説明

トマトSlMYB12転写因子およびその遺伝学的選択法

本発明は、SlMYB12転写因子のダウンレギュレーションがトマト果実の無色の果皮y表現形をもたらすことを開示する。本発明は、無色の果皮表現形を有するトマト草木の繁殖および変更したフラボノイド含量を有する遺伝形質転換草木の生産に有用なトマトSlMYB12転写因子をコードするポリヌクレオチドおよびそれに由来した遺伝子マーカーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトマトの色がない果皮表現型に関連したトマトSlMYB12転写因子、およびそれに由来し、無色の果皮表現型を有するトマト木の品種改良およびフラボノイド含有量を変更した形質転換草木の生産に有用な遺伝子マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
大部分の着生草木の表面は、主として脂質、すなわちクチンおよびワックスからなるクチクラの不均一な層で覆われている。クチクラは、器官発現並びに生物的および非生物的なストレス状態に対する保護において重要な役割を果たすユニークな表面構造である。クチンはクチクラの主成分であり、クチンマトリックス中にクチクラワックスが埋設され、極めて長鎖の脂肪酸誘導体の複合混合物である。多くの種において、これらは、トリテルペノイドおよび他の二次代謝産物、例えばステロール、アルカロイドおよびフラボノイドも含む。
【0003】
黄色のフラボノイド・ナリンゲニンカルコン(NarCh)は、トマト果実の乾燥クチクラ重量のほぼ1%まで蓄積する。NarChは、フラボノールの生合成における最初の中間体である。これは、p-クマロイル-CoAおよびマロニル−CoAからカルコンシンターゼ(CHS)によって生成され、その後カルコンイソメラーゼ(CHI)によってナリンゲニン(Nar)に転化される(Muir S.R. et al., 2001.Nat.Biotechnol.19:470-474)。NarChは別として、さまざまな他のフラボノイドがトマト果実に蓄積する。フラボノールルチン(ケルセチン-3-ルチノシド)、およびより少ない程度のケンペロール-3-O-ルチノシドおよびケルセチン三糖類が主にトマト果皮において生成される一方、果肉組織が微量のフラボノイド類のみを蓄積する。これら生化学データは、低レベルのフラボノイド関連の転写物のみが果肉中で検出されるので、トマト果実組織のフラボノイド生合成遺伝子の発現と相関する(Bovy A. et al., 2002. Plant Cell 14: 2509-2526;Mintz-Oron S. et al., 2008.Plant Physiol. 147:823-851)。果皮においては、相当レベルのカルコンシンターゼ(CHS)、フラバノン3’ヒドロキシラーゼ(F3'H)、そしてフラボノールシンターゼ(FLS)酵素をコードしている転写因子を検出できたが、その一方でカルコンイソメラーゼ(CHI)mRNAレベルはかろうじて検出可能であった(Bovy A. et al., 2002, ibid)。低いCHI発現は、その基質NarChの果実の皮への蓄積を説明し得る。実際、ペチュニアCHI遺伝子を発現する形質転換トマト草木は、主にルチンの蓄積およびNarChの同時減少によって、増加したレベルの果実皮フラボノールを示した(Muir et al., 2001, ibid)。このように、フラボノイド経路における他のステップとは異なり、CHI反応だけがトマト果実の皮において妨げられているようだが、大部分の経路は果肉において抑制されるように見える。
【0004】
果実成長中のさまざまな蓄積パターンは、それぞれのフラボノイドで決定することができた。ナリンゲニン(Nar)およびNarCh-ヘキソースのようなフラボノイドが果実成長の間増加する一方、ケルセチン-三糖類のレベルが減少した。Slimestadらは、さまざまなトマト栽培品種の定性的かつ定量的なフラボノイド組成を決定した(Slimestad, R. et al., 2008. J. Agric. Food Chem. 56: 2436-2441) 。広範囲な特性評価は、いろいろなトマトタイプの合計フラボノイド含量が100gの果実の重さ当たり約4から26mgまで幅があり、NarChが合計フラボノイド含量の35-71%を構成する主な化合物であることが明らかになった。イイジマらは、フラボノイドの数が成熟中に増加し、フラボノイド類が果肉より果皮組織で豊富であることを示した(Iijima, Y. et al., 2008. Plant J. 54: 949-962) 。複合転写物および代謝産物分析を使用して、Mintz-Oronら(2008、ibid)は、トマト果皮にクチクラ脂質を生成する経路の活性の増加がフェニルプロパノイドおよびフラボノイド生合成経路の活性に先行することを更に示した。
【0005】
CHI-過剰発現によってトマト果実のNarCh含量を減らすことは、鈍い外観を有するピンクの果実をもたらした(Verhoeyen M.E et al., 2002. J. Exp. Bot. 53: 2099-106) 。類似のピンクの表現型は、NarChを生成する酵素をコードするCHSのRNAi媒介ダウンレギュレーションに応じて得られた(Schijlen E.G. et al. 2007 Plant Physiol. 144:1520-1530) 。合計フラボノイドレベル、CHS1およびCHS2の転写物レベル並びにCHS酵素活性は、これら後者の遺伝形質転換トマト果実においてすべて著しく減少されていた。RNAi発現が最も高い系は、極端に小さく単為結実の果実を生産し、花粉管伸長が抑制された。SEM分析で、トマト果実表皮の典型的な円錐細胞が歪まりおよび圧壊されるので、表皮細胞成長がCHS RNAi草木の果実において強く妨げられたことが分かった。
【0006】
トマトy変異株は、最初は、色がない果実の皮の形成の原因となっている単一遺伝子の劣性突然変異を運ぶものとして1925年に記述され、優位な黄色の「Y」対立遺伝子と対照的な劣性無色の対立遺伝子であることにちなんで「y」と名づけられた(Lindstrom E. W. 1925. Inheritance in tomatoes (Genetics), pp. 305-317) 。1956年に、Rick およびButler は染色体1のSアーム上細胞遺伝学的バンド30に対する連鎖解析によってy突然変異を1-30遺伝子座にマップした(Rick C.M. and Butler, L. 1956. Adv. Genet. 8: 267-382)。y-タイプ果実外観は、多数の野生のトマト種および栽培変種において見られ、アジアの国々において消費される商業的な栽培品種として普及している。
【0007】
フラボノイド生合成経路の転写調節には、いくつかの転写因子の空間的・時間的に調整された発現が関係する(Koes R. et al., 2005. Trends Plant Sci. 10: 236-242; Ramsay N.A. and Glover B.J. 2005. Trends Plant Sci. 10: 63-70; Lepiniec L. et al., 2006. Annu. Rev. Plant Biol. 57: 405-430) 。いくつかの植物種(例えばトウモロコシ、ペチュニア、キンギョソウ、アラビドプシス属、タバコ、ブドウおよびリンゴ)の研究で、R2R3-MYB遺伝子系統の一員がアントシアニン、プロアントシアニジンおよびフラボノールの生産のために必要であることが分かった。フラボノイド関連の転写因子の最も研究された例のうちの2つは、メイズMYB-タイプC1およびMYC-タイプLC遺伝子である。遺伝形質転換トマトの実で特異的に発現される場合、両遺伝子は通常低レベルのフラボノイドのみを生じる果肉のフラボノイド経路のアップレギュレーションに必要および十分であることを示した。最近の調査は、フラボノイド経路遺伝子の転写を調整するのに既知のアラビドプシス属R2R3-MYB転写因子PAP1を過剰発現させている移植遺伝子のトマト系統が増大したレベルのさまざまなフラボノイド派生物を蓄積することを示した(Iijima et al., 2008, ibid) 。ルオらは、もともとタバコおよびトマトのアラビドプシス属のフラボノールに特異的な転写活性化因子として同定されたAtMYB12の発現を、本出願の優先権主張日のあとで発表した(Luo J. et al., 2008. Plant J. 56: 316 - 326) 。タバコでは、AtMYB12が標的遺伝子の発現を誘導して極めて高いフラボノールレベルの蓄積をもたらすことが可能であるが、トマトでは、AtMYB12はまたカフェオイルキナ酸生合成経路も活性化したことを示した。これらのデータは、転写因子が異なる草木種における標的遺伝子に対し種々の特異性を有し得るという以前の見解を確信させた(Luo et al. 2008, ibid)。
【0008】
トマトにおいて、T-DNA活性化タギング実験は、後期のアントシアニン経路遺伝子を制御するペチュニアAN2タンパク質と高い相同性を有するアントシアニン1(ANT1)という、アントシアニン生合成のトマトMYB-タイプ転写制御因子を同定した(Quattrocchio F. et al., 1999. Plant Cell 11: 1433-1444) 。ant1変異株の果実は、その表皮上に紫の斑点を示した。以前の調査では、Linらは標識された組織特異性を有するいくつかの転写物を含む広範囲にわたる発現パターンを示した14の推定トマトMYB-タイプ転写因子の発現を特徴づけた(Lin Q. et al., 1996. Plant Mol. Biol. 30: 1009-1020) 。
【0009】
生鮮食品市場は、栄養価値を高めた果実および野菜の継続した需要を示している。フラボノイドは食事において不可欠な部分であり、そして、いくつかの慢性疾患の防止において果実および野菜が豊富な食事の有益効果がみられたことからポリフェノール摂取は有望な候補であるという証拠が増えている。トマト果実は食事のフラボノイド消費の主要な給源であるので、この種においてこれら生理活性分子のレベルを強化することには相当な利益がある。生鮮食品はまた、特定の外観品質にかなわなければならず、消費者は新しく魅惑的な品種を期待している。例えば、極東の大多数の商業的な栽培品種はピンクがかった外観を有し、それはy遺伝的背景に基づく。栄養および外観の需要に答えるために、フラボノイド生合成経路の制御および機能を解明する連続的な試みがある。
【0010】
草木のフラボノイドレベルを高めるためにさまざまな戦略が行われた。例えば、特許文献1は、カルコンイソメラーゼをコードする遺伝子を発現させることによってトマトにおけるフラボノイドの生産を操作する方法を開示する。また、フラボノイドレベルを変えたトマト草木も開示されている。
【0011】
特許文献2は、同じやり方を取ってトマトにおけるフラボノイドの生産を操作する方法を開示し、この場合カルコンシンターゼおよびフラボノールシンターゼの活性を増加する。
【0012】
特許文献3は、フラボノイド生合成、特にメイズ転写因子LCおよびC1のための転写因子をコードする2つ以上の遺伝子の発現によるフラボノイド生合成経路の遺伝子活性を操作することによって草木のフラボノイド(アントシアニン以外)の生産を操る方法を開示する。また、この特許において、変化したフラボノイドレベル、特にフラボノールの高いレベルを有する2つ以上のメイズ転写因子の組合せで形質転換した遺伝形質転換トマト草木を開示する。
【0013】
特許文献4は、フラボノイド経路において活発である転写因子をコードするポリヌクレオチドを発現することによって草木または草木性産物の少なくとも一つの抗酸化剤レベルを上げる方法を開示する。特に、該出願は、草木において新規かつ新しく同定された遺伝子、mCai遺伝子の過剰発現がクロロゲン酸および他の関連したフェノール類の増加した蓄積をもたらし、これが草木の有益な抗酸化のレベルを上げることを開示する。
【0014】
特許文献5は、フラボノイド、特にアントシアニンの合成に関与する69の遺伝子の転写レギュロンの識別を開示する。これらの遺伝子を用いて、草木および草木細胞のフラボノイドレベルを調整することができる。
【0015】
このように、さまざまな遺伝子および転写因子が、生合成およびフェニルプロパノイド/フラボノイド経路の調節に関係する。異なる調節因子は経路の異なる枝の発現を制御し、また調節因子は各々の草木種、組織および発生段階に特異的である。したがって、所望の外観および栄養価値の果実を有するトマト草木の生産に有用な新しい遺伝情報を有することは必要であり、非常に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6,608,246号
【特許文献2】米国特許第7,208,659号
【特許文献3】米国特許第7,034,203号
【特許文献4】米国特許出願公開第20080134356号
【特許文献5】米国特許出願公開第20090100545号
【0017】
本発明は、所望の表現型および栄養価値を有する草木を遺伝学的選択技術を用いて生産するための遺伝子マーカーを提供する。特に、本発明は、トマト果実の無色の果皮y表現型と、この表現型のトランスクリプトームおよび代謝の特性評価を検出するための組成および方法を提供する。本発明はまた、トマトy表現形と関係する遺伝マーカーのスクリーニングの方法、このようにして現れた遺伝マーカーおよびその使用方法、特にさまざまな草木器官および発育段階において無色の果皮y表現型を検出するための方法を提供する。本発明は更に、フラボノイド含量を変えた同じものを含む単離ポリヌクレオチドおよび遺伝形質転換草木を提供する。
【0018】
本発明は、特定のR2-R3 MYB転写因子、すなわちSlMYB12のダウンレギュレーションがトマト果実にy変異株表現型をもたらすという予想外の発見に一部基づく。さらに、本発明は、表現型のマーカーとして使用し得るy無色果皮表現型で同時分離するSlMYB12対立遺伝子(y-1)を開示する。y-1対立遺伝子は、多数の配列変化を備え、そのほとんどが第一および第二のイントロン中に位置する。これら配列変化は、エキソン3のコード配列内に早いポリアデニル化部位を導入する。
【0019】
したがって、本発明の一態様は、SlMYB12変異形転写物をコードする単離ポリヌクレオチドを提供し、該ポリヌクレオチドが野生型SlMYB12と比較して少なくとも一つの変更を備え、野生型が配列番号1に記載される核酸配列を有するもので、前記変異形転写物がコードSlMYB12タンパク質のダウンレギュレーション発現および/または活性をもたらす。
【0020】
特定の実施形態によると、ポリヌクレオチドが配列番号1に記載した核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較して、プロモーター領域、イントロン1、イントロン2、エキソン3またはその組合せに少なくとも一つの変更を含む。
【0021】
他の実施形態によれば、SlMYB12変異形転写物をコードするポリヌクレオチドは、配列番号2〜28に記載した核酸配列を含む。
【0022】
ある実施形態によれば、前記変更が配列番号1の位置905-994の間に位置したイントロン1内に存在する。特定の実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドが配列番号29に記載した核酸配列を有する。他の実施形態によれば、変更が配列番号1の位置1474-1728の間に位置したイントロン2に存在する。特定の実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドが配列番号30に記載した核酸配列を有する。
【0023】
付加的な実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドは配列番号31に記載の核酸配列を有するSlMYB12 y-1対立遺伝子である。
【0024】
本発明の他の態様は、変異形SlMYB12転写物をコードするポリヌクレオチドを検出し得る検出因子を提供するもので、該ポリヌクレオチドが野生型SlMYB12と比較して少なくとも一つの変更を備え、前記野生型が配列番号1に記載した核酸配列を有し、ここで前記変異形転写物がコードSlMYB12タンパク質のダウンレギュレーション発現および/または活性をもたらす。
【0025】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドが配列番号1に記載した核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較して、イントロン1、イントロン2、エキソン3およびその組合せに少なくとも一つの変更を含む。
【0026】
他の実施形態よれば、前記検出因子が配列番号1に記載した核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してSlMYB12異型をコードしているポリヌクレオチドに特異的にハイブリッド化し得るポリヌクレオチドプローブである。
【0027】
特定の実施形態によれば、検出因子が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較して配列番号2-31のいずれか一つに記載した核酸配列またはその一部分を有するポリヌクレオチドに特異的にハイブリッド化し得るポリヌクレオチドプローブである。
【0028】
他の実施形態によれば、検出因子が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してSlMYB12変異形をコードするポリヌクレオチドを選択的に増幅し得るプライマー対である。
【0029】
特定の実施形態によれば、検出因子が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較して配列番号2-31のいずれか一つに記載した核酸配列またはその一部分を有するポリヌクレオチドを選択的に増幅し得るプライマー対である。
【0030】
本発明の他の態様は、トマト草木のy変異表現型を表す遺伝子マーカーのスクリーニングの方法を提供するもので、(a) 野生型トマト草木の配列番号1またはその断片を有するSlMYB12遺伝子のゲノムポリヌクレオチド配列をy表現形トマト草木から得た組織サンプルのSlMYB12遺伝子のゲノムポリヌクレオチド配列と比較し、(b)y表現形のSlMYB12ゲノム配列の変更を同定することを備え、ここで前記変更が遺伝子転写および/または翻訳の変性を予測し、また該変更がy変異表現形を表す遺伝子マーカーである。
【0031】
ある実施形態によれば、前記変更がy表現形トマト草木におけるSlMYB12の発現または活性のダウンレギュレーションをもたらす。
【0032】
特定の実施形態によれば、前記変更をイントロンおよび上流プロモーター領域からなる群から選択した非コード領域内で同定する。特定の好ましい実施形態によれば、変更をプロモーター配列において同定する。
【0033】
