説明

タンクの孔開け装置

【課題】切削刃によって孔部の外周部を切除するときに、切削刃を安定して移動させることができ、孔開け加工の加工精度を高めることができるタンクの孔開け装置を提供することを課題とする。
【解決手段】孔開け装置1であって、孔部Hに挿通される支軸部材10と、支軸部材10の先端部に設けられ、支軸部材10を孔部Hに挿通した状態で、タンクTの内部T1に配置される爪部20と、爪部20よりも支軸部材10の基端側に設けられ、タンクTの外部T2に配置される当接部30と、当接部30よりも支軸部材10の基端側に設けられ、支軸部材10の軸回りに円周移動する切削刃43を有する切削部40と、を備え、爪部20と当接部30とによって、孔部Hの外周部をタンクTの内外から挟んだ状態で、切削刃43を支軸部材10の軸回りに円周移動させ、切削刃43によって孔部Hの外周部H1を切除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクに形成された孔部を拡径するための孔開け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される樹脂製タンクの製造方法としては、金型内で溶融樹脂にエアを吹き込んで膨らませることで、中空樹脂を成形するブロー成形がある。このブロー成形では、溶融樹脂に差し込んだ送気ノズルからエアを吹き込んでおり、タンクを膨らませた後にタンクから送気ノズルを抜き取ることになる。そのため、成形後のタンクには送気ノズルを抜いた位置に孔部が形成される。そして、タンクに形成された孔部を給油口として利用したり、孔部にポンプユニットを取り付けたりするために、ブロー成形後に孔部を拡径する孔開け加工が行われている。
【0003】
タンクの孔部を拡径するための孔開け装置としては、孔部に挿通される支軸部材(ピストンロッド)と、この支軸部材の先端部に設けられた三体のアームと、支軸部材の軸回りに円周移動する切削刃と、を備え、三体のアームが支軸部材の径方向に開閉自在となっているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような従来の孔開け装置を用いてタンクの孔部を拡径する場合には、まず、三体のアームを閉じた状態で、支軸部材の先端部をタンクの外側から孔部に挿通させる。そして、タンクの内部で各アームを開いて、各アームの爪部をタンクの内側から孔部の外周部に当接させる。このようにして、支軸部材の先端部をタンクに取り付けた後に、切削刃を支軸部材の軸回りに円周移動させて、孔部の外周部を円形に切除することで、孔部を拡径することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3618693号公報(段落0014〜段落0016、図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した従来の孔開け装置では、三体のアームはタンクの内側から外側に向けて係合しているが、タンクの外側から内側に向けて係合されておらず、支軸部材がタンクの内方向に動き易くなっている。したがって、従来の孔開け装置では、切削刃によって孔部の外周部を切除するときに、切削刃が振れ易いため、孔開け加工の加工精度が低くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、切削刃によって孔部の外周部を切除するときに、切削刃を安定して移動させることができ、孔開け加工の加工精度を高めることができるタンクの孔開け装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、タンクに形成された孔部を拡径するためのタンクの孔開け装置であって、前記孔部に挿通される支軸部材と、前記支軸部材の先端部に設けられ、前記支軸部材を前記孔部に挿通した状態で、前記タンクの内部に配置される爪部と、前記爪部よりも前記支軸部材の基端側に設けられ、前記タンクの外部に配置される当接部と、前記当接部よりも前記支軸部材の基端側に設けられ、前記支軸部材の軸回りに円周移動する切削刃を有する切削部と、を備え、前記爪部と前記当接部とによって、前記孔部の外周部を前記タンクの内外から挟んだ状態で、前記切削刃を前記支軸部材の軸回りに円周移動させ、前記切削刃によって前記孔部の外周部を切除することを特徴としている。
【0009】
この構成では、支軸部材に設けられた爪部と当接部とによって、孔部の外周部をタンクの内外から挟むことで、支軸部材をタンクに対して確実に固定させることができる。したがって、切削刃によって孔部の外周部を切除するときに、切削刃を安定して円周移動させることができるため、加工精度を高めることができる。
