上翼板の後口側上面と前記引手との角度θが30°以上50°以下に設定されていることが好ましい。
この場合、前記引手の回動軸部の軸中心から前記停止爪の前記爪部先端までの長さAと、前記スライダーの強制移動停止時における前記スライダーの前記上翼板内面から前記停止爪の前記爪部先端までの長さBとの割合B/Aの値が、0.14以上0.35以下に設定されていることが好ましく、更に、前記長さBは0.5mm以上1.0mm以下に設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るスライドファスナーは、左右一対のファスナーストリンガーと、スライダーとを備え、前記スライダーは、上下翼板間にエレメント案内路が形成されたスライダー胴体と、上翼板上面側に回動自在に取り付けられた引手と、引手に一体に形成され、上翼板に形成した窓部を介してエレメント案内路に突出してエレメント間に嵌入可能な停止爪とを有している。
【0019】
また、停止爪は爪部を有し、前記爪部は、第1当接面及び第2当接面を有している。この場合、爪部の第1当接面は、スライダーの摺動操作終了後に引手が自重で回動したときに、エレメント列の第1エレメントに当接することによって、引手の回動を一時的に停止させる。また、爪部の第1当接面は、引手の回動停止状態にてファスナーストリンガーが横引き力を受けることによりスライダーがエレメント開離方向に強制移動を開始したときに、引手が自重回動を再開して爪部をエレメント間に嵌入させた状態で第2エレメントに当接することによって、スライダーの強制移動を停止させる。なお本発明において、スライダーの強制移動は、引手を摘んでスライダーを摺動操作することによる通常の移動とは異なる移動を表している。
【0020】
このようなスライダーを有する本発明のスライドファスナーによれば、引手の自重回動とスライダーのエレメント開離方向への強制移動を利用して停止爪の爪部をエレメント間に嵌入することができるため、板ばねのような弾性部材を使用せずにスライダーを自動的に安定してロックすることができる。
【0021】
また、本発明のスライドファスナーでは、スライダーをロックする際に、例えば前記特許文献1に記載のスライダーのような停止爪を押圧するためのカムを用いなくても、停止爪の爪部が引手の自重回動によりエレメント間に容易に嵌入するため、スライダーのロックを繰り返し行っても停止爪が磨耗することを抑えることができる。このため、スライダーのロック機能を長期に渡って安定して維持することが可能となる。
【0022】
更に、本発明のスライドファスナーに用いられるスライダーは、停止爪が引手と一体に形成されている。このため、本発明は、例えば前記特許文献1のような引手と停止爪とが別部品で形成されているスライダーに比べて、スライダーの構成部品点数を少なくでき、その結果、スライダーのコスト低減が図れ、また、スライダーの組み立てをより容易に行うことが可能となる。
【0023】
特に、本発明における停止爪は、引手の回動停止状態からスライダーが強制移動することにより、爪部の第1当接面を第1エレメントに当接させながら引手が自重により回動を再開するとともに、同引手の回動により爪部を第1及び第2エレメント間に嵌入させ、次に、爪部がエレメント間に嵌入した状態で、スライダーが更に強制移動することにより、爪部の第2当接面を第2エレメントに当接させ、更に、第2当接面が第2エレメントに当接した状態で引手の回動がその回動限で停止したときに、スライダーの強制移動を停止させるように構成されている。これにより、スライダーが強制移動したときに、同スライダーをより安定して停止させてロックすることができる。
【0024】
このような本発明のスライドファスナーにおいて、前記停止爪は、引手の回動軸部から、引手長さ方向に対して上翼板側に直交する方向に延設されている。これにより、第2当接面が第2エレメントに当接した状態で引手の回動が停止することにより、スライダーの強制移動を容易に停止させ、スライダーを確実にロックすることができる。なお、停止爪が引手長さ方向に対して上翼板側に直交する方向に延設されていれば、例えば同停止爪の爪体基部前面を上翼板に形成した窓部の前壁面に当接させることにより、上述のように第2当接面が第2エレメントに当接した状態で引手の回動を確実に停止させることができる。
【0025】
また、本発明において、前記停止爪は引手に連結された爪体基部を有し、前記爪部は、爪体基部の先端から左右に1つずつ延設され、左右爪部の互いの位置がエレメント間の間隔で引手長さ方向にずらされて配されている。これにより、停止爪は、左右の各爪部を左右エレメント列のエレメント間にそれぞれ容易に嵌入することができ、スライダーのロックをより確実に行うことができる。
【0026】
更に、本発明において、前記停止爪がエレメント案内路から完全に退避するときの上翼板の後口側上面と引手との角度θが30°以上50°以下、好ましくは35°以上45°以下に設定されている。本発明者等による調査によれば、例えばスライドファスナーを衣服の前立て部分に取着した場合に、引手を摘んでスライダーをエレメント開離方向に摺動操作する際の上翼板に対する引手の傾斜角度は、50°よりも大きいことが明らかになった。