野生型遺伝子と比較したトマトy表現形のSlMYB12遺伝子の変更の識別は、当業者に既知のあらゆる方法によって行うことができる。特定の実施形態によれば、SlMYB12配列の変更を、下記の群から選択したアッセイにより決定する。(a)非変性ポリアクリルアミドゲル上で一重鎖DNAの電気泳動移動度の偏移を観察する、(b)y表現形トマトから単離したゲノムDNAへのSlMYB12遺伝子プローブをハイブリッド化する、(c)前記y表現形トマトのゲノムDNAへの対立遺伝子特異的なプローブをハイブリッド化する、(d)前記y表現形トマトからのSlMYB12遺伝子の全部または一部を増幅して増幅配列を作成し、該増幅配列をシーケンシングする、(e)特異的なSlMYB12突然変異対立遺伝子用のプライマーを用いて前記y表現形トマトからSlMYB12遺伝子の全部または一部を増幅する、(f)前記y表現形トマトからSlMYB12遺伝子の全部または一部を分子的にクローン化してクローン化配列を作成し、該クローン化配列をシーケンシングする、(g) (1)前記y表現形トマトから単離したSlMYB12遺伝子またはSlMYB12mRNAおよび(2)トマト野生型SlMYB12遺伝子配列に相補的な核酸プローブの間の不整合を、分子(1)および(2)が互いにハイブリッド化されて二本鎖を形成される際に識別する、(h)前記y表現形トマトのSlMYB12遺伝子配列の増幅、およびトマト野生型SlMYB12遺伝子配列を含む核酸プローブへの増幅配列のハイブリッド化、(i)前記組織サンプルのSlMYB12遺伝子配列の増幅、および変異株SlMYB12遺伝子配列を含む核酸プローブへの増幅配列のハイブリッド化、(j)前記y表現形トマトの欠失突然変異のためのスクリーニング、(k)前記y表現形トマトの点変異のためのスクリーニング、(l)前記y表現形トマトの挿入突然変異のためのスクリーニング、(m)SlMYB12遺伝子を含む核酸プローブでの前記y表現形トマトのSlMYB12遺伝子のインシチューハイブリッド化。
【0034】
本発明の方法によって明らかにされたあらゆる配列変更、これを含むポリヌクレオチドおよびかかる変更を同定し得る検出因子もまた本発明の範囲内で含まれる。
【0035】
本発明の付加的な態様は、無色の果皮y表現形を有する果実を産出し得るトマト草木を同定する方法を提供するもので、(a)果実ができる前に草木から遺伝物質を含むサンプルを提供し、(b)該サンプルにおいて、SlMYB12遺伝子若しくはその転写物またはその一部分の配列を決定し、(c)当該配列をトマト野生型SlMYB12遺伝子または転写物の配列と比較し、(d)前記サンプルからSlMYB12配列の少なくとも一つの変更を検出することを備え、ここで前記変更がy表現形を有する果実を実らせるための草木能力を表す。
【0036】
一実施形態によれば、野生型SlMYB12遺伝子が配列番号1に記載の核酸配列を含む。他の実施形態によれば、野生型SlMYB12転写物が配列番号32に記載の核酸配列を含む。
【0037】
特定の実施形態によれば、少なくとも一つの配列変更がSlMYB12の発現または活性のダウンレギュレーションをもたらす。
【0038】
他の実施形態によれば、配列番号1の変更が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してプロモーター領域、イントロン1、イントロン2、エキソン3またはその組合せ内に存在し、前記変更が遺伝子転写および/または翻訳の変性を予測する。
【0039】
特定の実施形態によれば、サンプルのSlMYB12遺伝子が配列番号2-31のいずれか一つに記載した核酸配列を含む。
【0040】
特定の実施形態によれば、少なくとも一つの変更を同定するのを、限定しないがターミネーターシークエンシング、規制消化、対立遺伝子に特異的なポリメラーゼ反応、一本鎖配座の多型性分析、遺伝学的なビット分析、温度傾度ゲル電気泳動、リガーゼ連鎖反応およびリガーゼ/ポリメラーゼ遺伝学的なビット分析からなる群から選択した技術によって行う。
【0041】
他の実施形態によると、SlMYB12配列の変異が固有の質量、電荷、電気的スピン、大量のタグ、放射性同位元素タイプの生物発光分子、化学発光分子、タグを付けた核酸分子、ハプテン分子、タンパク質分子、光散乱/位相分子および蛍光分子からなる群から選択した検出可能な特徴を有するヌクレオチドを使用することによって同定される。
【0042】
本発明の更なる態様は、配列番号33を有する野生型SlMYB12ポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0043】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドが配列番号1に記載の核酸配列を含む。他の実施形態によれば、ポリヌクレオチドが配列番号32に記載の核酸配列を含む。他の実施形態によれば、ポリヌクレオチドが配列番号1と配列番号32のいずれか一つに記載の核酸配列からなる。同じものを含むDNA構造物および/または発現ベクターもまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0044】
本発明のさらに他の態様は、SlMYB12をコードする外来性のポリヌクレオチドをゲノムに含む少なくとも一つの細胞を備える遺伝形質転換草木を提供するもので、ここで前記草木が非遺伝形質転換草木と比較してフラボノイド、クロロゲン酸およびその誘導体からなる群から選択した高含有量の少なくとも一つのフェニルプロパノイドを有する。
【0045】
特定の実施形態によれば、遺伝形質転換草木が配列番号1に記載の核酸配列を備えたSlMYB12をコードするポリヌクレオチドを含む。他の実施形態によれば、SlMYB12をコードするポリヌクレオチドは、配列番号32に記載の核酸配列を含む。
【0046】
他の実施形態によれば、フラボノイドは、フラバノンである。他の実施形態によれば、フラボノイドがナリンゲニン、ナリンゲニンカルコン、エリディクトロル、フロレチン、レズベラトロル、クエルセチン-ヘキソース-デオキシヘキソース-ペントース(Q-トリッシュ)およびクエルセチンルチノシド(ルチン)からなる群から選択される。
【0047】
特定の実施形態によれば、SlMYB12をコードするポリヌクレオチドが草木細胞で発現を可能にするDNA構造物に組み込まれる。一実施形態によれば、DNA構造物がプロモーター、エンハンサー、複製起点、転写終結配列、ポリアデニル化信号などからなる群から選択した少なくとも一つの発現制御要素を含む。
【0048】
いくつかの実施形態によれば、DNA構造物がプロモーターを含む。該プロモーターは、当業界で既知の構造性の、誘発または組織に特異的なプロモーターでありえる。特定の実施形態によれば、プロモーターが草木細胞において操作可能な構造性プロモーターである。典型的な実施形態によれば、プロモーターが果実に特異的なプロモーターである。他の実施形態によれば、DNA構造物が更に転写終結およびポリアデニル化配列信号を備える。
【0049】
特定の実施形態によれば、草木がナス科系統である。典型的な実施形態によれば、草木がトマト(ソヌラム リコペルシカム)草木である。
【0050】
更に、DNA構造物が植物細胞によって発現する組み換えポリペプチドの便利な検出を可能にする検出マーカーをコードする核酸配列を随意的に備える。当業界で既知のあらゆる検出マーカーを本発明の教示に従って使用してもよく、これはエピトープタグを備えるマーカー、抗生物質に対する耐性を与えるマーカー、除草剤に対する耐性を与えるマーカーなどからなるマーカーを含み、これらに限られない。
【0051】
本発明のポリヌクレオチドおよび/またはこれを備えるDNA構造物を草木変換ベクターに組み込むことができる。
【0052】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の説明および図面から明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】アラビドプシス属AtMYB4のトマト同族体であるSlTHM27(図1A)およびSlMYB4-like(図1B)のリアルタイムRT-PCR発現分析を示す。SlMYB12 パラログ(SlMYB4-like)の発現を図1Cに示す。
【図2A】遺伝形質転換amiR-SlMYB12系統がy-様表現形を示すことを立証する。SlMYB12遺伝子に沿ってamiR-SlMYB12標的配列の位置を示すブラックボックスを有するSlMYB12遺伝子の概略説明。矢はRT-PCRプライマーの位置を示し、右側の配列アライメントはこの人工マイクロRNAの特異性を示す。
【図2B】遺伝形質転換amiR-SlMYB12系統がy-様表現形を示すことを立証する。35S:amiR-SlMYB12遺伝形質転換系統および非遺伝形質転換制御の葉から抽出したサンプルのamiR-SlMYB12前駆体の発現。
【図2C】遺伝形質転換amiR-SlMYB12系統がy-様表現形を示すことを立証する。35S:amiRSlMYB12遺伝形質転換系統の果実が無色の果皮を示す。
【図2D】遺伝形質転換amiR-SlMYB12系統がy-様表現形を示すことを立証する。野生型および35S:amiRSlMYB12遺伝形質転換系統の果実果皮におけるフェニルプロパノイド/フラボノイド関連調節因子および構造遺伝子のRT-PCR相関的な発現分析。学生のt検定(n=3; P<0.05; 棒は標準誤差を示す)によって分析された非常に減少したレベルをアスタリスクによって示す。
【図2E】遺伝形質転換amiR-SlMYB12系統がy-様表現形を示すことを立証する。果実成長の赤い段階で野生型栽培品種のAilsa Craig(AC)および栽培品種MicroTom(MT)、y変異株およびamiRSlMYB12遺伝形質転換系統の果皮サンプルを用いてUPLC-QTOF-MS分析によって得た代謝プロファイルの主成分分析(PCA)。分析は、標準化されてログ変換したデータを用いるTMEVプログラムで実行した。
【図2F】遺伝形質転換amiR-SlMYB12系統がy-様表現形を示すことを立証する。UPLC-QTOF-MSを用いるネガティブなモードで得た果実成長の赤い段階での野生型(栽培品種MT)および35S:amiR-SlMYB12果皮のトータルイオンクロマトグラム(TIC)(相対強度における100%は6.14x104カウントと一致する)。
【図2G】遺伝形質転換amiR-SlMYB12系統がy-様表現形を示すことを立証する。クロマトグラフィ・ピーク面積として表わし、m/z 271.06Da(n=5)に対して算出した栽培品種のMTおよび35S:amiR-SlMYB12におけるNarChの相対的なレベル。
【図3A】アレイ分析で認められたようなy変異株果実の遺伝子発現変更を示す。果実成長の3つの最終段階で特異的に発現した野生型およびy変異株転写物の機能的なカテゴリー分布。
【図3B】アレイ分析で認められたようなy変異株果実の遺伝子発現変更を示す。y変異株および野生型(wt)果実の果皮組織におけるクラスター14(トータル38の部分)に属する遺伝子の発現プロファイル(アレイ分析によって得る)。y変異株において、アレイ分析を野生型果実において調べた果実成長の5つの段階のうち3つについて行った。
【図4A】GC-MSおよびLC-QTOF-MSデータセットの主成分分析(PCA)の分析法によって検出した野生型およびy変異株の果皮および果肉組織の代謝プロファイル間の違いを示す。果実成長(n=3)の5つの段階での野生型およびy果皮および果肉組織のサンプルを用いてGC-MS分析によって得た代謝プロファイルのPCA。
【図4B】GC-MSおよびLC-QTOF-MSデータセットの主成分分析(PCA)の分析法によって検出した野生型およびy変異株の果皮および果肉組織の代謝プロファイル間の違いを示す。果実成長(n=3)の5つの段階での野生型およびyの果皮および果肉組織のサンプルを用いてUPLC-QTOF-MS分析によって得た代謝プロファイルのPCA。
【図4C】GC-MSおよびLC-QTOF-MSデータセットの主成分分析(PCA)の分析法によって検出した野生型およびy変異株の果皮および果肉組織の代謝プロファイル間の違いを示す。果実成長(n=3)の最後の3つの段階での野生型およびyの果皮および果肉組織のサンプルを用いてUPLC-QTOF-MS分析によって得た代謝プロファイルのPCA。yおよび野生型の果実成長の特定の段階に対応する顕著な代謝プロファイルを図4A、BおよびCにおいて丸で囲む。
【図5】果実成長の少なくとも一つの検査段階で野生株およびy変異株の果皮および/または果肉の間で非常に異なるレベルであることがわかった代謝産物を示すGC-MS分析をまとめる。アスタリスクによって示すのは、二方向Anova検査および事後の分析によって分析した有意差であり、(材料および方法)を参照(サンプルごとにn=3)。Y軸は、Ribitol内標準(IS)に対する反応値の規格化による代謝産物の相対的な定量を示す。
【図6】果実成長のブレーカ段階での野生株およびy変異株トマト果皮におけるフェニルプロパノイド経路から選択した転写物のリアルタイムPCRの相対的な発現分析を示す。学生のt検定によって分析された有意差をアスタリスクによって示す(n=3; P<0.05; 棒は標準誤差を示す)。
【図7】果実成長のブレーカ段階での野生株およびy変異株トマト果肉組織におけるフェニルプロパノイド経路から選択した転写物のリアルタイムPCRの相対的な発現分析を示す。学生のt検定によって分析された有意差をアスタリスクによって示す(n=3; P<0.05; 棒は標準誤差を示す)。
【図8A】推定のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連転写因子遺伝子の系統および発現分析である。ここで報告した推定のトマト調節因子と、他の種からの既知フェニルプロパノイド/フラボノイド関連転写因子の系統学的分析。ClustalXおよびNJplotソフトウェアを用いて、ツリーおよびその有意差(ブートストラップ)値を計算した。
【図8B】推定のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連転写因子遺伝子の系統および発現分析である。果実発現のブレーカ段階での野生型およびy変異株の果皮(図8B)
【図8C】推定のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連転写因子遺伝子の系統および発現分析である。果実発現のブレーカ段階での野生型およびy変異株の果肉(図8C)組織のフェニルプロパノイド/フラボノイド経路の調節に推定的に関連づけた選択トマト転写因子のリアルタイムRT-PCRの相対的発現分析。学生のt検定によって分析された有意差をアスタリスクによって示す(n=3; P<0.05; 棒は標準誤差を示す)。遺伝子識別子およびプライマーを表4に列挙する。
【図8D】推定のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連転写因子遺伝子の系統および発現分析である。5つの成長段階での野生型果実組織におけるSlMYB12のリアルタイムRT-PCRの相対的発現分析が果皮関連の発現パターンを示す。IG−未成熟グリーン; MG−熟成グリーン; Br、ブレーカ;Or、オレンジ; Re、赤、果実発現の段階。
【図9A】SlMYB12の染色体位置を図式的に示す。栽培品種M82およびリコパーシコンペンネリ(Lycopersicon pennellii)間の遺伝質浸透系統のトマトセットから増幅したSlMYB12ゲノム断片のBstBI分解消化。
【図9B】SlMYB12の染色体位置を図式的に示す。他の遺伝質浸透系統と重ならないIl1-1 ペンネリの染色体部分が17cM〜41cMの間にある。
【図10】35SのCaMVプロモーター(35S:SlMYB12)の下で恒常的にSlMYB12遺伝子を発現する形質転換y系統の扇状表現型相補性を示す。赤い果実果皮のUPLC-PDA分析は、35S:SlMYB12系統の果皮における表現型相補性の領域とy変異株のものとの間でフラバノイドの著しく異なるレベルを示した(n=3; P<0.01; 棒は標準誤差を表す)。UPLC(Waters, Acquity)計器がAcquity2996PDA検出器を備え、サンプルをUPLCQTOF-MS分析について記載したようなLC条件で運行する。化合物ピーク面積を、ナリンゲニンカルコン(NarCh)に対し370ナノメートルで、またケルセチン-ヘキソース-デオキシヘキソース-ペントース(Q-トリッシュ)およびクエルセチンルチノシド(ルチン)に対し256ナノメートルでEmpower2ソフトウェア(Waters)によって決定した。
【図11】y突然変異が果実とは別の異なる植物器官の代謝および遺伝子発現に影響を及ぼすことを示す。図11A:若葉、図11B:十分に拡張した葉における所定のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連転写物(trans.)のリアルタイムPCR発現分析。学生のt検定によって分析した有意差を、アスタリスクによって示す(n=3; P<0.05; 棒は標準誤差を示す)。遺伝子識別子およびプライマーを表4に列挙する。図11C: UPLC-QTOF-MS分析によって得た代謝プロファイルのPCAが明らかに野生型およびy変異株の根のサンプル間で区別する。
【0054】
本発明は、トマトの無色果皮y変異株の詳細分析を提供する。y変異株によって生じる果実は、通常表皮質量の1%まで累積する黄色のフラボノイド色素であるNarChの激しい減少を示す。y果実組織並びにいくつかの他の草木部分の詳細な特性評価では、果実果皮に制限されないフェニルプロパノイド/フラボノイド経路と関連した転写物および代謝産物の広範囲な変更を示した。本発明は、初めて転写因子SlMYB12のトマト草木のy変異株表現型との関連を開示し、それはピンクがかった外観を有する色がない果実の皮を有する果実を生産する。
【0055】
(定義)
用語「草木」は最も広義の意味で本明細書に用いる。それは、木質、草本、多年生または一年生植物のあらゆる種を含むが、これに限定されるものではない。それはまた、草木の発達のいかなる段階に存在する構造で広く区別する複数の植物細胞に言及する。かかる構造は根、茎、新芽、葉、花、花弁、果実、その他を含むが、これに限定されるものではない。特定の実施形態において、該用語はナス科系統、特にトマト(ソヌラム リコペルシカム)の草木に関する。
【0056】
ここで用いる用語「無色の果皮表現形」「y変異株」、「y表現形」および「無色の果皮y表現形/変異株」が互換的に使用され、黄色に着色した通常の果皮と比較して無色の果皮を有する果実を実らせることができるトマト果実またはトマト草木に関するもので、果実のピンク味がかったピンクの外観になる。
【0057】
フェニルプロパノイドという用語は、アミノ酸フェニルアラニンから生合成する植物由来の有機化合物の種類に関する。フェニルプロパノイドは、草食動物、微生物の攻撃または損傷の他のソースに対する防御を含む草木の多種多様な機能を細胞壁の構造成分として;紫外線からの保護として;色素として;また信号化分子として有する。