また、切除された孔部の外周部は、爪部と当接部とによって保持されるため、切断片をタンクの内部に落下させることなく、回収することができる。
【0010】
前記したタンクの孔開け装置において、前記支軸部材は軸回りに回転自在であり、前記爪部は、前記支軸部材の中心軸線に対して偏芯して取り付けることが望ましい。
【0011】
この構成では、支軸部材の中心軸線に対して爪部が一方に偏芯して突出しており、支軸部材を軸回りに回転させることで、爪部が突出する方向を変化させることができる。そして、爪部をタンクの外側から孔部に挿入するときには、爪部が孔部に干渉しないように、爪部の向きを設定し、爪部をタンクの内部に配置した後に、爪部がタンクの内側から孔部の外周部に当接するように、爪部の向きを変化させることができる。このように、爪部を孔部に対して簡単に挿通させて、爪部をタンクの内側から孔部の外周部に当接させることができる。
【0012】
前記したタンクの孔開け装置において、前記爪部は、前記支軸部材の軸方向に対して直交する方向に突出しており、前記支軸部材との連結部を回動中心として、前記支軸部材の基端側に向けて傾動自在に構成することができる。
【0013】
この構成では、爪部をタンクの外側から孔部に挿入するときに、爪部が孔部の開口縁部に当接すると、爪部は孔部の内周面に押され、爪部が支軸部材の基端側に向けて傾動するため、爪部は孔部を通過することができる。そして、孔部を通過した爪部はタンクの内部で元の姿勢に復帰することになる。このように、爪部を孔部に対して簡単に挿通させて、爪部をタンクの内側から孔部の外周部に当接させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタンクの孔開け装置によれば、切削刃によって孔部の外周部を切除するときに、切削刃を安定して移動させることができ、孔開け加工の加工精度を高めることができる。また、切断片をタンク内に落下させることなく、回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の孔開け装置において、支軸部材を孔部に挿通させた状態の図で、(a)は側断面図、(b)はタンクの内側から孔部を見た図である。
【図2】本実施形態の孔開け装置において、支軸部材の先端部を孔部に挿入したときの図で、(a)は側断面図、(b)はタンクの内側から孔部を見た図である。
【図3】本実施形態の孔開け装置において、爪部と当接部とによって、孔部の外周部を挟んだ状態の図で、(a)は側断面図、(b)はタンクの内側から孔部を見た図である。
【図4】他の実施形態の孔開け装置における爪部を示した図で、(a)は爪部を孔部に挿通する前の側断面図、(b)は爪部を孔部に挿入した状態の側断面図、(c)は爪部と当接部とによって、孔部の外周部を挟んだ状態の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
孔開け装置1は、図1(a)に示すように、ブロー成形された樹脂製のタンクTの孔部Hを拡径するための装置であり、支軸部材10と、この支軸部材10の先端部に設けられた爪部20と、この爪部20よりも支軸部材10の基端側に設けられた当接部30と、この当接部30よりも支軸部材10の基端側に設けられた切削部40と、を備えている。
【0017】
支軸部材10は、タンクTの孔部Hに挿通される棒状の部材であり、基端部は駆動ユニット(図示せず)に取り付けられ、先端部は孔部Hに対してタンクTの外側から出入自在となっている。また、支軸部材10は、駆動ユニットの回転力によって、軸回りに回転自在となっている。
また、支軸部材10には、円板状のばね受け部材10aが取り付けられている。ばね受け部材10aの中心部には貫通孔が形成されており、この貫通孔に支軸部材10が挿通され、ばね受け部材10aは支軸部材10に固定されている。
【0018】
爪部20は、支軸部材10の先端部に固定されており、支軸部材10の軸方向に対して直交する方向に突出している。
この爪部20は、支軸部材10の先端部を孔部Hに挿通したときに、タンクTの内部T1に配置される。また、爪部20は、図1(b)に示すように、支軸部材10の軸線に対して偏芯して取り付けられており、支軸部材10の中心軸線に対して一方に大きく突出している。
【0019】
当接部30は、図1(a)に示すように、ばね受け部材10aよりも支軸部材10の先端側で、支軸部材10に取り付けられた板状部材である。当接部30は、中心部に貫通孔が形成されており、支軸部材10に外嵌され、当接部30は支軸部材10の軸方向に移動自在となっている。
当接部30は、支軸部材10の先端部を孔部Hに挿通させたときに、タンクTの外部T2に配置される。また、当接部30の外径は、孔部Hの外側の開口部の内径よりも大きく形成されている。
【0020】
