説明

ドリル

【課題】切り屑排出性の向上を図りつつ、工具寿命の高寿命化を図ることができるドリルを提供すること。
【解決手段】ドリル1によれば、切屑排出溝4の溝底部4aは、軸心O方向に直角な断面視において軸心O方向へ向けて湾曲する円弧状に形成されると共にその半径Rが工具本体2の直径Dに対して2Dに設定されているので、溝底部4a付近の切り屑をスムーズに排出することができ、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することができる。その結果、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することで、切り屑排出性の向上を図りつつ、工具寿命の高寿命化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルに関し、特に、切り屑排出性の向上を図りつつ、工具寿命の高寿命化を図ることができるドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ドリルには、切削加工時に生成される切り屑を収容および排出するための切屑排出溝が設けられている。一般に、ドリルは、かかる切屑排出溝の断面積を大きくとり、チップポケットの拡大を図ることにより、切り屑排出性の向上を図ることができる。
【0003】
チップポケットの拡大を図る技術として、例えば、特許文献1には、工具断面形状(軸心方向に直角な断面形状)を略S字状とした深穴加工用ツイストドリルが開示されている。
【特許文献1】実公昭60−12648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される深穴加工用ツイストドリルでは、切り屑排出性の向上を図ることはできるが、工具断面形状を略S字状としてチップポケットの拡大を図るので、工具断面積が減少して、その分、工具剛性が低下することで、工具寿命の短命を招くという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、切り屑排出性の向上を図りつつ、工具寿命の高寿命化を図ることができるドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載のドリルは、軸心回りに回転する工具本体と、その工具本体の先端に設けられる切れ刃と、その切れ刃のすくい面を構成すると共に前記工具本体の外周面に凹設され前記工具本体の先端から後端側へ向けて延設される切屑排出溝とを備えるものであって、前記切屑排出溝は、溝底を構成する溝底部を備え、その溝底部は、前記軸心方向に直角な断面視において前記軸心方向へ向けて湾曲する円弧状に形成されると共にその半径が前記工具本体の直径Dに対して2D以上に設定されている。
【0007】
請求項2記載のドリルは、請求項1記載のドリルにおいて、前記切屑排出溝は、前記溝底部に連設されると共に前記工具本体の回転方向を向く壁面を構成する第1壁面部と、前記溝底部に連設されると共に前記工具本体の回転方向後方を向く壁面を構成する第2壁面部とを備え、前記軸心方向に直角な断面視において前記第1壁面部および第2壁面部がそれぞれ略直線状に形成されると共にそれら第1壁面部と第2壁面部とが互いに略平行に構成されている。
【0008】
請求項3記載のドリルは、請求項1又は2に記載のドリルにおいて、前記切屑排出溝の溝長は、前記工具本体の直径Dに対して20D以上に設定されている。
【0009】
請求項4記載のドリルは、請求項1から3のいずれかに記載のドリルにおいて、前記切屑排出溝の溝底により形成されるウェブの厚さが前記工具本体の先端側から後端側へ向かうに従って漸次薄くなるように構成されるテーパ部を備え、そのテーパ部は、前記工具本体の先端から前記軸心方向に沿って所定幅で設けられると共にその所定幅が前記工具本体の直径Dに対して3D以上かつ4D以下の範囲内に設定され、前記テーパ部における前記工具本体の先端から後端側へ向けたウェブの厚さの変化量が前記工具本体の直径Dに対して0.02D以下に設定されている。
【0010】
請求項5記載のドリルは、請求項1から4のいずれかに記載のドリルにおいて、前記工具本体の先端におけるウェブの厚さは、前記工具本体の直径Dに対して0.35D以上かつ0.45D以下の範囲内に設定されている。
【0011】
