説明

チャック

【課題】第一に、中心軸方向の動きをこれと直交する把持爪の動きに変換する部分に引張り力を作用させずに爪受け台に相当する部材を開閉させることが可能なチャックを提供する。第二に、チャック本来の加工対象物を把持する機能上は不必要なバランスウェイトを備えなくても、高速回転時の遠心力による把持力の低下を抑制できるチャックを提供する。
【解決手段】チャックの中心軸と直交する放射線方向に進退自在で加工対象物を把持する把持爪が取り付けられる第一のスライダと、同じく放射線方向に進退自在で第一のスライダとは逆向きに移動する第二のスライダと、中心軸方向に進退自在で第一若しくは第二のスライダの一方を押し動かして一方のスライダを放射線方向の外方若しくは内方に移動させる駆動手段と、一方のスライダの動きを向きを反対に変換して他方のスライダに伝達する方向変換伝達手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削等の機械加工の際、加工対象物を複数の把持爪にて把持するチャックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
そのようなチャックとして、ウェッジ型チャックが周知となっている。その一例として下記特許文献1に記載のウェッジ型チャックを挙げることができる。
【0003】
特許文献1に記載のウェッジ型チャックの場合、勾配スリーブのチャック回転中心軸方向の動きをこれと直交する爪受け台の動きに変えて爪受け台の開閉を行ない、爪受け台に取り付けられた把持爪で加工対象物を把持する。その為の構造として、勾配スリーブと爪受け台との係合部は、一方が断面T字形、他方が断面略C字形に形成され、C字形断面部分にT字形断面部分の頭部(幅広の部分)を摺動自在に抱き込ませるようにして嵌め合わせた構造となっている。
【0004】
また、従来から、チャックを高速回転させた場合に、回転による遠心力が把持爪及び爪受け台に作用するため、加工対象物を把持する把持力が低下する問題が指摘されている。
【0005】
そのような問題の解決法をも特許文献1に記載のチャックは示している。特許文献1に記載のチャックの場合、チャックを高速回転させた場合に、回転により把持爪及び爪受け台に作用する遠心力を緩和するためのバランスウェイトを備えている。即ち、チャックの回転中心軸を挟んで爪受け台と反対側に錘受け台を組み込み、爪受け台と錘受け台とを連結棒で連結しておき、錘受け台にバランスウェイトを取付けることができるようになっている。
【0006】
チャックが高速回転すると、回転による遠心力でバランスウェイト及び錘受け台には把持爪及び爪受け台に作用する遠心力とは反対方向の遠心力が作用するので、この遠心力により把持爪及び爪受け台に作用する遠心力が相殺され、把持爪が加工対象物を把持する把持力の低下が抑制されるようになっている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−51908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した一般的なウェッジ型チャックでは、構造上、勾配スリーブと爪受け台との係合部にT字形断面部分やC字形断面部分のような薄肉部を形成せざるを得ず、この薄肉部に大きな引張り荷重が加わった場合に、薄肉部に破断が生じ易いという問題があった。
【0009】
また、把持爪及び爪受け台に作用する遠心力を打ち消すために、チャック本来の加工対象物を把持するという機能上は不必要なバランスウェイトのような部材を備えなければならず、チャックの構造が複雑化すると共に、チャックの重量の増大を招くという問題を有していた。
【0010】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑み、本願発明においては、勾配スリーブの動きをこれと直交する把持爪の動きに変換する部分に薄肉部を形成する必要が無く、勾配スリーブに相当する部材と爪受け台に相当する部材相互間に引張り力を作用させずに爪受け台に相当する部材を開閉(進退)させることが可能な新規な構造のチャックを提供することを第一の目的としている。
【0011】
