説明

セメント組成物

【課題】混和剤使用量が少量で所定の流動性を得ることができる、流動性に優れたセメント組成物を提供する。
【解決手段】セメント組成物中の石膏量を所定量確保しながらも、微細な石膏量を少なくする。すなわち、セメント組成物中の石膏量がSO換算で0.90〜1.50質量%であり、10μm以下の石膏量がSO換算で0.70質量%以下とする。又、セメント組成物中に含まれる10μm以下の半水石膏量が、SO換算で0.61質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混和剤使用量が少量で所定の流動性を得ることができる、流動性に優れたセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築構造物等に対する要求性能の多様化及び高度化により、高強度コンクリートや高流動性コンクリートの使用が増加している。このようなコンクリートでは、高流動性を得るために、ポリカルボン酸系混和剤が多く使用されている。
【0003】
一般に、ポリカルボン酸系混和剤の分散性能は、セメント組成物の特性の影響を強く受けることが知られている。このため、ポリカルボン酸系混和剤を使用する際の流動性に優れたセメント組成物に関する技術、特に石膏形態の流動性に及ぼす影響が開示されている。例えば、特許文献1には、石膏量及び半水石膏量の範囲を規定したポルトランドセメント、セメント分散剤及び水よりなる高流動性水硬性組成物が開示されている。また、特許文献2には、二水石膏及び半水石膏の合量に占める半水石膏の割合、及び半水石膏量の範囲を規定したポルトランドセメント、ポリカルボン酸系高性能減水剤及び水よりなる水硬性組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2000−302518号公報
【特許文献2】特開2004−196624号公報
【0004】
しかしながら、ポルトランドセメント中の半水石膏量、二水石膏量及び石膏量を制御しただけでは流動性の向上には限界があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的及び課題は、セメントペースト、モルタル及びコンクリートにおいて、混和剤使用量が少量で所定の流動性を得ることができる、流動性に優れたセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような目的を達成するためのセメント組成物に関して鋭意検討した結果、流動性には、従来から言われる石膏量よりも、石膏の粒度に着目し、10μm以下の石膏量及び10μm以下の半水石膏量が大きな影響を及ぼすこと、この知見によりセメント組成物中の石膏量を所定量確保しながらも、10μm以下の微細な石膏量を少なくすることにより、混和剤使用量が少量で所定の流動性を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
10μm以下の石膏量及び10μm以下の半水石膏量を規定する本発明のセメント組成物を用いることにより、所定の流動性を得るための混和剤使用量を大幅に削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明のセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏とを含むセメント組成物であり、例えば、普通ポルトランドセメントを原料として製造することができる。セメント組成物は、その他の構成成分として、石灰石、高炉スラグ及び/又はフライアッシュを適宜含んでも良い。
【0010】
また、セメント組成物中の石膏量はSO換算で0.90〜1.50質量%、好ましくは0.90〜1.30質量%であり、10μm以下の石膏量がSO換算で0.70質量%以下、好ましくは0.20〜0.70質量%である。
【0011】
セメント組成物中の石膏量が0.90質量%未満であると、リグニン系遅延形AE減水剤を過剰添加したときに著しい凝結遅延を生じることがあるため、好ましくない。なお、ここでいう石膏量は二水石膏及び半水石膏の合量である。
【0012】
セメント組成物中の10μm以下の石膏量がSO換算で0.70質量%を超えると、アルミネート相と石膏との水和反応が活発になりすぎ、セメントペースト、モルタル及びコンクリートにおいて所定の流動性を得るための混和剤所要量が多くなるので好ましくない。
【0013】
