説明

ターボ型真空ポンプ

【課題】回転翼と固定翼の隙間を小さくして排気性能を向上させることができ、回転軸の温度及び熱膨張量を正確に推定することを可能にし、また回転翼と固定翼とが接触する前に警報を発する、あるいは運転を停止させることができるターボ型真空ポンプを提供する。
【解決手段】回転軸54を磁気浮上させる少なくとも一対のアキシャル磁気軸受59,と、回転軸に取付けられた回転翼52と、回転翼と対向するように配置された固定翼53と、回転軸を回転駆動するモータ55とを備えたターボ型真空ポンプにおいて、回転軸の一方の端部近傍に回転翼と固定翼とを配置することにより排気部90を構成するとともに、回転軸の軸方向の位置を検出する第1のアキシャル変位センサ59とアキシャル磁気軸受58とを回転軸の他方の端部近傍に配置することにより運動制御部91を構成し、排気部の近傍に回転軸の軸方向位置を検出する第2のアキシャル変位センサ60を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ型真空ポンプに係り、特に、電磁石の磁気吸引力を利用して回転軸を非接触に支持する磁気軸受装置を備えたターボ型真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受は、回転軸等の被浮上体を非接触で支持できる軸受であることから、例えばターボ分子ポンプ等に用いて高速回転運動が可能となる。このような磁気軸受は、軸受の磨耗という問題が生ぜず、また潤滑油等を必要としないのでメンテナンスフリーである、等の種々の特徴を有している。かかる磁気軸受には、回転軸の半径方向の浮上位置を能動制御するラジアル能動磁気軸受、及び回転軸の軸方向の浮上位置を能動制御するアキシャル能動磁気軸受等がある。このような磁気軸受をターボ型真空ポンプに適用した従来例を図1乃至図3に示す。
【0003】
図1乃至図3において、符号1は回転軸、符号2a〜2cは回転軸1に取付けられた回転翼、符号3a〜3cは回転翼2a〜2cにそれぞれ対向するように配置された固定翼である。固定翼3a〜3cはポンプステータ11の内面に取付けられ、スペーサ4a,4bによって相対位置が固定されている。符号5a,5bは磁気軸受ターゲット16を介して回転軸1をアキシャル方向に磁気浮上させるためのアキシャル能動磁気軸受、符号6は回転軸1の端部近傍に取付けられたアキシャル変位センサ、符号7はアキシャル変位センサ6と対向するように回転軸1の端部に取付けられたセンサターゲットである。回転軸1の変位はアキシャル変位センサ6によって検出され、アキシャル変位センサ6の出力信号に基づいて回転軸1がアキシャル能動磁気軸受5a,5bによって所定の位置に支持される。なお、図示しないが、一般に回転軸1をラジアル方向に磁気浮上させるラジアル能動磁気軸受が設けられる。
【0004】
符号8Aは回転軸1の中央部に取付けられたモータロータ、符号8Bはモータロータ8Aを回転軸1と一体に回転させるモータステータ、符号9a,9bは保護ベアリング(タッチダウン軸受)、符号10は固定翼3a〜3c及びスペーサ4a,4bなどを加熱するヒータである。また、符号12はポンプステータ11のモータステータ8Bとアキシャル能動磁気軸受5a,5bが位置する部分を冷却する冷却ジャケット、符号13aはモータステータ8Bの巻線に取付けられた温度検出用サーミスタ、符号13bはアキシャル能動磁気軸受5aの巻線に取付けられた温度検出用サーミスタである。ポンプステータ11には、回転翼2aの上流側に位置する吸気口14と、回転翼2cの下流側に位置する排気口15とが形成されている。
【0005】
上記構成を有するターボ型真空ポンプは、半導体製造工程において広く使用されており、半導体製造工程において用いられる各種の反応ガスがターボ型真空ポンプにより排気される。近年、その反応ガス量は半導体ウエハの大型化から増加する傾向にあり、これに伴い半導体製造装置も大型化しつつある。同様に、反応ガス量が増加するに伴い、ターボ型真空ポンプも大型化しており、ターボ型真空ポンプの更なる小型化が求められている。このような要求から、回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cの隙間をよりいっそう小さくして、吸気口14と排気口15との間で大きな圧力差が得られるようにするとともに、高排気性能を実現するターボ型真空ポンプの開発が進められている。
【0006】
一般に、半導体製造工程中に発生する生成物がポンプ内部に付着することを防止するため、固定翼3a〜3c及びスペーサ4a,4bはヒータ10により高温に加熱される。このため、その輻射熱が回転軸1に伝わり、回転軸1の温度が上昇する。また、プロセス中において高温化した反応ガスの熱や、回転翼2a〜2cと反応ガスとの摩擦熱が回転軸1に伝導し、回転軸1はその全長に亘って高温となる。回転軸1はアキシャル能動磁気軸受5a,5bによって磁気浮上しているためポンプステータ11とは接触しておらず、また回転軸1は真空雰囲気中に置かれる。このため、回転軸1からの放熱量が少なく、よって回転軸1は非常に高温となる。
【0007】
一方、ポンプステータ11は、モータステータ8B及びアキシャル能動磁気軸受5a,5bが配置される部分の温度上昇を防止するために、冷却ジャケット12で冷却されている。その結果として回転軸1とポンプステータ11との温度差が大きくなり、熱膨張した回転軸1の長さL1とポンプステータ11の長さL2との差が大きくなってしまう。
【0008】
また、回転軸1の一方の端部が吸気口14に位置するというターボ型真空ポンプの構造から、アキシャル変位センサ6は回転軸1の他方の端部近傍のみに配置されている。このため、通常、アキシャル変位センサ6は回転翼2a〜2c及び固定翼3a〜3cから離れた位置に配置される。図2のように、アキシャル能動磁気軸受5a,5bは、アキシャル変位センサ6とセンサターゲット7との隙間drが常に一定となるように制御されるため、回転軸1はセンサターゲット7の位置を基点として吸気口14に向かって伸びることになる。そうすると、上述したように回転軸1とポンプステータ11との温度差が大きいことから、L1とL2の熱膨張による伸び率が大きく異なってしまい、回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとの隙間dgは回転軸1の温度上昇と共に狭まることになる。その結果、ターボ型真空ポンプの排気性能向上を図るために回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとの隙間dgを小さくすると、これらが回転中に接触することとなりかねない。このため、一定以上の隙間を確保する必要があり、ターボ型真空ポンプの高排気性能化を阻害していた。
【0009】
前述したアキシャル変位センサ6には、一般に、耐久性の問題等からフェライト材料や積層された薄いけい素鋼鈑などの磁性体(コア)に導線を巻いた構造のコイルが使用されている。このようなアキシャル変位センサは、コイルのインピーダンスの変化を利用した誘導型あるいは渦電流型変位センサであり、コアの温度が変化するとその透磁率が変化することが知られている。
一般に、コイルのインダクタンスLcは、次の式で表される。
【数1】

N:導線の巻数、Rm1:コアの磁気抵抗、Rm2:コイルとセンサターゲットとのギャップの磁気抵抗
【0010】
コアの磁気抵抗Rm1 、及びコイルとセンサターゲットとのギャップの磁気抵抗Rm2は、漏れ磁束を無視すると、それぞれ次の式で表される。
【数2】

μ:真空透磁率、Le:コアの実効磁路長、δ:ギャップ長さ、μ:コアの透磁率、Ae:コアの実効断面積
【0011】
また、コイルのインピーダンスZは、次の式で表される。
【数3】

Lc:コイルのインダクタンス、Rc:巻線の抵抗
【0012】
(1)式及び(2)式から明らかなように、コアの透磁率が変化するとインダクタンスが変化し、(4)式よりインピーダンスが変化することになり、結果としてアキシャル変位センサの検出値に誤差が発生する。またフェライト材などの磁性体は、材料が常磁性になるキュリー温度近傍になると急激に透磁率が変化する特性を一般的に持っている。このため、アキシャル変位センサの温度が100℃を超えるような高温となってキュリー温度に近づくと、さらに誤差が拡大することとなる。前述の様に回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとの隙間を小さくした場合、この誤差に起因してこれらが接触するという問題があり、アキシャル変位センサを真空ポンプの高温部分に取付けることはできなかった。
【0013】
また、一般に、センサターゲットとコアとの隙間の変化とインピーダンスの変化とは、(1)〜(4)式から正比例の関係ではなく、上記隙間が狭いほどインピーダンスの変化が急峻であり、隙間が大きくなるとインピーダンスの変化がなだらかになる。従って、アキシャル変位センサ6を用いて回転軸1のアキシャル方向の磁気浮上位置を正確に制御する場合は、センサターゲットの変位量−アキシャル変位センサの出力値の特性曲線を直線に補正する必要があった。
【0014】
図2において、アキシャル変位センサ6は、回転軸1の軸中心線上に設置されている。一方、図3に示す例では、アキシャル変位センサ6は、回転軸1の軸中心線から外れた位置に設置され、回転軸1に垂直なセンサターゲット7に対向するように配置されている。図3のように、回転軸1の軸中心線以外の位置にアキシャル変位センサ6を設置した場合、アキシャル変位センサ6は回転軸1の回転中心から離れることになる。このため、回転軸1のアンバランスによる回転軸1の振れ回り(回転軸1の傾き)により、センサターゲット7とアキシャル変位センサ6との隙間が、図3に示すdr1及びdr2のように大きく変化することになる。そして、この隙間をアキシャル変位センサ6が検出し、アキシャル変位センサ6の出力値に基づいてアキシャル能動磁気軸受5a,5bが制御されるために、回転軸1の回転速度成分により回転軸1をアキシャル方向に加振してしまうという問題があり、アキシャル変位センサ6の設置位置を制限する要因となっていた。
【0015】
回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとの熱膨張による接触を防止するために、図1に示すように、モータステータ8B及びアキシャル能動磁気軸受5aに取付けられた温度検出用サーミスタ13a,13bにより回転軸1の温度を推定し、回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとが接触する前にポンプの運転を停止する方法が用いられている。しかしながら、温度検出用サーミスタ13a,13bは間接的に回転軸1の温度を計測するために正確な温度計測ができず、回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとの接触を完全に回避することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、回転翼と固定翼の隙間を小さくして排気性能を向上させることができ、回転軸の温度及び熱膨張量を正確に推定することを可能にし、また回転翼と固定翼とが接触する前に警報を発する、あるいは運転を停止させることができるターボ型真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、回転軸を磁気浮上させる少なくとも一対のアキシャル磁気軸受と、前記回転軸に取付けられた回転翼と、前記回転翼と対向するように配置された固定翼と、前記回転軸を回転駆動するモータとを備えたターボ型真空ポンプにおいて、前記回転軸の一方の端部近傍に前記回転翼と前記固定翼とを配置することにより排気部を構成するとともに、前記回転軸の軸方向の位置を検出する第1のアキシャル変位センサと前記アキシャル磁気軸受とを前記回転軸の他方の端部近傍に配置することにより運動制御部を構成し、前記排気部の近傍に前記回転軸の軸方向位置を検出する第2のアキシャル変位センサを配置したことを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、回転軸が熱膨張した場合でも、アキシャル磁気軸受と磁気軸受ターゲットとの隙間をほぼ一定に維持することができ、アキシャル磁気軸受と磁気軸受ターゲットとが接触してしまうことを防止することができる。また、本発明によれば、第1及び第2のアキシャル変位センサの出力値の偏差に基づいて回転軸の温度や熱膨張量を検出することができる。また、回転軸の回転速度や回転軸の温度に応じて第1及び第2のアキシャル変位センサを切換えて使用することも可能になる。
【0019】
本発明の好ましい態様は、前記第1のアキシャル変位センサ及び前記第2のアキシャル変位センサの出力値に基づいて冷却機構により前記ターボ型真空ポンプの温度を制御することを特徴とする。
本発明によれば、第1及び第2のアキシャル変位センサを用いて回転軸の熱膨張量を算出することができる。そして、その算出結果に基づいて回転翼と固定翼との隙間が常に最適状態になるように冷却機構を制御して安定的な排気性能を得るようにすることが可能となる。
【0020】
本発明の好ましい態様は、前記第1のアキシャル変位センサ及び前記第2のアキシャル変位センサの出力値に基づいて警報動作を行うことを特徴とする。
本発明によれば、第1及び第2のアキシャル変位センサを用いて回転軸の熱膨張量を算出することにより、回転翼と固定翼が接触する前に警報動作を行うことが可能となり、ターボ型真空ポンプが破損することを未然に防止することができる。なお、回転翼と固定翼が接触する前に運転を停止させるようにしてもよい。
【0021】
本発明の好ましい態様は、前記運動制御部はハウジング内に収容され、前記ハウジングを構成する材料は、前記回転軸を構成する材料の線膨張係数以上に大きい線膨張係数を有していることを特徴とする。
通常、ターボ型真空ポンプの運転中においては、回転軸の温度はハウジングの温度よりも高くなる。このため、回転軸とハウジングとの熱膨張量の差に起因して、ハウジングに取付けられた第2のアキシャル変位センサと回転軸に取付けられたセンサターゲットとの隙間が運転中に変化してしまう。本発明によれば、回転軸とハウジングとの温度差が大きくなった場合でも、回転軸とハウジングとの熱膨張量をほぼ等しくすることができる。これによって、第2のアキシャル変位センサとセンサターゲットとの隙間を一定に維持することができる。
【0022】
本発明の好ましい態様は、前記回転翼及び前記固定翼をそれぞれ複数設け、前記複数の回転翼と前記複数の固定翼との間に形成される隙間は、前記第2のアキシャル変位センサから離れるに従って大きくなるように設定されていることを特徴とする。
本発明によれば、回転翼と固定翼との間に形成される複数の隙間を互いに等しくすることができる。
【0023】
本発明の参考例に係る磁気軸受装置は、回転軸を磁気浮上させる少なくとも一対のアキシャル磁気軸受と、該回転軸のアキシャル方向の浮上位置を検出する少なくとも一つのアキシャル変位センサと、該アキシャル変位センサの出力値に基づいて前記回転軸が所定位置で磁気浮上するように前記アキシャル磁気軸受の励磁電流を制御する磁気軸受制御装置とを備え、前記回転軸の高温部位近傍に前記回転軸と同心円状のセンサターゲットを設け、該センサターゲットと対向する位置に前記アキシャル変位センサを配置した構成を有する。この参考例は、高温状態にある回転軸を支持する磁気軸受装置において、高温による回転軸の熱膨張の影響を少なくし、回転軸のアンバランスによる振れ回り量がアキシャル変位センサの出力値に重畳されることを防止し、回転軸の端部以外の場所にアキシャル変位センサを取付けることを可能として回転軸のアキシャル方向の位置を安定制御することができる磁気軸受装置を提供することを目的としたものである。
【0024】
上記磁気軸受装置によれば、回転軸の熱膨張による影響を最小限とすることができる。例えば、上記磁気軸受装置をターボ型真空ポンプに用いた場合、アキシャル変位センサは回転軸が最も高温となる部位、即ち回転翼及び固定翼の近傍に配置されることとなる。このような配置により、回転翼の変位量は最小限となり、回転翼と固定翼との接触を防止することができる。従って、回転翼と固定翼の隙間をよりいっそう小さくして排気性能を向上させることができる。
【0025】
上記磁気軸受装置において、前記アキシャル磁気軸受が機能しないときに前記回転軸を支持する保護ベアリング及び/又は前記アキシャル磁気軸受を前記回転軸の高温部位近傍に配置してもよい。
