説明

トロミヨーグルトの製造方法

【課題】嚥下困難者用に適しており、喉越しや切れ味の良好な物性であり、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有し、乳酸菌を生きた状態で含んだ、従来にはない未知の全く新しいタイプのヨーグルトを提供する。
【解決手段】ヨーグルトの製造において、少なくとも増粘剤及び0.1〜0.3重量%の低強度寒天をゲル化剤として含む水溶液を加熱殺菌処理した後に、その水溶液を35〜50℃に冷却して副原料液を得、一方、その副原料液とは別に、カードを破砕して微粒化した発酵乳を35〜50℃に冷却して液状発酵乳を得、その後に、それらの副原料液と液状発酵乳を35〜50℃で混合する製造方法により得られるトロミヨーグルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下(食物を飲み込むこと)に何らかの障害を持つ患者(以下、嚥下困難者という)が誤嚥(誤って気管に食物が入ること)することのないように、トロミを付与したヨーグルトの製造方法に関する。より詳しくは、喉越しや切れ味の良好な物性であり、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有し、従来にはない未知の全く新しいタイプのヨーグルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化などに伴い、近年、摂食障害やそれに関連した症状を有する患者や高齢者の増加が懸念されている。そして、こうした高齢者や患者に対する介護用・嚥下訓練用の食品が注目されてきている。
【0003】
嚥下障害を有する患者や嚥下機能の低下した高齢者などが摂食しやすい食品(嚥下食)に求められる要件として、(1)組織や物性が均一なこと、(2)適度な粘度があり、口腔内でまとまりやすいこと、(3)口腔や咽頭でべたつかないこと、(4)硬すぎないことが挙げられる。介護用・嚥下訓練用の食品は、従来、既存の食品から選択されて用いられており、例えば、ヨーグルトやゼリー、プリン、オムレツなどがある(非特許文献1)。
【0004】
嚥下訓練用の食品の代表としてヨーグルト(発酵乳)がある。発酵乳は「乳等省令」で、乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳などを乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの、またはこれらを凍結したものと定義されている。発酵乳の分類では、容器充填後に発酵させ、固化させたハードヨーグルト(固形状発酵乳、セットタイプヨーグルト)、発酵後にカードを粉砕し、容器充填したソフトヨーグルト(糊状発酵乳)、ソフトヨーグルトを均質機で、さらに細かく砕き、液状の性質を高めたドリンクヨーグルト(液状発酵乳)に大別される。
【0005】
嚥下困難者へ嚥下訓練用の食品としてヨーグルトを用いる場合、嚥下障害の症状が軽度の患者であれば、ドリンクヨーグルトやソフトヨーグルトの物性でも摂取が可能である。一方、その症状が中程度になると、ドリンクヨーグルトの物性では摂取が不可能となり、ソフトヨーグルトの物性でも摂取が困難となる。このとき、ドリンクヨーグルトの物性では、硬さや粘度が嚥下困難者には不足してしまう。また、ソフトヨーグルトの物性では、硬さや粘度が嚥下困難者に適していても、口の中へ入れた際に、まとまりが不十分なため、飲み込もうとしても舌から口腔へ流れてしまい、実際に摂取する方(嚥下困難者)はスムーズに飲用できず、介護する方(介護者)もスムーズに飲用させられない場合がある。
【0006】
そこで、実際の介護や医療の現場では、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトを単独で用いず、何らかの方法で患者毎に適した物性(硬さや粘度など)に調整してから、嚥下困難者へ摂取させるか、あるいは、ドリンクヨーグルトにトロミ剤(トロミ調整食品、ペクチンなど)を加えることで、粘度を上げてから、嚥下困難者へ摂取させている。しかし、患者毎に適合させてドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトを単独で用いず、何らかの方法で物性を調整する作業は煩雑であり、介護者の負担が大きい。また、ドリンクヨーグルトにトロミ剤を加えると、粒(粒子)が残り、舌触りや外観が悪い、離水するなどの問題を生じることがある。
【0007】
