説明

トレーシングシステム及びトレーシングシステム設定処理用プログラム

【課題】トレースの対象となる作業者の動きに対し基準特徴量を容易に設定可能なトレーシングシステムとそれに用いられるトレーシングシステム設定処理用プログラムを提供する。
【解決手段】時系列でセンサデータを格納するデータ格納ステップ(STEP1)と、特徴量を求めるための条件を選択条件情報の入力を促して入力された選択条件情報を受ける選択条件入力ステップ(STEP2)と、入力された選択条件情報に基いてセンサデータを処理し入出力手段に処理結果を表示する処理ステップ(STEP3)と、処理ステップにより表示された処理結果に対し、基準特徴量を選択すべき旨の入力を受けると、処理果に対応して選択条件入力ステップで入力された選択条件情報を特徴量算出手段へ特徴量算出条件として書き込み、かつ、処理ステップにより処理された結果を基準データとして基準特徴量格納手段へ格納する書込ステップ(STEP5)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返しの一連の作業が確実に行われているか否かを判定するに当たって、判定の基準を容易に設定することが可能なトレーシングシステムと、このトレーシングシステムにおいて用いられるプログラムであって、判定の基準となる基準特徴量を設定するトレーシングシステム設定処理用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造ラインには、自動車のボディを一定の速度で搬送するための搬送手段が配備されており、さらにボディに取り付ける部品などをボディの近傍で運搬する移動台車が配備されている。この移動台車は、ボディに対して決められた位置関係となるようにボディの搬送と連関して移動するよう構成されている。作業者は手持ちの取り付け工具を利用してボディに部品をボルト締めする。そのような取り付け工具に関し、特許文献1には、ネジ締め付け位置を特定できるように構成した締め付け位置検出装置について開示されている。
【0003】
また、本発明者らは、自動車の製造ラインなどでなされる組み付け作業が確実に行われているか否かを判定して、人為的なエラーを防止するトレーシングシステムの開発を行っている。特許文献2には、作業者がマニュアルに沿って作業を行っているか否かを確認するためのトレーシングシステムが開示されている。そのトレーシングシステムでは、地磁気センサや加速度センサなどのセンサを作業者が取り付け、トレースする前に、作業者がセンサを装着した状態で、作業工程別の各工程に基準となる動作を行う。特徴量抽出部がセンサからセンサデータを取得すると、センサデータに基いて特徴を抽出して特徴量を求める。この処理を同一の作業について行っておき、標準データ蓄積部に蓄積しておく。その後、同一の作業者がセンサを装着してその作業工程を行う。すると、特徴量抽出部が特徴量を求め、参照部がこの求めた特徴量を標準データ蓄積部に蓄積されている標準データと比較して、その結果を判定部に出力する。このシステムでは、センサから出力されたセンサデータに基いて特徴抽出部が特徴量を求め、予め正しい作業を行った場合の標準作業データと比較して、作業者による作業が適切であったか否かを判断する。よって、作業者がマニュアル通りに作業をしているか否かの判断を行える。
【0004】
特許文献2に開示されたトレーシングシステムにあっては、一連の作業をトレースし終わって、センサデータから特徴量を抽出して、その特徴量の時間的変化により一連の作業がマニュアルどおりに行われているか否かを判断している。その判断は、抽出した特徴量を基準特徴量と照合して基準特徴量の範囲内か否かで行っているため、基準特徴量の設定が必要不可欠となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−85390号公報
【特許文献2】特開2009−187527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示されているトレーシングシステムにおいては、基準となる動作に基いて特徴量を設定するには、センサから取得したデータをエクセル等の汎用性のあるプログラムやソフトウェアを用いて視覚化し、その表示されたデータに基いて人為的になされているため、その設定を行う者に統計的な数学的素養や熟練を要する。また、作業内容に僅かな変更が生じた場合にも、基準となる特徴量を設定し直す必要があるため、迅速な対応がとれない。
【0007】
