説明

セメントクリンカの製造方法

【課題】廃棄物の有効利用ができ、且つ低コストで、セメント硬化体の強度を改善することができるセメントクリンカの製造方法を提供する。
【解決手段】セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法において、前記セメント原料に、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンからなる群より選択される少なくとも1以上の金属を含む金属含有廃材を混合して焼成することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカは、石灰石や珪砂等を混合・粉砕したセメント原料を予熱した後、仮焼し、該仮焼された原料をロータリーキルンなどの焼成炉で焼成後、冷却することによって製造される。
近年、廃タイヤ、廃プラスチックなどの産業廃棄物等を、かかる焼成炉においてセメント原料の一部として、あるいは、燃料の一部として利用することが進められており、かかるクリンカ製造設備における種々産業廃棄物の処理は、リサイクルの観点からも要望されている(特許文献1および2)。
【0003】
一方、セメント用の混和材としてリチウムなどの金属を含む混和材がある(特許文献3および4)。かかる金属を含む混和材をセメント組成物中に配合することで、セメント硬化体の強度が向上することが知られている。
しかし、かかる金属を含む混和材は高価であり、また、セメントとは別に混和材を用意して、セメント組成物に混合しなければならず高コストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−272940号公報
【特許文献2】特開2010−269993号公報
【特許文献3】特開2010−269977号公報
【特許文献4】特開2010−150108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、廃棄物の有効利用ができ、且つ低コストで、セメント硬化体の強度を改善することができるセメントクリンカの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のセメントクリンカ製造方法は、セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法において、前記セメント原料に、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンからなる群より選択される少なくとも1以上の金属を含む金属含有廃材を混合して焼成することを特徴としている。
【0007】
本発明のセメントクリンカ製造方法によれば、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンからなる群より選択される少なくとも1以上の金属を含む金属含有廃材を、セメント原料に混合して焼成することで、前記のような金属を含有するセメントクリンカを得ることができる。
よって、かかるクリンカをセメントとして用いてセメント硬化体とした場合に、混和材を用いなくても強度に優れたセメント硬化体を得ることができる。
尚、金属含有廃材としては、前記金属を含有する材料であれば適宜使用できるが、例えば、廃棄する電気機器、電子機器、電気部品、電子部品などが使用できる。
具体的には、電池、携帯電話、パーソナルコンピュータなどの電気機器または電子機器や、電線、基板、電池モジュール、電池セル、半導体パッケージなどの、電気部品または電子部品などが挙げられる。
【0008】
前記金属含有廃材が、廃棄リチウムイオン電池であることが好ましい。
【0009】
廃棄リチウムイオン電池中には、リチウムの他、銅、コバルト、ニッケル、マンガンなどの各種金属が含有されているため、前記金属含有廃材として適切に使用することができる。また、廃棄物利用であるため低コストで、クリンカを製造できる。
さらに、廃棄リチウムイオン電池の処理も同時に行なえる。
【0010】
尚、本発明でいう廃棄リチウムイオン電池には、廃棄されたリチウムイオン電池パックの他、モジュール、セルなどの各種金属を含む電池の各構成部材を含む。
【0011】
本発明において、前記セメント原料を800℃〜1000℃に予備加熱した後であって焼成する前に、前記金属含有廃材を、前記セメント原料に混合することが好ましい。
【0012】
セメント原料が前記温度に予備加熱された後、焼成されるまでの間に、前記金属含有廃材を、セメント原料に混合してその後焼成炉で焼成することによって、よりセメント硬化体の強度改善効果が得られるセメントクリンカを製造することができる。
