説明

ハードコート転写シート及び製造方法

【課題】耐指紋性に優れたハードコート転写シートを得る。
【解決手段】ハードコート転写シート1は、基材10、離型層12、耐指紋層14、ハードコート層16、アンカー層18、接着層20を順次積層して構成される。耐指紋層14は撥水性かつ親油性であり、水接触角は70°以上、スクアレン接触角は30°未満に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードコート転写シート及び製造方法に関し、更に詳しくは耐指紋性を備えるハードコート転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードコート転写成型物への機能性付与が広く行われる様になっている。これらの中でも、スマートフォン等のタッチパネルを搭載した情報機器の拡大に伴い、耐指紋性、すなわち指紋拭き取り性を付与することは大きな課題となっている。
【0003】
一般に、耐指紋性の付与方法として、ハードコート層に防汚成分を混合する手法が挙げられるが、リコートされるアンカー層や接着層との密着を阻害する問題があり、あるいは転写成型後の指紋拭き取り性能やハードコート性能の低下が生じ得る。
【0004】
また、他の方法として、転写成型後にスプレーコートやディッピングコートにより防汚層をコーティングする方法も考えられるが、工程増加によるコストデメリットの方が大きくなってしまう。
【0005】
特許文献1には、指紋を目立ちづらく、或いは拭き取りやすくする手法として、トップコート層がオルガノシリカゾルとフッ素樹脂又はアクリル樹脂とシロキサンとが複合化されたシロキサングラフト型ポリマーの組み合わせによりなるものが開示されている。
【0006】
特許文献2には、トップコート層が特定のフッ素含有活性エネルギー線硬化型樹脂によりなるものが開示されている。
【0007】
特許文献3及び特許文献4には、指紋を目立たないように、或いは拭き取りやすくするためにフィラーを分散する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−052019号公報
【特許文献2】国際公開第10/016452号公報
【特許文献3】特開2008−273187号公報
【特許文献4】特開2008−296492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、トップコート層がオルガノシリカゾルとフッ素樹脂又はアクリル樹脂とシロキサンとが複合化されたシロキサングラフト型ポリマーの組み合わせによりなるものや、トップコート層が特定のフッ素含有活性エネルギー線硬化型樹脂によりなるものは、リコート層の選択性が狭く、またハードコート層としての性能を満足するものではない。
【0010】
また、ハードコート転写シートのハードコート層に耐指紋性を付与する方法としては、ハードコート層に防汚成分を添加する方法があり、防汚成分としてはシリコーン或いはフッ素を含有する材料が挙げられるが、転写シートのハードコート層に防汚成分を添加した場合、リコート層の密着性を阻害したり、転写成型後の指紋拭き取り性能や硬度物性が十分に得られない。
【0011】
また、転写シートの離型層に防汚成分を添加する方法も考えられるが、ハードコート層全面に転移させるのが難しく、耐指紋性能は十分に得られない。
【0012】
さらに、転写成型後にスプレーやディッピング等により耐指紋層をコーティングする方法もあるが、転写シート本来の一工程によるメリットが損なわれ、工程増加によるコストデメリットの方が大きい。
【0013】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、ハードコート性能を阻害せずに転写成型後の優れた耐指紋性、すなわち指紋拭き取り性を付与した転写成型物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のハードコート転写シートは、離型層と、ハードコート層と、前記離型層と前記ハードコート層との間に形成される、撥水性かつ親油性の耐指紋層とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の1つの実施形態では、前記ハードコート転写シートを支持体に転写成形後の成型物表面の水接触角が70°以上であり、かつ、スクアレン接触角が30°以下である。
【0016】
また、本発明の他の実施形態では、前記耐指紋層は、熱硬化又は電離放射線硬化、又はその複合により反応して得られる材料組成である。