【0027】
従って、上述のように停止爪がエレメント案内路から退避するときの上翼板と引手との角度θを50°以下に設定することにより、スライダーをエレメント開離方向や閉鎖方向に摺動する際に、停止爪がエレメント列に引っ掛かることを防止でき、スライダーの摺動操作を円滑に行うことができる。また、停止爪がエレメント案内路から退避するときの上翼板と引手との角度θを30°以上に設定することにより、引手を上翼板の後口側に完全に傾倒させたときのエレメント案内路内へ突出する停止爪の突出量を適切に確保し、スライダーを安定してロックすることができる。
【0028】
この場合、引手の回動軸部の軸中心から停止爪の爪部先端までの長さAと、スライダーの強制移動停止時における上翼板内面から停止爪の爪部先端までの長さBとの割合B/Aの値が、0.14以上0.35以下に設定されている。これにより、上翼板に対する引手の角度が30°以上50°以下のときに、停止爪をエレメント案内路から確実に退避させることができる。
【0029】
更に本発明では、前記長さBの値が0.5mm以上1.0mm以下に設定されている。これにより、前記引手の回動停止状態からスライダーが強制移動した際に、爪部をエレメント間に円滑に、且つ確実に嵌入することができ、スライダーのロックを一層安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
図1〜図5は、本発明の実施例1に係るスライドファスナーを示している。ここで、図1は、同スライドファスナーの正面図である。また、図2は、同スライドファスナーが備えるスライダーを分解して示した分解斜視図であり、図3は、同スライダーの引手及び停止爪を拡大して示した拡大斜視図である。更に、図4は、同スライダーの縦断面図であり、図5は、図4に示したV−V線断面図である。
【0032】
本実施例1に係るスライドファスナー1は、図1に示したように、左右一対のファスナーストリンガー2と、スライダー9とを備えている。
前記ファスナーストリンガー2は、左右一対のファスナーテープ3と、同ファスナーテープ3の対向するテープ側縁部に取着されて左右のエレメント列4を形成するコイル状のエレメント5を有している。この場合、コイル状のエレメント5は、ポリアミドやポリエステル等の合成樹脂製モノフィラメントから形成されており、例えば図5に示したように、エレメント内部に芯紐6が挿通された状態でファスナーテープ3の側縁部に縫着糸7の二重環縫によって縫着されている。なお、本実施例1において、スライドファスナー1のチェーン幅は約6mmに設定されている。
【0033】
前記スライダー9は、図2に示したように、スライダー胴体10と、スライダー胴体10に回動可能に取り付けられる引手30と、引手30をスライダー胴体10に取り付けるためのカバー体40の3つの部品から構成されており、引手30にはスライダー9をロックさせるための停止爪31が一体に形成されている。これら3つの部品10,30,40は、リサイクルし易いように、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂を用いて、射出成形手段または押出成形手段によって所定の形状に成形されている。
【0034】
前記スライダー胴体10は、上翼板11と下翼板12とが案内柱13により前部で連結されており、略平行に配された上下翼板11,12間には、前部に設けられた左右の肩口と後端に設けられた後口とを連通するY字状のエレメント案内路14が形成されている。上翼板11の後部側左右側縁には、上部フランジ15が下翼板12に向けて上翼板11と直交する方向に垂設されている。
【0035】
また、スライダー胴体10の上翼板11の略中央部には、停止爪31を収容する収容部17が形成されており、この収容部17の底部には、前後方向に架橋された仕切部18と、同仕切部18の左右両側にエレメント案内路14まで穿設された左右の窓部19とが配されている。収容部17の左右両側には、支持壁部21が立設されており、この支持壁部21の中央部には、引手30の後述する回動軸部34を載置するための凹状の軸受部22が形成されている。更に、収容部17の前後には、カバー体40を係着させるための係止部23aを備えた係止柱23が左右の支持壁部21間に配されている。
【0036】
前記引手30は、摘み部となる引手本体32と、引手本体32から延設したアーム部33と、アーム部33の先端間に配された回動軸部34とを有しており、回動軸部34の幅方向中央部には停止爪31が一体に形成されている。この停止爪31は、引手長さ方向に対して上翼板11側に直交する方向に回動軸部34から延設されており、回動軸部34に連結した爪体基部36と、同爪体基部36の先端から突出した左右の第1及び第2爪部37,38とを有している(図3を参照)。
【0037】
