説明

ナノカーボン水分散体及びその製造方法並びにナノカーボン含有構造体

【課題】低コストで調製でき、ナノカーボンを高濃度に孤立分散させることができるナノカーボン水分散体及びその製造方法を提供することを目的とする。また、当該ナノカーボン水分散体から水を除去して得られる、電気伝導性の高いナノカーボン含有構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とするナノカーボン水分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン水分散体及び製造方法並びにナノカーボン含有構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブに代表されるナノカーボンは電気伝導性、熱伝導性、機械的強度、熱安定性等が優れているため、その応用開発研究が盛んに行われている。
【0003】
しかしながら、ナノカーボンは分散媒中で強いファン・デル・ワールス力によって束状、絡み合ったロープ状又は塊状に凝集し易いため、分離・精製及び取扱いが困難という問題がある。そして、特に機能性材料として期待されているカーボンナノチューブにおいては、凝集が著しく、凝集解消が強く求められている。
【0004】
分散媒中での凝集を解消して分離・精製及び取扱いを容易にするために、媒体中でナノカーボンを孤立分散させる試みがなされている。第1のアプローチは、カーボンナノチューブの端部を親水性基又は疎水性基で化学修飾することによって媒体中に分散し易くする方法である。第2のアプローチは、カーボンナノチューブの媒体中での親和性を介助する物質(分散剤)を用いる方法である。
【0005】
前者としては、例えば、カーボンナノチューブをニトロ化した後、他の基に置換して水に分散させる方法が記載されている(特許文献1)。しかしながら、カーボンナノチューブを化学修飾する方法は、カーボンナノチューブの物性を変える可能性があるため、後者の方法の方が望ましいとされている。
【0006】
後者の方法としては、媒体として水性媒体と疎水性有機溶媒の両方が検討されているが、コスト、有毒性及び環境面の観点から水性媒体の使用が望まれている。
【0007】
カーボンナノチューブの水性媒体中での親和性を介助する物質(分散剤)としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルイタコン酸塩(特許文献2)、重縮合系芳香族系界面活性剤(特許文献3)、ステロイド骨格を含む非イオン性界面活性剤(特許文献4)等の界面活性剤;カテキン類(特許文献5)、両親媒性トリフェニレン誘導体(特許文献6)、ポリフェノール含有水溶液(特許文献7)、両親媒性π共役化合物(特許文献8)、ピレン誘導体(非特許文献1)、ポルフィリン誘導体(非特許文献2)等の芳香族又は複素環化合物;ポリスチレンスルホン酸(特許文献9)、多糖(特許文献10)、ピレンポリマー(非特許文献3)、DNA(非特許文献4)等の親水性高分子などが知られている。
【0008】
これらの分散剤を用いて水性媒体中に孤立分散されたカーボンナノチューブは、精製、導電性の異なるカーボンナノチューブの分離、導電膜形成等に供されるが、カーボンナノチューブ表面に分散剤が残存しているとカーボンナノチューブ間の電気伝導性を低下させるおそれがある。そのため、分散剤は除去が容易であるか又は残存していても電気伝導性に悪影響を及ぼさない物質が望ましい。この点で、上記分散剤の中でも両親媒性トリフェニレン誘導体、両親媒性π共役化合物、ピレン誘導体等の多環芳香族化合物が適しているが、合成に手間がかかる新規化合物であるか又は高濃度にカーボンナノチューブを分散できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−24127号公報
【特許文献2】特開2010−13312号公報
【特許文献3】特開2005−263608号公報
【特許文献4】特開2009−242126号公報
【特許文献5】特開2009−298625号公報
【特許文献6】特開2009−190940号公報
【特許文献7】特開2009−161393号公報
【特許文献8】特開2006−265151号公報
【特許文献9】特開2009−149832号公報
【特許文献10】特開2008−53607号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chem. Lett., 6, 638-639 (2002).
【非特許文献2】Chem. Phys. Lett. 378, 481-485 (2003).
【非特許文献3】Trans. Mater. Research Soc. Jpn., 29, 525-528 (2004).
