説明

トナー用ポリエステル樹脂、トナー、現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、及び、画像形成装置

【課題】帯電性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂の提供。
【解決手段】ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、下記一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、酸価が3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であるトナー用ポリエステル樹脂。



(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素、又はメチル基を表わす。L、L、Lはそれぞれ独立にカルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有しても良い鎖状アルキレン基、置換基を有しても良い環状アルキレン基、置換基を有しても良いアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成しても良い。A、Aはロジンエステル基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用ポリエステル樹脂、トナー、現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、及び、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法のように、静電潜像を形成し、これを現像する工程を経て画像情報を可視化する方法は、現在様々な分野で利用されている。この方法による画像の形成は、感光体(潜像保持体)表面を全体に帯電させた後、この感光体表面に、画像情報に応じたレーザ光により露光して静電潜像を形成し、次いでこの静電潜像を、トナーを含む現像剤で現像してトナー像を形成し、最後にこのトナー像を記録媒体表面に転写・定着することにより行われる。
【0003】
ホットオフセットが起こりにくく、且つ、低温定着性に優れるヒートロール定着方式用の電子写真トナーを好適に得ることができる電子写真トナー用樹脂組成物を提供するため、ロジン(R)とエポキシ基含有化合物(E)との反応生成物(P)と結着用樹脂(Q)とを含有することを特徴とする電子写真トナー用樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、低温定着性及び保存性に優れ、臭気の発生も低減されるトナー用ポリエステルを提供するため、アルコール成分と、精製ロジンを含有したカルボン酸成分とを重縮合させて得られるトナー用ポリエステルが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4505738号明細書
【特許文献2】特開2007−137910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、帯電性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、請求項1に係る発明は、
ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、下記一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、酸価が3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であるトナー用ポリエステル樹脂である。
【0008】
【化1】

【0009】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素、又はメチル基を表わす。L、L、Lはそれぞれ独立にカルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有しても良い鎖状アルキレン基、置換基を有しても良い環状アルキレン基、置換基を有しても良いアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成しても良い。A、Aはロジンエステル基を表わす。
【0010】
請求項2に係る発明は、
前記一般式(1)で表されるジアルコール成分が、2官能エポキシ化合物とロジンとの反応生成物である請求項1に記載のトナー用ポリエステル樹脂である。
【0011】
請求項3に係る発明は、
前記ロジンが、精製処理された精製ロジン、不均化処理された不均化ロジン、又は、水素添加処理された水素化ロジンである請求項2に記載のトナー用ポリエステル樹脂である。
【0012】
請求項4に係る発明は、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のトナー用ポリエステル樹脂を含むトナーである。
【0013】
請求項5に係る発明は、
請求項4に記載のトナーを含む現像剤である。
【0014】
請求項6に係る発明は、
請求項4に記載のトナーを収納し、
画像形成装置に着脱されるトナーカートリッジである。
【0015】
請求項7に係る発明は、
請求項5に記載の現像剤を収納し、潜像保持体表面に形成された静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、
画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジである。
【0016】
請求項8に係る発明は、
潜像保持体と、前記潜像保持体表面を帯電する帯電手段と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記静電潜像を請求項5に記載の現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、を備える画像形成装置である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位を含有しない場合に比較して、帯電性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂が提供される。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、一般式(1)で表されるジアルコール成分が2官能エポキシ化合物とロジンとの反応生成物でない場合に比較して、帯電性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂が提供される。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、ロジンが精製ロジン、不均化ロジン、又は、水素化ロジンでない場合に比較して、さらに帯電性に優れるトナーの製造に供されるトナー用ポリエステル樹脂が提供される。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、帯電性に優れるトナーが得られる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、帯電性に優れる現像剤が得られる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、帯電性に優れるトナーを収納するトナーカートリッジが得られる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、帯電性に優れる現像剤の取り扱いを容易にし、種々の構成の画像形成装置への適応性を高められる。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、帯電性に優れる現像剤を用いた画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態のトナーの製造に用いるスクリュー押出機の一例について、スクリューの状態を説明する図である。
【図2】本実施形態の画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本実施形態のプロセスカートリッジの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のトナー用ポリエステル樹脂、トナー、現像剤、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジ、及び、画像形成装置の実施形態について詳細に説明する。
【0027】
<トナー用ポリエステル樹脂>
本実施形態のトナー用ポリエステル樹脂(以下、特定ポリエステルと称することがある)は、ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、下記一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、酸価を3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下としたものである。
【0028】
【化2】

【0029】
一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素、又はメチル基を表わす。RとRとは、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが望ましい。L、L、Lはそれぞれ独立にカルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有しても良い鎖状アルキレン基、置換基を有しても良い環状アルキレン基、置換基を有しても良いアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成しても良い。LとLとは、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが望ましい。A、Aはロジンエステル基を表わす。
【0030】
一般式(1)で表されるジアルコール成分は、1分子中に2個のロジンエステル基を含有するジアルコール化合物である(以下、特定ロジンジオールと称することがある)。一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素、又はメチル基を表わす。A、Aはロジンエステル基を表す。本実施形態において、ロジンエステル基とは、ロジンに含まれるカルボキシル基から水素原子を除いた残基をいう。
【0031】
ここで、特許4505738号明細書に記載の電子写真トナー用樹脂組成物は、ロジン(R)とエポキシ基含有化合物(E)との反応生成物(P)と結着用樹脂(Q)とを含有するが、該反応生成物(P)は、ロジン(R)由来のカルボン酸とエポキシ基含有化合物(E)由来のエポキシ基との反応により、その分子中に水酸基を含む。電子写真トナー用樹脂組成物中に含まれる水酸基の量が多いとトナーの帯電性に悪影響を与えるおそれがあるため、電子写真トナー用樹脂組成物中に含有できる反応生成物(P)の量は制限される。すると、電子写真トナー用樹脂組成物中に十分なロジンエステル基を存在させることが困難な場合があり、特許4505738号明細書に記載の電子写真トナー用樹脂組成物を用いたとしても、ロジン残基由来の効果を享受できないことがある。
また、特開2007−137910号公報に記載のトナー用ポリエステルは、アルコール成分と、精製ロジンを含有したカルボン酸成分とを重縮合させて得られる。しかし、ロジンに含まれるカルボン酸は3級カルボン酸であるため低反応性であり、アルコール成分とロジンとの間でエステル化反応が起こりにくく樹脂中に未反応のロジンが残留しやすい。その結果、トナー用ポリエステル中に水分が取り込まれやすくなり、該トナー用ポリエステルを含むトナーの帯電性が悪化することがある。
一方、本実施形態の特定ポリエステルを含むトナーは、帯電性に優れる。その理由は明確ではないが、以下のように推察される。
本実施形態の特定ポリエステルは、特定ロジンジオール由来の繰り返し単位を含有する。特定ロジンジオールに含有されるロジンエステル基の元となるロジンは、嵩高い構造を有し、且つ、疎水性が高い性質のため、ロジンエステル基を含む本実施形態の特定ポリエステルは含水しにくい。それに加えて、ポリエステル樹脂の構造上、樹脂分子の末端にのみ水酸基又はカルボキシル基が存在するため、トナーの帯電性に悪影響を与えるおそれのある水酸基又はカルボキシル基の量を増やすことなく樹脂中のロジンエステル基の量を増やすことができる。さらに、特定ロジンジオールをロジンと2官能エポキシ化合物とを反応させて得る場合に、2官能エポキシ化合物中のエポキシ基とロジン中のカルボキシル基との間で生ずるエポキシ基の開環反応は、アルコール成分とロジンとの間で生ずるエステル化反応よりも反応性が高いため、本実施形態の特定ポリエステル中に未反応のロジンが残留しにくい。そのため、本実施形態の特定ポリエステルを含むトナーは、帯電性に優れるものと推察される。
【0032】
以下に、本実施形態の特定ポリエステルの合成スキームの一例を示す。下記合成スキームにおいては、2官能のエポキシ化合物とロジンとを反応させて特定ロジンジオールが合成され、この特定ロジンジオールとジカルボン酸成分とを脱水重縮合させることで本実施形態の特定ポリエステルが合成される。なお、特定ポリエステルを表す構造式のうち、点線で囲まれた部分が本実施形態に係るロジンエステル基に該当する。
【0033】
【化3】