更に、上記の目的に加え、チャックを中心軸の周りに回転させた場合に、チャック本来の加工対象物を把持するという機能上不必要な部材を備えなくても、高速回転時の遠心力の影響により加工対象物を把持する把持力の低下を抑制できるチャックを提供することを第二の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本願発明によるチャックにおいては、チャックの中心軸と直交する放射線方向に進退自在で加工対象物を把持する把持爪が取り付けられる第一のスライダと、同じく放射線方向に進退自在で第一のスライダとは逆向きに移動する第二のスライダと、中心軸方向に進退自在で前記第一若しくは第二のスライダの一方を押し動かして一方のスライダを放射線方向の外方若しくは内方に移動させる駆動手段と、一方のスライダの動きを向きを反対に変換して他方のスライダに伝達する方向変換伝達手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有するので、本願発明によるチャックによれば、加工対象物を把持したり解放したりする際、第一のスライダ若しくは第二のスライダの一方を駆動手段により押し動かす構造となっており、駆動手段の中心軸方向の動きを直交する把持爪の動きに変える部分に薄肉部を形成する必要が無く、勾配スリーブに相当する駆動手段と爪受け台に相当する第一のスライダとの相互間又は第二のスライダとの相互間に引張り力を作用させずに第一のスライダを進退させることができる。このように、構造上破断等の障害が生じ易い薄肉部が設けられていないので、破断等の障害が生じにくい堅牢な構造のチャックを提供することが可能となる。
【0014】
また、上述の効果に加え、チャックを中心軸の周りに高速回転させた場合、第二のスライダに作用する遠心力が方向変換伝達手段により向きを反対に変えられて第一のスライダに伝達されることになるので、爪受け台として機能する第一のスライダ及び把持爪に作用する遠心力を相殺することができる。従って、従来のように、チャック本来の加工対象物を把持するという機能上不必要な部材を備えなくても高速回転時に作用する遠心力の影響により加工対象物を把持する把持力が低下したり増大したりすることを抑制できる。
【0015】
更に、チャック上にそれぞれ複数配置される第一のスライダ、第二のスライダ、駆動手段及び方向変換伝達手段を複数の系統に分け、各系統がそれぞれ独立して動作するように構成すれば、互いに直交する方向に設けられた4つ(2対2系統)の把持爪で加工対象物を把持する場合に、加工対象物の中心をチャックの中心軸上に位置決めし把持することが容易となる。
【0016】
更に、第二のスライダの外方端部に、第二のスライダとの合計重量が第一のスライダ及び把持爪の合計重量と等しくなるカウンタウェイトを着脱自在に取り付けることにより、把持爪を重量の異なるものに交換する度にチャックを分解しなくても容易に交換された把持爪に作用する遠心力を精確に相殺できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明によるチャックの実施例について、添付の図1〜10を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0018】
図1〜3は本発明によるチャックの一実施例を示しており、それぞれ図1はチャックの外観を示した斜視図、図2はチャックのフロントカバーを取り外し、一部を破断して示した部分破断斜視図、図3は図1のA−A断面図である。
【0019】
これらの図に示したチャックは、回転中心軸0の周りに配置される複数の図示しない把持爪によって加工対象物(図示せず)を把持し、チャックの回転中心軸0の周りに回転する。把持爪は、回転中心軸0と直交する放射線方向に進退自在な第一のスライダ1に取り付けられる。把持爪の第一のスライダ1への取り付けは、例えば第一のスライダ1の上面にボルトが螺合するネジ穴1aを設けておき、このネジ穴1aに把持爪の根元部を貫通したボルトを螺合させて締付けることにより行なわれる。
【0020】
第一のスライダ1は、回転中心軸0の周りに等角度間隔で放射状に3つ設けられている(図では見易さを重視して1つだけしか示していない。)。それぞれの第一のスライダ1は、チャックのハウジング3及びフロントカバー5に設けられたガイド溝3a、5a内に配置される。ガイド溝3a、5aは、それぞれ回転中心軸0の周りに等角度間隔で放射状に設けられている。従って、それぞれの第一のスライダ1は、これらガイド溝3a及び5aに案内されて回転中心軸0と直交する放射線方向に進退自在に摺動する。フロントカバー5は、ハウジング3の上面にボルト等の固定手段により固定されている。