尚、本発明でいう予備加熱とは、焼成炉における焼成前にセメント原料を800℃〜1000℃になるまで予備的に加熱することをいい、多段サイクロンなどにおける熱交換による加熱の他、仮焼炉による仮焼も予備加熱に含まれる。
尚、本発明でいう焼成とは、前記予備加熱後のセメント原料を約1200〜1600℃になるまで加熱してクリンカとすることをいう。
【0013】
前記量の金属含有廃材をセメント原料に混合することで、より強度に優れたセメントクリンカを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃棄物の有効利用ができ、且つ低コストで、セメント硬化体の強度を改善できるセメントクリンカを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態におけるクリンカ製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態のセメントクリンカの製造方法は、セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法において、前記セメント原料に、金属含有廃材を混合して焼成することによって、セメントクリンカを製造する方法である。
本実施形態のセメントクリンカの製造方法の一例について、以下に説明する。
【0017】
本実施形態のセメントクリンカの製造方法は、セメント原料を調製する原料調製工程と、調製されたセメント原料を予備加熱する予備加熱工程と、予備加熱されたセメント原料を焼成してセメントクリンカとする焼成工程とを備える。
【0018】
まず原料調製工程について説明する。
原料調製工程では、まず、石灰石、粘土、珪石、鉄原料などの原料をミルを用いて粉砕する。
この時、各原料として、汚泥、スラッジ、高炉スラグ、焼却灰、鋳物砂、石炭灰、建設発生土などの各種産業廃棄物を混合してもよい。
各原料および産業廃棄物は、それぞれ所定の比率になるように混合粉砕した後に、混合槽に導入する。混合槽には攪拌用の空気を導入して内部の原料を空気によって攪拌することで均一なセメント原料となるように混合する。
混合されたセメント原料は原料サイロ中に貯留する。
【0019】
次に、セメント原料を予備加熱する予備加熱工程について、図1を用いて説明する。
図1は本実施形態で用いるクリンカ製造装置10の一部である、予備加熱装置4、焼成炉としてのキルン5及びクリンカクーラー7を示す概略図である。
まず、原料サイロ1に貯留したセメント原料を、多段サイクロン2a〜eと仮焼炉3とを備えた予熱加熱装置4を用いて、熱交換および仮焼によって予備加熱する。
【0020】
多段サイクロン2a〜eのうち、最上段のサイクロン2aに、原料サイロ1からのセメント原料を投入し、サイクロン内部でセメント原料と高温ガスとを熱交換し、順次下段のサイクロンへ移送し、下段のサイクロン2dを経て、仮焼炉3にセメント原料を移送する。
高温ガスは、後述するキルン5の窯尻5aから排出される排ガスであり、窯尻5aから排出された高温ガスをライジングダクト8を介してサイクロン内へ導入する。
【0021】
前記多段サイクロン2a〜eのうち、最上段のサイクロン内部の温度は約300〜400℃であり、下段のサイクロンにいくにつれてサイクロン内部の温度は高くなる。仮焼炉3の直前に設けられたサイクロン2dの内部は約800〜900℃である。
【0022】
仮焼炉3には、セメント原料を加熱して脱炭酸させるために仮焼炉内に石炭等の燃料を噴出させる導入するバーナーを設け、かかるバーナーで仮焼炉3内のセメント原料を加熱する。
仮焼炉の温度は通常約900〜1000℃である。
【0023】
仮焼炉3には、燃料とともに、廃タイヤ、廃肉骨粉などの産業廃棄物を燃料の一部として導入してもよい。
仮焼炉から排出されたセメント原料を、さらにサイクロン2eに導入して、該サイクロン2eにおいて仮焼炉3で仮焼された原料セメントと、高温ガスとを分離する。
【0024】
前記サイクロン2eにて分離されたセメント原料を、前記サイクロン2eの排出口とキルン入り口である窯尻5aを接続するシュート6内に導入する。
前記シュート6にはシュート内と外とを通じさせる開口6aが設けられており、該開口6aから金属含有廃材をシュート6内に投入し、シュート6内を移動するセメント原料と、金属含有廃材とを混合する。
【0025】
金属含有廃材はシュート内を移動する予備加熱後のセメント原料と混合して、混合セメント原料とするが、金属含有廃材を混合するときのセメント原料は約900〜1000℃程度の温度である。
【0026】