また、当接部30において支軸部材10の基端側に対応する面には、コイルばね50の一端が取り付けられている。このコイルばね50の他端は、支軸部材10に取り付けられたばね受け部材10aの先端面に取り付けられている。当接部30は、コイルばね50を介して支軸部材10に支持されている。
【0021】
切削部40は、当接部30よりも支軸部材10の基端側に設けられており、支軸部材10の軸回りに回転する回転軸41と、基端部が回転軸41の先端部に取り付けられたアーム42と、このアーム42の先端部に取り付けられた切削刃43と、を備えている。
【0022】
回転軸41は、中心部に貫通孔41aが形成された円筒状の部材であり、支軸部材10の基端部に外嵌されている。回転軸41の基端部は駆動ユニット(図示せず)に取り付けられており、回転軸41は支軸部材10とは別個に支軸部材10の軸回りに回転することができる。
【0023】
アーム42は、基端部が回転軸41の先端部の外周面に固定されており、支軸部材10の軸方向に直交する方向に突出している。
【0024】
切削刃43は、支軸部材10の軸方向に平行して延ばされており、基端部はアーム42の先端部に取り付けられ、先端部には刃面が形成されている。切削刃43はアーム42を介して回転軸41に連結されているため、回転軸41の回転に伴って、支軸部材10の軸回りに円周移動する。
そして、支軸部材10の軸回りに円周移動させながら、切削刃43の先端部の刃面をタンクTの外面に当接させることで、孔部Hの外周部H1が円形に切除される。したがって、本実施形態の孔開け装置1では、切削刃43の先端部から支軸部材10の軸線までの間隔が、拡径した後の孔部Hの半径となる。
【0025】
次に、前記した孔開け装置1を用いてタンクTの孔部Hを拡径する場合について説明する。
まず、図2(a)に示すように、孔開け装置1をタンクTの孔部Hの外側に配置し、支軸部材10の先端部をタンクTの外側から孔部Hに挿通する。このとき、図2(b)に示すように、支軸部材10を軸回りに回転させることで、支軸部材10の先端部に取り付けられた爪部20が大きく突出する方向を変化させ、爪部20が孔部Hに干渉しないように、爪部20の向きを設定する。
【0026】
図3(a)に示すように、爪部20をタンクTの内部T1に配置した後に、支軸部材10を軸回りに回転させることで、支軸部材10の先端部に取り付けられた爪部20が大きく突出する方向を変化させ、爪部20の先端部が孔部Hの内側の開口部より径方向に突出するように、爪部20の向きを変化させる(図3(b)参照)。そして、図1(a)に示すように、支軸部材10をタンクTの外側に移動させて、爪部20をタンクTの内側から孔部Hの外周部H1に当接させる。
【0027】
このとき、タンクTの外部T2に配置されている当接部30は、孔部Hの周囲でタンクTの外面に当接し、当接部30とばね受け部材10aとの間でコイルばね50が収縮する。これにより、当接部30は、コイルばね50の伸長力によって支軸部材10の先端側に向けて付勢され、タンクTの外側から孔部Hの外周部H1に押し付けられる。このようにして、孔部Hの外周部H1は、爪部20と当接部30とによって、タンクTの内外から挟まれる。
【0028】
そして、回転軸41を支軸部材10の軸回りに回転させて、切削刃43を支軸部材10の軸回りに円周移動させながら、回転軸41を支軸部材10の先端側に移動させて、切削刃43の刃面をタンクTの外面に当接させる。切削刃43は、タンクTの外面を線状に切削しながら、孔部Hの周囲を円周移動する。さらに、回転軸41を支軸部材10の先端側に進めることで、切削刃43はタンクTの壁部に押し込まれ、図3(b)に示すように、孔部Hの外周部H1が円形に切除される。
【0029】
タンクTから切除された孔部Hの外周部H1は、爪部20と当接部30とによって保持されているため、孔開け装置1をタンクTの外側に移動させることで、切削片がタンクTから取り除かれ、孔部Hが拡径された状態となる。
【0030】
以上のように、本実施形態の孔開け装置1によれば、図1(a)に示すように、支軸部材10に設けられた爪部20と当接部30とによって、孔部Hの外周部H1をタンクTの内外から挟むことで、支軸部材10をタンクTに対して確実に固定させることができる。したがって、切削刃43によって孔部Hの外周部H1を切除するときに、切削刃43を安定して円周移動させることができ、孔開け加工の加工精度を高めることができる。
【0031】
また、切除された孔部Hの外周部H1は、爪部20と当接部30とによって保持されるため、切断片をタンクTの内部に落下させることなく、回収することができる。
【0032】
