説明

セメントの製造方法

【課題】セメント製造工程からの排ガス中の水銀濃度を低減できるセメント製造方法を提供する。
【解決手段】セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に戻すセメント製造工程において、(A)集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出することにより排ガス中の水銀の濃度を低減する工程と、(B)工程(A)において、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出した集塵ダストを排煙脱硫用の石灰石の一部として使用することにより得られる排煙脱硫石膏を、セメント仕上げ用石膏として利用する工程と、を含むことを特徴とするセメントの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造工程の排ガス中の水銀濃度を効率的に低減するセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造では、石灰石、粘土、珪石、鉄源等の主原料以外に、資源の有効利用の面から、各種産業廃棄物および副産物も原燃料として利用されている。これらの産業廃棄物および副産物の中には重金属を比較的多く含むものもあり、セメント製造工程内に持ち込まれる重金属類の量が増加することが予想される。セメント製造工程内に持ち込まれる重金属類の中で、水銀のように揮発性の高い重金属はセメント製造工程内の高温部で排ガス中に蒸発し、その後、ガス温度の低い集塵機付近でダスト表面に凝縮する。集塵ダストは、集塵機内で捕集された後、セメント原料の一部として再度セメント焼成設備に戻されるが、ダストに凝縮されずに排ガスとして一部排出されることもある。
【0003】
これまでに、セメント製造工程の排ガスからダストを集塵機で捕集し、捕集した集塵ダストをセメント焼成後のクリンカ粉砕工程に投入し、またはクリンカ粉砕物に投入することにより、外部に放出される排ガス中の揮発性金属成分の濃度を低減する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、集塵ダストに含まれる塩素等の成分は、使用原料やキルン運転条件等によって変動するものであり、クリンカに直接添加することはセメントの品質変動を招く恐れがある。例えば、セメント焼成設備内で揮発した塩素化合物が集塵ダストに含まれることから、集塵ダストを直接クリンカに添加したセメントを用いたコンクリートは長期強度が低下することや、内部鉄筋の発錆によるコンクリートの剥落等の恐れがあり、コンクリート構造物の長期耐久性の低下も懸念される。このように、集塵ダストをクリンカ粉砕工程へ直接投入する処理方法は、セメントコンクリートの品質を確保する上で実用上好ましいと言えるものではない。
【0004】
また、セメント製造工程の排ガスから捕集した集塵ダストを加熱炉に導き、集塵ダストに含まれる揮発性重金属を揮発温度以上に加熱して揮発性重金属をガス化して除去し、揮発性重金属を除去した集塵ダストをセメント原料の一部に使用する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法は、揮発性重金属以外の本来加熱を要しない多量の固形分を加熱するため、加熱炉の容積および熱エネルギーの使用量の面から、不経済であると指摘されている。また、この方法では、多大な設備コストがかかるという問題や、環境への負荷の増大という問題を避けることができない。
【特許文献1】特開2002−284550公報
【特許文献2】特開2002−355531公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術に鑑み、本発明は、セメントの品質を低下させることがなく、また運転コストおよび設備コストの増大を十分に抑えながら、セメント製造工程から排出される浄化排ガス中の水銀濃度を効果的に低減できるセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、セメント製造排ガス処理工程において、水銀の含有量が多い集塵ダストの一部をセメントクリンカ製造工程の系外へ排出し、セメントクリンカ製造工程内の水銀循環量を減らすことにより、浄化排ガス中の水銀の濃度を低減させること、ならびにセメント製造工程の系外に排出される集塵ダストの主成分が炭酸カルシウムであること、および集塵ダスト中の塩素が可溶性であることに着目し、石炭火力発電所または製鉄所等(以下、石炭火力発電所等という)で使用される排煙脱硫剤として石灰石と混合使用することにより、セメントの製造において有効に活用できる排煙脱硫石膏として再生させ、セメント仕上げ用石膏として再利用できることを見出し、集塵ダストの処理方法を含む本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に戻すセメント製造工程において、(A)集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出することにより排ガス中の水銀の濃度を低減する工程と、(B)工程(A)において、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出した集塵ダストを排煙脱硫用の石灰石の一部として使用することにより得られる排煙脱硫石膏を、セメント仕上げ用石膏として利用する工程とを含むことを特徴とするセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、集塵機が電気集塵機である上記のセメントの製造方法に関する。
また、本発明は、工程(A)において、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出する集塵ダストが、集塵機下流側荷電区で捕集されるダストである、上記のセメントの製造方法に関する。さらに、集塵機下流側荷電区が、最上流側荷電区で捕集されるダストの水銀含有量の20倍以上となる水銀含有量のダストが捕集される荷電区である、上記のセメントの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るセメントの製造方法は、セメントの品質を低下させることがなく、また運転コストおよび設備コストの大幅な増加もなく、セメント製造工程からの浄化排ガス中の水銀濃度を効率的に低減できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳しく説明する。本発明のセメントの製造方法は、セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ(SP)上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に戻すセメント製造工程において、セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガス中のダストを集塵機内で捕集し、捕集した集塵ダストの一部をセメント製造工程の系外に排出することにより、セメントクリンカ製造工程内を循環する水銀量を減らし、その結果として、浄化排ガス中の水銀濃度を低減させることができる。
【0010】
一方で、石炭火力発電所等では、排ガス中の硫黄酸化物を除去するために、石灰、消石灰および石灰石等の脱硫剤が使用されているが、排煙脱硫工程における副産物として排煙脱硫石膏が副生する。また、セメント製造の仕上げ工程では、セメントの硬化速度を制御するために、石膏がクリンカ粉砕工程時に添加されている。ここで、セメント仕上げ添加時に使用される石膏としては、リン酸石膏、フッ酸石膏及び排煙脱硫石膏などの副生石膏が使用されており、排煙脱硫石膏が使用されることが比較的多い。また、集塵ダストに含有される塩素の大部分は可溶性であるため、集塵ダストを排煙脱硫剤(スラリー)として使用すると、集塵ダスト中の塩素は排煙脱硫工程内で十分に洗い落とされる。そのため、副生する排煙脱硫石膏中には塩素は含まれることはなく、得られた排煙脱硫石膏をセメント仕上げ工程で添加しても、セメント中の塩素量増加によるセメントおよびコンクリートの品質低下を回避することができる。
【0011】
したがって、本発明により副生する集塵ダストの排煙脱硫石膏としての再利用は、セメントの品質を低下させることなく、また運転コスト及び設備コストが増大することもなく、セメントクリンカ製造工程からの浄化排ガス中の水銀濃度を効率的に低減することを可能とする。
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0013】
まず、本発明のセメント製造方法について図1を用いて説明する。図1は、本発明によるセメント製造方法を実施するためのセメント製造設備の例を示す概略図である。図1において、実線は、原料及び集塵ダストの経路を示し、点線は、ガスの経路を示す。
【0014】
図1に示すように、セメント製造設備100において、石灰石、粘土、珪石、鉄源の他各種廃棄物等の原料からなる調合原料は、原料ミル2で乾燥粉砕される。原料ミル2からの排ガスは粉砕された調合原料およびセメント焼成設備からのダストを少量含み、この排ガスは、集塵機4に導入され、浄化排ガスと集塵ダストとに分離される。浄化排ガスは、煙突(図示せず)を経て大気に放出される。集塵ダストは、集塵ダスト移送ラインL1を経て調合原料と合さり、送入原料としてセメント焼成設備1に移送される。セメント焼成設備1では、送入原料が複数のサイクロンで予熱され、ロータリーキルン11に導入されて焼成された後、冷却されて排出される。こうしてセメントクリンカが得られる。