請求項6記載のドリルは、請求項1から5のいずれかに記載のドリルにおいて、前記切屑排出溝は、前記軸心回りにねじれて形成されると共にそのねじれ角が35度以上かつ45度以下の範囲内に設定されている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のドリルによれば、切屑排出溝は、溝底を構成する溝底部を備え、その溝底部は、軸心方向に直角な断面視において軸心方向へ向けて湾曲する円弧状に形成されると共にその半径が工具本体の直径Dに対して2D以上に設定されている。よって、溝底部付近の切り屑をスムーズに排出することができ、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することができるという効果がある。
【0013】
即ち、溝底部の半径を工具本体の直径Dに対して2Dよりも小さく設定する場合には、切り屑が工具本体の回転方向とは反対側へカールし易くなり、切り屑の排出抵抗や切削抵抗が増加するところ、本発明によれば、溝底部の半径を工具本体の直径Dに対して2D以上に設定することにより、溝底部付近の切り屑を工具本体の回転方向に沿ってスムーズに排出することができるので、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することができる。
【0014】
その結果、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することで、切り屑排出性の向上を図りつつ、工具寿命の高寿命化を図ることができるという効果がある。
【0015】
請求項2記載のドリルによれば、請求項1記載のドリルの奏する効果に加え、切屑排出溝は、溝底部に連設されると共に工具本体の回転方向を向く壁面を構成する第1壁面部と、溝底部に連設されると共に工具本体の回転方向後方を向く壁面を構成する第2壁面部とを備え、軸心方向に直角な断面視において第1壁面部および第2壁面部がそれぞれ略直線状に形成されると共にそれら第1壁面部と第2壁面部とが互いに略平行に構成されているので、チップポケットの拡大を図りつつ、工具剛性を確保することができるという効果がある。
【0016】
即ち、チップポケットの拡大を図ろうとすると、工具断面積を減少させる必要があり、その分、工具剛性の低下を招く一方、工具剛性を確保しようとすると、工具断面積を増加させる必要があり、その分、チップポケットを十分に確保できなくなるため、チップポケットの拡大を図ることと工具剛性を確保することとの両立は困難であった。
【0017】
これに対し、本発明によれば、軸心方向に直角な断面視において第1壁面部および第2壁面部をそれぞれ略直線状に形成すると共にそれら第1壁面部と第2壁面部とを互いに略平行に構成することにより、チップポケットの拡大を図ることができるうえ、第1壁面部および第2壁面部をそれぞれ略直線状に形成すると共に第1壁面部と第2壁面部とを互いに略平行に構成することでチップポケットの拡大を図るので、例えば、工具断面積を減少させるべく断面形状を略S字状としてチップポケットの拡大を図る場合と比較して、工具断面積が減少し過ぎることなく、工具剛性を確保することができる。
【0018】
その結果、チップポケットの拡大を図りつつ工具剛性を確保することで、切り屑排出性の向上を図りつつ、工具寿命の高寿命化を図ることができるという効果がある。
【0019】
また、軸心方向に直角な断面視において第1壁面部および第2壁面部をそれぞれ略直線状に形成すると共に第1壁面部と第2壁面部とを互いに略平行に構成することに加え、溝底部の半径を工具本体の直径Dに対して2D以上に設定することで、それぞれの効果を相乗的に発揮させることができ、切り屑排出性のより一層の向上を図りつつ、工具寿命の更なる高寿命化を図ることができるという効果がある。
【0020】
請求項3記載のドリルによれば、請求項1又は2に記載のドリルの奏する効果に加え、切屑排出溝の溝長は、工具本体の直径Dに対して20D以上に設定されている。ここで、切屑排出溝の溝長は、加工穴の深さと切り屑を排出するための余裕(一般に、1.5D〜2D程度)との和により決定される。よって、本発明によれば、工具本体の直径Dに対して18D以上の深穴の加工を行うことができる。
【0021】
また、切屑排出溝の溝長を工具本体の直径Dに対して20D以上に設定することで、工具本体の直径Dに対して20Dよりも小さくする場合と比較して、切り屑の排出が困難な深穴の加工において、切り屑排出性の向上を図るという効果を有効に発揮させることができるという効果がある。
