説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】プレートアウトの析出を抑制し、長時間連続してフィルムを製造することができるセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】連続走行する回転ドラム42の上にドープ11(セルロースアシレート溶液)を流延して流延膜45を形成し、この流延膜45を、溶媒を含んだ状態のフィルム12として回転ドラム42から剥がし、これを搬送しながら乾燥手段により乾燥してセルロースアシレートフィルム12を製造するときに、水と、ドープ11に含まれ、水と非相溶である液体との混合物により、水と非相溶である液体側に分液抽出される化合物の濃度Aと炭素数12以上30以下の脂肪酸の濃度Bとの比(B/A)が0.7以下であるドープ11を回転ドラム42上に流延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関し、さらに詳しくは、セルロースアシレートフィルムを製造する溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年普及している液晶表示装置には、偏光板の保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルムなど複数の光学フィルムが用いられている。これらの光学フィルムとしてはポリマーフィルムが用いられるが、特に、製造時の取り扱いに優れ、かつ、良好な光学特性を示す点でセルロースアシレートフィルムが広く用いられている。
【0003】
セルロースアシレートフィルムの製造方法としては、溶融したセルロースアシレートを展延してセルロースアシレートフィルムを得る溶融製膜法や、セルロースアシレートを溶剤に溶かした溶液を支持体上に流延し、乾燥させることによってセルロースアシレートフィルムを得る溶液製膜法が知られているが、光学特性や平面性に優れたフィルムが得られることから、前述のような光学用途のセルロースアシレートフィルムは溶液製膜法により製造される。
【0004】
溶液製膜法によって、長時間、連続的にセルロースアシレートフィルムを製造すると、流延する溶液に含まれる不純物等が支持体上に析出し、支持体の表面が汚染されることが知られている。このように、溶液製膜法でセルロースアシレートフィルムを製造するときに、支持体上に析出する汚れはプレートアウトと称され、これを除去せずにセルロースアシレートフィルムを製造し続けると、得られるセルロースアシレートフィルムの平面性や光学特性が損なわれる。このため、良品質のセルロースアシレートフィルムを得るためには、支持体上のプレートアウトを定期的に除去しなければならないが、プレートアウトを除去するためには、セルロースアシレートフィルムの製造を中断しなければならず、生産性が低下してしまう。
【0005】
このため、原料のセルロースアシレートから、プレートアウトの原因となる物質をn−ヘキサン等の水に非相溶の溶媒で抽出し、その重量を予め見積もっておき、プレートアウトが生じにくいように、プレートアウトの原因物質が少ない原料を選択的に用いるようにしたセルロースアシレートフィルムの製造方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−199029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、n−ヘキサン等の特定の溶媒で抽出される物質には、プレートアウトの原因物質が含まれるものの、プレートアウトの原因物質と完全に一致するとは限らない。このため、特定の溶媒で抽出される物質が少ない原料を用いたとしても、プレートアウトの析出が十分に抑制されないことがある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、プレートアウトの析出を抑制し、生産性を向上させたセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、連続走行する支持体の上にセルロースアシレート溶液を流延して流延膜を形成し、この流延膜をフィルムとして前記支持体から剥がし、前記フィルムを搬送しながら乾燥手段により乾燥するセルロースアシレートフィルムの製造方法であり、水と、前記セルロースアシレート溶液に含まれ、水とは非相溶である液体との混合物により、前記液体側に分液抽出される化合物の濃度Aと炭素数12以上30以下の脂肪酸の濃度Bとの比(B/A)が0.7以下であるセルロースアシレート溶液を前記支持体上に流延することを特徴とする。
【0010】
また、前記セルロースアシレート溶液に含まれる炭素数が20以上30以下の脂肪酸の濃度をCとするときに、C/Bの値が0.5以下であることを特徴とする。
【0011】
