説明

セメントスラリーのためのレオロジー調整剤

【課題】固化したセメント中に補足される空気を最小にするために、セメント中に形成される泡が素早く消失するレオロジー調整剤であるポリマー組成物を提供する。
【解決手段】セメントスラリーのためのレオロジー調整剤としてa)多糖誘導体、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤;を含むポリマー組成物であり、多糖類誘導体はセルロースエーテル、シロキサンはポリジメチルシロキサン及び消泡剤はオキシアルキレンであるポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメントスラリーのためのレオロジー調整剤(rheology modifier)として有用なポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントスラリーは長きにわたって様々な目的のために使用されてきた。1969年という早い時期に公開された米国特許第3,483,007号は、特に、井戸セメンチング作業における水硬性セメント組成物を開示する。この水硬性セメント組成物は、流体損失(fluid loss)添加剤としてヒドロキシアルキルセルロースエーテルを含み、多孔性媒体への水硬性セメント組成物の流体損失を低減させる。このヒドロキシアルキルセルロースエーテルによって引き起こされる粘度の通常の増大は、存在する水の重量基準で10重量パーセント以上の塩化ナトリウムとの混合により低減される。セメントスラリーは防曇剤、例えば、2,000〜6,000の平均分子量を有するポリオキシアルキレングリコール、リン酸トリブチル、および液体シリコーンを含むことができる。
【0003】
建築産業界においては、下地(substrate)土の安定化を必要とする舗装、建物および駐車場構造物のために安定で剛性の基礎が必要とされる。この安定化は土とセメントとを組み合わせることによって達成されうる。セメントと土との組み合わせは、これに限定されないが、ソイルセメント、セメント処理基礎、セメント安定化土およびセメント処理土と称される。ソイルセメントの作成は土の立方単位あたりのセメントの特定量の添加を伴う。セメント処理土は次いで整地され、締め固められる。セメント処理土は次いで硬化させられ、それによりその粘性材料は時間の経過と共に強度および剛性を得る。
【0004】
ソイルセメントを作成する一方法は水性セメントスラリーを使用することである。微細なセメント粉体を使用することにより多量のダストが生じるので、この方法は乾燥セメントの使用よりも好ましい。セメントスラリーは下地土上に配置され、次いで機械的手段を用いて混合される。しかし、スラリー方法は使用に際して非常に問題があることが示されて来た。セメントスラリーは、タイミング良く取り出さなければ輸送車両内で固化するであろう。さらに、セメント自体は水との混合後ほとんどすぐに溶液から分離するかまたは沈降するであろう。水中で10%の低さの濃度であっても、セメントは数分以内に溶液から分離し始めるであろう。セメントスラリーをはじめとするセメントベースの材料の時期尚早の硬化を妨げるための化学的遅延の使用は当該産業界全体で充分に知られている。一般的な遅延化合物の1つは糖である。セメントスラリーにおける化学的遅延の使用は適用前の硬化の問題を低減させる傾向がある。しかし、それは、追加的に、セメントが溶液から分離する速度を増大させる傾向がある。
【0005】
ソイルセメントの代替法として、道路、駐車場およびほかの舗装領域のような構造物のための基礎を提供するために、フルデプス再生(full depth reclamation)と称されるプロセスが使用されうる。このプロセスはアスファルト面を挽き砕き、粉砕して、それを下にある上層路盤、下層路盤および/または路床材料とブレンドすることを伴う。この合わせた材料にセメントおよび水が添加され、安定化されたソイルセメントを作成するためにセメントが下地土に添加されうるのと同じようにそれらを安定化する。次いで、この混合物が所定の場所で締め固められて、新たな舗装のための安定化された下地を形成する。しかし、このプロセスは、基礎を安定化するためのセメントの添加を伴うので、土安定化のためのセメントの適用に関して上述したのと同じ問題に行き当たることとなる。
【0006】
よって、時期尚早に硬化せずまたは輸送中に沈降しないセメントスラリーについての長年にわたる切実な要求が存在している。
【0007】
