説明

スラスト荷重検知式ブレーキテスタ

【課題】 全体的に小型の構成とさせることが可能であり且つ高精度で制動力の測定を行うことが可能なブレーキテスタを提供する。
【解決手段】 検査すべき車輪を支持するローラをカップリングを介して駆動軸に連結し、チェーン連結機構を介して駆動源によって駆動される駆動軸によって該ローラを所定の方向に回転させてその上に支持されている車輪を回転させる。該車輪にブレーキをかけたときに該ローラに該所定の方向とは反対方向に発生する反力が該カップリングを介して該駆動軸にその軸方向へのスラスト荷重を発生する。このスラスト荷重をロードセル等で検知することによって制動力を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の乗り物における車輪の制動力を試験するブレーキテスタに関するものであって、特に、ブレーキをかけた車輪から該車輪を回転駆動するローラに付加される制動力を該ローラの軸方向におけるスラスト荷重として検知するブレーキテスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗り物を車検などのために所要項目を検査する場合に使用される点検・検査システムとして図1に示されているようなシステムがある。図1において、検査すべき自動車1は検査システム2内に配置されており、この場合には自動車1の左右の前輪1aと、左右の後輪1bと、ヘッドライト1cとを検査することが意図されている。従って、検査システム2は、前輪1aの横滑り量を測定するためのサイドスリップテスタ2aと、前輪1aの制動力及びスピードを測定することが可能な前輪BS(ブレーキ・スピード)テスタ2bと、後輪1bの制動力及びスピードを測定することが可能な後輪BSテスタ2cと、ヘッドライト1cの所要項目を測定することが可能なヘッドライトテスタ2cとを包含している。
【0003】
図1に示した検査システム2においては、前輪BSテスタ2bは、前後方向に配置した一対のローラとそれらの間に配置されており上下に移動可能なリフタとを有しており、前輪1aが前輪BSテスタ2b上に配置された後に、リフタを下降させて前輪1aを一対のローラ上に載置させ少なくとも一方のローラによって駆動回転させることによって前輪1aの制動力の測定を行う。尚、図1には示されていないが、前輪BSテスタ2bは左右の前輪1aの各々に対応して配置されており、左右の前輪BSテスタ2bのローラは両者間に配置されている電磁クラッチによってスピード測定時には回転が同期されるようになっている。
【0004】
一方、後輪BSテスタ2cは、前後方向に配置した2個を越える多数個のローラ(尚、本書においては、2個を越える多数個のローラのことを「マルチローラ」という)と、隣接するローラ間に配置されており上下に移動可能なリフタユニットとを有しており、後輪1bが後輪BSテスタ2c上に配置された後に、リフタユニットを下降させて後輪1bを対応する一対のローラ上に載置させ少なくとも一方のローラによって駆動回転させることによって後輪1bの制動力の測定を行う。尚、後輪BSテスタ2cは左右の後輪1bの各々に対応して配置されており、左右の後輪BSテスタ2cの各ローラは両者間に配置されている電磁クラッチによってスピード測定時には回転が同期されるようになっている。後輪BSテスタ2cはマルチローラ構造を有しているので、前輪1aと後輪1bとの間の距離であるホイールベースが異なる自動車1を検査する場合においても、後輪1bは自動的に後輪BSテスタ2cの対応する一対のローラ上に載置されることとなる。従って、異なるホイールベースの自動車1を検査する場合に、前輪BSテスタ2bと後輪BSテスタ2cとの間の距離を調節することは必要ではない。この様なマルチローラ構造を有するBSテスタは、例えば、特開2008−292160号及び特開2008−216189号に開示されているものがある。
【0005】
尚、図1に示した検査システム2においては、後輪BSテスタ2cはマルチローラ構造を有しているが、後輪BSテスタ2cとしては、前輪BSテスタ2bと同様に一対のローラを有する構造のものとすることも可能である。その場合には、検査すべき自動車1のホイールベースに合わせて後輪BSテスタ2cの位置を前輪BSテスタ2bの位置と相対的に調節することが必要となる。従って、通常は、前輪BSテスタ2bを固定位置に配置させ、一方、後輪BSテスタ2cを前輪BSテスタ2bと相対的に前後方向に移動自在に配置させ且つ所望の位置において一時的にロックさせる機構を設けることが必要である。
【0006】
図2は、従来技術に基づく一対のローラを有するBSテスタ3の制動力を測定する場合の基本的な構造を示しており、それは、図1に示した検査システム2においては、前輪BSテスタ2bに対応している。しかしながら、後輪BSテスタ2cも一対のローラを有する構造であり且つ前輪BSテスタ2bに対して前後方向に移動可能である場合には、後輪BSテスタ2cも基本的には図2に示した構造を有することが可能である。