【0021】
それぞれのガイド溝3a内には、第一のスライダ1の下に第二のスライダ2がそれぞれ配置され、ガイド溝3aに案内されて回転中心軸0と直交する放射線方向に進退自在に摺動するようになっている。図では、第二のスライダ2についても図の見易さを重視して1つだけしか示していない。
【0022】
第一のスライダ1の回転中心軸0側の内方端部には、下向きの斜面1bが形成され、第二のスライダ2の回転中心軸0側の内方端部には、上向きの斜面2bが形成されている。斜面1b及び2bはスライダ1と2が互いに接触する面に対して対称的に同角度(例えば、45度)で傾いている。
【0023】
そして、斜面1b及び2bの間には、スリーブヘッド7の一部が挟み込まれるように配置されている。スリーブヘッド7は、チャックの中心部に回転中心軸0に沿って進退自在に設けられる円筒状のスリーブ8の先端に固定され、図示しない流体圧シリンダ等の動力源によりスリーブ8と共に回転中心軸0の延在する方向に進退自在に駆動される。スリーブヘッド7の各スライダ1及び2の斜面1b及び2bと接触する面7a及び7bは、それぞれの斜面1b及び2bの傾斜に対応して傾斜した円錐外側面で構成されている。
【0024】
スリーブヘッド7が図面上方に押し上げられると、第一のスライダ1を押し動かし放射線方向外方へ移動させる。逆に、スリーブヘッド7が図面下方に引き下げられると、第2のスライダ2を押し動かし放射線方向外方へ移動させる。即ち、スリーブヘッド7が第一若しくは第二のスライダ1若しくは2を押し動かして放射線方向外方へ移動させる駆動手段として機能するのである。
【0025】
第一のスライダ1の放射線方向中間部には、下向きの斜面1cが形成され、第二のスライダ2の放射線方向中間部には、上向きの斜面2cが形成されている。斜面1c及び2cもスライダ1と2が互いに接触する面に対して対称的に同角度(例えば45度)で傾いている。この斜面1c及び2cの間には、円柱状のコロ10が挟み込まれるように配置されている。コロ10の外側にはブロック11がボルト等の固定手段によりハウジング3に固定されており、コロ10の放射線方向外方への動きが規制されている。
【0026】
このため、スリーブヘッド7が引き下げられ第二のスライダ2が放射線方向外方へ移動すると、コロ10は斜面2cから圧力を受け、ブロック11の側面に沿って押し上げられる。押し上げられたコロ10は、第一のスライダ1の斜面1cを押圧し、第一のスライダ1を放射線方向内方へと押し動かす。
【0027】
逆に、スリーブヘッド7が押し上げられ第一のスライダ1が放射線方向外方へ移動すると、コロ10は斜面1cから圧力を受け、ブロック11の側面に沿って押し下げられる。押し下げられたコロ10は、第二のスライダ2の斜面2cを押圧し、第二のスライダ2を放射線方向内方へと押し動かす。即ち、このコロ10が一方のスライダ1若しくは2の動きを向きを反対に変換して他方のスライダ2若しくは1に伝達する方向変換伝達手段として機能する。
【0028】
そして、この方向変換伝達手段として機能するコロ10の働きにより、第一のスライダ1と第二のスライダ2は、常に逆向きに移動するようになっている。
ところで、斜面1c及び2cをそれぞれ第一のスライダ1及び第二のスライダ2の放射線方向外方端部に形成することも可能である。しかし、この実施例ではそのようにせず、放射線方向中間部に形成したのは、以下の理由による。
即ち、斜面1c及び2cをそれぞれ第一のスライダ1及び第二のスライダ2の放射線方向外方端部に形成すると、更にその外側にコロ10及びブロック11を配置しなければならず、チャックが徒に大径化してしまう。そのように無意にチャックが大型化するのを抑えるためである。
【0029】
次に、加工対象物を把持するとき及び解放するときのチャックの動作を説明する。加工対象物を把持爪が外側から把持する場合、先ずスリーブヘッド7が引き下げられ、これにより第二のスライダ2が放射線方向外方へ押し動かされる。すると、第二のスライダ2によりコロ10が押し上げられ、第一のスライダ1を放射線方向内方に移動させる。この結果、第一のスライダ1に取り付けられた把持爪が回転中心軸0との距離を狭め、3つの把持爪の内側に加工対象物が把持される。
