説明

セメント組成物

【課題】
廃棄物を原料として製造されたクリンカー組成物の初期強度発現性を改善し、コンクリート製品等の製造における蒸気養生の前置時間の短縮が可能で、早期脱型を可能とし、製造効率を向上し、14日強度も減衰させないセメント組成物の提供を目的とする。
【解決手段】
セメントクリンカー粉砕物と石膏を含有するセメント組成物であって、前記セメントクリンカーの3CaO・Al(CA)量が10〜17質量%、3CaO・SiO(CS)量が45〜65質量%であり(ボーグ式算出)、前記石膏が、無水石膏、半水石膏及びニ水石膏を含み、全石膏に対する各石膏の割合がSO換算で、無水石膏が10〜60質量%、半水石膏が20〜45質量%及びニ水石膏が20〜45質量%であり、かつ、セメント組成物中の石膏量がSO換算で3.0〜6.5質量%であることを特徴とするセメント組成物、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CAを10〜17質量%含有するセメントクリンカーを用いたセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、経済成長、人口の都市部への集中化に伴い、産業・生活廃棄物が急増している。従来から、かかる廃棄物の大半は、焼却によって十分の一程度に減容化し埋め立て処分されているが、最近では埋め立て処分場の残余容量が逼迫していることから、新しい廃棄物処理方法の確立が緊急課題となってきた。この課題に対処する方法の一つに、都市ゴミ焼却灰等の産業・生活廃棄物を原料としてセメントを製造する方法が提案されている(特許文献1等)。しかし、都市ゴミ焼却灰等の産業・生活廃棄物を原料として製造されたセメントは、CAの含有量が10〜17質量%程度と多く、このような高CA型セメントを使用してセメント二次製品を製造する場合は、蒸気養生をしても、十分な脱型強度を得るために、前置養生時間を長くとる必要があり、例えば、製造工程を1日2サイクルとすることが困難である等、製造効率が比較的低いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−165446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、廃棄物を原料として製造された高CA型セメント組成物の蒸気養生における初期強度発現性を改善して、セメント二次製品(コンクリート製品等)の製造における蒸気養生の前置時間の短縮が可能で、早期脱型を可能とし、製造効率を向上し、14日強度も減衰させないセメント組成物の提供を目的とする。
【0005】
即ち、脱型強度が速やかに得られ、14日強度も、普通セメントを使用した製品と比較して遜色のないモルタル、コンクリート製品とすることのできるセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
セメントクリンカー粉砕物と石膏を含有するセメント組成物であって、
前記セメントクリンカーの3CaO・Al(CA)量が10〜17質量%、3CaO・SiO(CS)量が45〜65質量%であり、
前記石膏が、無水石膏、半水石膏及びニ水石膏を含み、全石膏に対する各石膏の割合がSO換算で、無水石膏が10〜60質量%、半水石膏が20〜45質量%及びニ水石膏が20〜45質量%であり、かつ、
セメント組成物中の石膏量がSO換算で3.0〜6.5質量%であることを特徴とするセメント組成物、を提供する。
【0007】
さらに、セメントクリンカー中の4CaO・Al・Fe(CAF)量が10〜17質量%である、上記記載のセメント組成物、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント組成物は、廃棄物等を原料として製造された高CA型セメント組成物であるにも拘わらず、蒸気養生の前置時間を短縮でき、早期脱型を可能とした。即ち、製造効率を向上し、ひとつの型枠で一日2回成型するという型枠の回転率が得られた。更に、14日強度も減衰させないセメント組成物とすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本願発明に係るセメントクリンカーは、所望のセメント原料を焼成することによって生成した鉱物相が、CA、CSで表す3CaO・SiO、CSで表す2CaO・SiO、CAFで表す4CaO・Al・Feのすべての成分を必須構成成分とするものであり、好適にはCAが10〜17質量%(より好ましくは10.5〜16質量%、特に好ましくは11〜15質量%)含まれるものである。
【0010】
セメントクリンカー中のCAの含有量が10質量%未満では、原料としての廃棄物等の使用量が少なくなり、廃棄物の有効利用および再資源化の観点から好ましくない。また、CAの含有量が、17重量%を超えると、生コンクリートの作業性が低下するおそれがあり、また強度発現性も低下するおそれがある。更には、蒸気養生の前置時間の短縮も困難となる。