【0022】
更に、かかる効果を有効に発揮させることができれば、深穴の加工においても、送りと戻しとを繰り返しつつ段階的に穴をあける加工、いわゆるステップ加工を行う必要がなく、加工能率の向上を図ることができるという効果がある。
【0023】
請求項4記載のドリルによれば、請求項1から3のいずれかに記載のドリルの奏する効果に加え、切屑排出溝の溝底により形成されるウェブの厚さが工具本体の先端側から後端側へ向かうに従って漸次薄くなるように構成されるテーパ部を備えているので、テーパ部において工具本体の先端側よりも後端側のチップポケットを大きく確保することができる。よって、工具本体の後端側へ向かうにつれ徐々に粗大化する切り屑をスムーズに排出することができ、切屑排出溝内における切り屑の詰まりを抑制することができるという効果がある。
【0024】
また、テーパ部は、工具本体の先端から軸心方向に沿って所定幅で設けられると共にその所定幅が工具本体の直径Dに対して3D以上かつ4D以下の範囲内に設定されている。ここで、かかる所定幅を工具本体の直径Dに対して3Dよりも小さく設定する場合には、テーパ部の範囲が狭くなり、チップポケットを十分に確保できなくなるところ、工具本体の直径Dに対して3D以上とすることにより、十分な大きさのチップポケットを確保することができるという効果がある。
【0025】
一方、かかる所定幅を工具本体の直径Dに対して4Dよりも大きく設定する場合には、テーパ部の範囲が広くなり過ぎて、工具剛性が低下するところ、工具本体の直径Dに対して4D以下とすることにより、工具剛性を確保することができるという効果がある。
【0026】
また、テーパ部における工具本体の先端から後端側へ向けたウェブの厚さの変化量が工具本体の直径Dに対して0.02D以下に設定されているので、かかる変化量を工具本体の直径Dに対して0.02Dよりも大きく設定する場合と比較して、工具剛性を確保することができ、折損を防止することができるという効果がある。
【0027】
請求項5記載のドリルによれば、請求項4記載のドリルの奏する効果に加え、工具本体の先端におけるウェブの厚さは、工具本体の直径Dに対して0.35D以上かつ0.45Dの範囲内に設定されているので、工具剛性を確保しつつ十分な大きさのチップポケットを確保することができるという効果がある。
【0028】
即ち、かかるウェブの厚さを工具本体の直径Dに対して0.35Dよりも薄く設定する場合には、工具断面積が減少して、工具剛性の低下を招くところ、工具本体の直径Dに対して0.35D以上とすることにより、工具剛性を確保することができる。
【0029】
一方、かかるウェブの厚さを工具本体の直径Dに対して0.45Dよりも厚く設定する場合には、工具断面積が増加して、チップポケットを十分に確保できなくなるところ、工具本体の直径Dに対して0.45D以下とすることにより、十分な大きさのチップポケットを確保することができる。
【0030】
請求項6記載のドリルによれば、請求項1から5のいずれかに記載のドリルの奏する効果に加え、切屑排出溝は、軸心回りにねじれて形成されると共にそのねじれ角が35度以上かつ45度以下の範囲内に設定されているので、切削抵抗を抑制することができると共に切屑排出溝内における切り屑の詰まりを抑制することができるという効果がある。
【0031】
即ち、かかるねじれ角を35度よりも小さく設定する場合には、切り屑によってすくい面に大きな力を受け、切削抵抗が増加するところ、35度以上とすることにより、切削抵抗を抑制することができる。
【0032】
一方、かかるねじれ角を45度よりも大きく設定する場合には、切屑排出溝の経路が長くなり、切り屑が詰まり易くなるところ、45度以下とすることにより、切屑排出溝内における切り屑の詰まりを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態におけるドリル1の正面図である。なお、図1では、工具本体2の軸心O方向の長さの一部を省略して図示すると共に、ドリル1の回転方向を矢印Aで示している。また、図1において、切屑排出溝4のねじれ角αを示すために用いた二点鎖線は、軸心Oを表している。
【0034】
まず、図1を参照して、ドリル1の概略構成について説明する。ドリル1は、マシニングセンタ等の加工機械(図示せず)から伝達される回転力によって被加工物に穴あけ加工を行う切削工具であり、タングステンカーバイト(WC)等を加圧焼結した超硬合金からソリッドドリルとして構成されている。また、ドリル1は、図1に示すように、工具本体2と、その工具本体2の先端(図1左側の端部)に設けられる2枚の切れ刃3と、それら2枚の切れ刃3に対応して工具本体2の外周面に凹設される2本の切屑排出溝4とを主に備えている。
