説明

セメントクリンカー成分調整用シリカ粒子の製造方法

【課題】汚染されているか否かにかかわらず、組成の安定したセメント成分調整用のシリカ粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】篩粒径について、0.075〜5.0mmの範囲に閾値を設定し、採取した土壌を水洗し、次いで該土壌を篩分けし、該閾値よりも小さい粒径の細粒を分離し、該閾値以上の粒径の粗粒をセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設発生土などの土壌からセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の有害元素、例えば重金属や塩素などを含む汚染土壌を、洗浄及び焼成によって浄化し、得られた浄化土をセメントクリンカー原料として使用することが、従来から種々提案されている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3820437号
【特許文献2】特許第4118632号
【特許文献3】特開2004−323255号
【特許文献4】特開平11−35350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような方法で汚染土壌を浄化して再利用することは、資源の再利用という観点から極めて有意義であるが、その組成のバラツキが大きく、得られた浄化土をセメントクリンカー原料に使用するといっても、その使用量には限界がある。即ち、このような浄化土を多量に使用すると、セメントクリンカーの成分変動により品質が不安定になるおそれがあり、このため、一般に、他のセメントクリンカー原料に対して10%程度の配合量が上限である。
【0005】
また、上記の方法は、汚染されている土壌について適用されるが、当然、汚染されていない土壌も、セメントクリンカー原料として使用することができる。しかしながら、この場合においても、土壌の組成のばらつきが大きく、従って、セメントクリンカー原料としての使用量には限界があり、多量の使用は困難である。
【0006】
従って、本発明の目的は、汚染されているか否かにかかわらず、組成の安定したセメントクリンカー原料、具体的にはセメントクリンカー成分調整用のシリカ粒子を製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、特に建設発生土からセメントクリンカー成分調整用のシリカ粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、土壌からセメントクリンカー原料を製造する方法について多くの実験を行い研究した結果、土壌の粒子の粒径が大きいものはシリカ含量が多く、粒径の小さいものはシリカ含量が少ないという極めて興味ある知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明によれば、篩粒径について、0.075〜5.0mmの範囲に閾値を設定し、採取した土壌を水洗し、次いで該土壌を篩分けし、該閾値よりも小さい粒径の細粒を分離し、該閾値以上の粒径の粗粒をセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子とすることを特徴とするセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子の製造方法が提供される。
【0009】
本発明方法においては、
(1)採取する土壌が建設発生土であること、
(2)分離された前記細粒は、1000〜1200℃の温度で熱処理し、再生土として使用すること、
(3)100℃乾燥基準で50重量%以上の量のシリカを含有している土壌を採取して使用すること、
が好ましい。
【0010】
本発明において、前記土壌は、陸地の表面を覆っている層であり、一般的には土と呼ばれる層を意味する。即ち、土壌の表層から順に、植物の遺骸などが存在する有機物層、有機物が分解されて生じた黒色の層、岩石層の風化が進行した物質の層(風化層)があり、さらに、その下側に風化が進行していない岩石層があるが、本発明における土壌は、このような岩石層の上の領域に存在する部分である。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、一定の範囲に設定された閾値より粒径の小さな土壌の粒子を篩による分離し、篩に残った粒径の大きなものをセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子として使用する。即ち、このような篩残分は、篩を通過した小径の粒子に比してシリカ濃度が高く、この閾値を適宜の範囲に設定することにより、シリカ濃度が70%以上、特に80%以上の粒子が得られる。このような粒子はシリカ濃度が極めて高いため、セメント成分調整用シリカ粒子として使用することができるわけである。
【0012】
例えば、後述する実施例では、異なる場所から採取された3種類の土壌について、水洗を行ない、それぞれ、開口径が0.1mm、5.0mmの篩にかけ、0.1mm未満の粒径の粒子、0.1mm以上で5.0mm未満の粒径の粒子、及び5.0mm以上の粒径の粒子に分級し、各粒径の粒子について、組成分析を行った結果が示されている。この実験結果から理解されるように、何れの場所で採取された土壌においても、粒径が小さい粒子のシリカ(SiO)含量が少なく、粒径が大きくなるほど、シリカ含量が多くなっていることが判る。
【0013】
従って、上記の実験結果に基づいて、0.075〜5.0mmの範囲内で粒径についての閾値を設定し、篩により、該閾値未満の粒径の細粒を除去し、残ったシリカ分の多い粗大粒子をセメント成分調整用シリカ粒子として使用することができることが理解されよう。即ち、従来においても、建築土木現場などから発生する建築発生土を、適宜洗浄し、重金属イオンなどの汚染物質を除去した後に、セメントクリンカー成分調整用のシリカ粒子として使用することもあったが、何れも成分組成が不安定であり、シリカ分も少ないことから、使用量が限られていた。しかるに、本発明では、篩により粒径の大きな物を選択しているため、成分組成が比較的安定であるばかりか、シリカ含量が極めて多く(例えば70%以上、好ましくは85%以上)、このため、セメントクリンカー成分調整用のシリカ粒子として多量に使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、土壌を採取し、この土壌からセメントクリンカー成分調整用のシリカ粒子を製造するものである。
【0015】
