説明

ダイシングシート用基材フィルムおよびダイシングシート

【課題】電子線やγ線などの物理的なエネルギーを与える必要がなく、被切断物のダイシング時に発生するダイシング屑を低減することができるダイシングシート用基材フィルムおよびダイシングシートを提供する。
【解決手段】樹脂層(A)を備えるダイシングシート用基材フィルムであって、当該樹脂層(A)は、芳香族系環および脂肪族系環の少なくとも一種を有するモノマーを構成ユニットとして有する熱可塑性樹脂である環含有樹脂(a1)と、当該環含有樹脂(a1)以外のオレフィン系熱可塑性樹脂である非環式オレフィン系樹脂(a2)とを含有し、前記樹脂層(A)中の前記環含有樹脂(a1)の含有量は3.0質量%超である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ等の被切断物を素子小片に切断分離する際に、当該被切断物が貼付されるダイシングシートおよび当該ダイシングシートに用いられる基材フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウェハおよび各種パッケージ類(以下、これらをまとめて「被切断物」と記載することがある。)は、大径の状態で製造され、これらは素子小片(以下、「チップ」と記載する。)に切断分離(ダイシング)される。
【0003】
このダイシング工程に付される被切断物は、ダイシング工程およびそれ以降の工程における被切断物およびチップの取扱性の確保を目的として、基材フィルムおよびその上に設けられた粘着剤層を備えるダイシングシートが、切断のための切削工具が近接する側と反対側の被切断物表面にあらかじめ貼り付けられている。このようなダイシングシートは、通常、基材フィルムとしてポリオレフィン系フィルムまたはポリ塩化ビニル系フィルム等が使用されている。
【0004】
ダイシング工程の具体的な手法として一般的なフルカットダイシングでは、回転する丸刃によって被切断物の切断が行われる。このとき、ダイシングシートが貼り付けられた被切断物が確実に切断されるように、被切断物のみならず粘着剤層も切断され、さらに基材フィルムの一部も切断されることがある。
【0005】
このとき、粘着剤層および基材フィルムを構成する材料からなるダイシング屑がダイシングシートから発生し、得られるチップがそのダイシング屑によって汚染される場合がある。そのようなダイシング屑の形態の一つに、ダイシングライン上、またはダイシングにより分離されたチップの断面付近に付着する、糸状のダイシング屑がある。
【0006】
上記のような糸状のダイシング屑がチップに多量に付着したままチップの封止を行うと、チップに付着する糸状のダイシング屑が封止の熱で分解し、この熱分解物がパッケージを破壊したり、得られるデバイスにて動作不良の原因となったりする。この糸状のダイシング屑は洗浄により除去することが困難であるため、糸状のダイシング屑の発生によってダイシング工程の歩留まりは著しく低下する。それゆえ、ダイシングシートを用いてダイシングを行う場合には、糸状のダイシング屑の発生を防止することが求められている。
【0007】
また、複数のチップが硬化した樹脂で封止されているパッケージを被切断物としてダイシングする場合には、半導体ウェハをダイシングする場合と比べ、より厚い刃幅のダイシングブレードが使用され、ダイシングの切り込み深さもより深くなる。このため、ダイシング時に切断除去される基材フィルム量が半導体ウェハの場合よりも増えるため、糸状のダイシング屑の発生量も増加する傾向にある。
【0008】
このようなダイシング屑の発生を抑制することを目的として、特許文献1には、ダイシングシートの基材フィルムとして、電子線またはγ(ガンマ)線が1〜80Mrad照射されたポリオレフィン系フィルムを用いる発明が開示されている。当該発明では、電子線またはγ線の照射により基材フィルムを構成する樹脂が架橋し、ダイシング屑の発生が抑制されると考えられる。
【0009】
特許文献1においては、電子線またはγ線が照射されるポリオレフィン系フィルムとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−アイオノマー共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリブテン等の樹脂が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−211234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電子線またはγ線の照射は、上記のような樹脂を一度フィルム状に成形した後に行われるため、製造工程が一つ増えることとなり、製造コストが一般の基材フィルムに比べ高くなる傾向にある。
【0012】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、電子線やγ線などの物理的なエネルギーを与えることなく、被切断物のダイシング時に発生するダイシング屑、特に糸状のダイシング屑の発生を抑制する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、樹脂層(A)を備えるダイシングシート用基材フィルムであって、当該樹脂層(A)は、芳香族系環および脂肪族系環の少なくとも一種を有する熱可塑性樹脂である環含有樹脂(a1)と、当該環含有樹脂(a1)以外のオレフィン系熱可塑性樹脂である非環式オレフィン系樹脂(a2)とを含有し、前記樹脂層(A)中の前記環含有樹脂(a1)の含有量は3.0質量%超である、ダイシングシート用基材フィルムを提供する(発明1)。
【0014】
ここで、本発明における「ダイシングシート」には、ダイシング・ダイボンディングシートも含まれるものとし、また、リングフレームを貼付するための別の基材および粘着剤層を有するものも含まれるものとする。さらに、本発明における「シート」には、「テープ」の概念も含まれるものとする。
【0015】
また、本発明における「芳香族系環」とは、少なくとも一つの環状骨格を備える化学構造(以下、「環状構造」という。)であって、その環状骨格の少なくとも一つがヒュッケル則を満たして環状に非局在化する電子を有するものをいう。一方、本発明における「脂肪族系環」とは、環状骨格のいずれもが上記の環状に非局在化する電子を有さない環状構造をいう。「オレフィン系熱可塑性樹脂」とは、オレフィンを単量体とするホモポリマーおよびコポリマー、ならびにオレフィンとオレフィン以外の分子とを単量体とするコポリマーであって、重合後の樹脂を構成するオレフィン単位に基づく部分の質量比率が1.0質量%以上であるものを意味する。オレフィン系熱可塑性樹脂は熱可塑性を維持する程度まで架橋されていてもよい。一方、本発明における「非環式オレフィン系樹脂」とは、環状構造を実質的に有さないオレフィン系熱可塑性樹脂の総称を意味する。
【0016】
上記発明(発明1)によれば、樹脂層(A)が環含有樹脂(a1)と非環式オレフィン系樹脂(a2)とを含有することで、樹脂層(A)は環含有樹脂(a1)からなる相と非環式オレフィン系樹脂(a2)からなる相とを含む相分離構造を備える。これらの相の物理特性(引張弾性率、軟化点など)が互いに相違することに起因して、ダイシング中に糸状の屑が生じることが抑制される。したがって、電子線やγ線などの物理的なエネルギーを付与することなく、被切断物のダイシング時に発生するダイシング屑を効果的に低減することができる。
【0017】
上記発明(発明1)において、前記非環式オレフィン系樹脂(a2)はエチレン系重合体であることが好ましい(発明2)。
ここで、「エチレン系重合体」とは、重合後の樹脂を構成するエチレン単位に基づく部分の質量比率が1.0質量%以上であるものを意味する。
【0018】
上記発明(発明1〜2)において、前記環含有樹脂(a1)は流動化温度が235℃以下であることが好ましい(発明3)。
