説明

ドレッシングギヤ

【課題】歯先部の損傷によるドレッシングギヤの交換時期を容易に確認することができるとともに、砥粒の脱落に気づかずにドレッシングを継続して、ギヤ本体の特に負荷の集中する歯先部の両端部における台金部分にまで損傷が生じても、砥粒の再電着により再使用することが可能なドレッシングギヤを提供する。
【解決手段】外周に複数の歯が形成された歯車型のギヤ本体1を備えて歯の表面に砥粒層5が形成されたドレッシングギヤにあって、複数の歯には、少なくとも歯筋方向両端部6Aの外径が大きくされた交換指標歯3Aが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被削歯車である外歯車のギヤホーニングに用いられる内歯車型砥石をドレッシングするためのドレッシングギヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなドレッシングギヤは、一般的に被削歯車である外歯車(ワーク)と略同様の寸法、形状を有する歯車型のギヤ本体を有し、その外周に形成された複数の歯の表面に、例えばダイヤモンド砥粒を電着した砥粒層が形成されたものであって、被削歯車のギヤホーニングに用いられる内歯車型砥石と噛合させられて回転されつつ切り込みと送りが与えられて、この内歯車型砥石をドレッシングする。
【0003】
ここで、このようなドレッシングギヤにおいては、上記ギヤ本体外周に形成された複数の歯の歯先部の歯筋方向両端部に負荷が集中し易く、ドレッシングギヤの損傷はこの歯先部の両端部から進行することが、例えば特許文献1に指摘されている。そこで、この特許文献1には、歯先面の略中央に円筒面の一部を形成するようにされた歯先中央外周面を設け、この歯先中央外周面の両側の歯先円径を歯筋方向に向かって徐々に減少させて、歯先部の両端部に集中する負荷を分散あるいは均一化するようにしたドレッシングギヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−011129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この特許文献1に記載されたドレッシングギヤでは、上述のように歯先中央外周面の両側から歯筋方向に向けて徐々に減少させられた歯先円径が、歯先部の両端でワークの歯先円径よりも大きくされており、ドレッシングを繰り返すうちには歯先中央外周面の両側で負荷による砥粒の脱落が生じることは避けられない。
【0006】
しかるに、このような砥粒の脱落が生じると、通常はドレッシングギヤを交換してドレッシングを行う一方、交換されたドレッシングギヤは砥粒層を一旦剥離してからダイヤモンド砥粒を再電着して再使用するのであるが、万一このような砥粒の脱落に気づかずにドレッシングを継続してしまうと、ダイヤモンド砥粒が電着されたギヤ本体の台金部分にまで損傷が及んでしまい、再電着しても再使用することが不可能となって、廃棄せざるを得なくなってしまう。これは、歯先円径が歯筋方向に渡って一定とされた通常のドレッシングギヤでも同様である。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、歯先部の損傷によるドレッシングギヤの交換時期を容易に確認することができるとともに、上述のように砥粒の脱落に気づかずにドレッシングを継続して、ギヤ本体の特に負荷の集中する歯先部の両端部における台金部分にまで損傷が生じても、砥粒の再電着により再使用することが可能なドレッシングギヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、外周に複数の歯が形成された歯車型のギヤ本体を備えて上記歯の表面に砥粒層が形成されたドレッシングギヤであって、上記複数の歯には、少なくとも歯筋方向両端部の外径が大きくされた交換指標歯が含まれていることを特徴とする。
【0009】
このように構成されたドレッシングギヤでは、上記交換指標歯の少なくとも歯筋方向両端部の外径が大きくされており、従ってドレッシングの際の負荷による損傷は、この外径が大きくされた交換指標歯の歯筋方向両端部から進行する。すなわち、この交換指標歯が、ドレッシングギヤの交換時期の指標あるいは目安となり、この交換指標歯における砥粒の脱落を調べることにより、ドレッシングを継続することが可能か否かを確認することができる。
【0010】