ヨーグルトは従来、組織や物性を安定化させる目的で、各種の安定化剤が製品の形態に応じて用いられている。このような安定化剤には、天然由来の寒天やゼラチン、カラギナン、キサンタンガムなどのガム類が汎用されている。これら安定化剤の特性として、例えば、寒天であれば、製品の保存時の保形性に優れることであり、ゼラチンであれば、口当たりを特に良好に感じることである。そして、ハードヨーグルトを軟らかくする目的で、一般的に寒天などに代表される増粘安定化剤が用いられる。ただし、このような安定化剤を用いてヨーグルトを製造すると、離水しやすい物性となる。そこで、この問題を解決する目的で、一般的にペクチンなどに代表されるゲル化剤が用いられる。このとき、増粘安定化剤とゲル化剤を併用することで、離水しなくなるものの、まとまりが良くないという問題は残ることとなる。
【0008】
このような状況に対して、近年、風味面や物性面を改良した技術が開示されている。例えば、特許文献1では、固形状ヨーグルトにプロテアーゼD3を作用させることによって、離水が抑えられ、かつ、食感が良好なドリンクヨーグルトを製造する方法が開示されている。また、特許文献2では、ヨーグルトにタピオカ澱粉を1〜10重量%で含有させることによって、ヨーグルトが柔らかく、もちのように伸びるようになり、さらに、もち様の食べ応えのある新規な食感を有するヨーグルトを製造する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、これらの技術は何れも、一般消費者を対象にしてヨーグルトの物性を改良したものであり、嚥下困難者を対象にした際には、満足のいく物性とは言い難い。このように、嚥下訓練用の食品の代表であるヨーグルトであっても用時調製が必要とされ、上記の問題を解決した、嚥下困難者に適した物性のヨーグルトは存在しなかった。すなわち、従来、用時調製が不要であり、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有するヨーグルトは存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−180553
【特許文献2】特開2004−222673
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日摂食嚥下リハ会誌2000,第4巻・第1号、28〜32頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の課題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、嚥下困難者に配慮してトロミを付与したヨーグルトの製造方法を提供することである。このとき、本発明のヨーグルト(トロミヨーグルト)は、嚥下困難者用に適しており、喉越しや切れ味の良好な物性であり、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有し、乳酸菌、ビフィズス菌、酵母などを生きた状態で含んだ、従来にはない未知の全く新しいタイプのヨーグルトである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、ヨーグルトの製造において、少なくとも増粘剤及び0.1〜0.5重量%の低強度寒天をゲル化剤として含む水溶液を加熱殺菌処理した後に、その水溶液を35〜50℃に冷却して副原料液を得、一方、その副原料液とは別に、カードを破砕して微粒化した発酵乳を35〜50℃に冷却して液状発酵乳を得、その後に、それらの副原料液と液状発酵乳を35〜50℃で混合する製造方法により、喉越しが良く、切れ味が良好な物性でドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間タイプのトロミヨーグルトを完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)から(6)に関するものである。
(1)下記の工程(a)〜(c)からなることを特徴とするトロミヨーグルトの製造方法:
(a)少なくとも増粘剤及び0.1〜0.5重量%の低強度寒天をゲル化剤として含む水溶液を加熱殺菌処理した後に、その水溶液を35〜50℃に冷却して副原料液を得る、
(b)カードを破砕して微粒化した発酵乳を35〜50℃に冷却して液状発酵乳を得る、
(c)工程(a)で得られた副原料と、工程(b)で得られた液状発酵乳を、35〜50℃で混合してトロミヨーグルトを得る。
(2)工程(a)において、増粘剤が0.01〜0.1重量%のマンナン及び、0.05〜0.15重量%のサイリュームシードガム、0.05〜0.15重量%のタラガム、0.05〜0.15重量%のグアガムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする、前記(1)に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
(3)工程(b)において、液状発酵乳が発酵乳飲料及び/又は乳酸菌飲料であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