さらに、同トレーシングシステムにおいて、トレースの対象として新たに設定される一連の作業について基準となる特徴量を設定するに当たっては、熟練者による試行錯誤に依存しているため、新たな一連の作業にトレーシングシステムを導入するには労力がかかる。また、トレースの対象として新たな一連の作業を設定した場合には、仮に基準特徴量が求まったとしても、その基準特徴量に合わせてプログラムを設定し直す必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、トレースの対象となる作業者の動きに変更が生じたり新たな一連の作業をトレースしたりする際、基準特徴量の設定が容易なトレーシングシステムを提供することを第1の目的とする。
【0009】
また、本発明は、トレーシングシステムを利用するに当たって基準となる特徴量を容易に設定することができるトレーシングシステム設定処理用プログラムを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成するために、本発明は、作業者の繰り返される一連の動きを検出する一又は複数のセンサを内蔵したセンサユニットと、センサから出力されたセンサデータから特徴量算出条件に従って特徴量を求める特徴量算出手段と、特徴量に関する基準データを格納する基準特徴量格納手段と、特徴量算出手段から入力された特徴量を上記基準特徴量格納手段に格納されている基準データと照合して特徴量が基準データの範囲内か否かを判定する判定手段と、を備え、作業者の動きをトレースするトレーシングシステムにおいて、センサユニットから時系列で入力されたセンサデータを格納するデータ格納手段と、データ格納手段に格納されたセンサデータから特徴量を求めるための条件を選択条件情報として、基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間の指定、該対象とするセンサデータの種類、及びセンサデータに施す処理の内容を選択する選択手段と、選択手段により選択された選択条件情報に基いてデータ格納手段に格納されているセンサデータを処理する処理手段と、選択手段で選択された選択条件情報のうち特徴量算出基準として決められたものを特徴量算出手段へ特徴量算出条件として書き込み、かつ、処理手段により処理された結果のうち基準データとして決められた特徴量を基準特徴量格納手段へ格納する書込手段と、データ格納手段に格納されているセンサデータを表示すると共に、選択手段における選択条件情報を表示して選択させ、その選択により処理手段で処理された結果を表示するための入出力手段と、選択手段、処理手段及び書込手段の何れか又は全てと入出力手段とで入出力インタフェースを行う入出力インタフェース手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記構成において、さらに、トレースすべき一連の各作業を区分するためのトリガー信号を発生させる信号発生手段を備えており、データ格納手段が前記センサユニットからのセンサデータと共に信号発生手段により発生したトリガー信号を格納し、入出力手段がデータ格納手段に格納されているセンサデータ及びトリガー信号を表示することを特徴とする。
【0012】
上記構成において、信号発生手段には、各作業に供される工具類に内蔵されたものが含まれるか、又は、センサユニット内のセンサの一つとして加速度センサが備えられており、信号発生手段には、加速度センサの各成分データが所定の条件を満たさなくなるとトリガー信号を発生するものが含まれる。
【0013】
上記構成において、さらに、作業者の動きを撮影して撮影データを生成する撮影手段を備え、データ格納手段が、撮影手段により生成される撮影データをも格納し、入出力手段が、データ格納手段に格納されているセンサデータ及び撮影データを表示すると共に、選択手段における選択条件情報を表示して選択させ、その選択により処理手段で処理された結果とデータ格納手段に格納されている撮影データとを表示することを特徴とする。
【0014】
上記構成において、入出力インタフェース手段は、入出力手段に対してグラフィック表示を行い、グラフィック表示への入力機能を有することを特徴とする。
【0015】
上記第2の目的を達成するために、本発明は、作業者の繰り返される一連の動きを検出する一又は複数のセンサを内蔵したセンサユニットと、センサから出力されたセンサデータから特徴量算出条件に従って特徴量を求める特徴量算出手段と、特徴量に関する基準データを格納する基準特徴量格納手段と、特徴量算出手段から入力された特徴量を基準特徴量格納手段に格納されている基準データと照合して特徴量が基準データの範囲内か否かを判定する判定手段と、入出力手段とを備え、作業の動きをトレースするトレーシングシステムにおいて用いられるトレーシングシステム設定処理用プログラムにおいて、センサユニットから時系列でセンサデータを格納するデータ格納ステップと、データ格納ステップで格納したセンサデータから特徴量を求めるための条件を選択条件情報として、基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