米国特許出願公開第2009/0044726号はこの必要性に取り組み、そして45〜65重量パーセントのセメント、55〜35重量パーセントの水、所定の期間セメントが硬化するのを妨げるための遅延剤、および所定の期間セメントが懸濁を維持するためのチキソトロピー増粘剤を含むセメントスラリーを開示する。有用な遅延剤にはスクロース、カルボン酸などが挙げられる。有用なチキソトロピー増粘剤には、メチルヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。このセメントスラリーは消泡剤を含むことができる。開示された消泡剤はアジタン(Agitan)P−823(無機担体上の液体炭化水素とポリグリコールとのブレンド);リン酸トリブチル、またはDee Fo97−3(鉱物オイル担体上の金属ステアリン酸塩)である。残念なことに、これら消泡剤はできた泡の充分に素早い消失を引き起こさない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,483,007号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0044726号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
舗装、建物および駐車場構造物のための安定で剛性の基礎を構築するためにセメントスラリーを使用する場合には、固化したセメント中に捕捉される空気を最小にすることが重要である。捕捉された空気は固化したセメントの安定性を低減させる。しかし、セメントスラリーは多くの場合、スラリーの固体成分を懸濁状態に維持するのに必要な連続攪拌のせいで、およびセメントスラリーに組み込まれるセルロースエーテルのような添加剤のせいで発泡する傾向がある。よって、形成された泡が素早く消失する新たなセメントスラリーを提供する強い必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態はa)多糖誘導体、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤;を含むポリマー組成物である。
本発明の別の形態はセメント、多糖誘導体、シロキサン、およびシロキサンとは異なる消泡剤を含むセメント組成物である。
本発明のさらに別の形態は、a)多糖誘導体、b)シロキサン、c)シロキサンとは異なる消泡剤、および場合によってはd)安定化剤;を水中セメントスラリーに組み込む工程を含む、セメントスラリーのレオロジーを改変する方法である。
本発明のさらに別の形態は、多糖誘導体、シロキサン、シロキサンとは異なる消泡剤をセメント、水および1種以上の任意成分の添加剤と混合することにより生じたセメントスラリーを下地に添加し;下地にセメントスラリーを混合し;並びに、下地とセメントスラリーとの混合物を整地し、締め固める;工程を含む、セメント安定化下地を形成する方法である。
本発明のさらに別の形態は、セメントスラリーのレオロジーを改変するための本発明の上記ポリマー組成物の使用である。
本発明のさらに別の形態は、下地を安定化するための本発明の上記セメント組成物の使用である。
【発明の効果】
【0011】
セメントが水中でスラリーにされる前に、その間に、またはその後で、a)多糖誘導体、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤がセメントに添加される場合に、セメントスラリー中に生じる可能性のある泡が素早く消失することが見いだされた。驚くべきことに、シロキサンおよびシロキサンとは異なる消泡剤を組み合わせて使用する場合に相乗効果が認められた。シロキサンおよびシロキサンとは異なる消泡剤を組み合わせて使用する場合には、それらを対応する量で個々に使用する場合よりも素早く泡が消失する。さらにより驚くべきことには、シロキサンおよびシロキサンとは異なる消泡剤の組み込みは概してセメントスラリーの粘度または流動性(スランプ)に悪影響を及ぼさないことも見いだされた。セメントスラリーのレオロジーを改変するための、a)多糖誘導体、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤の組み合わせの使用は、多糖誘導体がセメントスラリー生成タンクに直接添加されることを可能にし、そして輸送中の向上した安定性を有するより安定なスラリーを提供することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましくは、a)多糖誘導体、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤は、セメントへの水の添加と同時に、またはより好ましくはセメントへの水の添加の前にセメントに添加される。多糖誘導体、シロキサン、シロキサンとは異なる消泡剤、および後述の任意成分の添加剤は、セメントに個々に添加されうるが、それらはあらかじめ混合されたポリマー組成物として簡便に添加されうる。
【0013】
本発明のポリマー組成物は、好ましくは、多糖誘導体およびシロキサンを、多糖誘導体:シロキサンの重量比で2以上:1、より好ましくは5以上:1、最も好ましくは10以上:1、特に15以上:1、並びに好ましくは100以下:1、より好ましくは70以下:1、最も好ましくは50以下:1、特に30以下:1で含む。