【非特許文献4】Chem. Lett., 32, 456 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、低コストで調製でき、ナノカーボンを高濃度に孤立分散させることができるナノカーボン水分散体及びその製造方法を提供することを目的とする。また、当該ナノカーボン水分散体から水を除去して得られる、電気伝導性の高いナノカーボン含有構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の水溶性化合物をナノカーボンの分散剤として採用する場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記のナノカーボン水分散体及びその製造方法並びにナノカーボン含有構造体に関する。
【0014】
1. 9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とするナノカーボン水分散体。
【0015】
2. 前記9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する化合物が、一般式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
[式中、Z及びZは同じか又は異なり、それぞれ芳香族炭化水素環;R1a及びR1bは同じか又は異なり、それぞれアルキレン基;R2a及びR2bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基;R3a及びR3bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基;m及びnは同じか又は異なり、それぞれ0以上の整数;p及びqは同じか又は異なり、それぞれ1以上の整数;h1及びh2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数;j1及びj2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数である。]
で示されるフルオレン化合物、又はその塩酸塩、アルカリ金属塩、有機アンモニウム塩、若しくはエチレンオキシド付加物である、上記項1に記載の亜鉛化合物被覆炭素材。
【0018】
3. 前記水溶性化合物は、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン塩酸塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2有機アンモニウム塩及び9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・エチレンオキシド付加物からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載のナノカーボン水分散体。
【0019】
4. 前記ナノカーボンは、単層又は多層のカーボンナノチューブである、上記項1〜3のいずれかに記載のナノカーボン水分散液。
【0020】
5. ナノカーボンと、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物を含む水性溶媒とを混合することにより組成物を調製する工程1、及び
前記組成物に物理的分散処理を施す工程2
を有することを特徴とするナノカーボン水分散液の製造方法。
【0021】
6. 上記項1〜4のいずれかに記載のナノカーボン水分散体の乾燥物である、ナノカーボン含有構造体。
【0022】
7. 前記乾燥体が水、アルコール又はアセトンで洗浄された、上記項6に記載のナノカーボン含有構造体。
【0023】
8. 前記乾燥体が希酸又は希アルカリで洗浄された、上記項6に記載のナノカーボン含有構造体。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明のナノカーボン水分散体は、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とする。
【0026】
上記特徴を有する本発明のナノカーボン水分散体は、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物を分散剤とすることにより、低コストで水性溶媒中にナノカーボンを高濃度に孤立分散させることができる。また、ナノカーボン水分散体からナノカーボンの分離・精製が容易であり、他材料にナノカーボンを均一混合することも可能であるため、ナノカーボンを含むナノコンポジットなどへ適用できる。更に、ナノカーボン水分散体の乾燥物であるナノカーボン含有構造体は、分散剤が残存していても高い電気伝導性を有しているため、さまざまな光・電子デバイスに適用することができる。
【0027】
ナノカーボン水分散体及びその製造方法
本発明で用いるナノカーボンは限定的ではなく、公知の単層又は多層のカーボンナノチューブなどが使用できる。具体的には、例えば、次のものが例示できる。
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体。
【0028】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブは、黒鉛シート(即ち、黒鉛構造の炭素原子面ないしグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。カーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じたものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているものは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、これら単層又は多層カーボンナノチューブがいずれも使用できる。
【0029】
単層カーボンナノチューブとしては、直径が0.4〜10nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が0.7〜5nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が0.7〜2nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
【0030】
多層カーボンナノチューブとしては、直径が1〜100nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が1〜50nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が1〜40nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
【0031】
<アモルファスナノスケールカーボンチューブ>
