説明

タイヤへの貼付部材の貼り付け方法およびタイヤの補修方法

【課題】バフ掛け後にタイヤ表面に残るバフ粉を短時間で充分に除去して、貼付部材とタイヤ表面の間の接着力を向上させる。
【解決手段】この貼付部材の貼り付け方法は、バフ掛けにより形成されたタイヤ表面の凹部19に、貼付部材を貼り付けるに先立って、凹部19内に生ゴムシート27を貼り付け、貼り付けた生ゴムシート27を剥がすことにより、凹部19内のバフ粉23を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バフ掛けによってタイヤ表面に形成された凹部に対して部材を貼り付ける際の技術に関し、特には、バフ掛け後に凹部内に残ったバフ粉を十分に除去して、部材のタイヤへの接着強度を高める技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤに貼り付ける部材(以下「貼付部材」ともいう。)としては、例えば、サイドカットを受けてタイヤが損傷した場合に、損傷部を補修するパッチラバーやタイヤの管理あるいはタイヤ内圧の測定を目的として、タイヤ内表面に貼り付けるタグ等が挙げられる。従来、貼付部材としてパッチラバーをタイヤ表面に貼り付ける場合には、先ず、貼り付ける部分にバフ掛けし、表面に凹部を形成する。その後、バフ掛けにより発生したバフ粉を、エアーの吹き付けや、有機溶剤を付けた布で拭き取ることにより除去し、パッチラバーを貼り付ける方法が行われている。(例えば特許文献1。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−162029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような貼付部材の貼り付け方法では、バフ粉の主材料であるゴムの持つ粘着性によってバフ粉がタイヤ表面に貼りつき、エアーの吹き付けや布での拭き取りだけでは、バフ粉を充分に除去しきれないことがある。またタイヤ凹部表面の、布では入り込めない隙間にバフ粉が残ってしまうこともある。さらに、バフ掛け時に切断しきれず表面に残ってしまったバフ粉なども存在することから、タイヤ表面と貼付部材の接着性が低下し、貼り付けた貼付部材が早期に剥離してしまう可能性があった。これに対し、バフ粉をエアーの吹き付けや布による拭き取りにより完全に取り除こうとすると工数が多大となる。
【0005】
それゆえこの発明は、バフ掛け後にタイヤ表面に残るバフ粉を短時間で充分に除去することにより、貼付部材とタイヤ表面の間の接着力の向上を実現しうる、貼付部材の貼り付け方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、この発明の貼付部材の貼り付け方法は、タイヤの表面に、バフ掛けすることにより凹部を形成し、該凹部に貼付部材を貼り付ける、貼付部材の貼り付け方法であって、前記凹部に貼付部材を貼り付けるのに先だって、該凹部に生ゴムシートを貼り付け、貼り付けた生ゴムシートを引き剥がすことにより凹部内に残留したバフ粉の除去を行うことを特徴とするものである。
【0007】
かかる部材の貼り付け方法にあっては、バフ掛けにより発生したバフ粉や、凹部表面からバフ掛け時に切断しきれずに残ったバフ粉を、生ゴムシートの粘着性を利用して、生ゴムシートの貼り付けと、貼り付けた生ゴムシートの引き剥がしという簡単な作業で、充分に除去することができる。
【0008】
したがって、この発明の貼付部材の貼り付け方法によれば、バフ掛け後にタイヤ表面に残るバフ粉を短時間で充分に除去することができ、タイヤの凹部表面と貼付部材の間の接着力の向上を実現することができる。また、タイヤを構成する主材料である生ゴムを用いることで、生ゴムが部分的に粉状になってバフ面に残ったとしても、異物として介在することがないので、バフ掛け後のバフ粉を取り除き、貼付部材を貼り付けた後の、自然加硫(部分加硫)の状態においても接着性が損なわれることがない。
【0009】
なお、この発明の貼付部材の貼り付け方法にあっては、生ゴムシートを貼り付ける前に、前記凹部にエアーの吹き付けを行い、事前に大きなバフ粉を取り除いておくことが好ましく、これによれば、生ゴムシートによるバフ粉の除去をさらに効率的に行うことができる。
【0010】
また、この発明の貼付部材の貼り付け方法にあっては、生ゴムシートの厚さを、1mm以上とすることが好ましく、これによれば、貼り付けた生ゴムシートを引き剥がす際に、生ゴムシートが破れるのを防止することができる。
【0011】
さらに、この発明の貼付部材の貼り付け方法にあっては、生ゴムシートを、凹部の、タイヤ表面への開口縁を超える位置まで貼り付けることが好ましく、これによれば、タイヤ表面への凹部の開口縁よりも外側にはみ出た生ゴムシートの周縁部が、貼り付けた生ゴムシートを引き剥がす際に把持代となり、容易に引き剥がすことができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、タイヤ表面をバフ掛けすることにより形成された凹部に残るバフ粉を短時間で十分に除去し、貼付部材のタイヤへの接着強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一例としてのゴムの貼り付け方法を用いて修理される空気入りタイヤの幅方向断面図(半図)である。