【0011】
セメントクリンカー中のCS量は、45〜65質量であり、好ましくは46〜63質量%であり、より好ましくは46〜60質量%である。CS量が、45質量%未満では、強度発現性が低下する。CS量が、65質量%を超えると相対的にCA量やCAF量が少なくなるので、原料としての廃棄物等の使用量が少なくなり、廃棄物の有効利用および再資源化の観点から好ましくない。
【0012】
セメントクリンカーのCAF量は、原料としての廃棄物の使用量を高めることや強度発現等から、10〜17質量%が好ましく、10.5〜16質量%がより好ましい。なお、セメントクリンカーのCS量は9〜20質量%が好ましく、9.5〜19質量%がより好ましい。
【0013】
A、CS、CS、CAFの各鉱物相を得るためのセメント原料は、特に制約されないが、産業・生活廃棄物等の有効活用の観点から、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰、貝殻、下水汚泥に生石灰を混合した下水汚泥乾粉、その他の一般廃棄物や産業廃棄物、更には建設発生土を原料として使用することが好ましい。
なお、本発明においては、普通のセメント原料である石灰石、粘土、珪石、アルミ灰、ボーキサイト、鉄等を使用することもできる。
【0014】
本発明において、焼成鉱物の生成割合は、この調整原料やクリンカーの化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出できる。
S%=(4.07×CaO%)−(7.60×SiO%)−(6.72×Al%)−(1.43×Fe%)−(2.85×SO%) …(1)
S%=(2.87×SiO %)−(0.754×CS%) …(2)
A%=(2.65×Al%)−(1.69×Fe%) …(3)
AF%=3.04×Fe % …(4)
【0015】
上記原料を上記クリンカー組成となるように調合した後、焼成してクリンカーを製造する。なお、セメントクリンカーを製造するためのセメント原料の焼成は、一般のセメント製造で行われている設備・条件と同様で良く、ロータリーキルンで1200〜1500℃で焼成する。
【0016】
本発明のセメント組成物は、上記セメントクリンカーの粉砕物と石膏を含有するものである。本発明のセメント組成物の製造方法は特に限定するものではなく、例えば、(1) セメントクリンカーと半水石膏および/または二水石膏を同時粉砕した後、該粉砕物に残りの石膏を添加・混合してセメント組成物を製造しても良いし、(2) セメントクリンカーを単独粉砕した後、無水石膏、半水石膏および二水石膏を添加・混合してセメント組成物を製造しても良い。
本発明のセメント組成物のブレーン比表面積は、3000〜5000cm/gが好ましく、3100〜4700cm/gがより好ましい。
なお、クリンカー等の粉砕方法は、一般のセメント製造で行われているのと同じ方法で良い。
【0017】
本発明のセメント組成物においては、使用する石膏類は、無水石膏、半水石膏、二水石膏を、全て含有することが必須である。全石膏の配合量は、クリンカー100質量部に対し、SO換算で3.0〜6.5質量部であり、好ましくは、3.5〜6.0質量部である。石膏量がSO換算で、3.0質量%未満では生コンクリートの作業性が低下するおそれがあり、また強度発現も低下するおそれがある。全石膏の配合量がSO換算で6.5質量部を越えると、長期強度が低下するおそれがある。
本発明のセメント組成物においては、石膏は、無水石膏、半水石膏及び二水石膏を含むものであり、全石膏に対する各石膏の割合がSO換算で、無水石膏が10〜60質量%(より好ましくは15〜58質量%、特に好ましくは、25〜55質量%)、半水石膏が20〜45質量%(好ましくは22〜38質量%)及びニ水石膏が20〜45質量%(好ましくは22〜38質量%)である。各石膏が前記割合の範囲外では、脱型に必要な強度を得るためには、前置き時間が長くなり、全体の養生時間が延びて、脱型までに要する時間が長くなる。
上記石膏のブレーン比表面積は、生コンクリートの作業性や強度発現性、蒸気養生における前置時間短縮等の観点から、半水石膏及び二水石膏は、4000〜10000cm/gが好ましく、4500〜9000cm/gがより好ましい。一方、無水石膏は、4000〜20000cm/gが好ましく、6000〜17000cm/gがより好ましく、8000〜15000cm/gが特に好ましい。
【0018】