また、CaとMgの和が1.7μmol/g以下であるセルロースアシレートを用いて前記セルロースアシレート溶液をつくることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法によれば、プレートアウトの析出を抑制し、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】フィルム製造設備の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】実験1〜9及び比較実験1の条件とプレートアウトの評価を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ドープの製造方法]
まず、原料のセルロースアシレートを所定の溶媒に溶解させたセルロースアシレート溶液(以下、ドープという)の製造方法を説明する。まず、セルロースアシレートを溶解する所定成分の溶媒に、セルロースアシレート、可塑剤(トリフェニルホスフェート,ビフェニルジフェニルホスフェート)を混合し、攪拌溶解して第1液をつくる。次に、紫外線吸収剤(2(2‘−ヒドロキシ3’−メチルフェニルエチル−4‘−1,1,3,3−テトラメチルブチル)ベンゾトリアゾール)を混合溶媒に溶解させた第2液をつくる。さらに、混合溶媒とマット剤を混合し、混合溶媒中にマット剤が一様に分散された第3液をつくる。そして、第1液,第2液,第3液を混合,攪拌して混合液をつくり、この混合液を濾過し、濃縮等して、セルロースアシレートフィルムの製造に用いるドープを得る。
【0015】
なお、溶媒としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、エーテルを所定の配分で混合してつくられる。また、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC),ジアセチルセルロース(DAC),セルロースアセチルプロピオネート(CAP),セルロースアセチルブチレート(CAB)等があり、トリアセチルセルロースが特に好適である。また、可塑剤としてはトリフェニルホスフェート,ビフェニルジフェニルホスフェート,ポリエステル系可塑剤等が好適に用いられる。また、紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系化合物,ベンゾフェノン系化合物等、マット剤としてはシリカ粒子等がそれぞれ好適に用いられる。TAC綿については、特開2001−1745号公報の7〜12頁に、可塑剤,紫外線吸収剤,マット剤については、同公報16〜12頁に詳細に記載されている。
【0016】
こうしてつくられたドープには、例えば、脂肪酸,脂肪酸塩,脂肪酸エステル,高級アルコール等の原料であるセルロースアシレートに含まれていた化合物が不純物として含まれている。こうした不純物は、水と、ドープの溶媒の成分のうち水と非相溶の液体との混合物により分液抽出される。ここでつくられるドープは、水と非相溶の液体側に抽出される化合物の濃度Aと、炭素数12以上30以下の脂肪酸の濃度Bとするときに、比(B/A)の値が0.7以下となるように、原料のセルロースアシレートを選別してつくられている。
【0017】
また、ドープは、炭素数が20以上30以下の脂肪酸の濃度をCとするときに、比(C/B)の値が0.5以下となるように、原料のセルロースアシレートを選別してつくられている。さらに、ドープは、含有するCaとMgの物質量の和が1.7μmol/g以下のセルロースアシレートを用いてつくられている。
【0018】
[フィルムの製造]
図1に示すフィルム製造設備10は、上述のようにしてつくられたドープ11からセルロースアシレートフィルム12(以下、単にフィルムという)を製造する設備であり、ストックタンク21、流延室22、テンター23(乾燥手段)、乾燥室24(乾燥手段)、冷却室26、巻取室27等から構成される。ドープ11はストックタンク21に貯留される。また、ストックタンク21内には攪拌翼31が設けられており、ドープ11は攪拌翼31によって攪拌されながら、均一な状態で貯留される。こうしてストックタンク21に貯留されたドープ11は、ポンプ32により濾過装置33に送られ、不純物等が除去された後に流延室22に送られる。
【0019】