ここで、本発明における「流動化温度」とは、高化式フローテスター(例えば、島津製作所社製、型番:CFT−100Dが製品例として挙げられる。)によって得られた値とする。具体的には、荷重5.0Nとし、穴形状がφ2.0mm、長さが5.0mmのダイを使用し、試料の温度を昇温速度10℃/分で上昇させながら、昇温とともに変動するストローク変位速度(mm/分)を測定して、ストローク変位速度の温度依存性チャートを得る。試料が熱可塑性樹脂である場合には、ストローク変位速度は、試料温度が軟化点に到達したことを契機として上昇して所定のピークに到達後、いったん降下する。ストローク変位速度はこの降下により最下点に到達した後、試料全体の流動化が進行することにより急激に上昇する。本発明では、軟化点を超えて試料温度を上昇させた場合において、ストローク変位速度が一旦ピークに到達した後に現れるストローク変位速度の最低値を与える温度を流動化温度と定義する。
【0019】
前記環含有樹脂(a1)の流動化温度が235℃以下である場合には、樹脂層(A)中で環含有樹脂(a1)の相が粗大化しにくいため、樹脂層(A)の表面が粗になることに起因するチッピングの発生が抑制され、また、樹脂層(A)の耐脆性が向上する。
【0020】
上記発明(発明1〜3)において、前記環含有樹脂(a1)は23℃における引張弾性率が1.5GPa超であることが好ましい(発明4)。
【0021】
上記発明(発明1〜4)において、前記樹脂層(A)は前記環含有樹脂(a1)を3.0質量%超60.0質量%以下で含有することが好ましい(発明5)。
環含有樹脂(a1)の含有量が上記の範囲にあることで、環含有樹脂(a1)を含有させたことに基づく効果を安定的に得ることができるとともに、樹脂層(A)の耐脆性を向上させるこができる。
【0022】
上記発明(発明1〜5)において、前記樹脂層(A)における内部ヘーズ値が80%以下であることが好ましい(発明6)。内部ヘーズとは、前記樹脂層(A)のヘーズを構成する光の散乱要因のうち、表面の散乱要因に起因するヘーズを除外した、樹脂層(A)内部の散乱要因のみによるヘーズを意味する。(測定方法については後述。)
内部ヘーズ値が上記の範囲にある樹脂層(A)は、環含有樹脂(a1)および非環式オレフィン系樹脂(a2)が微細な分散構造を有しているため、ダイシング屑の発生が特に抑制され、しかも、チッピングの発生も抑制され、かつ、樹脂層(A)の耐脆性も向上する。
【0023】
第2に本発明は、上記の基材フィルム(発明1〜6)とその基材フィルム上に配置された粘着剤層とを備えるダイシングシートを提供する(発明7)。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るダイシングシート用基材フィルムおよびダイシングシートによれば、電子線やγ線などの物理的なエネルギーを付与することなく、被切断物のダイシング時に発生するダイシング屑を効果的に低減することができる。当該ダイシングシート用基材フィルムおよびダイシングシートにおいては、電子線やγ線の処理を必要としない生産が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るダイシングシートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るダイシングシートの構成要素やその製造方法等について説明する。
1.基材フィルム
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係るダイシングシート1は、基本構成として、基材フィルム2上に配置された粘着剤層3を備える。この基材フィルム2は、樹脂層(A)を備えるものである。
【0027】
基材フィルム2は、単層であっても複数層であってもよい。基材フィルム2が単層である場合には、基材フィルム2は樹脂層(A)となる。基材フィルム2が複数層である場合には、樹脂層(A)の位置は特に限定されないが、基材フィルム2の主面の少なくとも一方が上記の樹脂層(A)となっていることが好ましい。この場合には、基材フィルム2上に粘着剤層3を形成してダイシングシート1を形成するにあたり、樹脂層(A)上に粘着剤層3が形成されるようにすればよい。
【0028】
(1)樹脂層(A)
樹脂層(A)は芳香族系環および脂肪族系環の少なくとも一種を有する熱可塑性樹脂である環含有樹脂(a1)と、この環含有樹脂(a1)以外のオレフィン系熱可塑性樹脂である非環式オレフィン系樹脂(a2)とを含有する。
【0029】
環含有樹脂(a1)と非環式オレフィン系樹脂(a2)とは、それぞれの樹脂を構成する高分子が環状骨格を備える化学構造(環状構造)を実質的に有するか否かの点で相違することに基づいて、引張弾性率、軟化点などの物理特性が相違する。このため、樹脂層(A)中で、環含有樹脂(a1)と非環式オレフィン系樹脂(a2)とは相分離した構造をなす。つまり、樹脂層(A)は相分離構造を備える多相樹脂層である。
【0030】
その相分離構造の詳細な形態は、それぞれの樹脂の化学構造や含有比率などによって変動する。一般的には、含有率が多い樹脂相からなるマトリックス中に、含有率が少ない樹脂相が分散する形態(以下、「分散形態」という。)となる。
【0031】
ダイシング屑の発生をより効果的に抑制する観点からは、樹脂層(A)中の相分離構造は上記の分散形態をなし、かつ分散する方の樹脂の相(以下、「分散相」といい、マトリックスをなす方の樹脂の相を「マトリックス相」という。)の径が小さいことが好ましい。分散形態において分散相の大きさが過度に大きくなると、ダイシング屑の発生を抑制する機能が低下する傾向を示すことに加えて、樹脂層(A)の表面性状が劣化し(具体的には表面が粗面化し)、ダイシングシート1として使用したときに被切断物の断面部にチッピングが生じやすくなることが懸念される。さらに、分散相の大きさが過度に大きくなると、分散相が互いに連結し、その結果、分散相とマトリックス相との界面の樹脂層(A)の厚さ方向の長さが樹脂層(A)の厚さと同等となるものが生じる可能性が高まる。このとき、樹脂層(A)の耐脆性が過度に低下することが懸念される。
【0032】
なお、樹脂層(A)における分散相の大きさが特に小さい場合には断面観察によっても容易に分散相を観察することができない場合もあるが、高倍率の顕微鏡(例えば走査型電子顕微鏡)を用いることにより分散形態を有していることが確認できる。例えば、そのような例として、樹脂層(A)の断面観察により測定した分散相の平均径が1μm未満の場合が挙げられる。また、樹脂層(A)の組成や製造方法によっては、ダイシング加工を受けていない状態(製造されたままの状態)では実質的に相分離構造を認められないが、ダイシング加工を受けた時にはじめて相分離構造をなす場合もある。このような場合であっても、本実施形態ではその樹脂層(A)は相分離構造を有するものとする。
【0033】
環含有樹脂(a1)を含有させたことの効果(ダイシング屑の発生が抑制されること)を安定的に得る観点から、樹脂層(A)中の環含有樹脂(a1)の含有量は3.0質量%超えとされ、3.5質量%以上とすることが好ましく、5.0質量%以上とすることがさらに好ましい。一方、樹脂層(A)の加工性の低下などを抑制する観点から、樹脂層(A)中の環含有樹脂(a1)の含有量を60.0質量%以下とすることが好ましく、55質量%以下とすることがより好ましく、45質量%以下とすることがさらに好ましい。また、樹脂層(A)の相分離構造が上記の分散形態となることを容易にする観点から、環含有樹脂(a1)の含有量の非環式オレフィン系樹脂(a2)の含有量に対する質量比率は、0.8から1.25の範囲以外とすることが好ましい。したがって、樹脂層(A)における環含有樹脂(a1)の含有量は5.0質量%以上45質量%以下とすることが特に好ましい。
【0034】