間の指定、該対象とするセンサデータの種類、及びセンサデータに施す処理の内容の入力を促すように入出力手段に表示し、入出力手段に対して入力された選択条件情報を受ける選択条件入力ステップと、選択条件入力ステップにより入力された選択条件情報に基いてデータ格納ステップで格納したセンサデータを処理し入出力手段にその処理の結果を表示する処理ステップと、処理ステップにより表示された処理の結果に対し、基準特徴量を選択すべき旨の入力を受けると、その処理の結果に対応して選択条件入力ステップで入力された選択条件情報を特徴量算出手段へ特徴量算出条件として書き込み、かつ、処理ステップにより処理された結果を基準データとして基準特徴量格納手段へ格納する書込ステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
上記データ格納ステップでは、トレーシングシステムに含まれている信号発生手段により一連の各作業を区別するために発生したトリガー信号を、センサユニットから時系列に入力されるセンサデータと共に格納し、処理ステップにおいて処理の結果と共にトリガー信号を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トレーシングシステムにおいて必須となる基準特徴量の設定が容易となり、トレースの対象となる作業者の一連の作業に僅かな変更が生じても迅速に対応することができるばかりか、トレーシングシステムを新たに適用することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るトレーシングシステムのブロック構成図である。
【図2】図1に示すトレーシングシステムを用いてトレースされる繰り返し作業の一例として、自動車のボディへの燃料タンク取付作業を説明するための模式図である。
【図3】図1に示すトレーシングシステムにおいて、入出力手段へのセンサデータと選択条件情報の表示の態様を模式的に示す図である。
【図4】図1に示すトレーシングシステムにおいて、処理手段により選択条件情報に基づいて処理された結果を表示する態様を模式的に示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るトレーシングシステム設定処理用プログラムのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0020】
〔システム構成〕
図1は本発明の実施形態に係るトレーシングシステムのブロック構成図である。本発明の実施形態に係るトレーシングシステム1は、図1に示すように、作業者に装着されるセンサユニット10と信号発生手段20とデータ処理装置30と撮影手段60とを含んで構成される。
【0021】
〔センサユニット〕
センサユニット10は、作業者の繰り返される一連の動きを検出する一又は複数のセンサを内蔵したものであり、具体的には、センサ部11とデータ処理手段12と送信手段13とを備える。センサユニット10は腕時計タイプで腕に取り付けられたり、腕章内に収納されて取り付けられたり、又は工具に取り付けられたりすることにより、作業者に対して常に同じように装着される。
【0022】
センサ部11は、加速度センサ11a、地磁気センサ11bなどの各種のセンサを有する。加速度センサ11aは、加速度を検出してデータ処理手段12に随時出力する。地磁気センサ11bは、地磁気を検出してデータ処理手段12に随時出力する。加速度センサ11a,地磁気センサ11bは、何れも三軸センサであることが好ましく、この場合、各センサデータはx成分、y成分、z成分からなる。なお、センサの種類は二種類である必要はなく一種類でも三種類以上でもよい。
【0023】
データ処理手段12は、加速度センサ11a,地磁気センサ11bからのデータを同一のタイミングでサンプリングしてセンサデータとして送信部11cに出力する。センサデータは、サンプリングしたデータのみならず、サンプリングしたときの日時などの時間、センサの種類やID番号、センサユニット11のID番号の付随情報も含まれる。
【0024】
送信手段13は、データ処理手段12からセンサデータを受けるとセンサ情報として随時データ処理装置30へ送信する。その際、図示しない中継機等を介在してデータ処理装置30へ送信されてもよいし、直接データ処理装置30に送信されてもよい。
【0025】
〔信号発生手段〕
