説明

ドライエッチング剤

【課題】地球環境に対する影響が小さく、かつ必要とされる性能を有するドライエッチング剤を提供する。
【解決手段】(A)式:C(式中、a、b及びcは、それぞれ正の整数を表し、2≦a≦5、c<b≧1、2a+2>b+c、b≦a+cの関係を満たす。但し、a=3、b=4、c=2の場合を除く。)で表される含フッ素不飽和炭化水素と、(B)O、O、CO、CO、COCl、COF、F、NF、Cl、Br、I及びYF(但し、YはCl、Br又はIを表す。nは1〜5整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスと、(C)N、He、Ar、Ne、Xe及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを、それぞれ特定の体積%で含む、ドライエッチング剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素不飽和化合物を含むドライエッチング剤、及びそれを用いたドライエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、半導体製造においては、極めて微細な処理技術が求められており、湿式法に代わりドライエッチング法が主流になっている。ドライエッチング法は、真空空間において、プラズマを発生させて、物質表面上に微細なパターンを分子単位で形成させる方法である。
【0003】
二酸化ケイ素(SiO)等の半導体材料のエッチングにおいては、下地材として用いられるシリコン、ポリシリコン、チッ化ケイ素等に対するSiOのエッチング速度を大きくするため、エッチング剤として、CF、CHF、C、C、C等のパーフルオロカーボン(PFC)類やハイドロフルオロカーボン(HFC)類が用いられてきた。
【0004】
しかしながら、これらのPFC類やHFC類は、いずれも大気寿命の長い物質であり、高い地球温暖化係数(GWP)を有していることから京都議定書(COP3)において排出規制物質となっている。半導体産業においては、経済性が高く、微細化が可能な低GWPの代替物質が求められてきた。
【0005】
そこで、特許文献1には、PFC類やHFC類の代替物質として、4〜7個の炭素原子を有するパーフルオロケトンを含有する反応性ガスをクリーニングガスやエッチングガスとして用いる方法が開示されている。しかしながら、これらのパーフルオロケトンの分解物質には少なからず高GWPのPFCが含まれることや、沸点が比較的高い物質が含まれることから、必ずしもエッチングガスとして好ましくなかった。
【0006】
特許文献2には、2〜6個の炭素原子を有するハイドロフルオロエーテルをドライエッチングガスとして用いる方法が開示されているが、特許文献1と同様、これらのハイドロフルオロエーテルについても総じてGWPが高く、地球環境的には好ましくなかった。
【0007】
一方、更なる低GWPを有し、かつ工業的にも製造が容易な化合物の開発が求められてきており、分子内に二重結合、三重結合を有する不飽和フルオロカーボンを用いてエッチング用途として検討されてきた。これに関連する従来技術として、特許文献3には、被エッチング基板の温度を50℃以下に制御し、飽和もしくは不飽和の高次鎖状フルオロカーボン系化合物をエッチングガスとして用いる方法が開示され、特許文献4には、C2a+1OCF=CFを含むエーテル類、CFCF=CFH、CFCH=CF等のフッ素化オレフィン類をSi膜、SiO膜、Si膜又は高融点金属シリサイト膜をエッチングする方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、ヘキサフルオロ−2−ブチン、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン及びヘキサフルオロプロペン等をエッチングガスとして用いることを特徴とするプラズマエッチング方法が開示され、特許文献6には、(a)ヘキサフルオロブタジエン、オクタフルオロペンタジエン、ペンタフルオロプロペン及びトリフルオロプロピンからなる群より選ばれる不飽和フルオロカーボン、(b)モノフルオロメタン又はジフルオロメタン等のヒドロフルオロメタン、(c)不活性なキャリアーガス、を含む混合ガスを用いて窒化物層からなる非酸化物層上の酸化物層をエッチングする方法が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献7には、低k誘電性材料(低比誘電率の誘電性材料)のエッチング方法として、CF及びC等の水素非含有フルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンガスとして、CHF、CHF及びCHFを用いた例が開示されている。
【0010】
更に、非特許文献1には、ヘキサフルオロプロペン、ヘキサフルオロブタジエン等の直鎖不飽和化合物を、酸化シリコン系材料層のエッチングに用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2004−536448号公報
【特許文献2】特開平10−140151号公報
【特許文献3】特開平4−346427号公報
【特許文献4】特開平10−223614号公報
【特許文献5】特開平9−191002号公報