アモルファスナノスケールカーボンチューブは、WO00/40509(特許第3355442号)に記載されており、カーボンからなる主骨格を有し、直径が0.1〜1000nmであり、アモルファス構造を有するナノスケールカーボンチューブであって、直線状の形態を有し、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔(d002)が3.54Å以上、特に3.7Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下、特に24.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上、特に7.0度以上であることを特徴とするものである。
【0032】
アモルファスナノスケールカーボンチューブは、アモルファス構造(非晶質構造)を有するナノスケールのカーボンナノチューブで、中空直線状であり、細孔が高度に制御されている。その形状は、主に円柱、四角柱などであり、先端の少なくとも一方が、キャップを有していない(開口している)場合が多い。先端が閉口している場合には、形状がフラット状である場合が多い。
【0033】
該アモルファスナノスケールカーボンチューブの外径は、通常1〜1000nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜200nm程度の範囲にあり、より好ましくは、1〜100nm程度の範囲にある。そのアスペクト比(チューブの長さ/直径)は2倍以上であり、好ましくは5倍以上である。
【0034】
ここで、「アモルファス構造」とは、規則的に配列した炭素原子の連続的な炭素層からなる黒鉛質構造ではなく、不規則な炭素網平面からなる炭素質構造を意味し、多数の微細なグラフェンシートが不規則に配列し、原子の配列が不規則になっている。代表的な分析手法である透過型電子顕微鏡による像からは、本発明による非晶質構造のナノスケールカーボンチューブは、炭素網平面の平面方向の広がりがアモルファスナノスケールカーボンチューブの直径の1倍より小さい。このように、アモルファスナノスケールカーボンチューブは、その壁部が黒鉛構造ではなく多数の微細なグラフェンシート(炭素網面)が不規則に分布したアモルファス構造を有しているため、最外層を構成する炭素網面は、チューブ長手方向の全長にわたって連続しておらず、不連続となっている。特に、最外層を構成する炭素網面の長さは、20nm未満、特に5nm未満である。
【0035】
非晶質炭素は一般的にはX線回折を示さないが、ブロードな反射を示す。黒鉛質構造では、炭素網平面が規則的に積み重なっているので、炭素網平面間隔(d002)が狭くなり、ブロードな反射は高角側(2θ)に移行して、次第に鋭くなり(2θバンドの半値幅が狭くなり)、d002回折線として観測できるようになる(黒鉛的位置関係で規則正しく積み重なっている場合はd002=3.354Åである)。
【0036】
これに対し、非晶質構造は、上記のように一般的にはX線による回折を示さないが、部分的に非常に弱い干渉性散乱を示す。X線回折法(入射X線=CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される本発明によるアモルファスナノスケールカーボンチューブの理論的な結晶学的特性は、以下の様に規定される:炭素網平面間隔(d002)は、3.54Å以上であり、より好ましくは3.7Å以上である;回折角度(2θ)は、25.1度以下であり、より好ましくは24.1度以下である;前記2θバンドの半値幅は、3.2度以上であり、より好ましくは7.0度以上である。
【0037】
典型的には、アモルファスナノスケールカーボンチューブは、X線回折による回折角度(2θ)が18.9〜22.6度の範囲内にあり、炭素網平面間隔(d002)は3.9〜4.7Åの範囲内にあり、2θバンドの半値幅は7.6〜8.2度の範囲内にある。
【0038】
アモルファスナノスケールカーボンチューブの形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。すなわち、透過型電子顕微鏡によるアモルファスナノスケールカーボンチューブ像の長さをLとし、そのアモルファスナノスケールカーボンチューブを伸ばした時の長さをL0とした場合に、L/L0が0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
【0039】
<鉄−炭素複合体>
鉄−炭素複合体は、特開2002−338220号公報に記載されており、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に(b)の炭化鉄又は鉄が充填されている。即ち、チューブ内空間部の100%の範囲に完全に充填されているものではなく、上記金属又は合金がそのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に充填されている(即ち、部分的に充填されている)ことを特徴とするものである。壁部は、パッチワーク状ないし張り子状(いわゆるpaper mache状)のナノフレークカーボンチューブである。
【0040】
なお、「ナノフレークカーボンチューブ」とは、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状ないし張り子状(paper mache状)に集合して構成されている、黒鉛シートの集合体からなる炭素製チューブを指す。
【0041】
本発明では、ナノカーボンの分散剤として9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物を用いる。この水溶性化合物は、ナノカーボン表面に吸着して水性溶媒中でナノカーボンを高濃度に孤立分散させることができる。また、水溶性化合物は市販品を用いることができ、コスト及び分散性の両方で従来品より優位性がある。更に、この水溶性化合物は、ナノカーボン表面に残存してもナノカーボンの電気伝導性に影響を与え難いという優位性もある。
【0042】
9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する化合物としては限定的ではないが、例えば、一般式(1):
【0043】
【化2】

【0044】
[式中、Z及びZは同じか又は異なり、それぞれ芳香族炭化水素環;R1a及びR1bは同じか又は異なり、それぞれアルキレン基;R2a及びR2bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基;R3a及びR3bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基;m及びnは同じか又は異なり、それぞれ0以上の整数;p及びqは同じか又は異なり、それぞれ1以上の整数;h1及びh2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数;j1及びj2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数である。]