【0034】
なお、本実施形態の特定ポリエステルを加水分解すると下記モノマーに分解する。ポリエステルはジカルボン酸とジオールの1:1縮合物なので、分解物から樹脂の構成成分を推定することができる。
【0035】
【化4】

【0036】
一般式(1)において、L、L、Lはそれぞれ独立にカルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有しても良い鎖状アルキレン基、置換基を有しても良い環状アルキレン基、置換基を有しても良いアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成しても良い。
【0037】
、L、Lで表される鎖状アルキレン基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキレン基が挙げられる。
【0038】
、L、Lで表される環状アルキレン基としては、例えば、炭素数3以上7以下の環状アルキレン基が挙げられる。
【0039】
、L、Lで表されるアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセン基が挙げられる。
【0040】
鎖状アルキレン基、環状アルキレン基、アリーレン基の置換基の例としては炭素数1以上8以下のアルキル基、アリール基などが挙げられ、直鎖、分岐又は環状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。
【0041】
一般式(1)で表わされる特定ロジンジオールは公知の方法によって合成することができ、例えば、2官能エポキシ化合物とロジンの反応により合成することができる。本実施形態で用いてもよいエポキシ基含有化合物は1分子中にエポキシ基を2個含む2官能エポキシ化合物であり、芳香族系ジオールのジグリシジルエーテル、芳香族系ジカルボン酸のジグリシジルエーテル、脂肪族系ジオールのジグリシジルエーテル、脂環式ジオールのジグリシジルエーテル、脂環式エポキシド等が挙げられる。
【0042】
芳香族系ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、芳香族ジオール成分としてビスフェノールA、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールAの誘導体類、ビスフェノールF、ビスフェノールFのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールFの誘導体類、ビスフェノールS、ビスフェノールSのポリアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノールSの誘導体類、レソルシノール、t−ブチルカテコール、ビフェノールなどが挙げられる。
【0043】
芳香族系ジカルボン酸のジグリシジルエーテルの代表例としては、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などが挙げられる。
【0044】
脂肪族系ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、脂肪族ジオール成分としてエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0045】
脂環式ジオールのジグリシジルエーテルの代表例としては、脂環式ジオール成分として水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物等の水添ビスフェノールAの誘導体類、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0046】
脂環式エポキシドの代表例としては、リモネンジオキサイドが挙げられる。
【0047】
上記エポキシ基含有化合物は、例えば、ジオール成分とエピハロヒドリンの反応で得ることができるが、その量比によって重縮合させることができ高分子量化することもできる。
【0048】
本実施形態において、ロジンと2官能エポキシ化合物との反応は、主としてロジンのカルボキシル基と2官能エポキシ化合物のエポキシ基との開環反応により進む。その際、反応温度としては両構成成分の溶融温度以上、及び/又は均一な混合が可能な温度であることが好ましく、具体的には60℃以上200℃以下の範囲が一般的である。反応に際し、エポキシ基の開環反応を促進する触媒を加えてもよい。
【0049】
使用できる触媒としては、エチレンジアミン、トリメチルアミン、2−メチルイミダゾールなどのアミン類、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルアンモニウムクロライド、ブチルトリメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィンなどを挙げることができる。
【0050】
反応は種々の方法で行うことができ、一般的には回分式の場合は冷却管、撹拌装置、不活性ガス導入口、温度計等を備えた加熱可能なフラスコに所定の割合でロジンと2官能エポキシ化合物を仕込み、加熱溶融し適宜反応物をサンプリングすることによって反応進行を追跡することができる。反応を進行度は主として酸価の低下によって確認することができ、化学量論的な反応終点あるいはその近傍に到達した時点をもって適宜反応を完結することができる。
【0051】
ロジンと2官能エポキシ化合物との反応比率は、2官能エポキシ化合物1モルに対してロジンを1.5モル以上2.5モル以下の範囲で反応させることが好ましく、さらには2官能エポキシ化合物1モルに対してロジンを1.8モル以上2.2モル以下の範囲で反応させることがより好ましく、1.85モル以上2.1モル以下の範囲で反応させることが最も好ましい。ロジンが1.5モルよりも少ないと、2官能エポキシ化合物のエポキシ基が次工程のポリエステル製造工程で残存することとなり、架橋剤としての作用により急激に分子量上昇を引き起こし、ゲル化の懸念がある。一方、ロジンが2.5モルよりも多いと未反応のロジンが残存し、酸価上昇による帯電悪化を引き起こすことがある。
【0052】
本実施形態で用いるロジンとは樹木から得られる樹脂酸の総称であり、主成分は3環性ジテルペン類の1種であるアビエチン酸とその異性体類を含む天然物由来の物質である。具体的な成分としては、例えば、アビエチン酸の他にパラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸などがあり、本実施形態で用いるロジンはこれらの混合物である。ロジンは採取方法による分類では、原料をパルプとするトールロジン、原料を生松脂とするガムロジン、及び原料を松の切り株とするウッドロジンの3種に大別される。本実施形態で用いるロジンは入手が容易であることからガムロジン及び/又はトールロジンが好ましい。
【0053】
これらのロジン類は精製することが好ましく、未精製のロジン類から樹脂酸の過酸化物から生起したと考えられる高分子量物や、未精製のロジン類に含まれていた不ケン化物を除去することにより精製ロジンを得ることができる。精製方法は特に限定されず、公知の各種精製方法を選択できる。具体的には蒸留、再結晶、抽出等の方法が挙げられる。工業的には蒸留による精製を行うことが好ましい。蒸留は、通常、200℃以上300℃以下、6.67kPa以下の圧力で蒸留時間を考慮して選択される。再結晶は、例えば、未精製ロジンを良溶媒に溶解し、ついで溶媒を留去して濃厚な溶液とし、この溶液に貧溶媒を添加することにより行う。良溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、クロロホルムなどの塩素化炭化水素類、低級アルコール等のアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどの酢酸エステル類等が挙げられ、貧溶媒としてはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、イソオクタン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。抽出は、例えば、アルカリ水を用いて未精製のロジンをアルカリ水溶液となし、これに含まれる不溶性の不ケン化物を、有機溶媒を用いて抽出したのち、水層を中和することで精製ロジンを得る方法である。
【0054】
本実施形態のロジンは、不均化ロジンでも良い。不均化ロジンとは、主成分としてアビエチン酸を含むロジンを不均化触媒の存在下で高温加熱することによって、分子内の不安定な共役二重結合を消失させたもので、主成分として、デヒドロアビエチン酸とジヒドロアビエチン酸との混合物である。
不均化触媒としては、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボンなどの担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物、リン系化合物等の各種公知のものが挙げられる。該触媒の使用量はロジンに対して通常0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、さらに好ましくは0.01質量%以上1質量%以下であり、反応温度は100℃以上300℃以下が好ましく、さらに好ましくは150℃以上290℃以下である。なおデヒドロアビエチン酸量を制御する方法としては例えば、不均化ロジンからエタノールアミン塩として結晶化する方法(J.Org.Chem.,31,4246(1996))により単離したデヒドロアビエチン酸を狙いとするデヒドロアビエチン酸量になるように不均化触媒の存在下で高温加熱して調製した不均化ロジンに添加しても良い。
【0055】
本実施形態のロジンは水素化ロジンでも良い。水素化ロジンとは、主成分としてテトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸を含み、公知の水素化反応により分子内の不安定な共役二重結合を消失させて得ることができる。水素化反応は水素化触媒の存在下に通常10Kg/cm2以上200Kg/cm2以下、好ましくは50Kg/cm2以上150Kg/cm2以下の水素加圧下で、未精製ロジンを加熱することにより行なう。水素化触媒としては、パラジウムカーボン、ロジウムカーボン、白金カーボンなどの担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物等の各種公知のものを例示しうる。該触媒の使用量は、ロジンに対して通常0.01質量%以上5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下であり、反応温度は100℃以上300℃以下、好ましくは150℃以上290℃以下である。
これらの不均化ロジン、水素化ロジンは、不均化処理、又は水素化処理の前後において、上記精製工程を設けても良い。
【0056】
また、本実施形態のロジンはロジンを重合して得られる重合ロジン、ロジンに不飽和カルボン酸を付加させた不飽和カルボン酸変性ロジン、フェノール変性ロジンでも良い。なお、不飽和カルボン酸変性ロジンの調製に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。当該不飽和カルボン酸変性ロジンは、原料ロジン100質量部に対し、不飽和カルボン酸を通常1質量部以上30質量部以下程度用いて変性したものである。
【0057】
本実施形態におけるロジンは上記ロジンのうち上記精製ロジン、不均化ロジン、水素化ロジンが好ましく、これらを単独で用いても、いずれかの混合物でも良い。
【0058】
以下に、本実施形態で好適に用いうる特定ロジンジオールの例示化合物を以下に示すが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0059】
【化5】