流延室22には、流延ダイ41、支持体としての回転ドラム42、送風装置46,47等から構成される。ストックタンク21から送られたドープ11は、流延ダイ41から回転ドラム42上に流延され、支持される。回転ドラム42は、表面が鏡面研磨された円柱状の支持体であり、回転自在に設けられているとともに、回転ドラム42を冷却する媒体(以下、冷媒という)を流す流路が内部に設けられている。ドープ11の流延は、回転ドラム42を所定の方向に一定の速度で連続走行させ、かつ、冷媒供給装置43から冷媒を供給して回転ドラム42を一様に冷却しながら行われる。このため、ドープ11は、回転ドラム42上に流延されると、回転ドラム42によって冷却されて自己支持性を有する流延膜45となり、回転ドラム42の回転により所定方向に送られる。また、回転ドラム42の周囲には、回転ドラム42に向けて乾燥した所定のガスを送風する送風装置46,47が設けられている。これらの送風装置46,47からの送風により、流延膜45や回転ドラム42表面の結露が防止される。流延膜45は、回転ドラム42の回転に沿って所定の剥取位置に達すると、剥取ローラ48によって回転ドラム42から連続的に剥離され、溶媒を含んだ状態のフィルム12としてテンター23に送られる。また、こうしてテンター23に送られるフィルム12は、溶媒を含んだ状態のフィルムである。
【0020】
テンター23は、流延室22から送られたフィルム12を所定方向に延伸しながら乾燥させ、フィルム12として乾燥室24に送り出す。乾燥室24には複数のローラ56と送風機が設けられている。フィルム12は、乾燥室24で、ローラ56に支持されながら搬送されると同時に、送風機からの送風によってさらに乾燥されて、冷却室26に送り出される。フィルム12は、冷却室26で室温まで冷却された後に、巻取室27に搬送され、巻取ロール57によって巻き取られる。
【0021】
上述のようにして、フィルム12を長時間、連続的に製造すると、回転ドラム42の表面にプレートアウトが生じることがある。プレートアウトは、ドープ11(特に、ドープ11の原料のひとつであるセルロースアシレートに含まれる不純物)が回転ドラム42上に析出したものであり、主として、脂肪酸,脂肪酸塩,脂肪酸エステル,高級アルコール等からなる。このため、原料のセルロースアシレートにはこれらの物質が含まれていないことが好ましいが、セルロースアシレートはパルプやリンター等から精製されるため、現実的には少なからずこれらの物質が全く含まれている。
【0022】
こうしてドープ11に含まれる不純物の中でも、炭素数12以上30以下の脂肪酸が、プレートアウトの析出に大きく寄与する。このため、ドープ11は、前述のように、水と、水に非相溶の液体との混合物により水に非相溶の液体側に分液抽出される化合物の濃度Aと、炭素数12以上30以下の脂肪酸の濃度Bの比(B/A)の値が0.7以下となるように、原料のセルロースアシレートを選別してつくられている。これにより、プレートアウトの析出が抑制され、フィルム12を長時間、連続して製造することができる。
【0023】
さらに、ドープ11に不純物として含まれる炭素数12以上30以下の脂肪酸の中でも、炭素数20以上30以下の脂肪酸は、プレートアウトの析出に特に大きく寄与する。このため、ドープ11は、炭素数が20以上30以下の脂肪酸の濃度をCとするときに、濃度Cと、炭素数12以上30以下の脂肪酸の濃度Bとの比(C/B)の値が0.5以下になるようにつくられている。これにより、プレートアウトの析出がさらに抑制され、フィルム12を長時間、連続して製造することができる。
【0024】
また、ドープ11に含まれる不純物は、回転ドラム42に流延されて冷却されたときに、ドープ11に含まれる無機イオンと結びついて、プレートアウトとして析出する。例えば、原料のセルロースアシレートはCaやMgを含有し、セルロースアシレートが混合溶媒に溶解されると、これらの一部が電離して、Ca2+やMg2+等の無機イオンとなり、ドープ11に含まれる不純物と結びついてプレートアウトを析出させる原因となる。このため、原料のセルロースアシレートに不純物が含まれているにしても、原料のセルロースアシレートが含有するCaやMgの物質量が少なければ、プレートアウトの析出は抑制される。したがって、ドープ11は、含有するCaとMgの物質量の和が1.7μmol/g以下のセルロースアシレートを用いてつくられていることにより、プレートアウトの析出が抑制され、フィルム12を長時間、連続して製造することができる。
【0025】
なお、原料のセルロースアシレートが含有するCaとMgの物質量の和が、1.0μmol/gを下回ると、フィルム12の耐熱性が悪化するため、フィルム12の用途に耐熱性が求められる場合には、CaとMgの物質量の和が1.0μmol/g以上1.7μmol/g以下のセルロースアシレートを原料とすることが好ましい。
【0026】
なお、上述の実施形態では、ドープ11の材料や製造工程,フィルム12の製造工程の具体的な例を挙げたが、少なくともB/Aの値が0.7以下となっていれば良く、ドープ11及びフィルム12の材料や製造工程は、製造するフィルム12の特性に応じて、材料や製造工程を追加または削減して良い。
【0027】
なお、上述の実施形態では、ドープ11から不純物を分液抽出するときに、水と、ドープ11の溶媒に含まれる水に非相溶の液体との混合物を用いる例を説明したが、水と非相溶の液体は、ドープ11に含まれる1種類の成分の液体でも良く、また、複数種類を混合したものであっても良い。
