説明

トイレ用身体保持具

【課題】側壁面に取付けるための基盤に対してアームが起倒動可能されるトイレ用身体保持具を提供する。
【解決手段】基盤に、アーム36の基端部を、アーム36の収納姿勢時における該アーム36の延び方向に変位動可能に保持すると共に、アーム36基端部の変位動方向一方側において、支持部材31を、その一端部をもって回動可能に支持し、支持部材31の他端部をアーム36に、そのアーム36基端部よりもアーム36の延び方向内方側において回動可能に支持する。これにより、アーム36と支持部材31の他端部とが回動可能に支持されている構成の下で、アーム36基端部の変位動方向(アーム36の収納姿勢時における延び方向)において、支持部材31他端部の移動方向を、アーム36基端部の移動方向と反対方向とし、アーム36基端部の使用姿勢時と収納姿勢時との間の変位量を減らす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排泄時に前傾姿勢を保つことができるトイレ用身体保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排泄姿勢として、洋式便器上の便座に座り、身体を前方に傾けた前傾姿勢を保てば、お腹に力が入れやすくなり、排泄し易くなる。このため、その前傾姿勢を保つことができる介護器具として、トイレ用身体保持具が開発されつつある。このトイレ用身体保持具は、基本的には、トイレ側壁面に取付けるための基盤に対してアームを起倒動可能に設けて、アームを、基盤に対して倒伏状態とされた収納姿勢と、基盤に対して略垂直な起立状態とされた使用姿勢とをとり得るようにしている。これにより、その身体保持具をトイレ側壁面に取付ければ、アームの収納姿勢時には、トイレ側壁面に沿うように配置されてコンパクトに収納できる一方、アームの使用姿勢時には、アームはトイレ側壁面から略垂直に突出することになり、使用者は両肘をアーム上において前傾姿勢をとることができる。
【0003】
このような身体保持具は、近時、収納性、支持強度に関しても改良が進んでおり、例えば、特許文献1には、基盤に、支持部材を、その一端部をもってアームの収納姿勢時における該アームの延び方向に変位動可能に保持すると共に、支持部材の一端部の変位動方向一方側において、アームを、その基端部をもって起倒動可能に支持し、支持部材の他端部をアームに、アーム基端部よりもアームの延び方向内方側において回動可能に支持し、基盤に、支持部材一端部の変位動方向一方側において、アームが収納姿勢側から使用姿勢になったときに支持部材の一端部のそれ以上の変位動を規制する規制部が設けられたものが提案されている。
【0004】
このような身体保持具においては、アームを使用姿勢及び収納姿勢にできるだけでなく、アームの使用姿勢時に、アームに支持される支持部材の他端部を、アームの基端部よりも前方に位置させて(モーメント腕長さを短くして)、その支持部材の他端部を、使用者による入力荷重に基づく力のモーメントの支点とすることができ、アーム側からの入力荷重(使用者が加える荷重)に対して支持強度を高めることができる。さらには、アームの収納姿勢時には、支持部材の他端部を基盤(トイレ側壁面)に近づけることができることになり、トイレ側壁面からの当該身体保持具の出っ張りを少なくしてコンパクトに収納できる。
【特許文献1】特許第3426567号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記身体保持具においては、アームを収納させるに際して、基盤に対するアームの倒伏動に伴い、支持部材の他端部が基盤に対して、支持部材と基盤とがなす角度を減らすように(支持部材が基盤に次第に沿うように)変位動(スライド)することになり、アームが収納状態(基盤に対して倒伏状態)になったときには、アーム基端から最も離間する支持部材の一端部の位置は、アーム基端からかなり離れることになる(アーム基端から、そのアームと支持部材の他端部との支持点までの距離と、支持部材の全長との和だけ離間)。このため、基盤は、支持部材の一端部が変位動する方向(アームの収納姿勢時における延び方向)に長くなって大型化せざるを得ない。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その技術的課題は、トイレ側壁面に取付けるための基盤に対してアームが起倒動可能とされて、該アームが、該基盤に対して倒伏状態とされた収納姿勢と、該基盤に対して起立状態とされた使用姿勢とをとり得るようにされているトイレ用身体保持具において、基盤がアームの収納姿勢時における延び方向において大型化することを極力抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