【特許文献6】特表2002−530863号公報
【特許文献7】特表2007−537602号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Appl.phys.Vol.42,5759−5764頁,2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
PFC類やHFC類はGWPが高いため規制対象物質であり、それらの代替物質であるパーフルオロケトン類、ハイドロフルオロエーテル類及びハイドロフルオロビニルエーテル類は、分解物質中に少なからず高GWPのPFCが含まれることや製造が難しく経済的でないことから、地球環境に対する影響が小さく、かつ必要とされる性能を有するドライエッチング剤の開発が求められている。
【0014】
エッチング性能については、プラズマエッチングの場合、例えばCFのガスからFラジカルを作り、SiOをエッチングすると等方性にエッチングされる。微細加工が要求されるドライエッチングにおいては、等方性よりも異方性エッチングに指向性をもつエッチング剤が好ましく、さらに地球環境負荷が小さく、かつ経済性の高いエッチング剤が望まれている。
【0015】
また、これまでのエッチングガスを用いる技術では、特許文献5に記載のような複雑な工程や装置、限られた温度条件や基板、ガスへの振動付加等の操作が必要であり、プロセスウインドウが狭いという問題があった。
【0016】
本発明は、ガスの分子構造及びガス組成を好適化することにより、プロセスウインドウが広く、特殊な装置を使用することなく良好な加工形状が得られるドライエッチング剤、及びそれを用いたドライエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、(A)式[1]:
【化1】

【0018】
(式[1]中、a、b及びcは、それぞれ正の整数を表し、2≦a≦5、c<b≧1、2a+2>b+c、b≦a+cの関係を満たす。但し、a=3、b=4、c=2の場合を除く。)
で表される含フッ素不飽和炭化水素と、(B)O、O、CO、CO、COCl、COF、F、NF、Cl、Br、I、及びYF(但し、YはCl、Br又はIを表し、nは1〜5の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスと、(C)N、He、Ar、Ne、Xe、及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとをドライエッチング剤として用い、かつ各々のガスを特定の体積%の範囲で使用してエッチングすることで、良好な加工形状が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明7]に記載した発明を提供する。
【0020】
[発明1]
(A)式[1]:
【化2】

【0021】
(式[1]中、a、b及びcは、それぞれ正の整数を表し、2≦a≦5、c<b≧1、2a+2>b+c、b≦a+cの関係を満たす。但し、a=3、b=4、c=2の場合を除く。)
で表される含フッ素不飽和炭化水素と、(B)O、O、CO、CO、COCl、COF、F、NF、Cl、Br、I及びYF(但し、YはCl、Br又はIを表す。nは1〜5の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスと、(C)N、He、Ar、Ne、Xe及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを含み、かつ(A)、(B)及び(C)の体積%が、それぞれ5〜40%、5〜40%及び20〜90%(但し、各々のガスの体積%の合計は100%である。)である、ドライエッチング剤。
【0022】
[発明2]
含フッ素不飽和炭化水素が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン又は1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンである、発明1に記載のエッチング剤。
【0023】
[発明3]
還元性ガスが、H、CH、C、C、C、C、C、C、HF、HI、HBr、HCl、CO、NO及びNHからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスをさらに含む、発明1又は2に記載のドライエッチング剤。
【0024】
[発明4]
CF、CFH、CF、CFH、C、C、CH、C、CH、C、C、C、C、CH、CH、CClFH、C、C、C及びC10からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスをさらに含む、発明1乃至3の何れかに記載のドライエッチング剤。
【0025】
[発明5]
発明1乃至4の何れかに記載のドライエッチング剤をプラズマ化して得られるプラズマガスを用いて、二酸化シリコン、窒化シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及び炭化シリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を選択的にエッチングする、ドライエッチング方法。
【0026】
[発明6]