で示されるフルオレン化合物、又はその塩酸塩、アルカリ金属塩、有機アンモニウム塩、若しくはエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0045】
及びZは、炭素数が6〜14の芳香族炭化水素環が好ましく、炭素数が6〜14の単環又は縮合環の芳香族炭化水素環がより好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、インデン環等が挙げられ、ベンゼン環がより好ましい。Z及びZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
1a及びR1bは、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、具体的には、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。R1a及びR1bは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、R1a同士、R1b同士が同一であっても異なっていてもよい。また、アルキレン基R1a及びR1bの種類は係数m及びnの数によっても異なっていてもよい。好ましいアルキレン基は、炭素数が2〜3のアルキレン基(特にエチレン基及びプロピレン基)であり、通常、エチレン基が好ましい。
【0047】
2a及びR2bは、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基等、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基等が好ましい。
【0048】
アルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8(特に1〜6)のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が好ましい。
【0049】
シクロアルキル基としては、炭素数5〜10(好ましくは5〜8、特に5〜6)のシクロアルキル基が好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が好ましい。
【0050】
アリール基としては、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基(アルキル:前述したもの;トリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基等のメチルフェニル基等)、キシリル基等のジメチルフェニル基等)、ナフチル基等が好ましい。
【0051】
アラルキル基としては、前述したアリール基と前述したアルキル基を有する炭素数7〜14のアラルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が好ましい。
【0052】
アルコキシ基としては、炭素数1〜8(特に1〜6)のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等が好ましい。
【0053】
シクロアルコキシ基としては、炭素数5〜10のシクロアルコキシ基が好ましく、具体的には、シクロへキシルオキシ基等が好ましい。
【0054】
アリールオキシ基としては、前述したアリール基を有する炭素数6〜10のアリールオキシ基が好ましく、具体的には、フェノキシ基等が好ましい。
【0055】
アラルキルオキシ基としては、前述したアリール基と前述したアルキルオキシ基を有する炭素数7〜14のアラルキルオキシ基が好ましく、具体的には、ベンジルオキシ基等が好ましい。
【0056】
アシル基としては、炭素数1〜6のアシル基が好ましく、具体的には、アセチル基等が好ましい。
【0057】
アルコキシカルボニル基としては、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基が好ましく、具体的には、メトキシカルボニル基等が好ましい。
【0058】
ヒドロキシアリール基としては、前述したアリール基を有する炭素数6〜10のヒドロキシアリール基が好ましく、具体的には、ヒドロキシフェニル基(特に4−ヒドロキシフェニル基)、ヒドロキシC1−4アルキルフェニル基(特に4−ヒドロキシ−3−メチル基)、ヒドロキシナフチル基(特に4−ヒドロキシナフチル基)等が好ましい。
【0059】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が好ましい。
【0060】
置換アミノ基としては、上述した官能基を置換基に有するものが好ましく、具体的には、ジアルキルアミノ基等が好ましい。
【0061】
置換基R2a及びR2bの置換数であるh1及びh2は、通常0〜4(特に0〜2)程度の整数が好ましい。置換基R2a及びR2bの置換位置も特に制限されない。好ましい置換基R2a及びR2bは、炭素数が1〜6のアルキル基(特に、メチル基等の炭素数が1〜4のアルキル基)、炭素数が6〜10のアリール基(例えば、フェニル基等の炭素数が6〜8のアリール基)等であり、好ましい置換数h1及びh2は0〜2(特に0又は1)程度の整数である。
【0062】
3a及びR3bとしては、前記例示の炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基等が挙げられる。
【0063】
置換基R3a及びR3bの置換数であるj1及びj2は、通常0〜4(特に0〜2(さらには0又は1))程度の整数が好ましい。置換基R3a及びR3bの置換位置も特に制限されない。好ましい置換基R3a及びR3bは、炭素数1〜6のアルキル基(特に、メチル基等の炭素数が1〜4のアルキル基)であり、好ましい置換数j1及びj2は、0又は1(特に0)である。
【0064】
オキシアルキレン単位の繰り返し数であるm及びnは、0以上の整数であり、通常0〜10、好ましくは0〜7、さらに好ましくは0〜5、特に0〜3、さらには0又は1程度の整数である。また、p及びqは、1以上の整数であり、通常1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1程度の整数である。
【0065】
代表的な一般式(1)で表される化合物には、m及びnが0である化合物、すなわち、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類が含まれる。
【0066】
前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、前記一般式(1)において、Z1及びZ2がベンゼン環であり、p及びqが1である9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;Z1及びZ2がナフタレン環であり、p及びqが1である9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類;Z1及びZ2がベンゼン環であり、p及びqが2以上である9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類等が含まれる。