樹脂層(A)の相分離構造が特に良好であることを、内部ヘーズにより判断することができる。樹脂層(A)の内部ヘーズの値(内部ヘーズ値)が80%以下である場合には分散相の粒径が十分に小さいため、ダイシング屑の発生の抑制のみならず、チッピング発生の抑制および耐脆性の向上についても、高いレベルで達成することができる。樹脂層(A)における内部ヘーズ値は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。
【0035】
ここで、内部ヘーズの測定方法について詳しく説明する。
その測定原理は、測定対象となるシート状試料の双方の表面を透明または半透明のカバー層により覆い、試料の表面とカバー層の界面とを密着させることにより、試料の表面の散乱要因に起因するヘーズの影響を除外する。
【0036】
具体的には、例えば透明な粘着テープをシート状試料の両面に貼り付けてカバー層とし、この粘着テープが貼り付けられたシート状試料のヘーズを測定する。この測定値をHcとする。なお、ヘーズの測定はJIS K7136に準じて行えばよい。続いて、カバー層とした粘着テープ2枚を貼り合わせて参照用試料とし、この参照用試料についてもヘーズを測定する。この測定値をHtとする。こうして測定した二つのヘーズ値から、下記式により試料の内部ヘーズ値Hiが求められる。
Hi=Hc−Ht
【0037】
続いて、環含有樹脂(a1)および非環式オレフィン系樹脂(a2)について詳しく説明する。
(2)環含有樹脂(a1)
環含有樹脂(a1)は芳香族系環および脂肪族系環の少なくとも一種を有する熱可塑性樹脂である。
【0038】
芳香族系環とは、少なくとも一つの環状骨格を備える化学構造(環状構造)であって、その環状骨格の少なくとも一つがヒュッケル則を満たして環状に非局在化する電子を有するものをいう。以下、この環状に非局在化する電子を有する環状骨格を芳香環という。芳香環は、ベンゼン環のような単環やナフタレン環のような縮合環に大別される。芳香環を形成する骨格原子は、炭素のみからなっていてもよいし、ピリジン、フラン、チオフェンなどのように骨格原子の一つ以上が炭素以外の元素である複素環であってもよい。さらに、シクロペンタジエニドアニオンなどの非ベンゼノイド芳香環も本実施形態に係る芳香族系環に含まれるものとする。本実施形態に係る芳香族系環の骨格を構成する原子数に制限はなく、この骨格を形成する原子一つ以上に対して、メチル基、水酸基などの官能基が結合していてもよい。この場合において、テトラヒドロナフタレンのように芳香環に結合する官能基が環状構造をなしていてもよい。
【0039】
脂肪族系環とは、環状骨格のいずれもが芳香族系環が有する環状に非局在化する電子を有さない環状構造をいう。換言すれば、脂肪族系環とは芳香環以外の環状骨格からなる環状構造である。脂肪族系環を形成する環状骨格は、シクロヘキサンのような単環、ノルボルナン、アダマンタンのような架橋環、デカリンのような縮合環、スピロ[4,5]デカンのようなスピロ環が例示される。ノルボルネンなどのように脂肪族系環の環状骨格をなす結合の一部が不飽和結合であってもよいし、テトラヒドロフランのように脂肪族系環の環状骨格を形成する原子の一部が炭素以外の元素であってもよい。本実施形態に係る脂肪族系環を構成する骨格原子数に制限はない。脂肪族系環の環状骨格を形成する原子に結合する水素の一つ以上に対して、メチル基、水酸基などの官能基が置換されていてもよい。また、シクロヘキサノン等の環状ケトンやγ−ブチロラクトン等のラクトンのように骨格原子がカルボニル基を構成していてもよい。
【0040】
環含有樹脂(a1)を構成する熱可塑性樹脂(以下、高分子ということがある。)における芳香族系環および脂肪族系環の位置は任意である。環含有樹脂(a1)を構成する高分子における主鎖の一部をなしていてもよいし、環状構造を有する官能基(例えばフェニル基、アダマンチル基など)としてこの高分子の主鎖または側鎖に結合していてもよい。芳香族系環が主鎖の一部をなす高分子として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリールケトンなどが例示される。脂肪族系環が主鎖の一部をなす高分子として、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ノルボルネンをモノマーとするノルボルネン樹脂、ノルボルネンおよびエチレンをモノマーとするコポリマー、テトラシクロドデセンおよびエチレンをモノマーとするコポリマー、ジシクロペンタジエンおよびエチレンをモノマーとするコポリマーなどが例示される。環状構造を有する官能基として、上記のフェニル基、アダマンチル基以外に、フルオレン基、ビフェニル基のような環集合からなる基も例示される。
【0041】
芳香族系環と脂肪族系環とが一つの高分子内に含まれていてもよく、その場合の形態は、双方が主鎖の一部をなしていてもよいし、一方または双方が主鎖または側鎖に官能基として結合していてもよい。後者の例として、アセナフチレンコポリマーのように主鎖の一部をなす部分は脂肪族環であるが、官能基としてナフタレン環構造を有するものが挙げられる。
【0042】
環含有樹脂(a1)の好ましい構造は、架橋環骨格の環を含む脂肪族系環が樹脂を構成する高分子の主鎖の少なくとも一部を構成する構造であって、そのような構造を備える樹脂として、ノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合体水素化ポリマー(具体的には日本ゼオン社製ZEONEX(登録商標)シリーズとして入手可能である。)、ノルボルネンとエチレンとのコポリマー(具体的にはポリプラスチックス社製TOPAS(登録商標)シリーズとして入手可能である。)、ジシクロペンタジエンとテトラシクロペンタドデセンとの開環重合に基づくコポリマー(具体的には日本ゼオン社製ZEONOR(登録商標)シリーズとして入手可能である。)、エチレンとテトラシクロドデセンとのコポリマー(具体的には三井化学社製アペル(登録商標)シリーズとして入手可能である。)、ジシクロペンタジエンおよびメタクリル酸エステルを原料とする極性基を含む環状オレフィン樹脂(具体的にはJSR社製アートン(登録商標)シリーズとして入手可能である。)などが好ましい。
また、環含有樹脂(a1)は、芳香族系環が樹脂を構成する高分子の主鎖の少なくとも一部を構成する構造であることも好ましい。そのような構造を備える樹脂として、スチレン−ブタジエン共重合体(具体的には、旭化成ケミカルズ社製アサフレックスシリーズ、電気化学工業社製クリアレンシリーズ、シェブロンフィリップス社製Kレジンシリーズ、BASF社製スタイロラックスシリーズ、アトフィナ社製フィナクリアシリーズとして入手可能である。
このような樹脂を用いると、ダイシング加工に基づくせん断力や摩擦熱を受けている領域において、環含有樹脂(a1)の相と非環式オレフィン系樹脂(a2)の相との分散状態がダイシング屑の発生を抑制することに特に好適な状態になっている。
【0043】
環含有樹脂(a1)を構成する高分子は、一種類であってもよいし、複数種類の高分子をブレンドしてなるものであってもよい。ここで、高分子の種類が異なるとは、分岐の状態(すなわち、高分子のアーキテクチャー)、分子量、高分子を構成する単量体の配合バランスおよび高分子を構成する単量体の組成ならびにこれらの組み合わせが物理特性などに大きな影響を与える程度に異なることをいう。高分子の種類が複数である場合には、樹脂層(A)中でこれらが相分離することなく一つの相をなして非環式オレフィン系樹脂(a2)と相分離構造を形成してもよいし、樹脂層(A)中でこれらが互いに異なる相をなしつつ非環式オレフィン系樹脂(a2)と相分離構造を形成してもよい。
【0044】
