説明

ダイカスト金型

【課題】 鋳込口ブッシュ周囲部であって可動型又は引抜き中子と接する面のみの硬度を上げて型潰れ自体の発生を抑制することが出来ると同時に、型潰れした場合でも当該型潰れ箇所を容易に交換し、補修作業の効率化を図ることができるダイカスト金型を提供すること。
【解決手段】 固定型A1と、該固定型A1に対して型締めされて当該固定型A1と共にキャビティDを画成する可動型A2とを備え、該固定型は主型B1に入子C1が嵌め込まれた構成であるダイカスト金型において、前記主型B1の鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって可動型A1又は引抜き中子Eと接する面を高硬度材料である補強部材5により構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト金型に関し、特に、固定型の鋳込口ブッシュ周囲部における主型により構成された部位であって可動型又は引抜き中子と接する面を、主型に比して高硬度材料により補強して構成したダイカスト金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金やマグネシウム合金を鋳造するためのダイカスト金型は、前記合金の溶湯を高圧でキャビティに鋳造することで、当該キャビティに倣った形状の精密な鋳造品(製品)を提供することができる。
【0003】
図1に示すように、ダイカスト金型は構造的に固定型A1と可動型A2に分けられ、これら固定型A1及び可動型A2は通常、主型B1,B2に対して入子C1,C2が分離可能な状態に一体に嵌め込まれ、固定型A1及び可動型A2の入子C1,C2部分にキャビティDが画成される。
更に、固定型A1及び/又は可動型A2には、キャビティDの一部を画成する引抜き中子Eが必要に応じて設けられる。
【0004】
また、キャビティDを画成する入子C1,C2並びに引抜き中子Eは、一般的に熱間工具鋼SKD61、SKD6等を用いて構成され、炭素鋼、鋳鋼、鋳鉄等で作製された主型B1,B2に嵌め込まれて構成されている。
【0005】
そして、鋳造に際しては、図1(a)に示すように、型締め後、まず鋳込口ブッシュ1の後端側に接続された鋳造機の射出スリーブ2内に、ラドル3により汲み出された溶湯が注湯され、然る後、同図(b)に示すようにプランジャー4が射出スリーブ2の中を前進することにより溶湯がキャビティD内に高圧で押し込まれることで、キャビティD内への溶湯の充鎮が完了する。キャビティD内の溶湯が凝固後、型開きをして、製品が得られる(特許文献1参照)。
【0006】
このようなダイカスト金型では、上記高圧の鋳造を繰り返し行うため、キャビティ面及びその付近を所要の硬度を保って耐ヒートクラック性を良好にする必要がある。
一方、固定型A1を構成する主型C1における鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって前記可動型A2又は引抜き中子Eと接する面は、鋳造品生産時に溶湯が接触しないことから、キャビティD部を形成している入子C1,C2部分と比して硬度が低く、耐ヒートクラック性といった熱間強度を必要としない鋳物で形成されている。
【0007】
具体的には、一般に、キャビティDを構成する入子C1,C2部分に用いられる熱間工具鋼(SKD61)の硬度はHRC45以上HRC48以下であるのに対し、主型B1,B2の材料である球状黒鉛鋳鉄の硬度はHRC20である。なお、ここに言うHRCとはロックウェルC硬さによる試験方法で求められるものである。
【0008】
従って、図2に示すように、固定型A1の主型B1における鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって可動型A2又は引抜き中子Eと接する面の硬度が相対的に低いため、ダイカスト量産中に当該部位に鋳バリ等をはさんだ際にいわゆる型潰れが発生しやすく、型潰れが発生した場合には、そのたびに製品の鋳造を中止し、型潰れにより凹んだ金型部位を補修する必要がある。
【0009】
ここで、従来のダイカスト金型の型潰れが発生した際の補修工程を説明する。
はじめに、ダイカスト金型をダイカストマシンから取り外し、固定型A1の主型B1における鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって可動型A2又は引抜き中子Eと接する面に発生した型潰れ箇所に溶接肉盛を行い、手作業もしくは門型切削加工機で肉盛部を平らに削った後、可動型A2との合せを調整し仕上げを行い、ダイカスト金型の補修作業が完了する。
【0010】
【特許文献1】特開2006−239737