【0014】
多糖誘導体の例としては、欧州特許公報第0504870Bの第3ページ、25〜56行目および第4ページ、第1〜30行目に、より詳細に記載されるようなデンプン誘導体、グアー誘導体およびキサンタン誘導体が挙げられる。有用なデンプン誘導体は、例えば、デンプンエーテル、例えばヒドロキシプロピルデンプンまたはカルボキシメチルデンプンである。有用なグアー誘導体は、例えば、カルボキシメチルグアー、ヒドロキシプロピルグアー、カルボキシメチルヒドロキシプロピルグアーまたはカチオン化グアーである。好ましいヒドロキシプロピルグアーおよびその生産は米国特許第4,645,812号の第4〜6欄に記載されている。好ましい多糖誘導体はセルロースエーテルである。本発明において使用されるセルロースエーテルは好ましくは水に可溶性であるかまたは少なくとも水に膨潤性である。それらは以下の1種以上の置換基を含むことができる:ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、メチル、エチル、プロピル、ジヒドロキシ−プロピル、カルボキシメチル、スルホエチル、疎水性長鎖分岐および非分岐アルキル基、疎水性長鎖分岐および非分岐アルキルアリール基またはアリールアルキル基、カチオン性基、アセタート、プロピオナート、ブチラート、ラクタート、ニトラートおよびスルファート。セルロース誘導体の例は、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(CMHEC)、ヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース(HPHEC)、メチルセルロース(MC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、メチルヒドロキシ−プロピルヒドロキシエチルセルロース(MHPHEC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、疎水性に改質されたヒドロキシエチルセルロース(hmHEC)、疎水性に改質されたヒドロキシプロピルセルロース(hmHPC)、疎水性に改質されたエチルヒドロキシエチルセルロース(hmEHEC)、疎水性に改質されたカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(hmCMHEC)、疎水性に改質されたヒドロキシプロピルエチルヒドロキシエチルセルロース(hmHPHEC)、疎水性に改質されたメチルセルロース(hmMC)、疎水性に改質されたメチルヒドロキシ−プロピルセルロース(hmMHPC)、疎水性に改質されたメチルヒドロキシエチルセルロース(hmMHEC)、疎水性に改質されたカルボキシメチルメチルセルロース(hmCMMC)、スルホエチルセルロース(SEC)、ヒドロキシエチルスルホエチルセルロース(HESEC)、ヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(HPSEC)、メチルヒドロキシエチル−スルホエチルセルロース(MHESEC)、メチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(MHPSEC)、ヒドロキシエチルヒドロキシ−プロピルスルホエチルセルロース(HEHPSEC)、カルボキシメチルスルホエチルセルロース(CMSEC)、疎水性に改質されたスルホエチルセルロース(hmSEC)、疎水性に改質されたヒドロキシエチルスルホエチルセルロース(hmHESEC)、疎水性に改質されたヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(hmHPSEC)、および疎水性に改質されたヒドロキシエチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(hmHEHPSEC)である。
【0015】
ヒドロキシエチルセルロースまたは疎水性に改質されたヒドロキシエチルセルロースは特に本発明のポリマー組成物およびセメント組成物において有用である。疎水性に改質されたヒドロキシエチルセルロースは当該技術分野において知られている。ヒドロキシエチルセルロールは、ヒドロキシエチルセルロースを1以上の疎水性置換基、好ましくは非環式もしくは環式、飽和もしくは不飽和、分岐もしくは線状の炭化水素基、例えば、少なくとも8個の炭素原子、一般的に8〜32個の炭素原子、好ましくは10〜30個の炭素原子、より好ましくは12〜24個の炭素原子、および最も好ましくは12〜18個の炭素原子を有するアルキル、アルキルアリールもしくはアリールアルキル基で置換することにより疎水性に改質されうる。ヒドロキシエチルセルロースもしくは疎水性に改質されたヒドロキシエチルセルロースをセメントスラリーにおいて利用する場合には、他の多糖誘導体の使用と比較して、スラリー中の固体粒子が高温で懸濁しなくなる傾向が低下する。
