説明

ダイナミック型スピーカ、及びそのエッジ構造

【課題】ダイナミック型スピーカの再生音圧周波数特性の平坦性を改善する技術を提供する。
【解決手段】振動板109の外周縁をフレーム101に弾性的に接続することで、振動板109をフレーム101に支持させるための、ダイナミック型スピーカ100のエッジ構造110は、アップロールエッジ110a(第1エッジ)と、Vエッジ110b(第2エッジ)と、を備える。アップロールエッジ110aは、振動板109の外周縁に全体的に沿うように形成される。Vエッジ110bは、振動板109の外周縁に部分的に沿うように形成されると共に、アップロールエッジ110aから見て振動板109から放射される音波の放射方向Dと反対側に配置される。アップロールエッジ110aとVエッジ110bによって形成される図27の筒体110cの一次共鳴周波数f1が、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域から外れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミック型スピーカ、及びそのエッジ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1は、振動板のローリングを防止するために、音の放射方向に向かって凸形状となる凸エッジと、音の放射方向に向かって凹形状となる凹エッジとによって構成されるエッジ構造を開示している。このエッジ構造において、凸エッジは振動板の外周部の全部に形成されており、凹エッジは振動板の外周部の一部に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−104057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図19には、一般的なダイナミック型スピーカ100の断面を示している。ダイナミック型スピーカ100は、フレーム101と、磁気回路102と、振動部103とによって構成されている。
【0005】
フレーム101は、ダイナミック型スピーカ100の図示しないエンクロージャにネジなどの締結手段で固定される。
【0006】
磁気回路102は、トッププレート104と、永久磁石105と、ヨーク106とによって構成されている。トッププレート104は、円環状に形成され、フレーム101に取り付けられる。永久磁石105は、円環状に形成され、トッププレート104に取り付けられる。ヨーク106は、フランジ部106aと筒部106bによって構成されている。以上の構成により、トッププレート104の内周面と、筒部106bの外周面の間に形成された磁気ギャップには永久磁石105の磁束が集中している。
【0007】
振動部103は、ボイスコイルボビン107と、ボイスコイル108と、振動板109と、エッジ構造110と、ダンパー111と、センターキャップ112と、錦糸線113とによって構成されている。ボイスコイルボビン107の外周にはボイスコイル108が巻返されている。ボイスコイル108は、磁気回路102の磁気ギャップ内に位置している。振動板109は、ボイスコイルボビン107に接続している。振動板109は、エッジ構造110を介してフレーム101に支持されている。図19には、エッジ構造110としてアップロールエッジが示されている。ボイスコイルボビン107は、メッシュ状に形成されたダンパー111を介してフレーム101に弾性的に支持されている。ダンパー111は、ボイスコイルボビン107やボイスコイル108がトッププレート104やヨーク106に擦れることがないように、ボイスコイルボビン107の姿勢を調整するものである。センターキャップ112は、ボイスコイルボビン107の先端に取り付けられている。錦糸線113は、トッププレート104に固定された外部端子114とボイスコイル108とを接続する電線である。
【0008】
以上の構成で、外部端子114に音響信号が入力されると、ボイスコイル108を流れる電流と、磁気回路102によって形成された磁界との相互作用により、振動板109が音響信号に応じた振動をし、所望の音波が振動板109から放射方向Dに放射される。このようなダイナミック型スピーカ100では、ボイスコイルボビン107の振動に伴って上下動する錦糸線113とダンパー111との間のクリアランスを十分に確保しなければならない必要があり、それ故、ダイナミック型スピーカ100の薄型化を困難なものとしている。
【0009】