【0058】
ここで用いる用語「遺伝子」は、当業界で理解されるような意味を有する。一般に、遺伝子は、コード配列(オープンリーディングフレーム)に加えて、遺伝子調節配列(例えばプロモーター、エンハンサー等)および/またはイントロン配列を含むとする。更に、「遺伝子」の定義がタンパク質をコードしなくて、むしろマイクロRNA(miRNAs)、tRNA等のような機能的なRNA分子をコードする核酸の関連を含むと認識している。ここで用いる用語「転写物」はタンパク質をコードする遺伝子の一部に関する。
【0059】
ここで用いる用語「対立遺伝子」は、遺伝子の異なる形態のうちの1つ、すなわちゲノム内に単一遺伝子座で存在し得るDNA配列に関する。
【0060】
ここで用いる用語「相補的な」または「その相補性」は、相補的領域の全体にわたってワトソン及びクリック塩基対を他の特定ポリヌクレオチドで形成し得るポリヌクレオチドの配列に関する。この用語は、それら配列のみに基づくポリヌクレオチドの対に適用され、2つのポリヌクレオチドが実際に結合する条件の任意特定のセットではない。
【0061】
ここで互換的に用いる用語「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」および「核酸配列」は、RNA、DNAまたは単鎖若しくはデュプレックス形のいずれかの一つ以上のヌクレオチドのRNA/DNAハイブリッド配列を含む。用語「ヌクレオチド」は、単鎖またはデュプレックス形の任意の長さのRNA、DNAまたはRNA/DNAハイブリッド配列を含む分子を記載するための形容詞としてここで使用される。用語「ヌクレオチド」はまた、分子を意味する個々のヌクレオチドまたはヌクレオチドの変形物、若しくはプリンまたはピリミジン、リボースまたはデオキシリボース糖部分およびリン酸塩基を含む大きな核酸分子の個々のユニット、またはオリゴヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド内のヌクレオチドの場合のホスホジエステル結合に関する名詞としてここで使用される。用語「ヌクレオチド」はまた、例えば類似した連結基、プリン、ピリミジンおよび糖を含む少なくとも一つの修飾を備える「修飾ヌクレオチド」を包含するのにここで使用される。しかしながら、本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは50%を超える通常のデオキシリボースヌクレオチド、最も好ましくは90%を超える通常のデオキシリボースヌクレオチドからなる。本発明のポリヌクレオチド配列は、合成、組み換え型、生体外生成またはその組合せ含む任意既知の方法並びに当業界で既知のあらゆる精製方法を利用することにより調製することができる。
【0062】
ここで用いる用語「単離した」は、1)通常自然界と関係がある成分の少なくともいくつかから分離する; 2)人の手を伴うプロセスにより調製または精製する;および/または 3)自然界で生起しないことを意味する。特に、その用語は、限定しないが他の核酸、炭水化物、脂質およびタンパク質(例えばポリヌクレオチドの合成に用いる酵素)を含む他の化合物からある程度分離した、または直鎖ポリヌクレオチドから共有結合して閉じたポリヌクレオチドを分離した本発明のポリヌクレオチドを記載するのにここで使用される。サンプルの少なくとも約50%、好ましくは60〜75%が単一のポリヌクレオチド配列およびコンフォメーション(直鎖対共有結合)を示す場合、ポリヌクレオチドが実質的に単離される。ポリヌクレオチド単離または均一性の程度を、当業界で周知の多くの手段、例えばサンプルのアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動後にゲルを染色して単一のポリヌクレオチド・バンドを視覚化することによって示すことができる。特定の目的のために、HPLCまたは当業界で周知の他の手段を用いることによりより高い分解能を付与することができる。
【0063】
プライマーという用語は、適当な温度で適切なバッファにおいて適切な条件(すなわち、4つの異なるヌクレオシドトリホスフェートおよび例えばDNAまたはRNAポリメラーゼまたは逆転写酵素のような重合用作用因子の存在下)下でテンプレートに向けたDNA合成の開始点として作用し得る一本鎖オリゴヌクレオチドに関する。プライマーの適当な長さは、プライマーの意図する使用に依存するが、通常15から30のヌクレオチドの範囲である。短いプライマー分子は、一般にテンプレートと十分に安定ハイブリッド複合体を形成するのにより冷たい温度が必要である。プライマーは、テンプレートの正確な配列を反映する必要はないが、テンプレートとハイブリッド化するのに十分相補的でなければならない。プライマー部位という用語は、プライマーがハイブリッド化する標的DNAの領域に関する。プライマー対という用語は、増幅すべきDNA配列の5’末端でハイブリッド化する5’上流プライマーと、増幅すべき配列の3’末端の相補とハイブッド化する3’下流プライマーとを含むプライマーのセットを意味する。
【0064】
用語「プローブ」または「ハイブリッド化プローブ」は、サンプルに存在する特異的なポリヌクレオチド配列を同定するのに使用し得る確定した核酸部分(またはヌクレオチド類似体部分、例えばここで定義したようなポリヌクレオチド)を意味し、前記核酸部分はハイブリッド化によって同定すべき特異的なポリヌクレオチド配列の相補的なヌクレオチド配列を備える。「プローブ」または「ハイブリッド化プローブ」は、核酸の相補鎖に塩基特異的な方法で結合し得る核酸である。かかるプローブは、Nielsenら(1991.Science 254:1497-1500)にて説明されたようなペプチド核酸を含む。ハイブリッド化は、通常「厳しい条件」、例えば1M以下の塩濃度および少なくとも25℃の温度で行われる。例えば、5xSSPE (750mMのNaCl、50mMのナトリウムフォスフェート、5mMのEDTA、pH 7.4)および25℃〜30℃の温度の条件が、対立遺伝子に特異的なプローブハイブリッド化に適している。この特定のバッファ組成を一例として提供するが、当業者は同等適合の他の組成と容易に置換できるかもしれない。
【0065】
ここで用いる用語「シークエンシング」は、核酸のヌクレオチドの順序を決定する方法を意味する。核酸をシークエンシングするための種々の方法は、当業界で周知である。かかるシークエンシング方法は、例えばここに参照して援用するSangerらの1977. Proc Nalt Acad Sci 74:5463に記載されたようなジデオキシ仲介連鎖停止のサンガー法を含む(またここに参照して援用するSambrookら編集「DNA Sequencing」、Molecular Cloning:A Laboratoryマニュアル(第2版)、Plainview、N.Y.:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照)。大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメント; SequenaseTM(T7 DNAポリメラーゼ);Taq DNAポリメラーゼおよびAmplitaqを含む種々のポリメラーゼを、酵素的シークエンシング方法に用いることができる。周知のシークエンシング方法はまた、ここに参照して援用するDNAのマクサム-ギルバート化学分解(Maxam and Gilbert, 1980.Methods Enzymol.65:499)、およびSambrookらの1989. ibidの「DNA シーケンシング」を含む。当業者は、シークエンシングを現在オートメーション化方法で頻繁に行うことを認識する。
【0066】
ここで用いる用語「作製物」は、興味ある遺伝子を含む人工的に組立てた若しくは単離した核酸分子に関する。一般に、作製物は、興味ある遺伝子または遺伝子類、場合によっては興味ある遺伝子とし得る標識遺伝子、および適切な調節配列を含む場合がある。調節配列の作製物への包含は任意であると認識すべきで、例えばかかる配列が宿主細胞の調節配列を使用すべきである状況において必要ではない場合がある。作製物という用語は、ベクターを含むが、それに限定すべきでない。
【0067】
用語「操作可能にリンクする」は、その機能をその他により制御するような単一核酸フラグメントに対する核酸配列の関連に関する。例えば、プロモーターがコード配列の発現を制御し得る際に該コード配列と操作可能にリンクさせる(すなわちコード配列がプロモーターの転写調節の下にある)。コード配列が、センスまたはアンチセンス方位の調節配列に操作可能にリンクさせることができる。
【0068】
ここで用いる用語「プロモーター要素」、「プロモーター」または「プロモーター配列」は、DNAポリマーのタンパク質コード領域の5’末端(すなわち前進)に上流で位置するDNA配列に関する。通常既知の大部分のプロモーターの位置は、転写領域に先行する。プロモーターは、遺伝子の発現を活性化するスイッチとして機能する。遺伝子が活性化される場合、それは転写されるか、または転写に関与すると言われている。転写は、遺伝子からのmRNAの合成を伴う。従って、プロモーターが転写調節性の要素とし役立ち、また遺伝子のmRNAへの転写開始用の部位を提供する。プロモーターは、天然の遺伝子からそのまま誘導されるか、若しくは自然界にある異なったプロモーターに由来する異なる要素からなるか、または合成DNAセグメントを備えてもよい。異なるプロモーターが遺伝子の発現を異なる組織または細胞型におけるか、若しくは発達の異なる段階で、または異なる環境状態に応じて導くことができることは当業者によく理解されている。大部分の場合調節配列の正確な境界が完全に画成されないので、いくつかのバリエーションのDNAフラグメントが同一のプロモーター活性を有してもよいと更に認識する。大抵の場合、大部分の細胞型において遺伝子を発現させるプロモーターは、「構成的プロモーター」と一般に呼称する。草木細胞に有用ないろいろなタイプの新しいプロモーターが常に発見されており、その多くの例がOkamuro J Kand Goldberg R B (1989) Biochemistry of Plants 15:1-82で見つかるだろう。
【0069】
ここで用いる用語「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激し得るDNA配列に関し、プロモーターの固有的要素またはプロモーターのレベルまたは組織特異性を強化するためにインサートした異種構造要素とすることができる。
【0070】
ここで用いる用語「発現」は、機能的な最終生産物、例えばmRNAまたはタンパク質の生産に関する。
【0071】
草木または種に関して用いる場合の用語「遺伝形質転換」(すなわち「遺伝形質転換草木」または「遺伝形質転換種」)は、一つ以上の細胞に少なくとも一つの異種構造転写可能遺伝子を含む草木または種に関する。用語「遺伝形質転換植物材料」は、草木、草木構造、植物組織、植物の種または細胞の少なくとも1つに少なくとも一つの異種構造遺伝子を含む植物細胞に広義には関する。
【0072】
用語「形成転換体」または「形質転換細胞」は、一次形質転換細胞および転写の数に関係なく細胞由来の培養組織を含む。全ての子孫は、計画的なまたは偶然の突然変異によりDNA含量が精密に同一でない場合がある。スクリーニングで本来の形質転換細胞と同じ機能性を有する変異子孫は、形質転換体の定義に含まれる。
【0073】
細胞の形質転換は、安定または一時的とすることができる。用語「一時的な形質転換」または「一時的に形質転換した」は、宿主細胞のゲノムへの外来性ポリヌクレオチドの組込みの不在下で細胞への一つ以上の外来性ポリヌクレオチドの導入に関する。例えば、一時的な変換を、一つ以上の外来性ポリヌクレオチドによってコードしたポリペプチドの存在を検出する酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)によって検出することができる。或いはまた、一時的な形質転換を、少なくとも1つの外来性ポリヌクレオチドによってコードしたマーカータンパク質(例えばβ-グルクロニダーゼ)の活性を検出することによって検出してもよい。
【0074】
用語「一時的な形成転換体」は、一つ以上の外来性ポリヌクレオチドを一時的に組み込んだ細胞に関する。対照的に、用語「安定な形質転換」または「安定して形質転換した」は、細胞のゲノムへの一つ以上の外来性ポリヌクレオチドの導入および組込みに関する。細胞の安定な形質転換は、一つ以上の外来性ポリヌクレオチドと結合し得る核酸配列を有する細胞のゲノムDNAのサザンブロットハイブリッド化によって検出することができる。或いは、細胞の安定な形質転換はまた、発達する組織の統合した遺伝子の酵素活性によるか、または外来性のポリヌクレオチド配列を増幅するための細胞のゲノムDNAのポリメラーゼ鎖反応によって検出されてもよい。用語「安定な形成転換体」は、一つ以上の外来性ポリヌクレオチドをゲノムまたはオルガネラDNAに安定して組み込んだ細胞に関する。本発明の核酸、作製物および/またはベクターで形質転換した草木または植物細胞を一時的にまた安定して形質転換し得ることができると理解している。
【0075】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーに関して互換的にここで使用される。該用語は、自然に生じているアミノ酸ポリマーの場合と同様に、一つ以上のアミノ酸残基が対応する自然発生アミノ酸の人工化学類似体であるアミノ酸ポリマー並びに自然発生アミノ酸ポリマーにもあてはまる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0076】
y変異株表現型の基礎となるSlMYB12のダウンレギュレーション
トマトy変異株のトランスクリプトームおよびメタボローム分析によって示される広範囲な変更は、単一の構造遺伝子よりむしろ調節因子の欠損を意味した。したがって、本発明の分析は、以前に他の植物種におけるフェニルプロパノイドおよびフラボノイド経路の制御と関係していることを示した転写因子のMYBおよびMYC(bHLH)系統の特定の一員であるトマトオルソログ/ホモログに注目した。
【0077】
本発明は、野生型(SlTHM27、SlMYB4-likeおよびSlMYB12)と比較してy変異株に特異に発現した転写因子のうちの3つがy変異株果実果皮において著しくダウンレギュレーションされることを開示する。これら因子の中で、SlTHM27を予め単離し、その転写物をシークエンシング(配列番号:34)して、配列番号35を有するタンパク質をコードする。本発明は、配列番号36に記載の核酸配列を有するトマトホモログのゲノム配列を開示する。
【0078】
トマトSlMYB4-likeおよびSlMYB12転写因子の完全長配列を初めてここに開示する。SlMYB4-likeのゲノム配列は配列番号37記載の核酸配列からなり、その転写物は配列番号38に記載する核酸配列を備える。コードタンパク質は配列番号39に記載のアミノ酸配列を備える。SlMYB12ゲノム配列は配列番号1に記載の核酸配列からなり、その転写物は配列番号32に記載の核酸配列を備え、コードタンパク質は配列番号33に記載のアミノ酸配列を備える。さらに、本発明は、配列番号111に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする付加的なトマトSlMYB4-like転写因子(配列番号110)を開示する。
【0079】
これらの因子のうちの唯一、果皮と関連するSlMYB12は、以前にy変異株表現形の基礎となる突然変異を保持すると報告した染色体1上のゲノム領域に位置する(Rick and Butler 1956, ibid)。したがって、この転写因子のy変異株表現形との相互関係を更に調査した。
【0080】
野生型SlMYB12(35S:amiR-SlMYB12)を標的とした人工microRNAは、35S:amiR-SlMYB12植物のブレーカ段階果皮におけるSlMYB12転写レベルを著しくダウンレギュレーション(野生型より少なくとも5倍低い)することを示した。有意差がSlMYB12に最も近いパラログSlMYB12-likeのレベルにおいて検出されず、合成microRNA作製物の特異性を確認した。このダウンレギュレーションは、y-変異株様の表現形の誘発をもたらした。野生型と比較して35S:amiR-SlMYB12果実果皮で検出された転写物および代謝変更は、y変異株で検出されたものに極めて類似した。y変異株および35S:amiR-SlMYB12果実果皮における果皮フラボノールの蓄積で見出された違いは、栽培品種MTのようなチェリートマトと比較して栽培品種ACのような果実がより大きくなるトマト品種に共通の特徴であると知られているトータルポリフェノールのより低いレベルに起因するのかもしれない(Raffo A. et al., 2002. J. Agric. Food Chem. 50: 6550-6556) 。
【0081】
y表現形を有する転写因子SlMYB12の結合が、大きな無関係の遺伝子移入集団(>100の系統)の中の無色の果皮表現形と一緒に分離された付加的SlMYB12対立遺伝子(y-1)の発見によって更に示された。これら系統の全てがそのMYB12遺伝子のイントロンおよびエキソンの配列変化の同じ組合せをともなって新たな対立遺伝子を画成することを見出した。SlMYB12立枯れ病タイプのゲノム配列におけるヌクレオチド挿入、削除および置換を含む変化を以下の表1-3にまとめる。変更の位置をコード領域の初めにATG(A位置がNo.1)から計数する。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
y-1突然変異対立遺伝子のSlMYB12転写物のRACE分析は、一組の早期にポリアデニル化した転写物を示し、これらはエキソン3のコード領域においてポリアデニル化されていた。これらは、一つまたは数個の新しいポリアデニル化信号を導入した配列変更の結果としてほぼ確実に生じた。代わりにアデニル化した変異形のうちの1つは、短い野生型版と類似のようである。しかしながら、この転写物はトータルRACE転写物セットのわずかな一部(3/20)からなり、その推定タンパク質生成物の機能はT331Aミスセンスから生じたようで、それはタンパク質のC末端でのヘリックス構造の形成を妨げると思われる。
【0086】
まとめると、これらデータは、SlMYB12転写因子がトマトのy-変異株表現形を制御することを明らかに示す。
【0087】
以下に例示するように、y変異株の変更が根および十分に拡張した葉においても現れ、ここでSlMYB12も発現する。さらに、SlMYB12の果皮関連発現パターンは、トマト果実果皮におけるフラボノイドの主な蓄積による。フラボノイド蓄積前の果実発達の初期段階でのSlMYB12の相対的に高い発現レベルは、有機およびアミノ酸のような一次代謝産物の早めの変更を説明することができる。一次および二次代謝の両方に関与した標的遺伝子に対する類似の広範囲な効果は、以前アラビドプシス属のグルコシノラート生合成の調節因子に対して示された。