【0017】
また、本発明は、上記の構成を備えるハードコート転写シートを用いて支持体に転写成型することを特徴とする転写成型物の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハードコート性能を阻害せずに転写成型後の優れた耐指紋性、すなわち指紋拭き取り性を付与した転写成型物を得ることができる。特に、ハードコート層との密着性に優れるとともに指紋拭き取り性に優れた転写成型物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態におけるハードコート転写シートの断面図である。
【図2】他の実施形態におけるハードコート転写シートの断面図である。
【図3】実施例1の外観写真図である。
【図4】比較例1の外観写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1に、本実施形態におけるハートコート転写シートの断面図を示す。ハードコート転写シート1は、基材10、離型層12、耐指紋層(あるいは指紋拭き取り層)14、ハードコート層16、アンカー層18及び接着層20を順次積層して構成される。以下、各層について説明する。
【0022】
<基材10>
基材10としては、耐熱性、機械的強度、耐溶剤性等があれば、用途に応じて種々の材料が適用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリメチルメタアクリレートなどのセルロース系フィルム、ポリイミドなどのイミド系樹脂などが挙げられる。好ましくは、耐熱性、機械的強度の点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂のフィルムで、ポリエチレンテレフタレートが最適である。基材10の厚さは、通常、15μm〜100μm程度が適用できるが、25〜50μmが転写性の点で好ましい。
【0023】
基材10は、これら樹脂を主成分とする共重合樹脂、または混合物(アロイを含む)、若しくは複数層からなる積層体であっても良い。また、基材10は、延伸フィルムでも、未延伸フィルムでも良いが、強度を向上させる目的で一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムが好ましい。基材10は、これら樹脂の少なくとも1層からなるフィルム、シート、ボード状として使用する。基材10は、塗布に先立って、塗布面にコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー(アンカーコート、接着促進剤、易接着剤とも呼ばれる)塗布処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理等の易接着処理を行っても良い。又、必要に応じて、充填剤、着色剤、可塑剤、帯電防止剤などの添加剤を加えても良い。
【0024】
<離型層12>
離型層12としては、通常、離型性樹脂、離型剤を含んだ樹脂、電離放射線で架橋する硬化性樹脂等があるが、本実施形態ではメラミン系樹脂を用いる。なお、これにマット剤を併用したものでも使用する事ができる。
【0025】
離型層12の形成は、該樹脂を溶剤に分散又は溶解して、ロールコート、グラビアコート等の公知のコーティングで塗布し乾燥して、温度140℃〜200℃程度で焼き付ける。離型層12の厚さは、通常は0.01μm〜5.0μm程度、好ましくは0.5μm〜3.0μm程度である。
【0026】
<耐指紋層(指紋拭き取り層)14>
耐指紋層14は、転写成形時の耐熱性や転写成形後の耐溶剤性、指紋拭き取り耐久性を得るため、イソシアネート化合物あるいは、光重合開始剤等の硬化剤を単体、又は併用する事により架橋しうる成分を主成分とする。
【0027】
なお、転写成形後の水接触角は70°以上、好ましくは80°以上、スクアレン接触角は30°以下、好ましくは20°以下になる事が望ましい。この範囲内であれば、特に樹脂系にはこだわらないが、具体的には、溶剤可溶性の水酸基価を有する含フッ素共重合樹脂や、これを含む電離放射線硬化樹脂等が例示できる。これらにイソシアネート化合物、又は光重合開始剤を添加する事により架橋する。必要に応じて10nm〜5μmのシリカを1〜50重量部混合してもよい。
【0028】