ここで、環含有樹脂(a1)は架橋構造を有していてもよい。架橋構造をもたらす架橋剤の種類は任意であり、ジクミルパーオキサイドのような有機過酸化物やエポキシ基を有する化合物が典型的である。架橋剤は、環含有樹脂(a1)を構成する高分子の一種類同士の間で架橋してもよいし、異なる種類の高分子間で架橋してもよい。架橋剤の結合部位も任意である。環含有樹脂(a1)を構成する高分子における主鎖を構成する原子と架橋していてもよいし、側鎖や官能基など主鎖以外を構成する原子と架橋していてもよい。架橋の程度も任意であるが、架橋の程度が過度に進行すると、環含有樹脂(a1)を含む樹脂層(A)の加工性(特に成形性)が過度に低下したり、樹脂層(A)の表面性状が過度に劣化したり、樹脂層(A)の耐脆性が低下することが懸念されるため、このような問題が発生しない範囲に留めるべきである。
【0045】
環含有樹脂(a1)は熱可塑性を備える。この熱可塑性の程度は溶融時の粘度を示すメルトフローレート(MFR)で表すことができ、樹脂層(A)が適切な相分離構造を有するように適宜設定すればよい。過度にメルトフローレートが高い場合には非環式オレフィン系樹脂(a2)との物理特性の差が少なくなり、ダイシング屑の発生を抑制する機能が低下する傾向を示すことが懸念される。なお、熱可塑性が高いほど成形などの加工性に優れるため、この点も考慮することが好ましい。環含有樹脂(a1)が備えるべき好ましい熱可塑性の程度を具体的に示せば、JIS K7210:1999に準拠した、温度230℃、荷重2.16kgfにおけるメルトフローレートの値が、0.1g/10min以上であることが加工性等の観点から好ましい。高い生産性(加工性)を確保しつつダイシング屑の発生の抑制を安定的に実現する観点から、環含有樹脂(a1)のメルトフローレートは0.5/10min以上50.0g/10min以下とすることが好ましく、1.0g/10min以上25.0g/10min以下であればさらに好ましい。
【0046】
環含有樹脂(a1)の23℃における引張弾性率は1.5GPa超であることが好ましい。なお、引張弾性率の測定方法の詳細は実施例において説明する。上記の引張弾性率をこの範囲とすることで、非環式オレフィン系樹脂(a2)との物理特性の差が大きくなり、ダイシング屑発生の抑制に適した相分離構造が樹脂層(A)に得られるようになる。この相分離構造を安定的に得る観点から、環含有樹脂(a1)の23℃における引張弾性率は2.0GPa以上であることが好ましい。環含有樹脂(a1)の23℃における引張弾性率の上限はダイシング屑の発生を抑制する観点からは特に限定されない。この引張弾性率が過度に高くなると、環含有樹脂(a1)の化学構造によっては次に説明する流動化温度が過度に高くなる場合があり、その場合には樹脂層(A)中において環含有樹脂(a1)の相が粗大となる可能性が高まる。したがって、環含有樹脂(a1)の23℃における引張弾性率の上限はその流動化温度との関係で適宜設定されるべきものである。
【0047】
環含有樹脂(a1)の流動化温度は235℃以下であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがより好ましい。前述のように、流動化温度とは、加熱された樹脂試料が軟化点を経過したことにより分子の変形自由度が増して分子間相互作用が上昇した状態を超えてさらに試料が加熱された場合における、試料全体の流動化が発生する最低の温度である。流動化温度が235℃以下であることにより、樹脂層(A)中において環含有樹脂(a1)の相が粗大となる事態が生じにくく、ダイシング屑の発生を効果的に抑制しつつ、チッピングの発生や樹脂層(A)耐脆性の低下を防止することができる。環含有樹脂(a1)の流動化温度が過度に低い場合には上記の23℃における引張弾性率が1.5GPa以下に低下してしまう場合がある。この場合には、非環式オレフィン系樹脂(a2)との物理特性の差が小さくなり、樹脂層(A)においてダイシング屑発生の抑制に適した相分離構造が得られにくくなることが懸念される。したがって、流動化温度の下限は100℃以上とすることが好ましい。
【0048】
環含有樹脂(a1)の密度は特に限定されない。非環式オレフィン系樹脂(a2)との物理特性の差を十分に大きくして、樹脂層(A)においてダイシング屑発生の抑制に適した相分離構造が得られやすくなる観点から、環含有樹脂(a1)の密度は1.00g/cm以上であることが好ましい。
【0049】
環含有樹脂(a1)は、結晶性を有するものであってもよく、非結晶性であってもよい。環含有樹脂(a1)は、非環式オレフィン系樹脂(a2)と混ぜ合わせフィルム上に成形する観点から、非結晶性であることが好ましい。
環含有樹脂(a1)が結晶性である場合における環含有樹脂(a1)の融解ピーク温度は特に限定されないが、成形加工の加工性を確保する観点から、100℃以上240℃以下とすることが好ましい。なお、融解ピークの測定は、示差走査熱量計(DSC、具体例を挙げればティー・エイ・インスツルメンツ社製Q2000)を用いて測定することができる。
【0050】
(3)非環式オレフィン系樹脂
非環式オレフィン系樹脂(a2)は、上記の環含有樹脂(a1)以外の、つまり、芳香族系環および脂肪族系環のいずれも実質的に有さないオレフィン系熱可塑性樹脂からなる。本実施形態において、オレフィン系熱可塑性樹脂とは、前述のとおり、オレフィンを単量体とするホモポリマーおよびコポリマー、ならびにオレフィンとオレフィン以外の分子とを単量体とするコポリマーであって重合後の樹脂におけるオレフィン単位に基づく部分の質量比率が1.0質量%以上である熱可塑性樹脂を意味する。
【0051】
本実施形態に係る非環式オレフィン系樹脂(a2)を構成する高分子は直鎖状であってもよいし、側鎖を有していてもよい。また、非環式の官能基を有していてもよく、その種類および置換密度は任意である。アルキル基のように反応性の低い官能基であってもよいし、カルボン酸基のように反応性が高い官能基であってもよい。
【0052】
非環式オレフィン系樹脂(a2)は、少なくとも一種の非環式ポリオレフィン(環状構造を有さないオレフィンを単量体とするホモポリマーおよびコポリマーの総称)からなることが好ましい。非環式オレフィン系樹脂(a2)が非環式ポリオレフィンからなる場合には、非環式オレフィン系樹脂(a2)と環含有樹脂(a1)との物理特性の相違はより顕著となるため、ダイシング屑発生の抑制に適した相分離構造が樹脂層(A)により得られやすい。なお、非環式ポリオレフィンにおける分岐の程度は特に限定されない。ポリエチレンを例にして説明すれば、分岐が比較的多い低密度ポリエチレンであっても、分岐が比較的少ない高密度ポリエチレンであっても、樹脂層(A)中で環含有樹脂(a1)と相分離構造を形成することができる。
【0053】
非環式オレフィン系樹脂(a2)の具体例として、ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、エチレン―オレフィン共重合体(エチレンとエチレン以外のオレフィンとを単量体とするコポリマー)、エチレン―酢酸ビニル共重合体、エチレン―(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン―(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。
【0054】
ここで、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。「エチレン−(メタ)アクリル酸共重体」は、エチレン−アクリル酸共重合体であってもよいし、エチレン−メタクリル酸共重合体であってもよく、またエチレン−アクリル酸−メタクリル酸共重合体であってもよい。
【0055】
非環式オレフィン系樹脂(a2)を構成する高分子は、一種類であってもよいし、複数種類の高分子をブレンドしてなるものであってもよい。高分子の種類が複数である場合には、樹脂層(A)中でこれらが相分離することなく一つの相をなして環含有樹脂(a1)の相と相分離構造を形成してもよいし、樹脂層(A)中でこれらが互いに異なる相をなしつつ環含有樹脂(a1)の相と相分離構造を形成してもよい。