本発明のセメント組成物においては、特定の混合材料として、石炭灰、スラグ、石灰石粉末、シリカフューム、珪石粉末から選択される1種以上を併用しても良い。このうち石炭灰は火力発電施設等から排出されるフライアッシュが好ましく、スラグについては特段限定されず例えば高炉スラグ、各種廃棄物や汚泥等の溶融スラグ、脱燐スラグ、脱珪スラグ等を挙げることができる。尚、シリカフュームと類似した水和反応特性を有する他のポゾラン質物質を用いても良い。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示す。尚、これらは例示であり本発明を限定するものではない。
【0020】
実施例1:モルタル試験
表1に示す乾燥した都市ゴミ焼却灰(灰1)、石灰石、鉄原料、ソーダ灰(炭酸ナトリウム99.6重量%含有;セントラル硝子社製)を配合して成分調整した原料を、ロータリーキルンを用いて1300〜1450℃で焼成し、表2に示す化学成分と鉱物組成のセメントクリンカーを製造した。該セメントクリンカーを粉砕した後、表3に示すように二水石膏(ブレーン比表面積4500cm/g)、半水石膏(ブレーン比表面積4500cm/g)、無水石膏(ブレーン比表面積10000cm/g)をSO 換算で所定量を添加・混合してセメント組成物を製造した。これらのセメント組成物のブレーン比表面積は4100〜4250cm /gであった。
上記セメント組成物を使用して表3に示すモルタルを調製した。
なお、高炉スラグ粉末は、ディ・シー社製微粉末(ブレーン比表面積8000cm/g)を用いた。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
どの試験体も、混練りしたスラリーを所定の型枠に充填したのち、型枠ごと、30分間、前置き室温静置し、蒸気養生(30分間40℃で蒸気養生し、さらに1時間55℃で蒸気養生し、さらに4時間60℃で蒸気養生した)後、室温戻しの養生工程に供した。
【0025】
蒸気養生して脱型直後および脱型後14日の圧縮強度を測定した結果を表4に掲げた。フロー及び圧縮強さは、JIS
R 5201「セメントの物理試験方法」に従い試験した。圧縮強度の値は、測定値とNo.2試験体の値との相対値を併記して示した。
本発明のセメント組成物(No.3〜5、7)では、No.2のセメント組成物(無水石膏非含有)に比べて、脱型直後および脱型後14日の圧縮強度が大きかった。特にNo.4とNo.5のセメント組成物では、普通ポルトランドセメントと同等の圧縮強度が得られた。一方、石膏量が多いNo.6のセメント組成物では、脱型後14日の圧縮強度が低下した。
【0026】
【表4】

【0027】
実施例2:コンクリート試験
表5に示す高CA型セメント(セメントクリンカーは実施例1で製造したものを使用した)に骨材を配合、調製したコンクリートのスランプ値と、圧縮強度の測定結果(脱型時、14日材齢)を示した。粗骨材は、「笠間産砕石2005」を用いた。各試験体において、表記載の通り、前置時間は変化させたが、その後の蒸気養生条件は、25分間40℃で蒸気養生し、さらに45分間55℃で蒸気養生し、さらに1時間65℃で蒸気養生し、さらに1時間70℃で蒸気養生とその養生パターンを共通とした。その結果、無水石膏をSO換算で1.17質量%含有させた本願発明の試験体(No.2)では、4.48N/mmの圧縮強度が得られた。これにより、成型後4時間10分と早期に脱型可能となり、一型枠で「一日、2サイクルの型枠成型」が、高CA型セメントを使用したコンクリートでも実現した。
【0028】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0029】
生活・産業廃棄物を原料として使用するセメントであっても、脱型強度が速やかに得られ、14日強度も、従来品と比較して遜色のないモルタル、コンクリート製品とすることのできるセメント組成物とすることが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカー粉砕物と石膏を含有するセメント組成物であって、
前記セメントクリンカーの3CaO・Al(CA)量が10〜17質量%、3CaO・SiO(CS)量が45〜65質量%であり、
前記石膏が、無水石膏、半水石膏及びニ水石膏を含み、全石膏に対する各石膏の割合がSO換算で、無水石膏が10〜60質量%、半水石膏が20〜45質量%及びニ水石膏が20〜45質量%であり、かつ、
セメント組成物中の石膏量がSO換算で3.0〜6.5質量%であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
さらに、セメントクリンカー中の4CaO・Al・Fe(CAF)量が10〜17質量%である、上記記載のセメント組成物。


【公開番号】特開2012−184148(P2012−184148A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49945(P2011−49945)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)