また、支軸部材10の中心軸線に対して爪部20が一方に偏芯して突出しており、支軸部材10を軸回りに回転させることで、爪部20をタンクTの内側から孔部Hの外周部H1に当接させることができる。このように、爪部20を孔部Hに対して簡単に挿通させて、爪部20をタンクTの内側から孔部Hの外周部H1に当接させることができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、図4(a)に示すように、支軸部材10との連結部62を回動中心として、支軸部材10の基端側に向けて傾動自在な爪部60を用いてもよい。
この爪部60は、支軸部材10の先端部に取り付けられており、支軸部材10の軸方向に対して直交する方向に突出している。また、爪部60の先端部にはコイルばね61の一端が取り付けられており、コイルばね61の他端は、支軸部材10において爪部60よりも先端側の部位に取り付けられている。また、爪部60は、支軸部材10に取り付けられたストッパー63に支持されることで、支軸部材10の軸方向に対して直交する方向に突出した状態、すなわち、当接部30の面に平行な姿勢に保たれている。
【0034】
この構成では、図4(b)に示すように、爪部60をタンクTの外側から孔部Hに挿通させるときに、爪部60が孔部Hの外側の開口縁部に当接すると、爪部60は孔部Hの内周面に押され、連結部62を回動中心として、支軸部材10の基端側に向けて傾動する。これにより、爪部60は幅方向(孔部Hの径方向)に縮小されるため、爪部60は孔部Hを通過することができる。
そして、図4(c)に示すように、孔部Hを通過した爪部60は、コイルばね61の引張力によって、タンクTの内部で元の姿勢に復帰するため、爪部60の先端部が孔部Hの内側の開口部より径方向に突出した状態となり、爪部60をタンクTの内側から孔部Hの外周部に当接させることができる。
このように、支軸部材10の基端側に向けて傾動自在な爪部60を用いた構成では、爪部20を孔部Hに対して簡単に挿通させることができ、タンクTの内部で爪部20の向きを変化させることなく、爪部20をタンクTの内側から孔部Hの外周部H1に当接させることができる。
【0035】
なお、支軸部材10の基端側に向けて傾動自在な爪部60を用いた構成では、爪部60を一方に突出させた構成に限定されるものではなく、複数の爪部60・・・を、複数の方向に突出させてもよい。この構成では、爪部60と当接部30とによるタンクTの外周部H1の保持力を高めることができる。
【0036】
また、図1に示す本実施形態の孔開け装置1において、支軸部材10に対してばね受け部材10aの取り付け位置を調整可能に構成することで、タンクTの周辺部H1の厚みに対応させて、当接部30の位置を変更することができるため、各種のタンクに対応することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 孔開け装置
10 支軸部材
20 爪部
30 当接部
40 切削部
41 回転軸
42 アーム
43 切削刃
H 孔部
H1 外周部
T タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクに形成された孔部を拡径するためのタンクの孔開け装置であって、
前記孔部に挿通される支軸部材と、
前記支軸部材の先端部に設けられ、前記支軸部材を前記孔部に挿通した状態で、前記タンクの内部に配置される爪部と、
前記爪部よりも前記支軸部材の基端側に設けられ、前記タンクの外部に配置される当接部と、
前記当接部よりも前記支軸部材の基端側に設けられ、前記支軸部材の軸回りに円周移動する切削刃を有する切削部と、を備え、
前記爪部と前記当接部とによって、前記孔部の外周部を前記タンクの内外から挟んだ状態で、前記切削刃を前記支軸部材の軸回りに円周移動させ、前記切削刃によって前記孔部の外周部を切除することを特徴とするタンクの孔開け装置。
【請求項2】
前記支軸部材は軸回りに回転自在であり、
前記爪部は、前記支軸部材の中心軸線に対して偏芯して取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のタンクの孔開け装置。
【請求項3】
前記爪部は、前記支軸部材の軸方向に対して直交する方向に突出しており、前記支軸部材との連結部を回動中心として、前記支軸部材の基端側に向けて傾動自在であることを特徴とする請求項1に記載のタンクの孔開け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−179376(P2010−179376A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22420(P2009−22420)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000152675)コマツNTC株式会社 (218)
【Fターム(参考)】