前記爪体基部36は、図4に示したように、その断面視にて回動軸部34を包み込むとともに上翼板11側に膨出するように形成されている。この爪体基部36の先端面には、スライダー胴体10の前記仕切部18を嵌入させるための凹溝39が幅方向中央部に形成されている。前記第1及び第2爪部37,38は、凹溝39を挟んで左側と右側とに1つずつ、爪体基部36の先端から直方体状に延設されている。
【0038】
これら第1爪部37と第2爪部38の位置は、ファスナーストリンガー2の隣接するエレメント5間の間隔だけ引手30の長さ方向に互いにずらされており、左側の第1爪部37が前方に配され、右側の第2爪部38が後方に配されている。また、第1及び第2爪部37,38は、停止爪31がエレメント案内路14に突出したときに、スライダー胴体10の肩口側に面する第1当接面(前面)と、後口側に面する第2当接面(後面)とをそれぞれ有している。
【0039】
この場合、第1爪部37の第1当接面は、後述するように、スライダー9の摺動操作終了後に引手30が自重回動したときに、エレメント列4の第1エレメント5aに当接して引手30の回動を一時的に停止させる役割を果たす。また、第1及び第2爪部37,38の第2当接面は、後述するように、引手30の回動停止状態からスライダー9がエレメント開離方向に強制移動を開始した後に、第2エレメント5bに当接してスライダー9の強制移動を停止させる役割を果たす。
【0040】
前記カバー体40は、前壁、上壁、及び後壁が連続的に形成されたカバー部41と、カバー部41の上壁の左右側縁から垂設された側壁42と、側壁42の下端中央部に凹設された軸受部43と、カバー部41の前壁及び後壁の内面から内側に突設された被係止部44とを有している。
【0041】
上述のようなスライダー胴体10、引手30、及びカバー体40の3つの部品を用いてスライダー9を組み立てる場合、先ず、スライダー胴体10の収容部17内に停止爪31を収容するとともに、引手30の回動軸部34をスライダー胴体10の軸受部22に載置して、引手本体32が上翼板11の上面(外面)と略平行になるように引手30を保持する。
【0042】
次に、カバー体40をスライダー胴体10の上方から左右支持壁部21間に嵌着するように被せ、更に、同カバー体40を下方に押し込んでスライダー胴体10の係止柱23に設けた係止部23aにカバー体40の被係止部44を係止させる。これにより、引手30の回動軸部34がスライダー胴体10の軸受部22とカバー体40の軸受部22との間に嵌入し、引手30が上翼板11の上面側に、回動軸部34を中心として回動可能に取り付けられたスライダー9が得られる。
【0043】
このようにして組み立てられたスライダー9は、図4に示したように引手30をスライダー胴体10の後口側に上翼板11の上面と略平行となるように傾倒させたときに、停止爪31の一部がスライダー胴体10のエレメント案内路14に突出する。また、この停止爪31の一部が突出した状態から引手30をスライダー胴体10の肩口側に回動させることにより、突出した停止爪31がエレメント案内路14から退避するように構成されている。
【0044】
この場合、本実施例1におけるスライダー9は、停止爪31がエレメント案内路14から退避するときの上翼板11と引手30との角度θが30°以上50°以下に設定されている。
通常、スライダー9をエレメント開離方向や閉鎖方向に摺動操作する場合、上翼板11の後口側上面に対する引手30の傾斜角度が50°以上に保持される。従って、図6に示すように、停止爪31がエレメント案内路14から退避するときの前記角度θが50°以下に設定されていれば、スライダー9の摺動時に停止爪31がエレメント列4に引っ掛かることなく、スライダー9の摺動操作を円滑に行うことができる。
【0045】
また、停止爪31がエレメント案内路14から退避するときの前記角度θを30°以上に設定することにより、引手30をスライダー胴体10の後口側に完全に傾倒させたときに、停止爪31のエレメント案内路14内に突出する突出長さ(即ち、スライダー9の上翼板11内面から停止爪31の爪部先端までの長さB(図5を参照))を適切な長さで確保することができる。
【0046】
例えば、停止爪31がエレメント案内路14から退避するときの前記角度θが30°未満であれば、停止爪31がエレメント案内路14から退避した状態から引手30を上翼板11の後口側に完全に傾倒させる場合に、引手30は上翼板11の上面と略平行となる角度までしか回動しないため、引手30を回動させる角度も30°未満となる。
【0047】
この場合、引手30の回動軸部34の軸中心から停止爪31の爪部先端までの長さAに対する前記長さBの割合が小さくなる。従って、引手30を上翼板11の後口側に完全に傾倒させたときに、停止爪31のエレメント案内路14内に突出する突出長さを適切に確保するためには、停止爪31を大きく形成して長さAを増大させなければならず、スライダー9の大型化を招く。
【0048】