これにより、回転軸をアキシャル方向に支持する保護ベアリングを回転軸の高温部位近傍に配置することにより、回転軸が熱膨張した場合であっても、回転軸と保護ベアリングとの接触を防止することができる。また、本発明によれば、上記アキシャル磁気軸受を回転軸の高温部位近傍に配置することにより、アキシャル磁気軸受と回転軸に取付けられた磁気軸受ターゲット間の隙間をよりいっそう狭く設定することができる。これにより、アキシャル磁気軸受の駆動コイルに流す電流を減少させて消費電力を低減することができ、駆動コイルの径や巻回数を減らしてアキシャル磁気軸受の小型化を図ることが可能となる。
【0026】
上記磁気軸受装置において、前記アキシャル変位センサを複数設け、前記複数のアキシャル変位センサはそれぞれコイルを備え、該コイルのインピーダンスの変化に基づいて前記回転軸の変位を検出し、複数の前記コイルを前記回転軸の円周方向に沿って配列し、複数の前記コイルを並列及び/又は直列に接続してもよい。
また、上記磁気軸受装置において、前記アキシャル変位センサはコイルを備え、該コイルのインピーダンスの変化に基づいて前記回転軸の変位を検出し、前記コイルの導線を前記回転軸の円周方向に沿って巻回した構成としてもよい。
これにより、回転軸のアンバランスによる振れ回り量がアキシャル変位センサの出力値に重畳されることを防止することができ、アキシャル磁気軸受によって回転軸のアキシャル方向の位置を安定して制御することが可能となる。
【0027】
上記磁気軸受装置において、前記アキシャル変位センサを複数設け、前記複数のアキシャル変位センサを前記回転軸の円周方向に沿って配列し、前記複数のアキシャル変位センサの出力値を平均化する平均化装置を設けてもよい。
これにより、アキシャル変位センサが光学式等である場合においても、回転軸のアンバランスによる振れ回り量がアキシャル変位センサの出力値に重畳されることを防止することができ、アキシャル磁気軸受によって回転軸のアキシャル方向の位置を安定して制御することが可能となる。
【0028】
上記磁気軸受装置において、前記アキシャル変位センサを複数設け、前記センサターゲットの前記回転軸の軸方向両側に、該センサターゲットを挟み込むように前記複数のアキシャル変位センサを配置してもよい。
これにより、センサターゲットの変位量−アキシャル変位センサ出力値の特性曲線をほぼ直線に補正することができるので、回転軸のアキシャル方向の位置を正確に検出することが可能となる。従って、アキシャル磁気軸受によって回転軸を安定して磁気浮上させることができる。さらに、アキシャル変位センサを構成するコアの温度が変化してインピーダンスが変動した場合においても、その影響をキャンセルすることが可能となる。
【0029】
本発明の他の参考例に係るターボ型真空ポンプは、回転軸を磁気浮上させる少なくとも一対のアキシャル磁気軸受と、該回転軸のアキシャル方向の浮上位置を検出する少なくとも一つのアキシャル変位センサと、該アキシャル変位センサの出力値に基づいて前記回転軸が所定位置で磁気浮上するように前記アキシャル磁気軸受の励磁電流を制御する磁気軸受制御装置と、前記回転軸に取付けられた回転翼と、前記回転翼と対向するように配置された固定翼と、前記回転軸を回転駆動するモータとを備え、前記回転軸の一方の端部近傍に前記回転翼と前記固定翼とを配置することにより排気部を構成するとともに、前記モータと前記アキシャル磁気軸受とを有する運動制御部を前記回転軸の他方の端部側に配置し、前記排気部の近傍に前記アキシャル変位センサを配置した構成を有する。
【0030】
ターボ型真空ポンプは、通常、運転時において回転翼と気体との摩擦による熱や生成物付着防止のためのヒータ加熱等によって、回転翼と固定翼とから構成される排気部が高温となる。上記構成のターボ型真空ポンプによれば、高温となる排気部と、アキシャル磁気軸受やモータなどから構成される運動制御部とが構造的に分離され、熱耐量が低いアキシャル磁気軸受やモータなどの電装部品を高熱から保護することが可能となる。また、上記構成のターボ型真空ポンプによれば、排気部近傍に回転軸のアキシャル方向の変位を検出するアキシャル変位センサを設け、このアキシャル変位センサの出力値に基づいて回転軸を所定の軸方向位置に支持することにより、回転軸の伸びの基点をアキシャル変位センサの測定点とすることができる。これにより、回転翼と固定翼との軸方向のギャップを小さくでき、結果的にターボ型真空ポンプの排気性能向上と運転の安定化が図れる。
【0031】
上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記アキシャル磁気軸受が機能しないときに前記回転軸を支持する保護ベアリング及び/又は前記アキシャル磁気軸受を前記排気部の近傍に配置してもよい。
これにより、回転軸をアキシャル方向に支持する保護ベアリングを回転軸の高温部位近傍に配置することにより、回転軸が熱膨張した場合であっても、回転軸と保護ベアリングとの接触を防止することができる。また、一般に、吸気口と排気口との圧力差が大きい広帯域ターボ型真空ポンプでは、上記圧力差に起因して回転軸にアキシャル方向の大きな力が作用する。本発明によれば、アキシャル磁気軸受を高温部位近傍に配置することにより、アキシャル磁気軸受と回転軸に取付けられた磁気軸受ターゲット間の隙間をよりいっそう狭く設定することができる。その結果としてアキシャル磁気軸受は、上記アキシャル方向の力に対応した磁気吸引力を発生することができる。さらに、アキシャル磁気軸受の駆動コイルに流す電流を減少させて消費電力を低減することができ、駆動コイルの径や巻回数を減らしてターボ型真空ポンプの小型化を図ることが可能となる。
【0032】
また、上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記アキシャル変位センサを複数設け、前記複数のアキシャル変位センサはそれぞれコイルを備え、該コイルのインピーダンスの変化に基づいて前記回転軸の変位を検出し、複数の前記コイルを前記回転軸の円周方向に沿って配列し、複数の前記コイルを並列及び/又は直列に接続してもよい。
また、上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記アキシャル変位センサはコイルを備え、該コイルのインピーダンスの変化に基づいて前記回転軸の変位を検出し、前記コイルの導線を前記回転軸の円周方向に沿って巻回してもよい。
また、上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記アキシャル変位センサを複数設け、前記複数のアキシャル変位センサを前記回転軸の円周方向に沿って配列し、前記複数のアキシャル変位センサの出力値を平均化する平均化装置を設けてもよい。
また、上記ターボ型真空ポンプにおいて、前記アキシャル変位センサを複数設け、センサターゲットの前記回転軸の軸方向両側に、該センサターゲットを挟み込むように前記複数のアキシャル変位センサを配置してもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明および上記参考例によれば、下記のような優れた効果が得られる。
(1)回転軸が最も高温となる部位、即ち回転翼及び固定翼の近傍にアキシャル変位センサを配置することにより、回転翼の変位量を最小限とすることができる。従って、回転翼と固定翼の隙間をよりいっそう小さくして排気性能を向上させることができる。
(2)回転軸をアキシャル方向に支持する保護ベアリングを回転軸の高温部位近傍に配置することにより、回転軸が熱膨張した場合であっても、回転軸と保護ベアリングとの接触を防止することができる。また、アキシャル磁気軸受を回転軸の高温部位近傍に配置することにより、アキシャル磁気軸受と回転軸に取付けられた磁気軸受ターゲット間の隙間をよりいっそう狭く設定することができる。これにより、アキシャル磁気軸受の駆動コイルに流す電流を減少させて消費電力を低減することができ、駆動コイルの径や巻回数を減らしてアキシャル磁気軸受の小型化を図ることが可能となる。
【0034】
(3)回転軸のアンバランスによる振れ回り量がアキシャル変位センサの出力値に重畳されることを防止することができ、アキシャル磁気軸受によって回転軸のアキシャル方向の位置を安定して制御することが可能となる。