【0007】
図2に示したBSテスタ3は、一対の第1及び第2ローラ3a,3bを有しており、これらの一対の第1及び第2ローラの間には上下に移動可能にリフタ(不図示)が配設されている。自動車1を自走させてBSテスタ3上へ車輪1a又は1bを配置させるか又はBSテスタ3から外部へ走行させる場合には、リフタを上昇位置とさせ、一方、該車輪をBSテスタ3で検査する場合には、リフタを下降位置とさせて該車輪を一対の第1及び第2ローラ3a,3b間に落とし込んでこれらのローラ上に支持させる。図2に示されている状態は、不図示のリフタを下降位置とさせて車輪1a又は1bを第1及び第2ローラ3a,3b上に支持させた状態である。
【0008】
第1及び第2ローラ3a,3bの一端側には夫々歯車3c,3dが設けられており、これらの歯車3c,3dはエンドレスチェーン3eが掛けられている。従って、第1及び第2ローラ3a,3bは常に同期して回転されることとなる。第1ローラ3aの他端側においては、第1ローラ3aのシャフトがモータ4に連結されており、従って、モータ4が駆動回転されると、第1ローラ3aは矢印D方向に駆動回転され、従って第2ローラ3bもチェーン3eを介して矢印D方向に駆動回転される。モータ4のハウジング上にはアーム4aが固着されており、アーム4aの先端部とBSテスタ3のフレーム(不図示)との間にはロードセル5が配設されている。従って、車輪の制動力(ブレーキ)テストを行う場合に、モータ4を駆動回転させて第1及び第2ローラ3a,3bを矢印Dの方向に回転させると、それらのローラ上に支持されている車輪1a又は1bは矢印d方向に回転する。その状態で自動車1のブレーキを踏むと、第1ローラ3aには矢印R方向に反力が発生し、その反力によってモータ4のアーム4aは矢印R´方向に回転され、その結果ロードセル5によって制動力を検出することが可能である。
【0009】
図3は、図1に示されている検査システム1における後輪BSテスタ2cにおいて制動力を検査する従来技術の1例としてのマルチローラ構造を具備するBSテスタ6を示している。マルチローラ型BSテスタ6は、図3に例示された例においては、4個のローラ6a,6b,6c,6dを有しており、それらの駆動軸は、例えば、夫々の駆動軸の端部に固着された歯車を介して、連結チェーン6eにより互いに連結されている。従って、例えば、ローラ6dの駆動軸にモータ4(不図示)を連結し、該モータによってローラ6dを矢印D方向に駆動回転させると、これら4個のローラ6a〜6dは全て矢印D方向に同期回転する。ローラ6dの駆動軸に連結されているモータ4(不図示)のハウジングにはアーム4aが固着されており、該アーム4aの先端部とBSテスタ6のフレーム7との間にはロードセル5が配設されている。この様な構成によれば、ローラ6a〜6dが矢印D方向に駆動回転されると、一対のローラ6b,6c上に載置されている車輪1a(1b)は矢印d方向に回転される。その状態で、自動車1のブレーキを掛けると、その反力は一対のローラ6b,6cの内の少なくとも一方に発生し、その反力は連結チェーン6eを介してアーム4aを回転させるので、その反力は制動力としてロードセル5によって検出することが可能である。しかしながら、この様な従来技術の構成によれば、車輪1a(1b)がどの一対のローラ上に支持されるかによってロードセル5において検出される制動力が変動する蓋然性が高く、正確な測定を行うことに困難性がある。
【0010】
前掲の特開2008−292160号及び特開2008−216189号に開示されているマルチローラ型BSテスタにおいては、マルチローラ構造を床面に対して前後方向に移動自在に設けた担体上に担持させ、その担体と床面に固定した支持体との間にロードセルを設けており、自動車のブレーキを掛けた場合に発生する反力によって該担体が前後方向に移動される変位をロードセルで検知している。しかしながら、この様な構造によれば、担体はマルチローラ構造全体を担持しているものであるから、担体自体の重量はかなり大きなものとなり、その結果、制動力の測定は正確性を欠くことは必至である。そして、より多くの異なるホイールベースの自動車に対応するためには、より多くの数のローラを具備するマルチローラ構造とすることが必要であり、そのようなマルチローラ構造を担持する担体はより大きな重量とならざるを得ない。そのような大きな重量の担体は慣性が大きくなり、正確に制動力を検査することが困難となるばかりか、ロードセルを損傷する可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−292160号公報