水酸基価を有する含フッ素共重合樹脂としては、具体的には、特開平6−271807号公報に開示されているフッ素化オレフィンと溶剤可溶とするためのアルキルビニルエーテルまたはアルキルビニルエステル、さらに水酸基を有する化合物および任意にその他の単量体からなる含フッ素共重合体、あるいは特開2009−249584号公報で開示されているラジカル重合性樹脂などが例示できる。これらは指触乾燥性があり、親油性である事が望ましく、これによりハードコート層のリコート性、及び密着性が得られる。
【0029】
水酸基価を有する含フッ素共重合樹脂の分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算の数平均分子量で1000以上かつ200000以下である事が望ましく、又、10〜200mgKOH/gの水酸基価を有する事が望ましい。イソシアネート化合物としては、公知のものを用いることができ、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添化トリレンジイソシアネート、水添化キシレンジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。又は、リコートされる電離放射線硬化性樹脂との密着性を考慮し、好ましくは、反応性二重結合を有するものが望ましい。なお、これらは、1種または2種以上を混合して使用する事ができる。
【0030】
光重合開始剤としては、公知のものを用いる事ができ、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルージフェニルーフォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン等が挙げられる。なお、これらは、1種または2種以上を混合して使用する事ができ、公知の硬化促進剤を併用しても構わない。
【0031】
イソシアネート化合物や光重合開始剤の他にも、公知の硬化剤を用いる事ができる。例えば、末端にチオール基を有する化合物、1級又は2級アミンを有する化合物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)の様なアゾ系開始剤や、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジシイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム等が挙げられる。なお、これらは、1種または2種以上を混合して使用する事ができ、公知の硬化促進剤を併用しても構わない。
【0032】
耐指紋層14の形成は、該樹脂を溶剤に分散又は溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなどの公知のコーティングで塗布し乾燥して、熱、又は電離放射線で半硬化、又は十分に架橋させる。耐指紋層14の厚さは、0.01μm〜2μm未満、好ましくは0.1μm〜1μm以下である。
【0033】
<ハードコート層16>
ハードコート層16は、電離放射線硬化性樹脂を主成分とする。該電離放射線硬化性樹脂として具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、反応性アクリルポリマー、反応性ポリウレタン等を用いることができる。これらは、1種または2種以上を混合して使用する事が出来る。なお、必要に応じて、アクリル系樹脂やポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、さらには光重合開始剤、界面活性剤、シリカ、ワックス、金属酸化物などが添加される。又、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含有する電離放射線硬化性樹脂は、具体的には、特開2001−329031号公報で開示されている光硬化性樹脂などが例示できる。
【0034】
ハードコート層16の形成方法は、上記混合物を溶剤に分散又は溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなどの公知のコーティングで塗布し乾燥して、熱、又は電離放射線で半硬化させるか、電離放射線で十分に硬化させる。半硬化の場合は、転写成型後に電離放射線により、十分に硬化させる。ハードコート層16の厚さは、1μm〜20μm程度、好ましくは3μm〜10μm程度である。
【0035】
<アンカー層18>
アンカー層18は、主成分がアクリルウレタン、ポリエステルウレタン、エポキシウレタンなどのウレタン系樹脂、特に二液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂などの硬化型ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、及びニトロセルロース系樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合しても良い。