【0030】
このようにして把持した加工対象物を解放する場合は、スリーブヘッド7が押し上げられ、第一のスライダ1が放射線方向外方へ押し動かされる。この第一のスライダ1の動きによりコロ10が押し下げられ、第二のスライダ2を放射線方向内方に移動させる。この結果、第一のスライダ1に取り付けられた把持爪が回転中心軸0との距離を拡げ、把持爪に把持されていた加工対象物が解放される。
【0031】
なお、加工対象物が比較的大径の筒状物で把持爪が加工対象物を外側から把持するのではなく内側から把持する場合は、上述した把持と解放の動作が逆となる。
【0032】
上述したように、実施例1のチャックによれば、加工対象物を把持したり解放したりする際、第一のスライダ1若しくは第二のスライダ2の一方をスリーブヘッド7により押し動かす構造となっているので、従来のウェッジ型チャックのように回転中心軸方向の動きを直交する把持爪の動きに変える部分に大きな引張り荷重に対して脆弱な薄肉部を形成する必要が無く、破断等の障害が生じにくい堅牢な構造のチャックを提供することが可能である。
【0033】
また、チャックが高速回転して第一のスライダ1に遠心力が作用する場合、同時に必ず第二のスライダ2にも遠心力が作用し、これがコロ10によって向きを変えられて第一のスライダ1に伝わる。この結果、第一のスライダ1に作用する遠心力が第二のスライダ2に作用する遠心力により相殺され、遠心力の影響により加工対象物を把持する把持力が増減するのを抑制することができる。
【0034】
しかも、従来のように、チャック本来の加工対象物を把持するという機能上は不必要で、遠心力の影響を緩和するためだけに設けられるバランスウェイトのような部材を備える必要がなく、チャックの構造が複雑化したり、重量が増加したりすることがない。
【0035】
なお、把持爪と第一のスライダ1の合計重量と第二のスライダ2の重量とが等しくなるように予め調整されることが好ましい。重量を等しく調整することで、静止状態で加工対象物をチャックに把持させたときの把持力をそのまま高速回転時にも維持できるからである。
【実施例2】
【0036】
次に、上述した実施例1とは異なる実施例について、図4及び5を参照しつつ説明する。図4は、図2と同様にチャックのフロントカバーを取り外し、一部を破断して示した部分破断斜視図、図5は図3と同方向から見た縦断面図である。これらの図中、実施例1と共通する部材または部位には共通の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0037】
図4及び5に示した実施例2においては、スリーブヘッド7の形状とカウンタウェイトWを備えた点が実施例1と異なるだけで、他は全く同様である。
【0038】
実施例1のスリーブヘッド7は、算盤の珠のような形状となっており、第一のスライダ1及び第二のスライダ2の斜面1b及び2bに接する面7a及び7bが円錐外側面となっていた。このため、斜面1b若しくは2bにスリーブヘッド7が当接する場合、線接触となってしまい、接触部は磨耗し易いうえ接触部に大きな荷重が加わると変形の虞もあった。
【0039】
これに対し、実施例2のスリーブヘッド7の場合は、第一のスライダ1及び第二のスライダ2の斜面1b及び2bに接する面7a及び7bが平面となっている。このため、斜面1b若しくは2bにスリーブヘッド7が当接する場合、面接触となるので実施例1の場合に比べ接触部の磨耗及び変形が生じ難くなっている。
【0040】
また、実施例1の場合、把持爪に作用する遠心力の影響を精確に打ち消すためには、把持爪が重量の異なる把持爪と交換される度にチャックを分解して第二のスライダ2を把持爪の重量に対応する重量の第二のスライダ2に入れ替える必要があった。これに対し、この実施例2においては、第二のスライダ2の外方端部にボルト等の取り付け手段により着脱自在に取り付けられるカウンタウェイトWを備えている。カウンタウェイトWは、ハウジング3に形成されたガイド溝3aの外方開放端を通すことができるように、その断面がブロック11により仕切られたガイド溝3aの断面形状よりも小さく形成されている。従って、チャックを分解せずにガイド溝3aの外方開放端を通してカウンタウェイトWを第二のスライダ2の外方端部に着脱交換できるようになっている。