(4)工程(c)において、副原料と、液状発酵乳を、35〜50℃で混合し、それを5〜20℃に冷却することを特徴とする、前記(1)〜(3)の何れか1項に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
(5)工程(c)で得られたトロミヨーグルトの温度18℃、周波数1Hzでの動的粘弾性のひずみ依存性測定で、ひずみ0.5〜1.0%における貯蔵弾性率が10〜200Pa、損失正接が0.1〜1であることを特徴とする、前記(1)〜(4)の何れかに記載のトロミヨーグルトの製造方法。
(6)乳酸菌を生きた状態で105個/ml以上で含むことを特徴とする、前記(1)〜(5)の何れか1項に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
(7)前記(1)〜(6)に記載の製造方法を用いて製造したトロミヨーグルト。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、嚥下困難者用に適しており、喉越しや切れ味の良好な物性であり、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有し、乳酸菌を生きた状態で含んだ、従来にはない未知の全く新しいタイプのヨーグルトを提供できる。
【0016】
したがって、症状が中程度の嚥下困難者が嚥下訓練などする際に、医療現場において介護者などがソフトヨーグルトにドリンクヨーグルトを混合したり、ドリンクヨーグルトにトロミ剤を入れたりするような用時調製の作業が不要となり、介護者の負担を大幅に軽減できる。
【0017】
さらに、本発明によれば、嚥下困難者だけでなく、一般の健常者にも乳酸菌を生きた状態で美味しく摂取でき、従来の市販品にはない新しい食感を有するヨーグルトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】各種のトロミヨーグルトの製造直後の離水、凝集、不溶物の有無と、4℃・1週間の保存後の物性評価(1)
【図2】各種のトロミヨーグルトの製造直後の離水、凝集、不溶物の有無と、4℃・1週間の保存後の物性評価(2)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のトロミヨーグルトの製造方法は、少なくとも増粘剤及び0.1〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.4重量%の低強度寒天をゲル化剤として含む水溶液を加熱殺菌処理した後に、その水溶液を35〜50℃に冷却して副原料液を得、一方、その副原料液とは別に、カードを破砕して微粒化した発酵乳を35〜50℃に冷却して液状発酵乳を得、その後に、それらの副原料液と液状発酵乳を35〜50℃で混合するものである。
【0020】
本発明で副原料の増粘剤には、0.01〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%のマンナン及び、0.05〜0.15重量%、好ましくは0.08〜0.12重量%のサイリュームシードガム、0.05〜0.15重量%、好ましくは0.08〜0.12重量%のタラガム、0.05〜0.15重量%、好ましくは0.08〜0.12重量%のグアガムから選ばれる少なくとも1種以上を用いる。そして、増粘剤には、0.01〜0.08重量%、好ましくは0.03〜0.05重量%のマンナン及び、0.05〜0.15重量%、好ましくは0.08〜0.12重量%のサイリュームシードガムを用いることが好ましく、0.01〜0.08重量%、好ましくは0.03〜0.05重量%のマンナン及び、0.05〜0.15重量%、好ましくは0.08〜0.12重量%のタラガム又は0.05〜0.15重量%、好ましくは0.08〜0.12重量%のグアガムの何れかを用いることがより好ましい。
【0021】
本発明で副原料のゲル化剤には、低強度寒天を用いる。この低強度寒天の濃度は、0.1〜0.3重量%が好ましく、0.15〜0.25重量%がより好ましく、0.2重量%程度が特に好ましい。低強度寒天の濃度が0.3重量%を超えると、ハードヨーグルトと同程度の固さになってしまい、嚥下困難者にとって適切な流動性や粘度が付与されない。一方、低強度寒天の濃度が0.1重量%未満だと、ドリンクヨーグルトと同等の流動性になり、保形性が悪くなるため、嚥下困難者にとって口の中へ入れた際に、まとまりがなくなり、舌から口腔に流れてしまう。また、低強度寒天の代わりとして普通寒天を用いた場合では、本発明のトロミヨーグルトを得られないこととなる。これは、普通寒天を用いた場合では、ハードヨーグルトのような硬い物性になりがちであり、ソフトヨーグルトのような流動性を持った物性に調整することが困難となるからである。つまり、普通寒天を用いた場合では、本発明の目的である、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有するヨーグルトを得られないこととなる。