【0015】
一方、セメント焼成設備1から排出される排ガスは、排ガス移送ラインL3を経由し、原料ミル2と調湿塔3に導入されて冷却される。原料ミル2では、調合原料がセメント焼成設備1から排出される排ガスにより乾燥され、調湿塔3では、集塵機4の集塵効率を上げるためにガス温度および湿度が調整される。原料ミル2および調湿塔3から排出された排ガスは集塵機4に導入され、集塵機4で浄化排ガスと集塵ダストとに分離され、煙突(図示せず)を経て浄化排ガスが大気放出される。
【0016】
焼成設備1の上段に送入された原料はサイクロンを下降しながら予熱されるが、送入原料中の水銀は短期間で排ガス中に蒸発し、プレヒーター排ガスとして排出され、排ガス移送ラインL3を経由し、原料ミル2と調湿塔3に導入される。プレヒーター排ガス中の水銀は粉砕原料および調湿塔ダストに一部凝縮された後、残りの大部分の水銀は集塵機4に入る。集塵機4の温度は80〜120℃であるので、水銀のほとんどは集塵ダストに凝縮される。また、調湿塔ダストは、調合原料と合わさり、セメント焼成設備1に移送される。
【0017】
一例として、調合原料の水銀濃度は、0.01〜0.26mg/kgであり、煙突から排出される浄化排ガスの水銀濃度は、0.01〜0.20mg/Nm3である。また、集塵ダストの水銀濃度は0.1〜10mg/kgである。しかし、これらの水銀濃度値は、調合原料および操業条件によって変化するものであるため、これらの値には限定されない。
【0018】
このように、セメント製造工程内の水銀の大部分はサスペンションプレヒータ上部から集塵機の間で蒸発および凝縮を繰返しながら循環する。このため、集塵ダスト排出ラインL2により集塵ダストの一部をセメントクリンカ製造工程の系外に排出することにより、製造工程内の水銀の循環量を効果的に減らすことができ、かつ浄化排ガス中の水銀濃度を効率的に低減することが可能となる。また、集塵ダストの系外に排出した残りは、調合原料と合さって送入原料としてセメント焼成設備1に再度戻される。
【0019】
ここで、セメント製造工程から系外に排出される集塵ダストの一部とは、集塵機から排出される集塵ダストの35質量%未満が好ましい。35質量%以上になると、貯蔵タンク容量およびロータリーバルブ容量等の設備コストや輸送コストがかかるため好ましくないからである。集塵機から排出される全ダストの量に対して、例えば16.6質量%のダストを集塵ダスト排出ラインL2によりセメント製造工程の系外に排出することにより、セメント製造工程外に排出される水銀濃度を約20質量%減らすことが可能となる。
【0020】
本発明に係る集塵機として、例えば電気集塵機またはバグフィルタなどが挙げられるが、大量の排ガスを処理できるという点で電気集塵機が望ましい。図2に電気集塵機の概略を示す。排ガスは上流側(図2:1区)から導入されて、次いで各区でダストが捕集されて、最終的に浄化排ガスは下流側(図2:5区)から排出される。なお、本明細書では、集塵機内部のガスの流れに沿って、原料ミル2および調湿塔3から排出される排ガスを導入する入口側を「上流側」とし、浄化排ガスを排出する出口側を「下流側」とする。
【0021】
セメント製造工程から排出される集塵ダストは、集塵機下流側荷電区で捕集されるダストであることが好ましい。本明細書において、「集塵機下流側荷電区」とは、最上流側荷電区で捕集されるダスト中に含有される水銀量の10倍以上となる水銀量を含有するダストが捕集される荷電区をいう。また、本明細書において、「最上流側荷電区」とは、集塵機入口に最も近い荷電区をいう(例えば、図2における1区)。また、本発明において、集塵機下流側荷電区は、最上流側荷電区で捕集されるダストの20倍以上の水銀含有量のダストが捕集される荷電区であることが好ましく、30倍以上の水銀含有量のダストが捕集される荷電区であることがより好ましい。なお、集塵機下流側荷電区で捕集される集塵ダストは、全荷電区で捕集される集塵ダストの15重量%以下である。
【0022】
集塵機下流側荷電区で捕集される水銀含有量が多い集塵ダストを、選択的に系外へ排出することにより、効率的にセメント製造工程内を循環する水銀濃度を減らすことができる。例えば、図2において、電気集塵機4の水銀含有量の多い下流側(図2:4区および5区)の集塵ダストをセメント製造工程の系外へ排出し、水銀含有量の少ない上流側(図2:1〜3区)の集塵ダストを再びセメント製造工程内に戻すことにより、効率良く水銀を処理することが可能である。
【0023】