【0060】
【化6】

【0061】
【化7】

【0062】
【化8】

【0063】
【化9】

【0064】
【化10】

【0065】
【化11】

【0066】
なお、上記特定ロジンジオールの例示化合物において、nは1以上の整数を表す。
【0067】
本実施形態において、ジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカ
ルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。例えば、フタル
酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレ
ンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、
シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼラ
イン酸、ダイマー酸、分岐鎖を有する炭素数1以上20以下のアルキルコハク酸、分岐鎖
を有する炭素数1以上20以下のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸等の脂肪族ジ
カルボン酸;それらの酸の無水物及び、それらの酸のアルキル(炭素数1以上3以下)エ
ステル等が挙げられる。これらの中では、トナーの耐久性、定着性及び着色剤の分散性の
観点、及び入手容易性の観点からイソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸、コハク酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族カルボン酸が好ましい。
【0068】
これらの芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸は単独で用いられても、2種以上が併用されていても良い。また、本実施形態の効果を損なわない範囲で3価以上の芳香族カルボン酸も用いることができる。3価以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸やその無水物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。3価以上の芳香族カルボン酸としては、入手容易性、反応性の観点から無水トリメリット酸が好ましい。
【0069】
本実施形態においては、ジアルコール成分として特定ロジンジオール以外のその他のジアルコール成分を併用してもよい。本実施形態における特定ロジンジオールの含有量は、帯電性の観点からジアルコール成分中10モル%以上100モル%以下が好ましく、20モル%以上90モル%以下がより好ましい。
【0070】
前記特定ロジンジオール以外のアルコール成分として、脂肪族ジオール及びエーテル化ジフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種をトナー性能を落とさない範囲で用いることができる。
脂肪族ジオールの例としては、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロパノエート、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これら脂肪族ジオールは単独で用いても、二種以上を併用しても良い。
また、本実施形態において、脂肪族ジオールと共に、エーテル化ジフェノールを更に用いても良い。エーテル化ジフェノールとは、ビスフェノールAとアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるジオールであり、該アルキレンオキサイドとしてはエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドであり、該アルキレンオキサイドの平均付加モル数がビスフェノールAの1モルに対して2モル以上16モル以下であるものが好ましい。
【0071】
また、本実施形態の効果を損なわない範囲で3価以上のポリオールも用いることができる。3価以上のポリオールとしてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。3価以上のポリオールとしては、入手容易性、反応性の観点からグリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0072】
本実施形態の特定ポリエステルは、前記酸成分、アルコール成分を原料として、公知慣用の製造方法によって調製される。その反応方法としては、エステル交換反応又は直接エステル化反応のいずれも適用可能である。また、加圧して反応温度を高くする方法、減圧法又は常圧下で不活性ガスを流す方法によって重縮合を促進することもできる。上記反応によっては、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム及びマンガンより選ばれる少なくとも1種の金属化合物等、公知慣用の反応触媒が用いられ、反応が促進されてもよい。これら反応触媒の添加量は酸成分とアルコール成分の総量100質量部に対して、0.01質量部以上1.5質量部以下が好ましく、0.05質量部以上1.0質量部以下がより好ましい。反応温度は180℃以上300℃以下の温度で行うことができる。
【0073】
トナーの定着性、保存性、及び耐久性の観点から本実施形態の特定ポリエステルの軟化温度は80℃以上160℃以下が好ましく、90℃以上150℃以下がより好ましい。本実施形態の特定ポリエステルのガラス転移温度は、定着性、保存性、及び耐久性の観点から35℃以上80℃以下が好ましく、40℃以上70℃以下がより好ましい。軟化温度及びガラス転移温度は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整、又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0074】
本実施形態の特定ポリエステルの酸価は、トナーの帯電性の観点から3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下とされるが、9mgKOH/g以上21mgKOH/g以下が好ましい。酸価が30mgKOH/gより大きいと含水しやすく、特に夏場環境において帯電が悪化し、酸価が3mgKOH/gより小さいと帯電が著しく悪化することがある。
【0075】
本実施形態の特定ポリエステルはロジンエステル基を含有するが、該ロジンエステル基は疎水性を示し嵩高い基である。また、一般にトナーの空気界面は疎水性を示すことから、本実施形態の特定ポリエステルを含有する本実施形態のトナー表面にはロジンエステル基が露出しやすい。特に本実施形態の特定ロジンジオールを含有する特定ポリエステルは主鎖中ではなく、側鎖にロジンエステル基を含有するため、自由度が高く、より表面に露出しやすい傾向がある。しかし、トナー表面に露出するロジンエステル基の量が多いとトナーの帯電が悪化する場合がある。本実施形態においては、特定ポリエステルの酸価を3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下とすることで、トナーが望ましい帯電量となるように調整される。
【0076】
トナーの耐久性、耐ホットオフセットの観点から、本実施形態の特定ポリエステルの重量平均分子量は4,000以上1,000,000以下が好ましく、7,000以上300,000以下がより好ましい。
【0077】
なお、本実施形態の特定ポリエステルは、変性されたポリエステルであっても良い。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルを包含する。
【0078】
本実施形態の特定ポリエステルをトナー用結着樹脂として用いることにより、帯電性に優れたトナーを得ることができる。本実施形態のトナーには、本実施形態の効果を損なわない範囲で、公知の結着樹脂、例えば、スチレン−アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されても良いが、本実施形態の特定ポリエステルの含有量は、結着樹脂中、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%であることがさらに好ましい。
【0079】
<トナー>
本実施形態のトナーは、本実施形態の特定ポリエステルを含有し、必要に応じて着色剤、離型剤、外添剤等のその他の成分を含んでもよい。
【0080】
本実施形態で用いられる着色剤としては、染料であっても顔料であってもかまわないが、耐光性や耐水性の観点から顔料が望ましい。
望ましい着色剤としては、カーボンブラック、アニリンブラック、アニリンブルー、カルコイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオキサレート、ランプブラック、ローズベンガル、キナクリドン、ベンジシンイエロー、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド185、C.I.ピグメント・レッド238、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3等の公知の顔料を使用してもよい。
【0081】
本実施形態のトナーにおける前記着色剤の含有量としては、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下の範囲が望ましい。また、必要に応じて表面処理された着色剤を使用したり、顔料分散剤を使用したりすることも有効である。前記着色剤の種類を選択することにより、イエロートナー、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナー等が得られる。
【0082】
本実施形態で用いられる離型剤としては、例えば、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン等のパラフィンワックス;シリコーン樹脂;ロジン類;ライスワックス;カルナバワックス;等が挙げられる。これらの離型剤の融解温度は、50℃以上100℃以下が望ましく、60℃以上95℃以下がより望ましい。離型剤のトナー中の含有量は0.5質量%以上15質量%以下が望ましく、1.0質量%以上12質量%以下がより望ましい。離型剤の含有量が0.5質量%以上であれば、特にオイルレス定着において剥離不良の発生が防止される。離型剤の含有量が15質量%以下であれば、トナーの流動性が悪化することがなく、画質および画像形成の信頼性が向上する。
【0083】
本実施形態で用いられる帯電制御剤としては、公知のものを使用してもよいが、アゾ系金属錯化合物、サリチル酸の金属錯化合物、極性基を含有するレジンタイプの帯電制御剤を用いてもよい。
【0084】