金属含有廃材としては、廃棄リチウムイオン電池を好ましく使用することができる。
リチウムイオン電池はリチウムの他に、通常、銅、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属を含んでいるため、クリンカに含有させるのに適した金属を供給することができる。
【0027】
一方、廃棄リチウムイオン電池の廃棄処理方法としても、複雑な手間をかけることなく、また、環境に負荷をかけることなく処理できるため好ましい。
尚、前記金属含有廃材を混合する量は、金属含有廃材の種類によって相違するが、例えば、金属含有廃材として、廃棄リチウムイオン電池を使用する場合には、クリンカ1tあたり、0.5〜10kg程度投入することが好ましい。
かかる程度の投入量であれば、セメント材料としての品質を損なうことなく且つセメントクリンカに十分に金属を含有させうる。
【0028】
また、前記金属含有廃材をサイクロン2eから排出されたシュート6内のセメント原料に混合する場合には、金属含有廃材を粉砕することなくセメント原料に混合しても、その後のキルンでの焼成工程においてセメント原料と混合されながら高温で焼成されるため十分にセメント原料と混合することができる。
【0029】
次に、焼成工程について説明する。
前記金属含有廃材とセメント原料とが混合された混合セメント原料を、シュート6から窯尻5aを通しキルン5内へ導入する。
キルン5には石炭などの燃料を噴出させるバーナーが設けられており、このバーナーによって約1400〜1500℃でキルン5内の混合セメント原料を焼成する。
【0030】
キルン5で焼成された混合セメント原料をキルン5からクリンカクーラー7へ移送し、クリンカクーラー7で焼成された混合セメント原料を冷却してセメントクリンカを製造する。
【0031】
冷却されたセメントクリンカは、さらに高炉スラグや、石膏などと混合し、ミルなどで粉砕してセメントとして製造される。
【0032】
前記金属含有廃材を予備加熱後であってキルンに導入前のセメント原料に混合することで製造されるセメントクリンカをセメント硬化体とした場合に、硬化体の強度が優れたものとなる詳細なメカニズムは不明であるが、前記予備加熱後のセメント原料の温度においてセメント原料と金属含有廃材とを混合することによって、セメントクリンカに適切な含有量の金属を含有させることができると考えられる。
【0033】
本実施形態の製造方法で製造されたセメントクリンカは、微量成分として、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属を一般的なセメントクリンカよりも多く含有している。
本実施形態の製造方法で製造されたセメントクリンカ中の各金属の含有量としては、例えば、リチウムについて30〜10,000ppm、銅については80〜20,000ppm、好ましくは80〜5,000ppm、コバルトについては5〜5,000ppm、ニッケルについては50〜25,000ppm、マンガンについては950〜5,000ppm、好ましくは950〜2,000ppm程度である。
前記各金属としては、前記各金属のうちのいずれか一種が含まれていてもよく、二種以上が混合されて含まれていてもよい。
尚、前記各金属の好ましい含有量は、各金属が単独で含まれている場合の量であって、二種以上が含まれている場合は、それぞれの好ましい含有量の合計の含有量の範囲であることが好ましい。
セメントクリンカ中の各金属の含有量が前記範囲であることで、セメント硬化体とした場合に強度に優れた硬化体を得ることができる。
【0034】
前記実施形態では、予備加熱工程として、多段サイクロンと仮焼炉とを備えた予備加熱装置(いわゆる、ニューサスペンションプレヒーター)を用いて、多段サイクロンでのセメント原料の加熱と、仮焼炉におけるセメント原料の仮焼とを実施したが、仮焼炉を備えていない多段サイクロンを備えた予備加熱装置(いわゆる、サスペンションプレヒーター)を用いて、予備加熱工程において、多段サイクロンでの熱交換による加熱のみを行ってもよい。
かかる場合には、予備加熱工程後、すなわちサイクロンからセメント原料が排出された後であって、該セメント原料をキルンへ導入する前に、セメント原料と金属含有廃材とを混合する。
【0035】
また、本実施形態で用いたいわゆる、ニューサスペンションプレヒーター又はサスペンションプレヒーターと呼ばれる多段サイクロンを備えたクリンカ製造装置において、多段サイクロンでの処理がなされた後のシュート内6のセメント原料に金属含有廃材を混合したが、金属含有廃材は、原料調製工程でセメント原料と混合してもよい。