【0022】
本発明の副原料では、前記のゲル化剤と増粘剤を用いることが特徴となるが、本発明の効果に影響を与えない限りにおいて、各種の増粘多糖類などを用いることができる。例えば、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンドガム、タラガム、カラヤガム、ジェランガム、アラビアガム、マクロホモプシスガム、カラギナン、寒天、ローメトキシルペクチン、カードラン、グルコマンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、CMC、微結晶セルロース、各種の増粘多糖類から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
また、本発明の副原料では、糖質や風味物質などを添加することができる。これには、例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖、液糖、はちみつ、水飴、還元水飴、異性化糖、転化糖、イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、トレハロース、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール、カップリングシュガー、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、グルチルリチン、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末、高甘味度甘味料、果物や野菜などの果肉や果汁、ジャム、ソース、プレパレーションなどが挙げられる。
【0024】
さらに、本発明の副原料では、必要に応じて、香料(フレーバー)、酸味料(クエン酸、乳酸など)、栄養強化物質(ビタミン、ミネラル(リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳清カルシウムなどのカルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄、リンなど))などを添加することができる。
【0025】
本発明の副原料は、例えば、一定量の原料水に、ゲル化剤、増粘剤、風味物質、ミネラル類やビタミン類などを添加して混合した後に、殺菌して調製する。
【0026】
本発明の副原料の殺菌条件は、80℃〜100℃、5〜30分間程度が好ましく、92℃〜95℃、5分間程度がより好ましい。そして、副原料を殺菌した後には35〜50℃、好ましくは35〜45℃、より好ましくは37〜42℃で保持する。これは、副原料を保持する温度が35℃未満だと、ゲル化剤や増粘剤により粘度が上昇してしまい、均一な混合が困難となったり、送液が不良となるからである。一方、その温度が50℃を超えると、液状発酵乳と混合する際に、乳酸菌が死滅しやすくなるからである。
【0027】
本発明の液状発酵乳には、副原料と混合した後の栄養成分(脂肪、タンパク質、糖質、ビタミン、ミネラルなど)の濃度、つまり、トロミヨーグルトを調製した際の栄養成分の濃度を想定して、所定の濃度に調製したものを用いることが好ましい。例えば、市販品の発酵乳飲料や乳酸菌飲料や、市販品よりも高濃度で調製した発酵乳飲料や乳酸菌飲料が挙げられる。このとき、発酵乳飲料や乳酸菌飲料の無脂乳固形分(SNF)濃度として、3重量%以上が好ましく、8重量%以上がより好ましく、12重量%以上がさらに好ましい。液状発酵乳で無脂乳固形分濃度が低すぎると、副原料と混合した後の栄養成分の濃度が低くなりすぎてしまい、本発明のトロミヨーグルトでの栄養補給が不十分となる。一方、液状発酵乳で無脂乳固形分濃度が高すぎると、乳酸菌スターターの作用や効果が不十分となり、発酵が進行しにくくなる。
【0028】
本発明の液状発酵乳は、例えば、一定量の原料水に、乳原料、必要に応じて、各種の糖質や風味物質、ミネラル類やビタミン類などを添加して混合した後に、発酵して調製する。
【0029】
本発明の液状発酵乳の発酵条件は、通常の発酵乳と同様の発酵温度や発酵時間を用いることができ、概ね30〜40℃で、pHが4.5〜5.3程度になるまで発酵することが好ましい。そして、原料乳を所定の方法で発酵した後には35〜50℃、好ましくは35〜45℃、より好ましくは37〜42℃で保持する。これは、液状発酵乳を保持する温度が35℃未満だと、前記した副原料と混合する際に、ゲル化剤や増粘剤により粘度が上昇してしまい、均一な混合が困難となるからである。一方、その温度が50℃を超えると、乳酸菌が死滅しやすくなるからである。このとき、発酵した後には、必要に応じて、5〜20MPaの圧力で均質化しても良く、これにより、口当たりを滑らかにしたり、保存時の離水などを抑制したりして、安定性の良い発酵乳を得られることとなる。この均質化には、ホモゲナイザー、ホモミキサー、スタティックミキサーなどを用いることができる。