そして、万一この砥粒の脱落に気づかずにドレッシングを継続して、交換指標歯の歯筋方向両端部における台金部分に損傷が及んでも、この大きくされた外径を、被削歯車であるワークをギアホーニングする内歯車型砥石をドレッシングするのに必要な外径よりも大きくしておくことにより、損傷がこの必要な外径まで及んでいなければ、砥粒層を剥離した後に台金の損傷した部分を除去して再電着等により砥粒層を再形成することでドレッシングギヤを再使用することが可能となる。
【0011】
ここで、上記交換指標歯は、1つの上記歯のうちで歯筋方向両端部の外径が歯筋方向中央部の外径よりも大きくされていてもよい。この場合には、例えば歯筋方向中央部の外径を上記必要な外径としておくことにより、歯丈方向両端部の台金部分が損傷しても、損傷した部分を除去したときに該両端部が中央部の外径と等しくなるまでは交換指標歯として機能させることができる。なお、このように歯筋方向両端部の外径が歯筋方向中央部の外径よりも大きくされた交換指標歯は、複数の歯のうちの1歯でもよく、一部の複数の歯でもよく、複数の歯全部がこのような交換指標歯であってもよい。
【0012】
また、交換指標歯は、上記複数の歯のうち一部の歯において、少なくとも歯筋方向両端部の外径が他の歯の外径よりも大きくされていてもよい。この場合に、交換指標歯は、その外径が歯筋方向全体に亙って他の歯の外径よりも大きくされていてもよく、例えば他の歯の外径を上記必要な外径としておくことにより、この交換指標歯の歯先部の歯先方向両端部から損傷が進行するので、該交換指標歯を確認することによってドレッシングギヤの交換時期を認識することができる。さらに、この交換指標歯の台金部分に損傷が生じたときでも、その外径が他の歯の外径と等しくなるまでは損傷した部分を除去して再電着することによりドレッシングギヤの再使用を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、少なくとも歯筋方向両端部の外径が大きくされた交換指標歯により、ドレッシングギヤの交換時期を確認することができるとともに、万一砥粒の脱落に気づかずにドレッシングを継続して交換指標歯の両端部における台金部分にまで損傷が生じてしまっても、この両端部の台金部分を除去して砥粒層を再形成することによってドレッシングギヤを再使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における交換指標歯の台金部分の斜視図である。
【図3】図2に示す交換指標歯の歯筋方向に沿った断面図である。
【図4】図3に示す交換指標歯において歯先部の両端部に損傷が生じた状態を示す断面図である。
【図5】図4に示した交換指標歯において砥粒層を再形成した状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態を示す交換指標歯の歯筋方向に沿った断面図である。
【図7】図6に示す交換指標歯において歯先部の両端部に損傷が生じた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし図7は、本発明の第1、第2の実施形態を示すものである。これらの実施形態において、ギヤ本体1は共通して、鋼材等の金属材料によって図1に示すように外歯車型に形成された台金2の外周に形成される複数の歯3の表面に、図3ないし図7に示すようにダイヤモンド超砥粒のような硬質の砥粒4が電着等によって固着された砥粒層5が形成されて構成されている。
【0016】
そして、これら複数の歯3のうち少なくとも1つの歯3は交換指標歯3Aとされ、この交換指標歯3Aにおいては、少なくともその歯筋方向(図3ないし図7において左右方向)の両端部の外径(ギヤ本体1の中心軸線に対する半径。図3ないし図7における上下方向の高さ)が大きくされている。ただし、図1ではギヤ本体1がヘリカルギヤとされているのに対して、図2ないし図7では説明のため、交換指標歯3Aは歯筋方向に沿って真っ直ぐに示されている。
【0017】
このうち、図2ないし図5は本発明の第1の実施形態における交換指標歯3Aを示すものであり、この第1の実施形態の交換指標歯3Aでは、1つの交換指標歯3Aにおいて、その歯先部6が、歯筋方向の両端部6Aにおいて、これら両端部6Aの間の歯筋方向の中央部6Bよりも一段突出するようにされて、これら両端部6Aの外径が中央部6Bに対して大きくなるようにされている。
【0018】