(A)1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンと、(B)H、O、CO及びCOFからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のガスと、Arとを用い、(A)、(B)及びArの体積流量比をそれぞれ5〜40%、5〜40%及び20〜90%(但し、各々のガスの体積流量比の合計は100%である。)とし、二酸化シリコン、窒化シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及び炭化シリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を選択的にエッチングする、ドライエッチング方法。
【0027】
[発明7]
(A)1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンと、(B)H、O、CO及びCOFからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のガスと、Arとを用い、(A)、(B)及びArの体積流量比をそれぞれ5〜40%、5〜40%及び20〜90%(但し、各々のガスの体積流量比の合計は100%である。)とし、二酸化シリコン、窒化シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及び炭化シリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を選択的にエッチングする、ドライエッチング方法。
【0028】
前述したように、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロペン、ヘキサフルオロ−2−ブチン、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン及びヘキサフルオロプロペン等をエッチングガスとして用いることは既に知られている。これらの含フッ素不飽和炭化水素はそれ自身、多くのフッ素原子を持ち、酸化シリコン系材料に対し高いエッチング速度を有することから、一見好ましい方法として挙げられる。
【0029】
また、本願発明の対象の化合物である1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン及び1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンについても特許文献3及び特許文献4に開示されているが、実際にこれらの含フッ素不飽和炭化水素を用いてエッチングを行った実施例を考慮しても、はたしてどの程度の選択比を持つのか、また、各種材料に対して工業的に採用し得る程度のエッチング速度を有するのかどうかが、全く不明であった。
【0030】
ところが、本発明者らは、含フッ素不飽和炭化水素と共に、添加ガス(O、F等)、及び不活性ガス(He、Ar等)を共存させ、かつ添加ガスを特定の量を用いてエッチングを行うことで、シリコン系材料層に対し選択性が高く、かつ高いエッチング速度で効率よくエッチングできることを見出した。
【発明の効果】
【0031】
本発明におけるドライエッチング剤は、分子内に1個の不飽和の二重結合を有するため、大気中でのOHラジカル等による分解性が高く、地球温暖化への寄与もCFやCFH等のPFC類やHFC類より格段に低いことから、ドライエッチング剤とした場合、環境への負荷が軽いという効果を奏する。
【0032】
さらに、これらのエッチング剤に含酸素ガスや含ハロゲンガス等の酸化性ガスや還元性ガスを混合することにより、飛躍的にプロセスウインドウを広げることができ、特殊な基板の励起操作等なしにサイドエッチ率が小さく高アスペクト比が要求される加工にも対応できる。
【0033】
このように、本発明で用いるエッチング剤は工業的にも地球環境的にも非常に優位性のあるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明で用いた実験装置の概略図である。
【図2】エッチング処理により得られる、シリコンウェハ上の開口部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明におけるドライエッチング剤について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0036】
本発明において使用するドライエッチング剤は、前述した(A)の式[1]で表される含フッ素不飽和炭化水素と、前述した(B)及び(C)の各種ガス(詳しくは後述)とを含むものである。
【0037】