【0030】
発酵方法には、静置発酵、撹拌発酵、通気発酵などから、実際に用いる乳酸菌などの特性に適したものを適宜、選択すれば良い。また、ビフィドバクテリウム属の細菌を用いる場合には、可能な限り嫌気性を保った状態で発酵することが好ましい。
【0031】
乳原料には、通常、牛乳、山羊乳、羊乳などの獣乳や、脱脂粉乳、全粉乳、全脂加糖練乳、脱脂加糖練乳、生クリーム、バターなどが用いられる。例えば、原料乳の配合として、発酵乳の全体量に対し、無脂乳固形分濃度が8重量%以上になるように、乳原料の配合量を決めても良い。
【0032】
乳酸菌スターターには、通常の発酵乳と同様のスターターを用いることができる。例えば、ラクトバチルスブルガリカス(L.bulgaricus)ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)、ラクトバチルス・ラクティス(L.lactis)の他に、発酵乳の製造に一般的に用いられる乳酸菌や酵母から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。そして、さらに得ようとする液状発酵乳に応じて、ラクトバチルス・ガッセリ(L.gasseri)やビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)などの乳酸菌を別に添加することができる。
【0033】
本発明のトロミヨーグルトでは、上記のようにして得られた副原料と液状発酵乳を35〜50℃、好ましくは35〜45℃、より好ましくは37〜42℃に保持したままで混合する。これは、副原料と液状発酵乳を混合する温度が35℃未満だと、ゲル化剤や増粘剤により粘度が上昇してしまい、均一な混合が困難となったり、送液が不良となるからである。具体的には、副原料と液状発酵乳が均一に混合される前に、低強度寒天のみが先行して凝固してしまい、本発明のトロミヨーグルトでトロミが顕著に低下してしまったり、離水したりするからである。液状発酵乳では均質化されて、構造や組織(ネットワーク)が破壊されており、ほとんど粘性のない状態である。そのため、ゲル化剤や増粘剤と適切に混合されないと、トロミを発現できなくなると同時に、保存に伴い各成分が分離して離水することとなる。副原料と液状発酵乳が均一に混合される前に、ゲル化剤や増粘剤が短時間で凝固しない温度で制御することが必要である。一方、その温度が50℃を超えると、乳酸菌が死滅しやすくなるからである。また、液状発酵乳などに含まれるタンパク質が加熱変性により凝固してしまうこともあり、本発明のトロミヨーグルトで口当たりや舌触りや飲み込みの際の喉越しが悪くなり、食感や物性が悪くなるからである。ここで、本発明のトロミヨーグルトの混合には、タンク内の撹拌翼や、配管内のスタティックミキサーなどを用いることができる。
【0034】
本発明のトロミヨーグルトでは、上記のようにして得られた副原料と液状発酵乳を混合した後に、5〜20℃、好ましくは5〜15℃、より好ましくは5〜10℃で冷蔵に保持する。これは、本発明のトロミヨーグルトの品質を安定して維持できるからである。
【0035】
本発明のトロミヨーグルトは、嚥下困難者用に適しており、喉越しや切れ味の良好な物性であり、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有し、乳酸菌を生きた状態で含んだ、従来にはない未知の全く新しいタイプのヨーグルトである。具体的には、動的粘弾性のひずみ依存性測定(温度18℃、周波数1Hz)で、ひずみ0.5〜1.0%における貯蔵弾性率が10〜200Pa(N/m2)、好ましくは10〜100Paであり、損失正接が0.1〜1、好ましくは0.1〜0.5である。本発明のトロミヨーグルトは、適度なトロミを付加されているが、ゼリー状やプリン状のものではなく、適切な流動性があり、粘度では15〜60mPa・s(剪断速度:52〜100s-1)程度といった、極めて低粘性のものである。そして、乳酸菌を生きた状態で105個/ml以上、好ましくは106個/ml以上、より好ましくは107個/ml以上で含むものである。
【0036】
本明細書における液状発酵乳(ドリンクヨーグルト)とは、一般的にスプーンなどで掬くって液だれする程度の粘性を有するものであり、液体としての流動性があるヨーグルトをいう。その製造方法では、例えば、殺菌してから冷却した乳原料へ乳酸菌スターターを接種し、タンク内でバルク発酵させることとなる。このとき、発酵中に静置してカードを形成させた後に撹拌によりカードを破砕するか、発酵中に撹拌しながらカードの形成を防ぐかして流動性を持たせる。そして、その流動性を持ったヨーグルトを均質化などして微粒化してから必要に応じて、安定剤(ペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、大豆多糖類など)や、前記した風味物質、香料(フレーバー)、酸味料、栄養強化物質(ビタミン、ミネラルなど)などと混合する。