既に述べたように、土壌は、岩石層の上に存在する部分であり、岩石や粘土が風化した無機物を含み、この無機物は大きな間隙を有しており、この無機物の間の空間に各種の塩類や有機物が含まれている。このような土壌の粒子は一般に互いに凝集して団粒構造を有している。また、上記のような無機物を含んでいるため、採取される場所によりバラツキはあるものの、成分としてシリカやアルミナ分を多く含んでいる。
【0016】
本発明において、上記のような土壌としては、一般に、建築現場や土木現場で発生する建設発生土が、資源の有効利用として好適に使用される。
また、本発明が最も好適に使用される土壌は、100℃乾燥基準でシリカ分が50重量%以上の比較的シリカリッチの土壌である。即ち、このようなシリカリッチの土壌を採取して使用することにより、後述する実施例に示されているように、シリカ含量が85重量%以上の純度の高いシリカ粒子を得ることができるからである。
【0017】
本発明においては、篩による分級に先立って、採取した土壌の水洗を行うものであるが、かかる水洗により、各種の有機物や塩類を除去し、また、重金属等により土壌が汚染されている場合には、このような重金属成分も水洗により除去され、さらには、塩素分も水洗により除去される。
さらに、かかる水洗により、粒子間の空隙に存在している有機物等が除去されるため、この土壌の塊はほぐされ、篩による分級が可能となる。
【0018】
土壌の水洗は、高圧ノズルを用いての水の噴霧、水中に土壌を投入しての攪拌等、土壌の処理量などに応じて適宜の手段を採用することができる。
また、土壌が大きな塊状物を含んでいる場合には、必要により、水洗に先立って、これを適度な大きさに解砕することもできる。
【0019】
尚、水洗の程度は、土壌が篩による分級が可能な程度にほぐされていればよい。
【0020】
また、水洗後の篩い分けは、乾燥を行うことなく直ちに行うことができ、例えば、水洗しながら湿式下で篩い分けをおこなうこともできる。
【0021】
本発明においては、上記の篩い分けに際しては、0.075〜5.0mmの範囲に閾値を設定し、この閾値に相当する開口サイズのメッシュを使用して篩い分けを行い、該閾値よりも小さい粒子を取り除く。
即ち、粒径の小さな土壌粒子はシリカ含量が少なく、粒径が大きいほど、シリカ含量が多い。従って、上記閾値よりもの粒径の少ない土壌粒子を除去することにより、シリカリッチの粒子を得ることができ、これを、セメントクリンカー成分調整用シリカ粒子として使用することが可能となるのである。
【0022】
本発明において、土壌粒子の粒径が大きいほどシリカ含量が多いという事実は、多くの実験の結果、現象として見出されたものであり、その理由は正確に解明されるには至っていない。しかしながら、土壌が岩石や粘土の風化により形成された層を含んでいるということから、本発明者等は次のように推定している。
【0023】
即ち、水洗されて有機物等が除去された土壌粒子の主成分は、シリカ及びアルミナを主成分とする。風化された岩石や粘土は、ケイ酸アルミニウム及びシリカを主成分とするものだからである。
ところで、このような岩石や粘土が風化されていく過程では、水分が浸透し、水可溶成分が徐々に溶出していく。この場合、大きな粒径の粒子では、粒子内の空間に浸透する水分量或いは該粒子に接触する水分量が多く、従って、水可溶成分であるアルミニウム成分は、小さな粒径の粒子に比して多く溶出する。この結果、粒径の小さな粒子では、アルミニウム成分の溶出が少なく、従って、シリカ含量とアルミニウム含量との量比にさほどの差は生じないが、粒径の大きな粒子では、アルミニウム成分の溶出が多く、アルミニウム含量の低下によりシリカ含量が増大することとなる。かくして、土壌粒子の粒径が大きいほどシリカ含量が多いと推定されるのである。
また、風化の過程においては、物理的な作用により、粒子が磨耗することがある。その場合、比較的硬度の高いシリカ成分を多く含む粒子は磨耗し難く、そのため、粒径の大きい土壌粒子ほどシリカ含有量が多くなるものと推定される。
【0024】
また、本発明において、粒径についての閾値を0.075〜5.0mmの範囲に設定することも重要である。
即ち、この閾値が0.075mmよりも小さな値に設定されると、分離されずに残った篩残分にも小粒径のシリカ含量の少ない粒子が含まれることとなり、セメントクリンカー原料の成分調整用のシリカ粒子として使用するには、シリカ含量が少なく、適当でない。また、閾値が5.0mmよりも大きな値に設定されると、篩残分として回収される粒子の量が著しく少なくなってしまい、コストの点で不利となるばかりか、シリカ含量もそれほど増大するわけではなく、工業的メリットがほとんどなくなってしまうからである。
本発明においては、可及的にシリカ含量の多い粒子を多く得るという観点から、0.075〜5.0mmの範囲内でできるだけ大きな値に閾値を設定することが好ましく、例えば3.0mm以上の範囲に、篩により除去する粒径を定める閾値を設定することが好ましく、特に篩残分の粒子のシリカ含量が85重量%以上となるように、採取する土壌を選択し且つ上記閾値を定めることが最適である。
尚、上記のシリカ含量は、100℃乾燥後の値である。
【0025】
かくして篩残分として得られるシリカリッチの粒子は、適宜乾燥した後、セメントクリンカー成分調整用のシリカ粒子として、他のセメントクリンカー原料と混合し、セメント焼成設備に供給しての焼成により、セメントクリンカーとして使用される。この場合、本発明により得られる粒子は、安定してシリカリッチであり、一般にシリカ原料として用いられる珪石と同様に使用することが可能である。
【0026】
また、本発明において、上記の篩い分けにより分離された細粒(即ち、前記閾値よりも小さな粒径の土壌粒子)は、再生土として、例えば埋立等に使用することが好適である。この場合、再生土として使用するに先立って、1000〜1200℃の温度で熱処理を行っておくことが好ましい。かかる熱処理により、環境に悪影響を与える重金属類や塩素成分を確実に揮散させることができるからである。
【実施例】
【0027】
本発明の優れた効果を次の実験例で説明する。
【0028】
<実施例1>
ある建築現場から採取した建設発生土を10kg用意し、これを下記条件で水洗した。
水洗条件;建設発生土10kgと水100kgとを容器に入れ、1時間攪拌した後、24時間静置し、上澄み水を除去した。
【0029】
上記の水洗により有機分が除去され且つほぐされた土壌(浄化土)を0.1mm開口のメッシュ及び5.0mm開口のメッシュを使用し、篩い分けを行い、0.1mm篩通過分の細粒(粒径:0.1mm未満)については1200℃で熱処理後に、0.1mm篩残分で且つ5.0mm篩通過分の中粒(粒径:0.1mm以上、0.5mm未満)及び5.0mm篩残分の粗粒(粒径5.0mm以上)についてはそれぞれ100℃で乾燥後に組成分析を行ったところ、その結果は以下の通りであった。
尚、1200℃熱処理後あるいは100℃乾燥後の細粒、中粒、粗粒の重量比は、細粒:中粒:粗粒=28:40:32であった。
【0030】