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のように型潰れが発生するたびに製品の生産を中止し、型潰れにより凹んだ金型部位を溶接修正する手段では、溶接肉盛後、平らな面を再度形成する必要があるために、ダイカスト金型全体を載せることができる門型切削加工機を必要とし、余計な労力と費用がかかるだけでなく、製品の生産性に劣る。
なお、この門型切削加工機が無い場合は、手作業により溶接肉盛した部分を平らに加工することになるが、時間がかかるだけでなく、平らに加工することが非常に困難である。
【0012】
かといって、固定型A1の主型B1全体を入子C1部分と同様の熱間工具鋼等の高硬度材料で形成しようとすると莫大なダイカスト金型の製作費用がかかる。
【0013】
本発明の目的は、上記した知見に基づき、固定型の主型における鋳込口ブッシュの周囲部であって可動型又は引抜き中子と接する面を、前記主型に比して高硬度材料であって主型とは別体の部分として形成された補強部材により構成することで、当該面のみの硬度を上げて型潰れ自体の発生を抑制することが出来ると同時に、型潰れした場合でも当該型潰れ箇所を容易に交換し、補修作業の効率化を図ることが可能なダイカスト金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1にかかるダイカスト金型は、固定型と、該固定型に対して型締めされて当該固定型と共にキャビティを画成する可動型とを備え、該固定型は主型に入子が嵌め込まれた構成であるダイカスト金型において、前記主型の鋳込口ブッシュ周囲部であって可動型又は引抜き中子と接する面を高硬度材料である補強部材により補強して構成したことを特徴としたものである。
また、本発明の請求項2にかかるダイカスト金型は、請求項1に記載のダイカスト金型において、固定型における前記主型の鋳込口ブッシュ周囲部であって可動型又は引抜き中子と接する面を、前記主型に比して高硬度材料であって、主型とは別体の部分として形成された1又は2以上の補強部材により構成したことを特徴としたものである。
また、本発明の請求項3にかかるダイカスト金型は、前記補強部材をHRC37〜HRC60の高硬度材料で構成したことを特徴としたものである。
更に、本発明の請求項4にかかるダイカスト金型は、前記補強部材が2つ以上の部材で構成され、これら補強部材ごとに交換可能に構成してなることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1にかかる発明によれば、型潰れの発生しやすい前記主型における鋳込口ブッシュの周囲部であって可動型又は引抜き中子と接する面を主型に比して高硬度材料の補強部材で構成したことにより、当該部位の型潰れ自体が発生しにくくなる。
また、請求項2にかかる発明によれば、主型とは別体の部分として形成された1又は2以上の補強部材により構成したことにより、部分的に高硬度材料を使用できるため、安価に前記主型における鋳込口ブッシュの周囲部であって可動型又は引抜き中子と接する面の硬度を高くすることができる。
そして、請求項3にかかる発明によれば、前記補強部材をHRC37〜HRC60の高硬度材料により構成することにより、図3に示すとおり、一つのダイカスト金型を使用して、バリ吹きが発生するまでに70,000回以上、型割れ発生までに100,000回以上の鋳造が可能となる。
さらに、請求項4にかかる発明によれば、前記補強部材が2つ以上の部材で構成され、これら補強部材ごとに交換可能に構成してなるので、当該面の型潰れの補修作業において、破損箇所の補強部材を交換すれば足りるため、溶接や切削の作業が不要であり、補修に費やされる作業時間と労力を大幅に軽減でき、作業時間等の短縮によりダイカスト製品の生産効率を大幅に上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面に基づいて説明する。
本発明にかかるダイカスト金型は、固定型A1と、該固定型A1に対して型締めされて当該固定型A1と共にキャビティDを画成する可動型A2とを備えるダイカスト金型である。尚、ダイカスト金型を構成する可動型A2と固定型A1の詳細な構造は従来のダイカスト金型と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0017】
本発明にかかるダイカスト金型は、特に、固定型A1における主な型潰れ発生箇所である主型B1の鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって可動型A2又は引抜き中子Eと接する面を、図2に示すように主型B1に比して高硬度材料である熱間工具鋼SKD61を用いて主型B1とは別体の部分として形成した補強部材5により、前記主型B1の鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって可動型A2又は引抜き中子Eと接する面を構成する。
【0018】