【0037】
本明細書における糊状発酵乳(ソフトヨーグルト)とは、一般的にスプーンなどで掬くって液だれしない程度の粘性を有するものであり、固形状発酵乳(ハードヨーグルト、セットタイプヨーグルト)のようなプリン状の完全な固体ではなく、ハードヨーグルトよりも流動性があり、ドリンクヨーグルトのような液体ではなく、ドリンクヨーグルトよりも流動性がないヨーグルトをいう。その製造方法では、例えば、殺菌してから冷却した乳原料へ乳酸菌スターターを接種し、タンク内でバルク発酵させることとなる。このとき、発酵中に静置してカードを形成させた後に撹拌によりカードを破砕するか、発酵中に撹拌しながらカードの形成を防ぐかして流動性を持たせる。そして、その流動性を持ったヨーグルトを必要に応じて、ドリンクヨーグルトと同様の物質と混合する。
【0038】
本発明のトロミヨーグルトは、最終的に小型の容器などへ充填して製品としても良い。その容器は、流通や小売りで一般的に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、プラスチック製、紙製、ガラス製、金属製、陶器製又はその複合材料からなる容器を用いることができる。そして、通常の手段により密封包装して、流通などすることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明は、これらに何ら制約されるものではない。
【0040】
<適切なトロミ付与剤の検討>
市販品よりも高濃度の発酵乳飲料を調製し、この液状発酵乳と副原料(ゲル化剤や増粘剤を含む溶液)を、所定の重量比で混合して、トロミヨーグルトを調製した。このとき、副原料に用いるゲル化剤と増粘剤の種類を変えて、トロミヨーグルトの物性を比較し、適切なトロミ付与剤について検討した。
【0041】
本検討に使用した原料は、以下の通りである。
・液状発酵乳:高濃度の発酵乳飲料(明治乳業社製)
・ゲル化剤:低強度寒天(LX−30、伊那寒天工業社製)
・増粘剤(増粘多糖類):キサンタンガム、CMC(カルボキシメチルセルロース)、大豆多糖類、ペクチン(HM)、マンナン、ネイティブゲランガム、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンドガム、サイリュームシードガム、グアガム
【0042】
トロミヨーグルトの製造
(1)副原料の調製
一定量の原料水をステンレスビーカーに入れ、糖質として液糖、ゲル化剤として低強度寒天(LX−30、伊那寒天工業社製)、増粘剤として様々な種類を添加し、スリーワンモータを用いて撹拌混合しながら92℃〜95℃、5分間で加熱殺菌した。増粘剤の種類や濃度は、図1と図2の通りである。前記の通りに調製した副原料の一定量を秤量し、40℃になるまで冷却して保持した。
(2)液状発酵乳の調製
明治ブルガリアのむヨーグルト(明治乳業社製)の乳酸菌スターターを用いて、市販品よりも高濃度の発酵乳飲料を調製した。具体的には、乳脂肪濃度が約5重量%、無脂乳固形分が約13重量%の原料乳を92℃〜95℃、5分間で加熱殺菌した後に、42〜44℃、4時間で発酵して、pHが4.5の液状発酵乳を調製した。これを3〜5℃に冷却して保持した。前記の通りに調製した液状発酵乳の一定量を秤量し、温浴中で40℃になるまで加温して保持した。
(3)副原料と液状発酵乳の混合
(1)の副原料液を撹拌しながら、(2)の液状発酵乳へ添加して、スリーワンモータを用いて、40℃、5分間で撹拌混合し、トロミヨーグルトを調製した。混合割合(重量比)は、副原料液40重量%、液状発酵乳60重量%とした。このとき、トロミヨーグルトの乳脂肪濃度は約3重量%、無脂乳固形分は約8重量%となった。その後に、この混合液(トロミヨーグルト)を容器に充填し、4℃で冷蔵保存した。
【0043】
各種の増粘剤を用いて調製したトロミヨーグルトについて、製造直後の離水、凝集、不溶物の有無と、4℃・1週間の保存後の物性評価を図1と図2に示した。図の物性評価(4℃・1週間の保存後)で、「◎」は「離水、凝集、不溶物の何れも無く、非常に良い物性である」、「○」は「離水、凝集、不溶物の何れかが僅かに有るが、良い物性である。」、「×」は「離水、凝集、不溶物の何れかが有り、悪い物性である」を意味する。図1では、0.2重量%の低強度寒天と0.1重量%のタラガム、0.1重量%のグアガム、0.1重量%のサイリュームシードガムの何れかを併用して調製したトロミヨーグルトにおいて、製造直後や4℃・1週間の保存後の物性が良好であった。つまり、これらのトロミヨーグルトには、離水、舌触りのザラツキ、タンパク質の凝集などがなかった。一方、図2では、0.25重量%のペクチンや0.2重量%の低強度寒天を単独で使用したり、0.2重量%の低強度寒天と0.1重量%のキサンタンガム、0.1重量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)、0.1重量%の大豆多糖類、0.1重量%のペクチン(HM)、0.1重量%のマンナン、0.1重量%のネイティブゲランガム、0.1重量%のローカストビーンガムの何れかを併用して調製したトロミヨーグルトにおいて、製造直後や4℃・1週間の保存後の物性は良好ではなかった。