言い換えると、前記角度θを30°以上に設定することにより、引手30の回動軸部34の軸中心から停止爪31の爪部先端までの長さAに対する前記長さBの割合が大きくなるため、停止爪31自体を大きく形成しなくても、停止爪31のエレメント案内路14内に突出する突出長さ(前記長さB)を適切に確保することができる。このため、後述するように引手30の回動停止状態からスライダー9がエレメント開離方向に強制移動するときに、停止爪31をエレメント列4の隣接するエレメント5間に嵌入させてスライダー9を安定してロックすることができる。
【0049】
特に、本実施例1におけるスライダー9は、停止爪31がエレメント案内路14から退避するときの上翼板11と引手30との角度θを30°以上50°以下に設定するために、引手30の回動軸部34の軸中心から停止爪31の爪部先端までの前記長さAと、スライダー9をロックしたときにおけるスライダー9の上翼板11内面から停止爪31の爪部先端までの前記長さBとの割合B/Aの値が、0.14以上0.35以下に設定される。なお、この割合B/Aの値は、停止爪31がエレメント案内路14から退避するときの上翼板11と引手30との角度θから、三角関数を利用して導き出される。
【0050】
この場合、本実施例1におけるスライダー9では、スライドファスナー1のチェーン幅が6mmであることから、スライダー9を確実にロックするために、スライダー9の上翼板11内面から停止爪31の爪部先端までの長さBが、0.5mm以上1.0mm以下、特に、0.6mm以上0.8mm以下に設定されることが好ましい。なお、例えば前記長さBが0.5mmに設定される場合には、前記長さAは、割合B/Aの範囲に基づいて1.43mm以上3.57mm以下に設定され、また、前記長さBが1.0mmに設定される場合には、前記長さAは2.86mm以上7.14mm以下に設定される。
【0051】
上述のようなスライダー9をエレメント列4に挿通させた本実施例1のスライドファスナー1は、主に衣服の前立て等に鉛直方向に沿って、スライダー9の肩口側を上向きにし、後口側を下向きにした状態で取着されて使用される。この場合、例えば図6に示したように、引手30を上翼板11の後口側上面に対して50°以上に保持してスライダー9をエレメント開離方向又は閉鎖方向に摺動操作することにより、停止爪31がエレメント列4に引っ掛かることなく、左右のファスナーストリンガー2を円滑に開離又は閉鎖することができる。
【0052】
なお、衣服の前立て等に取着されたスライドファスナー1では、ユーザーがスライダー9をエレメント開離方向又はエレメント閉鎖方向に摺動操作する場合、引手30を指で摘んで上翼板11の後口側上面に対して自然に50°以上に傾けた状態でスライダー9を摺動させる。このため、本実施例1のスライドファスナー1は、ユーザーに対して引手30を必要以上に持ち上げるという意識を抱かせずに、スライダー9の操作を円滑に行うことができる。
【0053】
そして、スライダー9を所望の位置まで摺動させてスライダー9の操作を終了させると、ユーザーは引手30を離すため、引手30は自重によりスライダー9の後口側に回動する。これにより、引手30は、停止爪31を上翼板11に形成した窓部19を介してエレメント案内路14内に突出させ、図7に示したように、停止爪31に配した第1爪部37の第1当接面をファスナーストリンガー2のエレメント5の1つに当接させるため、引手30が上翼板11の後口側上面に対して所定の角度で傾いた回動停止状態で保持される。このとき、第1爪部37が当接したエレメントを第1エレメント5aとする。
【0054】
このようにスライダー9の操作終了時に引手30が回動停止状態で保持されることにより、停止爪31がスライダー9をロックしていないことを容易に視認することができる。また、例えばスライダー9の摺動操作を再開するときにユーザーが引手30を摘み易く、スライダー9の操作を容易に行うことができる。なお本実施例1において、第1爪部37の第1当接面は、引手30が回動停止状態で保持されるときに第1爪部37が第1エレメント5aに適切に当接できるように、爪体基部36の前面よりも後方側に僅かに傾斜して形成されている。
【0055】
そして、引手30が上述のような回動停止状態で保持されているときに、例えば左右のファスナーストリンガー2が横引き力を受けて同ファスナーストリンガー2が図1の仮想線から実線のように開いた場合、スライダー9は、エレメント開離方向に強制的に移動させられる。この場合、引手30の回動停止状態からスライダー9が強制移動することにより、図8に示すように、第1爪部37の第1当接面が第1エレメント5aに当接しながら引手30が再び自重により回動する。これにより、第1爪部37が左側のエレメント列4の第1エレメント5aとその後側に隣接する第2エレメント5bとの間に嵌入するとともに、停止爪31の第2爪部38も右側のエレメント列4のエレメント5間に嵌入する。
【0056】