この主型B1とは別体の部分として形成された補強部材5は、主型B1の鋳込口ブッシュ1の周囲部11に対して独立した2つ以上の部材で構成されることが好ましく、それぞれ図示していないボルト等の固定具により主型B1等に固定される。
具体的には、可動型A1との型合わせ面と反対側の面から合わせ面に向かってボルト等を差し込んで固定したり、固定型の地側から天側に向かってボルトを差し込んで固定される。
【0019】
この際、補強部材5として使用する高硬度材料としては、耐型潰れ効果が顕著に得られるHRC37以上とするのが望ましい。しかし、HRC60よりも硬い高硬度材料は硬度が高すぎ、材料自体の靭性が低下するため好ましくない。
したがって、この補強部材5として使用する高硬度材料としては、HRC37〜HRC60の範囲のものを使用するのが好ましい。
【0020】
また、硬度がHRC37〜HRC60の範囲の高硬度材料を用いて補強部材5を形成して、固定型A1における主な型潰れ発生箇所である主型B1の鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって可動型A2又は引抜き中子Eと接する部位に組み付けると、一つのダイカスト金型を使用して、ダイカスト製品を量産する場合に、バリ吹きが発生するまでの射出回数が70,000回以上であること、および型割れ発生までの射出回数が100,000回以上であることが図3に示した実験データ(グラフ)からも明らかであり、ダイカスト製品量産時の生産効率を考慮しても適切である。
【0021】
なお、上記補強部材5を構成する素材としては、熱間工具鋼(SKD61)に限らず、低合金工具鋼、高速度工具鋼などを適用しても良い。また、材料の表面を熱処理することにより表面の硬度を上げた素材を用いても良い。
【0022】
而して、本発明に係るダイカスト金型では、固定型A1を構成する主型B1における鋳込口ブッシュ1の周囲部11であって前記可動型A2又は引抜き中子Eと接する面に型潰れや破損が生じた場合には、ダイカスト金型をダイカストマシンから降ろした後に、補強部材5を主型B1に固定しているボルト等の固定具を取り外す。
次に、補強部材5のうち破損部分の補強部材のみを主型B1から取り外し、取り外した箇所に新しい補強部材を固定して、破損箇所の補修を完了する。
以上の通り、本発明に係るダイカスト金型によれば、型潰れを起こしても、当該型潰れ箇所を補修するのに、溶接や切削の作業が不要であり作業の効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ダイカスト製品の製造工程を示す説明図。
【図2】本発明の実施の一例を示す模式断面図。
【図3】金型材料の硬さとバリ吹き発生ショット数並びに型割れショット数との関係を説明する実験データを示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
A1:固定型 A2:可動型
B1,B2:主型 C1,C2:入子
D:キャビティ E:引抜き中子
1:鋳込口ブッシュ 11:鋳込口ブッシュの周囲部
2:射出スリーブ 3:ラドル
4:プランジャー 5:補強部材
6:分流子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、該固定型に対して型締めされて当該固定型と共にキャビティを画成する可動型とを備え、該固定型は主型に入子が嵌め込まれた構成であるダイカスト金型において、
固定型における前記主型の鋳込口ブッシュ周囲部であって前記可動型又は引抜き中子と接する面を、前記主型に比して高硬度材料である補強部材により構成したことを特徴とするダイカスト金型。
【請求項2】
請求項1のダイカスト金型において、固定型における前記主型の鋳込口ブッシュ周囲部であって前記可動型又は引抜き中子と接する面を、前記主型に比して高硬度材料であって前記主型とは別体の部分として形成された1又は2以上の補強部材により構成したことを特徴とするダイカスト金型。
【請求項3】
請求項1又は2のダイカスト金型において、前記補強部材をHRC37〜HRC60の高硬度材料で構成したことを特徴とするダイカスト金型。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項のダイカスト金型において、前記補強部材が2つ以上の部材で構成され、これら補強部材ごとに交換可能に構成してなることを特徴とするダイカスト金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−90357(P2009−90357A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265505(P2007−265505)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000005256)株式会社アーレスティ (44)
【Fターム(参考)】