説明

ディスクロール及びその基材

【課題】マイカを必須成分としないディスクロール及びその基材を提供する。
【解決手段】セラミック繊維25〜50重量%と、木節粘土5〜30重量%と、ベントナイト2〜20重量%と、アルミナ、ワラストナイト、コージェライト、焼成カオリンから選択される充填剤25〜45重量%等を含む水性スラリーを調整し、このスラリーを成形、乾燥し、ディスクロール用基材を得る。セラミック繊維は、アルミナ40〜99重量%、シリカ20〜60重量%を含む繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラスの製造に適したディスクロール及びその基材に関する。
【背景技術】
【0002】
板ガラスは、ガラス溶融物を装置に連続的に供給し、その装置から帯状に流下させて、流下中に冷却して硬化させることにより製造する。ディスクロールは一対の引張ロールとして機能し、帯状ガラス溶融物を挟持して強制的に下方に送り出すために用いられる。
【0003】
ディスクロールは、一般に、ミルボード(板状成形体、基材)をリング状に打ち抜いたディスク材を複数枚、回転軸となるシャフトに嵌挿してロール状の積層物とし、両端に配したフランジを介して全体を加圧して固定したものである。ディスク材の外周面がガラス溶融物の搬送面として機能する。
【0004】
ディスクロールは帯状ガラス溶融物を搬送するものであるから、耐熱性とともに、ガラス表面を傷めない柔軟性、硬度が求められ、耐熱性無機繊維、マイカ、粘土を含有させたディスクロール等が知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−510956
【特許文献2】特開2009−132619
【特許文献3】特開2004−299980
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マイカはモース硬度が高く粒が大きくガラスに傷が付き易い恐れがあった。また、原料の多様性や代替可能性の観点から、マイカを必須成分としないでディスクロールを製造することが求められている。さらに、水性スラリーから濾水して製造するため、効率よく製造するには、濾水時間が短いことが求められていた。
本発明の目的は、マイカを必須成分としないディスクロール及びその基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下のディスクロール用基材等が提供される。
1.セラミック繊維25〜50重量%と、
木節粘土5〜30重量%と、
ベントナイト2〜20重量%と、
アルミナ、ワラストナイト、コージェライト、焼成カオリンから選択される充填剤25〜45重量%を含むディスクロール用基材。
2.前記セラミック繊維が、アルミナ40重量%以上99重量%以下と、シリカ60重量%以下20重量%以上を含む1記載のディスクロール用基材。
3.前記セラミック繊維が、アルミナ70重量%以上80重量%以下と、シリカ30重量%以下20重量%以上を含む1又は2記載のディスクロール用基材。
4.さらにパルプと澱粉を含む1〜3のいずれか記載のディスクロール用基材。
5.1〜4のいずれか記載の基材を含むディスクロール。
6.ガラス溶融物を5記載のディスクロールを用いて搬送し、
前記ガラス溶融物を冷却するガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マイカを必須成分としないディスクロール及びその基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ディスクロールを用いたガラスの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のディスクロール用基材は、セラミック繊維(アルミナシリケート繊維等)と、木節粘土、ベントナイト、及びアルミナ、ワラストナイト、コージェライト、焼成カオリンから選択される充填剤を含む。マイカは含まない。
【0011】
基材は、セラミック繊維を、25〜50重量%、好ましくは25〜45重量%、より好ましくは30〜40重量%含む。セラミック繊維が25重量%未満では耐熱性、耐熱衝撃性が低下し、セラミック繊維が50重量%超ではディスク材嵩密度が低くなり嵩高くなることで、作業性が悪くなる恐れがある。
【0012】
