説明

セラミックス分離膜

【課題】基材或いは濾過膜の熱膨張係数よりもシール材の熱膨張係数を大きくしても、セラミックス分離膜の製造時にシール材へのクラックの発生が防止されるセラミックス分離膜を提供する。
【解決手段】シール材16と基材12および濾過膜14とは、異なる材質により構成されており、シール材16の熱膨張係数K2と基材12の熱膨張係数K1との差(K2−K1)およびシール材16の熱膨張係数K2と濾過膜14の熱膨張係数K3との差(K2−K3)とシール材16の厚みTとが上記式(1)および式(3)或いは上記式(2)および式(4)の範囲内となるため、基材12の熱膨張係数K1および濾過膜14の熱膨張係数K3よりもシール材16の熱膨張係数K2を大きくしてもそのセラミックス分離膜10の製造時にシール材16へのクラックの発生が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス分離膜に関し、特にそのセラミックス分離膜に備えられるシール材の熱膨張係数の選択範囲を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス分離膜は、セラミックス多孔体を利用して例えば液体の中の懸濁物質或いはガスの中の細菌、粉塵等を除去や分離するのに用いられるものであり、例えば特許文献1、2に示すように、複数の連通気孔を有する多孔体からなる基材と、その基材に対して平均細孔径が小さくその基材の表面に固着形成される濾過膜と、少なくともその基材の端面及びその基材の端面におけるその濾過膜の一方を被覆するガラス状のシール材とを備えるものがある。
【0003】
上記のようなセラミックス分離膜は、例えば特許文献1の図1に示すように、チューブ状の基材の内周面に上記濾過膜を形成した上記基材をハウジング内に収容しそのチューブ状の基材の両端面における外周面とそのハウジングの内周面との間にO−リングのような軟質合成樹脂製のシールを配設させて、気体或いは液体等の被処理流体をそのチューブ状の基材の一端から供給しその内周面内を挿通させることにより、その内周面の濾過膜を透過した被処理流体すなわち濾過流体がその基材の外周側から回収されると共に濾過されなかった被処理流体がそのチューブ状の基材の他端から回収されるクロスフロー型のセラミックス分離膜として使用されることがある。上記クロスフロー型のセラミックス分離膜は、特許文献1の図1(b)に示すように、チューブ状の基材の一端に被処理流体を供給すると濾過膜が形成されていない基材の一端面に露出する連通気孔から被処理流体が浸入してしまうことがあるため、特許文献1の図1(a)に示すようにチューブ状の基材の一端面及びその基材の一端面における濾過膜に上記シール材が被覆されることにより被処理流体を上記濾過膜を介して濾過させられるようになっている。
【0004】
また、上記のようなセラミックス分離膜は、上述のように各構成部材すなわちセラミックス製の基材、濾過膜、およびシール材により構成されており、それら構成部材をその機能に適合する物理的、化学的特性の性質とするために、或いはコスト面での要請からそれら構成部材をそれぞれ異なる材質とすることを要求される。しかしながら、それら構成部材を異なる材質にしそれら材質の熱膨張係数がそれぞれ所定以上に異なると、セラミックス分離膜の製造時にそれら構成部材相互間において相互に引張応力や圧縮応力が発生するためそれら構成部材にクラックが発生してしまうという問題があった。そのため、特許文献1のセラミックス分離膜では、上記セラミックス分離膜の構成部材の熱膨張係数が略同じになるようにそれら構成部材の材質を選択するだけでなく、基材の熱膨張係数よりシール材の熱膨張係数を小さくし或いは濾過膜の熱膨張係数よりシール材の熱膨張係数を小さくし、それら熱膨張係数の差を所定範囲内にすることで上記問題を解決できると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4367678号
【特許文献2】特開昭61−8106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラミックス分離膜において、上述のものとは逆に基材或いは濾過膜の熱膨張係数がシール材の熱膨張係数より小さい場合にはそのシール材にクラックが発生してしまうという問題があった。そのため従来は、基材、濾過膜、シール材の材質の選択条件が狭く市場からの要求例えば特許文献1のクロスフロー型のセラミックス分離膜においてシール材の熱膨張係数を大きくしO−リングシールをなくしてそのシール材を金属製のシール材を介して、或いは金属製のハウジングに直接的に連結させる等の要求に対応できなかった。