式[1]で表される含フッ素不飽和炭化水素の具体例としては、式[1]中のa、b、cが規定する条件を満たすものであれば特に制限はなく、1,2,2−トリフルオロ−1−エテン(CH)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)、1,1,2,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)、1,1,1,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−2−ブテン(CH)、1,1,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブテン(CH)、1,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブテン(CH)、1,1,1,2,4,4,4−ヘプタフルオロ−2−ブテン(CH)、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(CH)、1,1,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロ−1−ペンテン(CH)、1,1,1,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロ−2−ペンテン(CH)、1,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロ−1−ペンテン(CH)、1,1,1,2,4,4,5,5,5−ノナフルオロ−2−ペンテン(CH)等が挙げられる。
【0038】
なお、上述した含フッ素不飽和炭化水素のうち、炭素数が3以上の化合物については立体異性体、すなわちトランス体(E体)とシス体(Z体)が存在することがある。本発明においては、いずれかの異性体もしくは両者の混合物として用いることができる。
【0039】
上述した含フッ素不飽和炭化水素のうち、いずれの化合物でも本願発明において好ましく用いることができるが、化合物の製造及び入手のし易さなどから、炭素数が比較的小さい化合物、すなわち、式[1]中、a=2〜4、b=3〜7、c=1の化合物であり、具体的には、1,2,2−トリフルオロ−1−エテン(CH)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)、1,1,2,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)、1,1,1,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−2−ブテン(CH)、1,1,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブテン(CH)、1,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブテン(CH)、1,1,1,2,4,4,4−ヘプタフルオロ−2−ブテン(CH)を用いることが好ましい。更には、本願実施例で挙げているように式[1]中、a=3、b=5、c=1の化合物、すなわち1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(CH)を用いることが特に好ましい。
【0040】
なお、上述した含フッ素不飽和炭化水素は従来公知の方法で製造することができる。例えば、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン及び1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンについては、特開2006−193437号公報及び特開2009−091301号公報に記載の方法で製造することができる。
【0041】
本発明に使用する含フッ素不飽和炭化水素は、二重結合を分子中に有し、この二重結合が単結合によりトリフルオロメチル基(CF基)とつながることで、エッチング効率の高いCFイオンが高頻度で発生する一方、二重結合部分は高分子化して堆積するという特徴を有する。
【0042】
エッチング剤中の炭素原子が高分子化して被エッチング材の側壁の非選択的なエッチングを防御するため、エッチング剤中のF/C比(フッ素原子と炭素原子の存在比)は、できるだけ1に近いことが好ましい。
【0043】
本発明に使用する含フッ素不飽和炭化水素は、分子中のF/C比が1.5〜1.8と小さく、被エッチング材の側壁が高分子の堆積により保護されやすいため、Fラジカルによる等方的エッチングに対し、異方性エッチングの選択性が向上すると考えられる。
【0044】
本発明のエッチング方法は、各種ドライエッチング条件下で実施可能であり、対象膜の物性、生産性、微細精度等によって、種々の添加剤を加えることが可能である。
【0045】
次に、式[1]で表される含フッ素不飽和炭化水素と共に用いる各種ガスの種類について説明する。
【0046】
本願発明で用いるエッチング剤は、(A)含フッ素不飽和炭化水素と共に、
(B)O、O、CO、CO、COCl、COF、F、NF、Cl、Br、I及びYF(但し、YはCl、Br又はIを表す。nは1〜5の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガス(本明細書では当該ガス群を「酸化性ガス」、「含酸素ガス」、「含ハロゲンガス」)と言うことがある。)と、
(C)N、He、Ar、Ne、Xe及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種のガス(本明細書では当該ガス群を「不活性ガス」と言うことがある。)とを、それぞれ好ましい体積%の範囲で混合させたものである。
【0047】