【0056】
非環式オレフィン系樹脂(a2)としては、ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、エチレン―オレフィン共重合体、エチレン―酢酸ビニル共重合体、エチレン―(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン―(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン共系重合体であることが好ましく、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、エチレン―オレフィン共重合体であることがより好ましい。
【0057】
エチレン−オレフィン共重合体を構成するオレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1などの炭素数3〜18のα−オレフィン単量体等が挙げられる。
【0058】
上記の非環式オレフィン系樹脂(a2)が、エチレン−オレフィン共重合体である場合、重合後の樹脂におけるエチレン単位に基づく部分の質量比率が1.0質量%以上あればよい。エチレン単位に基づく部分の質量比率が上記の範囲であれば、ダイシング屑発生の抑制に適した相分離構造を備える樹脂層(A)を得ることができる。
【0059】
非環式オレフィン系樹脂(a2)と環含有樹脂(a1)との間の物理特性の相違を大きくして、ダイシング屑発生の抑制に適した相分離構造を備える樹脂層(A)を得るという点から、上記の重合後の樹脂におけるエチレン単位に基づく部分の質量比率は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0060】
ここで、非環式オレフィン系樹脂(a2)は架橋構造を有していてもよい。架橋構造をもたらす架橋剤の種類は任意であり、ジクミルパーオキサイドのような有機過酸化物やエポキシ基を有する化合物が典型的である。架橋剤は、非環式オレフィン系樹脂(a2)を構成する高分子の一種類同士の間で架橋してもよいし、異なる種類の高分子間で架橋してもよい。架橋剤の結合部位も任意である。架橋剤は、非環式オレフィン系樹脂(a2)を構成する高分子における主鎖を構成する原子と架橋していてもよいし、側鎖や官能基など主鎖以外を構成する原子と架橋していてもよい。架橋の程度も任意であるが、架橋の程度が過度に進行すると、非環式オレフィン系樹脂(a2)と環含有樹脂(a1)との物理特性の差が小さくなり、ダイシング屑の発生を抑制する機能が低下する傾向を示すことが懸念される。したがって、架橋の程度はこのような問題が発生しない範囲に留めるべきである。
【0061】
本実施形態に係る非環式オレフィン系樹脂(a2)における熱可塑性の好ましい程度をメルトフローインデックス(190℃、2.16kgf)の範囲で示せば、0.5g/10min以上10g/10min以下であり、2.0g/10min以上7g/10min以下であればより好ましい。樹脂層(A)における良好な相分離構造を実現する観点から、非環式オレフィン系樹脂(a2)のメルトフローインデックスは環含有樹脂(a1)のメルトフローインデックスよりも同等以上であることが好ましい。
【0062】
非環式オレフィン系樹脂(a2)の23℃における引張弾性率は特に限定されないが、環含有樹脂(a1)との物理特性を十分に大きくする観点から、環含有樹脂(a1)の23℃における引張弾性率よりも十分に低いことが好ましい。具体的に示せば0.4GPa以下であることが好ましく、0.2GPa以下であればより好ましい。
【0063】
非環式オレフィン系樹脂(a2)の流動化温度は特に限定されない。環含有樹脂(a1)の流動化温度との相違が小さい場合には、樹脂層(A)中において環含有樹脂(a1)の相が粗大となる事態が生じにくく、ダイシング屑の発生を効果的に抑制しつつ、チッピングの発生や樹脂層(A)の著しい耐脆性の低下を防止することができるため、好ましい。また、樹脂層(A)を膜状に形成する成形加工を容易にする観点から、非環式オレフィン系樹脂(a2)の流動化温度は100℃以上180℃以下であることが好ましい。
【0064】
非環式オレフィン系樹脂(a2)の密度は特に限定されない。樹脂層(A)中の非環式オレフィン系樹脂(a2)の含有量が環含有樹脂(a1)の含有量よりも多い場合には、非環式オレフィン系樹脂(a2)の機械特性が樹脂層(A)としての機械特性により支配的に影響を及ぼすことがあり、このとき、非環式オレフィン系樹脂(a2)の密度が過度に低い場合には基材フィルム2として求められる最低限の機械特性(引張弾性率、破断伸度など)を得られなくなることが懸念される。また、密度の低下により樹脂層(A)の表面にベタツキが生じてくるため、加工プロセス上でトラブルが発生する可能性が高まる。この観点から非環式オレフィン系樹脂(a2)の密度は0.900g/cm以上とすることが好ましい場合もある。
【0065】
非環式オレフィン系樹脂(a2)は、非晶性であっても、結晶性を有してもよい。非環式オレフィン系樹脂(a2)が結晶性を有している場合、融解ピーク温度は特に限定されないが、環含有樹脂(a1)との物理特性を十分に大きくする観点から、90℃以上180℃以下であることがこのましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましい。融解ピークの高さは、5.0W/g以下であり、融解熱量ΔHに関しては、30.0J/g以上120.0J/g以下であることが好ましい。
【0066】
(4)樹脂層(A)における他の成分
樹脂層(A)は上記の環含有樹脂(a1)および非環式オレフィン系樹脂(a2)に加えて、他の成分を含有してもよい。そのような他の成分として、イソプレンゴムやニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、またはその共重合体などの熱可塑性エラストマー樹脂が例示される。これらの他の成分の樹脂層(A)中の含有量は、樹脂層(A)中において環含有樹脂(a1)と非環式オレフィン系樹脂(a2)とが相分離構造を形成することを維持できる程度の含有量とすることが好ましい。
【0067】
(5)基材フィルムのその他の構成
基材フィルム2が単層からなる場合には、基材フィルム2は上記の樹脂層(A)からなる。一方、基材フィルム2が複層からなる場合には、基材フィルム2は上記の樹脂層(A)および一層または複数層で構成される他の樹脂層(以下、「樹脂層(B)」と総称する。)からなる。この場合、樹脂層(A)の位置は特に限定されないが、基材フィルム2の主面の少なくとも一方が樹脂層(A)となるっていることが好ましい。すなわち、樹脂層(A)は、基材フィルム2における粘着剤層3と接する側の主面をなすように積層されて、基材フィルム2上に粘着剤層3を形成してダイシングシート1を形成するにあたり、樹脂層(A)上に粘着剤層3が形成されるようにすればよい。
【0068】
樹脂層(B)の組成は特に限定されない。樹脂層(B)として公知の樹脂フィルムを用いてもよい。そのような樹脂フィルムの具体例として、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム;ポリウレタンフィルム;ポリ塩化ビニルフィルム;ポリアミドフィルムなどが挙げられる。
【0069】
基材フィルム2の厚さは、通常40〜300μmであり、好ましくは60〜200μmである。基材フィルム2が複層である場合は、基材フィルム2の総厚のうち、粘着剤層3に接する側の樹脂層である樹脂層(A)の厚さは、通常20μm以上120μm以下であり、好ましくは40μm以上100μm以下である。粘着剤層3に接する樹脂層(A)が上記の厚さであれば、ダイシング屑が生じることを防止することができる。なお、樹脂層(A)の厚さが過度に薄い場合には、相分離構造が良好な分散形態を実現することが困難となることが懸念されるため、樹脂層(A)を構成する成分の特性も考慮して樹脂層(A)の厚さを決定することが好ましい。