このとき、本実施例1では、停止爪31の第1及び第2爪部37,38における第1当接面と第2当接面との間隔は、ファスナーストリンガー2のエレメント5間の間隔よりも小さく設定されている。このため、引手30が自重で回動することにより、停止爪31の第1及び第2爪部37,38を左右エレメント列4のエレメント5間に容易に嵌入させることができる。
【0057】
更に、第1及び第2爪部37,38が左右エレメント列4のエレメント5間に嵌入した状態でスライダー9が強制移動することにより、左右のエレメント5が、スライダー胴体10に対してスライダー9の前方に相対的に移動する。このため、第1爪部37の第2当接面が左側のエレメント列4の第2エレメント5bに当接するとともに、第2爪部38の第2当接面も右側のエレメント列4のエレメント5に当接する。
【0058】
その後、第1及び第2爪部37,38の第2当接面がエレメント5に当接した状態でスライダー9が強制移動することにより、図9及び図10に示すように、停止爪31の爪体基部36の前面が上翼板11の窓部19の前壁面に当接し、引手30の回動がその回動限で停止する。即ち、このように窓部19の前壁面に爪体基部36の前面が当接することにより引手30の回動が停止されるため、エレメント5間に嵌入した第1及び第2爪部37,38がエレメント5との当接を維持してライダー9の強制移動を停止させ、スライダー9が安定してロックされる。なお、図10では、スライダー9のロック時における第1及び第2爪部37,38の位置を判り易く示すために、スライダー9が断面で表されている。
【0059】
また、本発明において、引手の回動をその回動限で停止させる手段は、上述のように停止爪の爪体基部前面を上翼板の窓部前壁面に当接させることに限定されるものではなく、その他の手段を用いることもできる。例えば、上翼板の後口側上面に引手支持柱を立設しておき、引手を同支持柱に当接させることによって引手の回動をその回動限で停止させることも可能である。
【0060】
以上のように、本実施例1のスライドファスナー1は、引手30の自重回動とスライダー9のエレメント開離方向への強制移動を利用して、停止爪31の第1及び第2爪部37,38をエレメント5間に嵌入することができる。このため、同スライドファスナー1は、板ばねのような金属製の弾性部材を用いなくても、スライダー9を自動的に安定してロックすることができる。
【0061】
従って、本実施例1のスライドファスナー1は、同じ合成樹脂から成形された部品のみを用いてスライダー9を構成することができるため、スライダー9の材料を容易にリサイクルすることができる。また、本実施例1のスライドファスナー1は、前記特許文献1のような停止爪31を押圧するためのカムも用いていないため、スライダー9のロックを繰り返し行っても停止爪31が磨耗することを防止でき、スライダー9のロック機能を長期に渡って安定して維持することができる。
【0062】
なお、実施例1のスライドファスナー1では、スライダー9の停止爪31に左右の第1及び第2爪部37,38が配されているが、本発明において、停止爪に形成する爪部は左右の何れかに少なくとも1つ配されていれば良く、例えば図11に示したように、実施例1の停止爪31から第1爪部37が排除された実施例1の変形例となるスライダー9’を用いてスライドファスナーを構成することも可能である。
【0063】
即ち、図11に示したスライダー9’は、引手30’の回動軸部34’に停止爪31’の爪体基部36’が一体に連結されており、この爪体基部36’の先端から1つの爪部38’(実施例1の第2爪部に対応)が延設されている。この爪部38’は、爪体基部36’に形成した凹溝の右側に配されている。
【0064】
このようなスライダー9’も、前記実施例1のスライダー9と同様に、引手30’の回動停止状態からスライダー9’がエレメント開離方向に強制移動するときに、引手30’の自重回動とスライダー9’の強制移動を利用して、停止爪31’の爪部38’をエレメント間に嵌入することができるため、板ばねのような弾性部材を用いずにスライダー9’を自動的にロックすることができる。従って、図11のスライダー9’を備えたスライドファスナーも、前記実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0065】
図12は、本発明の実施例2に係るスライドファスナーに用いられるスライダーを分解して示した分解斜視図である。
本実施例2のスライドファスナーは、図示しない左右一対のファスナーストリンガーと、スライダー51とを備えている。なお本実施例2におけるファスナーストリンガーについては、前記実施例1と同様のファスナーストリンガーが用いられる。
【0066】
本実施例2におけるスライダー51は、スライダー胴体60と、スライダー胴体60に回動可能に取り付けられる引手70の2つの部品から構成されており、引手70にはスライダー51をロックさせるための左右の停止爪71a,71bが一体に形成されている。これら2つの部品60,70は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂を用いて射出成形手段または押出成形手段によって所定の形状に成形されている。