【0035】
工具本体2は、軸心Oを有する直径D(本実施の形態では、D=5mm)の円柱状に構成され、その後端側(図1右側)にはシャンク2aが設けられている。このシャンク2aがホルダ(図示せず)に保持されることで、ドリル1がホルダを介して加工機械に取り付けられる。そして、かかるホルダを介して加工機械の回転力が工具本体2に伝達されることで、ドリル1(工具本体2)が軸心O回りに矢印A方向へ回転する。
【0036】
切れ刃3は、加工機械から伝達される回転力によって被加工物を切削するためのものであり、2枚の切れ刃3が軸心Oを対称に設けられている。また、それら2枚の切れ刃3は、工具本体2の先端方向視(図1左側面視)においてそれぞれ直線状に形成されると共に互いに平行に構成されている。
【0037】
切屑排出溝4は、切れ刃3のすくい面を構成すると共に切削加工時に切れ刃3によって生成される切り屑を収容および排出するためのものであり、ねじれ角α(本実施の形態では、α=38度)で軸心O回りにねじれて(螺旋状に)形成されると共に、2本の切屑排出溝4が軸心Oを対称に設けられている。
【0038】
ここで、ねじれ角αは、35度以上かつ45度以下の範囲内に設定することが望ましい。即ち、ねじれ角αを35度よりも小さく設定する場合には、切り屑によってすくい面に大きな力を受け、切削抵抗が増加するところ、35度以上とすることにより、切削抵抗を抑制することができる。
【0039】
一方、ねじれ角αを45度よりも大きく設定する場合には、切屑排出溝4の経路が長くなり、切り屑が詰まり易くなるところ、45度以下とすることにより、切屑排出溝4内における切り屑の詰まりを抑制することができる。
【0040】
また、切屑排出溝4は、工具本体2の先端から後端側へ向けて延設されると共に、軸心O方向に沿う長さ、いわゆる溝長Lが工具本体2の直径Dに対して30D(即ち、本実施の形態では、L=150mm)に設定されている。
【0041】
ここで、溝長Lは、加工穴の深さと切り屑を排出するための余裕(一般に、1.5D〜2D程度)との和により決定される。よって、本実施の形態におけるドリル1によれば、工具本体2の直径Dに対して28D以上の深穴の加工を行うことができる。なお、切屑排出溝4の詳細構成については、図2及び図3を参照して後述する。
【0042】
工具本体2には、切れ刃3及び切屑排出溝4に加えて、逃げ面5及び二番取り面6が設けられている。逃げ面5は、切削加工時における工具本体2の先端部と被加工物との接触面積を減らして切削抵抗を抑制するためのものであり、切れ刃3に連設されている。即ち、この逃げ面5と切屑排出溝4との交線によって切れ刃3が構成される。
【0043】
二番取り面6は、切削加工時における工具本体2の外周面と被加工物との接触面積を減らして切削抵抗を抑制するためのものであり、切屑排出溝4に連設されている。これにより、工具本体2の外周面には、二番取り面6の残部として、マージン7が設けられている。
【0044】
マージン7は、被加工物に加工する穴の内壁面を研磨するためのものであり、このマージン7と切屑排出溝4との交線によってリーディングエッジ8が構成される。上述した切屑排出溝4のねじれ角αとは、このリーディングエッジ8と軸心Oとがなす角度である。
【0045】
次いで、図2及び図3を参照して、切屑排出溝4の詳細構成について説明する。図2は、図1のII−II線における軸心O方向に直角なドリル1の拡大断面図である。なお、図2では、工具本体2の外形を省略して図示すると共に、ドリル1の回転方向を矢印Aで示している。
【0046】
図2に示すように、切屑排出溝4は、溝底を構成する溝底部4aと、その溝底部4aの端部Pbに連設されると共に矢印A方向を向く壁面(いわゆる、すくい面)を構成する第1壁面部4bと、溝底部4aの端部Pcに連設されると共に矢印A方向後方(反矢印A方向)を向く壁面を構成する第2壁面部4cとを備えて構成されている。
【0047】
溝底部4aは、図2に示すように、軸心O方向に直角な断面視において軸心O方向へ向けて湾曲する円弧状に形成されると共にその半径Rが工具本体2の直径Dに対して2D(即ち、本実施の形態では、R=10mm)に設定されている。
【0048】