(4)アキシャル変位センサが光学式等である場合においても、回転軸のアンバランスによる振れ回り量がアキシャル変位センサの出力値に重畳されることを防止することができ、アキシャル磁気軸受によって回転軸のアキシャル方向の位置を安定して制御することが可能となる。
(5)センサターゲットの変位量−アキシャル変位センサ出力値の特性曲線をほぼ直線に補正することができるので、回転軸のアキシャル方向の位置を正確に検出することが可能となる。従って、アキシャル磁気軸受によって回転軸を安定して磁気浮上させることができる。さらに、アキシャル変位センサを構成するコアの温度が変化してインピーダンスが変動した場合においても、その影響をキャンセルすることが可能となる。
【0035】
(6)ターボ型真空ポンプにおいて、高温となる排気部と、アキシャル磁気軸受やモータなどから構成される運動制御部とが構造的に分離され、熱耐量が低いアキシャル磁気軸受やモータなどの電装部品を高熱から保護することが可能となる。また、排気部近傍に回転軸のアキシャル方向の変位を検出するアキシャル変位センサを設け、このアキシャル変位センサの出力値に基づいて回転軸を所定の軸方向位置に支持することにより、回転軸の伸びの基点をアキシャル変位センサの測定点とすることができる。これにより、回転翼と固定翼との軸方向の隙間を小さくでき、結果的にターボ型真空ポンプの排気性能向上と運転の安定化が図れる。
【0036】
(7)軸方向において互いに離間する2つ以上のアキシャル変位センサの出力値の偏差に基づいて回転軸の温度や熱膨張量を検出することができる。また、回転軸の回転速度や回転軸の温度に応じてそれぞれのアキシャル変位センサを切換えて使用することも可能になる。
(8)2つ以上のアキシャル変位センサを用いることにより、回転軸の熱膨張量を算出することができる。また、その算出結果に基づいてターボ型真空ポンプの回転翼と固定翼との隙間が常に最適状態になるように冷却機構を制御して安定的なポンプ性能を得るようにすることが可能となる。
【0037】
(9)2つ以上のアキシャル変位センサを用いて回転軸の熱膨張量を算出することにより、回転翼と固定翼が接触する前に警報動作を行うことが可能となり、ターボ型真空ポンプが破損することを未然に防止することができる。
(10)回転軸の熱膨張による影響を受けることなく回転軸を安定して磁気浮上させることができ、さらには、回転翼と固定翼との接触を防止することができるターボ型真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来のターボ型真空ポンプを示す模式図である。
【図2】図1に示すターボ型真空ポンプの主要部を示す模式図である。
【図3】従来のターボ型真空ポンプの他の構成例を示す模式図である。
【図4】本発明の第1の参考例に係るターボ型ポンプの主要部を示す模式図である。
【図5】図5(a)は本発明の第2の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサの構成例を示す模式図であり、図5(b)は図5(a)に示すアキシャル変位センサの結線図である。
【図6】図5(b)に示すアキシャル変位センサのインダンクタンスが変化する様子を示すグラフである。
【図7】図7(a)は、本発明の第3の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサの構成例を示す模式図であり、図7(b)は図7(a)に示すアキシャル変位センサの結線図である。
【図8】図7(b)に示すアキシャル変位センサのインダンクタンスが変化する様子を示すグラフである。
【図9】本発明の第4の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサ及び平均化処理システムを示す模式図である。
【図10】図10(a)は本発明の第5の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサの構成例を示す模式図であり、図10(b)はアキシャル変位センサの結線図であり、図10(c)は図1に示す従来のターボ型真空ポンプに組み込まれたアキシャル変位センサの結線図である。
【図11】変位量とアキシャル変位センサの出力との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の第6の参考例に係るターボ型真空ポンプの主要部を示す模式図である。
【図13】本発明の実施形態に係るターボ型真空ポンプを示す模式図である。
【図14】図13に示すターボ型真空ポンプに組み込まれる磁気軸受制御装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図4は、本発明の第1の参考例に係るターボ型ポンプの主要部を示す模式図である。図4において、図1と同一符号を付した部分は同一または相当部分を示し、その重複する説明を省略する。図4に示すように、符号6は回転軸1のアキシャル方向の変位を検出するアキシャル変位センサ、符号7は回転軸1に取付けられた回転軸1と同心状の円板状のセンサターゲットである。符号11はアキシャル磁気軸受5a,5b、固定翼3a〜3c、及びスペーサ4a,4bなどを保持するポンプステータ(ハウジング)を模式的に表したものである。
【0040】
アキシャル変位センサ6はポンプステータ11に固定されており、センサターゲット7に対向するように配置されている。アキシャル変位センサ6及びセンサターゲット7は、回転翼2a〜2cの近傍に配置されている。より詳しくは、アキシャル変位センサ6及びセンサターゲット7は、回転翼2cのすぐ下流側に位置しており、回転翼2cとモータロータ8Aとの間に配置されている。アキシャル磁気軸受5a,5bは磁気軸受制御装置17に接続されている。この磁気軸受制御装置17は、アキシャル変位センサ6の出力値に基づいて回転軸1が所定の位置で磁気浮上するようにアキシャル磁気軸受5a,5bの励磁電流を制御するように構成されている。符号L1’は回転軸1の上流側の回転翼2aからセンサターゲット7までの長さを表し、符号L2’はポンプステータ11の上流側の固定翼3aからアキシャル変位センサ6までの長さを表し、符号L3はポンプステータ11のアキシャル変位センサ6から下流側端部までの長さを表している。
【0041】
通常、回転軸1、固定翼3a〜3c、及びスペーサ4a,4bは、ヒータ10(図1参照)や回転翼2a〜2cの反応ガスとの摩擦熱の熱伝導等によって高温となる。例えば、回転翼2a〜2cが取付けられた回転軸1の部位、回転翼2a〜2c、固定翼3a〜3c、及びスペーサ4a,4bの温度は150〜250℃となる。一方、ポンプステータ11は冷却ジャケット(冷却機構)12(図1参照)により冷却されているため、ポンプステータ11の熱膨張量は少ない。例えば、ポンプステータ11の温度は50〜100℃、アキシャル磁気軸受5a,5bの近傍に位置する回転軸1の部位は100〜150℃となる。仮にポンプステータ11が熱膨張したとしても、アキシャル変位センサ6が回転翼2a〜2cの近傍に取付けられているので、L3の変化は回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとの隙間dgに影響を及ぼさない。
【0042】
回転軸1は、熱膨張によりセンサターゲット7の位置を基点として回転軸1の上流側端部及び下流側端部に向かう方向(図4の上下方向)に伸び、L1’の変化が回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとの隙間dgに影響することになる。しかし、上述のように固定翼3a〜3cやスペーサ4a,4bもヒータ10や反応ガスや回転翼2a〜2cの輻射熱によって高温になり、結果的にL1’とL2’の熱膨張量はほぼ等しくなる。従って、温度上昇によりL1’とL2’が変化しても、隙間dgの変化量が著しく小さくなる。これにより、隙間dgをよりいっそう狭めても回転翼2a〜2cと固定翼3a〜3cとが接触するおそれがなく、排気性能を上げることが可能となる。
【0043】
