説明

センサユニット及び試料の測定方法

【課題】 測定時間の長時間化とコストアップとを抑えつつ、残留試料によるコンタミネーションを防止したセンサユニットを提供する。
【解決手段】 センサユニット14は、透光性を有する略平板状のセンサチップ20と、このセンサチップ20の上面に形成された金属膜21と、金属膜21を覆うようにセンサチップ20に当接する流路部材22とから構成されている。流路部材22には、液体を送液する流路24が形成されており、係合爪20aと係合溝22aとによってセンサチップ20に固定された際に、この流路24と金属膜21とを対面させる。流路24は、溝部25と注入部26と排出部27とから構成されており、装置に組み込まれる流路よりも形状を簡素にできる。これにより、流路24の長さを短縮して流路24内に残留する試料の発生頻度を低下させ、残留試料によるコンタミネーションを抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全反射減衰を利用した測定装置に用いられるセンサユニット、及びこのセンサユニットを用いた試料の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定する測定装置が知られている。
【0003】
このような全反射減衰を利用した測定装置の1つに、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)現象を利用した測定装置(以下、SPR測定装置と称す)がある。なお、表面プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動することによって生じ、その金属の表面に沿って進む自由電子の粗密波である。
【0004】
例えば、特許文献1などで知られるKretschmann配置を採用したSPR測定装置では、透明な誘電体(以下、プリズムと称す)上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上で試料を反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0005】
全反射条件を満たすように金属膜に照射された光のうち、エバネッセント波と呼ばれるわずかな光は、反射せずに金属膜内を透過してセンサ面側に染み出す。この際、エバネッセント波の振動数と表面プラズモンの振動数とが一致するとSPRが発生し、反射光の強度を大きく減衰させる。SPR測定装置は、この反射光の減衰を捉えることにより、センサ面上の試料の反応状況を測定する。
【0006】
タンパク質やDNAなどの生体試料は、乾燥による変性や失活を防ぐため、生理的食塩水や純粋、または各種のバッファ液などの溶媒に溶かされた試料溶液として扱われることが多い。特許文献1記載のSPR測定装置は、こうした生体試料の相互作用などを調べるものであり、センサ面の上には試料溶液を送液するための流路が設けられる。また、センサ面にはリガンドとなる試料を固定させるためのリンカー膜が設けられており、流路にリガンド溶液を注入してリンカー膜にリガンドを固定(固定工程)させた後、アナライト溶液を注入してリガンドとアナライトとを接触(測定工程)させることにより、その相互作用を調べている。
【0007】
また、特許文献1記載のSPR測定装置には、装置本体にプリズムと流路とが配置された測定ステージが設けられており、ガラス基板上に金属膜を形成したチップ型のセンサユニットを測定ステージに装着することで、前述の測定が行われる。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
試料溶液中に溶解した試料は、流路の内壁面に吸着して、試料溶液を排出した後にも流路内に残留してしまうことがある。こうした残留試料は、次の試料溶液を注入した際に、測定精度を低下させてしまう(コンタミネーション)。そのため、異なる試料溶液を注入する毎(測定毎)に、例えば、洗浄液を流路に注入するなどして流路内を洗浄することが好ましい。
【0009】