【0067】
具体的には、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、R2a及びR2bが炭化水素基であり、h1及びh2が0又は1である化合物が好適に使用される。9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C1−6アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(ジアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(ジC1−6アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C5−10シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C6−10アリールヒドロキシフェニル)フルオレン等)等が挙げられる。
【0068】
また、前記9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類には、前記例示の9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類のフェニル基がナフチル基である9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類、(例えば9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)]フルオレン等の9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン等)等が含まれる。
【0069】
さらに、前記9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類には、前記9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類(9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類)に対応するフルオレン類、例えば、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン(9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスカテコールフルオレン)等);9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−6−メチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C1−4アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレン等)等の9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン類が含まれる。
【0070】
なお、前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、例えば、前記フルオレン類(すなわち、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類等)において、m及びnが1以上である化合物、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン、BPEF)等の9,9−ビス[4−(ヒドロキシC2−3アルコキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン、BCEF)等の9,9−ビス(アルキルヒドロキシC2−3アルコキシフェニル)フルオレン等も含まれる。
【0071】
これらの前記一般式(1)で表される化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。前記式(1)で表される化合物のうち、例えば、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン塩酸塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2有機アンモニウム塩及び9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・エチレンオキシド付加物からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0072】
上記アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
【0073】
上記有機アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0074】
ナノカーボン水分散体における上記水溶性化合物の含有量は限定的ではないが、0.01〜50wt%が好ましく、0.1〜20wt%がより好ましい。また、ナノカーボン100重量部に対して1〜1000重量部が好ましく、10〜100重量部がより好ましい。また、ナノカーボン水分散体における上記ナノカーボンの含有量は限定的ではないが、本発明では20wt%程度まで高濃度分散させることができ、好ましくは0.01〜10wt%である。
【0075】
本発明では、ナノカーボン水分散体のナノカーボンの分散媒として水性溶媒を用いる。
【0076】
水性溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン、2−メトキシエタノール等が使用できる。ナノカーボン水分散体における上記水性溶媒の含有量は限定的ではないが、上記ナノカーボン及び水溶性化合物の含有量となるように調整すればよい。
【0077】
上記本発明のナノカーボン水分散体は、分散剤である9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物がナノカーボン表面に吸着しており、水性溶媒中でナノカーボンを高濃度に孤立分散させることができる。また、ナノカーボン水分散体からナノカーボンの分離・精製が容易である。
【0078】
上記本発明のナノカーボン水分散体の製造方法は限定的ではなく、上記各成分を混合することにより製造できるが、下記の本発明の製造方法を用いることにより好適に製造することができる。
【0079】
すなわち、ナノカーボンと、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物を含む水性溶媒とを混合することにより組成物を調製する工程1、及び前記組成物に物理的分散処理を施す工程2を有することを特徴とするナノカーボン水分散液の製造方法により好適に製造することができる。本発明の製造方法における各成分の種類及び含有量については前記の通りである。
【0080】