図5(a)は本発明の第2の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサの構成例を示す模式図であり、図5(b)は図5(a)に示すアキシャル変位センサの結線図である。図6は図5(b)に示すアキシャル変位センサのインダンクタンスが変化する様子を示すグラフである。なお、特に説明しない本参考例の構成は第1の参考例と同様であるので、その重複する説明を省略する。
【0044】
図5(a)に示すように、回転軸1には円板状のセンサターゲット7が取付けられており、このセンサターゲット7に近接してアキシャル変位センサ601a,601bが配置されている。これらのアキシャル変位センサ601a,601bはそれぞれコイルから構成された誘導型あるいは渦電流型の変位センサである。アキシャル変位センサ601a,601bは、センサターゲット7に対向するように回転軸1の円周方向に沿って180°ずらした位置に配置されている。なお、アキシャル変位センサ601a,601bは、回転翼2a〜2c(図4参照)の近傍に位置している。
【0045】
図5(b)に示すように、2個のアキシャル変位センサ601a,601bは直列に接続されている。通常、回転軸1や回転翼2a〜2cのアンバランスによって回転軸1が振れ回った場合、図6に示すようにアキシャル変位センサ601a,601bのインダクタンスLc−a,Lc−bは正弦波に近い波形で変化し、位相が互いに180°ずれたものとなる。これらアキシャル変位センサ601a,601bを図5(b)のように直列に接続することにより、インダクタンスLc−a,Lc−bが合成されて合成インダクタンスLc’が形成される。従って、合成インダクタンスLc’を回転軸1のラジアル方向の振れ回り成分をキャンセルしたアキシャル変位成分に近似させることができる。
【0046】
図7(a)は、本発明の第3の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサの構成例を示す模式図であり、図7(b)は図7(a)に示すアキシャル変位センサの結線図である。図8は図7(b)に示すアキシャル変位センサのインダンクタンスが変化する様子を示すグラフである。なお、特に説明しない本参考例の構成は第1の参考例と同様であるので、その重複する説明を省略する。
【0047】
図7(a)に示すように、回転軸1に取付けられたセンサターゲット7の片側の面に対向して、アキシャル変位センサ602a,602c,602b,602dが配置されている。これらのアキシャル変位センサ602a,602c,602b,602dはそれぞれコイルから構成される誘導型あるいは渦電流型の変位センサである。アキシャル変位センサ602a,602c,602b,602dは回転軸1の円周方向において90°ずらして配置され、回転翼2a〜2c(図4参照)の近傍に配置されている。図7(b)に示すように、180°の間隔で互いに対向するアキシャル変位センサ602a,602b及びアキシャル変位センサ602c,602dはそれぞれ直列に接続され、さらに直列接続の2組のアキシャル変位センサ602a,602bとアキシャル変位センサ602c,602dとは並列に接続されている。
【0048】
図7(a)において、回転軸1や回転翼2a〜2c(図4参照)のアンバランスによって回転軸1が振れ回った場合、それぞれのアキシャル変位センサ602a,602c,602b,602dのインダクタンスLc−a,Lc−c,Lc−b,Lc−dは図8に示すように正弦波に近い波形を描いて変化し、互いに位相が90°ずれたものとなる。アキシャル変位センサ602a,602c,602b,602dを図7(b)のように接続することにより、インダクタンスLc−a,Lc−c,Lc−b,Lc−dが合成されて合成インダクタンスLc’が形成され、合成インダクタンスLc’を回転軸1のラジアル方向の振れ回り成分をキャンセルしたアキシャル変位成分に近づけることができる。
【0049】
アキシャル変位センサ(コイル)の個数を2、4、8、…と増加させ、これらのアキシャル変位センサを直列及び/又は並列に接続することにより、回転軸1のコニカル運動やパラレル運動などが複合した複雑なラジアル方向の振れ回りに対してラジアル変位成分をよりいっそうキャンセルできることは明らかである。このように、偶数個のアキシャル変位センサを回転軸1の円周方向に沿って等間隔に配置することにより、回転軸1のアキシャル方向の位置を正確に検出することができる。なお、回転軸1の円周方向に沿ってアキシャル変位センサ(コイル)の導線を巻回し、センサターゲット7の円周方向の全面に亘ってその変位を検出するようにしてもよい。
【0050】
図9は本発明の第4の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサ及び平均化処理システムを示す模式図である。なお、特に説明しない本参考例の構成は第1の参考例と同様であるので、その重複する説明を省略する。円板状のセンサターゲット7の片面には半径方向に延びる複数の溝7aが形成されている。溝7aに対向する位置には回転速度センサ22が配置され、この回転速度センサ22により回転軸1の回転速度が検出されるようになっている。符号6E,6Fは光学式アキシャル変位センサであり、これらのアキシャル変位センサ6E,6Fはセンサターゲット7に近接して回転軸1の円周方向に沿って等間隔に配置されている。
【0051】
アキシャル変位センサ6E,6Fはセンサ回路装置20a,20bにそれぞれ接続されている。センサ回路装置20a,20bは、アキシャル変位センサ6E,6Fとセンサターゲット7との隙間の大きさを電圧信号に変換し、この電圧信号はアナログ信号としてA/Dコンバータ21a,21bにそれぞれ送信される。センサ回路装置20a,20bからの電圧信号(アナログ信号)はA/Dコンバータ21a,21bによってデジタル信号に変換された後、平均化装置(演算装置)24に入力される。一方、回転速度センサ22の出力信号は回転速度変換装置23に送られ、回転速度変換装置23によって回転速度センサ22の出力信号が電圧パルスに変換される。なお、アキシャル変位センサ6E,6Fは180°の間隔をあけて配置されている。
【0052】
このような構成において、ラジアル方向の振れ回り成分を含んだ回転軸1のアキシャル方向の変位は、2個のアキシャル変位センサ6E,6Fによって検出され、それぞれセンサ回路装置20a,20bで電圧信号に変換された後、A/Dコンバータ21a,21bに送信される。センサ回路装置20a,20bからの電圧信号(アナログ信号)はA/Dコンバータ21a,21bでデジタル信号に変換され、平均化装置24に入力される。平均化装置24は2つのデジタル信号(アキシャル変位センサ6E,6Fの出力信号)を平均化処理することにより、回転軸1のアキシャル方向のみの変位を算出する。この時、回転速度センサ22で検出される回転軸1の回転速度を回転速度変換装置23を通して平均化装置24に入力し、回転軸1の回転周波数成分のみをアキシャル変位センサ6E,6Fの出力信号から除去し、回転軸1のより正確なアキシャル方向の変位を得るようにしてもよい。
【0053】
図10(a)は本発明の第5の参考例に係るターボ型真空ポンプに組み込まれるアキシャル変位センサの構成例を示す模式図であり、図10(b)はアキシャル変位センサの結線図であり、図10(c)は図1に示す従来のターボ型真空ポンプに組み込まれたアキシャル変位センサの結線図である。なお、特に説明しない本参考例の構成は第1の参考例と同様であるので、その重複する説明を省略する。
【0054】
アキシャル変位センサ604a,604b,604c,604dは、回転軸1の軸方向においてセンサターゲット7の両側に配置されている。即ち、アキシャル変位センサ604a,604cは、センサターゲット7を挟み込むように互いに対向して配置され、同様にアキシャル変位センサ604b,604dはセンサターゲット7を挟み込むように互いに対向して配置されている。対をなすアキシャル変位センサ604a,604c及びアキシャル変位センサ604b,604dは、回転軸1の円周方向において180°ずらして回転翼2a〜2c(図4参照)の近傍に配置されている。
【0055】