【0007】
本発明の目的とするところは、基材或いは濾過膜の熱膨張係数よりもシール材の熱膨張係数を大きくしても、セラミックス分離膜の製造時にシール材へのクラックの発生が防止されるセラミックス分離膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、本発明者等は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、セラミックス分離膜において、シール材の厚みを考慮し、基材の熱膨張係数をシール材の熱膨張係数より小さくしてそれらの熱膨張係数の差を所定範囲にすると共にそのシール材の厚みを所定範囲内にするか、或いは、濾過膜の熱膨張係数をシール材の熱膨張係数より小さくしそれらの熱膨張係数の差を所定範囲にすると共にそのシール材の厚みを所定範囲内にすると、セラミックス分離膜の製造時にそのシール材にクラックの発生を防止できることを見いだした。本発明はこのような知見に基づいて為されたものである。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) 複数の連通気孔を有する多孔体からなる基材と、その基材に対して平均細孔径が小さくその基材の表面に形成される濾過膜と、少なくともその基材の端部及びその基材の端部近傍におけるその濾過膜の一方を被覆するシール材とを備えたセラミックス分離膜であって、(b) 前記シール材と前記基材とは、異なる材質により構成されており、(c) 前記シール材の熱膨張係数と前記基材の熱膨張係数との差および前記シール材の厚みが式(1)または式(2)の範囲内になることである。
0<(K2−K1)≦1、T≦150μm・・・(1)
1<(K2−K1)≦2.1、T≦50μm・・・(2)
但し、K1は前記基材の熱膨張係数(×10−6/℃)、K2は前記シール材の熱膨張係数(×10−6/℃)、Tは前記シール材の厚みである。
【0010】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、(a) 複数の連通気孔を有する多孔体からなる基材と、その基材に対して平均細孔径が小さくその基材の表面に形成される濾過膜と、少なくともその基材の端部及びその基材の端部近傍におけるその濾過膜の一方を被覆するシール材とを備えたセラミックス分離膜であって、(b) 前記シール材と前記濾過膜とは、異なる材質により構成されており、(c) 前記シール材の熱膨張係数と前記濾過膜の熱膨張係数との差および前記シール材の厚みが式(3)または式(4)の範囲内となることである。
0<(K2−K3)≦1、T≦150μm・・・(3)
1<(K2−K3)≦2.1、T≦50μm・・・(4)
但し、K2は前記シール材の熱膨張係数(×10−6/℃)、K3は前記濾過膜の熱膨張係数(×10−6/℃)、Tは前記シール材の厚みである。
【0011】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記シール材と前記濾過膜とは、異なる材質により構成されており、(b) 前記シール材の熱膨張係数と前記濾過膜の熱膨張係数との差および前記シール材の厚みが式(3)または式(4)の範囲内となることである。
0<(K2−K3)≦1、T≦150μm・・・(3)
1<(K2−K3)≦2.1、T≦50μm・・・(4)
但し、K2は前記シール材の熱膨張係数(×10−6/℃)、K3は前記濾過膜の熱膨張係数(×10−6/℃)、Tは前記シール材の厚みである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明のセラミックス分離膜によれば、前記シール材の熱膨張係数と前記基材の熱膨張係数との差(K2−K1)および前記シール材の厚みTが上記式(1)または式(2)の範囲内となるため、前記基材の熱膨張係数よりも前記シール材の熱膨張係数を大きくしてもそのセラミックス分離膜の製造時に前記シール材へのクラックの発生が防止される。
【0013】
請求項2に係る発明のセラミックス分離膜によれば、前記シール材の熱膨張係数と前記濾過膜の熱膨張係数との差(K2−K3)および前記シール材の厚みTが上記式(3)または式(4)の範囲内となるため、前記濾過膜の熱膨張係数よりも前記シール材の熱膨張係数を大きくしてもそのセラミックス分離膜の製造時に前記シール材へのクラックの発生が防止される。