信号発生手段20は、作業者によって第1番から第n番までの一連の作業のうち各作業が終了する毎に第i番目(ただし、iは1からnまでの任意の数)のトリガー信号を生じるものである。この信号発生手段20は、後述のデータ処理装置30に内蔵されたり、各作業に供される工具類に内蔵されたりする。図1に示す信号発生手段21は、作業者が作業を完了する毎にレバーを引いたり又はボタンを押圧したりすることでトリガー信号が発生するものである。それ以外に、信号発生手段20には工具50内に内蔵して構成されてもよい。例えば工具50としてのボルト締め付け工具には、トルク計測手段52が内蔵されており、工具50内の基準データ格納手段53に格納されている基準データよりも大きいトルクを計測すると、信号発生手段51によってトリガー信号が発生する。ここでは、工具50内に基準データ格納手段53と信号発生手段51を設けているが、設備側にトルク計測手段52からトルク量が送られ、設備側でそのトルク量が規定に達したことを判断してトリガー信号を発生するようにしてもよい。
【0026】
〔データ処理装置〕
データ処理装置30は、従来と同様に、受信手段31と特徴量算出手段32と基準特徴量蓄積手段33と判定手段34と警告手段35とを備える。これらの手段について先ず説明する。
【0027】
受信手段31は、センサユニット10から送信されたセンサ情報を受信して特徴量算出手段32にセンサデータとしてセンサ部11からの出力信号を出力する。データ処理手段12により付された付随情報も併せて特徴量算出手段32に出力する。
【0028】
特徴量算出手段32は、センサ部11からの出力に基づいたセンサデータを受信手段31から入力されると、特徴量算出条件に従ってそのセンサデータから特徴量を求めるものである。具体的には、特徴量算出手段32は、特徴量算出条件に従って纏まったセンサデータを処理して、地磁気センサ11a、加速度センサ11bなどの複数のセンサからの出力信号のx成分、y成分、z成分そのものを特徴量としたり、各成分の所定時間内での平均値を特徴量としたり、或いはそれらの微分した値を特徴量としたりする。
【0029】
基準特徴量格納手段33は、特徴量に関する基準データを格納するものである。
判定手段34は、特徴量算出手段32から入力された特徴量を基準特徴量格納手段33に格納されている基準データと照合して特徴量が基準データの範囲内か否かを判定する。
【0030】
本発明の実施形態にあっては、データ処理装置30は、さらに、信号発生手段20の一つとして、トリガー信号発生手段37とそれに必要となる基準データ格納手段36とを備える。トリガー信号発生手段37は、基準データ格納手段36に格納されている基準データと比べ、その閾値を越えるようなデータがセンサユニット10から後述のデータ格納手段38に入力されると、トリガー信号を発生する。つまり、前述の信号発生手段20の一つとして、データ処理装置30内にトリガー信号発生手段が機能として内蔵されている。作業として嵌め込み作業がある場合であっては、その衝撃を加速度センサ11bで検出しその衝撃加速度が規定以上であるとき、トリガー信号発生手段37がトリガー信号を発生する。基準データ格納手段36は、センサデータのうち加速度センサ11bの出力するセンサデータの閾値を格納している。
【0031】
さらに、データ処理装置30は、データ格納手段38、選択手段39、処理手段40、書込手段41、入出力インタフェース手段42及び入出力手段43を備える。以下、これらの手段を詳細に説明する。
【0032】
データ格納手段38は、センサユニット10から時系列で入力されたセンサデータを格納する。
【0033】
選択手段39は、データ格納手段38に格納されたセンサデータから特徴量を求めるための条件を選択条件情報として、基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間の指定、該対象とするセンサデータの種類及びセンサデータに施す処理の内容を選択する。
【0034】
処理手段40は、選択手段39により選択された選択条件情報に基いてデータ格納手段38に格納されているセンサデータを処理する。
【0035】
書込手段41は、選択手段39で選択された選択条件情報のうち特徴量算出基準として決められたものを、特徴量算出手段32へ特徴量算出条件として書き込み、かつ、処理手段40により処理された結果のうち、基準データとして決められた特徴量を基準特徴量格納手段33へ格納する。
【0036】
入出力手段43は、データ格納手段38に格納されているセンサデータを表示すると共に、選択手段39における選択条件情報を表示して選択させ、その選択により処理手段40で処理された結果を表示するものである。入出力手段43は、モニターなどの表示部とキーボード、ポインティングデバイスとしての入力部とで構成される。
【0037】
入出力インタフェース手段42は、選択手段39、処理手段40及び書込手段41の何れか又は全てと入出力手段43とで入出力インタフェースを行う。入出力インタフェース手段42は、特に、入出力手段43に対してグラフィック表示を行い、このグラフィック表示への入力機能を有することが好ましい。これによりプログラムなどの知識などや経験がなくても、操作者が選択条件情報を容易に設定することができ、また処理手段40により処理された結果を判断しやすく表示することができる。