【0070】
また、本実施形態における基材フィルム2の引張弾性率は、80〜300MPaであることが好ましい。引張弾性率が80MPa未満であると、ダイシングシート1にウェハを貼着した後、リングフレームに固定した際、基材フィルム2が柔らかいために弛みが発生し、搬送エラーの原因となることがある。一方、基材フィルム2の引張弾性率が300MPaを超えると、エキスパンド工程時に加わる荷重が大きくなるため、リングフレームからダイシングシート1自体が剥がれたりするなどの問題が発生するおそれがある。
【0071】
(6)基材フィルムの製造方法
基材フィルム2の製造方法は特に限定されない。Tダイ法、丸ダイ法等の溶融押出法;カレンダー法;乾式法、湿式法等の溶液法などが例示され、いずれの方法でもよい。樹脂層(A)に含まれる環含有樹脂(a1)および非環式オレフィン系樹脂(a2)がいずれも熱可塑性樹脂であることを考慮し、樹脂層(A)において相分離構造を安定的に得る観点から、溶融押出法またはカレンダー法を採用することが好ましい。これらのうち、溶融押出法により製造する場合には、樹脂層(A)を構成する成分を混練し、得られた混練物から直接、または一旦ペレットを製造したのち、公知の押出機を用いて製膜すればよい。
なお、これらの方法のいずれを採用する場合においても、得られた樹脂層(A)中の環含有樹脂(a1)の相および非環式オレフィン系樹脂(a2)の相の含有量の比率やそれらの相分離構造が樹脂層(A)中で均一になるように留意すべきである。
【0072】
基材フィルム2を構成する樹脂層が複数層からなる場合における樹脂層(B)の製造方法も、樹脂層(A)の場合と同様に任意である。樹脂層(B)の組成および目的に合わせて適切な方法を採用すればよい。樹脂層(A)および樹脂層(B)の積層方法、樹脂層(B)が複数の樹脂層からなるときにはこれらの積層方法も任意である。共押出し等によって各樹脂層を形成すると同時に積層してもよいし、個別に製造された樹脂層を接着剤等により貼付して積層してもよい。
【0073】
2.ダイシングシートにおけるその他の構成要素
ダイシングシート1における基材フィルム2以外の構成要素として、基材フィルム2における樹脂層(A)に接するように形成された粘着剤層3、およびこの粘着剤層3の樹脂層(A)に接していない方の面、つまり被切断物と接着するための面を保護するための剥離シートが例示される。
【0074】
(1)粘着剤層
粘着剤層3を構成する粘着剤としては、特に限定されず、ダイシングシートとして通常用いられるものを使用することができ、例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系等の粘着剤が用いられ、また、エネルギー線硬化型(紫外線硬化型を含む)や加熱硬化型の粘着剤であってもよい。また、本実施形態におけるダイシングシート1がダイシング・ダイボンディングシートとして使用される場合には、ウェハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えた粘接着剤、熱可塑性接着剤、Bステージ接着剤等が用いられる。
粘着剤層3の厚さは、通常は3〜100μm、好ましくは5〜80μm程度である。
【0075】
(2)剥離シート
粘着剤層3を保護するための剥離シートは任意である。
剥離シートとして、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等を用いることができる。また、これらの架橋フィルムを用いてもよい。さらに、これらのフィルムの複数が積層された積層フィルムであってもよい。
【0076】
上記剥離シートの剥離面(特に粘着剤層3と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。
なお、剥離シートの厚さについては特に限定されず、通常20〜150μm程度である。
【0077】
3.ダイシングシートの製造方法
上記の基材フィルム2および粘着剤層3、ならびに必要に応じて用いられる剥離シート等の積層体からなるダイシングシート1の製造方法は特に限定されない。
【0078】
ダイシングシート1の製造方法についていくつかの例を挙げれば、次のようになる。
i)剥離シート上に粘着剤層3を形成し、その粘着剤層3上に基材フィルム2を圧着して積層する。このとき、粘着剤層3の形成方法は任意である。
粘着剤層3の形成方法の一例を挙げれば次のようになる。粘着剤層3を構成する粘着剤と、所望によりさらに溶媒とを含有する塗布剤を調製する。ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機によって、基材フィルム2における樹脂層(A)により構成される一方の主面に塗布する。基材フィルム2上の塗布剤からなる層を乾燥させることにより、粘着剤層3が形成される。
上記の方法以外の例として、別途シート状に形成した粘着剤層3を基材フィルム2に貼付してもよい。
【0079】
ii)基材フィルム2を形成し、その上に粘着剤層3を形成し、必要に応じさらに剥離シートを積層する。このときの粘着剤層3の形成方法は上記のとおり任意である。
上記(i)(ii)の方法以外の例として、別途シート状に形成した粘着剤層3を基材フィルム2に貼付してもよい。
【0080】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0082】
〔実施例1〕
(基材フィルムの作製)
脂肪族系環を有する熱可塑性樹脂である環含有樹脂(a1)としてのシクロオレフィン・コポリマー(ポリプラスチックス社製,製品名:TOPAS(登録商標)8007,23℃での引張弾性率(後述する試験例1に基づき得られた結果、以下同じ。)2.0GPa,流動化温度(後述する試験例2に基づき得られた結果、以下同じ。):142℃)5.0質量部と、非環式オレフィン系樹脂(a2)としての低密度ポリエチレン(住友化学社製,製品名:スミカセン(登録商標)L705、23℃での引張弾性率140MPa)95.0質量部とを、二軸混練機(東洋精機製作所社製,ラボプラストミル)にて210℃で溶融混練し、樹脂層(A)用の押出用原材料を得た。この原材料を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,ラボプラストミル)によって押出成形し、厚さ100μmの樹脂層(A)単層からなる基材フィルムを得た。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、7.0%であった。(なお、内部ヘーズ値は、後述する試験例3に基づき得られた結果である、以下同じ。)
【0083】
(粘着剤の調整)
一方、n−ブチルアクリレート95質量部およびアクリル酸5質量部を共重合してなる共重合体(Mw:500,000)100質量部、ウレタンアクリレートオリゴマー(Mw:8000)120質量部、イソシアネート系硬化剤(日本ポリウレタン社,コロネートL)5質量部、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製,イルガキュア184)4質量部とを混合し、エネルギー線硬化型粘着剤組成物を得た。
【0084】
得られたエネルギー線硬化型粘着剤組成物を、シリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP−PET3811(S))上に乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗布し、100℃で1分間乾燥して、粘着剤層と剥離フィルムとからなる積層体を形成した。次いで、この積層体を上記の基材フィルムに貼り合せ、積層体における粘着剤層を基材フィルム上に転写し、これをダイシングシートとした。
【0085】
〔実施例2〕