アキシャル変位センサ604a〜604dはそれぞれコイルから構成された誘導型あるいは渦電流型の変位センサであり、これらのアキシャル変位センサ(コイル)604a〜604dは、図10(b)に示すように、直列に接続されている。直列に接続されたアキシャル変位センサ604a〜604dには交流信号源OSCが接続され、コンデンサCxはアキシャル変位センサ604a〜604dに並列に接続されている。コンデンサCxは、アキシャル変位センサ604a〜604dのトータルインダクタンスと共振するように調整されており、これによりアキシャル変位センサ604a〜604dの感度を増大させる。交流信号源OSCの出力を分圧する分圧器Rx1,Rx2は互いに直列に接続され、これらの分圧器Rx1,Rx2はアキシャル変位センサ604a〜604dと並列に接続されている。なお、符号31は差動増幅器であり、符号30は差動増幅器31からの変位信号を直流に変換する同期検波装置である。
【0056】
図10(c)において、符号Ldは固定インダクタンスであり、この固定インダクタンスLdはアキシャル変位センサ6と直列に接続されている。コンデンサCxは、直列に接続された固定インダクタンスLd及びアキシャル変位センサ6と並列に接続されている。このコンデンサCxは、アキシャル変位センサ6と固定インダクタンスLdとのトータルインダクタンスと共振するように調整されている。なお、図10(c)において、図10(b)と同一の符号を付した構成部材は同一の構成部材を表す。
【0057】
図11は変位量とアキシャル変位センサの出力との関係を示すグラフである。図10(c)に示す従来のアキシャル変位センサ6では、センサターゲット7の変位量とアキシャル変位センサ6の出力との関係は線laのようになり、直線とはならない。一般的に、固定インダクタンスLdはアキシャル変位センサ6から離れた位置にあるため、アキシャル変位センサ6の温度が上昇すると、線laは線lbのように変化する。
【0058】
図1に示す従来例では、センサターゲット7の片側に1つのアキシャル変位センサ6が配置されているのに対して、図10(a)ではセンサターゲット7を挟み込むようにアキシャル変位センサ604a〜604dが配置されている。従って、アキシャル変位センサ604a+604bのインピーダンスとアキシャル変位センサ604c+604dのインピーダンスは互いに打ち消しあうように非直線的に変化することになる。これにより、センサターゲット7の変位量とアキシャル変位センサ604a〜604dの出力との関係は、図11の線lcとなり、ほぼ直線とすることができる。さらに、アキシャル変位センサ604a〜604dの温度が上昇した場合には、図10(b)のアキシャル変位センサ(コイル)604a〜604d総てのインピーダンスが同様に変化するため、図10(b)に示すb点での分圧電圧の変化が起こらない。その結果、センサターゲット7の変位量とアキシャル変位センサ604a〜604dの出力との関係は図11の線lcと同様になり、温度変化の影響を打ち消すことができる。
【0059】
図12は、本発明の第6の参考例に係るターボ型真空ポンプの主要部を示す模式図である。図12においては、図1と同一符号を付した構成部材は同一または相当の構成部材を示し、その重複する説明を省略する。また、特に説明しない本参考例の構成は第1の参考例と同様である。図12に示すように、回転翼2cの底部にはリング状のセンサターゲット7が取付けられ、このセンサターゲット7に対向するように複数のアキシャル変位センサ6が回転軸1の円周方向に沿って等間隔に配置されている。アキシャル磁気軸受5a,5bはアキシャル変位センサ6のすぐ下流側に配置されている。また、回転軸1のアキシャル方向及びラジアル方向の動きを規制する保護ベアリング9aは、アキシャル変位センサ6の径方向内側の位置に配置されている。このように、アキシャル磁気軸受5a,5b、アキシャル変位センサ6、センサターゲット7、及び保護ベアリング9aは、高温となる回転翼2a,2b,2cの近傍に配置されている。なお、符号L4は回転軸1のアキシャル変位センサ6から磁気軸受ターゲット16までの長さを表し、符号L5は回転軸1の磁気軸受ターゲット16から回転軸1の下流側端部までの長さを表す。
【0060】
回転軸1は、熱膨張によりセンサターゲット7の位置を基点としてその軸方向に沿って上下に伸びることとなる。これにより、磁気軸受ターゲット16と上流側のアキシャル磁気軸受5aとの隙間dmは拡大し、同時に磁気軸受ターゲット16と下流側のアキシャル磁気軸受5bとの隙間dm’は減少することとなる。しかしながら、熱膨張の影響に関してはL4のみを考慮すればよく、L5は無視できるので、図1に示す従来のターボ型真空ポンプと比べて隙間dm’の減少は少なくなり、トータル隙間dm+dm’を小さく設定しても磁気軸受ターゲット16とアキシャル磁気軸受5bとが接触することはない。
【0061】
広帯域ターボ型ブースターポンプなどの場合、吸気口圧力P1と排気口圧力P2の差圧は非常に大きく、この差圧により回転軸1は吸気口14に向かって上方向に持ち上げられることとなる。このとき、回転軸1を下流側のアキシャル磁気軸受5bで下方に引き戻しているため、アキシャル磁気軸受5bはかなりの電力を消費することとなる。
ここで、磁気軸受の磁気吸引力Fは、鉄心(コア)の透磁率と漏れ磁束を無視すると、次の式で表される。
【数4】

S:鉄心の断面積
【0062】
また磁束密度Bは、次の式で表される。
【数5】

N:巻線のターン数、I:コイルに流す電流、dm:磁極と磁気軸受ターゲットとの隙間
【0063】
(5)式及び(6)式から明らかなように、隙間dm’が減少すると磁気吸引力が増加し、アキシャル磁気軸受5a,5bはよりいっそうの磁気吸引力を出すことができる。また、磁気吸引力を一定とする場合には、隙間dm’を減少させることにより巻線のターン数やコイルに流す電流を減少させることができるので、アキシャル磁気軸受5a,5bの消費電力を減らすことが可能となる。従って、ターン数や電流が減るためにアキシャル磁気軸受5a,5bを小型にすることが可能となる。
【0064】
図13は、本発明の実施形態に係るターボ型真空ポンプを示す模式図である。本実施形態と図12に示した第6の参考例との相違点は、第1のアキシャル変位センサ、センサターゲット、アキシャル磁気軸受、及び軸方向の動きを規制する保護ベアリングが運動制御部の端部に設けられ、かつ排気部近傍に第2のアキシャル変位センサ及びセンサターゲットが設けられている点である。以下、本実施形態の構成について詳細に説明する。
【0065】
図13に示すように、ターボ型真空ポンプは、吸気口51Aと排気口51Bを有する上ハウジング(上ポンプステータ)51の内部に、複数の回転翼52A〜52C(以下、適宜回転翼52という)と、複数の固定翼53A〜53C(以下、適宜固定翼53という)を備えている。これらの回転翼52及び固定翼53により排気部90が構成されている。
【0066】
モータ55の両側には上ラジアル磁気軸受56及び下ラジアル磁気軸受57が配置されており、これらの上ラジアル磁気軸受56及び下ラジアル磁気軸受57によって回転軸54が径方向に支持される。回転軸54の下部には、円盤状の磁気軸受ターゲット58cが同心円状に固定され、この磁気軸受ターゲット58cを挟むように一対のアキシャル磁気軸受58a,58b(以下、適宜アキシャル磁気軸受58という)が配置されている。回転軸54はアキシャル磁気軸受58によって軸方向に支持される。なお、各磁気軸受56,57,58はいずれも能動磁気軸受である。
【0067】
回転軸54の下流側の端部にはセンサターゲット61が取付けられ、このセンサターゲット61に対向するように第1のアキシャル変位センサ59が下ハウジング(下ポンプステータ)63に取付けられている。また、回転軸54には、回転翼52の近傍に位置してセンサターゲット62が取付けられ、このセンサターゲット62に対向するように複数の第2のアキシャル変位センサ60が回転軸54の円周方向に沿って等間隔に配列されている。
【0068】
上ラジアル磁気軸受56の近傍には上保護ベアリング(上タッチダウン軸受)65が配置され、アキシャル磁気軸受58の近傍には下保護ベアリング(下タッチダウン軸受)66が配置されている。回転軸54には、下保護ベアリング66に対応した位置において円周方向に延びる凹部54aが形成されている。下保護ベアリング66、アキシャル磁気軸受58、センサターゲット61、及び第1のアキシャル変位センサ59は互いに近接して配置されている。磁気軸受56,57,58の異常時は、上保護ベアリング65は上ラジアル磁気軸受56の代わりに回転軸54を径方向に軸支し、下保護ベアリング66は下ラジアル磁気軸受57とアキシャル磁気軸受58の代わりに回転軸54を径方向及び軸方向に軸支する。