【0031】
<実施例2>
別の建築現場から採取した建設発生土を用いた以外は、実施例1と全く同様にして水洗及び篩い分けを行い、篩い分けされた各粒子について、組成分析を行った。その結果は、以下の通りであった。
【0032】

【0033】
<実施例3>
さらに別の建築現場から採取した建築発生土を用いた以外は、実施例1と全く同様にして水洗及び篩い分けを行い、篩い分けされた各粒子について、組成分析を行った。その結果は、以下の通りであった。
【0034】

【0035】
以上の実験結果から、土壌粒子の粒径の小さいものはSiO含量が少なく、粒径の大きいものほどSiO含量が多く、セメントクリンカー成分調整用のシリカ粒子として好適に使用できることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
篩粒径について、0.075〜5.0mmの範囲に閾値を設定し、採取した土壌を水洗し、次いで該土壌を篩分けし、該閾値よりも小さい粒径の細粒を分離し、該閾値以上の粒径の粗粒をセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子とすることを特徴とするセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
採取する土壌が建設発生土である請求項1に記載のセメントクリンカー成分調整用シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
分離された前記細粒は、1000〜1200℃の温度で熱処理し、再生土として使用する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
100℃乾燥基準で50重量%以上の量のシリカを含有している土壌を採取して使用する請求項1乃至3の何れかの製造方法。

【公開番号】特開2013−43818(P2013−43818A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184752(P2011−184752)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】