説明

セラミックメタルハライドランプ

【課題】セラミックメタルハライドランプの製造過程において、電極システムの一部を構成する導電性サーメットと給電リードとの接続部に外嵌した補強用リングが、その内部に溶融状態で充填されたフリットが冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力で破断して、該リング内に充填されたフリットにクラックが発生することを防止する。
【解決手段】導電性サーメット8と給電リード9との接続部に外嵌する補強用リング10A〜10Cの一部に他の部分よりも肉薄にした脆弱部13a〜13cが形成され、該脆弱部13a〜13cが、リング10A〜10C内に溶融状態で充填されたフリットが冷却固化する際に生ずる引っ張り応力で破断して、該応力を早期解放する構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光管がセラミックで形成されたセラミックメタルハライドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックメタルハライドランプの発光管は、水銀や金属ハロゲン化物、始動用の希ガス等を封入する発光管本体とその両端部に設けるキャピラリ(細管)がセラミックで成形されているため、石英製の発光管に比べて、金属ハロゲン化物等による侵蝕が少なく、寿命特性や色特性に優れているという特長を有するが、発光管内の気密性を保持するためのシール構造が非常に難しいものとなっている。
【0003】
図1は、本願出願人の製品に係るセラミックメタルハライドランプの発光管1と該発光管1内の気密性を保持するためのシール構造を示す部分断面図であって、透光性セラミックで成形された発光管本体2の端部にアルミナセラミックの細管で成るキャピラリ3が設けられ、該キャピラリ3内に電極システム4が挿通されている。
【0004】
電極システム4は、発光管本体2内の放電空間5に配置するタングステン電極6と、モリブデン等で成る耐ハロゲン性中間材7と、アルミナ粉末とモリブデン粉末とを混合燒結して成る導電性サーメット8とが夫々突合せ溶接によって直列的に接合されると共に、キャピラリ3の端部に当接して該キャピラリ3内に挿通する電極システム4の位置を規制する一対のニオブ金属棒もしくはタンタル金属棒で成るストッパ20、20が、導電性サーメット8と直交し、且つ該サーメット8を挟んで互いに平行に対峙した状態で、該サーメット8に溶接されている。
【0005】
そして、電極システム4にランプ電力を供給するための導線であるモリブデン製の給電リード(外部リード)9が、導電性サーメット8に溶接して接続されると共に、その接続部にアルミナセラミックで成る補強用リング10が外嵌され、該リング10内からキャピラリ3内へと通ずる空隙に溶融状態で流し込まれて冷却固化したシール材のフリット11によって、導電性サーメット8と給電リード9の接続部が強固に補強される共に、電極システム4がキャピラリ3内に封着されて発光管1内の気密性が保持されるようになっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−100254号公報
【0006】
しかしながら、図1の如き基本構造を有するランプは、その製造過程でキャピラリ3に微小な亀裂が生ずる品質欠陥が数%程度の割合で発生することが判った。その原因を究明すると、補強用リング10を形成するアルミナセラミックよりもそのリング10内に充填されるフリット11の方が熱膨張率が小さいために、該フリット11が固化すると、補強用リング10が十分収縮できなくなって該リングの周方向に引っ張り応力が生じ、その応力で補強用リング10が図2(a)の状態から同図(b)の如く破断して、該リング10の破壊強度の限界まで蓄積された引っ張り応力が一挙に解放されることにより、補強用リング10の破断箇所に固着していたフリット11の部分に、応力解放方向F1、F2に対して略垂直に引っ張り性のクラック12が発生し、該クラック12がキャピラリ3内のフリット11にまで伝播して、セラミック製の細管であるキャピラリ3に亀裂が生ずるものと判明した。また、フリット11よりも更にその内側の導電性サーメット8と給電リード9の方が熱膨張率が小さく、しかも、導電性サーメット8と給電リード9とでは、給電リード9の方が熱膨張率が小さいために、補強用リング10は、給電リード9の周りを囲繞する片端部側に最も大きな引っ張り応力が加わって、その片端部側から割れて破断するに至ることが判った。
【0007】