上記工程2における物理的分散処理は、例えば、超音波ホモジナイザー、ボールミル、ホモジナイザー等の公知の撹拌機により行うことができる。
【0081】
ナノカーボン含有構造体
本発明のナノカーボン含有構造体は、上記ナノカーボン水分散体の乾燥物である。
【0082】
乾燥物を得るためには、通常の固液分離によりナノカーボン含有構造体を回収する。この分離を行う方法としては、例えば、通常の固液分離に使用されている方法、例えば、濾紙、ガラスフィルターなどを用いて濾過する方法;遠心分離後に濾過する方法;減圧濾過器を使用する方法;分散体のpHを酸性にする、分散体に食塩などを加える、分散体に大量のアルコールを加えるなどにより分散体中からナノカーボンを凝集させた後に濾過又は遠心分離する方法を例示できる。次に、乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、温風乾燥機等を用いて50〜200℃程度で1〜24時間程度乾燥させる方法を例示できる。
【0083】
本発明のナノカーボン含有構造体は、ナノカーボン表面に分散剤が残存していても電気伝導性に影響を与え難いが、必要に応じて、分散剤又は塩を除去することができる。分散剤は、ナノカーボン含有構造体を洗浄することにより除去することができる。塩は、ナノカーボン含有構造体を希酸又は希アルカリで洗浄することにより除去できる。特に有機アンモニウム塩系の分散剤は、乾燥処理150〜400℃、好ましくは200〜350℃の熱処理により有機アンモニウム塩が分解されるため、熱処理によっても塩を除去することができる。
【0084】
従来の分散剤は、いわゆる洗剤に使われる界面活性剤のタイプが多く、これらは分散剤分子とナノカーボンとの疎水性相互作用を利用して吸着していると考えられ、また分子量が比較的大きいため、その吸着力も大きいと考えられる。他方、本発明で用いる分散剤はナノカーボンとπ−π相互作用を利用して吸着しているため、水性媒体中でしか吸着を維持できず、また分子量が小さいため従来品と比べて吸着力も弱い。よって、本発明で用いる分散剤は従来品よりもナノカーボン含有構造体から除去し易いという利点がある。
【0085】
分散剤を除去するための洗浄は、ナノカーボン含有構造体と洗浄液とを接触させることにより行う。洗浄液としては、分散剤を溶解できるものであれば、水、各種の有機溶媒等が使用できる。かかる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール(特に炭素数1〜6の低級アルコール)、アセトン等が使用できる。これらは1種単独で或いは2種以上を混合して使用される。
【0086】
これらの中でも、洗浄後にナノカーボン含有構造体から短時間で蒸発する低沸点有機溶媒が好ましい。かかる低沸点溶媒としては、常圧における沸点が30〜100℃程度、特に30〜80℃程度のもの、例えば、メタノール、エタノール、アセトン等が例示できる。
【0087】
塩を除去するための洗浄は、ナノカーボン含有構造体と希酸又は希アルカリとを接触させ、次いで水洗することにより行う。希酸は、0.1〜5%塩酸が好ましく、希アルカリは0.1〜3%アンモニア水が好ましい。
【0088】
洗浄操作は、洗浄液とナノカーボン含有構造体とを接触させればよい。例えば、ナノカーボン水分散体から回収されたナノカーボン含有構造体又はその乾燥物を、洗浄液中に室温で静かに浸漬させるのが好ましい。浸漬時間は30分、好ましくは20分以内である。30分より長く浸漬させると構造体が崩壊するおそれがある。
【0089】
洗浄液の使用量は、洗浄を行うに有効な量であれば特に限定されず、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、ナノカーボン含有構造体100重量部に対して、洗浄液を100〜100000重量部程度、特に1000〜5000重量部程度使用すると良好な結果が得られる。
【発明の効果】
【0090】
本発明のナノカーボン水分散体は、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物を分散剤とすることにより、低コストで水性溶媒中にナノカーボンを高濃度に孤立分散させることができる。また、ナノカーボン水分散体からナノカーボンの分離・精製が容易であり、他材料にナノカーボンを均一混合することも可能であるため、ナノカーボンを含むナノコンポジットなどへ適用できる。更に、ナノカーボン水分散体の乾燥物であるナノカーボン含有構造体は、分散剤が残存していても高い電気伝導性を有しているため、さまざまな光・電子デバイスに適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0091】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0092】
実施例1
0.1N 水酸化ナトリウム水溶液3.42mlに9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)0.04gを加え、60℃に加熱してBPFを溶解し、ナトリウム塩を調製した。
【0093】
この溶液を水で10mlに希釈し、0.1gの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(ナノシル社製 NC7000 MWCNT)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0094】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BPF重量:CNT重量= 0.4:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、CNTが孤立分散していることが確認できた。
【0095】
実施例2
1%水酸化アンモニウム水溶液10mlに9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)0.58gを加えてBPFを溶解し、アンモニウム塩溶液を調製した。
【0096】
この溶液を水で10倍に希釈し、その20mlに50mgの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 APJタイプ)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0097】
得られた分散液(CNT濃度0.25wt% BPF重量:CNT重量= 1:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、SWCNTのバンドル構造が解消されて多くのCNTが孤立分散していることが確認できた。
【0098】
実施例3
実施例1と同様にして得たCNT水分散液(CNT濃度1wt% BPF重量:CNT重量= 1:0.1)を水で希釈してCNT濃度0.1wt%液及び0.01wt%液を調製した。これらをそれぞれ2枚のガラス板上に塗布後、60℃で1時間乾燥させ、計4枚の乾燥膜を作製した。
【0099】