【0036】
上記混合物を溶剤に分散又は溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなどの公知のコーティングで塗布し乾燥する。アンカー層18の厚さは、0.1μm〜5.0μm程度、好ましくは0.5μm〜3.0μm程度である。
【0037】
<接着層20>
接着層20は、加熱されると溶融又は軟化して接着効果を発揮する公知の感熱接着剤が適用でき、具体的には、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。又、必要に応じて、マイクロシリカ等を含む。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合しても良い。
【0038】
上記混合物を溶剤に分散又は溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなどの公知のコーティングで塗布し乾燥する。接着層20の厚さは、0.1μm〜5.0μm程度、好ましくは0.5μm〜3.0μm程度である。
【0039】
以上のようなハードコート転写シート1を用いて、図1に示す支持体22に熱転写、あるいはインモールド成型を行う。離型層12を剥離後、架橋した耐指紋層14が最表面の全面に露出される事により、安定した耐指紋性、すなわち指紋拭き取り性が得られる。なお、支持体22は、アクリル系樹脂(PMMA)、ポリスチレン系樹脂(PS)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体系樹脂(ABS)、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(変性PPE)、ポリカーボネート系樹脂(PC)、PC/ABS等の非結晶性樹脂が好適に用いられる。
【0040】
図2に、他の実施形態におけるハードコート転写シートの断面図を示す。図1と異なる点は、アンカー層18と接着層20との間に、他の層19を積層している点である。他の層19は、溶剤に分散又は溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなどの公知のコーティングで塗布し乾燥するか、乾燥後にエージング処理、又は電離放射線で反応させる。又は、真空蒸着法やスパッターリング法、イオンプレーティング法、鍍金法などにより処理された金属薄膜層も含む。
【0041】
以下、実施例および比較例について説明する。
【0042】
[実施例1]
溶剤可溶性フッ素樹脂、ZX−214−A(富士化成工業社製)を100重量部に対して、イソシアネート、EXF−CR3硬化剤(大日精化工業製)を当量部添加し、これをメチルエチルケトンにて総固形分が15重量%になる様に希釈調整し、耐指紋層成分を得た。
【0043】
上記調整物を、基材10としての厚み38μmのメラミン処理PETフィルムに乾燥膜厚が0.5μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥後、低湿な40℃の乾燥機で24時間エージングし、耐指紋層14を得た。以降、ハードコート層16、アンカー層18、接着層20の順に積層し、転写シート1を得た。
【0044】
ハードコート層16は、セイカビーム EXF−RT01(大日精化工業製)を乾燥膜厚が5μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥後、80W/cmの高圧水銀灯にて、積算光量35mJ/cmで半硬化した。
【0045】
アンカー層18は、EXF−CAMV(大日精化工業製)を100重量部にEXF−CR3硬化剤(大日精化工業製)を当量部添加し、乾燥膜厚が1.2μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥後、40℃の乾燥機で48時間エージングした。
【0046】
接着層20は、EXF−HS1メヂウム(大日精化工業製)を乾燥膜厚が1.5μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥した。
【0047】
上記転写シート1を、1mm厚の透明アクリル板(コモグラスP(透明)、クラレ社製)に熱ロールにて240℃で2パスする事により熱圧着し、メラミンPETを剥がしてから、80W/cmの高圧水銀灯にて、積算光量1200mJ/cmで硬化し、転写成型品を得た。