また、溝底部4aは、軸心O方向に直角な断面視において軸心Oを中心とすると共に工具本体2の直径Dに対して0.5Dの直径Q(即ち、本実施の形態では、Q=2.5mm)を有する仮想円C内の領域に設けられるように構成されている。つまり、端部Pb,Pcが仮想円C上に位置するように構成されている。
【0049】
ここで、仮想円Cの直径Qは、本実施の形態のように、工具本体2の直径Dに対して0.5Dとする場合に限られず、工具本体2の直径Dに対して0.5D以下の範囲内に設定することが望ましい。
【0050】
即ち、仮想円Cの直径Qを工具本体2の直径Dに対して0.5Dよりも大きく設定する場合には、溝底部4aの範囲が広くなり過ぎて、切り屑が矢印A方向とは反対側へカールし易くなり、切り屑の排出抵抗や切削抵抗が増加するところ、工具本体2の直径Dに対して0.5D以下とすることで、溝底部4a付近の切り屑を矢印A方向に沿ってスムーズに排出することができ、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することができる。
【0051】
第1壁面部4bおよび第2壁面部4cは、図2に示すように、軸心O方向に直角な断面視においてそれぞれ直線状に形成されると共に、それら第1壁面部4bと第2壁面部4cとが互いに平行に構成されている。
【0052】
ここで、本実施の形態では、上述したように2本の切屑排出溝4が軸心Oを対称に設けられているので、それら2本の切屑排出溝4のうち一方の切屑排出溝4の第1壁面部4bと他方の切屑排出溝4の第2壁面部4cとの関係も互いに平行となり、同様に、他方の切屑排出溝4の第1壁面部4bと一方の切屑排出溝4の第2壁面部4cとの関係も互いに平行となる。従って、ドリル1は、図2に示すように、軸心O方向に直角な断面形状が略矩形状に構成されている。
【0053】
また、第1壁面部4bは軸心O方向に直角な断面視において端部Pbを接点として溝底部4aに接するように構成されると共に第2壁面部4cは第1壁面部4bを延長した仮想線よりも矢印A方向後方に設けられるように構成されている。つまり、切屑排出溝4に急激な形状変化が生じないように構成されている。これにより、切り屑を第1壁面部4bから溝底部4aに沿って第2壁面部4cまでスムーズに流動させることができ、切り屑排出性の向上を図ることができる。
【0054】
図2に示すように、2本の切屑排出溝4の各溝底部4a間には、心部として、ウェブ9が残されている(即ち、切屑排出溝4の溝底によりウェブ9が形成されている)。ここで、図3を参照して、ウェブ9について説明する。
【0055】
図3は、切屑排出溝4の溝底の回転軌跡を断面視した拡大断面図である。なお、図3では、工具本体2の外形の回転軌跡を二点差線を用いて図示すると共に、工具本体2の後端側(図3右側)を省略して図示している。
【0056】
図3に示すように、工具本体2の先端(図3左側の端部)におけるウェブ9の厚さT(いわゆる、心厚)は、工具本体2の直径Dに対して0.4D(即ち、本実施の形態では、T=2mm)に設定されている。
【0057】
ここで、工具本体2の先端におけるウェブ9の厚さTは、本実施の形態のように、工具本体2の直径Dに対して0.4Dとする場合に限られず、工具本体2の直径Dに対して0.35D以上かつ0.4D以下の範囲内に設定することが望ましい。
【0058】
即ち、かかるウェブ9の厚さTを工具本体2の直径Dに対して0.35Dよりも薄く設定する場合には、工具断面積が減少して、工具剛性の低下を招くところ、工具本体2の直径Dに対して0.35D以上とすることにより、工具剛性を確保することができる。
【0059】
一方、かかるウェブ9の厚さTを工具本体2の直径Dに対して0.45Dよりも厚く設定する場合には、工具断面積が増加して、チップポケットを十分に確保できなくなるところ、工具本体2の直径Dに対して0.45D以下とすることにより、十分な大きさのチップポケットを確保することができる。
【0060】
また、図3に示すように、ドリル1には、ウェブ9の厚さが工具本体2の先端側(図3左側)から後端側(図3右側)に向かうに従って漸次薄くなるように構成されたテーパ部10が設けられている。
【0061】
テーパ部10は、工具本体2の先端から終端部Ptまで軸心Oに沿って所定幅Wで設けられると共に、その所定幅Wが工具本体2の直径Dに対して3.5D(即ち、本実施の形態では、W=17.5mm)に設定されている。つまり、終端部Ptが工具本体2の先端から後端側へ3.5Dだけ離間した位置に設定されている。