この場合に、多段サイクロンでの予備加熱工程を実施する場合には、サイクロンに導入するために金属含有廃材を原料調製工程において予め粉砕することが好ましい。
【実施例】
【0036】
本実施例では、金属含有廃材をセメント原料に混合して、焼成することで製造したセメントクリンカをセメント硬化体に用いた場合の強度を調べた。
本実施例では、前記実施形態のクリンカ製造装置及び製造方法により、各試験例のクリンカを製造した。
【0037】
試験例1のセメントクリンカの製造方法について説明する。
まず、セメント原料として石灰石、粘土、珪石、鉄を用いて、表1に示す鉱物組成になるように混合したものを、多段サイクロンにて900℃に加熱した後、仮焼炉で1000℃に仮焼した。仮焼後のセメント原料をさらにサイクロンでガスと分離し、キルンへ移送した。
本実施例では、ロータリーキルンを用いた。
ロータリーキルンで1450℃で焼成した後に、クリンカクーラーで冷却してセメントクリンカを得た。
【0038】
試験例2のセメントクリンカは、前記試験例1のクリンカと同様に仮焼した後に、金属含有廃材としてリチウムイオン電池セルをセメント原料に混合した以外は試験例1と同様の方法で製造した。
【0039】
試験例1および2のクリンカの組成を表1に示す。
クリンカの組成としては、Bogue鉱物組成(質量%)および微量成分量(ppm)を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すとおり、リチウムイオン電池セルを投入した試験例2は、投入しなかった試験例1に比べて、鉱物組成には差がないものの、各微量金属元素は多くなっている。
【0042】
さらに前記表1に示す各セメントクリンカにセメントのSO3が2%となるように排脱二水石膏を添加し、平均ブレーン比表面積3450cm2/gとなるようにボールミルにて粉砕して表2に示す鉱物組成、および微量金属元素を含むセメントを得た。
【0043】
【表2】

【0044】
《凝結試験》
表2に示す試験例1および2の各セメントを用いて、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に基づいて凝結試験を行なった。
【0045】
《圧縮強さ試験》
強度試験は、前記表2のセメントを用いて、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に基づいて供試体を作製し、材齢3日、7日、28日の各供試体の圧縮強さ試験を行なった。
【0046】
各結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表3に示すとおり、試験例2は試験例1に対して、特に、3日目および7日目の初期強度が向上している。
【0049】
以上より、本実施例によって、金属含有廃材としてのリチウムイオン電池セルをクリンカ製造時にセメント原料に投入することにより、セメント硬化体としての圧縮強度が特に初期において向上することが確認できた。
また、凝結試験の結果から、リチウムイオン電池セルをクリンカ製造時にセメント原料に投入したセメントの凝結には特に影響を与えないことが確認できた。
【0050】
さらに、試験例2のセメントは、ポルトランドセメントのJIS品質規格(JIS R 5210)に規定する品質基準を満している。
【符号の説明】
【0051】
10 予備加熱装置、2a〜2e サイクロン、3 仮焼炉、5 キルン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法において、
前記セメント原料に、リチウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンからなる群より選択される少なくとも1以上の金属を含む金属含有廃材を混合して焼成することを特徴とするセメントクリンカの製造方法。
【請求項2】
前記金属含有廃材が、廃棄リチウムイオン電池である、請求項1に記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項3】
前記セメント原料を800℃〜1000℃に予備加熱した後であって焼成する前に、前記金属含有廃材を、前記セメント原料に混合する請求項1または2に記載のセメントクリンカの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23394(P2013−23394A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156779(P2011−156779)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】