【0016】
セルロースエーテルの粘度は、ブルックフィールド粘度計を用いて25℃でセルロースエーテルの1.0重量パーセント水溶液を測定して、概して1000〜10,000mPa・s、好ましくは2,000〜9,000mPa・s、最も好ましくは3,000〜8,000mPa・sである。
【0017】
シロキサンは好ましくはポリジオルガノシロキサンである。ポリジオルガノシロキサンは25℃および大気圧で概して液体である。ポリジオルガノシロキサンは好ましくは線状で、平均式:
【化1】

(式中、各Rは独立してアルキル基もしくはアリール基である)
を有することができる。この置換基Rの例は、メチル、エチル、プロピル、イソブチルおよびフェニルであり、nは20〜2000の範囲である。このようなポリジオルガノシロキサンは欧州特許出願公開第0210731号から理解される。ポリジオルガノシロキサンにおけるケイ素に結合した置換基は通常はメチル基であるが、他のアルキル基、例えば、2〜6個の炭素原子を有するアルキル基が存在しても良い。他のアルキル基は好ましくは、置換基の総数の20%以下であるのが好ましい。ポリジオルガノシロキサンは、例えば、ヒドロキシル基で終端となる場合があり、またはトリオルガノ−シロキシ基、例えば、トリメチルシロキシもしくはジメチルビニルシロキシ基で終端とされる場合がある。好ましいポリジオルガノシロキサンはトリメチルシリル末端単位を有し、かつ25℃で5×10−5/s〜0.1m/sの粘度、すなわち、40〜1500の範囲のnの値を有するポリジメチルシロキサンである。
【0018】
より好ましくは、85〜99重量パーセント、好ましくは90〜98重量パーセントのポリジオルガノシロキサンと1〜15重量パーセント、好ましくは2〜10重量パーセントの高い表面積:重量比(少なくとも50m/g)を有する微粉フィラー、例えば、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、例えば、ヒュームド酸化アルミニウム、または好ましくはシリカ、例えば、ヒュームドもしくは沈降シリカ、またはゲル形成技術によって製造されたシリカとの混合物であるポリジオルガノシロキサン組成物が使用される。シリカが好ましい。微粉フィラーは好ましくは、0.1〜50マイクロメートル、より好ましくは1〜20マイクロメートルの平均粒子サイズを有する。ポリジオルガノシロキサンおよび微粉フィラーの混合物は英国特許出願公開第2,279,009および米国特許第4,906,478号に記載されている。ポリジオルガノシロキサンと微粉フィラーとの上記混合物は、25℃、大気圧で概して流体である。
【0019】
好ましくは、シロキサンは粒子状担体上のシロキサンの形態で使用される。シロキサンの量は、シロキサンと粒子状担体との全重量を基準にして、好ましくは5〜50パーセント、より好ましくは10〜40パーセント、最も好ましくは15〜30パーセントのシロキサン、および95〜50パーセント、より好ましくは90〜60パーセント、最も好ましくは85〜70パーセントの粒子状担体である。
【0020】
シロキサンに有用な粒子状担体はゼオライト、処理および未処理非晶質シリカ、シリケート、例えば、ケイ酸カルシウム、または、最も好ましくはマルトデキストリンである。マルトデキストリンは水の存在下でデンプンと酸および/または酵素との反応から得られる水溶性ポリマーからなる。マルトデキストリンは微粉としてまたは凝集した形態で市販されている。ポリジメチルシロキサンおよびケイ酸カルシウムの組成物は米国特許第4,906,478号および第5,073,384号に記載されている。
【0021】
有用な市販のシロキサンはダウコーニング(登録商標)DSPアンチフォーム(Antifoam)エマルション(ポリジメチルシロキサンを含むエマルション)、ダウコーニング(登録商標)アンチフォーム2210(ポリジメチルシロキサンとポリプロピレングリコールとからなるエマルション)、ダウコーニング(登録商標)1920粉体アンチフォーム、およびダウコーニング(登録商標)1520US(両方とも、20重量パーセントのポリジメチルシロキサンを含む食品グレードの消泡剤である)である。
【0022】
本発明のポリマー組成物はc)シロキサンとは異なる消泡剤をさらに含む。好ましくは、この消泡剤c)は固体形態である。この活性成分が、特定のオキシアルキレン消泡剤のように25℃、大気圧で液体である場合には、この活性成分は好ましくは、タルク、珪藻土、非晶質、コロイド状もしくは結晶性シリカ、二酸化シリカ、またはシリケート、好ましくはケイ酸カルシウムのような固体担体に担持される。消泡剤c)、特に、オキシアルキレン消泡剤を別の固体担体上に提供する代わりに、それは多糖誘導体、好ましくはセルロースエーテルと混合されうる。
【0023】