【0041】
ガイド溝3aの外方開放端がハウジング3に第二のスライダ2の外方端部と対向して設けられ、カウンタウェイトWを通すことが可能な透孔として機能するようになっている。
カウンタウェイトWの重量は、第二のスライダ2の重量と合わせた合計重量が第一のスライダ1及びこれに取り付けられる把持爪(不図示)の合計重量と等しくなるように設定される。
【0042】
把持爪は、加工対象物の形状や機械加工の方法、加工用刃物の種類等に応じて最適の把持爪を選択できるように形状の異なる複数種類が用意されるのが通常である。従って、カウンタウェイトWも把持爪の重量別に複数のカウンタウェイトを用意しておく必要がある。
【0043】
用意されるカウンタウェイトWの重量は各種の把持爪の重量と対応させて等しくすることもできるし、各種の把持爪の重量から最軽量の把持爪の重量分を差引いた重量とすることもできる。等しくする場合は、第一のスライダ1と第二のスライダ2の重量を対応させて等しくしておけばよい。最軽量の把持爪の重量分を差引く場合は、用意されている全種類の把持爪のうち、最も重量が軽いものの重量分を予め第二のスライダ2の重量に加えておき、カウンタウェイトWの重量を各種の把持爪の重量から最軽量の把持爪の重量分を差引いた重量と等しくすればよい。
【0044】
このように最も軽い把持爪の重量分を差引くと、その分カウンタウェイトWの重量が小さくなり、カウンタウェイトWに作用する遠心力も小さくなるのでカウンタウェイトWを第二のスライダ2に取り付けるボルト等の取り付け手段に掛かる遠心力の負担を軽減できて好ましい。
【0045】
各種の把持爪の重量に応じたカウンタウェイトを予め用意しておき、加工対象物の形状等を考慮して選択された把持爪を第一のスライダ1に取り付ける際に、これに対応する重量のカウンタウェイトWを第二のスライダ2の外方端部に取り付けることにより、第一のスライダ1及び把持爪に作用する遠心力を精確に相殺することが可能となる。
【0046】
しかも、カウンタウェイトWの交換作業は、ガイド溝3aの外方開放端を通してカウンタウェイトWを出し入れし、第二のスライダ2に対して着脱することができるので、チャックを分解せずに非常に容易に行なうことができる。
【0047】
なお、説明を容易にするため、第二のスライダ2とカウンタウェイトWの合計重量と、第一のスライダ1と把持爪の合計重量とが等しくなるように設定すると説明したが、厳密には各合計重量には、それぞれを結合するのに使用されるボルト等の取り付け手段の重量も含まれる。
【実施例3】
【0048】
次に、上述した実施例1及び2とは異なる実施例について、図6を参照しつつ説明する。図6はチャックのフロントカバーを取り外し、一部を破断して示した部分破断斜視図である。図中、実施例1及び2と共通する部材または部位には共通の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0049】
実施例1及び2として説明したチャックにおいては、第一のスライダ1が回転中心軸0の周りに等角度間隔で放射状に3つ設けられ、その動作は単一のスリーブヘッド7の動作により統一的に制御される構造となっていた。
【0050】
これに対し、この実施例3のチャックの場合、第一のスライダ1が回転中心軸0の周りに等角度間隔で放射状に回転中心軸を挟んで対となるように2つずつ合計4つ設けられ、これらに対応して第二のスライダ2及びコロ10もそれぞれ4つずつ設けられている。
【0051】
スリーブヘッド7は4分割され、スリーブヘッドが固定されるスリーブは直径の異なる2本の円筒状のスリーブを内外に重ねた2重構造となっており、内スリーブ81と外スリーブ82はそれぞれ別々に回転中心軸0に沿って進退可能となっている。
【0052】
そして、内スリーブ81及び外スリーブ82の先端には、それぞれ4分割されたスリーブヘッドのうち回転中心軸0を挟んで対峙する一対のスリーブヘッドが固定されている。例えば、図示したように内スリーブ81の先端には一対のスリーブヘッド71が固定され、外スリーブ82の先端にはもう一対のスリーブヘッド72が固定されている。
【0053】