【0038】
よって、基準特徴量蓄積手段33に基準データが格納されていない場合であっても、センサユニット10を装着した作業者が繰り返し一連の作業を行うことで、センサ部11から出力されたセンサデータを受信手段31が受信し、データ格納手段38に格納する。そのため、入出力手段43により入出力インタフェース手段42を介在して選択手段39により、基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間の指定、該対象とするセンサデータの種類及びセンサデータに施す処理の内容を選択することができる。その選択などの設定は、入出力インタフェース手段42によりグラフィック表示にて行うことができるため、入出力手段43の操作者が数学的又は統計的な知識や経験がなくても難なく設定することができる。
【0039】
処理手段40は、このように選択設定された選択条件情報に基づいてデータ格納手段38に格納したセンサデータを処理し、その処理結果を入出力インタフェース手段42を介して入出力手段43にグラフィック表示するので、操作者はその表示、即ち、センサデータのうち、地磁気センサ11aの特定の成分とか、加速度センサ11bの特定の成分とかの時系列表示、設定した区間の平均値、標準偏差、最大値、最小値などの処理結果から、選択条件情報として適切なものを選択することができる。
【0040】
本発明の実施形態にあっては、特に、信号発生手段21、51及びトリガー信号発生手段37を備えているので、これらの手段により、トレースすべき一連の各作業を区分するトリガー信号がセンサデータと共にデータ格納手段38に格納される。よって、前述のように、入出力手段43にセンサデータと共にトリガー信号が表示されるので、操作者はトリガー信号により一つの作業が終了したことを認識しながら、選択手段39に対して入出力手段43から入出力インタフェース手段42を介して基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間を指定することができる。
【0041】
本発明の実施形態にあっては、図1に示すように、作業者の動きを撮影して撮影データを生成する撮影手段60を備えておき、データ格納手段38が、撮影手段60により生成される撮影データをも格納し、入出力手段43が、データ格納手段38に格納されているセンサデータ及び撮影データを表示する。これにより、選択手段39における選択条件情報を表示して操作者に選択させることができる。その結果、処理手段40で、その選択によって処理された結果とデータ格納手段38に格納されている撮影データとを表示する。このようにすることにより、操作者は単に入出力手段43に表示されている各種波形のみならず、撮影データが表示されることで、選択条件情報として設定すべき内容を容易に確認しながら設定することができる。
【0042】
ここで、本発明の実施形態におけるトレーシングシステムに適用される繰り返し一連の作業を例示する。図2は、図1に示すトレーシングシステム1を用いてトレースされる繰り返し作業の一例として、自動車のボディへの燃料タンク取付作業を説明するための模式図である。図2は自動車のボディ5を下側から見た様子を示しており、図中のFrは自動車の前方を示す。搬送される自動車のボディ5に対し、燃料タンク6を組み付ける際、燃料タンク6の四隅6a〜6dを自動車のボディ5にボルトで締め付けて作業を行う。よって、第1番から第n番までの作業としては、自動車のボディ5の組付位置に燃料タンク6を設置する第1番の作業と、車幅方向右後方の隅部(以下、「第1の隅部」と呼ぶ。)6aで仮止めをする第2の作業と、車幅方向左前方の隅部(以下、「第2の隅部」と呼ぶ。)6bをボルト締めする第3の作業と、車幅方向右前方の隅部(以下、「第3の隅部」と呼ぶ。)6cをボルト締めする第4の作業と、第1の隅部6aを本締めする第5の作業と、車幅方向左後方の隅部(以下、「第4の隅部」と呼ぶ。)6dをボルト締めする第6の作業とで構成されるとする。図中の矢印S1〜S4は、作業者の移動方向を示している。
【0043】
本発明の実施形態に係るトレーシングシステム1を使用するに当たって、基準特徴量蓄積手段34に基準状態における特徴量を作業毎に基準データとして格納する。上述した自動車のボディ5への燃料タンク6の組付作業をトレースする例の場合には、先ず作業者はセンサユニット10を装着し、第1から第6までの作業を正確に繰り返し行う。この例にあっては、工具40としてのボルト締め付け工具にはボルトを締め付ける毎にトリガー信号を生じさせる機構が内蔵されている。また、ボルト締め付け工具それ自体に加速度センサが内蔵されており、その加速度センサのある成分(例えばz成分)が急激に増加したとき第1の作業が完了して次の作業に移行したことを検知し、トリガー信号を発生させるようにする。これにより、各作業が終了する毎にトリガー信号が発生され、特徴量抽出手段33にそのトリガー信号が入力される。