【特許文献2】特開2008−216189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであって、上述した従来技術の欠点を解消し、正確に制動力を検査することが可能なスラスト荷重検知式ブレーキテスタを提供することを目的とする。更に、本発明は、一対のローラを具備するブレーキテスタのみならず、マルチローラ型のブレーキテスタに対しても効果的に適用することが可能であり且つ正確に制動力を検査することが可能なスラスト荷重検知式ブレーキテスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、その上に検査すべき車輪を支持することが可能な少なくとも2本の第1及び第2ローラが設けられており、第1及び第2ローラの各々はカップリングを介して対応する駆動軸に連結されており、該駆動軸は駆動源に連結されていて該駆動源によって所定の方向に駆動回転され、該車輪に制動力が付与された場合に前記第1及び第2ローラの内の少なくとも一つに前記所定の方向とは反対方向に反力が発生し、その結果前記カップリングによって前記駆動軸がその軸方向に変位されてスラスト荷重を発生し、そのスラスト荷重をロードセルによって検知して制動力を測定するスラスト荷重検知式ブレーキテスタが提供される。
【0014】
該駆動軸は、好適には、連結機構を介して互いに連結されており、且つ該連結機構を介して該駆動源に連結されている。該連結機構は、好適には、エンドレスチェーン機構とすることが可能である。該エンドレスチェーン機構は、互いに隣接する一対の駆動軸間にかけわたした複数個のエンドレスチェーンを包含することが可能であり、且つ該駆動軸の内の一つと該駆動源とを連結させるエンドレスチェーンとを包含することが可能である。該駆動源は、好適には、電気モータである。
【0015】
該駆動軸の各々は、好適には、アンギュラー軸受又はスラスト及びラジアル荷重を受けられる軸受を介して回転自在に検出プレートに連結されており、且つ該検出プレートは、該駆動軸の各々に対してその軸方向に所定の距離にわたり平行移動可能であるように支持されている。好適には、該検出プレートは、少なくとも1個の直動ガイドに沿って移動可能であるように支持されている。該検出プレートは、好適には、復帰機構によって常時駆動軸を対応するローラの方向に復帰力が付与されており、車輪の制動力の検査時に該ローラに反力が発生して該カップリングを介して対応する駆動軸がその軸方向に変位される場合には、該駆動軸に発生する軸方向のスラスト力は該復帰機構による復帰力に打ち勝つ。好適には、該検出プレートとフレームなどに固定されている支持体との間にロードセルを配置させ、該駆動軸のスラスト力を該ロードセルによって検知する。
【0016】
本発明の1実施例によれば、該カップリングは、各ローラの一端に設けてありその表面上には円周状に複数個の先細形状の第1穴を刻設した第1円盤と、該第1円盤に対向して配置させて対応する駆動軸の一端に設けてあり且つその表面上には円周状に該複数個の第1穴と夫々対応する位置に複数個の先細形状の第2穴を刻設した第2円盤と、対応する一対の第1及び第2穴によって形成される空間内に配設した連結要素とを有している。該第1穴及び該第2穴の先細形状は、好適には、円錐形状である。一方、該先細形状は、多少凹状又は凸状を有する円錐形状とすることも可能である。又、該連結要素は、好適には、球体であり、且つ、更に好適には、鋼球である。しかしながら、適用場面によっては、該連結要素を楕円体などのその他の立体形状とさせることも可能である。この場合においては、駆動軸が駆動方向に回転されると、該カップリングを介して、対応するローラは駆動方向に回転され、該ローラが支持している車輪にブレーキがかけられて該ローラに駆動方向とは反対方向に反力が発生すると、該カップリングを介して駆動軸は軸方向であり且つローラに対して離れる方向にスラスト荷重を受ける。従って、このスラスト荷重を検知することにより制動力を測定することが可能である。
【0017】
本発明の別の実施例によれば、該カップリングは、各ローラの一端に突出するシャフトの周面上に軸方向に対して所定の角度で刻設した第1溝と、該駆動軸の一端部に設けた該シャフトを回転自在に収納することが可能な収納穴の周面上に該第1溝に対向して刻設した第2溝と、該第1溝と該第2溝とによって形成される空間内に配設した連結要素とを有している。該第1溝及び該第2溝は、好適には、断面が同一形状であり、且つ、更に好適には、両方とも、断面がほぼ半円形状である。従って、好適には、該第1溝及び該第2溝によって形成される空間は、断面がほぼ円形状である。該連結要素は、好適には、複数個の球体であり、該球体は、好適には、鋼球である。この場合においても、駆動軸が駆動方向に回転されると、該カップリングを介して、対応するローラは駆動方向に回転され、該ローラが支持している車輪にブレーキがかけられて該ローラに駆動方向とは反対方向に反力が発生すると、該カップリングを介して駆動軸は軸方向であり且つローラに対して離れる方向にスラスト荷重を受ける。従って、このスラスト荷重を検知することにより制動力を測定することが可能である。
