セメント製造装置および製造方法
【課題】ロータリーキルン内のフッ素循環を促進することにより、クリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制しつつ、クリンカの鉱物生成反応を促進することを提供する。
【解決手段】ロータリーキルン1を備えたセメント製造装置であって、ロータリーキルン1内の気相にアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段200を設ける。
【効果】クリンカの鉱物生成反応を促進し、かつクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制することができる。
【解決手段】ロータリーキルン1を備えたセメント製造装置であって、ロータリーキルン1内の気相にアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段200を設ける。
【効果】クリンカの鉱物生成反応を促進し、かつクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、セメント原料にフッ化カルシウムを添加することにより、クリンカの鉱物生成反応を促進してセメント焼成時の熱量を低減することが知られている。一方、セメントクリンカ中のフッ素含有量が増加すると、セメントの水和反応性が著しく低下するという問題があるが、特許文献1ではクリンカ中のf−CaO量を低減することにより、フッ素成分による水和反応性低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−130932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記特許文献1にあっては、フッ素を原料とともにセメント製造装置内に投入しており、原料工程以外からの投入方法については記載されていない。また、クリンカ中のフッ素含有量の増加の抑制ついても記載されていない。
本発明は上記問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、ロータリーキルン内のフッ素循環を促進することにより、クリンカの鉱物生成反応を促進し、かつクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を解決するため、本願発明では、ロータリーキルンを備えたセメント製造装置であって、ロータリーキルン内の気相にアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段を設けることとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、クリンカの鉱物生成反応を促進し、かつクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明におけるセメント製造装置の概略図である。
【図2】窯前におけるロータリーキルンの軸方向断面図である。
【図3】アルカリフッ化物供給手段をバーナ内に設けた例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施の形態]
図1は、本発明のロータリーキルンの冷却装置を適用したセメント製造装置100の模式図、図2は窯前102における軸方向断面図である。セメント製造装置100は、ロータリーキルン1、サスペンションプレヒータ110、仮焼炉120、クリンカクーラ130を有する。
【0009】
セメント原料はサスペンションプレヒータ110に投入されて予熱され、ロータリーキルン1の窯尻101に設けられた仮焼炉120を介してロータリーキルン1に供給される。窯前102からはバーナ30がロータリーキルン1内に延在して燃料を噴射する。バーナ30から噴射される燃料を燃焼することによりセメント原料は焼成され、クリンカとなって排出される。
【0010】
バーナ30の鉛直上方には、ロータリーキルン1内にアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段200が設けられている。アルカリフッ化物はクリンカの鉱物生成を促進して焼成温度を低減可能とする物質であり、このアルカリフッ化物をロータリーキルン1内に供給することで、セメント製造時のエネルギー低減を図る。なお、アルカリフッ化物供給手段200は、噴霧装置であってもよいし、他の供給装置であってもよい。
【0011】
アルカリフッ化物をセメント原料とともにロータリーキルン1に供給して焼成を行った場合、アルカリフッ化物が塩素バイパス設備等(セメント製造装置の排ガスを抽気して塩素分を除去する設備)を介して系外に排出され、クリンカの鉱物生成反応を促進できないおそれがある。
【0012】
したがって、本願では窯前102にアルカリフッ化物供給手段200を設け、セメント原料とは別の経路でアルカリフッ化物をロータリーキルン1内の気相Dに供給する。アルカリフッ化物を直接気相Dに供給することにより、キルン内のフッ素循環(ロータリーキルン1内の高温領域でアルカリフッ化物が揮発し、バーナ30近傍の高温領域よりも窯尻101側の低温領域で凝縮するという物質循環)を促進し、低温領域でのフッ素濃度の上昇によってクリンカの鉱物生成反応を促進し、かつ高温領域でのフッ素濃度の減少によってクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制するものである。
【0013】
窯前102のバーナ30付近はロータリーキルン1内の気相D中で相対的に高温となる領域であり(約2000℃:特開2004−205064
【0014】
等参照)、とりわけバーナ30の火炎32側や鉛直上方側の領域D’が最も高温の領域となる。したがってこの領域D’にアルカリフッ化物を供給することにより、アルカリフッ化物をより揮発させることが可能となる。
【0015】
なお、本願で用いるアルカリフッ化物は、ロータリーキルン1の窯前102において揮発可能であればよいが、ロータリーキルン1内のフッ素循環を促進する観点からはなるべく沸点の低いものが望ましい。
【0016】
