説明

バイアルおよびその製造方法

【課題】 バイアル内側面からのアルカリ溶出が少ないバイアルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを成形するバイアル製造方法において、バイアルの底部を成形してカップ形状とする第1工程と、前記カップ形状の口部を成形する第2工程によりアルカリ溶出を低下させたバイアルを製造する。必要に応じて、バイアルの底部より所定長口部側の内側面を炎でファイアブラストして加工劣化域を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低アルカリ溶出のバイアルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを製造する自動成形機にはタテ式とヨコ式があるが、従来いずれの場合も、まずバイアル口部が成形され、次に底部が成形されている。成形されたバイアルの化学的品質は、日本薬局方記載の第2法(内面法)、あるいはこれに準じる方法によるアルカリ溶出の値で評価され、低アルカリ溶出のバイアルを得るために、高温度短時間の加工を避けて、低温度長時間の低温加工が行われている。
【0003】
しかし、低温加工されたバイアルにおいても、底部に近い内側面に加工劣化域がベルト状に生じ、これから溶出するアルカリ等が医薬品に影響を与える問題がある。この加工劣化は、ホウケイ酸ガラス管からバイアル底部を成形する過程において、ガラスより滲出または揮発したアルカリ含有物がバイアル内側面に多数の小滴となって凝縮固着する現象と考えられている。
【0004】
これらバイアル内側面に凝縮した多数の小滴からのアルカリ溶出を低下ないし防止するため、バイアル成形の最終段階で加工劣化域のアルカリを硫酸イオンと反応させ、硫酸ソーダ(Na2SO)として水洗除去する方法(S処理)、あるいはバイアル内面を化学気相反応法(CVD)によってシリカ(SiO2)薄膜で覆い、アルカリの溶出を防止する方法がある。しかし、S処理ではバイアル内面に生じた硫酸ソーダ白色付着物の洗浄コストがかかり、またアルカリ抽出後の内表面はクレーター状の荒れた凹凸を生じる。また、バイアル内表面をシリカ薄膜で被覆する方法には、処理コストが高くなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平06−45481
【特許文献2】特公平06−76233
【特許文献3】特許3268470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題の第一は、バイアル内側面に生成する加工劣化域であり、課題の第二は生成した加工劣化域の除去である。そして、低アルカリ溶出のバイアルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを成形する工程において、先ず底部を成形し次に口部を成形することによりバイアル内側面における加工劣化域の生成を最小化することを主要な特徴とし、また、底部加工後に生成した加工劣化域を酸素‐ガス炎によるファイアブラストで除去し、次に口部を成形することを最も主要な特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明は、ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを成形するバイアル製造方法であって、バイアルの底部を成形してカップ形状とする第1工程と、前記カップ形状の口部を成形する第2工程によりアルカリ溶出を低下させたバイアル製造方法である。また、ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを成形するバイアル製造方法であって、バイアルの底部を成形してカップ形状とする第1工程と、前記カップ形状の底部より所定長口部側の内側面を炎でファイアブラストして加工劣化域を除去する第2工程と、前記カップ形状の口部を成形する第3工程によりアルカリ溶出を低下させたバイアル製造方法である。さらに、ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを成形するバイアル製造方法であって、バイアルの口部を成形する第1工程と、バイアルの底部を成形する第2工程と、前記底部より所定長口部側の内側面を炎でファイアブラストして加工劣化域を除去する第3工程によりアルカリ溶出を低下させたバイアル製造方法である。
【0009】