トイレ側壁面に取付けるための基盤に対してアームが起倒動可能とされて、該アームが、該基盤に対して倒伏状態とされた収納姿勢と、該基盤に対して略垂直に起立状態とされた使用姿勢とをとり得るようにされているトイレ用身体保持具において、
前記基盤に、前記アームの基端部が、該アームの収納姿勢時における該アームの延び方向に変位動可能に保持されていると共に、前記アーム基端部の変位動方向一方側において、支持部材が、その一端部をもって回動可能に支持され、
前記支持部材の他端部が前記アームに、該アーム基端部よりも該アームの延び方向内方側において回動可能に支持され、
前記基盤に、前記アーム基端部の変位動方向他方側において、前記アームが収納姿勢側から使用姿勢になったときに、該アーム基端部のそれ以上の変位動を規制する規制部が設けられている構成としてある。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2以下の記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、アームが使用姿勢にあるときに、アーム基端部と支持部材の他端部とは、基盤に対して略垂直に並ぶ状態(トイレ側壁面に取付けたときは、略水平状態となるように配置)にあるが、この使用姿勢の状態から、アームを支持部材の他端部を支点として基盤に対して倒伏動させれば、アーム基端部は、使用姿勢位置から、基盤に案内されて移動することになり、これに伴い、支持部材は、その一端部を支点として基盤に向けて倒伏動することになり、支持部材の他端部は、アーム基端部の変位動方向(アームの収納姿勢時における延び方向)において、使用姿勢位置から、該アーム基端部の移動方向とは反対方向に移動することになる。このため、アームと支持部材の他端部とが回動可能に支持されていることに基づき、支持部材の他端部の変位量がアーム基端部の変位量に反映され(アーム基端部の変位量と支持部材の他端部の変位量とが一部相殺)、アーム基端部の使用姿勢と収納姿勢との間の変位量を減らすことができる。この結果、アームの収納姿勢時における延び方向において、基盤が大型化することを極力抑制することができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、基盤に、アームの収納姿勢時におけるアームの延び方向に延びるようにしてガイド孔が形成され、アームの基端部にガイド軸が設けられ、ガイド軸がガイド孔に変位動可能に保持され、規制部が、アーム基端部の変位動方向他方側におけるガイド孔の内端面により構成されていることから、基盤部の具体的構造の下で、前記請求項1と同様の作用効果を得ることができる。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、アームの基端部と基盤との間に、アームの基端部が変位動する範囲において、アームの基端部により圧縮される弾発体が配設されていることから、アームの基端部に摩擦抵抗力を付与できることになり、アームが使用姿勢と収納姿勢との間にあるときに、そのアームに対して使用者又は介護者が外力を加えることを解除したとしても、アームが不用意に倒れることを防止できる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、弾発体が、アームの収納姿勢時及び使用姿勢時におけるアーム基端部と基盤との間に存在しないように設定されていることから、アームが使用姿勢と収納姿勢との間で姿勢変更するときに、不用意にアームが倒れることを防止できる一方、アームが使用姿勢及び収納姿勢にあるときには、弾発体がアーム基端部により圧縮されないことになり、弾発体がアーム基端部により圧縮される状態を極めて少なくすることができる。このため、弾発体の耐久性を高めることができる。
【0012】
請求項5に係る発明によれば、ガイド孔内に、ガイド孔の幅方向一方側において、弾発板が設けられ、弾発板が、ガイド軸に圧縮されることに基づきガイド軸をガイド孔内の幅方向他方側面に向けて押圧するように設定されていることから、アームが使用姿勢と収納姿勢との間で姿勢変更するときに、不用意にアームが倒れることを防止できる構造を、ガイド孔、弾発板を利用して、コンパクトにすることができる。
【0013】
請求項6に係る発明によれば、ガイド孔内に、アームの収納姿勢時及び使用姿勢時におけるガイド軸の位置において、弾発板が存在しないようにされていることから、基盤部の具体的構造の下で、不用意にアームが倒れることを防止できる構造を、ガイド孔、弾発板を利用して、コンパクトにすることができるだけでなく、弾発体がガイド軸により圧縮される状態を極めて少なくして、弾発板の耐久性を高めることができる。