【0014】
請求項3に係る発明のセラミックス分離膜によれば、前記シール材の熱膨張係数と前記濾過膜の熱膨張係数との差(K2−K3)および前記シール材の厚みTが上記式(3)または式(4)の範囲内となるため、前記基材および前記濾過膜の熱膨張係数よりも前記シール材の熱膨張係数を大きくしてもそのセラミックス分離膜の製造時に前記シール材へのクラックの発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用されたセラミックス分離膜を説明する断面図である。
【図2】図1のセラミックス分離膜を製造する製造工程を説明する工程図である。
【図3】シール材の熱膨張曲線を示すグラフであって、図3(a)は通常の場合、図3(b)は結晶転移がある場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の一実施例のセラミックス分離膜10の断面構造を示す図である。セラミックス分離膜10は、図1に示すように、チューブ形状すなわち略円筒形状に成形された複数の連通気孔を有する多孔体から成る基材12と、その基材の内周面に形成される基材12の連通気孔の径より小さい連通気孔を複数有する薄膜から成る濾過膜14と、基材12の一端面およびその基材12の一端面近傍の濾過膜14を被覆するシール材16とにより構成されており、そのセラミックス分離膜10が金属製のハウジング18内にO−リングシール20と共に収容されている。このO−リングシール20は、種々の形状をとり得るものであり、例えば4フッ化エチレン樹脂等の耐熱性軟質樹脂から構成される。
【0018】
また、セラミックス分離膜10は、図1に示すように、そのセラミックス分離膜10が所定温度例えば500℃以下に加熱された状態において混合気体22を略円筒形状の基材12の一端から供給しその内周面12a内を挿通させることにより、その内周面12aに形成された濾過膜14を透過してその混合気体から特定のガスが分離されるようになっている。
【0019】
基材12は、平均粒径1乃至100μmφ程度のセラミック粒子例えばアルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素、陶磁器屑等から成りその内周面12aから外周面12bに連通する連通気孔を複数備えるものであり、所定の熱膨張係数K1(×10−6/℃)を有するものである。また、本実施例では、基材12の熱膨張係数K1は7.3(×10−6/℃)である。
【0020】
濾過膜14は、平均粒径0.01乃至1μmφ程度のセラミック粒子例えばアルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素、陶磁器屑等から成り基材12の連通気孔より径が小さいすなわち基材12に対して平均細孔径が小さい連通気孔がその内周面14aから外周面14bに複数連通し、所定の熱膨張係数K3(×10−6/℃)を有するものである。また、本実施例では、濾過膜14の熱膨張係数K3は基材12の熱膨張係数K1と同じ7.3(×10−6/℃)である。
【0021】
シール材16は、基材12の一端から上記混合気体22がその基材12の内部に浸入することを防止するために無鉛ガラス例えばホウケイ酸ガラス(B−SiO系)、ソーダ石灰ガラス(NaO−CaO−SiO系)、その他無鉛ガラス等から成り、上記熱膨張係数K1および熱膨張係数K3の値より大きい所定の熱膨張係数K2(×10−6/℃)を有するものである。また、本実施例では、シール材16の熱膨張係数K2は7.8乃至9.4(×10−6/℃)の範囲内である。また、シール材16は、基材12の一端面およびその基材12の一端面近傍の濾過膜14を所定の厚みTで被覆させられており、本実施例においてそのシール材16の厚みTは50μm以下或いは150μm以下である。また、シール材16で使用される無鉛ガラス本実施例ではホウケイ酸ガラスの軟化点は、ガス分離温度例えば500℃以下より高いものになっている。
【0022】
ここで、本実施例のセラミックス分離膜10を製造する製造工程P1乃至P7を図2を用いて説明する。
【0023】