本発明において、セメント組成物中の石膏量をSO換算で0.90〜1.50質量%にするためには、セメントの仕上げ工程で必要量の石膏をクリンカーに添加し、また、10μm以下の石膏量をSO換算で0.70質量%以下にするためには、セメントの仕上げ工程でミルの循環量を増加させるか、あるいは粉砕助剤の増量やビーライト量の低減などにより、セメント中の石膏の過粉砕を抑制することが好ましい。
【0014】
本発明のセメント組成物において、粉末X線回折を利用したリートベルト解析によって定量されるクリンカー鉱物中のアルミネート相量は7.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。なお、ボーグ式で計算されるアルミン酸三カルシウム量(CA量)と混和剤所要量との間には相関は認められなかった。
【0015】
本発明のセメント組成物の流動性をさらに向上するために、セメント組成物中に含まれる10μm以下の半水石膏量はSO換算で0.61質量%以下が好ましく、0.58質量%以下であることがより好ましい。ここで、10μm以下の半水石膏量は、孔径10μmの篩を装着した気流式ふるい分け装置(セイシン企業社製、商品名:スピンエアーシーブ SAM−200S)によってセメント組成物を篩い、篩い分けられた10μm以下の石膏量に応じて石膏中の半水石膏割合を調節することにより制御することができる。また、石膏中の半水石膏割合は、セメント仕上げ工程でのミル散水量、ミル通風量、ミル循環量などの増減によって調節可能であり、例えば、これらのパラメータを増加させることで半水石膏割合を下げることができる。
【0016】
また、本発明のセメント組成物において粉末X線回折を利用したリートベルト解析によって定量されるクリンカー鉱物中のビーライト量は11.6質量%以下、さらに好ましくは11.0質量%以下である。被粉砕性の悪いビーライト量が多いと、セメントを所定粒度まで粉砕した際に石膏が過粉砕されやすくなるので好ましくない。
【0017】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0018】
[使用材料]
セメント組成物として、工場で製造された5種類の普通ポルトランドセメントを使用した。
【0019】
[石膏の定量]
セメント組成物中に含まれる石膏量は、示差熱重量分析(TG−DTA)によって定量した。具体的には、示差熱熱重量分析装置TG−DTA6200(セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて、直径20μmの孔を有する容量30μLのセル(アルミ製)に、試料を約30mg入れ、昇温速度5℃/minで室温から300℃まで昇温した。図1に示すように、まず、重量減少曲線(図1のTG)を微分した曲線(図1のDTG)から、DTGピークAの立ち上がり温度(約125℃)、半水石膏の脱水に伴うDTGピークBの立ち上がり温度(約155℃)、ピークBの終局点(約195℃)を求めた。次に、二水石膏の脱水に伴う125〜155℃附近の減量(a質量%)と、半水石膏の脱水に伴う155〜195℃附近の減量(b質量%)を求め、式(1)及び式(2)を用いて、セメント組成物に含まれる二水石膏量(質量%,SO換算)及び半水石膏量(質量%,SO換算)を算出した。石膏量(質量%,SO換算)は式(3)を用いて算出した。なお、リファレンスとして、アルミ板を用いた。
【0020】
二水石膏量(質量%,SO換算)=減量a(質量%)×80÷(1.5×18)(1)
半水石膏量(質量%,SO換算)=(減量b(質量%)−減量a(質量%)÷3)×
80÷(0.5×18) (2)
石膏量(質量%,SO換算)=二水石膏量 (質量%,SO換算)+半水石膏量(質量%,SO換算) (3)
【0021】
[10μm以下の石膏の定量]
孔径10μmの篩を装着した気流式ふるい分け装置(セイシン企業社製、商品名:スピンエアーシーブ SAM−200S)によってセメント組成物を篩い、10μm以上の粗粒分を採取した。粗粒分に含まれる石膏量及び半水石膏量を、上記の石膏の定量分析に従いTG−DTAによって算出した。式(4)及び式(5)を用いてセメント組成物中の10μm以下の石膏量及び半水石膏量を算出した。
【0022】
10μm以下の石膏量(質量%,SO換算)
=セメント組成物中の石膏量(質量%,SO換算)−[10μm以上の粗粒分中の石膏量(質量%,SO換算)×全粒分中の粗粒分の割合] (4)
【0023】
10μm以下の半水石膏量(質量%,SO換算)
=セメント組成物中の半水石膏量(質量%,SO換算)−[10μm以上の粗粒分中の
半水石膏量(質量%,SO換算)×全粒分中の粗粒分の割合] (5)
【0024】
[クリンカー鉱物組成の測定]