【0088】
従って、本発明の一つの態様は、SIMYB12変異形転写物をコードする単離ポリヌクレオチドを提供するもので、該ポリヌクレオチドが野生型SlMYB12と比較して少なくとも一つの変更を備え、野生型が配列番号1に記載の核酸配列を有し、ここで前記変異形転写物がコードSlMYB12タンパク質のダウンレギュレーションした発現および/または活性をもたらす。
【0089】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドが、配列番号1に記載した核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してプロモーター領域イントロン1、イントロン2、エキソン3またはその組合せに少なくとも一つの変更を備える。
【0090】
他の実施形態によれば、SIMYB12変異形転写物またはタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、表1-3に列挙したもの選択した少なくとも一つの変更を備える。他の実施形態によれば、SlMYB12変異形転写物またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号2-28のいずれか一つに記載の核酸配列を備える。
【0091】
特定の実施形態によれば、変更が配列番号1の位置905-994の間に位置するイントロン1内に存在する。特定の実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドが配列番号29に記載の核酸配列を有する。他の実施形態によれば、変更が配列番号1の位置1474-1728の間に位置するイントロン2に存在する。特定の実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドが配列番号30に記載の核酸配列を有する。
【0092】
さらに付加的な実施形態によれば、単離ポリヌクレオチドは配列番号31に記載の核酸配列を有するSlMYB12 y-1対立遺伝子である。
【0093】
本発明の他の態様は、変異形SlMYB12転写物をコードするポリヌクレオチドを検出し得る検出因子を提供するもので、当該ポリヌクレオチドが野生型SlMYB12と比較して少なくとも一つの変更を備え、野生型が配列番号1に記載の核酸配列を有し、ここで前記変異形転写物がコードSlMYB12タンパク質のダウンレギュレーションした発現および/または活性をもたらす。
【0094】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドが配列番号1に記載した核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してプロモーター領域、イントロン1、イントロン2、エキソン3およびその組合せになくとも一つの変更を備える。
【0095】
特定の実施形態によれば、検出因子が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してSlMYB12変異形をコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリッド化し得るポリヌクレオチドプローブである。
【0096】
特定の実施形態によれば、検出因子が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較して配列番号2-31のいずれか一つに記載の核酸配列またはその一部を有するポリヌクレオチドに特異的にハイブリッド化し得るポリヌクレオチドプローブである。
【0097】
他の実施形態によれば、検出因子が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してSlMYB12変異形をコードするポリヌクレオチドを選択的に増幅し得るプライマー対である。
【0098】
特定の実施形態によれば、検出因子が配列番号1を有する野生型SlMYB12と比較して配列番号2-31のいずれか一つに記載の核酸配列またはその一部を有するSlMYB12変異形を選択的に増幅し得るプライマー対である。
【0099】
本発明の他の態様は、トマト植物におけるy変異株表現形を示す遺伝子マーカーについてのスクリーニング方法を提供するもので、(a)野生型トマト植物またはその断片の配列番号1を有するSlMYB12遺伝子のゲノムポリヌクレオチド配列をy表現形トマト植物から得た組織サンプルにおけるSlMYB12遺伝子のゲノムポリヌクレオチド配列と比較し; (b)y表現形のSlMYB12ゲノム配列における変更を同定することを備え、ここで前記変更が遺伝子転写および/または翻訳の修飾を予測し、また前記変更がy変異株表現形を示す遺伝子マーカーである。
【0100】
ゲノムDNAのアッセイのために、あらゆる植物組織からのサンプルが実質的に適している。例えば、有用なサンプルとして根、葉、茎、果実および果実部分から得た組織がある。cDNAまたはmRNAのアッセイのために、標的核酸を発現する器官から組織サンプルを得なければならない。特定の実施形態によれば、ゲノムDNAサンプルが葉または根から得られる。当該サンプルを、検出工程の前に更に処理してもよい。例えば、細胞または組織サンプル中のDNAを該サンプルの他の成分から分離し、増幅などしてもよい。あらゆる種類の更なる処理を施したものを含む植物から採取した全てのサンプルは、植物から採取すると考える。
【0101】
一般に、変更が遺伝子に位置する場合、これは遺伝子の非コードまたはコード領域に位置してもよい。コード領域に位置する場合、変更がアミノ酸変化をもたらすことができる。かかる変化は、コードポリペプチドの機能または活性に影響を及ぼす場合があるかまたは影響を及ぼさない場合がある。変更が非コード領域に位置する場合、交互スプライシングを生じることができ、再びコードタンパク質活性または機能に影響を及ぼす場合または及ぼさない場合がある。
【0102】
一般に、変更が遺伝子に位置する場合、これは遺伝子の非コードまたはコード領域に位置してもよい。コード領域に位置する場合、変更がアミノ酸変化をもたらすことができる。かかる変化は、コードポリペプチドの機能または活性に影響を及ぼす場合があるかまたは影響を及ぼさない場合がある。変更が非コード領域に位置する場合、交互スプライシングを生じることができ、再びコードタンパク質活性または機能に影響を及ぼす場合または及ぼさない場合がある。変異形遺伝子産物を検出することによってy-表現型に伴うマーカーを同定することもまた、本発明の範囲内に含まれると理解すべきである。ここで用いる「変異形遺伝子産物」は、変更SlMYB12によってコードされる遺伝子産物に関し、完全長遺伝子産物、本質的に完全長の遺伝子産物、遺伝子産物の生物学上活性断片および非生物学的に非活性な遺伝子産物を含むが、これに限定されない。生物学上活性な断片は、野生型に匹敵する転写を始める完全長ポリペプチドのあらゆる部分を含む。
【0103】
変異形遺伝子産物はまた、例えば調節配列の変異形対立遺伝子によって生じる発現レベルまたは発現パターンを変更した遺伝子産物を意味する。用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節素子(例えばポリアデニル化信号)を含む。かかる調節配列は、例えばGoeddelのGene Expression Technology:Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載されている。調節配列は、ヌクレオチド配列の構成要素の発現を多くの種類の宿主細胞に向けるもの、およびヌクレオチド配列の発現を特定の宿主細胞にのみむけるもの(例えば組織特異調節配列)を含む。
【0104】
特定の実施形態によれば、変更をイントロン、ポリアデニル化部位およびリーダー配列からなる群から選択した非コード領域で同定する。他の実施形態によれば、変更を調節配列で同定すれる。特定の好ましい実施形態によると、変更をプロモーター配列で同定する。
【0105】
調べたDNAでの変更の検出は、通常候補植物から取り出したDNAの増幅を必要とする。DNA増幅用の方法は、当業者に既知である。DNA増幅のために最も普通に用いる方法は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応;例えばPCR Basics:from background to Bench, Springer Verlag, 2000;Eckert et al., 1991.PCR Methods and Applications 1:17参照)である。更なる適当な増幅方法としては、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅および自家持続配列複製法および核酸を基にした配列増幅(NASBA)がある。後者の2つの増幅方法は等温転写に基づく等温反応を含み、それぞれ増幅製品として一本鎖RNA(ssRNA)および二本鎖DNA(dsDNA)の両方を約30または100対1の比率でもたらす。
【0106】
野生型遺伝子と比較してトマトy表現形のSlMYB12遺伝子における変更の同定は、当業者に既知のあらゆる方法によって行うことができる。特定の実施形態によれば、SlMYB12配列における変更は次のグループから選択したアッセイによって決定される。(a)非変性ポリアクリルアミドゲル上の一本鎖DNAの電気泳動移動度のシフトを観測する;(b)y表現形トマトから単離したゲノムDNAにSlMYB12遺伝子プローブをハイブリッド化する;(c)前記y表現形トマトのゲノムDNAに対立遺伝子に特異的なプローブをハイブリッド化する;(d)前記y表現形トマトからSlMYB12遺伝子の全部または一部を増幅して増幅配列を作製し、該増幅配列を配列決定する;(e)特異的なSlMYB12突然変異対立遺伝子用のプライマーを用いて前記y表現形トマトからSlMYB12遺伝子の全部または一部を増幅する; (f)前記y表現形トマトからSlMYB12遺伝子の全部または一部を分子的にクローン化してクローン化配列を作製し、該クローン化配列を配列決定する;(g)分子(1)および(2)を互いにハイブリッド化してデュプレックスを形成する際に (1)前記y表現形トマトから単離したSlMYB12遺伝子またはSlMYB12 mRNAおよび(2)トマト野生型SlMYB12遺伝子配列に相補的な核酸プローブ間の不整合を同定する;(h)前記y表現形トマトのSlMYB12遺伝子配列を増幅し、増幅配列をトマト野生型SlMYB12遺伝子配列を備える核酸プローブにハイブリッド化する;(i)前記組織サンプル中のSlMYB12遺伝子配列を増幅し、増幅配列を変異SlMYB12遺伝子配列を備える核酸プローブにハイブリッド化する;(j)前記y表現形トマトにおける欠失突然変異のためのスクリーニング;(k)前記y表現形トマトにおける点突然変異のためのスクリーニング;(l)前記y表現形トマトにおける挿入突然変異のためのスクリーニング;(m)SlMYB12遺伝子を備える核酸プローブで前記y表現形トマトのSlMYB12遺伝子をインシチューハイブリッド化。
【0107】
本発明の更なる態様は、y表現形を有する果実を産出し得るトマト植物を同定するための方法を提供するもので、(a)果実ができる前に植物からDNAサンプルを用意し;(b)DNAサンプル中でSlMYB12遺伝子配列またはその一部分を決定し;(c)該配列をトマト野生型SlMYB12遺伝子の配列と比較し;(d)前記サンプルからのSlMYB12配列中で少なくとも一つの変更を検出することを備え、ここで前記変更がy表現形を有する果実を実らせるための植物の能力を示す。
【0108】
一実施形態によれば、野生型SlMYB12遺伝子が配列番号1に記載の核酸配列を備える。
【0109】
特定の実施形態によれば、少なくとも一つの配列変更がSlMYB12の発現または活性のダウンレギュレーションをもたらす。
【0110】
他の実施形態によれば、配列番号1の変更が表1-3に列挙したもののいずれか一つである。
【0111】
ここに記載するように、SlMYB4-likeおよびSlTHM27の転写因子の発現はまた、無色の果皮y表現形の果実においてダウンレギュレーションされた。さらに、該発現は果実のみならず、葉を含む他の器官でもダウンレギュレーションされた。したがって、SlMYB4-likeおよびSlTHM27の発現レベルを決定することによってy表現形を有する果実を実らせることができるトマト植物を同定することは、本発明の範囲内に明白に含まれる。特定の実施形態によれば、SlMYB4-likeおよびSlTHM27転写物のレベルを果実が実る前に草木において測定する。典型的実施形態によれば、該レベルを草木の葉から得たサンプルにおいて測定する。
【0112】
特定の実施形態によれば、少なくとも一つの変更を同定することは、終了シークエンシング、制限分解消化、対立遺伝子に特異的なポリメラーゼ反応、一本鎖配座の多型性分析、遺伝学的ビット分析、温度勾配ゲル電気泳動リガーゼ連鎖反応およびリガーゼ/ポリメラーゼ遺伝学的ビット分析からなる群から選択した技術によって得られる。
【0113】
他の実施形態によれば、SlMYB12配列の変更は、固有の質量、電荷、電気スピン、質量タグ、放射性同位元素タイプ生物発光分子、化学発光の分子、タグを付けた核酸分子、ハプテン分子、タンパク質分子、光散乱/位相シフト分子および蛍光分子からなる群から選択した検出可能な特徴を有するヌクレオチドを使用することによって同定される。
【0114】
y変異株組織は、フェニルプロパノイド経路と関連した転写物および代謝産物のダウンレギュレーションを示す。
【0115】
本発明らおよび協力者は、トマト果実果皮の二次代謝産物の主なクラスの1つであるフラボノイドの劇的な蓄積がクチクラ脂質の形成を進め、ほぼ果実発達のブレーカ段階まで加速することを示した(Mintz-Oron et al., 2008, ibid)。yおよび野生型果実組織間の二次代謝の主な違いは、オレンジ段階で観察され、大部分がフェニルプロパノイド/フラボノイド経路の変更に関連する。この経路におけるダウンレギュレーションされた転写物および代謝産物レベル間の相互関係は、該経路の上部でSlPALおよびSl4CL遺伝子ならびにその関連した代謝産物並びにSlCHS、SlCHIおよびNarCh/Narおよびその誘導体を含む大部分の生合成経路工程に沿ってみられた。
【0116】
ダウンレギュレーションされた転写物および代謝産物間の相関性は、フラボノールの生合成を導く経路の分岐においてより弱いと思われ、この場合y果皮中のSIFLSの著しく減少した発現レベルが単一フラボノール種(すなわちケルセチン-ジヘキソース-デオキシヘキソース)のみの減少を導く一方、他のすべての検出されたフラボノール誘導体のレベルが野生型のものと相違しなかった。この発見に対する1つのありうる釈明は、付加的な少量のダウンレギュレーションされたフラボノールの存在であって、技術的な理由で本分析で同定されなかった。他にありうる理由は、他のフラボノイドと比較して栽培品種Ailsa Craig(AC)におけるフラボノールの比較的早い蓄積パターンに関係している(Mintz-Oron et al., 2008, ibid)かもしれないので、発達のブレーカおよびオレンジ段階において最も明らかなy変異株によりフラノールが影響を受けない。y変異株(栽培品種ACバックグラウンドにおける)と異なり、amiR-SlMYB12遺伝形質転換草木(栽培品種MTバックグラウンドにおける)は、果実果皮のいくつかのフラボノール、例えばケルセチン-ヘキソース-デオキシヘキソース-ペントースおよびケルセチン-ルチノシド(ルチン)の有意なダウンレギュレーションを示した。これは、おそらく2つの遺伝的バックグラウンド間のフラボノール蓄積の違いに関連している。クマル酸-ヘキソースIIおよびいくつかのNarCh-および/またはNar-ヘキソースのような経路に沿ったグリコシル化代謝産物のレベルもまた減少していた。これは、Sl3GTおよびSlRTのようなグリコシルトランスフェラーゼの減少した発現によるかもしれない。
【0117】
フェニルプロパノイド/フラボノイド経路と関連した遺伝子発現および代謝産物レベルの全体ダウンレギュレーションと対照的に、リグニン側枝経路に関連したいくつかの代謝産物のレベルがy変異株、大部分がフェルラ酸誘導体のレベルでアップレギュレーションされた。弱いとはいえ、この効果はまた、y肉組織において有意だった。しかしながら、この両組織タイプで明白だった代謝産物レベルの増加は、遺伝子発現の変更を伴わなかった。従って、リグニン経路分岐のアップレギュレーションがこの分岐の転写調節における変更の直接の結果というよりむしろフェニルプロパノイド経路による代謝流動のシフトに起因することが示唆される。
【0118】
予想外に、中心的なフェニルプロパノイド前駆体、すなわちアミノ酸フェニルアラニンのレベルが、果皮組織ではなく果肉のみのy突然変異において著しくダウンレギュレーションされたことがわかった。あらゆる特殊な理論または作用機構に縛られずに、果皮組織での蓄積を妨げるフェニルプロパノイドアミノ酸前駆物質のより広い利用能によりこの結果を説明し得る。あるいはまた、これはフェニルアラニン前駆体の主な合成が果肉中で生じ、周辺表皮層に転座されることを示すかもしれない。前駆体および中間体のかかる組織転座は、以前フェニルプロパノイド、テルペノイドおよびアルカロイド並びに他の組織における蓄積および貯蔵前に柔組織の細胞において合成されるとして既知の生合成的中間体について示唆された(Kutchan T.M.2005.Curr. Opin. Plant Biol. 8: 292-300) 。
【0119】
トマト果実果皮のフラボノイド蓄積を制御する調整ネットワーク
【0120】
AtMYB12は、本来アラビドプシス属のフラボノールに特異的な転写活性化因子として同定され、メイズ(因子P)からのオルソログのように、プロモーター活性化用のbHLHパートナーを必要としない(Mehrtens F. et al., 2005. Plant Physiol. 138: 1083-1096) 。本発明の優先権主張日以後に発表された結果(Luo et al., 2008, ibid)は、トマトで発現したAtMYB12の活性がトマトのMYB12オルソロガスタンパク質の作用を反映することを示唆し、トマトで発現したAtMYB12がフラボノール生合成並びにカフェオイルキナ酸(CQA)の生合成経路を活性化することを示す。大部分の同定されたフラボノールのレベルは、y表現形草木におけるSlMYB12のダウンレギュレーションにより有意に変更されない一方、35S:amiR-SlMYB12遺伝形質転換草木におけるSlMYB12の標的としたダウンレギュレーションはフラボノールレベルの有意な減少をもたらした。あらゆる特殊な理論または作用機構に縛られずに、この矛盾は栽培品種AC(yバックグラウンド)および栽培品種MT(amiR-SlMYB12バックグラウンド)間の違いによることが最も考えられる。遺伝的バックグラウンドの効果は、機能的な冗長性を可能にするフラボノイド調整ネットワークの空間的および一時的発現における変化の結果であるかもしれない。あるいはまた、標的遺伝子特異性を変えるプロモーターの多型性によって説明できる。