上記(B)のガスについては、生産性及びエッチング速度の向上を目的としているが、この中でも、金属のエッチング速度を更に加速することができることから、O、CO及びCOFが好ましく、Oが特に好ましい。酸素を添加すると選択的に金属のエッチングレートを加速することが可能となる。すなわち、酸化物に対する金属のエッチング速度の選択比を著しく向上でき、金属の選択エッチングが可能となる。
【0048】
これらの酸化性ガスの添加量は、出力等の装置の形状及び性能や、対象膜の特性に依存するが、通常、含フッ素不飽和炭化水素の流量に対し1/10倍から30倍であり、好ましくは、1/10倍から20倍である。30倍を超える量で添加する場合、含フッ素不飽和炭化水素の優れた異方性エッチング性能が損なわれることがあり、1/10倍より少ない量で添加する場合には、含フッ素不飽和炭化水素が高分子化した堆積物が著しく増加することがある。
【0049】
上記(C)のガスについては、希釈剤としても使用可能であるが、特にArの場合は、式[1]で表される含フッ素不飽和炭化水素との相乗効果によって、より高いエッチングレートが得られる。
【0050】
不活性ガスの添加量は、出力や排気量等の装置の形状及び性能や、対象膜特性に依存するが、式[1]で表される含フッ素不飽和炭化水素との流量に対し1倍から50倍が好ましい。
【0051】
なお、本願発明における各種ガスについては、上記(B)及び(C)のガスのうちの1種類又は2種類以上を混合して添加することができる。
【0052】
このように、本発明において使用するドライエッチング剤は、式[1]で表される含フッ素不飽和炭化水素、O等の酸化性ガス、及びAr等の不活性ガスを含むものであるが、当該エッチング剤における好ましい組成を、体積%と共に以下に示す。なお、各ガスの体積%の合計は100%である。
【0053】
含フッ素不飽和炭化水素、酸化性ガス、及び不活性ガスを共存させる場合の体積%は、例えば、当該不飽和炭化水素:酸化性ガス:不活性ガス=1〜45%:1〜50%:5〜98%とすることが好ましく、さらに、4〜40%:4〜45%:15〜92%とすることが特に好ましい。
【0054】
例えば、後述の実施例に示すように、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン又は1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンと、酸化性ガスと、アルゴンガスとを含み、これらの体積%が、それぞれ5〜40%、5〜40%及び20〜90%であるドライエッチング剤とすることは、各膜種に対し、高アスペクト比及び低サイドエッチ率でもってエッチングすることが可能になることから、特に好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0055】
なお、酸化性ガス又は不活性ガスがそれぞれ2種類以上混在している場合は、各々の体積比が前述の割合になるように調整すると良い。
【0056】
また、CF、CFH、CF、CFH、C、C、CH、C、CH、C、C、C、C、CH、CH、CClFH、C、C、C及びC10等のガスは、エッチングガスのF/C比を変動することができる。これらの化合物の添加量は、選択的エッチングを阻害しないようにF/C比を変動する量であることが好ましく、含フッ素不飽和炭化水素に対し0.01〜2体積倍が望ましい。
【0057】
また、等方的なエッチングを促進するFラジカル量の低減を所望するときは、CH、C、C、C、C、C、C、HF、HI、HBr、HCl、NO、NH及びHに例示される還元性ガスの添加が有効である。
【0058】
還元性ガスの添加量が多すぎる場合には、エッチングに働くFラジカルが著しく減量して、生産性が低下することがある。特に、H及びCを添加するとSiOのエッチング速度は変化しないのに対してSiのエッチング速度は低下し、選択性が上がることから下地のシリコンに対してSiOを選択的にエッチングすることが可能である。
【0059】
次に、本願発明におけるドライエッチング剤を用いたエッチング方法について説明する。
【0060】
本発明のドライエッチング剤は、各種の被加工物に適用可能であり、シリコンウェハ、金属板、硝子、単結晶及び多結晶等の基板上に重層した、B、P、W、Si、Ti、V、Nb、Ta、Se、Te、Mo、Re、Os、Ru、Ir、Sb、Ge、Au、Ag、As及びCr、並びにその化合物、具体的には、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物、オキシフッ化物、シリサイド及びこれらの合金のエッチング等各種の被加工物に適用可能である。
【0061】
特に、半導体材料に対して有効に適用できる。半導体材料としては、例えば、シリコン、二酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン、酸化フッ化シリコン及び炭化酸化シリコン等のシリコン系材料、タングステン、レニウム及びそれらのシリサイド、チタン及び窒化チタン、ルテニウム、ルテニウムシリサイド及びルテニウムナイトライド、タンタル、タンタルオキサイド及びオキシタンタルフルオライド、並びに、ハフニム、ハフニウムオキサイド、オキシハフニウムシリサイド及びハフニムジルコニムオキサイド等を挙げることができる。
【0062】