【図2】(a)〜(f)は、この発明の一例としてのタイヤの修理方法の手順を示す、図1の空気入りタイヤにおける損傷箇所の拡大断面図である。
【図3】損傷箇所に対して、バフ掛けにより形成される凹部と、生ゴムシートの貼り付けを行った状態を示す模式図である。
【図4】タイヤの内表面に貼付部材としてICタグを貼り付けた状態を示す、タイヤの幅方向断面図である。
【図5】損傷箇所に対して、バフ掛けにより形成される凹部と、貼り付けたパッチラバーを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、カーカスプライの破断を伴うサイドカットが発生したタイヤについて、その損傷箇所を、互いに平行に配列された複数本の補強素子をゴム被覆したパッチラバーを用いて修理する一般的な方法について説明する。
【0015】
図1において、符号1は、修理済みの空気入りタイヤ(以下、タイヤともいう。)である。このタイヤ1は、ビード部3からサイドウォール部5を経てトレッド部7にいたる複数本のプライコード9をゴム被覆したカーカスプライ11aからなるカーカス11を有する。
【0016】
カーカスプライ11aの破断を伴うサイドカットが発生したタイヤを修理するときには、先ず、損傷箇所15周辺の、カーカス11の内側および外側に隣接するゴム17を、バフ掛けにより除去して凹部19を形成し、破断により形成されたプライコード9の端部21を露出させる。
【0017】
次に、このとき形成された凹部19に対して、露出させたプライコード9の端部21を覆うようにして、パッチラバー13を配置し、配置したパッチラバー13の上に、未加硫のカバーゴム25を充填する。そして、充填したカバーゴム25に部分的に加硫を施す。
【0018】
上述した過程の中で、とくにはバフ掛けにより形成された凹部に対して貼り付けるパッチラバー13と凹部19表面の間のバフ粉23を充分に除去することで、パッチラバー13とタイヤの凹部表面との接着性が高くなり、強い補強効果を得ることができるため、この発明を適用することが効果的であるといえる。以下に、この発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施形態に従い、タイヤに発生した、図2(a)に示す損傷箇所15を修理するにあたっては、先ず、図2(b)に示すように、損傷箇所15の、カーカス11の内側および外側に隣接するゴム17を、タイヤの内面側および外面側からそれぞれバフ掛けによりなるべくカーカスプライ11aのコードが露出しないように除去して、カーカスプライ11aの、破断により形成されたプライコード9の端部21を露出させる。
【0020】
次いで図2(c)に示すように、生ゴムシート27を凹部19に貼り付ける。ここでは生ゴムシート27を貼り付ける前にエアーを吹き付け、比較的大きなバフ粉23を予め除去しておく。
【0021】
その後、図2(d)に示すように、貼り付けた生ゴムシートを引き剥がすことにより凹部19内に残留したバフ粉23の除去を行う。
【0022】
次いで、図2(e)、(f)に示すようにバフ粉23を除去した凹部19に、上述したパッチラバー13をタイヤ1の内面側から配置し、カバーゴム25をタイヤの内面側、および外面側から充填した後に、加硫することで、修理が完了する。
【0023】
このようにして修理を行ったタイヤ1は、パッチラバー13を貼り付ける際の、バフ掛けした凹部19の表面と、パッチラバー13の貼り付け面との間で強い接着性が得られるので、接着性の弱い従来の方法に比べて補強強度を向上させることができる。従来の方法によるタイヤの修理では、接着性が低いために修理した箇所を起点として再び故障するという問題があるところ、この発明に従って修理したタイヤに関しては、修理した箇所が再び故障することなく、タイヤ本来の摩耗寿命に達するまで、タイヤを使用することが可能となる。また、パッチラバー13による充分な補強強度が得られることから、補強範囲を最小限の範囲とすることができるので、材料費、作業時間を低減することができる。
【0024】
図3は、損傷箇所に対するバフ掛けにより形成された凹部19と、生ゴムシート27の貼り付け位置を模式的に示している。生ゴムシート27はバフ掛けにより形成された凹部19の、タイヤ表面への開口縁29よりも20mm以上外側の位置まで貼り付けることで、凹部19の、タイヤ表面への開口縁29よりも外側にはみ出た生ゴムシート27の周縁部が、引き剥がす際の把持代となり、作業を容易に行うことができる。生ゴムシート27の厚さは、薄ければ薄いほど形状変形し易く、凹部19の小さな隙間にも入り込めるので、バフ粉23を除去する効果が高いが、タイヤ表面から引き剥がす際に破れるのを防止するために、1mm以上であることが好ましい。
【0025】
さらに、生ゴムシート27を貼り付ける際にはステッチャーやローラーを用いて、凹部19の表面と生ゴムシート27の間にエアーが残らないようにし、生ゴムシート27にバフ粉23をできる限り付着させることが好ましい。
【0026】
図4は、別の貼付部材として、タイヤの固有識別情報の記録部を備えたICタグ31をタイヤの内表面33に貼り付けた例を示す空気入りタイヤの断面図を示す。
【0027】
このICタグ31は、例えば、製造管理、流通管理、およびメンテナンス管理等の場面において、そのタイヤの型式、製造番号、仕様など、個々の情報を迅速に読み取ることを目的として使用することができる。このようなICタグ31は、タイヤのクラウン部の内表面33にバフ掛けにより凹部19を形成し、そこに貼り付けるようにした場合、タイヤのクラウン部は、走行中の形状変形が大きく、さらに路面からの衝撃や振動などを受けるため、従来の貼り付け方法では、貼り付けたICタグ31が剥がれ落ちるおそれがあった。