しかしながら、洗浄液を流して流路の洗浄を行ったとしても、吸着した残留試料がどの程度洗浄されているかを、定量的に検査する術がないという問題がある。この問題の解決策として、測定毎に流路部分を新品に交換することも考えられるが、特許文献1記載のSPR測定装置は、流路が装置内に組み込まれているため、取り外しが難しく測定時間を大幅に延長させてしまう。また、装置に組み込まれる流路は大掛かりであり、多額の費用を要してしまう。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、測定時間の長時間化とコストアップとを抑えつつ、残留試料によるコンタミネーションを防止することができるセンサユニット及び試料の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のセンサユニットは、透光性を有する略平板状の誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一方の面に形成され、全反射条件を満たすように光が照射された際に、その反射光の光強度を減衰させる薄膜層と、試料が溶解した試料溶液を送液する流路が形成され、この流路を前記薄膜層に対面させるように、前記誘電体ブロックに当接する流路部材とを備え、前記流路を、前記誘電体ブロックとの当接面に形成された溝部と、この溝部の一端に接続されて前記当接面とは反対の面に貫通し、前記溝部に前記試料溶液を注入する注入部と、前記溝部の他端に接続されて前記当接面とは反対の面に貫通し、前記溝部に注入された前記試料溶液を排出する排出部とから構成したことを特徴とする。
【0012】
なお、前記誘電体ブロックと前記流路部材とが当接した状態で前記流路部材を前記誘電体ブロックに固定する固定手段を設けることが好ましい。
【0013】
また、前記固定手段には、爪係止によるスナップフィット方式を用いることが好ましい。
【0014】
また、前記流路部材の材料は、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサンのいずれかであることが好ましい。
【0015】
なお、本発明の試料の測定方法は、透光性を有する略平板状の誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一方の面に形成され、全反射条件を満たすように光が照射された際に、その反射光の光強度を減衰させる薄膜層と、試料が溶解した試料溶液を送液する流路が形成され、この流路を前記薄膜層に対面させるように、前記誘電体ブロックに当接する流路部材とからなるセンサユニットに対して、光学面平滑剤を介して前記誘電体ブロックの他方の面にプリズムを当接させ、前記流路に前記試料溶液を送液した状態で前記プリズムを介して全反射条件を満たすように前記薄膜層に光を照射し、その反射光を測定することにより、前記試料溶液中に溶解した試料の前記薄膜層上での反応状況を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセンサユニットによれば、試料溶液を薄膜層に送液する流路をセンサユニット自体に設けて、この流路を溝部と注入部と排出部とによって構成したので、測定装置に組み込まれる大掛かりな流路と比較して形状を簡素にし、流路長を短くすることができる。これにより、流路内に残留する試料の発生頻度を低下させて、残留試料によるコンタミネーションを抑えることができる。また、センサユニットは、元来測定装置に着脱自在に保持されるものであるから、取り外しが容易であって測定時間を無駄に延長させることもない。
【0017】
また、測定装置に組み込まれた流路と比較して、測定装置に取り付けるための機構などが必要なくなり、低コスト化を図ることができる。これにより、流路部材もしくはセンサユニット自体を使い捨てにすることも可能となる。使い捨ての場合には、測定毎に流路が交換されるので、流路内に残留した試料によるコンタミネーションを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、SPR測定装置2の概略構成を示すブロック図である。SPR測定装置2は、リガンドの固定(固定工程)を行う固定機10と、固定化したリガンドにアナライトを加えて両者の反応状況を測定(測定工程)する測定機11と、この測定機11によって得られたデータの解析(データ解析工程)を行うデータ解析機12とから構成されている。また、固定処理と測定処理とは、別体となったセンサユニット14に対して行われ、複数の試料の測定が円滑に行われるようにされている。
【0019】
図2は、センサユニット14の概略構成を示す外観斜視図である。センサユニット14は、透光性を有する略平板状のセンサチップ(誘電体ブロック)20と、このセンサチップ20の上面に形成された金属膜(薄膜層)21と、金属膜21を覆うようにセンサチップ20に当接する流路部材22とから構成されている。
【0020】