なお、補強用リング10が破断してその内部に充填されたフリット11にクラック12が発生しても、該クラック12がキャピラリ3内のフリット11にまで伝播しなければ、キャピラリ3に亀裂が生ずることはなく、また、破断した補強用リング10と該リングの内面に対して一体的に固着したフリット11とによって導電性サーメット8と給電リード9の接続部は十分補強されるので、製品欠陥の問題は生じない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、セラミックメタルハライドランプの製造過程において、導電性サーメット8と給電リード9の接続部に外嵌した補強用リング10内に溶融状態で充填されたフリットが冷却固化する際に、補強用リング10がその周方向に生ずる引っ張り応力で破断することによりその内部に充填されたフリット11にクラック12が発生し、該クラック12がキャピラリ3内のフリット11にまで伝播してキャピラリ3に亀裂が生ずることを防止することを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、透光性セラミックで成る発光管本体の端部に設けたキャピラリ内に電極システムが封着され、該電極システムの一部を構成する導電性サーメットと該サーメットに接続する給電リードとの接続部に外嵌した補強用リング内にフリットが充填されたセラミックメタルハライドランプにおいて、前記補強用リングが、その内部に溶融状態で充填されたフリットが冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力を早期解放する構成となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導電性サーメットと給電リードとの接続部に外嵌した補強用リングが、その内部に溶融状態で充填されたフリットが冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力を早期解放することにより、補強用リング内に充填されて固化したフリットに応力解放による引っ張り性のクラックが生ずることが防止され、あるいは該クラックが生じたとしても、そのクラックがキャピラリ内のフリットにまで伝播してキャピラリに微小な亀裂が発生することが防止され、発光管内の気密性が損なわれることも防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るセラミックメタルハライドランプの最良の実施形態は、透光性セラミックで成る発光管本体の端部に設けたキャピラリ内に電極システムが封着され、該電極システムの一部を構成する導電性サーメットと該サーメットに接続する給電リードとの接続部に外嵌した補強用リングの内部にフリットが充填されている。そして、補強用リングは、その内部に充填されたフリットにクラックを生じない程度の引っ張り応力で破断するか、もしくはそのフリットにクラックを生じても該クラックがキャピラリ内のフリットに伝播しない程度の引っ張り応力で破断することにより、該応力を早期解放する構成となっている。この構成の具体例としては、補強用リングの全体的な肉厚が、前記引っ張り応力で破断し得る厚さに選定されるか、あるいは補強用リングの一部に、前記引っ張り応力で破断し得る脆弱部が形成されている。
【0012】
なお、上記補強用リングは、その周方向に生ずる引っ張り応力で破断して該応力を早期解放する構成となっているが、これに限らず、本発明の補強用リングは、その周方向に生ずる引っ張り応力で拡径することにより該応力を早期解放する構成となっている場合であってもよい。
【実施例1】
【0013】
図3は本発明の要部となる補強用リングの例を示す斜視図であって、図3の補強用リング10A〜10Cは、図1の補強用リング10に代えて同図に示す導電性サーメット8と給電リード9の接続部に外嵌されるもので、その内部に充填されたフリット11にクラック12を生じない程度の引っ張り応力で破断するか、もしくはそのフリット11にクラック12を生じても該クラック12がキャピラリ3内のフリット11に伝播しない程度の引っ張り応力で破断することにより該応力を早期解放する構成となっている。
【0014】
つまり、各補強用リング10A〜10Cは、その一部に、他の部分よりも引っ張り応力に抗する強度が弱い脆弱部13a〜13cが形成されたセラミックリングで成り、各々の脆弱部13a〜13cは、他の部分よりも肉厚を薄くした肉薄部で形成されて、リングの内部に溶融状態で充填されたフリット11が冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力で破断して該応力を早期解放するようになっている。
【0015】
なお、補強用リング10Aは、その軸方向に沿って外周面の一部を削ぎ落としたリング形状に成形することによって、他の部分よりも肉薄の脆弱部13aが形成されており、補強用リング10Bは、その軸方向に沿って外周面に凹溝14を形成したリング形状に成形することによって、肉薄の脆弱部13bが形成されている。また、補強用リング10Cは、そのリング穴15が偏芯したリング形状に成形することによって、肉薄の脆弱部13cが形成されている。
【0016】