【0018】
本発明のスラスト荷重検知式ブレーキテスタは、一対のローラを具備するBSテスタ及びマルチローラ型BSテスタの両方のタイプのBSテスタにおいて制動力検査を行うために適用することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ローラに付与される制動力をローラの軸方向におけるスラスト荷重として検知するものであるから、ローラを駆動回転させるための駆動力伝達経路とローラに制動力が付与された場合にローラに発生する反力をスラスト荷重として検知するための検知伝達経路とが分離されており、その結果、高精度で制動力の検査を行うことが可能である。更に、該検知伝達経路はローラを包含しておらず且つ小型且つ軽量であるから、本発明を適用したBSテスタは極めて軽量且つ小型の構成とすることが可能である。更に、本発明に基づくBSテスタは、一対のローラを具備するBSテスタのみならずマルチローラ型のBSテスタにも適用可能なものであるから汎用性が高い。
【0020】
更に、本発明によれば、車輪にブレーキをかけた場合に、該車輪が1本のローラのみに制動力を付与する場合であっても、その制動力を該1本のローラの軸方向スラスト荷重として適切に測定することが可能である。更に、本発明によれば、マルチローラ型BSテスタに適用された場合に、車輪がどのローラ上に支持されようとも、常に支持されているローラの軸方向のスラスト荷重として正確に制動力を測定することが可能であり、マルチローラ内のどのローラに車輪が支持されるかによって誤差が発生することはない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】車検などのために所定の項目を検査する検査システムを示した概略図。
【図2】一対のローラを具備する典型的な従来のBSテスタにおける制動力を検査する構成を示した概略斜視図。
【図3】典型的な従来のマルチローラ型BSテスタにおける制動力を検査する構成を示した概略図。
【図4】本発明の1実施例に基づくブレーキテスタの構成を示した概略図。
【図5】図4におけるA部の概略拡大図であって、制動力による反力をスラスト荷重として検知するメカニズムを示した概略図。
【図6】図4のブレーキテスタにおけるスラスト荷重の伝達経路を示した概略図。
【図7】本発明の1実施例に基づいて構成されたブレーキテスタの概略平面図。
【図8】図7に示したブレーキテスタにおけるカップリングの詳細な構成を示した概略図。
【図9】(A)及び(B)は図7に示したブレーキテスタにおけるカップリングの一対の対向した円盤を夫々示した各概略図。
【図10】図7に示したブレーキテスタにおけるカップリングにおいてのテーパー角度とスラスト荷重との関係を説明するための概略図。
【図11】本発明の別の実施例に基づくブレーキテスタの構成を示した概略図。
【図12】(A)及び(B)は、夫々、図11内のA部の詳細を示した概略側面図及び概略端面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための形態について具体的な実施例を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の1実施例に基づくブレーキテスタ10を図4に概略的に示してある。尚、このブレーキテスタ10は、例えば、図1に示した前輪BSテスタ2b及び後輪BSテスタ2cのいずれにおいても制動力を検査するための構成として組み込むことが可能であることに注意すべきである。
【0024】
図4に示されているように、ブレーキテスタ10は、複数個(図4においては4個)のローラ11を有しており、各ローラ11はブレーキテスタ10のフレーム(不図示)に回転自在に取り付けられている。これらのローラ11は、隣接する一対のローラ11間において検査すべき車輪1a又は1bを回転自在に支持することが可能であるような間隔に設定されている。各ローラ11は、その一端部において突出しており且つ回転軸を構成するシャフト12が設けられており、各シャフト12の先端部には第1円盤13が設けられている。後に詳細に説明するように、第1円盤13の表面上にはその中心周りに円周方向に互いに離隔して複数個の先細形状(好適には、円錐形状)をした第1穴13aが刻設されている。第1円盤13に対向して第2円盤14が配設されており、第2円盤14の表面上には複数個の第1穴13aに夫々対向して複数個の先細形状(好適には、円錐形状)をした第2穴14aが刻設されている。従って、各第1穴13aとそれに対応する第2穴14aとによって受納空間が形成されており、該受納空間内に連結要素としての球体15が配設されている。尚、球体15は、好適には、鋼球とすることが可能である。