本実施形態のトナーは、流動性の向上などを目的として、白色の無機粉末を外添剤として含有してもよい。適当な無機粉末としては、例えば、シリカ粉末、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化硅素、窒化硅素などが挙げられるが、シリカ粉末が特に望ましい。かかる無機粉末のトナーに混合される割合は、通常、トナー100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下の範囲であり、望ましくは0.01質量部以上2.0質量部以下の範囲である。また、かかる無機粉末に、シリカ、チタン、樹脂粒子(ポリスチレン、PMMA、メラミン樹脂等の樹脂粒子)、アルミナ等の公知の材料を併用してもよい。また、クリーニング活剤として、ステアリン酸亜鉛に代表される高級脂肪酸の金属塩、フッ素系高分子量体の粒子粉末を添加してもよい。
【0085】
−トナーの特性−
本実施形態のトナーの形状係数SF1は110以上150以下の範囲であることが望ましく、120以上140以下の範囲であることがより望ましい。
【0086】
ここで上記形状係数SF1は、下記式(1)により求められる。
SF1=(ML/A)×(π/4)×100 ・・・ 式(1)
上記式(1)中、MLはトナーの絶対最大長、Aはトナーの投影面積を各々示す。
【0087】
SF1は、主に顕微鏡画像または走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析装置を用いて解析することによって数値化され、例えば、以下のようにして算出される。すなわち、スライドガラス表面に散布した粒子の光学顕微鏡像をビデオカメラを通じてルーゼックス画像解析装置に取り込み、100個の粒子の最大長と投影面積を求め、上記式(1)によって計算し、その平均値を求めることにより得られる。
【0088】
本実施形態のトナーの体積平均粒子径は8μm以上15μm以下の範囲であることが望ましく、より望ましくは9μm以上14μm以下の範囲であり、さらに望ましくは10μm以上12μm以下の範囲である。
【0089】
なお、上記体積平均粒子径の測定は、コールターマルチサイザー(コールター社製)を用いて、50μmのアパーチャー径で行われる。この際、測定はトナーを電解質水溶液(アイソトン水溶液)に分散させ、超音波により30秒以上分散させた後に行った。
【0090】
本実施形態のトナーの製造方法は特に限定されず、公知である混練粉砕法等の乾式法や、乳化凝集法や懸濁重合法等の湿式法等によってトナー粒子を作製し、必要に応じてトナー粒子に外添剤が外添されてトナーが得られる。
【0091】
混練粉砕法は、結着樹脂を含むトナー形成材料を混錬して混錬物を得た後、前記混錬物を粉砕することによりトナー粒子を作製する方法である。
混練粉砕法は、より詳細には、結着樹脂を含むトナー形成材料を混錬する混錬工程と、前記混錬物を粉砕する粉砕工程とに分けられる。必要に応じて、混錬工程により形成された混錬物を冷却する冷却工程等、他の工程を有してもよい。
各工程について詳しく説明する。
【0092】
−混錬工程−
混錬工程は、結着樹脂を含むトナー形成材料を混錬する。
混錬工程においては、トナー形成材料100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下の水系媒体(例えば、蒸留水やイオン交換水等の水、アルコール類等)を添加することが望ましい。
【0093】
混錬工程に用いられる混錬機としては、例えば、1軸押出し機、2軸押出し機等が挙げられる。以下、混錬機の一例として、送りスクリュー部と2箇所のニーディング部とを有する混錬機について図を用いて説明するが、これに限られるわけではない。
【0094】
図1は、本実施形態のトナーの製造方法における混錬工程で用いるスクリュー押出機の一例について、スクリューの状態を説明する図である。
スクリュー押出し機11は、スクリュー(図示せず)を備えたバレル12と、バレル12にトナーの原料であるトナー形成材料を注入する注入口14と、バレル12中のトナー形成材料に水系媒体を添加するための液体添加口16と、バレル12中でトナー形成材料が混錬されて形成された混錬物を排出する排出口18と、から構成されている。
【0095】
バレル12は、注入口14に近いほうから順に、注入口14から注入されたトナー形成材料をニーディング部NAに輸送する送りスクリュー部SA、トナー形成材料を第1の混錬工程により溶融混錬するためのニーディング部NA、ニーディング部NAにおいて溶融混錬されたトナー形成材料をニーディング部NBに輸送する送りスクリュー部SB、トナー形成材料を第2の混錬工程により溶融混錬し混錬物を形成するニーディング部NB、及び形成された混錬物を排出口18に輸送する送りスクリュー部SCに分かれている。
【0096】
またバレル12の内部には、ブロックごとに異なる温度制御手段(図示せず)が備えられている。すなわち、ブロック12Aからブロック12Jまで、それぞれ異なる温度に制御してもよい構成となっている。なお図1は、ブロック12A及びブロック12Bの温度をt0℃に、ブロック12Cからブロック12Eの温度をt1℃に、ブロック12Fからブロック12Jの温度をt2℃に、それぞれ制御している状態を示している。そのため、ニーディング部NAのトナー形成材料はt1℃に加熱され、ニーディング部NBのトナー形成材料はt2℃に加熱される。
【0097】
結着樹脂を含むトナー形成材料を、注入口14からバレル12へ供給すると、送りスクリュー部SAによりニーディング部NAへトナー形成材料が送られる。このとき、ブロック12Cの温度がt1℃に設定されているため、トナー形成材料は加熱されて溶融状態へと変化した状態で、ニーディング部NAに送り込まれる。そして、ブロック12D及びブロック12Eの温度もt1℃に設定されているため、ニーディング部NAではt1℃の温度でトナー形成材料が溶融混錬される。結着樹脂は、ニーディング部NAにおいて溶融状態となり、スクリューによりせん断を受ける。
【0098】
次に、ニーディング部NAにおける混錬を経たトナー形成材料は、送りスクリュー部SBによりニーディング部NBへと送られる。
ついで、送りスクリュー部SBにおいて、液体添加口16からバレル12に水系媒体を注入することにより、トナー形成材料に水系媒体を添加する。また図1では、送りスクリュー部SBにおいて水系媒体を注入する形態を示しているが、これに限られず、ニーディング部NBにおいて水系媒体が注入されてもよく、送りスクリュー部SB及びニーディング部NBの両方において水系媒体が注入されてもよい。すなわち、水系媒体を注入する位置及び注入箇所は、必要に応じて選択される。
【0099】
上記のように、液体添加口16からバレル12に水系媒体が注入されることにより、バレル12中のトナー形成材料と水系媒体とが混合し、水系媒体の蒸発潜熱によりトナー形成材料が冷却され、トナー形成材料の温度が適切に保たれる。
最後に、ニーディング部NBにより溶融混錬されて形成された混錬物は、送りスクリュー部SCにより排出口18に輸送され、排出口18から排出される。
以上のようにして、図1に示したスクリュー押出機11を用いた混錬工程が行われる。
【0100】
−冷却工程−
冷却工程は、上記混錬工程において形成された混錬物を冷却する工程であり、冷却工程では、混錬工程終了の際における混錬物の温度から4℃/sec以上の平均降温速度で40℃以下まで冷却することが好ましい。上記平均降温速度で急冷すると、混錬工程終了直後の分散状態がそのまま保たれるため好ましい。なお上記平均降温速度とは、混錬工程終了の際における混錬物の温度(例えば図1のスクリュー押出し機11を用いた場合は、t2℃)から40℃まで降温させる速度の平均値をいう。
冷却工程における冷却方法としては、具体的には、例えば、冷水又はブラインを循環させた圧延ロール及び挟み込み式冷却ベルト等を用いる方法が挙げられる。なお、前記方法により冷却を行う場合、その冷却速度は、圧延ロールの速度、ブラインの流量、混錬物の供給量、混錬物の圧延時のスラブ厚等で決定される。スラブ厚は、1から3mmの薄さであることが好ましい。
【0101】
−粉砕工程−
冷却工程により冷却された混錬物は、粉砕工程により粉砕され、粒子が形成される。粉砕工程では、例えば、機械式粉砕機、ジェット式粉砕機等が使用される。
【0102】
−分級工程−
粉砕工程により得られた粒子は、必要に応じて、目的とする範囲の体積平均粒子径のトナー粒子を得るため、分級工程により分級を行ってもよい。分級工程においては、従来から使用されている遠心式分級機、慣性式分級機等が使用され、微粉(目的とする範囲の粒径よりも小さい粒子)及び粗粉(目的とする範囲の粒径よりも大きい粒子)が除去される。
【0103】
−外添工程−
得られたトナー粒子は、帯電調整、流動性付与、電荷交換性付与等を目的として、既述の特定シリカ、チタニア、酸化アルミに代表される無機粉末を添加付着してもよい。これらは、例えばV型ブレンダーやヘンシェルミキサー、レディゲミキサー等によって行われ、段階を分けて付着される。
【0104】
−篩分工程−
上記外添工程の後に、必要に応じて篩分工程を設けてもよい。篩分方法としては、具体的には、例えば、ジャイロシフター、振動篩分機、風力篩分機等が挙げられる。篩分することにより、外添剤の粗粉等が取り除かれ、感光体上の筋の発生、装置内のぼた汚れなどが抑制される。
【0105】
<現像剤>
本実施形態の現像剤は、本実施形態のトナーを少なくとも含むものである。
本実施形態のトナーは、そのまま一成分現像剤として、あるいは二成分現像剤として用いられる。二成分現像剤として用いる場合にはキャリアと混合して使用される。
【0106】
二成分現像剤に使用し得るキャリアとしては、特に制限はなく、公知のキャリアを用いてもよい。例えば酸化鉄、ニッケル、コバルト等の磁性金属、フェライト、マグネタイト等の磁性酸化物や、これら芯材表面に樹脂被覆層を有する樹脂コートキャリア、磁性分散型キャリア等が挙げられる。またマトリックス樹脂に導電材料などが分散された樹脂分散型キャリアであってもよい。
【0107】
前記二成分現像剤における、トナーとキャリアとの混合比(質量比)は、トナー:キャリア=1:100乃至30:100程度の範囲が好ましく、3:100乃至20:100程度の範囲がより好ましい。
【0108】
<画像形成装置および画像形成方法>
次に、本実施形態の現像剤を用いた本実施形態の画像形成装置について説明する。
本実施形態の画像形成装置は、潜像保持体と、前記潜像保持体表面を帯電する帯電手段と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記静電潜像を本実施形態の現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、を備える。
本実施形態の画像形成装置により、潜像保持体表面を帯電する帯電工程と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、前記静電潜像を本実施形態の現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写工程と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着工程と、を有する本実施形態の画像形成方法が実施される。
【0109】
尚、この画像形成装置において、例えば前記現像手段を含む部分が、画像形成装置本体に対して着脱可能なカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよい。該プロセスカートリッジとしては、本実施形態の現像剤を収納し、潜像保持体表面に形成された静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、画像形成装置に着脱される本実施形態のプロセスカートリッジが好適に用いられる。