【0014】
請求項7に係る発明によれば、基盤の前方にアームが、基盤の幅及び該アームの幅を略同じにした状態で配置され、支持部材が樋状に形成され、支持部材の一端部が、その内部に基盤部を包み込むようにしつつ該基盤部に回動可能に支持され、支持部材の他端部が、その内部にアームを包み込むようにしつつアームに回動可能に支持されていることから、アームが収納姿勢にあるときに、トイレ側壁面に沿わせるようにしつつ、アーム及び基盤を支持部材内に包み込ませることができ、アームの収納姿勢時に、トイレ側壁面からの当該身体保持具の出っ張りをかなり薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1,図2において、符号1は、トイレ(便所)であり、そのトイレ1内には洋式便器(以下、便器という)2が配置されている。このトイレ1のトイレ側壁面1aには、本実施形態に係る身体保持具3が取付けられており、その身体保持具3を用いることにより、便器2上の便座に座った使用者は、排泄姿勢として、身体を前方に傾けた前傾姿勢を容易にとることができることになっている。図1は、身体保持具3の非使用状態(収納姿勢状態)を示し、図2は、身体保持具3の使用姿勢状態を示している。
【0016】
前記身体保持具3は、図3〜図6に示すように、基盤4を備えている。基盤4は、一定幅をもって帯状に延びる本体5と、本体5の延び方向一端側に設けられる上側取付け板6と、本体5の延び方向他端側に設けられる下側取付け板7と、を備えている。
【0017】
本体5は、図5,図6に示すように、厚肉状態をもって基盤4の大部分を占める胴部8と、その胴部8の延び方向一端側に設けられて胴部8よりも肉厚方向内方に引っ込ませることにより肉厚が薄くされた上端部9と、胴部8の延び方向他端側に設けられて胴部8よりも肉厚方向内方に引っ込ませることにより肉厚が薄くされた下端部10と、を備えており、その胴部8には、その幅方向両側の肉厚面間を貫通するガイド孔としての貫通孔11が形成されている。この貫通孔11は、本体5の延び方向に延びるスリット状の長孔として形成され、その貫通孔11は、本体5の表面側から裏面側に向けて順に、最も本体5の延び方向に延びる第1貫通孔12と、該第1貫通孔12よりも延び方向長さが短くされて第1貫通孔12に隣接して臨む第2貫通孔13と、により構成されている。このため、第1貫通孔12と第2貫通孔13との間には、その延び方向両側において、段差面14a,14bが形成されている。第1,第2貫通孔13は、胴部8の幅方向全体に亘って、その胴部8の延び方向の長さ及び胴部8の肉厚方向の長さ(幅)に関し、それぞれ一定に維持されており、そのいずれもが、第2貫通孔13の方が第1貫通孔12よりも短くされている。この第1貫通孔12と第2貫通孔13との間には、境界区画手段として、可撓性或いは弾力性を有する保護板16が配設されており、その保護板16により区画された第2貫通孔13内にはゴム板等からなる弾発体としての弾発板17が収納されている。この場合、保護板16が第1貫通孔12に対して臨む第2貫通孔13の開口を覆うことを保持すべく、前記両段差面14a,14bに保持溝18が形成され、その保持溝18に、保護板16の端部が折曲された折曲端部が挿入保持されている。これにより、弾発板17は、保護板16により第2貫通孔13内に保持されることになり、弾発板17は、保護板16を介して外力を受けて圧縮されたときには、弾発力(反発力)を第1貫通孔12側に向けて発生することになる。
また、本体5の胴部8の延び方向他端側(本体5の下端部10よりも上側)には、突部19が形成されている。この突部19は、胴部8の幅方向全長に亘って延びており、その突部19の内部には、胴部8の幅方向に延びる軸孔20が形成されている。
【0018】
前記本体5の上端部9には、図3〜図6に示すように、マグネット(磁石)21が設けられている。このマグネット21は、本体5の上端部9表面に取付けられており、そのマグネット21の先端面は、胴部8の表面に対して略面一となる突出高さに設定されている。
【0019】