有用な液体消泡剤c)の例は、石油炭化水素オイル、非シリコーンアセチレン系物質;またはポリオキシアルキレングリコールである。有用な固体消泡剤c)の例はリン酸トリブチルまたは金属ステアリン酸塩である。周知の消泡剤c)はアジタン(Agitan)P−823(無機担体上での液体炭化水素とポリグリコールとのブレンド)、ディー(Dee)Fo97−3(鉱物オイル担体上の金属ステアリン酸塩)、サーフィノール(Surfynol)DF110L(非イオン性、非シリコーン、アセチレン系物質)、アキシラト(Axilat)770DD(ポリプロピレングリコール、石油蒸留物、ブチル化ヒドロキシトルエンおよびケイ酸カルシウムからなる組成物)、アキシラト727DD(二酸化ケイ素、コロイダルシリカおよび酸化防止剤からなる組成物)、アキシラト775DD(タルク、石油炭化水素オイル、二酸化ケイ素、および結晶性シリカからなる組成物)の商標の下で市販されている。
【0024】
好ましくは、オキシアルキレン消泡剤、より好ましくはポリオキシアルキレングリコール、最も好ましくはポリプロピレングリコールがc)消泡剤として使用される。オキシアルキレン消泡剤は好ましくは下記一般式で表される:
−(−T−(−RO)
式中、RおよびRは同じかまたは異なっており、かつそれぞれ水素原子または1〜30個の炭素原子、好ましくは4〜30、より好ましくは6〜22、最も好ましくは10〜18個の炭素原子を含む線状もしくは分岐の炭化水素基を表し;
t個のRO基は同じかまたは異なっており、かつそれぞれ2〜18個の炭素原子、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜4個の炭素原子を含むオキシアルキレン基を表し;
tはオキシアルキレン基の付加の平均モル数を表し、かつ1〜300の数であり;
Tは−CO−、−SO−、−PO−、−NH−、または好ましくは−O−を表し;
mは1または2の整数を表し、Rが水素原子の場合にはmは1である。
さらに、(RO)の部分は好ましくは1以上のオキシエチレン基および/または1以上のオキシプロピレン基からなる。好ましくはmは1である。
【0025】
驚くべきことに、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤を組み合わせて使用する場合に、相乗効果が認められた。セメントスラリー中に形成される泡は、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤、好ましくはオキシアルキレン消泡剤が組み合わせて使用される場合に、それらが個々に対応する量で使用される場合よりも顕著に早く消失する。
【0026】
b)シロキサン:c)シロキサンとは異なる消泡剤の重量比は、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは3:1〜1:3、最も好ましくは1.5:1〜1:1.5である。この重量比はb)シロキサンと、担体または希釈剤を除くc)消泡剤の活性成分とに関連する。
【0027】
a)多糖誘導体:c)シロキサンとは異なる消泡剤の重量比は、好ましくは2以上:1、より好ましくは5以上:1、最も好ましくは10以上:1、特に15以上:1、並びに好ましくは100以下:1、より好ましくは70以下:1、最も好ましくは50以下:1、特に30以下:1である。この重量比は、担体または希釈剤を除くc)消泡剤の活性成分に関連する。
【0028】
本発明のポリマー組成物は場合によってd)安定化剤を含む。ポリマー組成物がセメントスラリーに組み込まれる場合には、安定化剤が使用され、セメントが輸送中に、またはスラリーが下地土に混合される前に、時期尚早に硬化するのを妨げる。安定剤として使用されうる様々な物質には、これに限定されないが、スクロース、リグノスルホナート、カルボン酸、ポリカルボン酸、ホエイタンパク質、炭水化物、鉛および亜鉛の酸化物、ホスファート、マグネシウム塩、フルオラート、およびボラートが挙げられる。ヒドロキシエチルセルロースおよび疎水性に改質されたヒドロキシエチルセルロースもセメントスラリーにおける安定化効果を有する。
【0029】
本発明のポリマー組成物がd)安定化剤を含む場合には、a)多糖誘導体:d)安定化剤の重量比は、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは3:1〜1:3、最も好ましくは1.5:1〜1:1.5である。本発明のポリマー組成物がd)安定化剤を含む場合には、d)安定化剤:b)シロキサンの重量比は、好ましくは2以上:1、より好ましくは5以上:1、最も好ましくは10以上:1、特に15以上:1、並びに好ましくは100以下:1、より好ましくは70以下:1、最も好ましくは50以下:1、特に30以下:1である。
【0030】
本発明のポリマー組成物は好ましくは、
a)20〜95、より好ましくは30〜90、最も好ましくは40〜80重量パーセントの多糖誘導体;