この結果、スリーブ毎に独立した系統として回転中心軸0を挟んで対峙する第一のスライダを他の系統とは独立して動作させることが可能となっている。即ち、この実施例3の場合、第一のスライダ1、第二のスライダ2、駆動手段(スリーブヘッド71、72)及び方向変換伝達手段(コロ10)がそれぞれチャックの回転中心軸0を挟んで対称に対となるように2系統分設けられ、各系統がそれぞれ独立して動作するように構成されているのである。
【0054】
このような構造となっているので、例えば、内スリーブ81の系統を第一系統とし、外スリーブ82の系統を第二系統とすれば、内スリーブ81で第一系統の第一のスライダ1を動かして加工対象物を第一系統の把持爪間の中央に把持し、外スリーブ82で第二系統の第一のスライダ1を動かして加工対象物を第二系統の把持爪間の中央に把持することができる。このようにすると、4つの把持爪を一系統として動作させる場合に1つの把持爪が加工対象物に接触せず、実質3つの把持爪だけで加工対象物を把持してしまう不具合を防止でき、加工対象物の中心をチャックの回転中心軸上に容易に位置決めして、4つの把持爪で確実に把持することが可能となる。
【0055】
また、系統別に異なる把持力を設定しておき、系統ごとに異なる把持力で加工対象物を把持することが可能であるし、把持爪に把持される加工対象物の被把持部が回転対称形でない場合も4つの把持爪で加工対象物を確実に把持することができる。
【実施例4】
【0056】
次に、上述した実施例1〜3とは異なる実施例について、図7及び8を参照しつつ説明する。図7はチャックのフロントカバーを取り外して示した斜視図であり、図8は図7のチャックを矢印B方向から見た平面図である。図中、実施例1〜3と共通する部材または部位には共通の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0057】
実施例3として説明したチャックにおいては、4つの第一のスライダ1を2つの系統に分け、系統別にそれぞれ独立して動作させ得る構造となっていた。
【0058】
これに対し、この実施例4の場合は、系統を更に1つ追加し、3系統としたものである。従って、第一のスライダ1が回転中心軸0の周りに等角度間隔で放射状に回転中心軸を挟んで対となるように2つずつ合計6つ設けられ、これらに対応して第二のスライダ2及びコロ10もそれぞれ6つずつ設けられている。
【0059】
スリーブヘッド7は6分割され、スリーブヘッドが固定されるスリーブは直径の異なる3本の円筒状のスリーブを順に重ねた3重構造となっており、内スリーブ81、外スリーブ82、中スリーブ83はそれぞれ別々に回転中心軸0に沿って進退可能となっている。
【0060】
そして、内スリーブ81、外スリーブ82及び中スリーブ83の先端には、それぞれ6分割されたスリーブヘッドのうち回転中心軸0を挟んで対峙する一対のスリーブヘッドが固定されている。例えば、図示したように内スリーブ81の先端には一対のスリーブヘッド71が固定され、外スリーブ82の先端には一対のスリーブヘッド72が固定され、中スリーブ83の先端には一対のスリーブヘッド73が固定されている。
【0061】
そして、実施例4の場合も、実施例3の場合と同様に、スリーブ毎に独立した系統として回転中心軸0を挟んで対峙する第一のスライダを他の系統とは独立して動作させることが可能となっている。
【0062】
このような構造となっているので、例えば、各系統別に動作する把持爪により加工対象物を把持することができ、系統数を増やした分把持爪の数も増えるので、加工対象物を把持する把持力をより多くの把持爪に分散させることが可能である。
なお、この実施例4では、6つの把持爪を3系統に分けているが、2系統に分けて各系統別に3つの把持爪を別々に開閉させることも可能である。
【実施例5】
【0063】
次に、上述した実施例1〜4とは異なる実施例について、図9を 参照しつつ説明する。図9はチャックの縦断面図である。図中、実施例1〜4と共通する部材または部位には共通の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0064】
この実施例においては、実施例1〜4で第一のスライダ若しくは第二のスライダの動きを向きを反対に変換して他方のスライダに伝達する方向変換伝達手段として円柱状のコロ10を用いていたのに対して、支軸12を支点にして揺れ動くテコ13を用いている点が主な相違である。