集塵ダスト排出ラインL2により排出された集塵ダストは、サイロ6に貯蔵された後、セメント工場から一旦搬出され、石炭火力発電所等において石灰石と混合した後、石炭火力発電所等の脱硫剤として排煙脱硫装置に投入される。セメント工場には、石炭火力発電所等から石炭灰が頻繁に搬入されている。したがって、排煙脱硫剤の一部として有効利用される集塵ダストを、石炭灰を搬入した車の返車で石炭火力発電所等へ搬出することができるため、輸送費が大幅に増えることはない。また、セメントクリンカ製造工程に集塵ダストを排出する設備と、排出された集塵ダストを貯蔵する貯蔵タンクとを設置するだけで良いため、多大な設備コストがかかるという問題もない。
【0024】
排煙脱硫剤は、石炭火力発電所における排煙脱硫工程の吸収塔でスラリーとして排ガスに噴霧され、安価な石灰石が使用されることが多い。一般に、石灰石は炭酸カルシウムの純度が95%以上で、酸化カルシウム含有量が53%以上のものである。排煙脱硫石膏の生成は、下式のように、石灰石中の炭酸カルシウムが排煙脱硫工程でSOを吸収して亜硫酸カルシウム半水和物となり、これが空気中で酸化されて硫酸カルシウム二水和物となる。このようにして得られた排煙脱硫石膏は、セメント仕上げ用石膏としてセメント仕上げ用ミル5でクリンカおよびその他の石膏等と混合粉砕される。
CaCO+SO+0.5HO→CaSO・0.5HO+CO
CaSO・0.5HO+0.5O+1.5HO→CaSO・2H
【0025】
本発明において、集塵ダスト排出ラインL2により排出され、サイロ6で貯蔵されていた集塵ダストを、排煙脱硫剤として石灰石と混合使用することにより、セメントの製造で有用な排煙脱硫石膏として再生させることができる。ここで、一般的な石灰石と同等の脱硫効果を得るために、石灰石と集塵ダストの混合物における炭酸カルシウム濃度が95%以上となるように、集塵ダストの配合量を調節することが望ましい。得られた排煙脱硫石膏の添加量は、通常用いられている石膏の添加量で仕上げミル5に添加する。
【0026】
集塵ダストには微量の塩素と水銀が含まれているが、スラリーとする際に塩素は十分に洗い落とされるため、得られた排煙脱硫石膏を添加して製造されるセメントの品質に影響を与えることはない。また、集塵ダスト中の水銀の大部分は不溶性であり、集塵ダストからの水銀溶出量は、0.0005mg/L以下を大幅に下回り、スラリー状にしても問題とならない。
【0027】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下に記載された値に限定されない。
【0028】
実機セメント工場におけるセメント製造工程内の原料、ダストおよびクリンカ中の水銀含有量を表1に示す。原料、ダストおよびクリンカ中の水銀含有量の測定は、JIS M 8821:2002「石炭類−全水銀の定量方法」の付属書3(加熱気化−金アマルガム捕集−加熱気化原子吸光方法)に準じて行った。
【0029】
電気集塵機の各荷電区で捕集した集塵ダスト中の水銀含有量を表2に示す。電気集塵機の作動条件を例示すると以下のとおりである。例えば、電気集塵機の荷電流設定値は、1区:300mA、2区:300mA、3区:250mA、4区:250mA、5区:200mAである。電気集塵機入口ガス温度は95℃であり、出口ガス温度は93℃である。ガス流量は1時間あたり450,000Nmであり、水分量は17.7%である。しかし、これらの条件は、単なる例示に過ぎず、本願の発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1に示すように、セメント製造工程内の原料およびダスト中の水銀含有量は電気集塵ダストで最も多く、クリンカで最も少なくなっている。セメント焼成設備に投入される送入原料中の水銀は、セメント焼成設備および電気集塵機までの経路内で蒸発し、セメントクリンカ製造工程内の低温部となる電気集塵ダスト上に凝縮し、濃縮されていることが分かる。このことから、電気集塵ダストの一部をセメントクリンカ製造工程の系外に排出することにより、セメントクリンカ製造工程内の水銀循環量を低減することができる。例えば、電気集塵ダストの33重量%を系外に排出することにより、セメントクリンカ製造工程外に排出される浄化排ガス中の水銀濃度を30%減らすことができる。
【0033】
また、表2に示すように、集塵機下流側の電気集塵ダスト中の水銀含有量はさらに多くなる。例えば、電気集塵機内で捕集されるダストの各荷電区での割合が、1〜2区の荷電区で85重量%、3区で10重量%、4区〜5区で5重量%である場合、集塵機下流側荷電区である4区および5区から排出される5重量%の電気集塵ダストのすべてを系外に排出することにより、セメントクリンカ製造工程外に排出される浄化排ガス中の水銀濃度を約45%低減することができる。したがって、集塵機下流側荷電区の電気集塵ダストを選択的に排出することにより、浄化排ガス中の水銀濃度を効率的に低減させることができる。