さらに、ホウケイ酸ガラス管より成形するバイアルであって、バイアルの底部を成形してカップ形状とする第1工程と、前記カップ形状の口部を成形する第2工程によりアルカリ溶出を低下させたバイアルである。加えて、ホウケイ酸ガラス管より成形するバイアルであって、バイアルの底部を成形してカップ形状とする第1工程と、前記カップ形状の底部より所定長口部側の内側面を炎でファイアブラストして加工劣化域を除去する第2工程と、前記カップ形状の口部を成形する第3工程によりアルカリ溶出を低下させたバイアルである。加えて、ホウケイ酸ガラス管より成形するバイアルであって、バイアルの口部を成形する第1工程と、バイアルの底部を成形する第2工程と、前記底部より所定長口部側の内側面を炎でファイアブラストして加工劣化域を除去する第3工程によりアルカリ溶出を低下させたバイアルである。
さらに、前記炎がポイントバーナーによる酸素‐ガス炎である。加えて、前記ファイアブラストは、バイアルを回転させながら行う。
【発明の効果】
【0010】
ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを製造する従来の自動成形工程では、まずバイアルの口部が成形され、次に底部が成形されている。この底部成形の過程で、ガラスから滲出または揮発したアルカリ(Na2O)を含む多数の小滴がバイアル内側面に凝縮し、アルカリを溶出する加工劣化域が生じる。
【0011】
ところが、ホウケイ酸ガラス管より底部のみを成形したカップ状容器でアルカリ溶出を測定したところ、口部成形後に底部を付ける通常の方法で成型されたバイアルにおけるアルカリ溶出値の数分の一になることを見出した。さらにカップ状成形物の内側面をポイントバーナーにより酸素‐ガス炎でファイアブラストすると、加工劣化域が事実上完全に除去できることを見出した。本発明の方法によれば、加工劣化域が最小化されるか、または除去されたバイアルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のカップCの加工劣化域の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明のカップCの加工劣化域をファイアブラストした箇所の電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者等は、ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを成形する工程において、まず底部を成形したのち口部を成形することにより、アルカリ溶出量が従来の口部加工→底部加工によるバイアルのアルカリ溶出量の数分の一に低下することを見いだした。従来の口部→底部成形法では、底部成型時にガラスから滲出または揮発するアルカリ含有物が狭い口部のためにバイアル内に閉じ込められて加工劣化域を生じるが、底部加工→口部加工では底部加工時の開口部が広いために揮発物が容易に外部に放散されて加工劣化域の生成が抑制され、アルカリ溶出の低下が起こるものと考えられる。
【0014】
ホウケイ酸ガラス管をポイントバーナーによる酸素−ガス炎で強熱すると、初期の青い炎はガラスの温度上昇とともに黄色い炎へ変化するが、これはガラス中のナトリウム(Na)が炎中で起こす炎色反応のためである。発明者等はこの観察に基づき、鋭く強力な酸素‐ガス炎のファイアブラストによりバイアル内側面に生じた加工劣化域が除去できることを見出した。ファイアブラストは、炎中の分子やイオンの粒子を用いたショットブラストであると考えられる。
【0015】
ファイアブラストにより加工劣化域の除去を行うには、ポイントバーナーより噴射される酸素‐ガス炎がガラス管内面に衝突したのち抵抗少なく排出される必要があり、バイアル成形工程においてまず底部を成形してカップ形状にし、次に口部を成形する工程が必要になる。 なお、本成形法の効果を評価するアルカリ溶出は、日本薬局方記載の第2法(内面法)により、硫酸(0.01mol/L)の消費量(mL)で求めた。
【実施例1】
【0016】
外径30mm、肉厚1.5mmのホウケイ酸ガラス管から従来法(口部加工→底部加工)で成形した高さ60mm、口内径12.5mmのバイアル(バイアルP)が示すアルカリ溶出は、0.74mLであった。同ガラス管からタテ型自動成形機で底部を加工したカップ容器(カップA)のアルカリ溶出は、0.10mLであった。このカップAを用いてヨコ型加工機により口部を成形した本発明の成形法(底部→口部)によるバイアル(バイアルQ)もアルカリ溶出は0.10mLであり、口部加工によるアルカリ溶出の変化は認められなかった。これは口部成形の加工温度が底部成形の加工温度よりも低く、アルカリ含有揮発物の発生が小さいためと考えられる。
【0017】
【表1】