【0121】
トマトのAtMYB12の過剰発現がCQA生合成経路を活性化する一方、遺伝形質転換(栽培品種MT)草木におけるSlMYB12のダウンレギュレーションが、カフェ酸誘導体(例えばジカフェオイルキナ酸IIIおよびトリカフェオイルキナ酸)の蓄積をもたらした。他方、カフェ酸ヘキソースIVのレベルのアップレギュレーションのほかに、y表現形(栽培品種ACバックグラウンド)の分析は大部分のカフェ酸誘導体のレベルにおける有意な変化を示さなかった。さらにまた、経路の密接に関連した分岐におけるいくつかのフェルラ酸誘導体のレベルをy変異株で著しく増加した。従って、トマトのMYB12オルソログ発現のアップおよびダウンの両レギュレーションによるこれら関連した側枝(すなわちCQAおよびフェルラ酸誘導体)のアップレギュレーションは、変更転写活性化の直接的な結果というよりむしろ代謝経路の流動シフトの結果であるほうがより可能性がある。
【0122】
Strackeら(Stracke R. et al., 2007. Plant J. 50: 660-677)は、アラビドプシス属苗木(AtMYB11、AtMYB12およびAtMYB111)におけるR2R3-MYB因子サブグループ7の機能的冗長性および特異的な空間発現特徴を研究した。彼らは、このサブグループの全3つの部分がフラボノールに特異的な転写制御因子であることを示し、最終的なフラボノール蓄積パターンがこれらの3つの因子の付加発現パターンの結果であることを実証した。これらの結果は、苗木の異なる部分に蓄積するフラボノールの詳細な組成がサブグループ制御タンパク質に対する標的遺伝子の特異的(組織-または細胞型に特異的)反応に依存することを示した。さらにまた、MYB11、MYB12およびMYB111がAtCHS、AtCHI、AtF3HおよびAtFLSを含むフラボノイド生合成のいくつかの遺伝子に対し極めて類似の標的遺伝子特異性を示した。本発明は、y-表現型および35S:amiR-SlMYB12草木の両方の果実においてSlMYB12のダウンレギュレーションがSlTHM27(AtMYB4のトマトオルソログ)およびSlMYB4-likeの抑制によって伴われることを示し、その完全な配列をここに初めて提供する。両方とも、果実発達中にSlMYB12で観測されたパターンと極めて類似する果皮と関連した発現プロファイルを共有する(図1)。あらゆる特異的な理論または作用機構によって縛られることなく、これらの結果は、SlMYB12がSlTHM27および/またはSlMYB4-like遺伝子の直接活性化因子であることを示唆する。
【0123】
草木からのフラボノイドおよび他のフェニルプロパノイドは、主としてその抗酸化活性に基づく健康促進作用の広域スペクトルを有することが知られている。食事のフラボノイドが、低密度の脂質酸化を抑制し、アテローム性動脈硬化および心臓血管疾患を発病するリスクを減らすことがわかった。フラボノイドの高い消費はまた、特定の癌および年齢関連性変性疾患を呈するのに減少したリスクと関係していることを示した。
【0124】
従って、本発明は、SlMYB12をコードする外来性のポリヌクレオチドをそのゲノムに備える少なくとも一つの細胞からなる遺伝形質転換草木を提供するもので、該草木が非遺伝形質転換草木と比較して、フラボノイド、クロロゲン酸およびその誘導体からなる群から選択した少なくとも一つのフェニルプロパノイドの高い含量を有する。
【0125】
特定の実施形態によれば、SlMYB12が配列番号33に記載のアミノ酸配列を有する。他の実施形態によれば、SlMYB12をコードするポリヌクレオチドが配列番号1に記載の核酸配列を備える。付加的な実施形態によれば、SlMYB12をコードするポリヌクレオチドが配列番号32に記載の核酸配列を備える。
【0126】
他の実施形態によれば、フラボノイドは、フラバノンおよびフラボノールである。他の実施形態によれば、フラボノイドがナリンゲニン、ナリンゲニンカルコン、エリオジクチオール、フロレチン、レズベラトロル、ケルセチン-ヘキソース-デオキシヘキソース-ペントース(Q-トリッシュ)およびクエルセチンルチノシド(ルチン)からなる群から選択される。
【0127】
さまざまなDNA作製物を用いて、本発明の教示に従って植物細胞に少なくとも一つのフェニルプロパノイドの高い量を得ることができる。さらに、DNA作製物またはこれを含む発現ベクターは、プロモーター、エンハンサーおよび終了信号を含むがこれに限らない調節エレメントを備えることができる。
【0128】
最も一般的に用いられるプロモーターは、ノパリン・シンターゼ(NOS)プロモーター(Ebert et al., 1987 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84:5745-5749)、オクタピンシンターゼ(OCS)プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)19Sプロモーター(Lawton et al., 1987 Plant Mol Biol. 9:315-324)、CaMV 35S プロモーター(Odell et al., 1985 Nature 313:810-812)およびゴマノハグサモザイクウイルス35Sプロモーターなどのカリモウイルスプロモーター、ルビスコの小サブユニットからの軽い誘導性プロモーター、Adhプロモーター(Walker et al., 1987 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84:6624-66280)、ショ糖シンターゼプロモーター(Yang et al., 1990 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87:4144-4148)、R遺伝子複合体プロモーター(Chandler et al., 1989 Plant Cell 1:1175-1183)、クロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子プロモーターなどである。他の一般的に用いられるプロモーターは、ジャガイモ塊茎ADPGPP遺伝子用のプロモーター、ショ糖シンターゼプロモーター、粒状結合デンプンシンターゼプロモーター、グルテリン遺伝子プロモーター、メイズワクシープロモーター、ブリトゥル遺伝子プロモーター、シュランクン2プロモーター、酸性のキチナーゼ遺伝子プロモーターおよびゼイン遺伝子プロモーター(15 kD, 16 kD, 19 kD, 22 kD, and 27 kD;Perdersen et al. 1982 Cell 29:1015-1026)である。多数のプロモーターが国際特許出願公開WO 00/18963に記載されている。
【0129】
「3’非コード配列」は、コード配列の下流に位置するDNA配列に関し、ポリアデニル化認識配列およびmRNA処理または遺伝子発現に影響を及ぼし得る調節信号をコードする他の配列を含む。ポリアデニル化信号は、mRNA前駆体の3'末端へのポリアデニル酸部分の付加に影響を及ぼすことによって通常特徴づけられる。異なる3'非コード配列の使用が、Ingelbrecht I Lらによって例示される(1989 Plant Cell 1:671-680)。
【0130】
当業者は、本発明に記載した核酸配列および形質転換ベクターの種々の構成要素が前記核酸または核酸断片の発現をもたらすように操作可能にリンクされると理解するであろう。本発明の作製物およびベクターの構成要素を操作可能にリンクするための技術は、当業者にとって周知である。かかる技術は、例えば一つ以上の制限酵素部位を含む合成リンカーのようなリンカーの使用を含む。
【0131】
本発明に係る核酸配列で植物細胞を形質転換する方法は、当業界で既知である。ここで用いる用語「形質転換」または「トランスフォーミング」は、DNA作製物のような外来DNAが受容細胞を形質転換し、遺伝子操作されたまたは遺伝形質転換細胞に入れ、変える方法を記載する。形質転換は、安定とすることができ、この場合核酸配列を草木ゲノムに組み込み、これが安定な遺伝形質を示すか、または一時的とすることができ、この場合核酸配列を形質転換したがゲノムに組み込んでいない細胞によって発現し、これが一時的な特徴を表す。好ましい実施形態によれば、本発明の核酸配列は、植物細胞に安定して形質転換される。
【0132】
外来遺伝子を単子葉植物および双子葉植物の両草木に導入するさまざまな方法がある(Potrykus I 1991 Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol 42:205-225; Shimamoto K. et al., 1989. Nature 338:274-276)。
【0133】
外来性DNAの草木ゲノムDNAへの安定した組込みの主要な方法は、2つの主要な方法を含む:
【0134】
アグロバクテリウムで媒介された遺伝子導入:アグロバクテリウムで媒介されたシステムは、草木ゲノムDNAに組み込む画成されたDNAセグメントを含むプラスミドベクターの使用を含む。植物組織の植菌の方法は、草木種およびアグロバクテリウム送達システムに応じて変わる。広く使われている方法は葉片処理であり、全草分化の開始用の良好な給源を提供するあらゆる組織外植体を用いて行うことができる(Horsch et al., 1988. Plant Molecular Biology Manual A5, 1-9, Kluwer Academic Publishers, Dordrecht)。補助的方法は、アグロバクテリウム送達システムを真空浸入と組み合わせて使用する。アグロバクテリウム・システムは、特に遺伝形質転換双子葉草木の生成に有用である。
【0135】
直接のDNA取込み:植物細胞に直接DNAを移入する方法はさまざまある。エレクトロポレーションにおいては、プロトプラストを強い電界に短時間暴露し、細孔を開いてDNAを受け入れることができる。マイクロインジェクションにおいては、マイクロピペットを用いてDNAを細胞に直接機械的に注入する。微粒子衝突においては、DNAを硫酸マグネシウムの結晶またはタングステン粒子のようなマイクロ発射体に吸着させ、該マイクロ発射体を細胞または植物組織に物理的に加速注入する。
【0136】
特定の実施形態によれば、本発明のDNA作製物の植物細胞への形質転換は、アグロバクテリウム・システムを用いて行われる。
【0137】
次いで、遺伝形質転換草木を組換えDNA作製物または作製物類の発現に適した条件下で増殖させる。組換えDNA作製物または作製物類の発現は、非遺伝形質転換草木における量と比較して遺伝形質転換草木のフラバノンおよびフラボノールを含むフェニルプロパノイド、特にクロロゲン酸およびフラボノイドのタイプおよび量を変える。
【0138】
単独草木プロトプラスト形質転換体または様々な形質転換外植体からの草木の再生、発達および栽培は当業界で周知である(Weissbach and Weissbach, In.: Methods for Plant Molecular Biology, (Eds.), 1988 Academic Press, Inc., San Diego, CA)。この再生および成長プロセスは、通常形質転換細胞の選択、根付苗木段階による胚発生の通常の段階を通したこれら個々の細胞の培養の工程を含む。遺伝形質転換胚および種は、同じように再生される。生成した遺伝形質転換した根付苗条は、その後適切な草木増殖培地、例えば土壌に植えられる。
【0139】
本発明の核酸配列で形質転換して芳香族アミノ酸およびそこから誘導した二次代謝産物の変更量を有する遺伝形質転換草木を提供するようにした遺伝形質転換草木の選択は、当業者に既知の分子遺伝学の標準的方法を用いて行われる。特定の実施形態によれば、核酸配列が抗生物質または除草剤に対する耐性を与える生成物をコードする核酸配列を更に備え、したがって遺伝形質転換草木がその抗生物質または除草剤に対する耐性に従って選択される。
【0140】
遺伝形質転換草木の細胞によって合成された代謝産物の摘出および検出は、当業者に既知の標準的方法によって行うことができる。特定の実施形態によれば、本発明の代謝産物がMintz-Oronら (2008, ibid)によって記載されたようなGC-MS、Fraserら(2000, ibid)によって記載されたようなLC-MSおよびHPLCよって抽出、分析される。
【0141】
目的のタンパク質をコードする外来の外因性遺伝子を含有する草木の発達または再生は、当業界で周知である。再生草木を自家受粉して、ホモ接合の遺伝形質転換草木を提供するのが好ましい。一方、再生草木から得た花粉を作物学的に重要な系統の種子成長草木に掛け合わせるか、またはこれら重要な系統の草木からの花粉を用いて再生草木に授粉する。所望の代謝産物を含む本発明の遺伝形質転換草木は、当業者に周知の方法を使用して栽培される。
【0142】
植物組織から草木を再生するための技術については種々の方法がある。特定の再生方法は、原料植物の組織および再生すべき特定の草木種に依存する。
【0143】
また、遺伝形質転換草木から得た種または草木部分も本発明の範囲内にある。草木部分としては、根、茎、苗条、葉、花粉、種、腫瘍組織および、様々な形態の細胞並びに培養組織、例えば単細胞、プロトプラスト、胚およびカルス組織を含む分化したおよび未分化組織を含むが、これらに限定されない。草木組織は、草木内または器官、組織若しくは細胞培地内とすることができる。
【0144】
以下の例は、より完全に本発明のいくつかの実施例を例示するために示す。しかしながら、本発明の幅広い範囲を制限するようには決して解釈されてはならない。当業者は、本発明の範囲内において、本明細書に開示される原理の多くのバリエーションおよび修飾を容易に考案することがありえる。
【0145】
(材料および方法)
(植物材料)
栽培品種Ailsa Craig(AC)バックグラウンドのホモ接合のy草木(LA3189)由来の種子並びに野生型(wt)栽培品種AC由来の種子を、トマト遺伝子資源センターから得た(TGRC; http://tgrc.ucdavis.edu)。温室栽培された草木の花を開花時に標識し、果実は外観および開花後カウント日数(DPA)に従って収穫した:〜25 DPA-未熟グリーン、〜42 DPA-完熟グリーン、〜44 DPA-ブレーカ、〜46 DPA-オレンジおよび〜48 DPA-赤。各々の生物学的反複は、発達の同じ段階からの4〜5つの個々の果実の混合であった。収穫直後に、果皮および果肉(ゲルおよび種なしで)を手で解剖し、液体窒素で冷凍した。
【0146】
(フラボノイド検出)
ジフェニルホウ酸2-アミノ-エチルエステル(DPBA、Naturstoff Aともよぶ)を、未グリコシル化フラボノイドを含む遊離の3’,4’および/または5’OH基の染色に使用した。初期の分析において、未処理の果実スライス並びに果皮破片をUV(312mm)トランスイルミネーター上に置き、撮影した。その後、果実スライスおよび果皮破片を、0.01%のトリトンX-100を有するDPBA(シグマ社)の飽和溶液(<0.5%の重量/体積)に2時間入れ、次いでUVトランスイルミネーター上に置き、再び撮影した(Zerback R. et al., 1989. Plant Sci. 62: 83-91; Sheanan J. J. and Rechnitz G.A. 1992. BioTechniques 13: 880-883)。染色された非グリコシル化フラボノイドは赤色だったが、非染色サンプルが単に白い照明を反射した。
【0147】
(作製物および草木形質転換の生成)
完全長SlCHS1遺伝子を、栽培品種AC果実のゲノムDNAから表4に列挙したプライマーを用いてPCR増幅により単離し、CaMV 35Sプロモーターを含むpFLAP100中にサブクローン化し、二値のpBINPLUSベクター中にクローン化した(Vanengelen F. A. et al., 1995. Transgenic Res. 4: 288-290)。amiR-MYB12(人工マイクロRNA−標的MYB12)合成遺伝子をはBio S&Tによって合成し、CaMV 35Sプロモーターで二値のpBINPLUSベクターにクローン化した。栽培品種MicroTomトマトの子葉形質転換をDanら( Dan Y. et al., 2006. Plant Cell Rep. 25: 432-441) に従って行った。
【0148】
(遺伝子発現分析)
アレイ分析のために、トータルRNAを調べた3つの発生段階の各々からプールされた3-4の果実の組織から熱いフェノール法(Verwoerd T. C. et al., 1989. Nucleic Acids Res. 17: 2362) によって抽出した。インビトロゲンスーパースクリプトII RTaseによって合成したcDNAをテンプレートとして用いて、Affymetrix技術便覧(www.affymetrix.comで入手可能)に記載されたようにyについては2つの生物学的複製で、また野生型については3つの生物学的複製でAffymetrix社のGeneChip (登録商標)トマトゲノム配列に断片化し、ハイブリッド化したビオチン化cRNAを生成した。複製の再現性および変異度のフィルタリング処置を、Mintz-Oronら(2008、ibid)により予め記載されたような野生型転写物発現データで行った。log2ベースの発現強度値の標準化は、 Rマイクロアレイ分析パッケージ(http://www.R-project.org)により付与されたRMA分析を用いて行った(Irizarry R.A. et al., 2003.Nucleic Acids Res. 31: e15)。遺伝子の初期フィルタリングを、MAS5分析ソフトウェア(Affymetrix 2002)によって得た不在/存在の決定を用いて行った。存在の決定を含む少なくとも一つの段階での転写物を保持した。次に、10'パーセンタイルを下回る全ての発現値を、10’パーセンタイル値に設定した。試験段階の少なくとも3分の1において低い複製再現性(高い相対標準偏差)を示す質の低い点を有する転写物を、更なる分析から排除した。y変異株および野生型の転写物の差異は、1つの試験果実組織(果皮または肉)の少なくとも一つの発生段階におけるy対野生型の少なくとも2倍の強度比を有するものとして規定された。リアルタイムPCR分析を、Mintz-Oronら(2008)により記載されたように行った。アレイおよびRT-PCRによって検出されたフェニルプロパノイド/フラボノイドに関連した転写物およびそれらの発現の概要、並びにExpressソフトウェア(Applied Biosystems社)により設計したプライマー配列を以下の表4に提供する。
【0149】
【表4−1】