【0025】
第2円盤14は対応する駆動軸16に設けられており、隣接する一対の駆動軸16はそれらに設けられている歯車又はスプロケット(不図示)等を介してエンドレスチェーン又はベルト17によって互いに同期回転すべく連結されている。各駆動軸16の他端部はユニバーサルジョイント又はアンギュラー軸受19等を介して検出プレート18に回転自在且つ揺動自在に連結されている。検出プレート18は、ブレーキテスタ10のフレーム(不図示)上に装着した一対の直動ガイドレール上に図4中左右方向に移動可能であるように設けられている。そして、検出プレート18の外側表面上にはロードセル21が装着されている。ロードセル21に対向してブレーキテスタ10のフレーム(不図示)上に装着した支持体22が配設されている。
【0026】
更に、検出プレート18の一端部とブレーキテスタ10のフレーム(不図示)上に装着した係止体23との間に復帰スプリング24が配設されており、従って検出プレート18は常時図4において左側方向、即ちローラ11に近接する方向に復帰力が付与されている。この復帰スプリング24による復帰力によって、第1円盤13と第2円盤14とは常時近接する方向に力を受け、通常は、第1円盤13と第2円盤14とは最近接位置又は接触状態に維持される。又、検出プレート18から所定距離の位置にストッパ25が配設されており、ストッパ25はブレーキテスタ10のフレーム(不図示)上に装着されている。このストッパ25は、検出プレート18がローラ11側から離れる方向に変位する場合の移動距離を制限するものであって、ロードセル21に付与されるスラスト荷重が過剰となってロードセル21が破壊されることを防止する。
【0027】
又、駆動軸16の内の一つ(図4の例においては、図中最も上側の駆動軸16)とギヤボックス26の駆動軸16´との間にエンドレスチェーン又はベルト17´が歯車等を介して掛け渡されており、更に、ギヤボックス26の駆動軸16´はギヤボックス26内の歯車列(不図示)を介してモータ等の駆動源27へ駆動連結されている。従って、図4の実施例においては、駆動源27によってギヤボックス26を介して駆動軸16´が所定の方向(駆動方向)に駆動回転され、更に、複数個のエンドレスチェーン又はベルト17を介して夫々の駆動軸16が所定の方向に駆動回転される。そして、第1円盤13と、第2円盤14と、それらの間に介在されている連結要素としての球体15とによって所謂カップリング28(図5参照)が構成されており、各駆動軸16の所定の方向への回転は、対応するカップリングを介して対応するシャフト12へ伝達され、従って対応するローラ11が所定の方向(駆動方向)へ駆動回転される。
【0028】
次に、図4と共に図5及び図6をも参照して、図4に示したブレーキテスタ10の動作について説明する。尚、図5は、図4中のA部を拡大して図示したものであって、駆動方向に駆動回転されているローラ11にその上に支持されている車輪1a(1b)にブレーキを踏んで制動力を付与した場合にローラ11に発生する反力によって駆動軸16が軸方向に変位してスラスト荷重を発生する状態を示している。即ち、図5(A)に示されているように、駆動源27によって駆動軸16が駆動方向Dに駆動回転されると、カップリング28は復帰スプリング24の復帰力によって所謂「閉じた状態」(即ち、第1円盤13と第2円盤14とが最も近接した状態)に維持されており、その結果、対応するローラ11はそのシャフト12を介して同じく駆動方向Dに駆動回転される。それにより、一対のローラ11上に支持されている車輪1a又は1bは駆動方向d(図2参照)に回転される。
【0029】
その状態において、車輪1a又は1bにブレーキをかけて制動力を付与すると、図5(B)に示したように、ローラ11及びそのシャフト12にはその制動力による反力が反力方向Rに印加される。この場合に、反力方向Rは駆動方向Dと反対方向であるから、第1円盤13と第2円盤14とは、それらの先細形状の第1穴13a及び第2穴14a及びそれらの間の収納空間内に配設されている連結要素としての球体15との相互作用によって、互いに離れる方向に変位する(この場合には、シャフト12は軸方向に変位しないが、駆動軸16がシャフト12に対して離れる方向に変位する)。その結果、カップリング28は所謂「開いた状態」(即ち、第1円盤13と第2円盤14とが最も近接した状態ではなく互いに離れた状態)となり、駆動軸16がシャフト12と相対的に軸方向に変位され、従って駆動軸16にはその軸方向にスラスト荷重が発生する。後に詳述する如く、このスラスト荷重を検知することによって、ローラ11に付与された制動力を測定することが可能である。