そこで、図20に示すように、ダンパー111を省略した構成が考えられる。この場合、錦糸線113とダンパー111との接触を懸念する必要がないので、ダイナミック型スピーカ100の薄型化を図ることができる。しかし、単にダンパー111を削除しただけでは、主としてエンクロージャの内部音響空間の非対称性や空気の粘性に起因する振動板109の背圧の偏りに起因して、振動部103が太線矢印で示すようにローリング(横揺れ)してしまう。そして、この振動部103のローリングにより、ボイスコイルボビン107やボイスコイル108がトッププレート104やヨーク106に擦れ、もって、擦れ音が重畳された音波が振動板109から放射方向Dに出力されることになる。
【0010】
そこで、上記のローリングを抑制すべく、特許文献1のようにエッジ構造110を二重にするアイデアが発案されている。図21は、エッジ構造110として、放射方向Dに突出する断面略円弧状のアップロールエッジ110a(第1エッジ)に、放射方向Dと反対側に突出する断面略V字状のVエッジ110b(第2エッジ)を重ねた構造を例示している。具体的には、Vエッジ110bは、アップロールエッジ110aから見て、振動板109から放射される音波の放射方向Dと反対側に配置されている。また、図22に示すように、アップロールエッジ110aは、振動板109の外周縁に全体的に沿うように形成されている。一方、Vエッジ110bは、振動板109の外周縁に部分的に沿うように形成されている。
【0011】
しかしながら、図21や図22に示すようにエッジ構造110を二重にするアイデアを採用すると、エッジ構造110が図21のように二重でなく図20のように一重である従来のダイナミック型スピーカ100と比較して、ダイナミック型スピーカ100の再生音圧周波数特性の平坦性が悪化するという問題が出てきた。図23に、図21や図22に示すダイナミック型スピーカ100の再生音圧周波数特性を示す。図23に示すグラフの横軸はダイナミック型スピーカ100に入力された音響信号の周波数であり、縦軸はダイナミック型スピーカ100から出力された音波の音圧レベルである。なお、ダイナミック型スピーカ100の大きさや材質等によりこの音圧レベルは変化する。図23から判る通り、図21や図22に示すダイナミック型スピーカ100では、入力された音響信号の周波数が2kHzと4kHz、6kHzであるとき、出力された音波の音圧レベルの平坦性が損なわれている。そして、この結果、ダイナミック型スピーカ100には、音の再現性に関して満足いくものが得られなかった。
【0012】
本願発明の目的は、ダイナミック型スピーカの再生音圧周波数特性の平坦性を改善する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本願発明者は、鋭意研究の末、図23に示すように、入力された音響信号の周波数が2kHzと4kHz、6kHzであるとき、出力された音波の音圧レベルの平坦性が損なわれる原因が、アップロールエッジ110aとVエッジ110bによって形成される筒体110c(図2参照)の共鳴現象にあることを突き止めた。
【0014】
図24には、アップロールエッジ110aとVエッジ110bによって形成される筒体110cを簡略的に描いている。この筒体110cは、両端が開口しているので一般に開管と呼ばれている。開管では、その両端の開口で自由端反射が起こるため、固有振動は、両端の開口を腹とする定常波となる。図24では、開管内に形成される音波の疎密波を便宜的に横波表示している。この疎密波の節の位置では媒質(空気)の密度変化は最大となり、振動はゼロとなる。一方、疎密波の腹の位置では媒質(空気)の密度変化はゼロとなり、振動は最大となる。開管の長さをL、波長をλ、音速をVとすると、開管の一次共鳴周波数f1は下記式(1)により表される。同様に、図25及び図26に示すように、開管の二次共鳴周波数f2、三次共鳴周波数f3は、下記式(2)及び(3)により表される。
【0015】
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
【数3】

【0018】
上記式(1)〜(3)を更に一般化すれば、n次共鳴周波数fnは、下記式(4)により表される。ただし、式(1)〜(4)では、いわゆる開口端補正を考慮していない。
【0019】
【数4】

【0020】
以上の考察を踏まえ、本願発明の発明者は、以下の解決手段に想到するに至った。
【0021】
即ち、本願発明の観点によれば、振動板の外周縁をフレームに弾性的に接続することで、前記振動板を前記フレームに支持させるための、ダイナミック型スピーカのエッジ構造は、以下のように構成される。エッジ構造は、前記振動板の前記外周縁に全体的に沿うように形成される第1エッジと、前記振動板の前記外周縁に部分的に沿うように形成されると共に、前記第1エッジから見て前記振動板から放射される音波の放射方向と反対側に配置される、第2エッジと、を備える。前記第1エッジと前記第2エッジによって形成される筒体の共鳴周波数が、前記スピーカの再生周波数帯域から外れている。