乾燥後、CNT濃度0.1wt%液及び0.01wt%液から得た乾燥膜をそれぞれ1枚ずつメタノール洗浄して、再度60℃で1時間乾燥させた。
【0100】
ガラス板上に形成した塗膜の表面抵抗を三菱アナリテック製ロレスタで測定した。
【0101】
メタノール洗浄した乾燥膜の表面抵抗は、CNT濃度0.01wt%液の場合は2E+04 Ω/□、0.1wt%液の場合は1E+03 Ω/□を示し、導電性の高いことがわかった。
【0102】
また、メタノール洗浄しない乾燥膜では、CNT濃度0.01wt%液の場合6E+03 Ω/□であり、BPFのナトリウム塩が残存していても高い導電性を示した。
【0103】
実施例4
水6.1ml にBPF 0.5g と10% 水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を 3.9g 添加して攪拌し、BPFを溶解し、テトラメチルアンモニウム塩を調製した。
【0104】
この溶液を水で10倍に希釈し、水溶液 20ml にCNT(単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 SO))0.05g を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA,5分)した。
【0105】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BPF重量:CNT重量= 1: 1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、CNTは孤立分散していることが確認できた。
【0106】
実施例5
水 6.1ml にBPF 0.5gと10% 水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を3.9g 添加して攪拌し、BPFを溶解し、テトラメチルアンモニウム塩を調製した。
【0107】
この溶液2ml を 水 16ml とエタノール2ml (溶液総量 20ml)で希釈し、更にCNT(単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 SO))0.05g を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA,5分)した。
【0108】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BPF重量:CNT重量= 1: 1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、CNTは孤立分散していることが確認できた。
【0109】
実施例6
水 6.1ml に9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(BCF)0.5gと10% 水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を 3.9g 添加して攪拌し、BCFを溶解し、テトラメチルアンモニウム塩を調製した。
【0110】
この溶液2ml を 水 16ml とエタノール2ml (溶液総量 20ml)で希釈し、更にCNT(単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 SO))0.05g を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA,5分)した。
【0111】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BCF重量:CNT重量= 1: 1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、CNTは孤立分散していることが確認できた。
【0112】
実施例7
エタノール 6.1ml に9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン(BNF)0.5gと25% 水酸化テトラメチルアンモニウムエタノール溶液を 3.9g 添加して攪拌し、BNFを溶解し、テトラメチルアンモニウム塩を調製した。
【0113】
この溶液6ml を水 14ml (溶液総量20ml)で希釈し、更にCNT(単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 SO))0.05g を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA,5分)した。
【0114】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BNF重量:CNT重量= 1: 1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、CNTは孤立分散していることが確認できた。また、堀場製作所 近赤外蛍光分光装置 JOBIN YVON Fluorog-3を用い、500-1000nmの励起光で、2次元蛍光発光スペクトルが観測できたことから、CNT孤立分散していることを支持している。
【0115】
実施例8
10%水酸化アンモニウム水溶液2.6gに9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)0.5gを加えて溶解し、さらに7.4gの蒸留水を加えてBPF水溶液を調製した。
【0116】
この水溶液4gに蒸留水6g加えて希釈し、これに0.2gの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 FH-P)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0117】
得られた分散液(CNT濃度2wt% BPF重量:CNT重量=1:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、ほとんどのCNTが孤立分散していることが確認できた。
【0118】
実施例9
10%水酸化アンモニウム水溶液2.6gに9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)0.5gを加えて溶解し、さらに7.4gの蒸留水を加えてBPF水溶液を調製した。
【0119】
この水溶液0.6gに蒸留水9.4g加えて希釈し、これに0.1gの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 FH-P)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0120】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BPF重量:CNT重量= 0.3:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、多くのCNTが孤立分散し、その表面に不連続的にBPFの層が存在していることが分かった。