【0150】
【表4−2】

【0151】
【表4−3】

【0152】
【表4−4】

【0153】
【表4−5】

【0154】
(半極性化合物の目標外のUPLC-QTOF-MSプロファイリングおよびデータ分析)
半極性化合物の目標外の分析を、すでに記載(Mintz-Oron et al., 2008, ibid)したようにオンラインでUV検出器に、次いでMS検出器接続したUPLCカラムを有するUPLC-QTOF機器(Waters, Premier)よって行った。代謝産物の分離は、100×2.1mmのi.d.の1.7μm UPLC BEH C18カラム(Waters Acquity)上の勾配溶離(0.1%の蟻酸を含むアセトニトリル-水)で行った。溶出化合物の質量(50から1,500Daのm/z範囲)を、ESI給源を備えたQTOF MSで検出した(陽性および陰性モードの両方で行った)。XCMSデータ処理(Smith C.A. et al., 2006. Anal Chem 78: 779-787) をMintz-Oronら(2008, ibid)によって予め記載されたように行った。
【0155】
代謝プロファイルの主成分分析(PCA)を、MATLAB統計ツールボックスでXCMS出力として得たデータセット上で行った。図3に示したPCAプロットを、ソフトウェアパッケージTMEV(Saeed A. I. et al., 2003. BioTechniques 34: 374-378)で作製し、データを標準化により各質量信号およびlog10形質転換用の全サンプルセットの中央値に予備処理した。yおよび野生型果実組織の間で異なる代謝産物をブレーカ、オレンジおよび赤い発生段階で検出した。統計分析に対しデータのロバスト性を確実にするため、全てのサンプルにわたる最大強度が果皮サンプルについては<50ユニットまたは果肉サンプルについては<40ユニット(XCMSによって算出されたピーク面積に比例した任意ユニット)である質量信号を排除した。統計フィルタリングを質量信号に対して行って、野生株およびy変異株間の差異マーカーを同定した。残りのピークは、3つの発生段階のうちの少なくとも1つにおける下記のフィルタでポジティブであった:
【数1】

【0156】
すなわち、野生型および変異株の平均値間の重畳変化が、y変異株または野生型のいずれかの反複内での最大重畳変化より少なくとも二倍に大きくなるべきであった。フィルタリング段階後に保持された目的の質量信号は、クラスタリングによる代謝産物への全質量信号の自動割当を用いて代謝産物に帰属された。同じ代謝産物に属する質量を共にクラスターさせるため、MATLAB 7.3にて行うカスタム・コンピュータプログラムを開発した。プログラムは各マーカーのXCMS分析およびクロマトグラフィの滞留時間に従うフィルタ処理強度データを入力として受け入れる。全てのサンプルにわたる強度の中のスピアマン相関性に基づいた質量信号の全ての対間の距離およびそれらの保持時間を開示するマトリックスを算出する。従って、保持時間RTiおよびRTjと、全てのサンプルにわたる強度間のスピアマン相関係数ijとを2つのマーカーiおよびj間の距離Dijが下記のようにを定義され:
【数2】

ほかに:
【数3】

【0157】
序列的な平均連結クラスタリングアルゴリズムを前記距離マトリックスに適用して、代謝産物帰属に対する質量信号を定義した。クラスタリング距離カットオフを0.34に設定した。かかるカットオフは、26の代謝産物に対する質量信号の手動帰属を含む試験セットにクラスタリング結果のJaccard類似係数によって評価した類似性の最大化によって決定された。Jaccard類似係数は、下記のように定義された:
【数4】