好ましくは、前記筒体の一次共鳴周波数が、前記スピーカの再生周波数帯域から高周波数側に外れている。
好ましくは、前記筒体の周壁に孔又はスリットが形成されている。
好ましくは、前記孔又はスリットは、前記第2エッジに形成されている。
好ましくは、前記孔又はスリットは、前記筒体をその長手方向に等分する位置に形成されている。
好ましくは、前記孔又はスリットは、前記筒体をその長手方向に不等分する位置に形成されている。
好ましくは、前記第2エッジは、断面略V字状である。
好ましくは、前記第2エッジの折れ目に、微小孔が複数、形成されている。
好ましくは、前記第2エッジの折れ目に、ミシン目が形成されている。
好ましくは、前記第2エッジの折れ目以外の部分には、前記折れ目に対して直交するように延びるリブが形成されている。
上記のエッジ構造を備えたダイナミック型スピーカが提供される。
【発明の効果】
【0022】
本願発明によれば、前記筒体の共鳴現象が発生しても、前記ダイナミック型スピーカの再生周波数帯域に影響を及ぼすことがない。従って、前記ダイナミック型スピーカの再生音圧周波数特性の平坦性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ダイナミック型スピーカの正面図。(第1実施形態)
【図2】開管の共鳴現象の説明図。(第1実施形態)
【図3】図1のダイナミック型スピーカの再生音圧周波数特性を示すグラフ。(第1実施形態)
【図4】ダイナミック型スピーカの正面図。(第2実施形態)
【図5】ダイナミック型スピーカの正面図。(第3実施形態)
【図6】ダイナミック型スピーカの正面図。(第3実施形態の変形例)
【図7】ダイナミック型スピーカの正面図。(第4実施形態)
【図8】ダイナミック型スピーカの正面図。(第5実施形態)
【図9】ダイナミック型スピーカの正面図。(第5実施形態の変形例)
【図10】ダイナミック型スピーカの正面図。(第6実施形態)
【図11】図10のダイナミック型スピーカのエッジ構造の拡大断面図。(第6実施形態)
【図12】ダイナミック型スピーカの正面図。(第7実施形態)
【図13】開管の共鳴現象の説明図。(第7実施形態)
【図14】ダイナミック型スピーカの正面図。(第7実施形態の変形例)
【図15】ダイナミック型スピーカの正面図。(第8実施形態)
【図16】ダイナミック型スピーカの正面図。(第8実施形態の変形例)
【図17】ダイナミック型スピーカの正面図。(第8実施形態の変形例)
【図18】エッジ構造の拡大断面図。(第9実施形態)
【図19】一般的なダイナミック型スピーカの断面図。
【図20】薄型のダイナミック型スピーカの断面図。
【図21】ローリング問題が改善されたダイナミック型スピーカの断面図。
【図22】図21に示すダイナミック型スピーカの正面図。
【図23】図21に示すダイナミック型スピーカの再生音圧周波数特性を示すグラフ。
【図24】開管の共鳴現象の説明図。
【図25】開管の共鳴現象の説明図。
【図26】開管の共鳴現象の説明図。
【図27】図21に示すダイナミック型スピーカのエッジ構造の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
先ず、図21及び図22で説明したダイナミック型スピーカ100を更に詳しく説明した上で、図1〜3を参照しつつ、本願発明の第1実施形態を説明する。
【0025】
本実施形態において振動板109は、図22の正面視において、略正方形状に形成されている。そして、アップロールエッジ110aは、振動板109の外周縁に全体的に沿うように環状に形成されている。一方で、Vエッジ110bは、振動板109の外周縁に部分的に沿うように形成されている。詳しくは、Vエッジ110bは、振動板109の外周縁のうち直線的な部分にのみ沿うように、直線的に形成されている。従って、エッジ構造110は、1つのアップロールエッジ110aと、4つのVエッジ110bと、から構成されていると言うことができる。そして、アップロールエッジ110aとVエッジ110bが重複している部分では、図27に示すように、アップロールエッジ110aとVエッジ110bによって筒体110cが形成されている(図22も併せて参照)。即ち、筒体110cの周壁は、アップロールエッジ110aとVエッジ110bによって構成されている。この筒体110cは、両端が開口する開管である。
【0026】
また、Vエッジ110bは、2つの平板部1によって構成されている。2つの平板部1の間には第1折り目2(折り目)が形成されている。また、各平板部1は、アップロールエッジ110aに対して第2折り目3(折り目)を介して接続している。
【0027】