センサチップ20は、後述するSPR測定において底面側から光が照射されるため、例えば、ホウケイクラウン(BK7)やバリウムクラウン(Bak4)などに代表される光学ガラスや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、非晶性ポリオレフィン(APO)などに代表される光学プラスチックなどによって成型されている。また、センサチップ20と流路部材22には、両者が当接した状態で流路部材22をセンサチップ20に固定する固定手段として、係合爪20aと、この係合爪20aに係合する係合溝22aとが、それぞれ設けられている。但し、爪と溝を上記とは反対に、センサチップ20に溝を設けて、流路部材22に爪を設けてもよい。
【0021】
金属膜21としては、例えば、金や銀などが用いられ、その膜厚は、例えば、50nmである。この膜厚は、金属膜21の素材や、照射される光の波長などに応じて適宜選択される。また、金属膜21の中央付近には、リンカー膜23が設けられている。このリンカー膜23は、センサユニット14の製造段階で予め形成されるものであり、リガンドを固定するための固定基となるので、このリンカー膜23の素材は、固定するリガンドの種類に応じて適宜選択される。なお、リンカー膜23には、リガンドが固定されてアナライトとリガンドとの反応が生じる測定領域23aと、リガンドが固定されず、測定領域の信号測定に際しての参照信号を得るための参照領域23bとが形成されている。形成方法としては、例えば、リンカー膜23に対して表面処理を施し、リンカー膜23の半分程度の領域について、リガンドと結合する結合基を失活させる。これにより、リンカー膜23の半分が測定領域23aとなり、残りの半分が参照領域23bとなる。
【0022】
流路部材22には、試料溶液を金属膜21に送液する流路24が形成されており、係合爪20aと係合溝22aとによってセンサチップ20に固定された際に、この流路24と金属膜21とを対面させる。
【0023】
流路24は、センサチップ20によって閉塞される溝部25と、流路部材22を貫通して閉塞された溝部25の一端に接続される注入部26と、他端に接続される排出部27とからなる、略コの字型に屈曲された送液管であって、溝部25の開放面を金属膜21に対面させて塞ぐことにより、金属膜21及びリンカー膜23に試料溶液を送液する。なお、流路24の管径は、例えば、1mm程度であり、注入部26と排出部27との間隔(溝部25の長さ)は、10mm程度である。
【0024】
また、流路部材22の材料には、ポリエチレンやポリスチレンなどのプラスチックを用いてもよいし、センサチップ20との水密性を高めるために、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの弾性材料を用いてもよい。
【0025】
流路部材22の上面22bに形成された注入部26の注入口26aと、排出部27の排出口27aは、試料溶液が流路24に導かれやすいように漏斗状にされている。また、上面22bには、溝部25に試料溶液などの液体を貯留した際に、その液体が蒸発してしまうことを防止する蓋部材28が、注入口26aと排出口27aとに対応する位置に穴29aが空けられた両面テープ29で貼り付けられる。
【0026】
蓋部材28は、例えば、ゴムやプラスチックなどの弾性材料で成型されており、注入口26aと排出口27aとに対応する位置には、十字型のスリット28aが形成されている。このスリット28aは、流路24に試料溶液を送液するピペット(図3参照)などの挿入を可能にするとともに、ピペットを挿入していない状態では、注入口26a、排出口27aを塞ぎ、液体の蒸発を防止する。
【0027】
なお、注入部26、排出部27にピペットを挿入した際に、ピペットが内壁部分に接触してピペットや注入部26、排出部27を破損させてしまうことが懸念される際には、注入部26、排出部27の内壁部分に、例えば、ゴムなどの衝撃を吸収できる材料を、2色成形法を用いて一体成形するようにしてもよい。また、このとき用いられる材料は、試料溶液中に溶解した試料の吸着を防止するため、非特異吸着の少ない材料であることが好ましい。非特異吸着の少ない材料としては、例えば、非晶性ポリオレフィン樹脂などが知られている。
【0028】
次に、図3に示す説明図を用いて、SPRの測定方法について説明する。
【0029】
リンカー膜23にリガンドを固定する固定工程は、センサユニット14を固定機10にセットして行われる。固定機10には、1対のピペット30a、30bからなるピペット対30が設けられている。ピペット対30の各ピペット30a、30bは、注入口26a、排出口27aのそれぞれに挿入される。各ピペット30a、30bは、それぞれが流路24への液体の注入と、流路24からの吸い出しを行う機能を備えており、一方が注入動作を行っているときには、他方が吸い出し動作を行うというように、互いに連動する。固定機10は、このピペット対30を用いて、リガンドを溶媒に溶かしたリガンド溶液32を、注入口26aから注入する。