図2の混練工程P1では、平均粒径1乃至100μmφ程度のアルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素、陶磁器屑等のセラミック粒子本実施例では平均粒径が3μmのアルミナを使用し、この中に分散媒として水、有機バインダとしてメトローズ等を添加して混練する。次に、図2の押出成形工程P2では、混練工程P1で混練した坏土を押出成形してその坏土を略円筒形状に成形する。その後、第1乾燥・焼成工程P3では、その略円筒形状の坏土を乾燥させてその後例えば1400〜1550℃の範囲内の温度で焼成を行い、略円筒形状例えば外径10mmφ、内径7mmφ、長さ150mmの基材12が得られる。
【0024】
次に、第1ディッピング工程P4では、平均粒径0.01乃至1μmφ程度のアルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素、陶磁器屑等のセラミック粒子本願実施例では平均粒径が例えば0.5〜1μmφ程度のアルミナ粒子を使用して、この中に溶媒、バインダー、可塑剤、および分散剤等を混合してスラリーを調製する。そしてそのスラリーに基材12を浸すことによりその内周面12aにそのスラリーが塗布される。その後、第2乾燥・焼成工程P5では、基材12を乾燥させてその後1300℃乃至1400℃の範囲内の温度で焼成を行い、基材12の内周面12aに濾過膜14が形成される。
【0025】
次に、第2ディッピング工程P6では、無鉛ガラス例えばホウケイ酸ガラス(B−SiO系)、ソーダ石灰ガラス(NaO−CaO−SiO系)、その他無鉛ガラス等の粉末実施例ではホウケイ酸ガラスの粉末を使用して、この中に溶液、バインダー、可塑剤、および分散剤等を混合してスラリーを調製する。そしてそのスラリーに基材12の一端面を浸すことによりその一端面にそのスラリーが塗布される。その後、第3乾燥・焼成工程P7では、基材12を乾燥させてその後850℃程度の温度で焼成を行い、図1に示すように基材12の一端面および基材12の一端面近傍の濾過膜14にシール材16が被覆され、セラミックス分離膜10が製造される。
【0026】
また、第2ディッピング工程P6で使用される上記ホウケイ酸ガラスは、SiOを60重量%、Bを15重量%、NaOを10重量%、Alを10重量%、およびその他の成分(KO、MgO、ZnO等)を5重量%から成るものである。また、混練工程P1および第1ディッピング工程P4で使用されたアルミナの平均粒径は、粒度分布測定装置によって測定されたアルミナの粒度分布の積算値50%(d50)の粒度を示すものである。また、本実施例で使用した上記粒度分布測定装置は、水に分散させた粒子に照射したレーザー光の散乱角度、散乱強度によりその粒子径を求め粒度分布を測定するMalvern社製のMastersizer2000粒度分布測定装置を使用した。
【0027】
ここで、本願発明者は、上記セラミックス分離膜10において、シール材16の熱膨張係数K2と基材12の熱膨張係数K1との差(K2−K1)或いはシール材16の熱膨張係数K2と濾過膜14の熱膨張係数K3との差(K2−K3)を変化させると共にシール材16の厚みTを変化させた時におけるそのセラミックス分離膜10製造後のシール材16への影響すなわちシール材16にクラックが発生するか否かどうかを検証する実験を行った。以下に、その実験結果を表1に示す。
【0028】
また、上記実験で使用されるセラミックス分離膜10は、そのシール材16を形成する第2ディッピング工程P6、第3乾燥・焼成工程P7において組成範囲がそれぞれ異なるホウケイ酸ガラスが使用されることによりそのシール材16の熱膨張係数K2が7.8乃至13.8の範囲とそれぞれ異なるシール材16が形成されると共にそのシール材16の厚みTがそれぞれ異なる点だけ違うものであって他の製造工程P1乃至P5は前述の実施例と同様にそれぞれ同じに行われるものである。
【0029】
また、上記実験で使用されるホウケイ酸ガラスは、SiOを30乃至80重量%、Bを2乃至40重量%、NaOを2乃至30重量%、Alを0乃至30重量%、およびその他の成分(KO、MgO、ZnO等)、好ましくは、SiOを40乃至70重量%、Bを5乃至30重量%、NaOを5乃至20重量%、Alを2乃至20重量%、およびその他の成分(KO、MgO、ZnO等)から成るものである。
【0030】
また、後述する表1の実験結果において、シール材16の厚みT(μm)の測定は、シール材16の断面を光学顕微鏡で観察して行ったものであり、シール材16の厚みTにはバラツキがありそのシール材16の厚みTの測定精度は±5μmである。また、シール材16のクラックの有無は、第3乾燥・焼成工程P7の後にシール材16に染料水溶液を塗布し、水洗いした後に目視観察することで評価をしたものである。