前記上側取付け板6は、図3〜図6に示すように、前記本体5の上端部9裏面にビス等の留め具22を用いることにより取付けられ、前記下側取付け板7は、前記本体5の下端部10裏面にビス等の留め具22を用いることにより取付けられている。この両取付け板6,7は、本体5の各端部9,10を幅方向に横切って該本体5の各端部9,10の幅方向両側外方に延出されており、この両取付け板6,7における各延出部には、挿通孔23がそれぞれ形成されている。この上側取付け板6及び下側取付け板7の各挿通孔23には、予めトイレ側壁面1aから突出された状態で取付けられている取付け軸(図示略)が挿通され、その取付け軸にナット24が螺合されている。これにより、基盤4は、上側取付け板6が下側取付け板7よりも上方側に位置するようにしてトイレ側壁面1aに固定されている。この上側取付け板6の上部には上側突出板部27が前方に突出するように設けられ、下側取付け板7の下部には下側突出板部28が前方に突出するように設けられている。この両突出板部27,28は、いずれも、本体5の幅方向において該本体5の幅方向長さよりも長く、各取付け板6,7の延び方向長さよりも短くなるように設定されている。
尚、符号29はスペーサである。
【0020】
前記身体保持具3は、図3,図4,図7〜図9に示すように、前記基盤4の突部19に支持される支持部材31を備えている。支持部材31は、長方形状の本体板部32と、その本体板部32の幅方向両側(両長辺部)に一体的に取付けられて互いに対向する一対の側板部33と、を有して、断面略コ字状(樋状)に形成されている。各側板部33は、本体板部32の長手方向において、本体板部32よりも長く延ばされており、その一対の側板部33間には、その延び方向両側において、本体板部32が存在しないことになっている。この支持部材31は、その延び方向一端側において、その一対の側板部33が基盤4の突部19を挟持するようにして包み込んでおり、その各側板部33には、突部19の軸孔20に臨むようにして挿通孔(図示略)がそれぞれ形成されている。この両挿通孔及び前記突部19の軸孔20に、軸棒34が通されており、その挿通状態は、軸棒34の両端部に止め輪等(図示略)を取付けることにより維持されている。
【0021】
これにより、支持部材31は、軸棒34を介して基盤4に対して起倒動可能に支持されることになり、支持部材31が基盤4に対して倒伏状態になるときには、その一対の側板部33間に基盤4部(胴部8)が入り込むことになる(図9参照)。このとき、側板部33の延び方向両側において、本体板部32が存在しないことから、突部19と本体板部32とが干渉することはない。
また、各側板部33は、その一端側(図9中、下端側)の起立長さ(本体板部32からの起立長さ)が、その各側板部33の延び方向内方側(図9中、上方側)の起立長さよりも短くされており、基盤4に対して一対の側板部33が倒伏状態になったときには、両側板部33により貫通孔11の開口の大部分が覆われることになるものの、その貫通孔11の下端部は、両側板部33により覆われない(図9参照)。これにより、後述するアーム36基端部の軸棒43が貫通孔11(第1貫通孔12)の下端部に位置したとしても、そのときには、その軸棒43と各側板部33とは干渉しないことになる。
【0022】
前記身体保持具3は、図1,図2,図3,図4,図7,図10に示すように、前記基盤4の前方側において、該基盤4及び前記支持部材31に支持されるアーム36を備えている。アーム36は、長尺なベース体37と、そのベース体37上の上面を覆うクッション材(軟質材)38とからなる。ベース体37は、金属部材を用いて、一定幅の扁平なボックス形状に形成されており、その上面は、平坦面に形成されている。このベース体37の基端部には、その幅方向両側において一対の支持板部39が突出した状態で設けられている。各支持板部39は、ベース体37内に深く入り込んで該ベース体37に対して一体化される保持部40と、その保持部40に連続してベース体37外に延びそのベース体37外において上方に屈曲される軸支持部41と、を一体的に備えている(図7参照)。
クッション材38は、本実施形態においては樹脂、ゴム等を用いて成形品として形成されており、そのクッション材38には、その下側面において、その長手方向に延びるようにして嵌合溝42が形成されている。そのクッション材38の嵌合溝42には、前記ベース体37のうち、先端から基端に向けての一定長さの部分が、クッション材38の面と面一な面を形成するようにしつつ嵌合され、そのベース体37部分とクッション材38とは、下側からねじ込む留めねじ(図示略)により、一体化されている。この場合、アーム36の長さを変更できるようにすべく、ベース体37及びクッション材38における留めねじの取付け個所を、アーム36の延び方向において複数設け、ベース体37に対してクッション材38の位置を相対的に適宜ずらしても、両者を一体化できる。
【0023】