【0067】
前記スライダー胴体60は、上翼板61と下翼板62とが案内柱63により前部で連結されており、略平行に配された上下翼板61,62間には、前部に設けられた左右の肩口と後端に設けられた後口とを連通するY字状のエレメント案内路64が形成されている。上翼板61の後部側左右側縁には、上部フランジ65が下翼板62に向けて垂設されている。また上翼板61には、スライダー胴体60の前後略中央部の位置に、孔部66aを有する引手取付柱66がスライダー幅方向に互いに離間して立設されており、これらの左右の引手取付柱66の内側に、上翼板61を貫通する左右の窓部67が平行に穿設されている。
【0068】
前記引手70は、摘み部となる引手本体72と、引手本体72の一端に配された回動軸部74と、回動軸部74に一体に形成され、引手長さ方向に対して上翼板61側に直交する方向に延設した左右の停止爪71a,71bとを有している。また、同引手70の一端部には、回動軸部74側に開口した略三角形状の切込み部73が形成されている。更に、左右の各停止爪71a,71bは、左右側面視にて逆三角形状を呈しており、引手70の回動軸部74に連結した爪体基部と、同爪体基部の先端から突出し、エレメント列のエレメント間に嵌入可能な爪部とが連続的に形成されている。
【0069】
上述のようなスライダー胴体60及び引手70の2つの部品からスライダー51を組み立てる場合、先ず、引手70を左右両側から挟み持ち、引手本体72の回動軸部74側を左右両側から押圧して切込み部73の間隔を狭くした状態で保持する。次に、同引手70の回動軸部74をスライダー胴体60の左右引手取付柱66間に挿入し、その後、引手本体72の押圧状態を解除して回動軸部74を引手取付柱66の孔部66aに嵌入する。
【0070】
このとき、引手70に一体形成した停止爪71a,71bがスライダー胴体60の上翼板61と干渉しないように、引手70を上翼板61の後口側上面に対して例えば90°〜180°傾けた状態で、引手70の回動軸部74を手取付柱66の孔部66aに嵌入することが好ましい。以上の作業により、引手70が回動軸部74を中心に回動可能に取り付けられたスライダー51が組み立てられる。
【0071】
このようにして組み立てられたスライダー51は、引手70をスライダー胴体60の後口側に上翼板61の上面と略平行となるように傾倒させたときに、左右の停止爪71a,71bの一部がスライダー胴体60のエレメント案内路64に突出し、また、この停止爪71a,71bの一部が突出した状態から引手70をスライダー胴体60の肩口側に回動させることにより、突出した停止爪71a,71bがエレメント案内路64から退避するように構成されている。
【0072】
また、本実施例2におけるスライダー51は、前記実施例1と同様に、停止爪71a,71bがエレメント案内路64から完全に退避するときの上翼板61と引手70との角度θが30°以上50°以下に設定されている。これにより、スライダー51の摺動操作時に停止爪71a,71bがエレメント列に引っ掛かることなく、スライダー51を円滑に摺動させることができる。それとともに、引手70を上翼板61の後口側に完全に傾倒させたときにおける停止爪71a,71bのエレメント案内路64内に突出する突出長さ(即ち、スライダー51の上翼板61の内面から停止爪71の爪部先端までの長さB)を適切な長さで確保することができる。
【0073】
上述のようなスライダー51をエレメント列に挿通させた本実施例2のスライドファスナーは、主に衣服の前立て等に縫着されて使用される。この場合、本実施例2のスライドファスナーは、スライダー51を所望の位置まで摺動させてスライダー51の操作を終了させると、引手70は自重によりスライダー51の後口側に回動する。これにより、引手70は、停止爪71a,71bを上翼板61に形成した窓部67を介してエレメント案内路64内に突出させ、左側の停止爪71aの爪部前面(第1当接面)をファスナーストリンガーのエレメント(第1エレメント)に当接させるため、引手70が上翼板61の後口側上面に対して所定の角度で傾いた回動停止状態で保持される。
【0074】
その後、例えば左右のファスナーストリンガーが横引き力を受けてスライダー51がエレメント開離方向に強制移動させられると、前記実施例1と同様に、左側停止爪71aの爪部前面が第1エレメントに当接しながら引手70が自重により回動する。これにより、左側停止爪71aの爪部が左側エレメント列のエレメント間に嵌入するとともに、右側停止爪71bの爪部も右側エレメント列のエレメント間に嵌入する。
【0075】
更に、左右の停止爪71a,71bの爪部が左右エレメント列のエレメント間に嵌入した状態でスライダー51が強制移動することにより、両爪部の後面(第2当接面)が第2エレメントに当接する。
【0076】