【0062】
これにより、テーパ部10において工具本体2の先端側よりも後端側のチップポケットを大きく確保することができるので、工具本体2の後端側へ向かうにつれ徐々に粗大化する切り屑をスムーズに排出することができ、切屑排出溝4内における切り屑の詰まりを抑制することができる。
【0063】
ここで、所定幅Wは、本実施の形態のように、工具本体2の直径Dに対して3.5Dとする場合に限られず、工具本体2に直径Dに対して3D以上かつ4D以下の範囲内に設定することが望ましい。
【0064】
即ち、所定幅Wを工具本体2の直径Dに対して3Dよりも小さく設定する場合には、テーパ部10の範囲が狭くなり、チップポケットを十分に確保できなくなるところ、工具本体2の直径Dに対して3D以上とすることにより、十分な大きさのチップポケットを確保することができる。
【0065】
一方、所定幅Wを工具本体2の直径Dに対して4Dよりも大きく設定する場合には、テーパ部10の範囲が広くなり過ぎて、工具剛性が低下してしまうところ、工具本体2の直径Dに対して4D以下とすることにより、工具剛性を確保することができる。
【0066】
また、テーパ部10は、工具本体2の先端から終端部Pへ向けたウェブ9の厚さの変化量δ、即ち、工具本体2の先端におけるウェブ9の厚さTと終端部Ptにおけるウェブ9の厚さTpとの差(δ=T−Tp)が工具本体2の直径Dに対して0.02D(即ち、本実施の形態では、δ=0.1mm)に設定されている。
【0067】
ここで、ウェブ9の厚さの変化量δは、本実施の形態のように、工具本体2の直径Dに対して0.02Dとする場合に限られず、工具本体2の直径Dに対して0.02D以下に設定することが望ましい。
【0068】
即ち、ウェブ9の厚さの変化量δを工具本体2の直径Dに対して0.02D以下に設定することで、工具本体2の直径Dに対して0.02Dよりも大きく設定する場合と比較して、工具剛性を確保することができ、折損を防止することができる。
【0069】
なお、テーパ部10の終端部Ptよりも工具本体2の後端側では、ウェブ9の厚さはTpで一定に構成されている。
【0070】
次いで、図4を参照して、上述したように構成されるドリル1を用いて行った耐久試験について説明する。耐久試験は、所定の切削条件で被加工物に穴あけ加工を行った場合に、連続して加工可能な穴の総数を測定する試験である。
【0071】
なお、耐久試験の詳細諸元は、被加工物:JIS−S50C、切削油剤:水溶性切削油剤、切削速度:20m/min、送り速度:0.12mm/rev、加工深さ:120mm(止まり穴)、加工方法:ノンステップ加工である。
【0072】
また、耐久試験には、本実施の形態で説明したドリル1(以下、「本発明品1」と称す。)と、ドリル1に対して溝底部4aの半径Rのみが異なり、かかる半径Rが工具本体2の直径Dに対して6D(即ち、R=30mm)、1D(即ち、R=5mm)及び0.6D(即ち、R=3mm)に設定された3種類のドリル(以下、順に「本発明品2」、「変更品1」及び「変更品2」と称す。)と、ドリル1に対応する第2壁面部4cが溝底部4aに連続して円弧状に形成されると共に溝底部4aの半径Rが工具本体2の直径Dに対して0.3D(即ち、R=1.5mm)に設定されたドリル(以下、「従来品」と称す。)とを用いて行った。
【0073】
図4は、耐久試験の試験結果を示すグラフであり、上述した5種類のドリルにおいて連続して加工可能な穴の総数を示している。なお、図4では、上述した5種類のドリルについて行った各2回の試験結果を示しており、各ドリルの試験結果において、上段が1回目の試験結果を、下段が2回目の試験結果を、それぞれ示している。
【0074】
図4に示すように、耐久試験の結果によれば、本発明品1は、連続して加工可能な穴の総数を従来品に対して約20倍も増加させることができた。具体的には、従来品では加工穴数が約20に達した時点で加工できなくなった(折損した)のに対し、本発明品1では加工穴数が約400に達するまで継続して加工を行うことができた。
【0075】
これは、従来品では、本発明品1の第2壁面部4cに対応する壁面部が溝底部に連続して円弧状に形成されているので、チップポケットを十分に確保できていないのに対し、本発明品1では、第2壁面部4cが直線状に形成されると共に第1壁面部4bと第2壁面部4cとが互いに平行に構成されているので、チップポケットの拡大を図ることができるうえ、第2壁面部4cを直線状に形成すると共に第1壁面部4bと第2壁面部4cとを互いに平行に構成することでチップポケットの拡大を図るので、工具断面積が減少し過ぎることなく、工具剛性を確保することができたためであると考えられる。