図1に示すように、本実施形態においてVエッジ110bには、複数の孔4が形成されている。具体的には、Vエッジ110bの各平板部1には、複数の孔4が、各平板部1をその長手方向に等分する位置に形成されている。端的に言えば、複数の孔4は、各平板部1の長手方向に沿って、各平板部1に等間隔に形成されている。
【0028】
次に、図2及び図3を参照しつつ、上記の如くエッジ構造110の筒体110cの周壁に孔4を設けた技術的意義について説明する。
【0029】
図2に示すように、筒体110cの周壁に孔4を設けると、音響工学上、孔4の形成位置を境にして、筒体110cは分離された2つの筒体110dと見做される。なぜなら、孔4の位置で自由端反射が起こるからである。
【0030】
仮に、図2において、2つの筒体110dの長さをL1、L2とし、L1=L2とし、筒体110dの一次共鳴周波数をfdとすると、筒体110cの一次共鳴周波数f1は、下記式(5)により表される。
【0031】
【数5】

【0032】
そして、上記式(5)と前述した式(1)を比較して判る通り、筒体110cの周壁に孔4を設けると、筒体110cの一次共鳴周波数f1は実質的に高くなっていることが理解されよう。
【0033】
従って、図1に示すように、Vエッジ110bに複数の孔4を形成することで、筒体110cの一次共鳴周波数f1は、実質上、図22のものと比較して遥かに高くなっている。
【0034】
図3には、本実施形態のダイナミック型スピーカ100の再生音圧周波数特性を示す。本実施形態においてダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域は、定格出力音圧レベル(本実施形態におけるダイナミック型スピーカ100の定格の出力音圧レベルを意味する。)である84dBから10dB下がった出力音圧レベルを基準として設定されており、具体的には47Hz〜18kHzとしている。そして、前述したようにVエッジ110bに複数の孔4を形成したことで、筒体110cの一次共鳴周波数f1は、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域から高周波数側に外れている。従って、ダイナミック型スピーカ100の再生音圧周波数特性の平坦性が高いレベルで実現されている。
【0035】
(まとめ)
以上に、本願発明の第1実施形態を説明したが、第1実施形態は、要するに、以下の特長を有している。
【0036】
図21及び図22に示すように、振動板109の外周縁をフレーム101に弾性的に接続することで、振動板109をフレーム101に支持させるための、ダイナミック型スピーカ100のエッジ構造110は、アップロールエッジ110a(第1エッジ)と、Vエッジ110b(第2エッジ)と、を備える。アップロールエッジ110aは、振動板109の外周縁に全体的に沿うように形成される。Vエッジ110bは、振動板109の外周縁に部分的に沿うように形成されると共に、アップロールエッジ110aから見て振動板109から放射される音波の放射方向Dと反対側に配置される。アップロールエッジ110aとVエッジ110bによって形成される図27の筒体110cの共鳴周波数を、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域から外している。以上の構成によれば、筒体110cの共鳴現象が発生しても、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域に影響を及ぼすことがない。従って、ダイナミック型スピーカ100の再生音圧周波数特性の平坦性を改善することができる。
【0037】
また、筒体110cの一次共鳴周波数f1を、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域から高周波数側に外している。以上の構成によれば、筒体110cの高次共鳴周波数は必ずダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域から外れることになるので、筒体110cの高次共鳴周波数がダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域から外れるか否かを設計段階で注意する必要がなくなる。
【0038】
ここで補足すると、筒体110cの一次共鳴周波数f1を、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域から高周波数側に外すには、以下のような計算式が有効である。例えば、図2において、筒体110cの長さLを86mmとし、この筒体110cを二等分する位置に孔4を1個だけ設けるとすると、孔4を設ける前の筒体110cの一次共鳴周波数f1は2kHzであり、孔4を設けた後の筒体110cの一次共鳴周波数f1は4kHzとなる。具体的には、標準状態の乾燥空気において、気温20℃における音速を約344m/sとすると、筒体110cの長さLが86mmで孔4が開いていない場合、L=86(mm)、V=344(m/s)なので、筒体110cの一次共鳴周波数f1は、式(1)より、