【0031】
また、後述する表1の実験結果において、基材12、シール材16、濾過膜14の熱膨張係数K1乃至K3の測定は、その基材12、シール材16、濾過膜14の各評価サンプルの熱膨張量ΔL1乃至ΔL3を測定し、下記式(a)乃至式(c)により熱膨張係数K1乃至K3が算出される。但し、K1は基材12の熱膨張係数(×10−6/℃)、K2はシール材16の熱膨張係数(×10−6/℃)、K3は濾過膜14の熱膨張係数(×10−6/℃)、ΔL1は標準温度Ts1からシール材16の転移温度Tt1の間の基材12のサンプルの線熱膨張量(単位mm)、ΔL2は標準温度Ts1からシール材16の転移温度Tt1の間のシール材16のサンプルの線熱膨張量(単位mm)、ΔL3は標準温度Ts1からシール材16の転移温度Tt1の間の濾過膜14のサンプルの線熱膨張量(単位mm)、Lは室温における基材12、シール材16、濾過膜14サンプルの長さ(単位mm)である。
K1=(ΔL1/ΔT1)/L…(a)
K2=(ΔL2/ΔT1)/L…(b)
K3=(ΔL3/ΔT1)/L…(c)
【0032】
具体的には、評価サンプルとして室温において、基材12、濾過膜14、シール材16の単体焼結体をそれぞれ同形状に断面3mm×4mm、長さLが20mmの四角柱状に加工したものを使用し、基準温度Ts1からシール材16の転移温度Tt1の間の温度差ΔT1における、各評価サンプルの線熱膨張量ΔL1乃至ΔL3を高精度二試料熱分析装置−TMA標準形(商品名:理学電機社製)により、標準試料と評価サンプルとの伸びの差を差動トランスを用いて検出することにより測定される。
【0033】
また、上記標準温度Ts1は、評価サンプルの線熱膨張量の変化が少ない温度に設定することが一般的であり、本実験の評価サンプルがセラミックスであることを考慮して25℃と規定する。
【0034】
また、上記シール材16の転移温度Tt1は、上記の線熱膨張量測定において、図3に示すようにシール材16サンプルがガラス状態から過冷却液体に転移することにより線熱膨張量が急速に立ち上がる温度と規定する。また、図3(b)は、クリストバライトのように結晶転移がある場合の例であり、シール材16の転移温度Tt1より低い温度域で線熱膨張量が凸の屈曲を示しているが、この場合でも上記と同様に規定する。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、シール材16の熱膨張係数K2が7.8(×10−6/℃)でありシール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が共に0.5(×10−6/℃)である場合おいて、シール材16の厚みTが150μm以下であるとシール材16にクラックは発生しないがシール材16の厚みTが150μmより厚くなる200μmではシール材16にクラックが発生した。また、シール材16の熱膨張係数K2が8.3(×10−6/℃)でありシール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が共に1.0(×10−6/℃)である場合おいて、シール材16の厚みTが150μm以下であるとシール材16にクラックは発生しないがシール材16の厚みTが150μmより厚くなる200μm、220μmではシール材16にクラックが発生した。
【0037】
また、表1に示すように、シール材16の熱膨張係数K2が8.6(×10−6/℃)でありシール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が共に1.3(×10−6/℃)である場合おいて、シール材16の厚みTが50μmより厚くなるとシール材16にクラックが発生するがシール材16の厚みTが50μmすなわち50μm以下になるとシール材16にはクラックが発生しない。また、シール材16の熱膨張係数K2が8.9(×10−6/℃)でありシール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が共に1.6(×10−6/℃)である場合おいて、シール材16の厚みTが50μmより厚くなるとシール材16にクラックが発生するがシール材16の厚みTが50μmすなわち50μm以下になるとシール材16にはクラックが発生しない。また、シール材16の熱膨張係数K2が9.4(×10−6/℃)でありシール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が共に2.1(×10−6/℃)である場合おいて、シール材16の厚みTが50μmより厚くなるとシール材16にクラックが発生するがシール材16の厚みTが50μmすなわち50μm以下になるとシール材16にはクラックが発生しない。