【0158】
質量信号の各対について、自動的にクラスタリングしたセットおよび手動で管理された帰属セットから:
n11が自動的および手動の両方で同じ代謝産物に割当てられた対の量であり;
n10が自動的でなく手動で同じ代謝産物に割当てられた対の量であり;
n01が自動的に同じ代謝産物に割当てられたが、手動帰属で同じ代謝産物に属さない対の量である。
【0159】
MS/MSを、高強度を有する特異的な代謝産物の手動で選択された分子イオンに対し行った。XCMS分析に起因するこれら化合物に対する強度値は、問題のピークの場合手で点検および再調整した。
【0160】
(誘導体化極性抽出物のGC-MSプロファイリングおよびデータ分析)
y変異株および野生型果実組織サンプル(n = 3)の極性代謝産物のGC-MS分析を、Mintz-Oronら(2008、ibid)により予め記載されたように行った。PCAプロッティングのために、データを以下の通り予備処理した:3つの複製のうちの1つの代謝産物の欠測値を複製間の平均値と置換し、ゼロ値をデータセットの最小のゼロでない値より10倍低い値と置換し、データを全てのサンプルにわたる各代謝産物の平均に標準化し、ログ変換した。全部のデータマトリックスの統計分析のために、双方向ANOVA試験を遺伝子型(野生型またはy)および果実発達段階である2つの識別因子で行った。多重仮説制御をFDR方法によって行った。
【実施例1】
【0161】
野生型と比較してy変異株の果肉および果皮組織における転写変化のマイクロアレイ分析
3つの発生段階(ブレーカ、オレンジおよび赤)でのyおよび野生型果実(果皮または果肉組織)の遺伝子発現を比較するために、トランスクリプトーム分析を行った。合計406の非重複的な転写物が、果実発達の3つの試験段階の少なくとも一つにおいてy変異株対野生型果皮または果肉の二倍以上増加または減少した発現を示す。これら転写物の大部分(353)がただ一つの発生段階で異なり、56の転写物が2つの発生段階で異なり、16は全3つの発生段階で異なった。これら406の転写物のうちの60は、果肉および果皮組織において異なった。17の選択された転写物(トマトのPDH、PAL、C3H、4CL、CHS1、CHS2、CCR、CHI、F3H、FLS、RT、C3H、CCR、THM27、MYB4-like、SlNCEDおよびSlCRTR-B2として推定的に同定)の発現の違いは、定量的リアルタイム(RT)PCR分析によって確認された。
【0162】
特異的な転写物は、他の種から研究されたホモログ/オルソログの配列類似性に基づく推定の機能カテゴリーに割当てられた(図3A)。最も見受けられた機能カテゴリーは、y変異株果実果皮においてダウンレギュレーションされた21のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連転写物を含み;これら転写物のうちの9つは、その上果肉においてダウンレギュレーションされた。イソプレノイド代謝に推定的に伴う6つの転写物はまた、y果皮においてダウンレギュレーションされた。他方、推定の炭水化物と、脂肪酸との代謝関連転写物の2つのグループ(それぞれ11および8)がy果皮においてアップレギュレーションされた。様々な転写因子がy変異株組織でアップまたはダウンレギュレーションされ、その中のR2-R3 MYB系統の2つの部分、SlTHM27およびSlMYB4-like(それぞれTC174616およびTC184379)、すなわちAtMYB4フラボノイド関連転写因子のトマトホモログがy変異株の果皮および果肉組織の両方においてダウンレギュレーションされた。
【0163】
果実発達中のyおよび野生型間で異なる遺伝子の発現パターンを研究するために、二つの遺伝子型の間で2倍以上の差異を有する全406の転写物をクラスターした(果皮または果肉の少なくとも一つの発生段階)。40の発現プロファィルクラスターを創出し、果肉が20および果皮が20とした。例えば、クラスター#14はy果皮の低い発現を示した38の転写物からなる(図3B)。これら果皮のダウンレギュレーション遺伝子は、フェニルプロパノイド/フラボノイド代謝に推定的に関連した15の転写物を含み、これは2つの転写因子(SlTHM27およびSlMYB4like)、ストレスおよび防御への反応に伴う6つの転写物、脂肪酸代謝に関連した2つの転写物および他のカテゴリーに由来の15の転写物を含む。このクラスターに属する11の転写物(8つのフェニルプロパノイド/フラボノイド関連を含む)は、全3つの発生段階でy果皮においてダウンレギュレーションされた(表5)。
【0164】
【表5−1】

【0165】
【表5−2】


a 転写物および経路の推定アノテーションは、他の種から最も近い既知のホモログ/オルソログに基づく。
b 遺伝子が属する果皮/果肉発現プロファイルクラスター
c TCインデックス(TIGR同定剤)が利用できない場合にGB値をあてる。
【実施例2】
【0166】
一次および二次代謝が発達中のy変異株果実に影響を受ける
果実代謝に対するy傷害の影響を調べるために、果実発達の5つの段階(未発達の緑、成熟した緑、ブレーカ、オレンジおよび赤)中のyおよび野生型組織の広範囲のメタボローム分析を行った。さまざまな分析法を使用した:半極性成分の検出用の四極子飛行時間型質量分析に結合した超高速液体クロマトグラフィ(UPLC-QTOF-MS); 極性化合物の同定用のガスクロマトグラフィー-MS (GC-MS)分析; 単離果実表皮のワックスのプロファイリング用の炎イオン化検出器を有するGC(GC-FID); 脂質可溶性イソプレノイドの分析用のUVおよび蛍光検出器に結合したHPLC。
【0167】
yおよび野生型果実組織間の代謝産物プロファイルの相違に対する全体図を得るために、代謝産物GC-MSおよびLC-MSデータセットを有する主成分分析(PCA)を行った(図4)。GC-MSセットにおいて、PCAが発達の初期段階、すなわち果皮の未発達の緑の段階並びに果肉の未発達および成熟した緑の段階でのみyおよび野生型果実の代謝産物プロファイルを識別することができた(図4A)。対照的に、果皮組織に由来したUPLC-QTOF-MSデータセット(陰性ESIモード)のPCAが果実発達の3つの最後の段階でyおよび野生型代謝産物プロファイルを識別することができた。果実発達の全5つの試験段階を一緒に分析した際に、かかる違いは果肉組織サンプルの場合明白でなかった(図4B)。しかしながら、PCAを2つの早期段階(未発達および成熟した緑)を除外したデータセットに対して行った場合、3つの後期段階の果皮サンプル並びにオレンジ段階の果肉サンプルにおいてyおよび野生型の代謝プロフィル間で明らかな区別がまた実証された(図4C)。
【0168】
従って、果実発達の早期段階では、yおよび野生型が主にGC−MS分析によって検出された極性(大部分が一次)代謝産物のレベルにおける変化によって異なる代謝プロフィルを保持する。二次代謝産物(大部分はUPLC-QTOF-MSによって検出)におけるyおよび野生型果実間の相違は、果実発達の後期段階で主に果皮組織に現れる。
【実施例3】
【0169】
発達の早期段階でのy果実の一次代謝産物のレベル
ほとんどが一次代謝産物であるGC-MS技術によってモニタし得る56の代謝産物のうちの27(2つのアミン、11のアミノ酸、9つの有機酸、4つの糖およびNarChを含む)が果実発達の少なくとも一つの段階でyおよび野生型組織の間で非常に異なった(全てがy果実組織のレベルの減少を示した;図5)。異なる代謝産物の大部分(27中23)は、y果実の未発達の緑の段階においてレベルの減少を示した。その他の4つの異なる代謝産物は、NarCh、アラビノース、グリセリン酸およびアミンセロトニンを含み、オレンジおよび赤い段階で相当に異なった。4つの特異的代謝産物、すなわち4-アミノ酪酸(GABA)、アラニン、バリンおよびトレオン酸は、果皮および果肉組織の両方においてyおよび野生型果実の間で著しく異なり、15のものは果肉組織のみにおいて非常に異なり、8のものは果皮組織のみにおいて異なった。面白いことに、2つのフェニルプロパノイド前駆体、すなわちフェニルアラニンおよび安息香酸が未発達の緑の果実でに果肉組織においてのみyおよび野生型の間で相当に異なった。要約すると、さまざまな一次代謝産物、特にアミノ酸および有機酸のレベルが、早期のy果実発達で大部分果肉組織において減少している。
【実施例4】
【0170】
y変異株におけるフェニルプロパノイドおよびフラボノイド経路と関連した遺伝子の発現および代謝の変更
UPLC-QTOF-MS代謝産物分析が、トマト果実組織を発達させる際に71の推定の代謝産物、大部分が二次代謝産物の帰属をもたらした。双方向ANOVA試験によれば、これら代謝産物のうちの29は、yおよび野生型果実果皮組織の間で著しく異なった(表6)。これら代謝産物のうちの9つのみが、果実果肉組織において著しく変更した(表7)。全ての特異的代謝産物は、フェニルプロパノイドおよびフラボノイド経路の生成物であった。
【0171】
【表6】

1ここのピーク番号は、この研究のUPLC-QTOF-MS分析によって検出した全代謝産物に付与された数に対応する。
2NarCha−ナリンゲニンカルコン
3(S)−化合物をその保持時間およびマススペクトルと確実な標準のものとの比較によって同定した
4Nar-ナリンゲニン
5Br、OrおよびReは、それぞれ果実発達のブレーカ、オレンジおよび赤い段階を示す
【0172】
【表7】