そして、補強用リング10A〜10Cの脆弱部13a〜13cとなる肉薄部は、リング周方向に生ずる引っ張り応力が、該応力の解放によって補強用リング10A〜10C内のフリット11に図2(b)の如きクラック12を生ずる程度の大きさに達する前、もしくはフリット11に生ずるクラック12がキャピラリ3内のフリット11にまで伝播する程度の大きさに達する前に、その引っ張り応力によって破断し得る肉厚に形成されている。これにより、補強用リング10A〜10Cの内部に溶融状態で充填されたフリット11が冷却固化する際に補強用リング10A〜10Cの周方向に生ずる引っ張り応力が早期解放されて、キャピラリ3に亀裂を生ずることが確実に防止される。
【0017】
なお、補強用リング10A〜10Cは、その一部に形成した脆弱部13a〜13cの肉厚が、リングの内部に充填されたフリット11にクラック12を生じない程度の引っ張り応力で破断する厚さに選定されるか、もしくはそのフリット11にクラック12を生じても該クラック12がキャピラリ3内のフリット11に伝播しない程度の引っ張り応力で破断する厚さに選定されたセラミックリングで成るものであるが、本発明の補強用リングは、全体的な肉厚が前記引っ張り応力で破断し得る厚さに選定されたセラミックリングで成るものであってもよい。
【0018】
ただし、補強用リングの全体的な肉厚は、該リングが、図1のリング10の如く導電性サーメット8と給電リード9の接続部に外嵌され、その内部に溶融状態で充填されたフリット11が冷却固化するまでのシール工程での取り扱い中に割れない程度の最小限の厚さを確保する必要がある。したがって、補強用リングが全体的に肉薄のセラミックリングで成る場合は、その肉厚の下限値を、該リングがシール工程での取り扱い中に割れない程度の厚さに選定し、その肉厚の上限値を、フリット11にクラック12を生じても該クラック12がキャピラリ3内のフリット11に伝播しない程度の引っ張り応力で破断する厚さに選定する。すなわち、補強用リングの全体的な肉厚を一定の範囲内に選定する。
【0019】
これにより、補強用リングは、全体的に一定の肉厚を有するセラミックリングで形成すればよいから、補強用リング10A〜10Cの如く一部に肉薄の脆弱部13a〜13cを有したセラミックリングで形成する場合に比べて、成形加工が容易であり、製造コストも低減されるという利点がある。一方、補強用リング10A〜10Cは、その一部のみを肉薄に形成するので、全体的に肉薄に形成する補強用リングに比べて、強度が優れているという利点がある。
【0020】
なお、図示は省略するが、本発明に係る補強用リングは、給電リード9の周りを囲繞する片端部側が導電性サーメット8の周りを囲繞する他端部側よりも肉薄に形成されているものであってもよい。すなわち、補強用リングは、そのリング内に溶融状態で充填されたフリット11が固化する際に、導電性サーメット8よりも熱膨張率の小さい給電リード9を囲繞する片端部側に最も大きな引っ張り応力が加わるので、その片端部側を他端部側よりも肉薄で割れやすい脆弱部に形成して引っ張り応力を早期解放するようにしてもよい。
【実施例2】
【0021】
図4は補強用リングの他の例を示す斜視図であって、図4の補強用リング10Dも、図1の補強用リング10に代えて導電性サーメット8と給電リード9の接続部に外嵌されるもので、その内部に溶融状態で充填されたフリット11が冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力で拡径することにより該応力を早期解放する構成となっている。すなわち、補強用リング10Dは、図4(a)の如く一対の半割リング16、16を互いに嵌合させてリング状とするセラミックリングで成り、そのリング周方向に生ずる引っ張り応力で図4(b)の如く半割リング16、16が互いに離間してリング径が拡大することによりその引っ張り応力を早期解放するようになっている。
【0022】
なお、半割リング16、16は、一方の側端部に沿って形成された凸条17と、他方の側端部に沿って形成された凹溝18とを互いに嵌合させると共に、その嵌合部を接着剤等で仮固定して、導電性サーメット8と給電リード9の接続部に外嵌する補強用リング10Dに組み立てられる。これにより、補強用リング10Dは、その内部に溶融状態で充填されたフリット11が冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力によって、接着剤等で仮固定された半割リング16、16の嵌合部が分離・離反して拡径することにより、その応力を早期解放することができる。また、図3の補強用リング10A〜10Cは、その周部に脆弱部13a〜13cの破断による欠損が生ずるが、図4の補強用リング10Dは、その周部に欠損が生じないから、図3の補強用リング10A〜10Cよりも導電性サーメット8と給電リード9の接続部を補強する強度に優れている。
【実施例3】
【0023】