【0048】
[実施例2]
溶剤可溶性フッ素樹脂、ZX−214−A(富士化成工業社製)を100重量部に対して、イソシアネート、EXF−CR3硬化剤(大日精化工業製)を当量部、イルガキュア184(BASFジャパン製)を固形分換算で1部添加し、これをメチルエチルケトンにて総固形分が15重量%になる様に希釈調整し、耐指紋層14の成分を得た。なお、転写シートの作製、及び転写成形品の作製は実施例1と同様とした。
【0049】
[実施例3]
溶剤可溶性フッ素樹脂、フタージェント FTX−220S(ネオス社製)を100重量部に対して、イソシアネート、EXF−CR3硬化剤(大日精化工業製)を当量部添加し、これをメチルエチルケトンにて総固形分が15重量%になる様に希釈調整し、耐指紋層14の成分を得た。なお、転写シートの作製、及び転写成形品の作製は実施例1と同様とした。
【0050】
[実施例4]
実施例1の耐指紋層の成分樹脂をセイカビーム EXF−RT01に10重量部(固形分換算)となる様に添加し、さらにイソシアネート、EXF−CR3硬化剤(大日精化工業製)を当量部添加し、これをメチルエチルケトンにて総固形分が15重量%になる様に希釈調整し、耐指紋層14の成分を得た。なお、転写シートの作製、及び転写成形品の作製は実施例1と同様とした。
【0051】
[比較例1]
耐指紋層14を設けずに転写シートを作製し、実施例1と同様にして転写成型品を得た。
【0052】
[比較例2]
実施例1の耐指紋層14の成分樹脂をセイカビーム EXF−RT01に5重量部(固形分換算)となる様に添加し、ハードコート層16の成分を得た。なお、比較例1と同様、耐指紋層14を設けずに転写シートを作製し、実施例1と同様にして転写成型品を得た。
【0053】
[比較例3]
実施例1の耐指紋層14の成分樹脂をセイカビーム EXF−RT01に10重量部(固形分換算)となる様に添加し、ハードコート層16の成分を得た。なお、比較例1と同様、耐指紋層14を設けずに転写シートを作製し、実施例1と同様にして転写成型品を得た。
【0054】
[比較例4]
実施例1の耐指紋層14の成分樹脂をセイカビーム EXF−RT01に50重量部(固形分換算)となる様に添加し、ハードコート層16の成分を得た。なお、比較例1と同様、耐指紋層14を設けずに転写シートを作製し、実施例1と同様にして転写成型品を得た。
【0055】
[比較例5]
実施例1の耐指紋層14の乾燥膜厚を2.4μmとし、転写成型品を得た。
[比較例6]
【0056】
溶剤可溶性フッ素樹脂、ルミフロンLF−100(旭硝子社製)を100重量部に対して、イソシアネート、EXF−CR3硬化剤(大日精化工業製)を当量部添加し、これをメチルエチルケトンにて総固形分が15重量%になる様に希釈調整し、耐指層14の成分を得た。なお、転写シートの作製、及び転写成形品の作製は実施例1と同様とした。
【0057】
評価方法は以下の通りである。
【0058】
(1)外観の評価
転写成形品の外観について、平滑性、ユズ肌、白化等について不具合を目視で確認した。
【0059】
(2)耐指紋性、すなわち指紋拭き取り性の評価
転写成型品の表面に実際に指紋を付着させた後、ガーゼで5往復擦り、目視にて指紋がどれだけ拭き取れるかを評価した。評価基準は以下の通りとした。
○:指紋の跡が残らない。(完全に拭き取れる)
△:指紋の跡が若干残る。(さらに5往復擦って完全に拭き取れる)
×:指紋が伸びて全く拭き取れない。
【0060】
(3)接触角測定
転写成型品表面の室温25℃における水及びスクアレン接触角を測定した。
【0061】
(4)耐スチールウール性
転写成型品表面をスチールウール(ボンスター#0000)にて300g/cm2荷重で10往復した際の傷の付き具合を目視で評価した。評価基準は以下の通りとした。
○:傷無し。
△:標準より若干傷が多い。
×:明らかに傷が多い。
【0062】
(5)鉛筆硬度
転写成型品表面をJIS K5600に基づき、三菱uniの鉛筆を用いて、750g/cm荷重にて引っ掻き試験を行った。
【0063】
(6)密着性
転写成型品表面に24mm幅のセロハンテープ(ニチバン株式会社製)にて、碁盤目クロスカット法(100/100)により評価した。
【0064】
<評価結果>
評価結果を表1に示す。
【表1】

【0065】