例えば、本願ではアルカリフッ化物としてフッ化カリウムを用いる。フッ化カリウムは沸点1505℃であり、フッ化カルシウム(沸点2500℃)、フッ化ナトリウム(沸点1704℃)等、他のアルカリフッ化物と比べて沸点が低い。このように低沸点のアルカリフッ化物を用いることにより、ロータリーキルン1内におけるフッ素成分の揮発を促進し、ロータリーキルン1内のフッ素循環を促進させる(なお、沸点はいずれも「改訂4版・化学便覧・基礎編:日本化学会、平成5年、丸善株式会社」から引用)。
【0017】
なお、アルカリフッ化物供給手段200の窯尻方向端部201は、バーナ30の先端部31と同一位置に設けられる。すなわち、窯尻方向端部201と先端部31は、ロータリーキルン1の軸方向に対し同一の位置である。このような位置関係とすることで、アルカリフッ化物をバーナ火炎32の鉛直上方側に供給し、アルカリフッ化物の揮発をより促進させることが可能となる。なお、より揮発を促進するためにアルカリフッ化物供給手段200をバーナ30内部に設け、火炎32の中に直接アルカリフッ化物を供給してもよい。
【0018】
[効果]
(1)(4)ロータリーキルン1を備えたセメント製造装置であって、ロータリーキルン1内の気相Dにアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段200を設けた。
これにより、アルカリフッ化物を高温の気相Dに供給することで揮発を促進させ、クリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制しつつクリンカの鉱物生成反応を促進することができる。
(2)アルカリフッ化物供給手段200は、ロータリーキルン1の窯前102に設けられることとした。窯前102にはセメント焼成用燃料のバーナ30が設けられるため、ロータリーキルン1内の気相D中でも相対的に高温の領域となる。したがってこの窯前102にアルカリフッ化物を供給することで、フッ素成分の揮発をより促進することができる。
(3)アルカリフッ化物は、フッ化カリウムとした。アルカリフッ化物の中でも沸点の低いフッ化カリウムを用いることで、フッ素成分の揮発をより促進することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、セメント製造用のロータリーキルンに適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 ロータリーキルン
30 バーナ
100 セメント製造装置
102 窯前
200 アルカリフッ化物供給手段
D 気相
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、セメント原料にフッ化カルシウムを添加することにより、クリンカの鉱物生成反応を促進してセメント焼成時の熱量を低減することが知られている。一方、セメントクリンカ中のフッ素含有量が増加すると、セメントの水和反応性が著しく低下するという問題があるが、特許文献1ではクリンカ中のf−CaO量を低減することにより、フッ素成分による水和反応性低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−130932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記特許文献1にあっては、フッ素を原料とともにセメント製造装置内に投入しており、原料工程以外からの投入方法については記載されていない。また、クリンカ中のフッ素含有量の増加の抑制ついても記載されていない。
本発明は上記問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、ロータリーキルン内のフッ素循環を促進することにより、クリンカの鉱物生成反応を促進し、かつクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を解決するため、本願発明では、ロータリーキルンを備えたセメント製造装置であって、ロータリーキルン内の気相にアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段を設けることとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、クリンカの鉱物生成反応を促進し、かつクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明におけるセメント製造装置の概略図である。
【図2】窯前におけるロータリーキルンの軸方向断面図である。
【図3】アルカリフッ化物供給手段をバーナ内に設けた例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施の形態]
図1は、本発明のロータリーキルンの冷却装置を適用したセメント製造装置100の模式図、図2は窯前102における軸方向断面図である。セメント製造装置100は、ロータリーキルン1、サスペンションプレヒータ110、仮焼炉120、クリンカクーラ130を有する。
【0009】
セメント原料はサスペンションプレヒータ110に投入されて予熱され、ロータリーキルン1の窯尻101に設けられた仮焼炉120を介してロータリーキルン1に供給される。窯前102からはバーナ30がロータリーキルン1内に延在して燃料を噴射する。バーナ30から噴射される燃料を燃焼することによりセメント原料は焼成され、クリンカとなって排出される。
【0010】
バーナ30の鉛直上方には、ロータリーキルン1内にアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段200が設けられている。アルカリフッ化物はクリンカの鉱物生成を促進して焼成温度を低減可能とする物質であり、このアルカリフッ化物をロータリーキルン1内に供給することで、セメント製造時のエネルギー低減を図る。なお、アルカリフッ化物供給手段200は、噴霧装置であってもよいし、他の供給装置であってもよい。
【0011】
アルカリフッ化物をセメント原料とともにロータリーキルン1に供給して焼成を行った場合、アルカリフッ化物が塩素バイパス設備等(セメント製造装置の排ガスを抽気して塩素分を除去する設備)を介して系外に排出され、クリンカの鉱物生成反応を促進できないおそれがある。