【0065】
テコ13は、離間して配置された第一のスライダ1と第二のスライダ2の相互間に設けられた支軸12に回転自在に支えられ、支軸12を中心として揺動する。テコ13の両端には第一のスライダ1及び第二のスライダ2の端部が当接している。
【0066】
スリーブ8がスリーブヘッド7を図面下方に引き下げると、この動きにより第二のスライダ2が放射線方向外方へ押し動かされ、テコ13を揺動させる。テコ13の揺動により第二のスライダ2の動きが向きを反対に変換されて第一のスライダ1に伝達され、第一のスライダ1が放射線方向内包に移動する。第一のスライダ1には、図示しない把持爪が取り付けられるので、把持爪が相互の間隔を狭め加工対象物を外掴みする。
【実施例6】
【0067】
次に、上述した実施例1〜5とは異なる実施例について、図10を参照しながら説明する。図10はチャックの縦断面図である。図中、実施例1〜5と共通する部材または部位には共通の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0068】
この実施例6は、図4及び5に示した実施例2に手を加えたものであり、第一のスライダ1及び第二のスライダ2の斜面1c及び2cが形成されている位置が各スライダの外方端部となっている。そして、この斜面1cおよび2cの間には、実施例2で説明した円柱状のコロ10ではなく外側スリーブヘッド15が挟み込まれるように配置されている。
【0069】
外側スリーブヘッド15は、チャックの外周部に回転中心軸0方向に進退自在に設けられる円筒状の外側スリーブ(不図示)から回転中心軸0方向に伸びるフォーク部16の先端に固定され、図示しない流体圧シリンダ等の動力源により外側スリーブと共に回転中心軸0方向に進退自在に駆動される
【0070】
外側スリーブ15の各スライダ1及び2の斜面1c及び2cと接触する面15a及び15bは、それぞれの斜面1c及び2cの傾斜に対応して傾斜した平面で構成されている。
【0071】
外側スリーブヘッド15が図面下方に引き下げられると、第2のスライダ2を押し動かし放射線方向内方へ移動させる。逆に、外側スリーブヘッド15が図面上方に押し上げられると、第一のスライダ1を押し動かし放射線方向内方へ移動させる。即ち、この実施例6では、外側スリーブヘッド15が第一若しくは第二のスライダ1若しくは2を押し動かして放射線方向内方へ移動させる駆動手段として機能する。
【0072】
そして、チャックの中心部に配置されたスリーブヘッド7をフリーとし、自由に動けるようにしておけば、外側スリーブヘッド15が引き下げられ第二のスライダ2が放射線方向内方へ移動すると、スリーブヘッド7は斜面2bから圧力を受け、回転中心軸0に沿って押し上げられる。押し上げられたスリーブヘッド7は、第一のスライダ1の斜面1bを押圧し、第一のスライダ1を放射線方向外方へと押し動かす。
【0073】
逆に、外側スリーブヘッド15が押し上げられ第一のスライダ1が放射線方向内方へ移動すると、スリーブヘッド7は斜面1bから圧力を受け、回転中心軸0に沿って押し下げられる。押し下げられたスリーブヘッド7は、第二のスライダ2の斜面2bを押圧し、第二のスライダ2を放射線方向外方へと押し動かす。この場合、スリーブヘッド7が一方のスライダ1若しくは2の動きを向きを反対に変換して他方のスライダ2若しくは1に伝達する方向変換伝達手段として機能する。
【0074】
なお、上述の説明では、スリーブヘッド7をフリーとして説明したが、外側スリーブヘッド15をフリーとして、チャックの中心部に位置するスリーブヘッド7によって第一若しくは第二のスライダ1若しくは2を動かすことも可能である。この場合は、スリーブヘッド7が一方のスライダ1若しくは2の動きを向きを反対に変換して他方のスライダ2若しくは1に伝達する方向変換伝達手段として機能する。
【0075】
更に、スリーブヘッド7を外側スリーブヘッド15と反対方向に駆動するようにしても、同様に動作する。この場合、どちらのスリーブヘッドが方向変換伝達手段として機能するのか明確ではなくなるが、推力の弱いスリーブヘッドが方向変換伝達手段として機能すると考えることができる。
【0076】