【実施例】
【0028】
水と、ドープ11の溶媒に含まれ、水に非相溶の液体との混合物により、水と非相溶の液体側にドープ11から分液抽出される化合物の濃度Aと炭素数12以上30以下の脂肪酸の濃度Bの比(B/A)と、濃度Bと炭素数20以上30以下の脂肪酸の濃度Cの比(C/B)と、原料のセルロースアシレートに含まれるCaとMgの物質量の和(μmol/g,以下、Ca+Mgという)が、各々異なるドープ11を用いて、プレートアウトの析出量を評価した。
【0029】
[脂肪酸の定量方法]
なお、後述する実験1〜9及び比較実験1では、ドープの原材料とするセルロースアシレートとしてセルロースアセテートを用い、前述の濃度A,濃度B,濃度Cは、以下のようにして定量した。まず、セルロースアセテート試料5.0gに2Nトリフルオロ酢酸200mLを添加し、100℃で6時間加水分解した後に、溶液を減圧乾固し、残渣を純粋で300mLに希釈した。そして、この液をヘキサン100mLで3回抽出し、ヘキサン層を脱水,ろ過,濃縮凝固した固形物の量に基づいて、濃度Aを算出した。次に、この固形物を1,2−ブロモアセトフェノンでラベル化し、HPLC分析した(カラム:Inertsil ODS 4.6mmI.D.,溶離液:アセトニトリル/THFのグラジエント)。そして、脂肪酸標品のHPLC面積値から脂肪酸含有量及び炭素数を計算し、これに基づいて濃度B及び濃度Cの値を算出した。
【0030】
[Ca+Mg(μmol/g)の求め方]
また、後述する実験1〜9及び比較実験1では、ドープの原材料としたセルロースアセテートに含有されるCaとMgの物質量の和を、下記の(1)〜(6)の手順で求めた。
(1)ドープ11の原料とするセルロースアセテートを粉砕した試料3.0gを、耐熱性容器(磁性るつぼ等)に入れる。
(2)電気炉等の加熱装置によって、800±50℃の温度で約2時間加熱し、試料を炭化させる。
(3)炭化した試料を室温程度に冷却した後に、0.10%塩酸を30ml加えて攪拌する。
(4)加熱装置によって、徐々に60℃に加熱し、炭化した試料を塩酸に溶解させ、溶解液Yを作製する。
(5)溶解液Yを室温程度に冷却後に蒸留水を加え、溶解液Yを200mlまで希釈した希釈液Zを作製する。
(6)希釈液Zの吸光度を原子吸光光度計(島津製作所社製AA−6300)によって測定し、これを希釈溶液Zの濃度(ppm)に換算して、Ca+Mgを求める。
【0031】
[プレートアウトの評価]
回転ドラム42上にプレートアウトが析出すると、その析出量に応じて、回転ドラム42の表面の光沢は失われ、回転ドラム42の表面は白濁する。このため、回転ドラム42の表面の光沢度(後述)を測定することで、プレートアウトの析出量を評価することができる。後述する実験1〜9及び比較実験1では、下記(1)〜(4)の手順で、プレートアウトの析出量を評価した。
(1)フィルム12の製造する前に、回転ドラム42を暗室に配置し、所定の方向及び角度から、白色光を照射し、白色光の光源及び回転ドラム42に対して所定の位置に配置された受光装置によって、回転ドラム42からの反射光の光量を測定する。
(2)次に、回転ドラム42をフィルム製造設備10にセットし、条件(B/A,C/B,Ca+Mg)が一定のドープ11で、40時間連続的にフィルム12を製造する。
(3)その後、回転ドラム42をフィルム製造設備10から取り外して、再び暗室に移動させ、(1)と同条件で回転ドラム42に白色光を照射して、回転ドラム42からの反射光の光量を測定する。
(4)そして、フィルム12の製造前に測定した反射光の光量を基準として、フィルム12の製造後に測定した反射光の光量の割合を光沢度(%)として求め、プレートアウトの析出量を、光沢度0%以上50%未満を×,光沢度50%以上65%未満を△,光沢度65%以上80%未満を○,光沢度80%以上100%以下を◎の4段階で評価する。
【0032】
実験1〜9及び比較実験1の各々の条件(B/A,C/B,Ca+Mg)とプレートアウトの評価は、図2及び以下に説明するとおりであった。なお、図2は、上からプレートアウトの析出量が少ない順に並べられている。
【0033】
[実験1]
実験1は、図2に示すように、Ca+Mg=0.8(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験1のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.3,C/B=0.3であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは殆ど析出せず、40時間以上の連続したフィルム12の製造が可能であった(◎)。
【0034】