【0044】
前記した0.2重量%の低強度寒天と0.1重量%のタラガム、0.1重量%のサイリュームシードガム、0.1重量%のグアガムの何れかを併用して調製したトロミヨーグルトにおいて、動的粘弾性測定により、貯蔵弾性率G’(構造を維持する度合いを示す)と損失正接tanδ、粘度などを評価した。これらのトロミヨーグルトでは、動的粘弾性のひずみ依存性測定(温度18℃、周波数1Hz)で、ひずみ0.5〜1.0%における貯蔵弾性率G’が30〜100Pa(N/m2)、tanδが0.3〜0.8、粘度が15〜60mPa・s(剪断速度:52〜100s-1)程度であった。嚥下困難者が摂取しやすい食品に関する研究によると、G’が10〜103Pa(N/m2)、tanδが0.1〜1であると、物性として嚥下困難者に適しているとの報告がある。前記したような物性特性の食品は、小さな応力で大きく変形するので、食塊が咽頭相をスムーズに通過できるとされている。この観点によれば、今回の検討で得られたトロミヨーグルト(トロミを付与したヨーグルト)は、嚥下困難者に適した物性だといえる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
嚥下困難者用に適しており、喉越しや切れ味の良好な物性であり、ドリンクヨーグルトとソフトヨーグルトの中間の特性を有し、乳酸菌を生きた状態で含んだ、従来にはない未知の全く新しいタイプのヨーグルトを提供できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)〜(c)からなることを特徴とするトロミヨーグルトの製造方法:
(a)少なくとも増粘剤及び0.1〜0.5重量%の低強度寒天をゲル化剤として含む水溶液を加熱殺菌処理した後に、その水溶液を35〜50℃に冷却して副原料液を得る、
(b)カードを破砕して微粒化した発酵乳を35〜50℃に冷却して液状発酵乳を得る、
(c)工程(a)で得られた副原料と、工程(b)で得られた液状発酵乳を、35〜50℃で混合してトロミヨーグルトを得る。
【請求項2】
工程(a)において、増粘剤が0.01〜0.1重量%のマンナン及び、0.05〜0.15重量%のサイリュームシードガム、0.05〜0.15重量%のタラガム、0.05〜0.15重量%のグアガムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
【請求項3】
工程(b)において、液状発酵乳が発酵乳飲料及び/又は乳酸菌飲料であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
【請求項4】
工程(c)において、副原料と、液状発酵乳を、35〜50℃で混合し、それを5〜20℃に冷却することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
【請求項5】
工程(c)で得られたトロミヨーグルトの温度18℃、周波数1Hzでの動的粘弾性のひずみ依存性測定で、ひずみ0.5〜1.0%における貯蔵弾性率が10〜200Pa、損失正接が0.1〜1であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
【請求項6】
乳酸菌を生きた状態で105個/ml以上で含むことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のトロミヨーグルトの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の製造方法を用いて製造したトロミヨーグルト。







【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−9681(P2013−9681A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200087(P2012−200087)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2007−253174(P2007−253174)の分割
【原出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】