前記アーム36の基端部をなす一対の支持板部39(軸支持部41)は、図3,図4,図7に示すように、前記本体5の胴部8を挟持するように配置されている。この一対の支持板部39には、それらを軸棒43が跨ぐように支持されており、その軸棒43は、途中、胴部8の第1貫通孔12を該第1貫通孔12の延び方向に変位動可能に貫通されている。そして、軸棒43が第1貫通孔12の上端側内端面12a(規制部)に当接したときには、それ以上の上方への移動が規制されて、軸棒43は上側段差面14aに臨むように位置されることになり(図7参照)、軸棒43が第1貫通孔12の下端側内端面12bに当接しているときには、それ以上の下方への移動が規制されて、軸棒43は下側段差面14bに臨むように位置されることになっている(図9参照)。また、上記両段差面14a,14bに臨む位置以外の位置では、前記保護板16及び弾発板17が第1貫通孔12内にやや進入しており、それに基づき、軸棒43が保護板16を介して弾発板17が圧縮することになっている。このため、このときには、軸棒43は、反発作用として胴部8の肉厚方向外方に向けて弾発力を受けることになり、この弾発力により、軸棒43の変位動に対して摩擦力が付与されることになる。
【0024】
前記アーム36は、その基端から延び方向内方側に向けて一定距離だけ、ベース体37が外部に露出されており、そのベース体37のうち、基端から所定距離だけ延び方向内方側に入った部分に対して、前記支持部材31の他端部が、図3,図4,図7に示すように、下側から包み込むように配置されている。この支持部材31の他端部における一対の側板部33には、軸棒44が掛け渡されており、その軸棒44は、途中、ベース体37を回動可能に貫通している。これにより、アーム36は、軸棒44を介して支持部材31の他端部に対して回動可能に支持されることになり、このアーム36は、軸棒43が第1貫通孔12の上側内端面12aに当接したとき(貫通孔11の上側段差面14aに臨む位置に位置するとき)には、支持部材31の他端部に支持されることと相まって略水平状態となり(トイレ側壁面1a又は基盤4に対して起立状態)、軸棒43が第1貫通孔12の下側内端面12bに当接したとき(貫通孔11の下側段差面14bに臨む位置に位置するとき)には、アーム36は、支持部材31他端部の軸棒44を支点として回動される結果、基盤4(又はトイレ側壁面1a)に対して倒伏した状態となる。このとき、アーム36の金属製ベース体37は、マグネット21により吸引され、基盤4に対するアーム36の倒伏状態(収納姿勢状態)が維持される。この場合、一対の側板部33の延び方向他端部間には、本体板部32が存在していないことから、アーム36の軸棒44を中心とした回動に際して、アーム36と支持部材31の本体板部32とが干渉することはない。
【0025】
前記身体保持具3は、図1,図2に示すように、前記基盤4を覆うべく樹脂製カバー45を備えている。カバー45は、前記基盤4の縦長さ及び横長さを考慮した本体部46と、その本体部46の前面側に突設される一対の縦壁部47と、を有している。
本体部46は、前記基盤4の縦長さ及び横長さを考慮して、縦長さが横長さよりも長い矩形状とされた前面部の周囲から後方に周壁が起立されて内部空間が形成され、その内部空間は後方側に向けて開口されている。この本体部46の前面部には中央孔48が形成されており(図2参照)、その中央孔48は前面部の外形を縮小した形状(矩形形状)とされている。
一対の縦壁部47は、前記中央孔48を間に挟むようにしつつ、本体部46の前面部から前方に突出した状態で配置されており、その両縦壁部47は本体部46の延び方向(上下方向)全体に亘って平行に延びている。この場合、本体部46の下部において、一対の縦壁部47が連続部49をもって連結されているが、本体部46の上部においては、そのような連続部は存在せず、一対の縦壁部47間は空間とされている。
【0026】
このようなカバー45は、その中央孔48にアーム36を通した後、本体部46の後方側開口を利用して前記基盤4に嵌合される。このとき、基盤4の上側取付け板6及び下側取付け板7が本体部46の上下壁(周壁)に当接して、本体部46の上下動を規制することになり、上側取付け板6及び下側取付け板7の延び方向両側端部が本体部46の側壁に当接して、本体部46が基盤4の幅方向に移動することを規制することになる。また、カバー45における一対の縦壁部47の先端面は、アーム36が収納姿勢(トイレ側壁面1aに対して倒伏姿勢)をとるときには、図1に示すように、アーム36面、支持部材31の本体板部32面と共に、略面一な面を構成することになり、アーム36が使用姿勢(トイレ側壁面1aに対して起立姿勢)をとるときには、カバー45における一対の縦壁部47は、図1,図2に示すように、アーム36(ベース体37)と支持部材31と基盤4とが区画する三角形状の空間をほとんど覆うことになる(指つめ防止)。