【実施例2】
【0018】
一端にシリコンゴム栓をした長さ200mmのホウケイ酸ガラス管を垂直に保って蒸留水で満たし、バイアルと同様に、121℃60分のオートクレーブ処理を行い、100cc当たりのアルカリ溶出を求めると0.03mLであった。これは加工劣化の影響を全く受けていないバイアルのアルカリ溶出値と考えることができる。
【0019】
実施例1のカップAを保持して回転させながら底部より約10mm上の内側面に、斜め方向から長さ約10cmの酸素‐ガス炎を当ててファイアブラストを行った試料(カップB)のアルカリ溶出は0.03mLであった。これは、ファイアブラストによって加工劣化域が除去され、ホウケイ酸ガラス本来の表面が得られたためと考えられる。ファイアブラストには、タウンガス(メタン)0.75L/minおよび酸素2.20L/minの混合ガス炎(長さ約10cm)を吹き出す口内径1.0mmのポイントバーナーを用いた。次にカップBを用いてヨコ型加工機により口部を成形したバイアル(バイアルR)もアルカリ溶出は0.03mLであった。実施例1で述べたように、口部の加工温度は底部の加工温度に比べて低く、アルカリを含む揮発物を生じ難いためと考えられる。
【0020】
【表2】

【実施例3】
【0021】
外径40.5mm、肉厚1.5mmのホウケイ酸ガラス管から従来法(口成形→底成形)で成形した高さ78.5mm、口内径22.0mmのバイアルのアルカリ溶出は、0.57mLであった。タテ型自動成形機により底成形したカップCのアルカリ溶出は0.21mLであった。次にカップCの内側面をファイアブラストしたカップDのアルカリ溶出は0.03mLとなった。カップDを用いてヨコ加工機で口部を成形したバイアルのアルカリ溶出は0.03mLとなった。
【0022】
【表3】

【0023】
カップCの加工劣化域を電子顕微鏡で観察すると、アルカリ含有揮発物によるクレーター状パターンが見える(図1の写真)。一方、カップCの加工劣化域をファイアブラストしたカップDの加工劣化域に対応する箇所の電子顕微鏡観察(図2の写真)では、クレーター状パターンが見られない。このことは、ファイアブラストによって加工劣化域が除去されたことを示している。
【実施例4】
【0024】
外径40.5mm、肉厚1.5mmのホウケイ酸ガラス管から従来法(口成形→底成形)で成形した高さ78.5mm、口内径22.0mmのバイアルのアルカリ溶出は、0.57mLであった。 ガスと酸素の混合ガス炎(長さ約100mm)を吹き出すポイントバーナーを用い、バイアルを回転させながら底部より約10mm上の加工劣化域にファイアブラストを行った。40秒間ファイアブラストを行ったバイアルTのアルカリ溶出は0.30mLに減少し、60秒間ファイアブラストを行ったバイアルUのアルカリ溶出は0.13mLに減少した。これらのファイアブラスト後のバイアルに形状寸法の変化はなかった。 なお、アルカリ溶出減少に効果のあるファイアブラスト時間(秒)は、バイアルを余熱することによって短縮できる。 これらの結果より、従来法で成形したバイアルの加工劣化域もファイアブラストによって実質的に除去できることが確認された。
【0025】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウケイ酸ガラス管より成形するバイアルであって、ファイアブラストによってバイアルの底部より所定長口部側の内側面にクレーター状パターンを有さないことを特徴とするバイアル。
【請求項2】
現請求項2と実質的に同じ。但し、アルカリ溶出を低下を削除し、従属項とする。
バイアルの口部を成形する第1工程と、
バイアルの底部を成形する第2工程と、
前記底部より所定長口部側の内側面を炎でファイアブラストして加工劣化域を除去する第3工程により
製造される請求項1に記載のバイアル。
【請求項3】
ホウケイ酸ガラス管よりバイアルを製造する方法であって、
バイアルの底部を成形する工程と、
その後、前記底部より所定長にわたり内側面を炎でファイアブラストして加工劣化領域を除去する工程を含むことを特徴とするバイアルの製造方法。
【請求項4】
バイアルの底部を成形する工程の後、前記底部より所定長口部側の内側面を炎でファイアブラストして加工劣化領域を除去する工程の前に、
バイアルの口部を成形する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載のバイアルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−99594(P2013−99594A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19681(P2013−19681)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2007−516283(P2007−516283)の分割
【原出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】