【0030】
固定機10は、リガンド溶液32を注入するリガンド固定化処理を行う前の前処理として、まず、リンカー膜23に対して固定用バッファ液を送液してリンカー膜23を湿らせた後、リンカー膜23にリガンドが結合しやすくするリンカー膜23の活性化処理を施す。例えば、アミンカップリング法では、リンカー膜23としてカルボキシメチルデキストランが使用され、リガンド内のアミノ基をこのデキストランに直接共有結合させる。この場合の活性化液としては、N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)との混合液が使用される。固定機10は、この活性化処理の後、固定用バッファ液によって流路24を洗浄する。
【0031】
なお、固定用バッファ液や、リガンド溶液32の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水などが使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度などは、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、リガンドとして生体試料を使用する場合には、pHを中性付近に調整した生理的食塩水が用いられる場合が多い。しかし、上記アミンカップリング法では、リンカー膜23は、カルボキシメチルデキストランにより負(マイナス)に帯電するので、このリンカー膜23と結合しやすいようにタンパク質を陽(プラス)に帯電させるため、生理的とはいえない高濃度のリン酸塩を含む緩衝作用の強いリン酸緩衝溶液(PBS:phosphatic-buffered,saline)などが使用される場合もある。
【0032】
固定機10は、こうした活性化処理及び洗浄を行った後、流路24にリガンド溶液32を注入して、リガンド固定化処理を行う。リガンド溶液32が流路24へ注入されると、溶液中に拡散しているリガンド32aが徐々にリンカー膜23に堆積して結合し、リンカー膜23上にリガンド32aが固定される。なお、固定化には、通常1時間程度かかり、この間、センサユニット14は、温度などの環境条件が所定の条件に設定された状態で保管される。また、固定化が進んでいる間、流路24内のリガンド溶液32を静置しておいてもよいが、流路24内のリガンド溶液32を攪拌して流動させることが好ましい。こうすることで、リガンド32aとリンカー膜23との結合が促進され、リガンド32aの固定量を増加させることができる。
【0033】
固定機10は、リンカー膜23へのリガンド32aの固定化が完了すると、リガンド溶液32をピペット19bによって吸い出して流路24から排出させた後、流路24に洗浄液を注入して固定化が完了したリンカー膜23の洗浄を行う。また、固定機10は、必要に応じてブロッキング液を注入し、リガンドと結合しなかったリンカー膜23の反応基を失活させるブロッキング処理を行う。ブロッキング液としては、例えば、エタノールアミン−ヒドロクロライドが使用される。このブロッキング処理を行った場合には、再び流路24が洗浄される。最終的な洗浄を行った後、固定機10は、流路24に乾燥防止液を注入する。センサユニット14は、リンカー膜23が乾燥防止液に浸された状態で測定までの間保管される。
【0034】
測定工程は、センサユニット14を測定機11にセットして行われる。測定機11には、固定機10のピペット対30と同様のピペット対40と、センサチップ20の底面に当接するプリズム41と、このプリズム41を介してセンサユニット14に光を照射し、リガンドとアナライトとの反応状況を測定する測定部42とが設けられている。ピペット対40は、固定機10のピペット対30と同様に、注入口26aから流路24へ各種の液体を注入する。
【0035】
プリズム41には、センサチップ20と同様に光学ガラスや光学プラスチックなどが用いられており、センサチップ20と同じ屈折率を有している。また、センサチップ20とプリズム41との間には、光学面平滑剤50が充填されている。光学面平滑剤50は、センサチップ20及びプリズム41と同じ屈折率を有し、例えば、粗面によって形成されるエアギャップを充填して、フレアや伝送損失の要因となるエアギャップによる透過光の散乱を防止する。なお、光学面平滑剤50には、市販の光学マッチングオイルや光学マッチングゲルを用いればよい。
【0036】