また、本発明のドライエッチング剤を用いたエッチング方法は、反応性イオンエッチング(RIE)、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマエッチング及びマイクロ波エッチング等の各種エッチング方法に限定されず、また反応条件も特に限定されず、行うことができる。本発明で用いるエッチング方法は、エッチング処理装置内で対象とするプロペン類のプラズマを発生させ、装置内にある対象の被加工物の所定部位に対してエッチングすることにより行う。例えば半導体の製造において、シリコンウェハ上にシリコン系酸化物膜又は窒化珪素膜等を成膜し、特定の開口部を設けたレジストを上部に塗布し、シリコン系酸化物又は窒化珪素膜を除去するようにレジスト開口部をエッチングする。
【0063】
エッチングを行う際のプラズマ発生装置に関しては、特に限定はされないが、例えば、高周波誘導方式及びマイクロ波方式の装置等が好ましく用いられる。
【0064】
エッチングを行う際の圧力は、異方性エッチングを効率よく行うために、ガス圧力は0.133〜133Paの圧力で行うことが好ましい。0.133Paより低い圧力ではエッチング速度が遅くなることがあり、133Paを超える圧力ではレジスト選択比が損なわれることがある。
【0065】
エッチングを行う際の含フッ素不飽和炭化水素、酸化性ガス、及び不活性ガスそれぞれの体積流量比率は、前述した体積%と同じ比率でもってエッチングを行うことができる。
【0066】
また、使用するガス流量は、エッチング装置のサイズに依存する為、当業者がその装置に応じて適宜調整することができる。
【0067】
また、エッチングを行う際の温度は300℃以下が好ましく、特に異方性エッチングを行うためには240℃以下とすることが望ましい。300℃を超える高温では等方的にエッチングが進行する傾向が強まり、必要とする加工精度が得られないことや、レジストが著しくエッチングされることがある。
【0068】
エッチング処理を行う反応時間は、特に限定はされないが、概ね5分〜30分程度が好ましい。しかしながら、当該反応時間はエッチング処理後の経過に依存する為、当業者がエッチングの状況を観察しながら適宜調整するのが良い。
【0069】
なお、前述した還元性ガス等と混合して使用したり、圧力、流量、温度等を最適化することにより、例えばコンタクトホールの加工時のシリコンとシリコン酸化膜とのエッチング速度の選択性を向上させたりすることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0071】
本発明のドライエッチング剤をコンタクトホール加工に適用し、層間絶縁膜(SiO)又は窒化珪素膜をエッチングした例を、以下、実施例1〜12として示した。また、比較例としてパーフルオロカーボンであるCFやF、そしてジオレフィンであるC(CF=CF−CF=CF)をそれぞれ使用した例を、比較例1〜12として示した。
【0072】
また、本実施例に用いる実験装置の概略図を図1に示す。
【0073】
チャンバー1内の上部電極5に接続されたガス導入口6からプロセスガスを導入後、チャンバー1内圧力を1Paに設定し、高周波電源3(13.56MHz、0.22W/cm)によりプロセスガスを励起させ生成した活性腫を、下部電極4上に設置した試料8に対し供給しエッチングを行った。
【0074】
試料8として、単結晶シリコンウェハ上にSiO膜又は窒化珪素膜を5μm成膜し、膜上に線幅0.3μmの開口部を設けたレジストを塗布したものを用いた。試料8に対して、C、CF、F、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(以下、1225ye(Z)と略す)、又は1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(以下、1225zcと略す)と、酸素、水素、又はアルゴンとの混合ガスを、後述の表1に記載のガス流量にて、プロセス圧力1Paの下、エッチングを30分間行った。エッチング処理後、シリコンウェハ断面をSEM観察することで、エッチング速度、アスペクト比及びサイドエッチ(側壁の削れ量)の開口部線幅との比率を比較した。サイドエッチ率R(%)は図2に示すように、R=(a/b)×100で表される。
【0075】
エッチング試験結果を表1に示す。
【表1】

【0076】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例7、実施例8及び実施例9の結果より、本発明におけるドライエッチング剤は、比較例1、比較例2、比較例5、比較例6、比較例9及び比較例11に示すCF、C,Fと比較して、SiOに対し高アスペクト比かつ低サイドエッチ率であり、良好なコンタクトホール加工形状が得られた。
【0077】
実施例4、実施例5、実施例6、実施例10、実施例11、実施例12の結果より、本発明におけるドライエッチング剤は、比較例3、比較例4、比較例7、比較例8、比較例10及び比較例12に示すCF,C,Fと比較して、窒化ケイ素に対し高アスペクト比かつ低サイドエッチ率であり、良好なコンタクトホール加工形状が得られた。
【0078】
上記試験と同条件でのエッチング試験を0.1μmの開口幅を持つ試料で実施したところ、同様の結果が得られた。
【0079】