図5は補強用リングの変形例を示す斜視図であって、図5の補強用リング10Eは、図1の補強用リング10に代えて導電性サーメット8と給電リード9の接続部に外嵌され、その内部に溶融状態で充填されたフリット11が冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力で拡径することによって該応力を早期解放する構成となっている。すなわち、補強用リング10Eは、タングステン、モリブデン、ニオブもしくはタンタル等で成る高融点金属板19をその両端を互いに重ね合わすように丸めて割リング状とした金属リングで形成され、その周方向に生ずる引っ張り応力でリング径が拡がることにより該応力を早期解放するようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、セラミックメタルハライドランプの製造過程で電極システムの一部を構成する導電性サーメットと給電リードとの接続部を補強する補強用リングが破断して、電極システムを封着するキャピラリに亀裂が生じたり、発光管内の気密性が損なわれることを防止し、該ランプの品質向上に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】セラミックメタルハライドランプの基本構造を示す部分断面図
【図2】補強用リングの従来例とその問題点を示す平面図
【図3】本発明の要旨となる補強用リングの例を示す斜視図
【図4】本発明の要旨となる補強用リングの例を示す斜視図
【図5】本発明の要旨となる補強用リングの例を示す斜視図
【符号の説明】
【0026】
1 発光管
2 発光管本体
3 キャピラリ
4 電極システム
8 導電性サーメット
9 給電リード
10 補強用リング
10A 補強用リング
10B 補強用リング
10C 補強用リング
10D 補強用リング
10E 補強用リング
11 フリット
12 クラック
13a 脆弱部
13b 脆弱部
13c 脆弱部
16 半割リング
19 高融点金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性セラミックで成る発光管本体の端部に設けたキャピラリ内に電極システムが封着され、該電極システムの一部を構成する導電性サーメットと該サーメットに接続する給電リードとの接続部に外嵌した補強用リング内にフリットが充填されたセラミックメタルハライドランプにおいて、前記補強用リングが、その内部に溶融状態で充填されたフリットが冷却固化する際にリング周方向に生ずる引っ張り応力を早期解放する構成となっていることを特徴とするセラミックメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記補強用リングが、その内部に充填されたフリットにクラックを生じない程度の引っ張り応力で破断するか、もしくはそのフリットにクラックを生じても該クラックがキャピラリ内のフリットに伝播しない程度の引っ張り応力で破断することにより該応力を早期解放する構成となっている請求項1記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項3】
前記補強用リングの全体的な肉厚が、前記引っ張り応力で破断し得る厚さに選定されている請求項2記載のセラミックメタルハライドランプ
【請求項4】
前記補強用リングの一部に、前記引っ張り応力で破断し得る脆弱部が形成されている請求項2記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項5】
前記補強用リングが、セラミックリングで成り、その一部に形成された前記脆弱部が、他の部分よりも肉厚を薄くした肉薄部で成る請求項4記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項6】
前記補強用リングが、前記引っ張り応力で拡径することにより該応力を早期解放する構成となっている請求項1記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項7】
前記補強用リングが、一対の半割リングを互いに嵌合させてリング状としたセラミックリングで成る請求項6記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項8】
前記補強用リングが、高融点金属板をその両端を互いに重ね合わすように丸めて割リング状とした金属リングで成る請求項6記載のセラミックメタルハライドランプ。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−310072(P2006−310072A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130889(P2005−130889)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】