[実験2]
実験2は、図2に示すように、Ca+Mg=0.9(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験2のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.3,C/B=0.2であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは殆ど析出せず、40時間以上の連続したフィルム12の製造が可能であった(◎)。
【0035】
[実験3]
実験3は、図2に示すように、Ca+Mg=0.9(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験3のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.3,C/B=0.3であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは殆ど析出せず、40時間以上の連続したフィルム12の製造が可能であった(◎)。
【0036】
[実験4]
実験4は、図2に示すように、Ca+Mg=1.0(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験4のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.3,C/B=0.4であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは殆ど析出せず、40時間以上の連続したフィルム12の製造が可能であった(◎)。
【0037】
[実験5]
実験5は、図2に示すように、Ca+Mg=1.7(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験5のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.3,C/B=0.4であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは殆ど析出せず、40時間以上の連続したフィルム12の製造が可能であった(◎)。
【0038】
[実験6]
実験6は、図2に示すように、Ca+Mg=1.7(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験6のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.6,C/B=0.5であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは殆ど析出せず、40時間以上の連続したフィルム12の製造が可能であった(◎)。
【0039】
[実験7]
実験7は、図2に示すように、Ca+Mg=1.7(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験7のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.6,C/B=0.6であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは析出したものの、その析出量は実験6よりも多いが、40時間以上の連続したフィルム12の製造に影響しない程度であった(○)。
【0040】
[実験8]
実験8は、図2に示すように、Ca+Mg=1.9(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験8のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.6,C/B=0.8であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは析出したものの、40時間の連続したフィルム12の製造に影響しない程度であった(△)。
【0041】
[実験9]
実験9は、図2に示すように、Ca+Mg=1.9(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この実験9のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.7,C/B=0.8であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトは析出したものの、40時間の連続したフィルム12の製造に影響しない程度であった(△)。
【0042】
[比較実験1]