具体的に、本実施形態では、図2に示すように、交換指標歯3Aにおける台金2の歯先部6の中央部6Bが歯丈方向に偏平した「コ」字状をなして歯先側に開口するように凹む一方、両端部6Aにおいては歯面7がそのまま歯先側に延長されることにより、その表面に固着された砥粒層5も含めて両端部6Aが段差をなして突出してその外径が大きくなるようにされている。
【0019】
なお、中央部6Bは両端部6Aの間で連続して凹んでおり、こうして凹んだ中央部6Bの歯筋方向の長さは、両端部6Aそれぞれの歯筋方向の長さおよび両端部6Aを合わせた歯筋方向の長さよりも長くされている。また、両端部6A同士の歯筋方向の長さは互いに等しくされている。
【0020】
さらに、この両端部6Aと中央部6Bとの段差の大きさは、図2では説明のために大きく示されているが、0.05mm〜1.0mm程度であるので、図1には段差は示されていない。また、両端部6Aに対して一段低くされた中央部6Bの外径は、当該ドレッシングギアによってドレッシングされた内歯車型砥石によってギヤホーニングされるワークとしての被削歯車に所望の歯型を形成するのに必要な外径とされる。
【0021】
さらにまた、本実施形態では、図1に示すように、複数の歯3のうち1つだけが交換指標歯3Aとされ、交換指標歯3A以外の他の歯3の外径は交換指標歯3Aの歯先部6の中央部6Bの外径と等しく、すなわち、やはりワークとしての被削歯車に所望の歯型を形成するのに必要な外径とされている。
【0022】
このように構成されたドレッシングギヤにより内歯車型砥石のドレッシングを行う場合においても、歯3の歯先部6の損傷は上述したように歯筋方向の両端部から進行して、まず砥粒4の脱落を生じるが、本実施形態では交換指標歯3Aの歯先部6の両端部6Aの外径が中央部6Bよりも大きくされるとともに、他の歯3の歯先部両端部よりも大きくされているので、砥粒4の脱落もこの交換指標歯3Aの歯先部6の両端部6Aから始まる。
【0023】
従って、ドレッシングの途中でこの両端部6Aにおける砥粒4の脱落が確認されたときには、これを目安として他の歯3に損傷が生じる前にドレッシングギヤを交換し、砥粒層5を剥離した後に砥粒4を再電着することでドレッシングギヤとして再使用することができる。
【0024】
しかしながら、万一このような砥粒4の脱落に気づかずに損傷が進行してしまい、図4に示すように交換指標歯3Aの歯先部6における両端部6Aの台金2部分にまで損傷が及んでしまった場合でも、上記構成のドレッシングギヤでは、この損傷が、ワークとしての被削歯車に所望の歯型を形成するのに必要な上記外径よりも小さな外径の位置まで及んでいたり、他の歯3の台金2部分に損傷が生じていたりしなければ、砥粒層5を剥離した後に、損傷した台金2の交換指標歯3Aの歯先部6における両端部6Aを研削等によって図4に破線で示すように除去し、次いで図5に示すように砥粒4を再電着することにより、ドレッシングギヤとして再使用することができる。
【0025】
さらに、こうして砥粒4を再電着したドレッシングギヤによりドレッシングを行って、再び交換指標歯3Aの歯先部6における両端部6Aの台金2部分に損傷が生じても、再度砥粒層5を剥離した後に図5に破線で示すようにこの両端部6Aの台金2部分を研削してから砥粒4を電着することで、この両端部6Aの外径が中央部6Bと等しくなるまで再使用が可能となる。
【0026】
このように、上記構成のドレッシングギヤによれば、交換指標歯3Aによってドレッシングギヤの交換時期の目安を知ることができるとともに、万一この交換指標歯3Aの台金2部分に損傷が生じても、損傷した部分を除去して砥粒4を再電着することにより、再使用することが可能となる。従って、台金2の有効利用を図って効率的かつ経済的なドレッシングを行うことができる。
【0027】
また、本実施形態では、1つの交換指標歯3Aにおいて、その歯先部6の歯筋方向の両端部6Aが中央部6Bよりも外径が大きくされているので、上述のように両端部6Aの台金2部分に損傷が及んだ場合に、この両端部6Aの台金2部分を除去するときでも、研削等による除去量が少なくて除去作業が容易であるという効果も有する。さらに、本実施形態では、このような交換指標歯3Aが複数の歯3のうちの1つであるので、除去作業は一層容易である。
【0028】