測定部42は、照明部43と検出器44とから構成されている。リガンドとアナライトとの反応状況は、共鳴角(金属膜21に照射された光の入射角)の変化として表れるので、照明部32は、全反射条件を満足する様々な入射角の光を金属膜21に対して照射する。照明部43は、例えば、光源45と、集光レンズ、拡散板、偏光板などからなる光学系46とから構成され、配置位置及び設置角度は、照明光の入射角が全反射条件を満足するように調整される。
【0037】
光源45としては、例えば、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、SLD(Super Luminescent Diode)などの発光素子が用いられる。光源45は、こうした発光素子を1個使用し、この単一光源から金属膜22に向けて光を照射する。拡散板は、光源45からの光を拡散して、発光面内の光量ムラを抑える。偏光板は、照射光のうちSPRを生じさせるp偏光(入射面に平行な振動電場を持つ直線偏光)のみを通過させる。なお、LDを使用する場合など、光源45が発する照射光自体の偏光の向きが揃っている場合には、偏光板は不要である。また、偏光が揃っている光源を使用した場合でも、拡散板を通過したことによって偏光の向きが不揃いになってしまう場合には、偏光板を使用して偏光の向きを揃える。こうして拡散及び偏光された光は、集光レンズによって集光されてプリズム41に照射される。プリズム41は、照射された光を金属膜21に向けて集光し、光強度にバラツキがなく様々な入射角を持つ光を金属膜21に入射させる。
【0038】
検出器44は、金属膜21で反射する光を受光して、その光強度に応じたレベルの電気信号を出力する。金属膜21には、様々な角度の光が入射するので、金属膜21では、それらの光が、それぞれの入射角に応じた反射角で反射する。検出器44は、これらの様々な反射角の光を受光する。この検出器44には、例えば、CCDエリアセンサやフォトダイオードアレイが用いられ、金属膜21において様々な反射角で反射する反射光を受光して光電変換し、それをSPR信号としてデータ解析機12に出力する。
【0039】
また、リンカー膜23の上には、測定領域23aと参照領域23bとが形成されている。検出器44は、測定領域23aに対応するSPR信号を測定信号として出力し、参照領域23bに対応するSPR信号を参照信号として出力する。
【0040】
なお、プリズム41の向き、及び測定部42が光を照射する向きは、図示のように、流路24内を流れる液体の向きと平行でもよいし、液体の向きと直交(紙面に直交する向き)するようにしてもよい。
【0041】
測定機11が測定工程を行う際には、まず、流路24に測定用バッファ液を注入する。この後、アナライトを溶媒に溶かしたアナライト溶液48を注入し、その後、再び測定用バッファ液を注入する。なお、最初に測定用バッファ液を注入する前に、一度流路24の洗浄を行うようにしてもよい。検出器44によるデータの読み取りは、基準となる信号レベルを検出するために、最初に測定用バッファ液を注入した直後から開始され、アナライト溶液48を注入した後、再び測定用バッファ液が注入されるまでの間行われる。これにより、基準レベルの検出、アナライトとリガンドとの反応状況、結合したアナライトとリガンドとの測定用バッファ液注入による脱離までのSPR信号を測定することができる。
【0042】
測定用バッファ液や、アナライト溶液48の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水などが使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度などは、リガンドやアナライトの種類に応じて適宜決められる。例えば、アナライトを溶けやすくするために、生理的食塩水にDMSO(ジメチル−スルホ−オキシド)を含ませてもよい。このDMSOは、信号レベルに大きく影響する。上述したとおり測定用バッファ液は、基準レベルの検出に用いられるので、アナライト溶液48中にDMSOが含まれる場合には、そのDMSO濃度と同程度のDMSO濃度を有する測定用バッファ液使用することが好ましい。
【0043】
なお、アナライト溶液48は、長時間(例えば、1年)保管されることも多く、そうした場合には、経時変化によって初期のDMSO濃度と測定時のDMSO濃度との間に濃度差が生じてしまう場合がある。厳密な測定を行う必要がある場合には、こうした濃度差をアナライト溶液48を注入したときの参照信号のレベルから推定し、測定データに対して補正(DMSO濃度補正)を行うことが好ましい。
【0044】
DMSO濃度補正のための補正データは、アナライト溶液48を注入する前に、DMSO濃度が異なる複数種類の測定用バッファ液を流路24に注入して、このときのDMSO濃度変化に応じた参照信号のレベルと測定信号のレベルの、それぞれの変化量を調べることにより求められる。