比較実験1は、図2に示すように、Ca+Mg=1.9(μmol/g)を満たすセルロースアシレートを原料としてドープ11をつくった。また、この比較実験1のドープ11のB/A,C/Bの値は、それぞれB/A=0.9,C/B=0.8であった。そして、このドープ11を用いてフィルム12を製造すると、プレートアウトの析出が顕著であり、このドープ11を用いたフィルム12の連続した製造は40時間が限度であった(×)。
【0043】
実験1〜9及び比較実験1の各条件と、そのプレートアウトの評価を比較すると、B/A,C/B,Ca+Mgの各条件をそれぞれ独立して調節することは難しいが、B/Aが少なくとも0.7以下の値となっていれば、フィルム12を40時間連続して製造することが可能な程度に、プレートアウトの析出が抑制されていることが分かる。さらに、B/Aが0.6以下の値であれば、フィルム12を概ね40時間以上連続して製造することが可能となり、B/Aが0.3以下の場合にはさらに長時間連続してフィルム12を製造することができることができる。
【0044】
また、実験1〜9の各条件(特にB/Aの値が等しい実験6〜8)と、そのプレートアウトの評価を比較すると、B/Aが0.7以下の値となっている場合に、C/Bの値が小さいほどプレートアウトの析出が抑制されていることがわかる。B/Aの値が0.7以下であり、かつ、C/Bの値が0.5以下になっていることが好ましく、この場合、プレートアウトが抑制され、フィルム12の40時間以上にわたる連続した製造を可能にする。さらに、B/Aの値が0.7以下であり、かつ、C/Bの値が0.4以下になっていれば、プレートアウトの析出が特に抑制される。
【0045】
さらに、実験1〜9及び比較実験1の各条件と、そのプレートアウトの評価を比較すると、B/Aが0.7以下の場合に、Ca+Mg(μmol/g)の値が1.7以下であれば、プレートアウトの析出が特に抑制されることが分かる。
【0046】
以上のことから、プレートアウトの析出を抑制し、40時間以上連続してフィルム12を製造するときには、B/Aが0.7以下のドープ11を用いることが好ましく、B/Aの値が0.6以下のドープ11を用いることがさらに好ましく、B/Aの値が0.3以下となっていることが特に好ましい。これに加え、C/Bの値が0.5以下となっていることが好ましい。また、Ca+Mgが1.7μmol/g以下のセルロースアシレートを選別して原料とすることが好ましい。
【0047】
なお、上述の実施例では、フィルム12を40時間連続して製造した後に、プレートアウトの析出を評価したが、これに限らず、これよりも短時間やこれよりも長時間のフィルム12の製造後にプレートアウトの析出を評価しても良い。また、上述の実施例では、プレートアウトの析出量の評価方法の一例を説明したが、プレートアウトの析出量の評価方法はこれに限らず、回転ドラム42上の一定の面積からプレートアウトを採取し、その重量から、全体的なプレートアウトの析出を評価する等、任意の方法でプレートアウトの析出量を評価するようにしても良い。
【符号の説明】
【0048】
10 フィルム製造設備
11 ドープ
12 フィルム
21 ストックタンク
22 流延室
23 テンター(乾燥手段)
24 乾燥室(乾燥手段)
26 冷却室
27 巻取室
42 回転ドラム(支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する支持体の上にセルロースアシレート溶液を流延して流延膜を形成し、この流延膜をフィルムとして前記支持体から剥がし、前記フィルムを搬送しながら乾燥手段により乾燥するセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
水と、前記セルロースアシレート溶液に含まれ、水とは非相溶である液体との混合物により、前記液体側に分液抽出される化合物の濃度Aと炭素数12以上30以下の脂肪酸の濃度Bとの比B/Aが0.7以下であるセルロースアシレート溶液を前記支持体上に流延することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記セルロースアシレート溶液に含まれる炭素数が20以上30以下の脂肪酸の濃度をCとするときに、C/Bの値が0.5以下であることを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
CaとMgの和が1.7μmol/g以下であるセルロースアシレートを用いて前記セルロースアシレート溶液をつくることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−6603(P2011−6603A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152401(P2009−152401)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】