【0012】
したがって、本願では窯前102にアルカリフッ化物供給手段200を設け、セメント原料とは別の経路でアルカリフッ化物をロータリーキルン1内の気相Dに供給する。アルカリフッ化物を直接気相Dに供給することにより、キルン内のフッ素循環(ロータリーキルン1内の高温領域でアルカリフッ化物が揮発し、バーナ30近傍の高温領域よりも窯尻101側の低温領域で凝縮するという物質循環)を促進し、低温領域でのフッ素濃度の上昇によってクリンカの鉱物生成反応を促進し、かつ高温領域でのフッ素濃度の減少によってクリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制するものである。
【0013】
窯前102のバーナ30付近はロータリーキルン1内の気相D中で相対的に高温となる領域であり(約2000℃:特開2004−205064
【0014】
等参照)、とりわけバーナ30の火炎32側や鉛直上方側の領域D’が最も高温の領域となる。したがってこの領域D’にアルカリフッ化物を供給することにより、アルカリフッ化物をより揮発させることが可能となる。
【0015】
なお、本願で用いるアルカリフッ化物は、ロータリーキルン1の窯前102において揮発可能であればよいが、ロータリーキルン1内のフッ素循環を促進する観点からはなるべく沸点の低いものが望ましい。
【0016】
例えば、本願ではアルカリフッ化物としてフッ化カリウムを用いる。フッ化カリウムは沸点1505℃であり、フッ化カルシウム(沸点2500℃)、フッ化ナトリウム(沸点1704℃)等、他のアルカリフッ化物と比べて沸点が低い。このように低沸点のアルカリフッ化物を用いることにより、ロータリーキルン1内におけるフッ素成分の揮発を促進し、ロータリーキルン1内のフッ素循環を促進させる(なお、沸点はいずれも「改訂4版・化学便覧・基礎編:日本化学会、平成5年、丸善株式会社」から引用)。
【0017】
なお、アルカリフッ化物供給手段200の窯尻方向端部201は、バーナ30の先端部31と同一位置に設けられる。すなわち、窯尻方向端部201と先端部31は、ロータリーキルン1の軸方向に対し同一の位置である。このような位置関係とすることで、アルカリフッ化物をバーナ火炎32の鉛直上方側に供給し、アルカリフッ化物の揮発をより促進させることが可能となる。なお、より揮発を促進するためにアルカリフッ化物供給手段200をバーナ30内部に設け、火炎32の中に直接アルカリフッ化物を供給してもよい。
【0018】
[効果]
(1)(4)ロータリーキルン1を備えたセメント製造装置であって、ロータリーキルン1内の気相Dにアルカリフッ化物を供給するアルカリフッ化物供給手段200を設けた。
これにより、アルカリフッ化物を高温の気相Dに供給することで揮発を促進させ、クリンカ中のフッ素含有量の増加を抑制しつつクリンカの鉱物生成反応を促進することができる。
(2)アルカリフッ化物供給手段200は、ロータリーキルン1の窯前102に設けられることとした。窯前102にはセメント焼成用燃料のバーナ30が設けられるため、ロータリーキルン1内の気相D中でも相対的に高温の領域となる。したがってこの窯前102にアルカリフッ化物を供給することで、フッ素成分の揮発をより促進することができる。
(3)アルカリフッ化物は、フッ化カリウムとした。アルカリフッ化物の中でも沸点の低いフッ化カリウムを用いることで、フッ素成分の揮発をより促進することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、セメント製造用のロータリーキルンに適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 ロータリーキルン
30 バーナ
100 セメント製造装置
102 窯前
200 アルカリフッ化物供給手段
D 気相
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーキルンを備えたセメント製造装置であって、
前記ロータリーキルン内の気相にアルカリフッ化物を供給する、アルカリフッ化物供給手段を設けたこと
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント製造装置において、
前記アルカリフッ化物供給手段は、前記ロータリーキルンの窯前に設けられること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセメント製造装置において、
前記アルカリフッ化物は、フッ化カリウムであること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項4】
ロータリーキルンを用いたセメント製造方法であって、
前記ロータリーキルン内の気相にアルカリフッ化物を供給すること
を特徴とするセメント製造方法。
【請求項1】
ロータリーキルンを備えたセメント製造装置であって、
前記ロータリーキルン内の気相にアルカリフッ化物を供給する、アルカリフッ化物供給手段を設けたこと
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント製造装置において、
前記アルカリフッ化物供給手段は、前記ロータリーキルンの窯前に設けられること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセメント製造装置において、
前記アルカリフッ化物は、フッ化カリウムであること
を特徴とするセメント製造装置。
【請求項4】
ロータリーキルンを用いたセメント製造方法であって、
前記ロータリーキルン内の気相にアルカリフッ化物を供給すること
を特徴とするセメント製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2012−25607(P2012−25607A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164502(P2010−164502)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
[ Back to top ]