b)1〜20、より好ましくは2〜15、最も好ましくは3〜10重量パーセントのシロキサン;
c)1〜20、より好ましくは2〜15、最も好ましくは3〜10重量パーセントのシロキサンとは異なる消泡剤;
d)0〜75、より好ましくは10〜70、最も好ましくは12〜60重量パーセントの安定化剤;
を含み、残部はシロキサンのための粒子状担体、存在する場合にはc)消泡剤のための担体、および存在する場合には任意成分である。
【0031】
本発明は、上述の、a)多糖誘導体、b)シロキサン、c)シロキサンとは異なる消泡剤、および場合によってはd)安定化剤;を水中セメントスラリーに組み込む工程を含む、セメントスラリーのレオロジーを改変する方法にさらに関する。
【0032】
a)多糖誘導体、b)シロキサン、c)消泡剤、および任意成分のd)安定化剤は個別にセメントに添加されることができ、または成分a)〜d)の2種以上があらかじめ混合され、その後にそれらをセメントに添加することができる。セメントへの水の添加中またはその添加後に、好ましくはセメントへの水の添加前に、成分a)〜d)の一部分または全部がセメントに添加されることができる。
【0033】
本発明のセメント組成物は、セメントの重量を基準にして、a)好ましくは0.001〜5.0パーセント、より好ましくは0.01〜2パーセント、最も好ましくは0.03〜0.3パーセントの多糖誘導体、b)好ましくは0.00005〜0.5パーセント、より好ましくは0.0001〜0.05パーセント、最も好ましくは0.0002〜0.01パーセントのシロキサン、c)好ましくは0.00005〜0.5パーセント、より好ましくは0.0001〜0.05パーセント、最も好ましくは0.0002〜0.01パーセントのシロキサンとは異なる消泡剤(担体または希釈剤を除いた消泡剤の活性成分の重量を基準に計算される)、およびd)好ましくは0〜5.0パーセント、より好ましくは0.0002〜0.5パーセント、最も好ましくは0.005〜0.1パーセント、特に0.001〜0.02パーセントの安定化剤を含む。本発明に従って様々な水硬性セメントが利用されることができ、例えば、水との反応によって硬化および固化するカルシウム、アルミニウム、ケイ素、酸素および/または硫黄からなるものが挙げられる。このような水硬性セメントには、これに限定されないが、ポルトランドセメント、ポゾランセメント、石膏セメント、アルミナセメント、シリカセメント、およびアルカリセメントが挙げられる。ポルトランドセメントが本発明に従って使用するのに概して好ましい。
【0034】
さらに、本発明のセメント組成物は場合によっては炭酸カルシウム、フライアッシュ、高炉スラグ、ヒュームドシリカ、ベントナイト、クレイ、ケイ酸アルミニウム水和物ベースの天然鉱物、例えば、カオリナイトもしくはハロサイトなどのフィラーを含む。これらの粉体は単独でまたはそれらの組み合わせで使用されうる。さらに、必要な場合には、砂、バラスト、およびこれらの混合物がこれらの粉体に骨材として添加されうる。
【0035】
本発明のセメント組成物に使用される水は新たな水、ブラインおよび海水をはじめとする飽和していない塩溶液、並びに飽和塩溶液でありうる。一般的に、セメント組成物中の他の成分に悪影響を与える成分を過剰に含まない限りは、水はあらゆるソースからのものでありうる。しかし、セメント組成物は好ましくは、水の重量を基準にして5パーセントを超えて塩化ナトリウムを含まない。水はポンプ移送可能なスラリーを形成するのに充分な量で本発明のセメント組成物中に存在する。より具体的には、水はセメント組成物中に、セメントの重量部あたり水0.3〜2重量部、好ましくは水0.5〜1重量部の範囲の量で存在する。
【0036】
セメントスラリーは、多糖誘導体、シロキサン、シロキサンとは異なる消泡剤をセメント、水および1種以上の任意成分の添加剤と混合することにより生じたセメントスラリーを下地に添加し;セメントスラリーを下地に混合し;並びに、下地とセメントスラリーとの混合物を整地し、締め固める;工程を含むセメント安定化された下地を形成する方法に使用されうる。
【0037】
下地は土、骨材、アスファルト、再生アスファルト、およびこれらの混合物であることができる。骨材には、川、陸地、山もしくは海からのバラスト、石灰バラスト、これらの破片、高炉スラグ粗もしくは細骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、人工および天然軽量粗骨材、および再生骨材が挙げられる。
【0038】
本発明は、以下の実施例によってさらに示され、これら実施例は本発明の範囲を限定すると解されない。他に示されない限りは、全てのパーセンテージおよび部は重量基準である。
【0039】
実施例1−16および比較例A−P
以下の成分が実施例において使用される:
HEC−1:セロサイズ(CELLOSIZE商標)QP100MH−V(ザダウケミカルカンパニーの商標)ヒドロキシエチルセルロース(HEC)。1%水溶液の粘度は、ブルックフィールドLVT、スピンドルSC4−25を用いて30rpm、25℃で測定して、4400mPa・sである。
HEC−2:セロサイズ QP100MHヒドロキシエチルセルロース。1%水溶液の粘度は、IB−44C−0.1(ASTM D−2364)に従って測定して、4520mPa・sである。
HEC−3:セロサイズ HEC10HVヒドロキシエチルセルロース。1%水溶液の粘度は、ブルックフィールドLVT、スピンドルSC4−25を用いて30rpm、25℃で測定して、5260mPa・sである。
DC1920:粒子状担体上のシロキサン、ダウコーニング1920粉体アンチフォーム(Powdered Antifoam)(ダウコーニングコーポレーションの商標)として市販されている。これは60重量%を超えるマルトデキストリン(CAS番号9050−36−6)および1.0〜5.0重量%のメチル化シリカ(CAS番号67762−90−7)を含む。これは20%のポリジメチルシロキサンを含む自由流動性粉体シリコーン消泡剤である。25℃での密度は0.6〜1.3g/ccである。
DC1520:ダウコーニングコーポレーションにより製造されるダウコーニング1520US。20%のポリジメチルシロキサンを含む食品グレードの液体シリコーンエマルション消泡剤。
AF−1:ポリプロピレングリコール
AF−2:ヘキソン(Hexion)スペシャリティケミカルズインコーポレーティドからの商標アキシラト770DDの下で市販されている乾燥粉体消泡剤。嵩密度は22 lb/ft(352kg/m)である。これは約20%のプロピレングリコール(CAS番号25322−69−4)、約13%の石油蒸留物(CAS番号64741−96−4)および1〜5%のブチル化ヒドロキシトルエンを含む。残りの量はケイ酸カルシウム(CAS番号1344−95−2)である。
スクロース:極細粒子スクロースが使用され、これは185℃の融点、20℃で水中に200gm/100gmの溶解度、49〜56 lbs/立方フィート(784〜896kg/m)の嵩密度、および0.05重量パーセントの水分を有する。
【0040】
泡消失試験:
199.32部の水中の0.34部のセルロースエーテル(CE)および0.34部のスクロースの溶液が調製される。水和した後で、この溶液は混合ボウルに入れられる。以下の表1に示されるような消泡剤、すなわち成分b)および/または成分c)の量が混合ボウルに添加される。この溶液および消泡剤は、この溶液を依然としてボウル内に留めつつキッチンミキサーでできるだけ高速で5分間混合される。混合が停止されたら、泡が完全に消失するのにかかった時間が記録される。
【0041】
スランプ容器、漏斗およびスランプサイズ
セメントスラリーは、キッチン補助ミキサーで以下の成分を混合することにより製造される:
a)0.34部の以下の表1に示されるヒドロキシエチルセルロース(HEC);
b)様々な量の以下の表1に示されるシロキサン、成分b)は消泡剤として機能する;
c)様々な量の以下の表1に示される消泡剤;
d)0.34部のスクロース;
e)199.32部の水;および
f)316部のセメント。
このスラリーを5分間混合し、5分間養生させる。このスラリーは次いで、リングスタンドに取り付けられた、10cmの直径を有する漏斗の充填ラインに注がれる。この漏斗からマイラー(Mylar)膜への距離は13cmである。スラリーが漏斗を空にする時間は「スランプ漏斗通過時間」として記録され、スランプの直径が測定される。
【0042】
泡消失試験、スランプ漏斗通過時間、およびスランプの直径の結果が以下の表1に示される。実施例は、多糖を含むポリマー組成物中にb)シロキサンおよびc)シロキサンとは異なる消泡剤が組み合わせて使用される場合に、素早い泡消失を示す。実施例1および2と比較例B;実施例5と比較例BおよびC;実施例6と比較例HおよびI;実施例7と比較例EおよびF;実施例8および9と比較例KおよびL;並びに、実施例10および11と比較例MおよびN;を比較すると、b)シロキサンおよびc)消泡剤を組み合わせて使用する場合に泡消失に対する相乗効果が示される。実施例13〜16は、幾分かの泡消失効果が、非常に少量のb)シロキサンおよびc)消泡剤でさえ達成されることを示す。
以下の表1に示されるスランプ漏斗通過時間およびスランプの直径は、b)シロキサンおよびc)消泡剤の組み合わせの使用がスラリーのレオロジーまたは流動性に悪影響を及ぼさないことを示す。特に、b)シロキサンおよびc)消泡剤の使用は、スラリーを、非常に短いスランプ漏斗通過時間および非常に大きなスランプサイズをもたらすであろう顕著な低粘性にしない。特に、一方が比較例D(消泡剤なし)でもう一方が実施例6および7の比較は、スランプ漏斗通過時間およびスランプの直径は同等であり、かつb)シロキサンおよびc)消泡剤の組み合わせの使用はスラリーのレオロジーまたは流動性に悪影響を及ぼさないが、泡消失はb)シロキサンおよびc)消泡剤を使用したときにより早くなることを示す。非常に低粘性のスラリーは、このスラリーが道路の傾斜を流れて溝に流れ込む可能性を有するであろうから、このスラリーを道路ベッドに適用する場合に望ましくないであろう。