実施例1〜実施例12の結果より、本発明におけるドライエッチング剤は、比較例1〜比較例12で示した公知のCF、Cに比べて、アスペクト比が高く、またサイドエッチ率が小さい、良好なコンタクトホール加工形状が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明で対象とするペンタフルオロプロペンを含む剤は、ドライエッチング剤として利用できる。また、それを用いたエッチング方法は、半導体の製造方法としても利用できる。
【符号の説明】
【0081】
[図1の説明]
1. チャンバー
2. 圧力計
3. 高周波電源
4. 下部電極
5. 上部電極
6. ガス導入口
7. 排ガスライン
8. 試料
[図2の説明]
a. 側壁の削れ量
b. 開口部線幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式[1]:
【化1】

(式[1]中、a、b及びcは、それぞれ正の整数を表し、2≦a≦5、c<b≧1、2a+2>b+c、b≦a+cの関係を満たす。但し、a=3、b=4、c=2の場合を除く。)
で表される含フッ素不飽和炭化水素と、(B)O、O、CO、CO、COCl、COF、F、NF、Cl、Br、I及びYF(但し、YはCl、Br又はIを表す。nは1〜5の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスと、(C)N、He、Ar、Ne、Xe及びKrからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスとを含み、かつ(A)、(B)及び(C)の体積%が、それぞれ5〜40%、5〜40%及び20〜90%(但し、各々のガスの体積%の合計は100%である。)である、ドライエッチング剤。
【請求項2】
含フッ素不飽和炭化水素が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン又は1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項3】
還元性ガスが、H、CH、C、C、C、C、C、C、HF、HI、HBr、HCl、CO、NO及びNHからなる群より選ばれる少なくとも1種のガスをさらに含む、請求項1又は2に記載のドライエッチング剤。
【請求項4】
CF、CFH、CF、CFH、C、C、CH、C、CH、C、C、C、C、CH、CH、CClFH、C、C、C及びC10からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスをさらに含む、請求項1乃至3の何れかに記載のドライエッチング剤。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のドライエッチング剤をプラズマ化して得られるプラズマガスを用いて、二酸化シリコン、窒化シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及び炭化シリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を選択的にエッチングする、ドライエッチング方法。
【請求項6】
(A)1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンと、(B)H、O、CO及びCOFからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のガスと、Arとを用い、(A)、(B)及びArの体積流量比をそれぞれ5〜40%、5〜40%及び20〜90%(但し、各々のガスの体積流量比の合計は100%である。)とし、二酸化シリコン、窒化シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及び炭化シリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を選択的にエッチングする、ドライエッチング方法。
【請求項7】
(A)1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペンと、(B)H、O、CO及びCOFからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のガスと、Arとを用い、(A)、(B)及びArの体積流量比をそれぞれ5〜40%、5〜40%及び20〜90%(但し、各々のガスの体積流量比の合計は100%である。)とし、二酸化シリコン、窒化シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及び炭化シリコンからなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコン系材料を選択的にエッチングする、ドライエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−30531(P2013−30531A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164008(P2011−164008)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】