【0069】
回転翼54はターボ型真空ポンプの全体に亘って延び、回転翼54の一方の端部は吸気口51Aの近傍に位置している。そして、回転翼54の吸気側の端部から軸方向に沿って、順に排気部90、上保護ベアリング65、センサターゲット62、第2のアキシャル変位センサ60、上ラジアル磁気軸受56、モータ55、下ラジアル磁気軸受57、下保護ベアリング66、アキシャル磁気軸受58、センサターゲット61、第1のアキシャル変位センサ59が配置されている。上保護ベアリング65から第1のアキシャル変位センサ59までの各構成部品によって運動制御部91が構成されている。運動制御部91は下ハウジング63に設けられた冷却ジャケット(冷却機構)64によって冷却されるようになっている。
【0070】
回転側と固定側との接触を避けるため、下保護ベアリング66と凹部54aとの軸方向隙間db,db’は、回転翼52と固定翼53との軸方向隙間dg1〜dg3、及びアキシャル磁気軸受58a,58bと磁気軸受ターゲット58cとの軸方向隙間dm,dm’より小さく設定される(dg1〜dg3>db,db’、dm,dm’>db,db’)。このように、本実施形態に係るターボ型真空ポンプにおいては、下保護ベアリング66と凹部54aとの軸方向隙間db,db’が最も小さく設定される。
【0071】
上記構成において、第1のアキシャル変位センサ59により回転軸54の軸方向の変位量が検出され、検出された変位量に基づいてフィードバック制御装置(磁気軸受制御部)を介してアキシャル磁気軸受58より回転軸54の軸方向位置を一定に保つようにする。これによって、回転軸54が熱膨張したときに、回転軸54のアキシャル方向の伸びの基準位置をセンサターゲット61の位置とすることができる。従って、下保護ベアリング66と凹部54aとの軸方向隙間db,db’、及びアキシャル磁気軸受58a,58bと磁気軸受ターゲット58cとの軸方向隙間dm,dm’は、回転軸54の熱膨張の影響を受けることなくほぼ一定に維持できる。
【0072】
すなわち、第1のアキシャル変位センサ59を設置するに際しては、次の点を考慮することが肝要である。(1)回転軸54の軸方向の動きを規制する下保護ベアリング66と、回転軸54の軸方向位置を検出する第1のアキシャル変位センサ59とを互いに近接して設置する。(2)第1のアキシャル変位センサ59とアキシャル磁気軸受58とを互いに近接して設置する。これらの(1)及び(2)の点(アキシャル変位センサ、センサターゲット、アキシャル磁気軸受、軸方向の動きを規制する保護ベアリングをまとめて配置すること)において、図12に示した第6の参考例は本実施形態と同様である。しかしながら、回転軸や回転翼等から構成されるポンプロータ全体の軸振動特性やポンプの組立性を鑑みて、アキシャル変位センサ、センサターゲット、アキシャル磁気軸受、軸方向の動きを規制する保護ベアリングをまとめて運動制御部の軸端側に配置してもよい。
【0073】
また上記構成によって、回転翼52及び固定翼53で構成される排気部90と、モータ55、各磁気軸受56,57,58、及び各アキシャル変位センサ59,60などから構成される回転軸54の運動制御部91とを構造的に分離することが可能であり、高温となる排気部90の熱が熱耐量の低い運動制御部91に伝わることを防止することができる。なお、本実施形態では、排気部90に位置する回転軸54の部位、回転翼52A〜52C、固定翼53A〜53C、及びスペーサ4a,4bの温度は、例えば、150〜250℃となる。一方、運動制御部91に位置する回転軸54の部位の温度は、例えば、100〜150℃、下ハウジング63の温度は50〜100℃となる。
【0074】
なお、回転翼52と固定翼53との軸方向隙間dg1〜dg3は、従来例と同様に、回転軸54の温度変化や下ハウジング63の温度変化等により変化してしまう。このため、本実施形態では、排気部90に近接して配置された第2のアキシャル変位センサ60によって、センサターゲット62と第2のアキシャル変位センサ60とのギャップを測定し、この測定値をターボ型真空ポンプの制御動作や保護動作等に必要な情報として用いている。これにより、ターボ型真空ポンプの運転安定化及び高排気性能化が図られている。以下、ターボ型真空ポンプの制御動作及び保護動作について、図13及び図14を参照して説明する。
【0075】
図14は図13に示すターボ型真空ポンプに組み込まれる磁気軸受制御装置を示す模式図である。図14に示すように、第1及び第2のアキシャル変位センサ59,60はセンサ回路装置70a,70bにそれぞれ接続されている。第1及び第2のアキシャル変位センサ59,60によって検出された回転軸54の変位量は、センサ回路装置70a,70bにて電圧信号に変換される。センサ回路装置70a,70bはそれぞれA/Dコンバータ75a,75bを介して制御部76に接続され、上記電圧信号は、A/Dコンバータ75a,75bによってアナログ信号からデジタル信号に変換された後、制御部76に入力される。
【0076】
センサ回路装置70aは加減算器73を介して位相補償器71に接続されており、センサ回路装置70aからの電圧信号は、回転軸54が安定して浮上するように位相補償器71によって補正される。位相補償器71は電流増幅器72を介してアキシャル磁気軸受58に接続されており、回転軸54の変位量を補正するための電流が電流増幅器72からアキシャル磁気軸受58a,58bに供給されるようになっている。符号77は回転軸54がターボ型真空ポンプが異常状態にあることを表示する警報表示器であり、この警報表示器77は制御部76に接続されている。符号80は冷却ジャケット64に流入する冷却液の流路を開閉する電磁弁であり、この電磁弁80はドライブ装置78によって操作される。このドライブ装置78は制御部76に接続されており、制御部76からの信号に基づいて電磁弁80が操作されるようになっている。符号79はモータ55によって回転する回転軸54の回転速度を加減速させるインバータであり、このインバータ79は制御部76からの信号に基づいてモータ55を介して回転軸54の回転速度を加減速させるようになっている。
【0077】
上述の構成において、回転軸54のアキシャル方向の変位量は第1のアキシャル変位センサ59により検出され、センサ回路装置70aにより電圧信号に変換された後、位相補償器71に送られる。電圧信号としての変位量は位相補償器71によって補正された後、電流増幅器72に送られる。そして、その変位量を補正するだけの電流が電流増幅器72からアキシャル磁気軸受58a,58bに流れ、これにより、回転軸54はアキシャル方向に安定的に磁気浮上させられる。しかしながら、ターボ型真空ポンプ運転時において、回転軸54や回転翼52等から構成されるポンプロータは、センサターゲット61の位置を基点としてアキシャル方向に熱膨張又は収縮する。このため、回転翼52と固定翼53間の軸方向隙間dg1〜dg3が変化し、最悪の場合、回転翼52と固定翼53とが接触して運転不能になることとなる。
【0078】
本実施形態では、第1のアキシャル変位センサ59の他に、第2のアキシャル変位センサ60が設けられている。第1及び第2のアキシャル変位センサ59,60で検出された2つの変位量は、センサ回路装置70a,70b及びA/Dコンバータ75a,75bを通して制御部76に入力され、制御部76が上記2つの変位量を比較演算することで回転軸54の熱膨張量あるいは温度を算出する。そして、算出された熱膨張量(温度)が予め決められた熱膨張量(温度)を超えた場合には、制御部76により警報表示器77に回転軸54が異常状態である旨を表示させ、これにより運転不能となることを未然に防止することができる。回転軸54の熱膨張がさらに続いた場合には、制御部76からインバータ79に停止信号を出力し、運転を停止する等の保護動作を行うようにすることもできる。
【0079】