【0028】
これに対して、この発明に従う貼り付け方法を用いて、バフ掛けの後に生ゴムシート27を貼り付けて、貼り付けた生ゴムシート27を引き剥がし、バフ粉23を生ゴムシート27に接着させて剥がし取るようにすれば、その後貼り付けるICタグ31とタイヤ内表面33の凹部19との間に充分な接着性が確保できICタグ31が剥がれ落ちるのを防止することができる。
【0029】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されず、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができるものであり、例えば貼付部材としては、パッチラバーやタグの他に、タイヤ内部の状態を測定、監視する装置またはその一部であってもよい。
【実施例】
【0030】
次にこの発明に従う修理方法で修理されたタイヤと、従来の修理方法で修理されたタイヤを用いて、修理による効果を比較したので以下で説明する。実施例および従来例で使用するタイヤはいずれも、オフザロードラジアルタイヤ(ORR 46/90R57)である。
【0031】
実施例および従来例では、サイドウォール部にサイドカットを受け、プライコードが3本破断し、損傷箇所に差がない空気入りタイヤを使用した。実施例および従来例ともに、損傷部を、バフ掛けした後、エアーをバフ面に吹き付けた。
【0032】
ここで実施例のみ、バフ掛けにより形成された凹部の境界を超える位置まで厚さ2mmの生ゴムシートを貼り付け、ローラーを用いてバフ面と生ゴムシートの間のエアーをなくし、バフ面全体に生ゴムシートが張り付くようにした後、生ゴムシートを剥がし取り、バフ粉およびバフ面から切断しきれていないバフ粉を生ゴムシートに接着させて除去した。
【0033】
その後、実施例および従来例ともに、タイヤの内面側からパッチラバーを貼り付けた。それぞれのパッチラバーの形状は等しく、図5に示す。
【0034】
このようにして修理された各タイヤをそれぞれリムに取り付け、車両に装着し、一般道路にて、正規荷重、正規内圧で使用した結果、実施例の方法により修理されたタイヤは摩耗寿命に達するまで、すなわちスリップラインが見える段階まで、修理した箇所が故障することなく使用され、使用時間は2,500時間であった。従来例の方法により修理されたタイヤは、使用時間1,000時間でタイヤが完全に摩耗する前に、貼り付けたパッチラバーが修理バフ面から剥がれ、故障した。
【0035】
上記の結果から、この発明の貼付部材の貼り付け方法を用いて修理したタイヤは、従来の方法で修理したタイヤよりも高い補強強度が得られ、タイヤは摩耗寿命まで使用可能になっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
かくしてこの発明によって、バフ掛け後にタイヤ表面に残るバフ粉を短時間で充分に除去することにより、貼付部材とタイヤ表面の間の接着力の向上を実現し得る貼付部材の貼り付け方法を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0037】
1 空気入りタイヤ
3 ビード部
5 サイドウォール部
7 トレッド部
9 プライコード
11 カーカス
11a カーカスプライ
13 パッチラバー
15 損傷箇所
17 カーカスに隣接するゴム
19 凹部
21 プライコードの端部
23 バフ粉
25 カバーゴム
27 生ゴムシート
29 開口縁
31 ICタグ
33 タイヤ内表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの表面に、バフ掛けすることにより凹部を形成し、該凹部に貼付部材を貼り付ける貼付部材の貼り付け方法であって、
前記凹部に貼付部材を貼り付けるのに先だって、該凹部に生ゴムシートを貼り付け、貼り付けた生ゴムシートを引き剥がすことにより凹部内に残留したバフ粉の除去を行うことを特徴とする貼付部材の貼り付け方法。
【請求項2】
前記生ゴムシートを貼り付ける前に、前記凹部にエアーの吹き付けを行う、請求項1に記載の貼付部材の貼り付け方法。
【請求項3】
前記生ゴムシートの厚さを1mm以上とした、請求項1又は2に記載の貼付部材の貼り付け方法。
【請求項4】
前記生ゴムシートを、前記凹部の、タイヤ表面への開口縁を超える位置まで貼り付ける、請求項1〜3の何れか一項に記載の貼付部材の貼り付け方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の貼付部材の貼り付け方法を用い、タイヤの表面に、バフ掛けにより形成された凹部内に、補強素子をゴム被覆してなる補修用のパッチラバーを貼付部材として貼り付けるタイヤの補修方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−161998(P2012−161998A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24229(P2011−24229)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】