1ここのピークの番号は、この研究のUPLC-QTOF-MS分析によって検出した全代謝産物に付与された数に対応する
2NC−ナリンゲニンカルコン
3(S)−化合物をその保持時間およびマススペクトルと確実な標準のものとの比較によって同定した
4N-ナリンゲニン
5Br、OrおよびReは、それぞれ果実発達のブレーカ、オレンジおよび赤い段階を示す
【0173】
果皮組織で検出したフラボノイドの2つの大きなグループは、NarChおよびNar誘導体と、ケルセチン-誘導体であった。単独誘導体は別として、NarCh/Narグループの全てのものがy変異株果皮においてダウンレギュレーションされる一方、大部分のケルセチン-誘導体のレベルが変わらなかった。yおよび野生型果皮で同定された他のフラボノイドは、エリオジクチオールおよびその誘導体のうちの1つ並びに2つのケンペロール誘導体であり、エリオジクチオールおよびその誘導体のみがy変異株果皮においてダウンレギュレーションされた。追加のフェニルプロパノイドおよびフラボノイドがまた果皮において検出され、安息香酸およびその誘導体のうちの2つ、3つのクマル酸誘導体、6つのカフェ酸誘導体、7つのフェルラ酸誘導体、フロレチンおよびその誘導体のうちの2つ並びにトランスレスベラトロルを含む。これらのうち、1つの安息香酸誘導体、1つのクマル酸誘導体、フロレチンおよびその2つの誘導体並びにトランスレスベラトロルのみがy変異株果実果皮においてダウンレギュレーションされた。yにおけるレベル上昇を示した二次代謝産物は、4つのフェルラ酸誘導体および単一のカフェ酸誘導体であり、リグニン代謝に伴うフェニルプロパノイド経路分岐の全ての部分である。
【0174】
上記のとおり、マイクロアレイ遺伝子発現分析では、y変異株果皮のフェニルプロパノイド/フラボノイド経路と推定的に関係す21の転写物のダウンレギュレーションがみられた(図3A)。これらは、早期のシキミ酸経路および一般のフェニルプロパノイド関連の転写物(それぞれSlPDHおよびSlCM並びにSl4CLおよびSlCCR)、フラボノイド経路に対応し、NarChおよびNar生合成に伴う転写物(例えばSlCHS、SlCHIおよびSlF3H)、ならびに推定的にフラボノールの形成に触媒作用を及ぼすSlFLS転写物を含む。大部分のこれら遺伝子のダウンレギュレーションは、アレイに存在しない5つの追加的な推定のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連遺伝子(SlANS、SlF3'H、2つのSlCOMT遺伝子およびSlREF1)を含むリアルタイムPCR分析の結果によって補強された(図6)。リグニン代謝分岐の推定の構造遺伝子であり、フェルラ酸誘導体の生合成に関連した2つの追加的な遺伝子、SlCOMTおよびSlREF1の発現レベルは、y変異株および野生型の果皮の間で相違しなかった。アレイの結果によれば、3つの推定のフェニルプロパノイド/フラボノイド関連遺伝子(SlPAR、SlF3Hおよびトマトアシル基転移酵素)は、果実発達の試験段階のうちの少なくとも1つにおいてアップレギュレーションされるようである。しかしながら、SlPAR遺伝子の場合、リアルタイムPCR分析はマイクロアレイの結果を確認せず、SlF3Hの場合、異なる推定のSlF3HがアレイおよびRT-PCR分析の両方によってy変異株果皮においてダウンレギュレーションされることが分かった。全体として、マイクロアレイおよびリアルタイムPCR分析に従う遺伝子発現は、y変異株果皮組織のフェニルプロパノイド/フラボノイド経路によって示される大きな変更をさらに補強した。
【0175】
フェニルプロパノイド/フラボノイド代謝産物のレベルもまたy変異株果肉において変更される一方、それは果皮組織の変化との比較としてはより少なかった。この発見はトマト果肉のフェニルプロパノイド/フラボノイド経路のより低い活性を示す多くの以前の研究に従っている(例えば、Mintz-Oron et al 2008, ibid; Moco S. et al., 2007. J. Exp. Bot. 58: 4131-4146; Muir et al., 2001, ibid; Bovy et al., 2002 ibid)。Nar-Cha、Narおよびフロレチンおよびその誘導体はまた、野生型と比較して、y変異株果肉組織においてダウンレギュレーションされることがわかった。フェニルプロパノイド経路の上部からのフェニルアラニンおよび安息香酸がy変異株の果肉においてのみ有意なダウンレギュレーションを示すことは、注目に値する。フェニルプロパノイド経路のリグニン関連分岐におけるフェルロイルチラミンヘキソース、N-フェルロイルプトレシンおよびカフェオリルプトレシンが、y変異株の果肉および果皮の両方でアップレギュレーションされた。フェニルプロパノイド/フラボノイド経路由来の全ての構造遺伝子の発現が果皮(yおよび野生型果実の両方)よりも果肉において全体的により低いが、yのダウンレギュレーション(野生型発現レベルに対し)はまた、果肉において明白だった(図7)。したがって、フェニルプロパノイド/フラボノイド経路の広範囲の変更が、y変異株の果肉でも検出された。
【実施例5】
【0176】
SlMYB12の染色体位置
yの遺伝子発現および代謝に対する幅広い効果は、SlCHSの上流遺伝子、おそらく調整因子がy変異株表現形に関与することを示唆した。マイクロアレイ分析では、ブレーカおよびオレンジ段階のy果実におけるR2R3-MYB転写因子系統の2つの部材、SlTHM27およびSlMYB4-like(それぞれTC174616およびTC184379)のダウンレギュレーション発現を示した。yおよび野生型果実のcDNAサンプル由来の両転写物のコード領域のシークエンシングは、推定的に翻訳されたタンパク質の機能を変えると思われない単一ヌクレオチド多型(SNPs)を示した。さらにまた、これらの2つの転写因子は、染色体10および6にマップされ、染色体1上の従来既知のy突然変異場所にマップされなかった(Rick and Butler 1965, ibid)。
【0177】
本発明者らは、y変異株表現形に関与する調節因子を見出すために、他の種(6つのR2R3-MYB系統メンバーおよび1つの基本螺旋ループ螺旋(bHLH))由来の既知フラボノイド関連調節因子のオルソログ/ホモログである7つの追加的な推定のトマト転写因子を同定および再作製した。これらトマト調節因子の予測されたタンパク質配列および他の種由来の既知フラボノイド関連転写因子の配列で行った系統学的分析(図8A)は、3つのパラロガス対を示し、それぞれSlMYB12およびSlMYB12-like、SlMYB4-likeおよびSlTHM27、並びにアラビドプシス属のMYB12およびMYB4およびペチュニアAN2転写因子の推定のオルソログ/ホモログであるSlANT1およびSlANT2を含む。2つの追加的なトマトR2R3-MYB遺伝子(SlMYB111およびSlMYB61)は、アラビドプシス属MYB111およびMYB61のオルソログであり、bHLH転写因子(SlJAF13)はペチュニアJAF13のオルソログである。yおよび野生型両由来の7つの追加的な推定の調節因子に対応する転写物のシークエンシングは、その推定的にコードされたタンパク質の機能を変更しそうなあらゆる配列傷害を生じなかった。発現分析は、これら追加的な調節因子(SlMYB12)のうちのその1つのみがy変異株果実組織の変更した発現レベルを示すことがわかった(図8B)。本発明者らは、染色体場所をこれら7つの候補調節因子のうちの4つ、すなわち染色体1、6、11および8にそれぞれマップされたSlMYB12、SlMYB12-like、SlMYB111およびSlJAF13に指定することができ、その一方でSlANT1がトマト染色体10に最近マップされた(Sapir M. et al., 2008. J. Hered. 99: 292-303)。遺伝子マッピング用に用いた種間の遺伝子移入系統(IL)に挿入されるペンネルリィ染色体セグメント間の部分重複(Eshed Y. and Zamir D. 1995, Genetics 141:1147-1162)は、以前に定義されたy突然変異場所1-30を含む染色体1上のcM 17および41の間隙にSlMYB12の位置を決めた(図9)。果実発達の5つの段階の間のSlMYB12発現の分析は、未発達の緑の段階にお
いて最大で、果実が熟した段階まで発達するにつれて減少する果皮関連発現を実証した(図8C)。
【0178】
したがって、トマト調節遺伝子は、その予測タンパク質の機能を変えそうである突然変異を保持することがわからなかった。9つの試験した転写因子のうちの3つ(SlTHM27、SlMYB4-likeおよびSlMYB12)は、y変異株果実果皮において著しくダウンレギュレーションされるが、これらうちのひとつ、果皮関連のSlMYB12だけがy変異株表現形の基礎をなす突然変異を保持すると以前報告された染色体1上のゲノム領域にマップされる。
【実施例6】
【0179】
無色の果皮で同時分離される追加的な対立遺伝子
SlMYB12遺伝子の再作製構造は、1974bpからなり、2つのイントロンを含む(図2A)。cDNA Ends(RACE)分析のランダムな増幅は、終止コドンから下流に73bp(S版)または204bp(L版)位置において野生型SlMYB12転写物の3’UTRで2つの交互ポリアデニル化バージョンを示した(図2A)。Ailsa Craig (AC)栽培品種およびy変異株由来のゲノムSlMYB12のシークエンシングは、いくつかのSNPsを生じたが、これらのいずれもy遺伝子型に特異的でなかった。本発明者らはまた、SlMYB12上流領域の0.5kb以上を再作製し,配列決定した。しかしながら、yおよび野生型配列間の相違は、該遺伝子の上流領域で検出されなかった。
【0180】
加えて、異なる起源に由来したいくつかの他の無色の果皮トマト系統からのSlMYB12遺伝子を配列決定した。トマトエリートの近交系(ソヌラム リコペルシカムE6203)および野生種ソヌラムネオリキー(L.パルビフロルムとしてすでに既知)間の種間交雑によって生じたいくつかの遺伝子移入系統(IL)(LA2133; Fulton T.M. et al., 2000. Theor Appl Genet 100: 1025-1042) は、そのMYB12遺伝子のイントロンおよびエキソンにおける配列変更の同じ組合せをともなうとわかった。また、いくつかのSNPsおよび3bp削除を含むこれら配列変化は、対応タンパク質において5つのミスセンス変化(K227M; R237E; V245A; N256S and T331A)および1つのアミノ酸削除(N315del)をもたらすことが予測される(図10)。予測プログラム(PSIPRED http://bioinf.cs.ucl.ac.uk/psipred/;JPRED http://www.compbio.dundee.ac.uk/~www-jpred/index.html) は、これらアミノ酸変更がタンパク質安定性、特にC末端でヘリックス構造の形成を妨げると思われるT331Aミスセンス変化を減少させそうであることを求めた。さらに、これら無色の果皮系統からのSlMYB12転写物に対して行った3’RACE分析は、多重配列変化がSlMYB12転写物の早期ポリアデニル化(pad)用の新しい信号をエキソン3のコード配列内のアミノ酸237,264,273,320および327(pad1a, pad2a, pad3a, pad4a, pad5a)で、または終結コドン(pad6a)上に導入することを示した(図2Aおよび図9B)。この推定y対立遺伝子(y-1と呼ぶ)を含む組み込まれた配列変化は、M82、MicroTom(MT)、ACおよびE6203栽培品種から単離されたゲノムSlMYB12並びにこの研究において特徴づけたy変異株において検出されず、調べたIL個体群の100系統以上のうちの無色の果皮表現形で同時に分離されることがわかった。
【実施例7】
【0181】
SlMYB12を標的とする人工マイクロRNAは遺伝形質転換草木にy-like表現形を誘発する
y表現形の基礎をなす調節因子としてのSlMYB12の意味を確認するために、特異的にSlMYB12(amiR-SlMYB12)を標的とする人工マイクロRNAを設計した。これは、amiR-SlMYB12により構造性のCaMV35Sプロモーターの制御下でトマト(栽培品種MT)に発現された(図2B)。4本の遺伝形質転換草木に由来する果実は、典型的なy変異株の無色果皮表現形を示した(図2C)。リアルタイムPCR分析は、SlMYB12並びに2つの追加的な転写因子、SlTHM27およびSlMYB4-likeの相当なダウンレギュレーションを示した。上述の通り、これら3つの因子はまた、y変異株でダウンレギュレーションされた。著しく減少した発現レベルがまた、SlPAL、SlCHS、SlCHIおよびSlFLSを含むいくつかの試験したフェニルプロパノイド/フラボノイド関連構造遺伝子について検出された(図2D)。SlMYB12-like、すなわちSlMYB12の最も近いパラログの発現は、amiR-SlMYB12発現草木において変わらなかった。
【0182】
amiR-SlMYB12およびその野生型(栽培品種MT)並びにy変異株およびその野生型(栽培品種AC)の熟した果実の果皮サンプルから得たメタボリックプロファイリングデータ(LC-MS)のPCA分析は、amiR-SlMYB12および野生型栽培品種MTのプロファイル間で明らかに区別することができた(図2E)。栽培品種MTおよび栽培品種ACからの野生型果皮のメタボリックプロファイルは、同様に異なるが、互いにy変異株またはamiR-S1MYB12プロファイルに対するよりも一層近接した。NarCh、フロレチンジヘキソシドおよびいくつかのフラボノール共役物を含む数種のフラボノイドのレベルの有意なダウンレギュレーション並びにamiR-SlMYB12発現草木における僅かなカフェ酸誘導体のレベルのアップレギュレーションが検出された(図2Fおよび11)。図2Fにおける種々の化合物の推定同一性は、1-ケルセチン-ジヘキソース-デオキシヘキソース、2-ケルセチンヘキソース-デオキシヘキソース-ペントース、3-ケルセチン ルチノシド(ルチン)、4-フロレチン-ジ-C-ヘキソース、5-ケンペロール-グルコース-ラムノース、6-ナリンゲニンカルコン、7-ジカフェオイルキナ酸酸III、8-三カフェオイルキナ酸酸である。上方および下方パネルは、それぞれ対応野生型のものと比較して導入遺伝子サンプルの増減レベルを示した代謝産物を示す。
【実施例8】
【0183】
表現形相補性がy遺伝的背景上のSlMYB12の構成的発現により決定された
予備実験において、y変異株背景上のSlMYB12(35SのCaMVプロモーター依存)の発現がy表現形の部分的相補性を示す果実をもたらした。赤い果実の果皮のUPLC-PDA(ホトダイオードアレイ)分析は、表現形相補性領域(35S:SlMYB12の果皮中)およびy変異株果皮間でフラボノイド(NarCh、ケルセチン-ヘキソース-デオキシヘキソース-ペントースおよびケルセチンルチノシドを含む)の著しく異なるレベルを示した(図10)。
【実施例9】
【0184】
y変異株の果実以外の器官の代謝変化
y表現形の基となる傷害が果実以外の植物器官に代謝を生じるどうかを確かめるため、本発明者らは、yおよび野生型草木の葉において6つの構造および3つの調整フェニルプロパノイド/フラボノイド関連遺伝子の発現を評価した。若葉ではこれら遺伝子の発現がyおよび野生型間で異ならなかった(図11A)が、一方完全に広がった葉ではyのダウンレギュレーション発現の明らかな傾向が試験した遺伝子すべてで明白だった。このダウンレギュレーションは、SlCHIおよびSlFLSの場合に極めて顕著であった(図11B)。加えて、yおよび野生型苗木に由来した根のUPLC-QTOF-MSプロファイリングによって得た代謝産物データセットのPCA分析は、明らかに2つの遺伝子型のプロフィル間で区別された(図11C)。したがって、y変異株表現形の基となる傷害の影響が果実組織に制限されない。
【0185】
特定実施形態の前述の説明は、本発明の一般の性格がこうして十分にみられる。現在の知識を適用することによって、不相応な実験および一般的な概念から逸脱することのない特定実施形態などの様々な用途に容易に修正および/または適合させることができ、従って、かかる適合および修正が開示された実施形態相当の意味および範囲の中で理解されるべきであり、そのつもりである。ここで用いた語法または用語が説明のためであって限定するものではないことは理解されたい。様々な開示された作用を行うための平均値、材料およびステップは、本発明から逸脱することなく種々の他の形を取ってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SlMYB12変異形転写物をコードする単離ポリヌクレオチドで、野生型SlMYB12と比較して少なくとも一つの変更を備え、前記野生型が配列番号1に記載の核酸配列を有し、前記変異形転写物がコードSlMYB12タンパク質のダウンレギュレーションされた発現および/または活性もたらすことを特徴とする単離ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してプロモーター領域、イントロン1、イントロン2、エキソン3またはその組合せのいずれか一つに少なくとも一つの変更を備える請求項1に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが配列番号2-28のいずれか一つに記載の核酸配列を備える請求項2に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記変更が配列番号1の位置905-994内に存在する請求項2に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号29に記載の核酸配列を備える請求項4に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記変更が配列番号1の位置1474-1728内に存在する請求項2に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号30に記載の核酸配列を備える請求項6に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号31に記載の核酸配列を有する請求項1に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1のポリヌクレオチドを検出することができる検出因子。
【請求項10】
ポリヌクレオチドが、配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較してプロモーター領域、イントロン1、イントロン2、エキソン3およびその組合せに少なくとも一つの変更を備える請求項9に記載の検出因子。
【請求項11】
前記配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12ポリヌクレオチドと比較して前記ポリヌクレオチドに特異的にハイブリッド化する請求項9に記載の検出因子。
【請求項12】
前記ポリヌクレオチドが配列番号2-31のいずれか一つに記載の核酸配列またはその一部を有する請求項11に記載の検出因子。
【請求項13】
前記検出因子が配列番号1に記載の核酸配列を有する野生型SlMYB12と比較して前記ポリヌクレオチドを選択的に増幅し得るプライマー対である請求項9に記載の検出因子。
【請求項14】
前記ポリヌクレオチドが配列番号2-31のいずれか一つに記載の核酸配列またはその一部を有する請求項13に記載の検出因子。
【請求項15】
トマト草木の無色の果皮y変異株表現形を示す遺伝子マーカーのためのスクリーニング方法であって、
(a)野生型トマト草木の配列番号1を有するSlMYB12遺伝子のゲノムポリヌクレオチド配列またはその断片をy表現形トマト草木から得た組織サンプルのSlMYB12遺伝子のゲノムポリヌクレオチド配列と比較し;
(b)y変異株表現形のSlMYB12ゲノム配列における変更を同定することを備え、
前期変更が遺伝子転写および/または翻訳の変更を予測し、y変異株表現形を示す遺伝マーカーであることを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項16】
前記変更が、イントロンおよび上流プロモーター領域からなる群から選択された非コード領域内で同定される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記変更が上流プロモーター領域内で同定される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記配列変更がSlMYB12の発現または活性のダウンレギュレーションをもたらす請求項15に記載の方法。
【請求項19】
無色の果皮y表現形を有する果実を産出し得るトマト草木を同定するに当たり、
(a)果実を産出する前に草木から遺伝物質を備えるサンプルを用意し;
(b)該サンプルにおいてSlMYB12遺伝子またはその転写物の配列もしくはその一部分を決定し;
(c)前記配列をトマト野生型SlMYB12遺伝子または転写物の配列と比較し;
(d)前記野生型と比較して前記サンプルからSlMYB12配列の少なくとも一つの変更を検出することを備え、
前記変更がy表現形を有する果実を産出する草木能力を示すことを特徴とする同定方法。
【請求項20】
前記野生型SlMYB12遺伝子が配列番号1に記載の核酸配列を備える請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記野生型SlMYB12転写物が配列番号32に記載の核酸配列を備える請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも一つの変更がSlMYB12の発現または活性のダウンレギュレーションをもたらす請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記変更が野生型SlMYB12と比較してプロモーター領域、イントロン1、イントロン2、エキソン3またはその組合せ内に存在し、遺伝子転写および/または翻訳の修正を予測する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記サンプルのSlMYB12遺伝子が配列番号2-31のいずれか一つに記載の核酸配列を備える請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも一つの変更を同定することが、ターミネーターシークエンシング、規制消化、対立遺伝子に特異的なポリメラーゼ反応、一本鎖配座の多型性分析、遺伝学的なビット分析、温度傾度ゲル電気泳動、リガーゼ連鎖反応およびリガーゼ/ポリメラーゼ遺伝学的なビット分析からなる群から選択した技術によって得られる請求項19に記載の方法。
【請求項26】
配列番号33を有する野生型SlMYB12ポリペプチドをコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項27】
配列番号1に記載の核酸配列を備える請求項26に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項28】
配列番号32に記載の核酸配列を備える請求項26に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項29】
ゲノムに請求項26に係る外因性ポリヌクレオチドを備えた少なくとも一つの細胞を備える遺伝形質転換草木であって、該草木が非遺伝形質転換草木と比べてフラボノイド、クロロゲン酸およびその誘導体からなる群から選択した少なくとも一つのフェニルプロパノイドの高い含量を有する遺伝形質転換草木。
【請求項30】
前記ポリヌクレオチドが配列番号1に記載の核酸配列を備える請求項29に記載の遺伝形質転換草木。
【請求項31】
前記ポリヌクレオチドが配列番号32に記載の核酸配列を備える請求項29に記載の遺伝形質転換草木。
【請求項32】
非遺伝形質転換草木と比較してナリンゲニン、ナリンゲニンカルコン、エリオジクチオール、フロレチン、レズベラトロル、ケルセチン-ヘキソース-デオキシヘキソース-ペントース(Q-トリッシュ)およびクエルセチンルチノシド(ルチン)の少なくとも一つの高い含量を有する請求項29に記載の遺伝形質転換草木。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−525804(P2011−525804A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515731(P2011−515731)
【出願日】平成21年6月28日(2009.6.28)
【国際出願番号】PCT/IL2009/000642
【国際公開番号】WO2009/157000
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(502379147)イェダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド (14)
【Fターム(参考)】