【0027】
次に、身体保持具3の作動について説明する。
身体保持具3の非使用時においては、図1に示すように、アーム36は、その先端部をその基端部の上方に位置するようにした状態でトイレ側壁面1aに倒伏されている。このアーム36の倒伏状態は、図9に示すように、アーム36のベース体37が基盤4のマグネットにより吸引されているため、確実に保持されている。このとき、アーム36基端部の軸棒43は、第1貫通孔12の最下端位置(下側段差面14bに臨む位置)に位置していて、弾発板17及び保護板16を圧縮していない。
【0028】
身体保持具3を使用するに際しては、使用者又は介護者がアーム36を把持して、図8に示すように、図9の状態からアーム36をトイレ側壁面1aに対して起立動させる(下方に向けて倒す)。これにより、アーム36は、支持部材31他端部の軸棒44を支点として、図8,図9中、反時計方向に回動することになり、それに伴い、支持部材31他端部の軸棒44とアーム36基端部の軸棒43との水平方向長さが次第に増大することになり、支持部材31は、その一端部の軸棒34を支点として、図8,図9中、反時計方向に回動する。この作用に基づき、アーム36基端部の軸棒43は、第1貫通孔12を上方に向けて移動することになり、アーム36は、トイレ側壁面1aに対して起立状態となる姿勢(使用姿勢)に向けて起立動する。
【0029】
このとき、アーム36基端部の軸棒43は、移動中、保護板16を介して弾発板17を圧縮することになり、その圧縮に基づく弾発力により、軸棒43は第1貫通孔12内壁に押し付けられる。このため、アーム36の起倒動段階においては、軸棒43と基盤4(第1貫通孔12の内壁)との間に摩擦力が発生することになり、使用者又は介護者がアーム36に対して加えている力を解除したとしても、アーム36は、その力を解除したときの姿勢で停止され、その状態が保持される。尚、本実施形態においては、貫通孔11と、薄い弾発板17を利用してコンパクトな構成としているが、アーム36の基端面又は基盤4における本体5(胴部8)前面に弾発体を設け、アーム36の基端面と本体5前面との間で摩擦力を発生させてもよい。
【0030】
使用者又は介護者の操作によりアーム36がトイレ側壁面1aに対して略垂直となり、アーム36が略水平状態となったときには、図7に示すように、アーム36基端部の軸棒43は、第1貫通孔12の上側内端面12aに当接して、それ以上上昇動することが規制される。このため、アーム36は、略水平状態に保持されることになり、使用者は、便器2上の便座に座って、排泄姿勢として前傾姿勢をとることができる。この場合、使用者は、前傾姿勢を採る際、片持ち状のアーム36に対して荷重を加えることになるが、その荷重に基づく力のモーメントの支点は、アーム36基端ではなく、アーム36基端よりも延び方向内方側に配置される支持部材31他端部の軸棒44が構成することなり、モーメント腕長さを短縮できることになる(アーム36基端から支持部材31他端部の軸棒44までの長さを短縮)。このため、使用者が加える荷重に対して、片持ち状のアーム36が持ちこたえる支持強度を高めることができる。換言すれば、強度部材又は強固な構造が必要でなくなり、当該身体保持具3の全体荷重を軽減できることになる。
【0031】
使用者が排泄を終了すると、使用者又は介護者は、アーム36を把持して持ち上げることによりトイレ側壁面1aに向けて倒伏動させる。これにより、アーム36は、支持部材31他端部の軸棒44を支点として、図7,図8中、時計方向に回動することになり、これに伴い、支持部材31他端部の軸棒44とアーム36基端部の軸棒43との水平方向長さが次第に短縮することになり、支持部材31は、その一端部の軸棒34を支点として、図8,図9中、時計方向に回動する。この結果、アーム36基端部の軸棒43は、第1貫通孔12を下方に向けて移動することになり、アーム36は、トイレ側壁面1aに対して倒伏状態となる姿勢(非使用姿勢)に向けて倒伏動する。このとき、アーム36が最終的な倒伏状態(収納姿勢)に至る少し手前に至ると、マグネット21の磁力がベース体37に作用し、アーム36は、最終的な倒伏状態にまでマグネット21により引きつけられる。
勿論この場合も、前述したように、使用者又は介護者がアーム36に対する操作力を解除したときには、弾発板17の弾発力による基盤4(第1貫通孔12内壁)と軸棒43との間に摩擦力に基づき、アーム36は、その操作力が解除された姿勢で停止され、その状態が保持される。