【0030】
次に、図6を参照して、本発明の1実施例に基づくブレーキテスタ10において、どのように制動力が測定されるかについて説明する。図6に示されているように、駆動源27からの回転駆動力はギヤボックス26及びエンドレスチェーン又はベルト17を包含するチェーン連結機構を介して各駆動軸16へ伝達され、第1円盤13と第2円盤14と球体15とからなるカップリング28を介して対応するシャフト12及びローラ11を駆動方向Dへ回転駆動させる。車輪1a又は1bにブレーキをかけて制動力を付与すると、その車輪1a又は1bに接触しているローラ11には駆動方向とは反対方向の反力方向Rに反力が発生し、その結果、カップリング28は閉じた状態から開いた状態となり、対応する駆動軸16をスラスト方向、即ち軸方向でローラ11から離れる方向、へ変位させ、駆動軸16は検知プレート18に連結されているので、検知プレート18もスラスト方向へ変位される。検知プレート18と固定設置されている支持体22との間にはロードセル21が配設されているので、この検知プレート18のスラスト方向の変位はロードセル21によってスラスト荷重として検知される。この様に、本発明によれば、駆動源からの駆動力を各ローラ11へ伝達させるチェーン又はベルトによる連結機構とは独立して、各ローラ11に発生する反力をそのローラに対応する駆動軸16のスラスト変位又は荷重として検出するものであるから、制動力を安定して且つ正確に測定することが可能である。
【0031】
次に、図7乃至図9を参照して、上述した本発明の1実施例に基づいて構成された具体的な例としてのブレーキテスタ30について説明する。図7に示されているように、ブレーキテスタ30は、その上に検査すべき車輪1a又は1bを支持可能なローラ31を有している。図7においては、簡単化のために、単に1本のローラ31のみを示しているが、実際には、この様なローラ31は互いに所定間隔離隔して複数本が並置して配置される。ローラ31の一端部にはシャフト32が突設されており、シャフト32は、ブレーキテスタ30のフレーム(不図示)に装着されているピロー41によって回転自在に支承されている。シャフト32の先端部には第1円盤33が取り付けられており、第1円盤33はキー結合によってシャフト32と一体的に回転可能であるように取り付けられている。図9(A)に最も良く示されているように、第1円盤33の表面上にはその中心周りに円周方向に離隔して8個の第1穴33aが設けられている。各第1穴33aは、図8に示されているように、その断面が、大略、円錐形状をしている。
【0032】
第1円盤33に対向して第2円盤34が配置されており、第2円盤34は駆動軸36と一体的に形成されている。図9(B)に最も良く示されているように、第2円盤34の表面上には、その中心周りに円周方向に離隔して、8個の第1穴33aと対向して夫々8個の第2穴34aが設けられている。各第2穴34aは、図8に示されているように、その断面がほぼ円錐形状であり、且つ第1穴33aと第2穴34aとは実質的に同一形状である。従って、一対の対向する第1穴33aと第2穴34aとで収納空間を形成しており、その収納空間内には連結要素としての球体35が収納されている。この球体35は、好適には、鋼球とすることが可能である。尚、図8に示されているように、この具体例における第1穴33a及び第2穴34aは各々30度のテーパ角度を有する円錐形状をしている。ここで、第1穴33aと、第2穴34aと、球体35とでカップリングを構成しており、第1円盤33と第2円盤34とはこのカップリングを介して同期的に回転する構成とされている。
【0033】
尚、第2円盤34には、図9(B)に示されているように、円周方向に隣接する一対の第2穴34aの間にスプロケット42を第2円盤34に取り付けるための取り付け穴34bが設けられている。従って、スプロケット42は、図7に示されているように、第2円盤34へ8個のボルト43によって取り付けられている。スプロケット42にはエンドレスチェーン37が係合されており、エンドレスチェーン37は隣接する一対のローラ31の夫々のスプロケット42に掛け渡されている。
【0034】
更に、駆動軸36は、一対のアンギュラー軸受44,44によって回転自在に支承されており、これらのアンギュラー軸受44,44は軸受支持体45によって固定保持されており、且つ軸受支持体45はボルト46によって検出プレート38に装着されている。検出プレート38の反対側の面上にはロードセル51がボルト止めされている。
【0035】