本発明に用いるセラミック繊維は、通常、アルミナを40重量%以上99重量%以下、好ましくは40重量%以上80重量%以下、より好ましくは70重量%以上80重量%以下、さらに好ましくは70重量%以上75重量%以下含む。また、セラミック繊維は、通常、シリカを1重量%以上60重量%以下、好ましくは20重量%以上60重量%以下、より好ましくは20重量%以上30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以上30重量%以下含む。アルミナが増えると耐熱性が増す。繊維は1種又は2種以上混合して用いてもよい。
【0013】
基材は、木節粘土を、5〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは5〜20重量含む。木節粘土をこの範囲で含むと表面潤滑性(平滑性)が良好となる。
【0014】
ベントナイトは2〜20重量%、好ましくは2〜15重量%、より好ましくは5〜15重量%含む。ベントナイトを含まないと定着・凝集が不十分で濾水性が悪くなる。逆にベントナイトが多すぎるとスラリーの粘性が高くなり濾水性が悪くなる恐れがある。
【0015】
本発明は、さらに、充填剤として、アルミナ、ワラストナイト、コージェライト又は焼成カオリンを含む。本発明の基材は、これら充填剤を2種以上含んでもよい。
【0016】
基材は、充填剤を、25〜45重量%、好ましくは28〜42重量%含む。充填剤が25重量%未満では組み付け後のロールの表面潤滑性(平滑性)が低下し、45重量%超では基材をリング状に打ち抜く際の打抜性が低下する恐れがある。
【0017】
本発明の基材は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分のほか、凝集補助剤、有機バインダーを含むことができる。
【0018】
有機バインダーとして、有機繊維(パルプ)、澱粉が好ましい。有機繊維(パルプ)を含むと圧縮特性が発現でき、その量は例えば、2〜10重量%、又は6〜10重量%とすることができる。また、澱粉を含むとディスク材の強度が発現でき、その量は例えば、1〜10重量%、又は1〜4重量%とすることができる。
【0019】
本発明の基材は、無機成分として、セラミック繊維、木節粘土、ベントナイト、充填剤を合わせて90重量%以上、95重量%以上、98重量%以上、99重量%以上、100重量%とすることができる。
【0020】
本発明の基材は、上記の成分を上記の範囲で含むことにより、マイカを含まなくても、耐熱性、強度、硬度がバランス良く保たれたディスクロールが得られる。
【0021】
基材は抄造法や、金網等の成形金型の一方の面にスラリーを供給しつつ他方の面から吸引を行う脱水成形法等で製造ができる。具体的には、セラミック繊維、木節粘土、ベントナイト、充填剤、必要に応じて凝集補助剤、有機バインダー等を所定量含む水性スラリーを調製し、この水性スラリーを成形し、乾燥することにより基材を得ることができる。厚さは適宜設定することができ、2〜30mmが一般的である。
【0022】
次に、ディスクロールの製造方法に関して説明する。通常、基材からリング状のディスク材を打ち抜き、このディスク材を複数枚、金属製(例えば鉄製)のシャフトに嵌挿してロール状の積層物とし、両端に配したフランジを介して両端から全体を加圧してディスク材に若干の圧縮を加えた状態でナット等で固定する。必要により焼成する。そして、所定のロール径となるようにディスク材の外周面を研削することにより、ディスクロールが得られる。
ディスクロールの構造にはシャフト全体をディスク材で覆われている仕様のもの、ガラスの接触する部分のみシャフトがディスク材が覆われている仕様のもの、単一の軸を有する仕様のもの等がある。
【0023】
図1に示すように、本発明のディスクロール10を用いて、ガラス溶融物100を挟持して搬送し、ガラス溶融物100を冷却、硬化させてガラスを製造できる。
【実施例】
【0024】
[各種充填剤含有ディスクロール用基材]
実施例1
耐火性無機繊維(アルミナ70重量%以上、シリカ30重量%以下のムライト繊維)30重量%、アルミナ32重量%、木節粘土20重量%、ベントナイト10重量%、パルプ6重量%及び澱粉2重量%である水性スラリーを調製し、吸引脱水成形法により乾燥後の寸法が200mm×200mm×6mmのディスクロール用基材(ミルボード)を成形した。