【0038】
また、表1に示すように、シール材16の熱膨張係数K2が10.9(×10−6/℃)でありシール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が共に3.6(×10−6/℃)である場合おいて、シール材16の厚みTが60μm以下のすべての実験でシール材16にクラックが発生した。また、シール材16の熱膨張係数K2が13.8(×10−6/℃)でありシール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が共に6.5(×10−6/℃)である場合おいて、シール材16の厚みTが60μm以下のすべての実験でシール材16にクラックが発生した。
【0039】
上記の表1の実験結果において、シール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が1.0(×10−6/℃)以下であり且つシール材16の厚みTが150μm以下の場合にはシール材16にクラックが発生しないと考えられる。すなわち、セラミック分離膜10において、基材12、濾過膜14、シール材16を下記式(1)および式(3)の範囲内になるように構成することによって、シール材16へのクラックの発生が防止されると考えられる。
0<(K2−K1)≦1.0、シール材16の厚みT≦150μm・・・(1)
0<(K2−K3)≦1.0、シール材16の厚みT≦150μm・・・(3)
【0040】
また、上記の表1の実験結果において、シール材16と基材12との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)が1.0(×10−6/℃)より大きく2.1(×10−6/℃)以下であり且つシール材16の厚みTが50μm以下の場合にはシール材16にクラックが発生しないと考えられる。すなわち、セラミック分離膜10において、基材12、濾過膜14、シール材16を下記式(2)および式(4)の範囲内になるように構成することによって、シール材16へのクラックの発生が防止されると考えられる。
1.0<(K2−K1)≦2.1、シール材16の厚みT≦50μm・・・(2)
1.0<(K2−K3)≦2.1、シール材16の厚みT≦50μm・・・(4)
【0041】
上述のように、本実施例のセラミックス分離膜10によれば、シール材16と基材12およびシール材16と濾過膜14とは、異なる材質により構成されており、シール材16の熱膨張係数K2と基材12の熱膨張係数K1との差(K2−K1)およびシール材16の熱膨張係数K2と濾過膜14の熱膨張係数K3との差(K2−K3)とシール材16の厚みTとが上記式(1)および式(3)或いは上記式(2)および式(4)の範囲内となるため、基材12の熱膨張係数K1および濾過膜14の熱膨張係数K3よりもシール材16の熱膨張係数K2を大きくしてもそのセラミックス分離膜10の製造時にシール材16へのクラックの発生が防止される。
【0042】
以上、本発明の一実施例を図面および表1に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0043】
たとえば、本実施例のセラミックス分離膜10において、シール材16は、基材12の一端面およびその基材12の一端面近傍の濾過膜14を被覆していたが、必ずしもシール材16は基材12と濾過膜14との両方を被覆する必要はない。すなわち、シール材16は、基材12の一端面のみを被覆するものであっても良い。また、この場合は、セラミックス分離膜10の製造時において、シール材16のクラックの発生は基材12とシール材16との熱膨張係数差(K2−K1)およびシール材16の厚みTによって決まるため、基材12、シール材16を下記式(1)或いは式(2)の範囲内になるように構成することによってシール材16へのクラックの発生が防止される。
【0044】