【0110】
以下、本実施形態の画像形成装置の一例を示すが、本実施形態はこれに限定されるわけではない。尚、図に示す主用部を説明し、その他はその説明を省略する。
図2は、4連タンデム方式のカラー画像形成装置を示す概略構成図である。図2に示す画像形成装置は、色分解された画像データに基づくイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を出力する電子写真方式の第1乃至第4の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10K(画像形成手段)を備えている。これらの画像形成ユニット(以下、単に「ユニット」ということがある。)10Y、10M、10C、10Kは、水平方向に互いに予め定められた距離離間して並設されている。なお、これらユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成装置本体に対して着脱可能なプロセスカートリッジであってもよい。
【0111】
各ユニット10Y、10M、10C、10Kの図中における上方には、各ユニットを通して中間転写体としての中間転写ベルト20が延設されている。中間転写ベルト20は、中間転写ベルト20内面に接する駆動ローラ22および支持ローラ24に巻回されて設けられ、第1ユニット10Yから第4ユニット10Kに向う方向に走行されるようになっている。尚、支持ローラ24は、図示しないバネ等により駆動ローラ22から離れる方向に付勢されており、両者に巻回された中間転写ベルト20に予め定められた張力が与えられている。また、中間転写ベルト20の潜像保持体側面には、駆動ローラ22と対向して中間転写体クリーニング装置30が備えられている。
また、各ユニット10Y、10M、10C、10Kの現像装置(現像手段)4Y、4M、4C、4Kのそれぞれには、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kに収容されたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナーが供給可能である。
【0112】
上述した第1乃至第4ユニット10Y、10M、10C、10Kは、同等の構成を有しているため、ここでは中間転写ベルト走行方向の上流側に配設されたイエロー画像を形成する第1ユニット10Yについて代表して説明する。尚、第1ユニット10Yと同等の部分に、イエロー(Y)の代わりに、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を付した参照符号を付すことにより、第2乃至第4ユニット10M、10C、10Kの説明を省略する。
【0113】
第1ユニット10Yは、潜像保持体として作用する感光体1Yを有している。感光体1Yの周囲には、感光体1Yの表面を予め定められた電位に帯電させる帯電ローラ2Y、帯電された表面を色分解された画像信号に基づくレーザ光線3Yによって露光して静電潜像を形成する露光装置3、静電潜像に帯電したトナーを供給して静電潜像を現像する現像装置(現像手段)4Y、現像したトナー像を中間転写ベルト20上に転写する1次転写ローラ(1次転写手段)5Y、および1次転写後に感光体1Yの表面に残存するトナーを除去する感光体クリーニング装置(クリーニング手段)6Yが順に配設されている。
尚、1次転写ローラ5Yは、中間転写ベルト20の内側に配置され、感光体1Yに対向した位置に設けられている。更に、各1次転写ローラ5Y、5M、5C、5Kには、1次転写バイアスを印加するバイアス電源(図示せず)がそれぞれ接続されている。各バイアス電源は、図示しない制御部による制御によって、各1次転写ローラに印加する転写バイアスを可変する。
【0114】
以下、第1ユニット10Yにおいてイエロー画像を形成する動作について説明する。まず、動作に先立って、帯電ローラ2Yによって感光体1Yの表面が−600V以上−800V以下程度の電位に帯電される。
感光体1Yは、導電性(20℃における体積抵抗率:1×10−6Ωcm以下)の基体上に感光層を積層して形成されている。この感光層は、通常は高抵抗(一般の樹脂程度の抵抗)であるが、レーザ光線3Yが照射されると、レーザ光線が照射された部分の比抵抗が変化する性質を持っている。そこで、帯電した感光体1Yの表面に、図示しない制御部から送られてくるイエロー用の画像データに従って、露光装置3を介してレーザ光線3Yを出力する。レーザ光線3Yは、感光体1Yの表面の感光層に照射され、それにより、イエロー印字パターンの静電潜像が感光体1Yの表面に形成される。
【0115】
静電潜像とは、帯電によって感光体1Yの表面に形成される像であり、レーザ光線3Yによって感光層の被照射部分の比抵抗が低下し、感光体1Yの表面の帯電した電荷が流れ、一方、レーザ光線3Yが照射されなかった部分の電荷が残留することによって形成される、いわゆるネガ潜像である。
このようにして感光体1Y上に形成された静電潜像は、感光体1Yの走行に従って予め定められた現像位置まで回転される。そして、この現像位置で、感光体1Y上の静電潜像が、現像装置4Yによって可視像(現像像)化される。
【0116】
現像装置4Y内に収納されているイエロー現像剤は、現像装置4Yの内部で攪拌されることで摩擦帯電し、感光体1Y上に帯電した帯電荷と同極性(負極性)の電荷を有して現像剤ロール(現像剤保持体)上に保持されている。そして感光体1Yの表面が現像装置4Yを通過していくことにより、感光体1Y表面上の除電された潜像部にイエロートナーが静電的に付着し、潜像がイエロートナーによって現像される。イエローのトナー像が形成された感光体1Yは、引続き予め定められた速度で走行され、感光体1Y上に現像されたトナー像が予め定められた1次転写位置へ搬送される。
【0117】
感光体1Y上のイエロートナー像が1次転写位置へ搬送されると、1次転写ローラ5Yに予め定められた1次転写バイアスが印加され、感光体1Yから1次転写ローラ5Yに向かう静電気力がトナー像に作用され、感光体1Y上のトナー像が中間転写ベルト20上に転写される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と逆極性(+)の極性であり、例えば第1ユニット10Yでは制御部(図示せず)によって+10μA程度に制御されている。
一方、感光体1Y上に残留したトナーはクリーニング装置6Yで除去されて回収される。
【0118】
また、第2ユニット10M以降の1次転写ローラ5M、5C、5Kに印加される1次転写バイアスも、第1ユニットに準じて制御されている。
こうして、第1ユニット10Yにてイエロートナー像の転写された中間転写ベルト20は、第2乃至第4ユニット10M、10C、10Kを通して順次搬送され、各色のトナー像が重ね合わされて重ね合わせトナー像が形成される。
【0119】
第1乃至第4ユニットを通して4色のトナー像が重ね合わされた中間転写ベルト20は、中間転写ベルト20と中間転写ベルト20内面に接する支持ローラ24と中間転写ベルト20の像保持面側に配置された2次転写ローラ(2次転写手段)26とから構成された2次転写部へと至る。一方、記録紙(被転写体)Pが供給機構を介して2次転写ローラ26と中間転写ベルト20とが圧接されている隙間に予め定められたタイミングで給紙され、予め定められた2次転写バイアスが支持ローラ24に印加される。このとき印加される転写バイアスは、トナーの極性(−)と同極性(−)の極性であり、中間転写ベルト20から記録紙Pに向かう静電気力が重ね合わせトナー像に作用され、中間転写ベルト20上の重ね合わせトナー像が記録紙P上に転写される。尚、この際の2次転写バイアスは2次転写部の抵抗を検出する抵抗検出手段(図示せず)により検出された抵抗に応じて決定されるものであり、電圧制御されている。
【0120】
この後、記録紙Pは定着装置(定着手段)28へと送り込まれ重ね合わせトナー像が加熱され、色重ねしたトナー像が溶融されて、記録紙P上へ定着される。カラー画像の定着が完了した記録紙Pは、排出部へ向けて搬送ロール(排出ロール)32により搬送され、一連のカラー画像形成動作が終了される。
尚、上記例示した画像形成装置は、中間転写ベルト20を介して重ね合わせトナー像を記録紙Pに転写する構成となっているが、この構成に限定されるものではなく、感光体から直接トナー像が記録紙に転写される構造であってもよい。
【0121】
<プロセスカートリッジ、トナーカートリッジ>
図3は、本実施形態の現像剤を収納するプロセスカートリッジの好適な一例を示す概略構成図である。プロセスカートリッジ200は、感光体107とともに、帯電装置108、現像装置111、感光体クリーニング装置(クリーニング手段)113、露光のための開口部118、および除電露光のための開口部117を取り付けレール116を用いて組み合わせ、そして一体化したものである。
上記プロセスカートリッジ200は、転写装置112と、定着装置115と、図示しない他の構成部分とから構成される画像形成装置本体に対して着脱自在としたものであり、画像形成装置本体とともに画像形成装置を構成するものである。尚、300は記録紙である。
【0122】
図3で示すプロセスカートリッジ200では、感光体107、帯電装置108、現像装置111、感光体クリーニング装置113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117を備えているが、これら装置は選択的に組み合わせてもよい。本実施形態のプロセスカートリッジでは、現像装置111のほかには、感光体107、帯電装置108、感光体クリーニング装置(クリーニング手段)113、露光のための開口部118、及び、除電露光のための開口部117から構成される群から選択される少なくとも1種を備えてもよい。
【0123】
次に、トナーカートリッジについて説明する。
トナーカートリッジは、画像形成装置に着脱可能に装着され、少なくとも、前記画像形成装置内に設けられた現像手段に供給するためのトナーを収容するトナーカートリッジにおいて、前記トナーが既述した本実施形態のトナーとしたものである。なお、トナーカートリッジには少なくともトナーが収容されればよく、画像形成装置の機構によっては、例えば現像剤が収められてもよい。
【0124】
なお、図2に示す画像形成装置は、トナーカートリッジ8Y、8M、8C、8Kの着脱が可能な構成を有する画像形成装置であり、現像装置4Y、4M、4C、4Kは、各々の現像装置(色)に対応したトナーカートリッジと、図示しない現像剤供給管で接続されている。また、トナーカートリッジ内に収納されている現像剤が少なくなった場合には、このトナーカートリッジを交換することができる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例を挙げて本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。なお、実施例中において「部」及び「%」は、特に断りのない限り「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0126】
〔各種物性の測定方法〕
<軟化温度の測定>