実施例1において、環含有樹脂(a1)の含有量を30.0質量部に、非環式オレフィン系樹脂(a2)の含有量を70.0質量部に変更する以外は、実施例1と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、29.8%であった。
【0086】
〔実施例3〕
実施例1において、環含有樹脂(a1)の含有量を50.0質量部に、非環式オレフィン系樹脂(a2)の含有量を50.0質量部に変更する以外は、実施例1と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、47.8%であった。
【0087】
〔実施例4〕
実施例2において、環含有樹脂(a1)の種類を他の脂肪族系環を有する熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン・コポリマー(ポリプラスチックス社製,製品名:TOPAS(登録商標)9506,23℃での引張弾性率1.9GPa,流動化温度:136℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、25.0%であった。
【0088】
〔実施例5〕
実施例2において、環含有樹脂(a1)の種類を他の脂肪族系環を有する熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン・コポリマー(ポリプラスチックス社製,製品名:TOPAS(登録商標)5013,23℃での引張弾性率2.3GPa,流動化温度:175℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、44.2%であった。
【0089】
〔実施例6〕
実施例2において、環含有樹脂(a1)の種類を他の脂肪族系環を有する熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン・コポリマー(日本ゼオン社製,製品名:ZEONOR(登録商標)1060,23℃での引張弾性率2.1GPa,流動化温度:148℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、25.3%であった。
【0090】
〔実施例7〕
実施例2において、環含有樹脂(a1)の種類を、芳香族系環を有する熱可塑性樹脂であるポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチック社製,製品名:ジュラネックス300FP,23℃での引張弾性率2.4GPa,流動化温度:230℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、97.9%であった。
【0091】
〔実施例8〕
実施例2において、環含有樹脂(a1)の種類を芳香族系環を有する熱可塑性樹脂であるスチレン−ブタジエン共重合体(電気化学工業社製,製品名:クリアレン730L,23℃での引張弾性率1.5GPa,流動化温度:158℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、98.4%であった。
【0092】
〔実施例9〕
実施例2において、非環式オレフィン系樹脂(a2)の種類を直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製,製品名:ペトロセン730、23℃での引張弾性率280MPa)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、28.7%であった。
【0093】
〔実施例10〕
実施例2において、非環式オレフィン系樹脂(a2)の種類をエチレン−メタクリル酸共重合体(三井−デュポン ポリケミカル社製,製品名:ニュクレル(登録商標)N1207、23℃での引張弾性率140MPa)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、52.0%であった。
【0094】
〔実施例11〕
実施例1において、環含有樹脂(a1)の含有量を60.0質量部に、非環式オレフィン系樹脂(a2)の含有量を40質量部に変更する以外は、実施例1と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、57.0%であった。
【0095】
〔実施例12〕
実施例2において、環含有樹脂(a1)の種類を他の脂肪族系環を有する熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン・コポリマー(日本ゼオン社製,製品名:ZEONOR(登録商標)1600,23℃での引張弾性率2.6GPa,流動化温度:220℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、82.8%であった。
【0096】
〔実施例13〕
実施例2において、非環式オレフィン系樹脂(a2)の種類をエチレン−ヘキセン共重合体(東ソー社製,製品名:ニポロン−Z TZ260、23℃での引張弾性率390MPa)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、24.8%であった。
【0097】
〔実施例14〕
実施例2において、非環式オレフィン系樹脂(a2)の種類をブロックポリプロピレン(プライムポリマー社製,製品名:プライムポリプロ(登録商標)F−730NV、23℃での引張弾性率950MPa,流動化温度:175℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、83.4%であった。
【0098】
〔実施例15〕
樹脂層(B)用の押出用原材料として、ホモポリプロピレン(プライムポリマー社製,製品名:プライムポリプロ(登録商標)F−704NT、23℃での引張弾性率1.9GPa,流動化温度:175℃)を準備した。次いで、実施例11で使用した樹脂層(A)用の押出用原材料と、樹脂層(B)用の押出用原材料とを、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,ラボプラストミル)によって押出成形し、厚さ40μmの樹脂層(A)と、厚さ60μmの樹脂層(B)とからなる2層構造の基材フィルムを得た。
この基材フィルムの樹脂層(A)上に実施例1と同様の方法により粘着剤層を形成して、ダイシングシートを製造した。
【0099】
〔比較例1〕
実施例1において、環含有樹脂(a1)を含有させず、非環式オレフィン系樹脂(a2)の含有量を100質量部に変更する以外は、実施例1と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、4.3%であった。
【0100】
〔比較例2〕
実施例1において、環含有樹脂(a1)の含有量を3質量部に、非環式オレフィン系樹脂(a2)の含有量を97質量部に変更する以外は、実施例1と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、4.9%であった。
【0101】
〔比較例3〕
実施例2において、環含有樹脂(a1)を含有させず、これに代えてホモポリプロピレン(プライムポリマー社製,製品名:プライムポリプロ(登録商標)F−704NT、23℃での引張弾性率1.9GPa,流動化温度:175℃)に変更する以外は、実施例2と同様にしてダイシングシートを製造した。得られた樹脂層(A)の内部ヘーズ値は、36.5%であった。
【0102】
〔試験例1〕(引張弾性率の測定)