表1に示すように、実施例の成型品は概ね指紋が拭き取りやすく、硬度物性も維持する事がわかる。なお、指紋拭き取り性としては、スクアレン接触角が20°以下である事がより望ましい結果だった。図3に実施例1の外観写真を示す。また、図4に、比較例1の外観写真を示す。図3では指紋がきれいに拭き取られている一方、図4では指紋が伸びてしまって拭き取れていない。
【0066】
比較例2〜4に示す様に、耐指紋層14の成分樹脂を混合する程、接触角は理想的数値であっても、相溶性が低下する事による外観の白化が目立ち、耐スチールウール性や密着性も低下した。
【0067】
比較例5に示す様に、耐指紋層14の膜厚が厚いと、密着性や硬度物性が低下した。これより、乾燥膜厚の上限としては2μm未満が望ましいといえる。膜厚の下限は、耐指紋層としての機能を発現する必要があることから0.01μm以上が好ましい。従って、膜厚の範囲を示すと、好適には0.01μ以上2μm未満である。
【0068】
比較例6に示す様に、撥油性の材料を耐指紋層14の成分として用いた場合、リコートによる密着性が全く得られなかった。
【0069】
以上の結果より、本実施形態における離形層12とハードコート層16の間に耐指紋層14を薄膜で積層する手法は、ハードコート層16に指紋拭き取り性成分を添加する手法よりも、指紋拭き取り性成分が転写面全面に配向しており、指紋拭き取り性能に優れると共に、スクアレン接触角が低く、薄膜塗工であれば、リコートの密着性を阻害しない事が明らかである。又、単層薄膜塗工であるため、外観も良好であり、硬度物性も維持できる。
【0070】
なお、耐指紋層14については、定性的には撥水性かつ親油性であることが好適である。指紋のほとんどは水分から構成されるところ、撥水性により指紋の拭き取りを容易化することができる。また、親油性により指紋を目立たなくするとともに、ハードコート層16との密着性を確保することができる。耐指紋性14の水接触角とスクアレン接触角については、水接触角は70°以上、好ましくは75°以上であり、スクアレン接触角は30°未満、好ましくは25°以下であればよい。以下に、耐指紋層14の水接触角とスクアレン角の実施例及び比較例を示す。
【0071】
[実施例5]
上記の実施例1と同様である。
【0072】
すなわち、溶剤可溶性フッ素樹脂、ZX−214−A(富士化成工業社製)を100重量部に対して、イソシアネート、EXF−CR3硬化剤(大日精化製)を当量部添加し、これをメチルエチルケトンにて総固形分が15重量%になる様に希釈調整し、耐指紋層成分を得た。
【0073】
上記調整物を、基材10としての厚み38μmのメラミンPETフィルムに乾燥膜厚が0.5μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥後、低湿な40℃の乾燥機で24時間エージングし、耐指紋層14を得た。以降、ハードコート層16、アンカー層18、接着層20の順に積層し、転写シート1を得た。
【0074】
ハードコート層16は、セイカビーム EXF−RT01(大日精化製)を乾燥膜厚が5μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥後、80W/cmの高圧水銀灯にて、積算光量35mJ/cm2で半硬化した。
【0075】
アンカー層18は、EXF−CAMV(大日精化製)を100重量部にEXF−CR3硬化剤(大日精化製)を当量部添加し、乾燥膜厚が1.2μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥後、40℃の乾燥機で48時間エージングした。
【0076】
接着層20は、EXF−HS1メヂウム(大日精化製)を乾燥膜厚が1.5μmとなる様にバーコート法で均一に塗布・乾燥した。
【0077】
上記転写シート1を、1mm厚の透明アクリル板(コモグラスP(透明)、クラレ社製)に熱ロールにて240℃で2パスする事により熱圧着し、メラミンPETを剥がしてから、80W/cmの高圧水銀灯にて、積算光量1200mJ/cm2で硬化し、転写成型品を得た。
【0078】
[実施例6]
実施例5において、耐指紋層14の成分にフタージェント730FM(ネオス社製)を固形分比で20%添加した。それ以外は実施例5と同様である。
【0079】
[実施例7]
実施例5において、耐指紋層14の成分にフタージェント750FM(ネオス社製)を固形分比で20%添加した。それ以外は実施例5と同様である。
【0080】
[比較例7]
実施例5において、耐指紋層14の成分にフタージェント215FM(ネオス社製)を固形分比で20%添加した。それ以外は実施例5と同様である。
【0081】
[比較例8]