軟化温度の測定は、高化式フローテスターCFT−500(島津製作所社製)を用い、ダイスの細孔の径を0.5mm、加圧荷重を0.98MPa(10Kg/cm)、昇温速度を1℃/分とした条件下で、1cmの試料を溶融流出させたときの流出開始点から終了点の高さの1/2に相当する温度として求めた。
【0127】
<ガラス転移温度の測定>
「DSC−20」(セイコー電子工業(株)製)を使用し、試料10mgを一定の昇温速度(10℃/min)で加熱して測定した。
【0128】
<重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定>
装置HLC−8120GPC、SC−8020(東ソー製)と、カラムTSKgel SuperHM−H (6.0mmID×15cm×2本)(東ソー製)とを用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。実験条件としては、試料濃度0.5%、流速0.6ml/min、サンプル注入量10μl、測定温度40℃、RI検出器を用いて実験を行った。また、検量線は東ソー(株)製「Polystyrene標準試料TSK standard」:「A−500」、「F−1」、「F−10」、「F−80」、「F−380」、「A−2500」、「F−4」、「F−40」、「F−128」、「F−700」の10サンプルから作製した。
【0129】
<酸価の測定>
酸価は、JIS K0070に従って行い、中和滴定法を用いた測定で行った。即ち、適当量の試料を分取し、溶剤(ジエチルエーテル/エタノール混合液)100ml、及び、指示薬(フェノールフタレイン溶液)数滴を加え、水浴上で試料が完全に溶けるまで充分に振り混ぜる。これに、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬の薄い紅色が30秒間続いた時を終点とした。酸価をA、試料量をS(g)、滴定に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液をB(ml)、fを0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクターとした時、A=(B×f×5.611)/Sとして算出した。
【0130】
〔合成例1〕
−特定ロジンジオール(1)の合成−
2官能エポキシ化合物としてビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名jER828、三菱化学(株)製、Mw340.41)113部、ロジン成分として蒸留による精製処理(蒸留条件:6.6kPa、220℃)を行ったガムロジン(Mw302.45)200部、及び反応触媒としてテトラエチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)0.4部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンの酸基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、上記例示化合物として挙げられた特定ロジンジオール(1)を得た。
【0131】
−特定ポリエステル1の合成−
アルコール成分として特定ロジンジオール(1) 300部、酸成分としてテレフタル酸(和光純薬工業(株)製)53部、及び反応触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート(東京化成工業(株)製)0.3部を攪拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら230℃で7時間重縮合反応させ、所定の分子量、酸価に達したことを確認し、特定ポリエステル1を合成した。合成した特定ポリエステル1を2gとり、重ジメチルスルホキシド10mlと水酸化ナトリウムの重メタノール溶液(7N)2ml中で150℃、3時間加熱し、加水分解させた。その後、重水を加え、H−NMR測定を行い、特定ロジンジオール(1)、及びテレフタル酸で仕込み値通り樹脂が構成されていることを確認した。
【0132】
〔合成例2〕
−特定ロジンジオール(30)の合成−
2官能エポキシ化合物としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名EX−810、ナガセケムテックス(株)製,Mw174.19)58部、ロジン成分として不均化ロジン(商品名パインクリスタルKR614、荒川化学工業(株)製,Mw300.44)200部、及び反応触媒としてテトラエチルアンモニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)0.4部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンの酸基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、上記例示化合物として挙げられた特定ロジンジオール(30)を得た。
【0133】
−特定ポリエステル2の合成−
アルコール成分として特定ロジンジオール(30) 250部、酸成分としてテレフタル酸(和光純薬工業(株)製)42部、ドデセニルコハク酸無水物(東京化成工業(株)製)17部及び反応触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート(東京化成工業(株)製)0.3部を攪拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら230℃で7時間重縮合反応させ、所定の分子量、酸価に達したことを確認し、特定ポリエステル2を合成した。合成した特定ポリエステル2を2gとり、重ジメチルスルホキシド10mlと水酸化ナトリウムの重メタノール溶液(7N)2ml中で150℃、3時間加熱し、加水分解させた。その後、重水を加え、H−NMR測定を行い、特定ロジンジオール(30)、テレフタル酸、及びドデセニルコハク酸で仕込み値通り樹脂が構成されていることを確認した。
【0134】
〔合成例3乃至21〕
合成例1の特定ポリエステル1の合成と同様の方法で、表2及び表3に示すモノマーを用いて特定ポリエステル3乃至21の合成を行った。分子量、酸価、ガラス転移温度、軟化温度の測定結果、及び、ロジンの種類を表2及び表3に示す。
【0135】
〔合成例22〕
―特定ロジンジオール(18)の合成−
2官能エポキシ化合物としてビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名jER828、三菱化学(株)製、Mw370)250部、ロジン成分として不均化ロジン(商品名ロンチ゛スR、荒川化学工業(株)製、Mw343.6)440部、及び反応触媒としてトリフェニルホスフィン0.8部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製容器に仕込み、130℃に温度を上げ、ロジンの酸基とエポキシ化合物のエポキシ基との開環反応を行った。同温度で4時間継続して行い、酸価が0.5mgKOH/gになった時点で反応を停止し、上記例示化合物として挙げられた特定ロジンジオール(18)を得た。
【0136】
−特定ポリエステル22の合成−
次に、上記特定ロジンジオール(18)198部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物(日本乳化剤(株)製)100部、酸成分としてコハク酸(東京化成工業(株)製)59部、無水トリメリット酸(和光純薬工業(株)製)9部、及び反応触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート(東京化成工業(株)製)0.3部を攪拌装置、加熱装置、温度計、分留装置、窒素ガス導入管を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら230℃で7時間重縮合反応させ、所定の分子量、酸価に達したことを確認し、特定ポリエステル22を合成した。合成した特定ポリエステル22を2gとり、重ジメチルスルホキシド10mlと水酸化ナトリウムの重メタノール溶液(7N)2ml中で150℃、3時間加熱し、加水分解させた。その後、重水を加え、1H-NMR測定を行い、特定ロジンジオール(18)、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物、コハク酸、無水トリメリット酸で仕込み値通り樹脂が構成されていることを確認した。
【0137】
〔合成例23乃至26、比較合成例3、4〕
合成例22の特定ポリエステル22の合成と同様の方法で表4及び表5に示すモノマーを用いて特定ポリエステル23乃至26、比較用ポリエステル3及び4の合成を行った。分子量、酸価、ガラス転移温度、軟化温度の測定結果、ロジンの種類を表4及び表5に示す。
【0138】
〔合成例27、28、比較合成例5、6〕
合成例22のビスフェノールAジグリシジルエーテルと不均化ロジンの仕込み量を表6のように変えたこと以外は合成例22と同様の方法で特定ポリエステル27及び28、比較用ポリエステル5及び6の合成を行った。分子量、酸価、ガラス転移温度、軟化温度の測定結果、ロジンの種類を表4及び表5に示す。但し、比較用ポリエステル6は反応途中で急激な粘度上昇によりゲル化が起こり、目的樹脂は得られなかった。
【0139】
〔実施例1〕
−トナー粒子1の製造−
下記混合物をエクストルーダーで混練し、表面粉砕方式の粉砕機で粉砕した。その後、風力式分級機(ターボクラシファイアー(TC−15N),日清エンジニアリング社製)で細粒、粗粒を分級し、その中間サイズの粒子を得る過程を3回繰り返し、体積平均粒子径=8μmのマゼンタ色のトナー粒子1を得た。
【0140】
(混合物組成)
特定ポリエステル1 100部
マゼンタ顔料(C.I.ピグメント レッド57) 3部
【0141】
−トナー1の製造−
トナー粒子1の100部に、シリカ(商品名:R812(日本エアロジル社製))0.5部を加え、高速混合機によって混合し、トナー1を得た。
【0142】
−現像剤1の製造−
上記トナー1とメチルメタクリレート−スチレン共重合体で被覆した粒径50μmのフェライトよりなるキャリアを用い、キャリア100部に対して、トナー1を7部添加し、タンブラーシェーカーミキサーで混合して現像剤1を得た。なお、トナーとキャリアとを混合する際の環境条件を夏場環境(30℃、相対湿度85%)、冬場環境(5℃、相対湿度10%)とした。
【0143】
−評価−
東芝製ブローオフ帯電量測定機を用いて帯電量の測定を行った。その結果、夏場環境では−35.0μC/g、冬場環境では−55.7μC/gの帯電量を示し、両者の比率は0.63を示した。なお、両者の比率は1に近い程、夏場環境と冬場環境との間の帯電量の差が少ないことを示し、望ましい結果である。
さらに電子写真複写機(商品名:A−color、富士ゼロックス(株)製)によってコピーテストを行い、複写3000枚後も良好な画像が得られた。
【0144】
〔実施例2乃至4〕
特定ポリエステル1、マゼンタ顔料(C.I.ピグメント レッド57)を表1に示す特定ポリエステル、顔料に変えたこと以外は実施例1と同様の方法でトナー粒子2乃至4、トナー2乃至4、現像剤2乃至4を得た。次に、実施例1と同様の方法で帯電量測定、及び、コピーテストを行い、いずれも良好な画像が得られた。帯電量測定結果を表7に示す。
【0145】
【表1】