【0032】
このように、本実施形態においては、アーム36、基盤4、支持部材31における支持が、単なる軸棒34,43,44を利用した簡単な構成であるばかりか、アーム36の使用姿勢のときに、トイレ側壁面1aの前方位置にあった支持部材31他端部の軸棒44が、アーム36の非使用姿勢のときには、トイレ側壁面1aの近傍位置にまで移動することになり(図7,図9参照)、当該身体保持具3をトイレ側壁面1aに沿わせた状態で薄くコンパクトな状態にすることができる。しかも、本実施形態においては、図9に示すように、アーム36の非使用姿勢のときに、支持部材31における一対の側板部33間にアーム36及び基盤4部が入り込むことになり、この点も、当該身体保持具3を薄くすることに大きく貢献する。
【0033】
さらに、本実施形態においては、基盤4の上下長さが短くされてコンパクト化されている。具体的に図11に基づき説明する。
アーム36が使用姿勢にあるときに、アーム36基端部の軸棒43と支持部材31の他端部の軸棒44とは、基盤4(トイレ側壁面1a)に対して略垂直に並ぶ状態にある。この使用姿勢の状態から、アーム36を支持部材31の他端部の軸棒44を支点として基盤4に対して倒伏動させれば、アーム36基端部の軸棒43は第1貫通孔12に案内されて、使用姿勢時の位置よりも下方に移動することになるが、その一方で、それに伴い、支持部材31は、その一端部の軸棒34を支点として基盤4に向けて倒伏動することになり、支持部材31の他端部の軸棒44は、使用姿勢時の位置よりも上方に移動することになる。このため、アーム36と支持部材31の他端部とが回動可能に支持されていることに基づき、支持部材31他端部の軸棒44が使用姿勢時の位置よりも上方に移動した変位量がアーム36基端部の軸棒43の変位量に反映され(支持部材31他端部の軸棒44の変位量を一部相殺)、アーム基端部の軸棒43が使用姿勢時から収納姿勢時までに変位する変位量を減らすことができる。
より具体的に説明すれば、アーム36基端部の軸棒43と支持部材31他端部の軸棒44との間の距離をa、支持部材の長さをs、アーム36が使用姿勢にあるときに、そのアーム36と支持部材31とがなす角度をθとすれば、アーム36の変位動方向において、支持部材31他端部の移動方向がアーム36基端部の移動方向(下方向)と反対方向(上方向)となることを利用して、アーム36基端部の軸棒43の変位量、すなわち、貫通孔(ガイド孔)11の延び長さを、a−s(1−sinθ)にできることになる。
【0034】
これに対して、先行技術(前述の特許文献1)として、図12に示すように、基盤に、支持部材31’を、その一端部をもって上下方向に変位動可能に保持すると共に、その基盤の下部において、アーム36’を、その基端部をもって起倒動可能に支持し、支持部材31’の他端部をアーム36’に、アーム36’基端部よりもアーム36’の延び方向内方側において回動可能に支持したものがあるが、このものにあっては、支持部材31’の他端部が基盤に対して、支持部材31’と基盤とがなす角度を減らすように上方に変位動(スライド)することになる。このため、長さ等に関し、上記場合と同じとすれば(アーム36’基端部と支持部材31’他端部との間の距離をa、支持部材31’の長さをs、アーム36’が使用姿勢にあるときに、そのアーム36’と支持部材31’とがなす角度をθ)、基盤の上下長さを決定することなる支持部材31’一端部の変位量は、a+s(1−sinθ)となり、先行技術に係る身体保持具の基盤は、本実施形態に係る身体保持具3の基盤4よりも上下方向に大きくならざるを得ない。
このように、本実施形態に係る身体保持具3の基盤4を、アームの収納姿勢時における延び方向(上下方向)において大型化することを極力抑制することができ、部材使用量の低減を図ることができるだけでなく、使用者に圧迫感を与えることを、さらに低減できる。
【0035】
尚、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましい或いは利点として記載されたものに対応したものを提供することをも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】トイレ側壁面に取付けられた実施形態に係る身体保持具が収納姿勢(非使用姿勢)にある状態を示す斜視図。
【図2】トイレ側壁面に取付けられた実施形態に係る身体保持具が使用姿勢にある状態を示す斜視図。
【図3】実施形態に係る身体保持具が使用姿勢にある状態(カバーを取り除いた状態)を示す斜視図。