実施例および比較例において使用した環含有樹脂(a1)および非環式オレフィン系樹脂(a2)のそれぞれからなる100μm厚の樹脂フィルムを、上記の基材フィルムと同様の方法で製造した。こうして得られた樹脂フィルムを15mm×140mmの試験片に裁断し、JIS K7161:1994およびJIS K7127:1999に準拠して、23℃における引張弾性率を測定した。具体的には、上記試験片を、引張試験機(島津製作所製,オートグラフAG−IS 500N)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、引張弾性率(GPaまたはMPa)を測定した。なお、引張弾性率の測定は、樹脂フィルムの成形時の押出方向(MD)およびこれに直角の方向(CD)の双方で行い、これらの測定結果の平均値をその樹脂の引張弾性率とした。その結果は前述のとおりである。
【0103】
〔試験例2〕(流動化温度の測定)
実施例および比較例において使用した環含有樹脂(a1)の流動化温度の測は、高化式フローテスター(島津製作所社製、型番:CFT−100Dが製品例として挙げられる。)を用いて行った。荷重5.0Nとし、穴形状がφ2.0mm、長さが5.0mmのダイを使用し、測定試料とする環含有樹脂(a1)の温度を昇温速度10℃/分で上昇させながら、昇温とともに変動するストローク変位速度(mm/分)を測定して、各環含有樹脂(a1)のストローク変位速度の温度依存性チャートを得た。この温度依存性チャートから、軟化点を超えて得られるピークを経過した後最もストローク変位速度が小さくなる温度を流動化温度とした。流動化温度の結果は前述のとおりである。
【0104】
〔試験例3〕(内部ヘーズ値の測定)
実施例および比較例で用いた樹脂層(A)からなる基材フィルムについて、下記の方法で樹脂層(A)の内部ヘーズ値を測定した。
【0105】
まず、透明な粘着テープを準備し、粘着テープを基材フィルムの両面に貼付して内部ヘーズ測定用試料とした。一方、作製した粘着テープ粘着面同士を貼り合わせ、粘着テープのヘーズ測定用試料とした。
【0106】
内部ヘーズ測定用試料および粘着テープのヘーズ測定用試料を、JIS K 7136に準拠して日本電色工業(株)製ヘーズメーター「NDH2000」を使用し、ヘーズ値の測定を行い、それぞれのヘーズ値をHcおよびHtとした。
得られたHcおよびHtを用いて、下記式により樹脂層(A)の内部ヘーズ値Hiを求めた。その結果は前述のとおりである。
Hi=Hc−Ht
Hi:樹脂層(A)の内部ヘーズ
Hc:樹脂層(A)の両面に粘着テープを貼り付けた際のヘーズ測定値
Ht:粘着面同士を貼り合わせた粘着テープのヘーズ測定値
【0107】
〔試験例4〕(ダイシング屑観察)
実施例および比較例で製造したダイシングシートの粘着剤層をBGA型パッケージモジュールに貼付した後、ダイシング装置(DISCO社製,DFD−651)にセットし、以下の条件でダイシングを行った。
・ワーク(被着体):BGA型パッケージモジュール(京セラケミカル社製,KE−G1250)
・ワークサイズ:550mm×440mm,厚さ1.55mm
・ダイシングブレード:ディスコ社製 Z1100LS3
・ブレード回転数:50,000rpm
・ダイシングスピード:10mm/秒
・切り込み深さ:基材フィルム表面より40μmの深さまで切り込み
・ダイシングサイズ:5mm×5mm
【0108】
その後、基材フィルム側から紫外線を照射(160mJ/cm)して、切断されたチップを剥離した。縦及び横のダイシングラインのうち、それぞれの中央付近における縦の1ライン及び横の1ラインに発生した糸状屑の個数を、デジタル顕微鏡(キーエンス社製,VHX−100,倍率:100倍)を用いてカウントした。糸状屑の個数が0〜10個のものを○、11〜20個のものを△、21個以上のものを×として評価した。○および△を良好と判定し、×を不良と判定した。結果を表1に示す。
【0109】
〔試験例5〕(チッピング観察)
上記のダイシング屑の評価と同様の手順で、以下の条件でダイシングしたチップの切断面をデジタル顕微鏡(キーエンス社製,VHX−100,倍率:100倍)を用いて観察した。
・ワーク(被着体):シリコンウェハ
・ワークサイズ:8インチ,厚さ0.35mm
・ダイシングブレード:ディスコ社製 27HECC
・ブレード回転数:30,000rpm
・ダイシングスピード:80mm/秒
・切り込み深さ:基材フィルム表面より、20μmの深さまで切り込み
・ダイシングサイズ:5mm×5mm
【0110】
20μm以上の幅または深さの欠けが認められた場合には、チッピングが発生したものとして不良(×)と判定し、このような欠けが認められない場合には良好(○)と判定した。結果を表1に示す。
【0111】
〔試験例6〕(プリカット加工試験)
実施例および比較例で製造したダイシングシートの粘着剤層面に、剥離フィルムを貼付し、次いで、幅290mmに裁断し、巻数100mのロールサンプルを作製した。このロールから連続的に直径207mmの円形ダイシングシートを加工するために、基材側からダイロールを用いて剥離フィルムに対して5μm切り込みが入るようにカッティングを行った。その後巻取機にて円形シート外周部を剥離フィルムから剥離しながら巻き取った。このとき円形シート外周部が問題なく巻き取り可能であった場合には良好(○)とし、円形シート外周部が破断した場合を不良(×)と判定した。結果を表1に示す
【0112】
【表1】

【0113】
表1から明らかなように、実施例で製造したダイシングシートによれば、ダイシング屑が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係るダイシングシート用基材フィルムおよびダイシングシートは、半導体ウェハや各種パッケージ類等のダイシングに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0115】
1…ダイシングシート
2…基材フィルム
3…粘着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層(A)を備えるダイシングシート用基材フィルムであって、
当該樹脂層(A)は、芳香族系環および脂肪族系環の少なくとも一種を有する熱可塑性樹脂である環含有樹脂(a1)と、当該環含有樹脂(a1)以外のオレフィン系熱可塑性樹脂である非環式オレフィン系樹脂(a2)とを含有し、
前記樹脂層(A)中の前記環含有樹脂(a1)の含有量は3.0質量%超であることを特徴とするダイシングシート用基材フィルム。
【請求項2】
前記非環式オレフィン系樹脂(a2)はエチレン系重合体である請求項1記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項3】
前記環含有樹脂(a1)は流動化温度が235℃以下である、請求項1または2に記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項4】
前記環含有樹脂(a1)は23℃における引張弾性率が1.5GPa超である、請求項1から3のいずれか一項に記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項5】
前記樹脂層(A)は前記環含有樹脂(a1)を3.0質量%超60.0質量%以下で含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項6】
前記樹脂層(A)における内部ヘーズ値が80%以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載される基材フィルムと、当該基材フィルム上に配置された粘着剤層とを備えるダイシングシート。

【図1】
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【公開番号】特開2013−65682(P2013−65682A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203194(P2011−203194)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】