【0146】
〔実施例5乃至21〕
特定ポリエステル1を特定ポリエステル5乃至21に変えたこと以外は実施例3と同様の方法でトナー粒子5乃至21、トナー5乃至21、現像剤5乃至21を得た。次に、実施例1と同様の方法で帯電量測定、及び、コピーテストを行い、いずれも良好な画像が得られた。帯電量測定結果を表7に示す。
【0147】
〔比較例1〕
−比較トナー粒子1の製造−
下記混合物を実施例1と同様の方法で粉砕、分級し、体積平均粒子径=8μmのマゼンタ色の比較トナー粒子1を得た。
【0148】
(混合物組成)
・ポリエステル樹脂1’(テレフタル酸/ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物/シクロヘキサンジメタノール=83部/162部/14部、ガラス転移温度62℃、Mw1.2万、Mn0.35万、酸価12mgKOH/g、軟化温度120℃): 73部
・特定ロジンジオール(1): 27部
・マゼンタ顔料(C.I.ピグメント レッド57): 3部
【0149】
−比較トナー1、比較現像剤1の製造−
実施例1と同様の方法で比較トナー1、比較現像剤1を得た。帯電性測定結果を表7に示す。
【0150】
〔比較例2〕
−比較トナー粒子2の製造−
下記混合物を実施例1と同様の方法で粉砕、分級し、体積平均粒子径=8μmのマゼンタ色の比較トナー粒子2を得た。
【0151】
(混合物組成)
・ポリエステル樹脂2’(下記製造法による): 100部
・マゼンタ顔料(C.I.ピグメント レッド57): 3部
【0152】
−ポリエステル樹脂2’の製造−
アルコール成分としてビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物20部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物207部、カルボン酸成分として、テレフタル酸50部、無水トリメリット酸19部、精製処理(蒸留条件:6.6kPa、220℃)を行ったガムロジン225部、及び反応触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.4部を撹拌装置、加熱装置、冷却管、温度計を備えたステンレス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら230℃で7時間重縮合反応させ、ポリエスエル樹脂2’(ガラス転移温度52℃、Mw0.9万、Mn0.28万、酸価25mgKOH/g、軟化温度109℃)を得た。
【0153】
−比較トナー2、比較現像剤2の製造−
実施例1と同様の方法で比較トナー2、比較現像剤2を得た。帯電性測定結果を表7に示す。
【0154】
〔実施例22乃至28、比較例3乃至5〕
特定ポリエステル1を特定ポリエステル22乃至28、比較用ポリエステル3乃至5に変えたこと以外は実施例3と同様の方法でトナー粒子22乃至28、比較トナー粒子3乃至5、トナー22乃至28、比較トナー3乃至5、現像剤22乃至28、比較現像剤3乃至5を得た。帯電性測定結果を表8に示す。
【0155】
【表2】