【0121】
上記希釈前の分散液7mlにエタノールを添加していくと、3ml加えた段階でCNTが凝集を起こして沈殿した。沈殿物を濾過により回収してFE-TEMで観察したところ、CNT表面にBPF層はみられなかった。この結果から、本発明のナノカーボン水分散体においては、ナノカーボンから水分散体(フルオレン化合物)をアルコールで容易に除去できることが確認できた。
【0122】
実施例10
10%水酸化アンモニウム水溶液2gとエタノール1gの混合液に9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン(BNF)0.5gを加えて溶解し、さらに7gの蒸留水を加えてBNF溶液を調製した。
【0123】
この溶液1gに10%エタノール水溶液9g加えて希釈し、これに0.05gの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 FH-P)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0124】
得られた分散液(CNT濃度0.5wt% BNF重量:CNT重量= 1:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、多くのCNTが孤立分散していることが確認できた。
【0125】
実施例11
10%水酸化アンモニウム水溶液2gとエタノール2gの混合液に9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン(BNF)0.5gを加えて溶解し、さらに50w%エタノール水溶液6gを加えてBNF溶液を調製した。
【0126】
この溶液1gに50%エタノール水溶液9g加えて希釈し、これに0.05gの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(名城ナノカーボン製 FH-P)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0127】
得られた分散液(CNT濃度0.5wt% BNF重量:CNT重量= 1:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、多くのCNTが孤立分散していることが確認できたことより、BNFはエタノール濃度が高くてもCNTを分散できると考えられる。
【0128】
実施例12
10%水酸化アンモニウム水溶液2.6gに9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)0.5gを加えて溶解し、さらに7.4gの蒸留水を加えてBPF水溶液を調製した。
【0129】
この水溶液0.6gに蒸留水9.4g加えて希釈し、これに0.1gの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(ナノシル製 NC7000)を加えて超音波ホモジナイザーで分散(300mA、5分)した。
【0130】
得られた分散液(CNT濃度1wt% BPF重量:CNT重量= 0.3:1)を水で希釈してCNT濃度0.01wt%液を調製し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、多くのCNTが孤立分散していることが確認できた。その表面に不連続的にBPFの吸着層が存在していることが分かった。
【0131】
上記希釈前の分散液を希塩酸でpH5にするとCNTが凝集を起こして沈殿した。沈殿物を濾過により回収して60℃で12時間乾燥させた。乾燥物(NC7000-BPF)をFE-TEMで観察したところ、CNT表面に不連続なBPF層が見られた。
【0132】
次いで、乾燥物と未処理NC7000の体積抵抗率をそれぞれ測定した結果を下表に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
CNT表面にBPFが付着しているにもかかわらず体積抵抗率は変化しないことが分かった。このため、本発明で使用する分散剤(フルオレン化合物)は抵抗にはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物、ナノカーボン及び水性溶媒を含有することを特徴とするナノカーボン水分散体。
【請求項2】
前記9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する化合物が、一般式(1):
【化1】

[式中、Z及びZは同じか又は異なり、それぞれ芳香族炭化水素環;R1a及びR1bは同じか又は異なり、それぞれアルキレン基;R2a及びR2bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基;R3a及びR3bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基;m及びnは同じか又は異なり、それぞれ0以上の整数;p及びqは同じか又は異なり、それぞれ1以上の整数;h1及びh2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数;j1及びj2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数である。]
で示されるフルオレン化合物、又はその塩酸塩、アルカリ金属塩、有機アンモニウム塩、若しくはエチレンオキシド付加物である、請求項1に記載の亜鉛化合物被覆炭素材。
【請求項3】
前記水溶性化合物は、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン塩酸塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2有機アンモニウム塩及び9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・エチレンオキシド付加物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のナノカーボン水分散体。
【請求項4】
前記ナノカーボンは、単層又は多層のカーボンナノチューブである、請求項1〜3のいずれかに記載のナノカーボン水分散液。
【請求項5】
ナノカーボンと、9,9−ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物を含む水性溶媒とを混合することにより組成物を調製する工程1、及び
前記組成物に物理的分散処理を施す工程2
を有することを特徴とするナノカーボン水分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノカーボン水分散体の乾燥物である、ナノカーボン含有構造体。
【請求項7】
前記乾燥体が水、アルコール又はアセトンで洗浄された、請求項6に記載のナノカーボン含有構造体。
【請求項8】
前記乾燥体が希酸又は希アルカリで洗浄された、請求項6に記載のナノカーボン含有構造体。