f1=V/2L=344(m/s)/(2×86(mm))=2000(Hz)となるから、一次共鳴周波数f1は約2.0kHzとなる。ここで、同条件で図2のように筒体110cの長さLを2等分する位置に孔4を1個設けたとすると、L1=L2=43(mm)、V=344(m/s)で、その一次共鳴周波数f1は、式(1)より、f1=V/2L=344(m/s)/(2×43(mm))=4000(Hz)となるから、一次共鳴周波数f1(=fd)は4.0kHzとなる。ここで、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域を47Hz〜18kHzと設定しているので、一次共鳴周波数f1を18kHz以上へ追いやるために、複数の孔4を設ける際の孔4の間隔ΔL(実質的には、図2のL1やL2に相当し、即ち、1つの筒体110dの長さである。)としては、式(1)より、f1=V/2ΔL、ΔL=V/2f1、上記と同じ条件で、V=344(m/s),f1=18000(Hz)とすると、ΔL=9.5(mm)となり、孔4の間隔ΔLを約9.5mm以下にすればよいことになる。
【0039】
また、図1に示すように、筒体110cのVエッジ110b(周壁の一部)に孔4が形成されている。以上の構成によれば、図2に示すように、音響工学上、孔4の形成位置を境にして、筒体110cは分離された2つの筒体110dと見做されるので、極めて簡素な構成で、筒体110cの一次共鳴周波数f1が高くなる。
【0040】
また、孔4は、アップロールエッジ110aではなく、Vエッジ110bに形成されている。以上の構成によれば、孔4がアップロールエッジ110aに形成されている場合と比較して、孔4から漏出した雑音が、振動板109から鑑賞者側に放射される音波に重畳されることを抑制することができる。
【0041】
また、蝶番のように変形する断面略V字状のVエッジ110bを採用していることで、振動板109のローリングを効果的に抑制することができる。
【0042】
なお、上記第1実施形態において、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域は、47Hz〜18kHzとしたが、これに限定されることはない。即ち、ダイナミック型スピーカ100の再生周波数帯域は、ダイナミック型スピーカ100の再生能力や、ダイナミック型スピーカ100への入力信号を制御するネットワークや再生機器等のフィルタ等に基づいて適宜に設定される。
【0043】
(第2実施形態)
次に、図4を参照しつつ、本願発明の第2実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0044】
本実施形態においてVエッジ110bの第1折り目2及び第2折り目3には、微小孔5が複数、形成されている。従って、Vエッジ110bは、Vエッジ110bの第1折り目2及び第2折り目3を境にして変形し易くなる。
【0045】
なお、Vエッジ110bの第1折り目2及び第2折り目3に、複数の微小孔5を形成することに代えて、Vエッジ110bの第1折り目2及び第2折り目3に、ミシン目を形成してもよい。この場合でも、Vエッジ110bは、Vエッジ110bの第1折り目2及び第2折り目3を境にして変形し易くなる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、図5を参照しつつ、本願発明の第3実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0047】
本実施形態において筒体110cには、孔4が1つだけ形成されている。この孔4は、Vエッジ110bを構成する2つの平板部1のうち一方の平板部1に形成されている。孔4は、平板部1をその長手方向に二等分する位置に形成されている。
【0048】
なお、孔4は、平板部1をその長手方向に二等分する位置に形成することに代えて、図6に示すように、平板部1をその長手方向に不等分する位置に形成してもよい。この構成によれば、各筒体110d(図2を併せて参照)の一次共鳴周波数fdを分散させることができる。
【0049】
(第4実施形態)
次に、図7を参照しつつ、本願発明の第1実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0050】