【0156】
【表3】

【0157】
【表4】

【0158】
【表5】

【0159】
【表6】

【0160】
なお、上記表中において(1)BPA−EOはビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物を、(2)BPA−POはビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物を、各々表す。
【0161】
【表7】

【0162】
【表8】

【符号の説明】
【0163】
1Y,1M,1C,1K,107 感光体(像保持体)
2Y,2M,2C,2K 帯電ローラ
3Y,3M,3C,3K レーザ光線
3 露光装置
4Y,4M,4C,4K,111 現像装置(現像手段)
5Y,5M,5C,5K 1次転写ローラ
6Y,6M,6C,6K,113 感光体クリーニング装置(クリーニング手段)
8Y,8M,8C,8K トナーカートリッジ
10Y,10M,10C,10K ユニット
20 中間転写ベルト
22 駆動ローラ
24 支持ローラ
26 2次転写ローラ(転写手段)
28,115 定着装置(定着手段)
30 中間転写体クリーニング装置
32 搬送ロール(排出ロール)
108 帯電装置
112 転写装置
116 取り付けレール
117 除電露光のための開口部
118 露光のための開口部
200 プロセスカートリッジ,
P,300 記録紙(被転写体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分由来の繰り返し単位と、下記一般式(1)で表されるジアルコール成分由来の繰り返し単位と、を含有し、酸価が3mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であるトナー用ポリエステル樹脂。
【化1】



(一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素、又はメチル基を表わす。L、L、Lはそれぞれ独立にカルボニル基、エステル基、エーテル基、スルホニル基、置換基を有しても良い鎖状アルキレン基、置換基を有しても良い環状アルキレン基、置換基を有しても良いアリーレン基、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表し、LとL又はLとLで環を形成しても良い。A、Aはロジンエステル基を表わす。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるジアルコール成分が、2官能エポキシ化合物とロジンとの反応生成物である請求項1に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記ロジンが、精製処理された精製ロジン、不均化処理された不均化ロジン、又は、水素添加処理された水素化ロジンである請求項2に記載のトナー用ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のトナー用ポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項5】
請求項4に記載のトナーを含む現像剤。
【請求項6】
請求項4に記載のトナーを収納し、
画像形成装置に着脱されるトナーカートリッジ。
【請求項7】
請求項5に記載の現像剤を収納し、潜像保持体表面に形成された静電潜像を前記現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段を備え、
画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジ。
【請求項8】
潜像保持体と、前記潜像保持体表面を帯電する帯電手段と、前記潜像保持体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記静電潜像を請求項5に記載の現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に前記トナー像を定着する定着手段と、を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229413(P2012−229413A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−90444(P2012−90444)
【出願日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】