なお、本実施形態では、こうして外径が大きくされた交換指標歯3Aの歯先部6の歯筋方向両端部6Aと、これに対して外径が小さくなる中央部6Bとの段差を0.05mm〜1.0mmとしているが、この段差が0.05mmを下回るほど小さすぎると、交換指標歯3Aの歯先部6の両端部6Aにおいて台金2に損傷が生じたときに再使用することができなくなるおそれがある。その一方で、段差が1.0mmを上回るほど大きいと、交換指標歯3Aの歯先部6の両端部6Aの剛性が低くなって欠損を生じ易くなるので、段差は本実施形態のように0.05mm〜1.0mm程度とされるのが望ましい。
【0029】
ただし、本実施形態ではこのように交換指標歯3Aを複数の歯3のうちの1つとしているが、複数の歯3のうちさらに複数の一部の歯3を交換指標歯3Aとしてもよく、場合によってはギヤ本体1の外周に形成された複数の歯3の全てを、上述のように歯先部6の中央部6Bに対して両端部6Aの外径が大きくされた交換指標歯3Aとしてもよい。これらの場合には、交換指標歯3Aが多いので、ドレッシングギヤの交換時期の確認や台金2まで損傷が及んでいるか否かの確認が一層容易となる。
【0030】
また、このように歯先部6の両端部6Aの外径を中央部6Bよりも大きくした交換指標歯3Aに代えて、あるいはこれと併せて、ギヤ本体1の外周に形成される複数の歯3のうち一部の歯3を、図6および図7に示す本発明の第2の実施形態のように、歯先部6全体の外径が、同図6および図7に鎖線で示したワークとしての被削歯車に所望の歯型を形成するのに必要な上記外径の他の歯3よりも歯面7に沿って0.05mm〜1.0mm程度大きくされた交換指標歯3Aとしてもよい。なお、これら図6および図7に示す第2の実施形態において、第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。また、鎖線で示した他の歯3については、砥粒4は図示を省略してある。
【0031】
このような第2の実施形態のドレッシングギヤにおいても、ギヤ本体1の外周に形成された歯3の歯先部6の損傷は、外径が大きくされた交換指標歯3Aの歯先部6の両端部6Aから進行し、砥粒4の脱落が確認されたときにはドレッシングギヤの交換時期とされる。また、万一このような砥粒4の脱落に気づかずに、図7に示すように損傷が歯先部6の両端部6Aにおける台金2部分にまで及んでも、この第2の実施形態においては砥粒層5を剥離した後に図7に破線で示すように歯先部6の全体に研削等を施して損傷した部分を除去した上で砥粒4を再電着することにより、この交換指標歯3Aの外径が他の歯3と等しくなるまでドレッシングギヤとして再使用することが可能となる。
【0032】
さらに、この第2の実施形態においては、第1の実施形態の交換指標歯3Aにおける歯先部6のように中央部6Bが凹んで形成されていないので、歯先部6の強度を維持して損傷自体も抑えることができる。さらにまた、この第2の実施形態においても、ギヤ本体1の外周に形成された複数の歯3のうち1つが交換指標歯3Aとされていてもよく、また複数の歯3のうち一部の複数が交換指標歯3Aとされていて、残りの歯3がワークとしての被削歯車に所望の歯型を形成するのに必要な上記外径の他の歯3とされていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ギヤ本体
2 台金
3 歯
3A 交換指標歯
4 砥粒
5 砥粒層
6 交換指標歯3Aの歯先部
6A 歯先部6の両端部
6B 歯先部6の中央部
7 歯面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に複数の歯が形成された歯車型のギヤ本体を備えて上記歯の表面に砥粒層が形成されたドレッシングギヤであって、上記複数の歯には、少なくとも歯筋方向両端部の外径が大きくされた交換指標歯が含まれていることを特徴とするドレッシングギヤ。
【請求項2】
上記交換指標歯は、1つの上記歯のうちで歯筋方向両端部の外径が歯筋方向中央部の外径よりも大きくされていることを特徴とする請求項1に記載のドレッシングギヤ。
【請求項3】
上記交換指標歯は、上記複数の歯のうち一部の歯において、少なくとも歯筋方向両端部の外径が他の歯の外径よりも大きくされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドレッシングギヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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