【図4】実施形態に係る身体保持具が使用姿勢にある状態をカバーを破断して説明する説明図。
【図5】実施形態に係る基盤を示す正面図。
【図6】実施形態に係る基盤を示す一部断面側面図。
【図7】実施形態に係る身体保持具が使用姿勢にある状態を拡大して示す拡大側面図。
【図8】実施形態に係る身体保持具が使用姿勢と収納姿勢との間にある状態を拡大して示す拡大側面図。
【図9】実施形態に係る身体保持具が収納姿勢にある状態を拡大して示す拡大側面図。
【図10】実施形態に係る身体保持具が収納姿勢にある状態(カバーを取り除いた状態)を拡大して示す拡大斜視図。
【図11】実施形態に係る身体保持具の作動を概念的に説明する説明図。
【図12】先行技術に係る身体保持具の作動を概念的に説明する説明図。
【符号の説明】
【0037】
1 トイレ
1a トイレ側壁面
3 身体保持具
4 基盤
11 貫通孔(ガイド孔)
12 第1貫通孔(ガイド孔)
12a 第1貫通項の上側内端面(規制部)
17 弾発板(弾発体)
31 支持部材
33 支持部材の側板部
34 軸棒(支持部材の一端部)
36 アーム
43 軸棒(アーム基端部、ガイド軸)
44 軸棒(支持部材の他端部)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレ側壁面に取付けるための基盤に対してアームが起倒動可能とされて、該アームが、該基盤に対して倒伏状態とされた収納姿勢と、該基盤に対して略垂直に起立状態とされた使用姿勢とをとり得るようにされているトイレ用身体保持具において、
前記基盤に、前記アームの基端部が、該アームの収納姿勢時における該アームの延び方向に変位動可能に保持されていると共に、前記アーム基端部の変位動方向一方側において、支持部材が、その一端部をもって回動可能に支持され、
前記支持部材の他端部が前記アームに、該アーム基端部よりも該アームの延び方向内方側において回動可能に支持され、
前記基盤に、前記アーム基端部の変位動方向他方側において、前記アームが収納姿勢側から使用姿勢になったときに、該アーム基端部のそれ以上の変位動を規制する規制部が設けられている、
ことを特徴とするトイレ用身体保持具。
【請求項2】
請求項1において、
前記基盤に、前記アームの収納姿勢時における該アームの延び方向に延びるようにしてガイド孔が形成され、
前記アームの基端部にガイド軸が設けられ、
前記ガイド軸が前記ガイド孔に変位動可能に保持され、
前記規制部が、前記アーム基端部の変位動方向他方側における前記ガイド孔の内端面により構成されている、
ことを特徴とするトイレ用身体保持具。
【請求項3】
請求項1において、
前記アームの基端部と前記基盤との間に、該アームの基端部が変位動する範囲において、該アームの基端部により圧縮される弾発体が配設されている、
ことを特徴とするトイレ用身体保持具。
【請求項4】
請求項3において、
前記弾発体が、前記アームの収納姿勢時及び使用姿勢時における該アーム基端部と前記基盤との間に存在しないように設定されている、
ことを特徴とするトイレ用身体保持具。
【請求項5】
請求項2において、
前記ガイド孔内に、該ガイド孔の幅方向一方側において、弾発板が設けられ、
前記弾発板が、前記ガイド軸に圧縮されることに基づき該ガイド軸を該ガイド孔内の幅方向他方側面に向けて押圧するように設定されている、
ことを特徴とするトイレ用身体保持具。
【請求項6】
請求項5において、
前記ガイド孔内に、前記アームの収納姿勢時及び使用姿勢時における前記ガイド軸の位置において、前記弾発板が存在しないようにされている、
ことを特徴とするトイレ用身体保持具。
【請求項7】
請求項2において、
前記基盤の前方に前記アームが、該基盤の幅及び該アームの幅を略同じにした状態で配置され、
前記支持部材が、樋状に形成され、
前記支持部材の一端部が、その内部に前記基盤部を包み込むようにしつつ該基盤部に回動可能に支持され、
前記支持部材の他端部が、その内部に前記アームを包み込むようにしつつ該アームに回動可能に支持されている、
ことを特徴とするトイレ用身体保持具。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−94435(P2010−94435A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269980(P2008−269980)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000110479)ナカ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】