得られたディスクロール用基材について、密度を測定した後、下記(1)〜(8)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0025】
(1)加熱収縮率
ディスクロール用基材を幅30mm、長さ150mmに切り出し、900℃で3時間加熱した後、その線方向及び厚さ方向の長さを測定し、下記式に基づいて加熱収縮率を評価した。厚さ方向の加熱収縮率については収縮が大きいとディスク間でのセパレーションが発生するため小さい方が好ましい。
[(加熱前の測定値−加熱後の測定値)/加熱前の測定値]×100
【0026】
(2)原板の曲げ試験(曲げ強度及び曲げ弾性率)
ディスクロール用基材を900℃に維持した加熱炉に3時間保持した後、室温まで自然冷却した。冷却後の基材を幅30mm、長さ150mmの試験片を切り出し、島津製作所製「オートグラフAG−100kND」を用い、JIS K7171に準じて曲げ強度及び曲げ弾性率を評価した。曲げ弾性率は大きいと耐スポーリング性を低下させるため小さい方が好ましい。
【0027】
(3)充填時の曲げ試験(曲げ強度及び曲げ弾性率)
ディスクロール用基材から幅30mm、長さ150mmのディスク材を切り出し、このディスク材をステンレス板で挟みこみ、厚さ10mm、密度が1.35g/cmとなるように圧縮し、圧縮した状態で900℃に維持した加熱炉に10時間保持した後、室温まで自然冷却した。冷却後、圧縮力を開放したものを測定サンプルとし、島津製作所製「オートグラフAG−100kND」を用い、JIS K7171に準じて曲げ強度及び曲げ弾性率を評価した。
【0028】
(4)熱伝導率
ディスクロール用基材を切り出して、幅50mm、長さ100mm、のディスク材を切り出し、このディスク材をSUS板で挟みこみ、厚さ10mm、密度が1.35g/cmとなるまで圧縮し、圧縮した状態で900℃に維持した加熱炉に10時間保持した後、室温まで自然冷却した。冷却後、圧縮力を開放したものを測定サンプルとし、サンプルの表面を、JIS R2618の非定常熱線法に準じて、迅速熱伝導率計QTM−500(京都電子工業株式会社製)により、室温で熱伝導率を測定した。
【0029】
(5)熱膨張係数
セラミック繊維含有ディスクロール用基材から外径60mm内径20mmのディスク材を打ち抜き、ステンレス製のシャフトに長さ100mm、密度1.35g/cmとなるようにロールビルドし、900℃に維持した加熱炉に10時間保持した後、室温まで自然冷却した。冷却後のサンプルを5×5×20mmに切り出し測定サンプルとした。理学電機工業株式会社製熱機械分析装置「TMA8310」を用いて、空気中で5℃/minの速度で室温から900℃まで昇温し熱膨張係数を測定した。熱膨張係数はシャフトへの追従性が大きくなるため大きい方が好ましい。
【0030】
(6)圧縮加熱復元率
セラミック繊維含有ディスクロール用基材から幅30mm、長さ50mmのディスク材を切り出し、ステンレス板で挟み込み、厚さ20mm、密度1.35g/cmとなるように圧縮し、固定したものをサンプルとした。
得られたサンプルを600℃で5時間加熱させた後、室温25℃まで冷却し、ディスク材に加わる圧縮力を開放したときの復元した長さを元の長さで除算して復元率を求めた。また、得られたディスクロールを900℃で10時間加熱させ、上記と同様にして復元率を測定した。圧縮加熱復元率はシャフトの熱膨張への追従性を良くするためには大きい方が好ましい。
【0031】
(7)耐スポーリング性
ディスクロール用基材から外径60mm内径20mmのディスク材を打ち抜き、直径
20mmのステンレス製シャフトに長さ100mm、充填密度が1.35g/cmになるようにロールビルドし、ディスクロールを作製した。
このディスクロールを、900℃に保持した電気炉に投入し、15時間後に取り出して室温25℃まで急冷した。そして、この加熱及び急冷のサイクルをディスクロールのクラック又はディスクセパレーションが発生するまで繰り返し、クラック又はディスクセパレーションが発生したサイクル数をカウントした。耐スポーリング性は多い方が好ましい。
上記に加えて、耐スポーリング性試験前のディスク材のShoreD硬度と、クラック後又はディスクセパレーション後の(試験後)のディスク材の硬度をそれぞれ評価した。
【0032】
(8)荷重変形量