【0044】
一方、作業者が各作業を順に正確に行うことにより、センサユニット10からデータ処理装置30の受信手段31に対してセンサデータが送信される。データ処理装置30側では、受信手段31がセンサデータを受信し、特徴量算出手段32に入力され、特徴量算出手段32によって特徴量が時系列で算出される。特徴量は地磁気センサ11のz成分であったり、加速度センサ11のy成分とz成分のベクトル的な足し算、即ち、合成ベクトルの大きさと向きであったりする。特徴量抽出手段33には特徴量算出手段32から算出した特徴量が時系列で入力される。特徴量抽出手段33は、信号発生手段20から第i番目のトリガー信号が入力されると、次のトリガー信号(第i+1番目のトリガー信号)が入力されるまでの特徴量を抽出する。基準特徴量蓄積手段34には、特徴量抽出手段33で抽出した特徴量が第i番目の特徴量として入力されるので、その値を蓄積する。
【0045】
基準特徴量蓄積手段34には、このようにして各作業毎の特徴量が入力されるので、既に蓄積した値と演算処理を行って絶えず更新する。これにより特徴量のサンプリング数を多くして、誤差を小さくすることができる。
【0046】
以上により、基準状態における特徴量を作業毎に基準データとして基準特徴量蓄積手段34に格納したので、作業者の一連の作業をトレースする準備が完了する。
【0047】
図3は、図1に示すトレーシングシステムにおいて入出力手段43へのセンサデータと選択条件情報の表示の態様を模式的に示す図である。図示するように、表示部43aに横軸を時間、縦軸を強度でセンサデータの波形G1、G2、G3とトリガー信号Tを併せて表示する。この波形G1乃至G3は、地磁気センサ、加速度センサ、回転角センサの各成分を指定して表示される。基準位置としてプルダウンにより区間を設定する。このようにして設定された区間内の波形G1乃至G3のうち何れかについて、平均、標準偏差、最大値、最小値、及び傾きなど波形の特徴を示す指標に関する選択肢から行いたい数学的な処理を選択する。これにより、操作者が数学的知識や統計的知識がなくても選択条件情報を設定することができる。
【0048】
図4は、図1に示すトレーシングシステム1において、処理手段40により選択条件情報に基づいて処理された結果を表示する態様を模式的に示す図である。図4に示すように、入出力手段43の表示部43aの画面に表示される。符号43bで指し示すように、各区間毎に軸の種類、開始位置、終了位置、計算方法を表示し、符号43c,43dで指し示すように、その軸の種類に対応したセンサデータをグラフィック表示すると共に、符号43e,43fで指し示すように、グラフの右側に撮影データを表示する。その際、グラフの上側に符号43g,43hで指し示すようにバーを設定しておき、撮影データのどの時間のデータを表示するかを指定することができる。
【0049】
〔トレーシングシステム設定処理用プログラム〕
次に、本発明の実施形態に係るトレーシングシステム設定処理用プログラムについて説明する。このプログラムは、図1に示すセンサユニット10と特徴量算出手段32と基準特徴量格納手段33と判定手段34と入出力手段43などを備えて、作業者の動きをトレースするトレーシングシステム1において用いられる。このプログラムを実行することにより、図1に示すシステムが実現される。図5は、本発明の実施形態に係るトレーシングシステム設定処理用プログラムのフロー図である。
【0050】
トレーシングシステム設定処理用プログラムは、次の複数のステップで構成される。プログラムが開始されると、先ず、データ格納ステップ(STEP1)において、センサユニット10からのセンサデータを時系列でデータ格納手段34に格納する。
【0051】
次に、選択条件入力ステップ(STEP2)において、データ格納ステップ(STEP1)でデータ格納手段34に格納したセンサデータから特徴量を求めるための条件を選択条件情報として、基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間の指定、該対象とするセンサデータの種類、及びセンサデータに施す処理の内容の入力を促すように入出力手段43に表示する。そして、操作者から入出力手段34に対して入力された選択条件情報を受ける。
【0052】
次に、処理ステップ(STEP3)において、選択条件入力ステップ(STEP2)により入力された選択条件情報に基いて、データ格納ステップ(STEP1)で格納されたデータ格納手段38内のセンサデータを処理する。そして、その処理の結果を入出力手段43に表示する。