実施例5において、耐指紋層14の成分にフタージェント245FM(ネオス社製)を固形分比で20%添加した。それ以外は実施例5と同様である。
[比較例9]
【0082】
実施例5において、耐指紋層14の成分にフタージェント710FM(ネオス社製)を固形分比で20%添加した。それ以外は実施例5と同様である。
【0083】
評価方法は以下の通りである。
【0084】
(7)外観の評価
外観1:メラミンPETに、上記調整試料を塗工した際の状態を目視で観察した。
外観2:耐指紋層14に、ハードコート層16を塗工した際の状態を目視で観察した。
【0085】
(8)指紋拭き取り性の評価
転写成型品の表面に実際に指紋を付着させた後、ガーゼで5往復擦り、目視にて指紋がどれだけ拭き取れるかを評価した。評価基準は以下の通りとした。
○:指紋の跡が残らない。(完全に拭き取れる)
△:指紋の跡が若干残る。(さらに5往復擦って完全に拭き取れる)
×:指紋が伸びて全く拭き取れない。
【0086】
(9)接触角測定
接触角A:指紋拭き取り層形成直後の室温25℃における水及びスクアレン接触角を測定した。
接触角B:転写成型品表面の室温25℃における水及びスクアレン接触角を測定した。
【0087】
(10)耐スチールウール性
転写成型品表面をスチールウール(ボンスター#0000)にて300g/cm荷重で10往復した際の傷の付き具合を目視で評価した。評価基準は以下の通りとした。
○:傷無し。
△:標準より若干傷が多い。
×:明らかに傷が多い。
【0088】
(11)鉛筆硬度
転写成型品表面をJIS K5600に基づき、三菱uniの鉛筆を用いて、750g/cm荷重にて引っ掻き試験を行った。
【0089】
(12)密着性
転写成型品表面に24mm幅のセロハンテープ(ニチバン株式会社製)にて、碁盤目クロスカット法(100/100)により評価。
【0090】
評価結果を表2に示す。
【表2】

【0091】
転写成形後の指紋拭き取り性が良好だったのは実施例5、実施例6、実施例7であった。なお、実施例6、7については耐スチールウール性が不良だったが、これは指紋拭き取り成分に混合した各材料の影響でエージングによる熱硬化性が低下した事が原因の一つと考えられる。
【0092】
比較例7及び比較例8は、水接触角が70°未満であり、指紋拭き取り性が得られなかった。
【0093】
比較例9は、スクアレン接触角が30°以上であり、密着性が不良であった。
【0094】
なお、水接触角やスクアレン接触角が転写前後で異なるのは、指紋拭き取り成分に混合した材料の配向性の違いによる影響が大きいと考える。
【0095】
以上の結果より、転写成形後の成型物表面の水接触角が70°以上、好ましくは75°以上であり、スクアレン接触角が30°未満、好ましくは25°以下とする事で、指紋拭き取り性は良好となる。
【符号の説明】
【0096】
10 基材、12 離型層、14 耐指紋層、16 ハードコート層、18 アンカー層、20 接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型層と、
ハードコート層と、
前記離型層と前記ハードコート層との間に形成される、撥水性かつ親油性の耐指紋層と、
を備えることを特徴とするハードコート転写シート。
【請求項2】
請求項1記載のハードコート転写シートにおいて、
前記ハードコート転写シートを支持体に転写成形後の成型物表面の水接触角が70°以上であり、かつ、スクアレン接触角が30°以下であることを特徴とするハードコート転写シート。
【請求項3】
請求項1記載のハードコート転写シートにおいて、
前記耐指紋層は、熱硬化又は電離放射線硬化、又はその複合により反応して得られる材料組成であることを特徴とするハードコート転写シート。
【請求項4】
請求項1記載のハードコート転写シートにおいて、
前記耐指紋層の厚さは、0.01μm以上2μm未満であることを特徴とするハードコート転写シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載されたハードコート転写シートを用いて支持体に転写成型することを特徴とする転写成型物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−135924(P2012−135924A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289195(P2010−289195)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】