【0034】
石灰石の化学分析結果を表3に、電気集塵ダストの化学分析結果を表4に示す。石灰石および電気集塵ダストの化学分析(ig.loss〜KO)は、JIS M 8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」に準じて行った。電気集塵ダスト中の全炭素量および未燃炭素量は炭素硫黄分析計を用いて測定した。また、全炭素量から未燃炭素量を差し引いた炭素量を、炭酸カルシウム由来の炭素量と仮定し炭酸カルシウムの純度を推定した。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
表3に示すように、石灰石中の酸化カルシウム量は54.15%、全炭素量は11.82%と高く、炭酸カルシウムの純度としては99%と高いことが確認された。一方、表4において電気集塵ダスト中の全炭素量および未燃炭素量から推定した炭酸カルシウムの純度は70%程度であり、電気集塵ダストの主成分は石灰石(炭酸カルシウム)であった。電気集塵ダストを石灰石に10%添加した場合でも、炭酸カルシウムの純度は95%以上を保つことができ、排煙脱硫剤として使用可能な範囲であることが確認された。そして、得られる排煙脱硫石膏は、セメント仕上げ用石膏として十分に使用可能である。また、電気集塵ダスト中の水溶性塩素は0.30%程度検出されたが、排煙脱硫剤として用いる際に水洗処理されるので水溶性塩素は検出されなかった。
【0038】
例えば、セメント仕上げミル6で排煙脱硫石膏をクリンカ1トン当たり50kg添加する場合、必要とされる排煙脱硫剤はクリンカ1トン当たり約30kgである。また、集塵ダスト排出ラインL2より系外へ排出する電気集塵ダストの量をクリンカ生産量1トン当たり3kgとする場合、排煙脱硫剤中の電気集塵ダストの割合を10重量%とすれば、石灰石中の炭酸カルシウム純度を95%以上確保でき、かつ排出する電気集塵機ダスト全量をセメント仕上げ用排煙脱硫石膏としてリサイクルできる。
【0039】
本発明の方法おいて、従来すべてを循環させていた集塵ダストの一部を系外に排出し、さらに排煙脱硫剤として利用することにより、セメントクリンカ製造工程における水銀循環量を効率的に減らすことが可能である。また、集塵ダストを石炭火力発電所等における排煙脱硫剤の原料としても利用することが可能であり、さらに塩素を含まないセメント仕上げ剤としての石膏の原料としても用いることができるため、セメントの品質を低下させないという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本願発明のセメント製造設備の例を示す概略図である。
【図2】図2は、本願発明の電気集塵機の概略図である。
【符号の説明】
【0041】
100:セメント製造設備
1:セメント焼成設備
2:原料ミル
3:調湿塔
4:集塵機
5:仕上げミル
6:サイロ
L1:集塵ダスト移送ライン
L2:集塵ダスト排出ライン
L3:排ガス移送ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に戻すセメント製造工程において、
(A)集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出することにより排ガス中の水銀の濃度を低減する工程と、
(B)工程(A)において、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出した集塵ダストを排煙脱硫用の石灰石の一部として使用することにより得られる排煙脱硫石膏を、セメント仕上げ用石膏として利用する工程と、
を含むことを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項2】
集塵機が電気集塵機である、請求項1記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
工程(A)において、セメントクリンカ製造工程の系外へ排出する集塵ダストが、集塵機下流側荷電区で捕集されるダストである、請求項1または2記載のセメントの製造方法。
【請求項4】
集塵機下流側荷電区が、最上流側荷電区で捕集されるダストの水銀含有量の20倍以上となる水銀含有量のダストが捕集される荷電区である、請求項3記載のセメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−161415(P2009−161415A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3080(P2008−3080)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】