上記第1実施形態では、図1に示すように、Vエッジ110bの各平板部1には、複数の孔4を、各平板部1をその長手方向に等分する位置に形成するとした。しかし、これに代えて、本実施形態では、図7に示すように、Vエッジ110bの各平板部1には、複数の孔4を、各平板部1をその長手方向に不等分する位置に形成している。この構成によれば、各筒体110d(図2を併せて参照)の一次共鳴周波数fdを分散させることができる。
【0051】
(第5実施形態)
次に、図8を参照しつつ、本願発明の第5実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0052】
上記第1実施形態では、図1に示すように、Vエッジ110bの各平板部1に、複数の孔4を、各平板部1をその長手方向に等分する位置に形成するとした。しかし、これに代えて、本実施形態では、図8に示すように、Vエッジ110bの第1折り目2に、複数の孔4を、第1折り目2をその長手方向に等分する位置に形成している。
【0053】
なお、Vエッジ110bの第1折り目2に、複数の孔4を、第1折り目2をその長手方向に等分する位置に形成することに代えて、図9に示すように、Vエッジ110bの第1折り目2に、複数の孔4を、第1折り目2をその長手方向に不等分する位置に形成してもよい。この構成によれば、各筒体110d(図2を併せて参照)の一次共鳴周波数fdを分散させることができる。
【0054】
(第6実施形態)
次に、図10及び図11を参照しつつ、本願発明の第6実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第5実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第5実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0055】
本実施形態では、図10及び図11に示すように、Vエッジ110bの各平板部1(第1折り目2と第2折り目3以外の部分に相当。)に、第1折り目2(又は第2折り目3)に対して直交するように延びるリブ6が複数形成されている。以上の構成によれば、各平板部1の剛性(各平板部1の撓み難さ)が高くなるので、振動板109が振動するに際し、各平板部1を挟む第1折り目2と第2折り目3は、湾曲することなく略直線状態を維持したまま平行に移動することになる。つまり、Vエッジ110bは一層蝶番のように変形することになるので、振動板109のローリングを一層効果的に抑制することができる。
【0056】
(第7実施形態)
次に、図12及び図13を参照しつつ、本願発明の第7実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0057】
上記第1実施形態では、図1に示すように、Vエッジ110bの各平板部1に、複数の孔4を、各平板部1をその長手方向に等分する位置に形成し、これによって筒体110cの一次共鳴周波数f1を高めている。
【0058】
これに対し、本実施形態では、図12に示すように、Vエッジ110bに、スリット7を、Vエッジ110bをその長手方向に等分する位置に形成している。このように筒体110cの周壁にスリット7を設けると、上記第1実施形態と同様に、図13に示すように、音響工学上、スリット7の形成位置を境として、筒体110cは離間した2つの筒体110dと見做される。なぜなら、スリット7の位置で自由端反射が起こるからである。従って、筒体110cの周壁に孔4を形成することに代えてスリット7を形成しても、上記第1実施形態と同様に、筒体110cの一次共鳴周波数f1を高めることができる。
【0059】
なお、図12に示すように、Vエッジ110bに、スリット7を、Vエッジ110bをその長手方向に等分する位置に形成することに代えて、図14に示すように、Vエッジ110bに、スリット7を、Vエッジ110bをその長手方向に不等分する位置に形成してもよい。この構成によれば、各筒体110d(図13を併せて参照)の一次共鳴周波数fdを分散させることができる。
【0060】
(第8実施形態)
次に、図15を参照しつつ、本願発明の第8実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0061】
上記第1実施形態では、振動板109は、図22の正面視において、略正方形状に形成されているとした。しかし、これに代えて、本実施形態では、振動板109は、図15の正面視において、略長方形状に形成されている。
【0062】
なお、振動板109は、図16に示すように、略六角形状に形成してもよいし、図17に示すように、略八角形状に形成してもよい。図16及び図17の例では、各筒体110cには孔4を夫々1つだけ形成している。
【0063】