尚、図7には図示されていないが、検出プレート38は復帰スプリング(不図示)等によって常時ローラ31に向かって復帰力が付与されており、従って、図7に示されているように、検査すべき車輪1a又は1bによってローラ31に制動力が付与されない場合には、第1円盤33と第2円盤34とは最も近接した状態にある。一方、検査すべき車輪1a又は1bにブレーキをかけて制動力を付与した場合には、その制動力の反力がローラ31に発生し、その反力の回転方向(反力方向)は、チェーン37を介して駆動軸36に付与される駆動力の回転方向(駆動方向)とは反対方向である。従って、その場合には、球体35が第1穴33a及び第2穴34aの円錐形状の表面を競り上がる傾向となり、その結果第1円盤33と第2円盤34とは上記最近接状態から互いに一層離れた状態となる。その結果、ローラ31は軸方向に変位することが無いので、駆動軸36がローラ31に対して離れるようにその軸方向へ変位し、その軸方向変異はアンギュラー軸受44及び検出プレート38を介してロードセル51へ伝達される。この様にして、ローラ31に発生した反力はローラ31の軸方向におけるスラスト荷重としてロードセル51によって検知することが可能である。
【0036】
上述した実施例においては、ローラ11(31)に発生する制動力の反力を軸方向にスラスト荷重として取り出す上で、第1穴13a(33a)及び第2穴14a(34a)の夫々の円錐形状を定義するテーパー角度の果たす役割が重要である。本発明においては、このテーパー角度は、基本的には、0度〜90度の間の角度に設定することが可能なものであるが、好適には、復元性や検出精度などを考慮すると、15度〜45度の間の角度に設定するのが良い。そこで、具体例として、図10を参照して、テーパー角度を30度及び40度に設定した場合にカップリングにおける球体に発生するスラスト荷重Fについて計算してみると以下の通りである。尚、この場合に、以下の共通の条件を有するものと仮定する。
【0037】
(1)最大制動力: F=1000(daN)
(2)ローラ径: d=φ117(mm)
(3)鋼球中心径: d=80(mm)
そこで、テーパー角度α=30度の場合についてスラスト荷重Fを以下に計算する。
【0038】
ローラ軸トルクT
=F×d/2=1000×117/2=585×10(Nmm)
鋼球にかかる荷重F
=T/(d/2)=585×10/(80/2)=14625(N)
鋼球に発生するスラスト荷重F
=F×cos(α)=F×cos(90°−α)×cos(α
=14625×cos(90°−30°)×cos(30°)
=6332.8(N)
一方、テーパー角度α=40度の場合についてスラスト荷重Fを計算すると以下の通りである。
【0039】
ローラ軸トルクT
=F×d/2=1000×117/2=585×10(Nmm)
鋼球にかかる荷重F
=T/(d/2)=585×10/(80/2)=14625(N)
鋼球に発生するスラスト荷重F
=F×cos(α)=F×cos(90°−α)×cos(α
=14625×cos(90°−45°)×cos(45°)
=7312.5(N)
従って、テーパー角度αを増加させることにより、取り出されるスラスト荷重Fは増大されることが理解される。
【実施例2】
【0040】
次に、ローラに発生する反力をスラスト荷重として取り出すことが可能な本発明の別の実施例に基づいて構成されたブレーキテスタ60の原理について図11及び12を参照して説明する。ブレーキテスタ60は、互いに離隔して並置された複数個のローラ61を有している(図11においては、簡単化のために1本のローラのみ図示してある)。ローラ61の上に検査すべき車輪1a又は1bを支持することが可能である。ローラ61の一端部には円柱状のシャフト62が一体的に突設されている。シャフト62の周面上には、シャフト62の中心軸に対して所定の角度傾斜した第1溝62aが刻設されている。
【0041】
一方、シャフト62の先端部分は駆動軸66に形成された円柱状の収納穴66b内に収納されている。シャフト62と駆動軸66とは、基本的に、相対的に回転自在である。収納穴66bの周面上には、第1溝62aと対向して第2溝66aが刻設されており、これらの第1溝62aと第2溝66aとが一体となって両者間に係合空間69を形成している。そして、この係合空間69内に複数個の球体(好適には鋼球)65が収納されている。従って、シャフト62と駆動軸66とは相対的に回転自在ではあるが、係合空間69内に収納されている複数個の球体65の数によってその相対的な回転範囲が制限されることとなる。従って、第1溝62aと、第2溝66aと、複数個の球体65とでシャフト62と駆動軸66との間のカップリングを構成している。
【0042】