その後、左右の停止爪71a,71bの爪部後面がエレメントに当接した状態でスライダー51が強制移動することにより、停止爪71aの前面が上翼板61の窓部67の前壁面に当接し、引手70の回動がその回動限で停止する。これによって、エレメント間に嵌入した停止爪71a,71bが、スライダー51の強制移動を停止させて、スライダー51をロックする。
【0077】
以上のように、本実施例2のスライドファスナーも、前記実施例1のスライドファスナー1と同様に、引手70の自重回動とスライダー51のエレメント開離方向への強制移動を利用して、停止爪71a,71bの爪部をエレメント間に嵌入することによって、板ばねのような弾性部材を用いなくても、スライダー51を自動的に安定してロックすることができる。その上、スライダー51のロックを繰り返し行っても停止爪71a,71bが磨耗することを防ぎ、スライダー51のロック機能を長期に渡って安定して維持することができる。
【0078】
特に、本実施例2のスライドファスナーは、前記実施例1のスライダー9のようなカバー体40を備えておらず、前記実施例1よりも構成部品点数を少なくしてスライダー51が構成されている。従って、部品点数の削減によるスライダー51のコストダウンが図れるとともに、スライダー51の組み立てを容易に行うことができる。
【0079】
なお、本発明は、以上に説明した前記実施例1及び前記実施例2の形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0080】
例えば、前記実施例1及び前記実施例2のスライドファスナー1,51において、ファスナーストリンガーに配されるエレメント列は、コイル状の連続エレメントにより形成されている。しかし、本発明はこれに限定されず、例えばコイル状の連続エレメントに代えて、ジグザグ状の連続エレメントをファスナーテープに取着することによってエレメント列を形成することができ、或いは、ファスナーテープに単独エレメントを一体成形することによってエレメント列を形成することもできる。
【0081】
また、本発明に係るスライドファスナー1は、衣服の前立て以外に、例えば鞄などに取着されても良い。この場合、スライダー9は、鞄の通常使用時に水平状態になるが、引手30を摘んで摺動操作が終了した後に、引手30が後口側に少しでも傾いた状態で指を離すと、同引手30が自重により爪部37,38の第1当接面とエレメント5が当接するまで回動する。このため、その後スライダー51が強制移動したときには、その強制移動を停止させてスライダー51をロックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例1に係るスライドファスナーの正面図である。
【図2】同スライドファスナーが備えるスライダーを分解して示す分解斜視図である。
【図3】同スライダーの引手及び停止爪を拡大して示す拡大斜視図である。
【図4】同スライダーの縦断面図である。
【図5】図4に示したV−V線断面図である。
【図6】スライダーを摺動操作するときのエレメント列とスライダーの断面を模式的に示す部分断面図である。
【図7】引手の仮保持状態時のエレメント列とスライダーの断面を模式的に示す部分断面図である。
【図8】引手の仮保持状態からスライダーを強制移動させたときのエレメント列とスライダーの断面を模式的に示す部分断面図である。
【図9】スライダーをロックしたときのエレメント列とスライダーの断面を模式的に示す部分断面図である。
【図10】スライダーをロックしたときのエレメント列とスライダーの状態を説明する説明図である。
【図11】実施例1の変形例に係るスライダーの一部を示す部分断面図である。
【図12】本発明の実施例2に係るスライドファスナーが備えるスライダーを分解して示す分解斜視図である。
【図13】従来のスライダーの一部を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 スライドファスナー
2 ファスナーストリンガー
3 ファスナーテープ
4 エレメント列
5 エレメント
6 芯紐
7 縫着糸
9,9’ スライダー
10 スライダー胴体
11 上翼板
12 下翼板
13 案内柱
14 エレメント案内路
15 上部フランジ
17 収容部
18 仕切部
19 窓部
21 支持壁部
22 軸受部
23 係止柱
23a 係止部
30,30’ 引手
31,31’ 停止爪
32 引手本体
33 アーム部
34,34’ 回動軸部
36,36’ 爪体基部
37 第1爪部
38 第2爪部
38’ 爪部
39 凹溝
40 カバー体
41 カバー部
42 側壁
43 軸受部
44 被係止部
51 スライダー
60 スライダー胴体
61 上翼板
62 下翼板
63 案内柱
64 エレメント案内路
65 上部フランジ
66 引手取付柱
66a 孔部
67 窓部
70 引手
71a,71b 停止爪
72 引手本体
73 切込み部