【0076】
また、本発明品1及び2は、連続して加工可能な穴の総数を従来品、変更品1及び2よりも増加させることができた。これは、従来品、変更品1及び2では、本発明品1及び2に対して溝底部4aの半径Rが小さいので、切り屑が工具本体2の回転方向とは反対側へカールし易くなり、切り屑の排出抵抗や切削抵抗が増加してしまうのに対し、本発明品1及び2では、従来品、変更品1及び2に対して溝底部4aの半径Rが大きく設定されているので、溝底部4a付近の切り屑を工具本体2の回転方向に沿ってスムーズに排出することができ、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することができたためであると考えられる。このことから、溝底部4aの半径Rは、工具本体2の直径Dに対して2D以上に設定することが望ましい。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態におけるドリル1によれば、切屑排出溝4の溝底部4aは、軸心O方向に直角な断面視において軸心O方向へ向けて湾曲する円弧状に形成されると共にその半径Rが工具本体2の直径Dに対して2Dに設定されているので、溝底部4a付近の切り屑をスムーズに排出することができ、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することができる。その結果、切り屑の排出抵抗および切削抵抗を抑制することで、切り屑排出性の向上を図りつつ、工具寿命の高寿命化を図ることができる。
【0078】
また、本実施の形態におけるドリル1によれば、切屑排出溝4は、軸心O方向に直角な断面視において第1壁面部4b及び第2壁面部4cがそれぞれ直線状に形成されると共にそれら第1壁面部4bと第2壁面部4cとが互いに平行に構成されているので、チップポケットの拡大を図りつつ、工具剛性を確保することができる。
【0079】
即ち、チップポケットの拡大を図ろうとすると、工具断面積を減少させる必要があり、その分、工具剛性の低下を招く一方、工具剛性を確保しようとすると、工具断面積を増加させる必要があり、その分、チップポケットを十分に確保できなくなるため、チップポケットの拡大を図ることと工具剛性を確保することとの両立は困難であった。
【0080】
これに対し、本実施の形態におけるドリル1によれば、軸心O方向に直角な断面視において第1壁面部4b及び第2壁面部4cをそれぞれ直線状に形成すると共にそれら第1壁面部4bと第2壁面部4cとを互いに平行に構成することにより、チップポケットの拡大を図ることができるうえ、第1壁面部4b及び第2壁面部4cをそれぞれ直線状に形成すると共に第1壁面部4bと第2壁面部4cとを互いに平行に構成することでチップポケットの拡大を図るので、工具断面積が減少し過ぎることなく、工具剛性を確保することができる。
【0081】
ここで、切屑排出溝4の溝長Lは、本実施の形態におけるドリル1のように、工具本体2の直径Dに対して30Dとする場合に限られず、工具本体2の直径Dに対して20D以上に設定することが望ましい。
【0082】
即ち、溝長Lを工具本体2の直径Dに対して20D以上に設定することで、工具本体2の直径Dに対して20Dよりも小さくする場合と比較して、切り屑の排出が困難な深穴の加工において、切り屑排出性の向上を図るという効果を有効に発揮させることができる。
【0083】
更に、かかる効果を有効に発揮させることができれば、深穴の加工においても、送りと戻しとを繰り返しつつ段階的に穴をあける加工、いわゆるステップ加工を行う必要がなく、加工能率の向上を図ることができる。
【0084】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定される物ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0085】
例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0086】
また、上記実施の形態では、ドリル1が超硬合金から構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、高速度工具鋼などから構成しても良い。