【0045】
リガンドとアナライトとの反応状況は、検出器44の受光面内における反射光の減衰位置の推移として表れる。例えば、アナライトがリガンドと接触する前後では、リンカー膜23が設けられた金属膜21の屈折率が異なり、SPRが発生する共鳴角が異なる。そして、アナライトがリガンドと接触して反応を開始すると、それに応じて反射光の共鳴角が変化を開始し、受光面内における反射光の減衰位置が移動し始める。測定機11は、こうして得た試料の反応状況を表すSPR信号を、データ解析機12に出力する。
【0046】
データ解析工程では、測定機11で得たSPR信号をデータ解析機12で解析して、アナライトの特性を定量分析する。データ解析機12は、例えば、パーソナルコンピュータやワークステーションなどに専用のソフトウェアをインストールしたものである。
【0047】
データ解析機12は、測定機11が得た測定信号と参照信号との差や比を求めてデータ解析を行う。例えば、測定信号と参照信号との差分データを求め、この差分データを測定データとし、これに基づいて解析を行う。こうすることで、センサユニット14やリンカー膜23などの個体差や、装置の機械的な変動や、液体の温度変化などといった外乱に起因するノイズをキャンセルすることが可能となり、S/N比の良好な精度の高い測定を行うことができる。
【0048】
本実施形態のセンサユニット14によれば、金属膜21及びリンカー膜23に試料溶液を送液する流路24をセンサユニット14自体に設けて、この流路24を溝部25と注入部26と排出部27とによって構成したので、固定機10や測定機11に組み込まれる大掛かりな流路と比較して形状が簡素であり、流路24の長さを短くすることができる。これにより、流路24内に残留する試料の発生頻度を低下させて、残留試料によるコンタミネーションを抑えることができる。また、センサユニット14は、元来固定機10や測定機11に着脱自在に保持されるものであるから、取り外しが容易であって測定時間を無駄に延長させることもない。
【0049】
また、固定機10や測定機11に組み込まれた流路と比較して、これらの装置に取り付けるための機構などが必要なくなり、低コスト化を図ることができる。これにより、流路部材22もしくはセンサユニット14自体を使い捨てにすることも可能となる。使い捨ての場合には、測定毎に流路24が交換されるので、流路24内に残留した試料によるコンタミネーションを確実に防止することができる。
【0050】
また、流路24がセンサユニット14自体に設けられたことによって、センサユニット14に液体を注入した状態で、固定機10や測定機11から取り外すことができる。これにより、例えば、固定機10の外部でリガンドの固定化を進めることができる、リンカー膜23に固定されたリガンドの乾燥を防ぐことができるなどといった効果も得られる。
【0051】
なお、上記実施形態では、固定手段に係合爪20aと係合溝22aとからなる、いわゆるスナップフィット方式を用いているが、固定手段は、これに限ることなく、例えば、ネジ止めによるものでもよいし、接着剤によるものでもよい。但し、接着剤は、溶剤が気化した場合に金属膜21やリンカー膜23に影響を与えることが懸念されるので、不揮発性の接着剤であることが好ましい。また、固定手段を設ける代わりに、センサチップ20と流路部材22とを圧接させた状態で、SPR測定にかかる各工程を行うようにしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、閉塞された溝部25に対して、注入部26と排出部27との2つの貫通孔を設けているが、1つの貫通孔で注入と排出とを行うものでもよいし、さらに多くの貫通孔が設けられたものであってもよい。また、貫通孔を設けることなく、溝部25を左右に貫通するまで延長させて、一直線状の流路24を形成するようにしてもよい。
【0053】
なお、上記実施形態においては、リンカー膜23と流路24とをそれぞれ1つずつ有するセンサユニット14を示したが、本発明のセンサユニットは、これに限ることなく、センサチップ20と流路部材22とを長手方向に延長させて、複数のリンカー膜23と流路24とを備えた、いわゆるマルチチャンネルのセンサユニットとしてもよい。さらには、上記センサユニット14を連結可能とし、複数のセンサユニット14を連結させることによって、マルチチャンネル化を図るようにしたものであってもよい。但し、センサチップ20と流路部材22とを長手方向に延長させる際には、係合爪20aと係合溝22aとを、長辺側の側面(図2参照)に複数設け、センサチップ20の撓みなどを防止することが好ましい。
【0054】