尚、図12は、図11のA部の詳細図であり、(A)はA部の概略側面図であり、(B)はA部の概略端面図である。図11に示されているように、駆動源(不図示)からの回転駆動力が駆動軸66に対して駆動方向Dに付与されると、カップリングを介して、この回転駆動力はローラ61に伝達され、従ってローラ61も駆動方向Dに回転される。その結果、ローラ61上に支持されている車輪1a又は1bもローラ61の回転によって回転される。そして、車輪1a又は1bにブレーキをかけて制動力を発生させると、その反力が反力方向R(駆動方向Dとは反対方向)においてローラ61上に発生する。
【0043】
すると、図12(A)及び(B)に示したように、このローラ61上に発生した反力Rは、カップリングにおける球体65によって、駆動軸66に付与される回転力Fと駆動軸66に付与されるスラスト荷重Fとを発生させる。このスラスト荷重Fをロードセル(不図示)によって検出することにより制動力を測定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は車検等の自動車等の乗り物の所定項目を検査する検査装置における制動力を測定するための装置として使用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
10:ブレーキテスタ
11:ローラ
12:シャフト
13:第1円盤
13a:第1穴
14:第2円盤
14a:第2穴
15:球体(連結要素)
16:駆動軸
17:エンドレスチェーン又はベルト
18:検出プレート
19:ユニバーサルジョイント又はアンギュラー軸受
20:直動ガイド
21:ロードセル
24:復帰スプリング
26:ギヤボックス
27:駆動源(モータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その上に検査すべき車輪を支持することが可能な少なくとも2本の第1及び第2ローラが設けられており、第1及び第2ローラの各々はカップリングを介して対応する駆動軸に連結されており、該駆動軸は駆動源に連結されていて該駆動源によって所定の方向に駆動回転され、該車輪に制動力が付与された場合に前記第1及び第2ローラの内の少なくとも一つに前記所定の方向とは反対方向に反力が発生し、その結果前記カップリングによって前記駆動軸がその軸方向に変位されてスラスト荷重を発生し、そのスラスト荷重をロードセルによって検知して制動力を測定することを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項2】
請求項1において、前記第1及び第2ローラの夫々に対応する第1及び第2駆動軸が互いにエンドレスチェーンで連結されていることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項3】
請求項2において、前記第1及び第2駆動軸上に夫々スプロケットが装着されており、前記エンドレスチェーンが該スプロケットに掛け渡されていることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項4】
請求項1乃至3の内のいずれか1項において、前記駆動源がモータを包含していることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項5】
請求項1において、前記駆動軸の各々はアンギュラー軸受又はユニバーサルジョイントを介して検出プレートへ連結されており、前記検出プレートは、前記第1及び第2ローラの軸方向と平行な方向に移動可能であるように直動ガイドに支持されていることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項6】
請求項5において、前記検出プレートを常時前記第1ローラ及び第2ローラへ向かって復帰力を付与する復帰機構が設けられていることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項7】
請求項1において、前記各ローラの一端部には第1円盤が設けられており、且つ前記各ローラに対応する駆動軸には前記第1円盤と対向して配置されている第2円盤が設けられており、前記第1及び第2円盤の対向配置された各表面上には円周方向に離隔した先細形状の第1穴及び第2穴が夫々複数個設けられており、且つ一対の対応する第1穴及び第2穴によって画定される空間内には連結要素が配置されていることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項8】
請求項7において、前記連結要素が球体であることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記先細形状が円錐形状であることを特徴とするスラスト荷重検知式ブレーキテスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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