また、シール材16は、基材12の一端面近傍の濾過膜14のみを被覆するものであっても良い。また、この場合は、セラミックス分離膜10の製造時において、シール材16のクラックの発生は基材12と濾過膜14との熱膨張係数差(K2−K3)およびシール材16の厚みTによって決まるため、濾過膜14、シール材16を下記式(3)或いは式(4)の範囲内になるように構成することによってシール材16へのクラックの発生が防止される。
【0045】
また、本実施例のセラミックス分離膜10において、基材12および濾過膜14は製造工程において同じアルミナが使用されたがアルミナ以外のセラミックス例えばムライト、コージェライト、炭化珪素、陶磁器屑等が使用されても良く、さらに基材12と濾過膜14とが同じセラミックスで構成される必要はない。また、本実施例のセラミックス分離膜10において、シール材16は製造工程において無鉛ガラスのホウケイ酸ガラスが使用されたがホウケイ酸ガラス以外の無鉛ガラス例えばソーダ石灰ガラス、その他無鉛ガラス等の無鉛ガラスが使用されても良い。すなわち、本発明において、基材12、濾過膜14、シール材16は上記式1乃至式4の範囲内で種々のものが使用されても、本実施例と同様の効果を得ることができる。
【0046】
また、本実施例のセラミックス分離膜10において、濾過膜14は、一層であったが、2層以上の複層であっても良い。また、通常濾過膜14はセラミックス分離膜10の濾過機能を保有するための部材を示すが、本発明にいう濾過膜には濾過膜14を複層とした場合における中間層も包含する。
【0047】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
10:セラミックス分離膜
12:基材
14:濾過膜
16:シール材
K1:基材の熱膨張係数
K2:シール材の熱膨張係数
K3:濾過膜の熱膨張係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の連通気孔を有する多孔体からなる基材と、該基材に対して平均細孔径が小さく該基材の表面に形成される濾過膜と、少なくとも該基材の端部及び該基材の端部近傍における該濾過膜の一方を被覆するシール材とを備えたセラミックス分離膜であって、
前記シール材と前記基材とは、異なる材質により構成されており、
前記シール材の熱膨張係数と前記基材の熱膨張係数との差および前記シール材の厚みが式(1)または式(2)の範囲内となることを特徴とするセラミックス分離膜。
0<(K2−K1)≦1、T≦150μm・・・(1)
1<(K2−K1)≦2.1、T≦50μm・・・(2)
但し、K1は前記基材の熱膨張係数(×10−6/℃)、K2は前記シール材の熱膨張係数(×10−6/℃)、Tは前記シール材の厚みである。
【請求項2】
複数の連通気孔を有する多孔体からなる基材と、該基材に対して平均細孔径が小さく該基材の表面に形成される濾過膜と、少なくとも該基材の端部及び該基材の端部近傍における該濾過膜の一方を被覆するシール材とを備えたセラミックス分離膜であって、
前記シール材と前記濾過膜とは、異なる材質により構成されており、
前記シール材の熱膨張係数と前記濾過膜の熱膨張係数との差および前記シール材の厚みが式(3)または式(4)の範囲内となることを特徴とするセラミックス分離膜。
0<(K2−K3)≦1、T≦150μm・・・(3)
1<(K2−K3)≦2.1、T≦50μm・・・(4)
但し、K2は前記シール材の熱膨張係数(×10−6/℃)、K3は前記濾過膜の熱膨張係数(×10−6/℃)、Tは前記シール材の厚みである。
【請求項3】
前記シール材と前記濾過膜とは、異なる材質により構成されており、
前記シール材の熱膨張係数と前記濾過膜の熱膨張係数との差および前記シール材の厚みが式(3)または式(4)の範囲内となることを特徴とする請求項1のセラミックス分離膜。
0<(K2−K3)≦1、T≦150μm・・・(3)
1<(K2−K3)≦2.1、T≦50μm・・・(4)
但し、K2は前記シール材の熱膨張係数(×10−6/℃)、K3は前記濾過膜の熱膨張係数(×10−6/℃)、Tは前記シール材の厚みである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−45490(P2012−45490A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190127(P2010−190127)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】