【0043】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多糖誘導体、b)シロキサン、およびc)シロキサンとは異なる消泡剤;を含むポリマー組成物。
【請求項2】
多糖誘導体がセルロースエーテルである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
セルロースエーテルがヒドロキシエチルセルロースまたは疎水性に改質されたヒドロキシエチルセルロースである、請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
多糖誘導体:シロキサンの重量比が1:1〜100:1である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
シロキサンがポリジメチルシロキサンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
シロキサンが粒子状担体に担持される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
シロキサン:c)消泡剤の重量比が1:10〜10:1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
c)消泡剤がオキシアルキレンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
a)20〜95重量パーセントの多糖誘導体;
b)1〜20重量パーセントのシロキサン;
c)1〜20重量パーセントのシロキサンとは異なる消泡剤;並びに
d)0〜75重量パーセントの安定化剤;
を含み、残部はシロキサンのための粒子状担体、およびc)消泡剤のための担体、および存在する場合には任意成分である;
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
セメント、多糖誘導体、シロキサン、およびシロキサンとは異なる消泡剤;を含むセメント組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマー組成物を含む、請求項10に記載のセメント組成物。
【請求項12】
セメントの重量を基準にして、a)0.001〜5.0パーセントの多糖誘導体、b)0.00005〜0.5パーセントのシロキサン、c)0.00005〜0.5パーセントのシロキサンとは異なる消泡剤、およびd)0〜5.0パーセントの安定化剤;を含む、請求項10または11に記載のセメント組成物。
【請求項13】
セメントの重量部あたり、0.3〜2重量部の水をさらに含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項14】
水の重量を基準にして5パーセントを超えて塩化ナトリウムを含まない、請求項13に記載のセメント組成物。
【請求項15】
a)多糖誘導体、b)シロキサン、c)シロキサンとは異なる消泡剤、および場合によってはd)安定化剤;を水中セメントスラリーに組み込む工程を含む、セメントスラリーのレオロジーを改変する方法。
【請求項16】
多糖誘導体、シロキサン、シロキサンとは異なる消泡剤をセメント、水および1種以上の任意成分の添加剤と混合することにより生じたセメントスラリーを下地に添加し;下地にセメントスラリーを混合し;並びに、下地とセメントスラリーとの混合物を整地し、締め固める;工程を含む、セメント安定化下地を形成する方法。
【請求項17】
下地が土、骨材、アスファルト、再生アスファルト、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
セメントスラリーのレオロジーを改変するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項19】
下地を安定化するための、請求項10〜14のいずれか1項に記載のセメント組成物の使用。
【請求項20】
下地が土、骨材、アスファルト、再生アスファルト、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項19に記載の使用。

【公開番号】特開2011−173786(P2011−173786A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−11516(P2011−11516)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】