74 回動軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のファスナーテープ(3) の対向するテープ側縁部にエレメント列(4) を取着した左右一対のファスナーストリンガー(2) と、前記エレメント列(4) に挿通されたスライダー(9,9',52) とを備え、前記スライダー(9,9',52) は、窓部(19,67) を有する上翼板(11,61) と下翼板(12,62) との間にエレメント案内路(14,64) が形成されたスライダー胴体(10,60) と、前記上翼板(11,61) の上面側に回動自在に取り付けられた引手(30,30',70) と、同引手(30,30',70) に一体に形成され、前記上翼板(11,61) の前記窓部を介して前記エレメント案内路(14,64) に突出し、前記エレメント列(4) を構成するエレメント(5) 間に嵌入可能な停止爪(31,31',71a,71b)とを有するスライダー停止機構付きスライドファスナー(1) であって、
前記停止爪(31,31',71a,71b)は、前記エレメント(5) 間に嵌入する爪部(37,38,38')を有し、
前記爪部(37,38,38')は、
前記スライダー(9,9',52) の摺動操作終了後に前記引手(30,30',70) が自重で回動したときに、前記エレメント列(4) の第1エレメント(5a)に当接して前記引手(30,30',70) の回動を一時的に停止させる第1当接面と、
前記引手(30,30',70) の回動が一時的に停止した回動停止状態にて前記ファスナーストリンガー(2) が横引き力を受け、前記スライダー(9,9',52) がエレメント開離方向に強制移動を開始したときに、前記回動停止状態の解除により前記引手(30,30',70) が自重回動を再開して前記爪部(37,38,38')を前記エレメント(5) 間に嵌入させた状態で、前記第1エレメント(5) の後側に隣接する第2エレメント(5b)に当接して前記スライダー(9,9',52) の強制移動を停止させる第2当接面とを有してなる、
ことを特徴とするスライダー停止機構付きスライドファスナー。
【請求項2】
前記停止爪(31,31',71a,71b)は、
前記引手(30,30',70) の回動停止状態から前記スライダー(9,9',52) が強制移動することにより、前記爪部(37,38,38')の前記第1当接面を前記第1エレメント(5) に当接させながら前記引手(30,30',70) が自重により回動を再開するとともに、同引手(30,30',70) の回動により前記爪部(37,38,38')を前記第1及び第2エレメント(5a,5b) 間に嵌入させ、
前記爪部(37,38,38')が前記エレメント(5) 間に嵌入した状態で、前記スライダー(9,9',52) が更に強制移動することにより、前記爪部(37,38,38')の前記第2当接面を前記第2エレメント(5) に当接させ、
前記第2当接面が前記第2エレメント(5b)に当接した状態で前記引手(30,30',70) の回動がその回動限で停止したときに、前記スライダー(9,9',52) の強制移動を停止させる、
ように構成されてなる請求項1記載のスライドファスナー。
【請求項3】
前記停止爪(31,31',71a,71b)は、前記引手(30,30',70) に有する回動軸部(34,34',74) から、引手長さ方向に対して前記上翼板側に直交する方向に延設されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項4】
前記停止爪(31,31',71a,71b)は、前記引手(30,30',70) に連結された爪体基部(36)を有し、
前記爪部(37,38) は、前記爪体基部(36)の先端から左右に1つずつ延設され、互いの位置が前記エレメント(5) 間の間隔で引手長さ方向にずらされて配されてなる、
請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項5】
前記停止爪(31,31',71a,71b)が前記エレメント案内路(14,64) から完全に退避するときの前記上翼板(11,61) の後口側上面と前記引手(30,30',70) との角度θが30°以上50°以下に設定されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項6】
前記引手(30,30',70) の回動軸部(34,34',74) の軸中心から前記停止爪(31,31',71a,71b)の前記爪部先端までの長さAと、前記スライダー(9,9',52) の強制移動停止時における前記スライダー(9,9',52) の前記上翼板内面から前記停止爪(31,31',71a,71b)の前記爪部先端までの長さBとの割合B/Aの値が、0.14以上0.35以下に設定されてなる請求項5記載のスライドファスナー。
【請求項7】
前記長さBが0.5mm以上1.0mm以下に設定されてなる請求項6記載のスライドファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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