【0053】
処理ステップ(STEP3)により表示された処理の結果が、基準データとしてふさわしく、かつ選択条件情報として設定したものが特徴量算出条件としてふさわしい場合(STEP4でYes)には、次のSTEP4に移行する一方、そうでない場合(STEP4でNo)には再度STEP2に戻る。
【0054】
STEP4でYesとなった場合には、書込ステップ(STEP5)において、処理ステップ(STEP3)により表示された処理の結果に対し、基準特徴量を選択すべき旨の入力を受けた場合には、その処理の結果に対応して選択条件入力ステップ(STEP2)で入力された選択条件情報を特徴量算出手段32へ特徴量算出条件として書き込み、かつ、処理ステップ(STEP3)により処理された結果を、基準データとして基準特徴量格納手段33へ格納する。
【0055】
以上により、トレーシングシステム1に対し、特徴量算出手段32に特徴量算出のための条件を設定し、かつ基準特徴量蓄積手段33に基準データを格納することができる。
【0056】
以上のトレーシングシステム設定処理プログラムにおいて、データ格納ステップ(STEP1)では、トレーシングシステム1に含まれている信号発生手段21,51,37により一連の各作業を区別するために発生したトリガー信号を、センサユニット10から時系列に入力されるセンサデータと共に格納することが好ましい。さらに、処理ステップ(STEP3)において、処理の結果と共にトリガー信号を表示することが好ましい。このようにすることで、選択条件情報を設定する操作者が一つの作業の区切りを意識して区間の設定を行うことができる。
【0057】
本発明の実施形態は上述に限られることなく特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で種々設計変更することができる。例えばセンサユニット10には地磁気センサ11aと加速度センサ11bとを備えているが、それ以外のセンサ、例えば角度センサでもよい。
【0058】
本発明の実施形態によれば、トレーシングシステムにおいて必須となる基準特徴量を容易に設定することができ、トレースの対象となる作業者の一連の動きに僅かな変更が生じても迅速に対応することができるばかりか、トレーシングシステムを新たに適用することが容易になる。
【符号の説明】
【0059】
1:トレーシングシステム
5:自動車のボディ
6:燃料タンク
6a,6b,6c,6d:燃料タンクの隅部
10:センサユニット
11:センサ部
11a:地磁気センサ
11b:加速度センサ
12:データ処理手段
13:送信手段
20,21,51:信号発生手段
30:データ処理装置
31:受信手段
32:特徴量算出手段
33:基準特徴量蓄積手段
34:判定手段
35:警告発生手段
36:基準データ格納手段
37:トリガー信号発生手段
38:データ格納手段
39:選択手段
40:処理手段
41:書込手段
42:入出力インタフェース手段
43:入出力手段
50:工具
51:信号発生手段
52:トルク計測手段
53:基準データ格納手段
60:撮像手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者の繰り返される一連の動きを検出する一又は複数のセンサを内蔵したセンサユニットと、上記センサから出力されたセンサデータから特徴量算出条件に従って特徴量を求める特徴量算出手段と、特徴量に関する基準データを格納する基準特徴量格納手段と、上記特徴量算出手段から入力された特徴量を上記基準特徴量格納手段に格納されている基準データと照合して特徴量が基準データの範囲内か否かを判定する判定手段と、を備え、作業者の動きをトレースするトレーシングシステムにおいて、
上記センサユニットから時系列で入力されたセンサデータを格納するデータ格納手段と、
上記データ格納手段に格納されたセンサデータから特徴量を求めるための条件を選択条件情報として、基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間の指定、該対象とするセンサデータの種類、及びセンサデータに施す処理の内容を選択する選択手段と、
上記選択手段により選択された選択条件情報に基いて上記データ格納手段に格納されているセンサデータを処理する処理手段と、
上記選択手段で選択された選択条件情報のうち特徴量算出基準として決められたものを上記特徴量算出手段へ特徴量算出条件として書き込み、かつ、上記処理手段により処理された結果のうち基準データとして決められた特徴量を上記基準特徴量格納手段へ格納する書込手段と、
上記データ格納手段に格納されているセンサデータを表示すると共に、上記選択手段における選択条件情報を表示して選択させ、その選択により上記処理手段で処理された結果を表示するための入出力手段と、