これまで説明した各実施例1〜6は、チャックが回転中心軸0を中心に回転するものとして説明したが、いずれの実施例の場合も回転する機能を有しない据え置き型のチャックとすることも可能であり、作業台の上に据え付けたり、ロボットアームの先端に取り付けたりして使用することが可能である。
【0077】
ところで、各実施例で説明した技術的事項は、技術的に相反しない限り組み替えることが可能であり、例えば、実施例2で説明した第二のスライダ2の外方端部にカウンタウェイトWを取り付ける点については、実施例6を除く全ての実施例に適用可能である。実施例6に適用できないのは、第二のスライダ2の外方端部には外側スリーブヘッド15が接しているため、カウンタウェイトWを取り付けるスペースを確保することが困難だからである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によるチャックは、工業的に生産が可能であると共に、工業的に使用することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施例1を示した斜視図である。(実施例1)
【図2】本発明の実施例1を示した部分破断斜視図である。(実施例1)
【図3】図1のA−A断面を示した断面図である。(実施例1)
【図4】本発明の実施例2を示した部分破断斜視図である。(実施例2)
【図5】本発明の実施例2を示した縦断面図である。(実施例2)
【図6】本発明の実施例3を示した部分破断斜視図である。(実施例3)
【図7】本発明の実施例4を示した斜視図である。(実施例4)
【図8】実施例4を図8のB方向から見た平面図である(実施例4)
【図9】本発明の実施例5を示した縦断面図である。(実施例5)
【図10】本発明の実施例6を示した縦断面図である。(実施例6)
【符号の説明】
【0080】
0 回転中心軸
1 第一のスライダ
1a ネジ穴
1b 斜面
1c 斜面
1e 係合穴
2 第二のスライダ
2a 斜面
2b 斜面
3 ハウジング
3a ガイド溝
5 フロントカバー
5a ガイド溝
7 スリーブヘッド
8 スリーブ
10 コロ
11 ブロック
12 支軸
13 テコ
14 棒状部材
15 ダイアフラム
15a 爪受け台
15b レバー部
71 スリーブヘッド
72 スリーブヘッド
73 スリーブヘッド
81 スリーブ
82 スリーブ
83 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りに配置される複数の把持爪にて加工対象物を把持するチャックであって、
前記中心軸と直交する放射線方向に進退自在で前記把持爪が取り付けられる第一のスライダと、
前記放射線方向に進退自在で前記第一のスライダとは逆向きに移動する第二のスライダと、
前記中心軸方向に進退自在で前記第一若しくは第二のスライダの一方を押し動かして前記一方のスライダを前記放射線方向の外方若しくは内方へ移動させる駆動手段と、
前記一方のスライダの動きを向きを反対に変換して他方のスライダに伝達する方向変換伝達手段とを備えることを特徴とするチャック。
【請求項2】
請求項1記載のチャックであって、
前記第一のスライダ、前記第二のスライダ、前記駆動手段及び前記方向変換伝達手段がそれぞれ複数系統分設けられ、各系統はそれぞれ独立して動作することを特徴とするチャック。
【請求項3】
請求項1又は2記載のチャックであって、
少なくとも前記第二のスライダを収容するハウジングと、
前記第二のスライダの外方端部に着脱自在に取り付けられ、前記第二のスライダとの合計重量が前記第一のスライダ及び前記把持爪の合計重量と等しくなるカウンタウェイトとを備え、
前記ハウジングには前記第二のスライダの外方端部と対向して前記カウンタウェイトを通すことが可能な透孔が設けられていることを特徴とするチャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−202309(P2009−202309A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48812(P2008−48812)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(302007046)仲精機株式会社 (4)
【Fターム(参考)】