ディスクロール用基材から外径60mm内径20mmのディスク材を打ち抜き、直径
20mmのステンレス製シャフトに長さ100mm充填密度が1.35g/cmになるようにロールビルドし、ディスクロールを作製した。
このディスクロールをシャフトの両端を架台で支持し、ディスク材からなるロール面に圧縮子により10kgf/cmの荷重を1mm/分で加え、そのときの荷重変形量(室温)を測定した。
また、上記ディスクロールを900℃の加熱炉に10時間保持し、加熱炉から取り出した後、室温まで冷却したものについても上記と同様にして荷重変形量(900℃10時間)を測定した。荷重変形量は柔らかさと関連するため大きい方が好ましい。
【0033】
実施例2−4
アルミナの代わりに、焼成カオリン、ワラストナイト及びコージェライトをそれぞれ用いた表1に示す組成を有するディスクロール用基材をそれぞれ吸引脱水成形し、実施例1と同様にして(1)〜(8)の物性を評価した。結果を表1に示す。
【0034】
参考例1
アルミナの代わりに白マイカを用い、耐火性無機繊維としてセラミックス繊維(アルミナ40〜60重量%、シリカ60〜40重量%)を用いた表1に示す組成を有するディスクロール用基材をそれぞれ抄造し、実施例1と同様にして(1)〜(8)の物性を評価した。結果を表1に示す。実施例1〜4の基材は、原板の加熱収縮等、参考例1の基材と同等又はより優れた特性を有することが分かる。
【0035】
【表1】

【0036】
[アルミナ含有ディスクロール用基材]
実施例5−6
実施例1のディスクロール用基材について、無機繊維及び木節粘度の含有量を変えて物性を評価した。具体的には表2に示す組成を有するディスクロール用基材をそれぞれ吸引脱水成形し、実施例1と同様にして(1)〜(8)の物性を評価した。結果を表2に示す。アルミナを含む基材は特に荷重変形量に優れることが分かる。
【0037】
【表2】

【0038】
[ワラストナイト含有ディスクロール用基材]
実施例7−9
実施例3のディスクロール用基材について、無機繊維、木節粘度、パルプの含有量を変えて物性を評価した。具体的には表3に示す組成を有するディスクロール用基材をそれぞれ吸引脱水成形し、実施例1と同様にして(1)〜(8)の物性を評価した。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のディスクロールは、板ガラス、特に液晶用ガラスやプラズマディスプレイ用ガラスの製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
10 ディスクロール
100 ガラス溶融物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維25〜50重量%と、
木節粘土5〜30重量%と、
ベントナイト2〜20重量%と、
アルミナ、ワラストナイト、コージェライト、焼成カオリンから選択される充填剤25〜45重量%を含むディスクロール用基材。
【請求項2】
前記セラミック繊維が、アルミナ40重量%以上99重量%以下と、シリカ60重量%以下20重量%以上を含む請求項1記載のディスクロール用基材。
【請求項3】
前記セラミック繊維が、アルミナ70重量%以上80重量%以下と、シリカ30重量%以下20重量%以上を含む請求項1又は2記載のディスクロール用基材。
【請求項4】
さらにパルプと澱粉を含む請求項1〜3のいずれか記載のディスクロール用基材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の基材を含むディスクロール。
【請求項6】
ガラス溶融物を請求項5記載のディスクロールを用いて搬送し、
前記ガラス溶融物を冷却するガラスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18681(P2013−18681A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154566(P2011−154566)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【特許番号】特許第4920118号(P4920118)
【特許公報発行日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】