上記選択手段、上記処理手段及び上記書込手段の何れか又は全てと上記入出力手段とで入出力インタフェースを行う入出力インタフェース手段と、
を備えることを特徴とする、トレーシングシステム。
【請求項2】
さらに、トレースすべき一連の各作業を区分するためのトリガー信号を発生させる信号発生手段を備えており、
前記データ格納手段が前記センサユニットからのセンサデータと共に上記信号発生手段により発生したトリガー信号を格納し、
前記入出力手段がデータ格納手段に格納されているセンサデータ及びトリガー信号を表示することを特徴とする、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項3】
前記信号発生手段には、各作業に供される工具類に内蔵されたものが含まれることを特徴とする、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項4】
前記センサユニット内のセンサの一つとして加速度センサが備えられており、
前記信号発生手段には、上記加速度センサの各成分データが所定の条件を満たさなくなると前記トリガー信号を発生するものが含まれることを特徴とする、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項5】
さらに、作業者の動きを撮影して撮影データを生成する撮影手段を備え、
前記データ格納手段が、上記撮影手段により生成される撮影データをも格納し、
前記入出力手段が、上記データ格納手段に格納されているセンサデータ及び撮影データを表示すると共に、上記選択手段における選択条件情報を表示して選択させ、その選択により上記処理手段で処理された結果と上記データ格納手段に格納されている撮影データとを表示することを特徴とする、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項6】
前記入出力インタフェース手段は、前記入出力手段に対してグラフィック表示を行い、上記グラフィック表示への入力機能を有することを特徴とする、請求項1に記載のトレーシングシステム。
【請求項7】
作業者の繰り返される一連の動きを検出する一又は複数のセンサを内蔵したセンサユニットと、上記センサから出力されたセンサデータから特徴量算出条件に従って特徴量を求める特徴量算出手段と、特徴量に関する基準データを格納する基準特徴量格納手段と、上記特徴量算出手段から入力された特徴量を上記基準特徴量格納手段に格納されている基準データと照合して特徴量が基準データの範囲内か否かを判定する判定手段と、入出力手段とを備え、作業の動きをトレースするトレーシングシステムにおいて用いられるトレーシングシステム設定処理用プログラムにおいて、
上記センサユニットから時系列でセンサデータを格納するデータ格納ステップと、
上記データ格納ステップで格納したセンサデータから特徴量を求めるための条件を選択条件情報として、基準特徴量の算出の対象とすべきセンサデータの区間の指定、該対象とするセンサデータの種類、及びセンサデータに施す処理の内容の入力を促すように入出力手段に表示し、該入出力手段に対して入力された選択条件情報を受ける選択条件入力ステップと、
上記選択条件入力ステップにより入力された選択条件情報に基いて上記データ格納ステップで格納したセンサデータを処理し上記入出力手段にその処理の結果を表示する処理ステップと、
上記処理ステップにより表示された処理の結果に対し、基準特徴量を選択すべき旨の入力を受けると、その処理の結果に対応して上記選択条件入力ステップで入力された選択条件情報を上記特徴量算出手段へ特徴量算出条件として書き込み、かつ、上記処理ステップにより処理された結果を基準データとして上記基準特徴量格納手段へ格納する書込ステップと、
を有することを特徴とする、トレーシングシステム設定処理用プログラム。
【請求項8】
前記データ格納ステップでは、前記トレーシングシステムに含まれている信号発生手段により一連の各作業を区別するために発生したトリガー信号を、前記センサユニットから時系列に入力されるセンサデータと共に格納し、
前記処理ステップにおいて処理の結果と共にトリガー信号を表示することを特徴とする、請求項7に記載のトレーシングシステム設定処理用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−221432(P2012−221432A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89630(P2011−89630)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【出願人】(507234427)公立大学法人岩手県立大学 (22)
【Fターム(参考)】