セメント組成物中のクリンカー鉱物組成はリートベルト解析によって測定した。粉末X線回折装置にはRigaku社製のRINT2500を使用し、管電圧40kV、管電流130mA、発散スリット1.0°、散乱スリット1.0°、受光スリット0.15mm、ステップ幅0.02°、計測時間2秒とした。リートベルト解析ソフトはアメリカMaterials Data Inc社製のJADE 6.0を使用した。また、エーライト、ビーライト、アルミネート相(立方晶)、アルミネート相(斜方晶)及びフェライト相の結晶構造データの初期値は、NIST Technical Note 1444(2002)“Phase Composition Analysis of the NIST Reference Clinkers by Optical Microscopy and X−ray Powder Diffraction”のAppendix A.で引用されている文献のオリジナルデータを使用した。なお、パラメータの精密化では、原子配置は固定し、プロファイル関数や格子定数を可変とした。
これらのクリンカー鉱物全体に占めるアルミネート相(立方晶)及びアルミネート相(斜方晶)の合計(%)をアルミネート相量とした。
【0025】
[セメント組成物の流動性の測定]
セメント組成物の流動性は0打フローによるペースト試験で評価した。水セメント比は35%とし、ホモジナイザー(回転数:4000r.p.m.)で3分間練混ぜてペーストを調製した。ペーストの0打フローが11±1cmとなる混和剤所要量で練混ぜ直後の流動性を評価した。なお、混和剤にはポリカルボン酸系の高性能AE減水剤(BAFSポゾリス社製レオビルドSP8SV)を使用した。
【0026】
〔実施例1〜2、比較例1〜4〕
表1に、使用した5種類の普通ポルトランドセメントについての測定値を示す。なお、クリンカー鉱物組成については、粉末X線回折を利用したリートベルトリートベルト解析による測定結果とボーグ式による計算結果(表中のカッコ内)の両方を示した。また、図2に石膏量と混和剤所要量の関係、図3に10μm以下の石膏量(半水石膏+二水石膏)と混和剤所要量の関係、図4に10μm以下の半水石膏量と混和剤所要量の関係を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1より、セメント中の石膏量がSO換算で0.90〜1.50質量%、10μm以下の石膏量(半水石膏量+二水石膏量)が0.70質量%以下、あるいは半水石膏量が0.61質量%以下の場合に混和剤所要量を少なくすることができることがわかる。
また、図2より石膏量と混和剤所要量の相関関係は低く、図3、4より、10μm以下の石膏量(半水石膏+二水石膏)と混和剤所要量、及び10μm以下の半水石膏量と混和剤所要量の相関関係は高いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】石膏の示差熱熱重量分析結果を示す図である。
【図2】石膏量と混和剤所要量の関係を示す図である。
【図3】10μm以下の石膏量(半水石膏+二水石膏)と混和剤所要量の関係を示す図である。
【図4】10μm以下の半水石膏量と混和剤所要量の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーと石膏とを含有するセメント組成物であって、セメント組成物中の石膏量がSO換算で0.90〜1.50質量%であり、10μm以下の石膏量がSO換算で0.70質量%以下である、セメント組成物。
【請求項2】
粉末X線回折を利用したリートベルト解析によって定量されるクリンカー鉱物中のアルミネート相量が7.0質量%以下である、請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
セメント組成物中に含まれる10μm以下の半水石膏量がSO換算で0.61質量%以下である、請求項1又は2記載のセメント組成物。
【請求項4】
粉末X線回折を利用したリートベルト解析によって定量されるクリンカー鉱物中のビーライト量が11.6質量%以下である、請求項1〜3記載のセメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227476(P2009−227476A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71350(P2008−71350)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)