また、上記実施形態では、ピペット対30、40によって流路24に液体を送液するようにしているが、特許文献1などで知られるように、ポンプを用いて流路24に液体を送液するようにしてもよい。
【0055】
さらに、上記実施形態では、金属膜の表面にSPRを発生させて、そのときの反射光の減衰を検出する、いわゆるSPRセンサを例に説明したが、本発明のセンサユニットは、これに限ることなく、全反射減衰を利用した測定に用いられる他のセンサにも適用することができる。全反射減衰を利用するセンサとしては、SPRの他に、例えば、漏洩モードセンサが知られている。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、SPRの共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射角の減衰を検出することにより、前記センサ面上の化学反応が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】SPR測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】センサユニットの概略構成を示す外観斜視図である。
【図3】SPRを利用した測定方法の概略を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0057】
2 SPR測定装置
10 固定機
11 測定機
12 データ解析機
14 センサユニット
20 センサチップ(誘電体ブロック)
20a 係合爪(固定手段)
21 金属膜(薄膜層)
22 流路部材
22a 係合溝(固定手段)
24 流路
41 プリズム
50 光学面平滑剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する略平板状の誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一方の面に形成され、全反射条件を満たすように光が照射された際に、その反射光の光強度を減衰させる薄膜層とを有し、この薄膜層に接触した試料の反応状況に応じて前記減衰の生じる前記光の入射角度が変化するセンサユニットにおいて、
前記試料が溶解した試料溶液を送液する流路が形成され、この流路を前記薄膜層に対面させるように、前記誘電体ブロックに当接する流路部材を設け、
前記流路を、前記誘電体ブロックとの当接面に形成された溝部と、この溝部の一端に接続されて前記当接面とは反対の面に貫通し、前記溝部に前記試料溶液を注入する注入部と、前記溝部の他端に接続されて前記当接面とは反対の面に貫通し、前記溝部に注入された前記試料溶液を排出する排出部とから構成したことを特徴とするセンサユニット。
【請求項2】
前記誘電体ブロックと前記流路部材とが当接した状態で、前記流路部材を前記誘電体ブロックに固定する固定手段を設けたことを特徴とする請求項1記載のセンサユニット。
【請求項3】
前記固定手段には、爪係止によるスナップフィット方式が用いられていることを特徴とする請求項2記載のセンサユニット。
【請求項4】
前記流路部材の材料が、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサンのいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のセンサユニット。
【請求項5】
透光性を有する略平板状の誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一方の面に形成され、全反射条件を満たすように光が照射された際に、その反射光の光強度を減衰させる薄膜層と、試料が溶解した試料溶液を送液する流路が形成され、この流路を前記薄膜層に対面させるように、前記誘電体ブロックに当接する流路部材とからなるセンサユニットに対して、
光学面平滑剤を介して前記誘電体ブロックの他方の面にプリズムを当接させ、
前記流路に前記試料溶液を送液した状態で前記プリズムを介して全反射条件を満たすように前記薄膜層に光を照射し、
その反射光を測定することにより、前記試料溶液中に溶解した試料の前記薄膜層上での反応状況を検知することを特徴とする試料の測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−189398(P2006−189398A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3004(P2005−3004)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】