また、振動板109は、略円形状や略楕円形状であってもよい。この場合、筒体110cは、若干湾曲することになるが、筒体110cが湾曲したものであったとしても、前述したダイナミック型スピーカ100の再生音圧周波数特性の平坦化技術は問題なく発揮されることが理解されよう。
【0064】
(第9実施形態)
次に、図18を参照しつつ、本願発明の第9実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0065】
上記第1実施形態において、エッジ構造110は、図21に示すように、断面略円弧状のアップロールエッジ110aに断面略V字状のVエッジ110bを重ねた構造であるとした。しかし、断面略円弧状のアップロールエッジ110aに代えて、断面略波打形状のコルゲーテッドエッジ110eを採用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
100 ダイナミック型スピーカ
101 フレーム
102 磁気回路
103 振動部
104 トッププレート
105 永久磁石
106 ヨーク
106a フランジ部
106b 筒部
107 ボイスコイルボビン
108 ボイスコイル
109 振動板
110 エッジ構造
110a アップロールエッジ(第1エッジ)
110b Vエッジ(第2エッジ)
110c 筒体
110d 筒体
110e コルゲーテッドエッジ
111 ダンパー
112 センターキャップ
113 錦糸線
114 外部端子
1 平板部
2 第1折り目(折り目)
3 第2折り目(折り目)
4 孔
5 微小孔
6 リブ
7 スリット
D 放射方向
fd 一次共鳴周波数
f1 一次共鳴周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板の外周縁をフレームに弾性的に接続することで、前記振動板を前記フレームに支持させるための、ダイナミック型スピーカのエッジ構造であって、
前記振動板の前記外周縁に全体的に沿うように形成される第1エッジと、
前記振動板の前記外周縁に部分的に沿うように形成されると共に、前記第1エッジから見て前記振動板から放射される音波の放射方向と反対側に配置される、第2エッジと、
を備え、
前記第1エッジと前記第2エッジによって形成される筒体の共鳴周波数が、前記スピーカの再生周波数帯域から外れている、
エッジ構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエッジ構造であって、
前記筒体の一次共鳴周波数が、前記スピーカの再生周波数帯域から高周波数側に外れている、
エッジ構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエッジ構造であって、
前記筒体の周壁に孔又はスリットが形成されている、
エッジ構造。
【請求項4】
請求項3に記載のエッジ構造であって、
前記孔又はスリットは、前記第2エッジに形成されている、
エッジ構造。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のエッジ構造であって、
前記孔又はスリットは、前記筒体をその長手方向に等分する位置に形成されている、
エッジ構造。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のエッジ構造であって、
前記孔又はスリットは、前記筒体をその長手方向に不等分する位置に形成されている、
エッジ構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のエッジ構造であって、
前記第2エッジは、断面略V字状である、
エッジ構造。
【請求項8】
請求項7に記載のエッジ構造であって、
前記第2エッジの折れ目に、微小孔が複数、形成されている、エッジ構造。
【請求項9】
請求項7に記載のエッジ構造であって、
前記第2エッジの折れ目に、ミシン目が形成されている、
エッジ構造。
【請求項10】
請求項7〜9の何れかに記載のエッジ構造であって、
前記第2エッジの折れ目以外の部分には、前記折れ目に対して直交するように延びるリブが形成されている、
エッジ構造。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載のエッジ構造を備えたダイナミック型スピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−204917(P2012−204917A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65521(P2011−65521)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】