【0087】
また、上記実施の形態では、切屑排出溝4が軸心O回りにねじれて(螺旋状に)形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、軸心O方向に沿う直線状に形成しても良い。
【0088】
また、上記実施の形態では、2枚の切れ刃3を備える場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、1枚、或いは3枚以上の切れ刃3を備えて構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施の形態におけるドリルの正面図である。
【図2】図1のII−II線における軸心O方向に直角なドリルの拡大断面図である。
【図3】切屑排出溝の溝底の回転軌跡を断面視した拡大断面図である。
【図4】耐久試験の試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0090】
1 ドリル
2 工具本体
3 切れ刃
4 切屑排出溝
4a 溝底部
4b 第1壁面部
4c 第2壁面部
9 ウェブ
10 テーパ部
D 工具本体の直径
L 溝長
O 軸心
R 溝底部の半径
T 工具本体の先端におけるウェブの厚さ
W 所定幅
α ねじれ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心回りに回転する工具本体と、その工具本体の先端に設けられる切れ刃と、その切れ刃のすくい面を構成すると共に前記工具本体の外周面に凹設され前記工具本体の先端から後端側へ向けて延設される切屑排出溝とを備えたドリルにおいて、
前記切屑排出溝は、溝底を構成する溝底部を備え、
その溝底部は、前記軸心方向に直角な断面視において前記軸心方向へ向けて湾曲する円弧状に形成されると共にその半径が前記工具本体の直径Dに対して2D以上に設定されていることを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記切屑排出溝は、前記溝底部に連設されると共に前記工具本体の回転方向を向く壁面を構成する第1壁面部と、前記溝底部に連設されると共に前記工具本体の回転方向後方を向く壁面を構成する第2壁面部とを備え、
前記軸心方向に直角な断面視において前記第1壁面部および第2壁面部がそれぞれ略直線状に形成されると共にそれら第1壁面部と第2壁面部とが互いに略平行に構成されていることを特徴とする請求項1記載のドリル。
【請求項3】
前記切屑排出溝の溝長は、前記工具本体の直径Dに対して20D以上に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のドリル。
【請求項4】
前記切屑排出溝の溝底により形成されるウェブの厚さが前記工具本体の先端側から後端側へ向かうに従って漸次薄くなるように構成されるテーパ部を備え、
そのテーパ部は、前記工具本体の先端から前記軸心方向に沿って所定幅で設けられると共にその所定幅が前記工具本体の直径Dに対して3D以上かつ4D以下の範囲内に設定され、前記テーパ部における前記工具本体の先端から後端側へ向けたウェブの厚さの変化量が前記工具本体の直径Dに対して0.02D以下に設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のドリル。
【請求項5】
前記工具本体の先端におけるウェブの厚さは、前記工具本体の直径Dに対して0.35D以上かつ0.45D以下の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のドリル。
【請求項6】
前記切屑排出溝は、前記軸心回りにねじれて形成されると共にそのねじれ角が35度以上かつ45度以下の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−136998(P2009−136998A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319232(P2007−319232)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 2007年10月17日〜20日 名古屋国際見本市委員会主催の「メカトロテック・ジャパン2007」に出品
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】