さらに、下ハウジング63に設けた冷却ジャケット64の冷却能力を電磁弁80を操作することにより調整し、第2のアキシャル変位センサ60により検出される変位量を制御することもできる。すなわち、第2のアキシャル変位センサ60とセンサターゲット62とのギャップが初期変位量より小さくなった場合は、ドライブ装置78により電磁弁80を閉じて冷却ジャケット64の冷却能力を低減させ、これによって下ハウジング63を軸方向に伸ばすことができる。なお、図14に示す磁気軸受制御装置の例は電磁弁80を操作することで下ハウジング63の温度制御を行うものであるが、冷却ジャケット64に導入される冷媒の循環流量や温度を調整してもよいことは明らかである。また、冷却ジャケット64の設置面積を広げることにより、ターボ型真空ポンプ全体の温度制御を行うこともできる。
【0080】
一般に、ターボ型真空ポンプを連続して運転すると、ターボ型真空ポンプは高温となり、ポンプ始動時とポンプ運転時とではターボ型真空ポンプの温度が大きく異なってくる。このような条件の下で、第2のアキシャル変位センサ60とセンサターゲット62との隙間が一定となるように冷却ジャケット64によりターボ型真空ポンプの温度を調節するためには、下ハウジング63を構成する材料の線膨張係数を、回転軸54を構成する材料以上に大きくする必要がある(下ハウジング63の線膨張係数≧回転軸54の線膨張係数)。これは、回転軸54は非接触にて真空中で回転するため熱放射性が悪く高温となりやすいのに対し、下ハウジング63は冷却ジャケット64により直接的に温度調節できるので、回転軸54の温度は下ハウジング63の温度以上に高くなるからである。従って、下ハウジング63の線膨張係数が回転軸54の線膨張係数に比して大きくないと、下ハウジング63の温度を冷却ジャケット64により調節しても第2のアキシャル変位センサ60とセンサターゲット62との隙間を一定に保つことができない。
【0081】
このような理由から、下ハウジング63は、回転軸54を構成する材料の線膨張係数以上に大きい線膨張係数を持つ材料から構成されている。なお、下ハウジング63を構成する材料として、アルミニウム合金やステンレス鋼(線膨張係数10〜24×10−6/℃)などが好適に用いられ、回転軸54を構成する材料としては、ステンレス鋼やFe−Ni合金、セラミックス(線膨張係数2〜10×10−6/℃)などが好適に用いられる。
【0082】
また、排気部90の回転翼52と固定翼53との軸方向隙間dg1〜dg3は、第2のアキシャル変位センサ60からの軸方向距離が大きいほど大きくなるように設定されている。これによって、回転翼52と固定翼53との接触を防止でき、かつ可及的に隙間dg1〜dg3を小さくできる。すなわち、軸方向隙間dg1〜dg3は、dg1≦dg2≦dg3とすることが好適である。
【0083】
さらに、回転軸54の熱膨張量(温度)に基づいてD/Aコンバータ74及び加減算器73を介して回転軸54を移動させるようにすることもできる。すなわち、位相補償器71に入力される電圧信号を熱膨張量(温度)に応じて加減算器73により加減し、アキシャル磁気軸受58に流れる電流を変化させる。これにより回転軸54を移動させることができる。この場合、回転翼52と固定翼53、または下保護ベアリング66と回転軸54とが互いに接触しない範囲内で回転軸54を移動させることが必要である。以上のような構成により、より広範な温度範囲においてターボ型真空ポンプを安定して連続運転することが可能になる。
【0084】
なお、本実施形態では、第1及び第2のアキシャル変位センサ59,60と対向する面にセンサターゲット61,62が各々設けられ、これらのセンサターゲット61,62は回転軸54に固着されている。センサターゲット61,62は、第1及び第2のアキシャル変位センサ59,60の検出感度を向上させるために設けたものであり、けい素鋼やパーマロイなどの磁性材料が好適に用いられる。しかしながら、上記磁性材料は概して機械強度が低く、ターボ型真空ポンプが高速運転する場合に強度不足となる場合がある。このような場合は、回転軸54にマルテンサイト系ステンレス鋼等の高強度の強磁性材料を用いて、センサターゲットを設けずに回転軸54の位置を直接センシングしてもよい。
本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、前述した構成例を組み合わせてよいことは当然である。
【符号の説明】
【0085】
1 回転軸
2a,2b,2c 回転翼
3a,3b,3c 固定翼
4a,4b スペーサ
5a,5b アキシャル磁気軸受
6 アキシャル変位センサ
7 センサターゲット
8A モータロータ
8B モータステータ
9a,9b 保護ベアリング(タッチダウン軸受)
10 ヒータ
11 ポンプステータ
12 冷却ジャケット
13a,13b サーミスタ
14 吸気口
15 排気口
16 磁気軸受ターゲット
17 磁気軸受制御装置
20a,20b センサ回路装置
21a,21b A/Dコンバータ
22 回転速度センサ
23 回転速度変換装置
24 平均化装置
30 同期検波装置
31 差動増幅器
51 上ハウジング
51A 吸気口
51B 排気口
52A,52B,52C 回転翼
53A,53B,53C 固定翼
54 回転軸
55 モータ
56 上ラジアル磁気軸受
57 下ラジアル磁気軸受
58 アキシャル磁気軸受
59 第1のアキシャル変位センサ
60 第2のアキシャル変位センサ
61,62 センサターゲット
63 下ハウジング
64 冷却ジャケット(冷却機構)
65 上保護ベアリング
66 下保護ベアリング
70a,70b センサ回路装置
71 位相補償器
72 電流増幅器
73 加減算器
74 D/Aコンバータ
75a,75b A/Dコンバータ
76 制御部
77 警報表示器
78 ドライブ装置
79 インバータ
80 電磁弁
90 排気部
91 運動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を磁気浮上させる少なくとも一対のアキシャル磁気軸受と、前記回転軸に取付けられた回転翼と、前記回転翼と対向するように配置された固定翼と、前記回転軸を回転駆動するモータとを備えたターボ型真空ポンプにおいて、
前記回転軸の一方の端部近傍に前記回転翼と前記固定翼とを配置することにより排気部を構成するとともに、前記回転軸の軸方向の位置を検出する第1のアキシャル変位センサと前記アキシャル磁気軸受とを前記回転軸の他方の端部近傍に配置することにより運動制御部を構成し、
前記排気部の近傍に前記回転軸の軸方向位置を検出する第2のアキシャル変位センサを配置したことを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ型真空ポンプにおいて、前記第1のアキシャル変位センサ及び前記第2のアキシャル変位センサの出力値に基づいて冷却機構により前記ターボ型真空ポンプの温度を制御することを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載のターボ型真空ポンプにおいて、前記第1のアキシャル変位センサ及び前記第2のアキシャル変位センサの出力値に基づいて警報動作を行うことを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載のターボ型真空ポンプにおいて、前記運動制御部はハウジング内に収容され、前記ハウジングを構成する材料は、前記回転軸を構成する材料の線膨張係数以上に大きい線膨張係数を有していることを特徴とするターボ型真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載のターボ型真空ポンプにおいて、前記回転翼及び前記固定翼をそれぞれ複数設け、前記複数の回転翼と前記複数の固定翼との間に形成される隙間は、前記第2のアキシャル変位センサから離れるに従って大きくなるように設定されていることを特徴とするターボ型真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−150403(P2009−150403A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67239(P2009−67239)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【分割の表示】特願2004−54281(P2004−54281)の分割
【原出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】