説明

バイアルの遮光包装体及び同包装体を備えたバイアル製剤

【課題】 バイアル製剤中の主薬成分又は添加物等の内容物が光に対して不安定な場合には、バイアル内部に光が入らないように遮光する必要がある。遮光のための手段としては、バイアルの胴の部分を遮光性のフィルムで覆う方法、褐色等に着色されたバイアルを用いる方法等があるが、遮光効果、操作性で十分ではなかった。
【解決手段】 本願発明の目的は、遮光性に優れており、かつ使用時に内容物の溶解を確認しやすい、バイアル製剤の遮光包装を提供することにある。上記の課題は、包装体底面の観察開口部、及び試料調整時に遮光包装体の上部を取り除くことによって形成される採光部、を有する遮光包装体によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光に対して不安定な内容物を収容したバイアル製剤の全面を遮光し、かつ使用時において内容物の溶解を確認しやすい構造の遮光包装及び同遮光包装を備えたバイアル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バイアル製剤とは図1に示すような、主薬を含む固体状態の内容物(主に粉体)51を、バイアル50の内部に含有する製剤であり、バイアル本体52及びバイアル蓋53とからなる。バイアル製剤は、通常は以下の作業に従って内容物を溶解させた溶解液を調整して用いられる。
1.まず注射用溶媒(生理食塩水又は注射用滅菌水)54を充填した注射器55の針を、バイアル蓋53の中央部に刺し、注射器のプランジャー56を押し込むことによって注射用溶媒54をバイアル本体52の内部に移す。
2.注射器の針を引き抜いた後、バイアル本体52を軽く震盪させて溶媒に内容物51を溶解させる。
3.再び注射器の針をバイアル蓋に刺し、注射器の針先を溶解液中に浸した状態で注射器のプランジャー56を引いて溶解液を注射器55に吸い取る。
4.注射器の針をバイアルから抜き取り、注射器により溶解液を患者へ投与する。
【0003】
バイアルに入れる主薬成分又は添加物等の内容物が光に対して不安定な場合には、バイアル内部に光が入らないように遮光する必要がある。遮光のための手段としては、バイアルの胴の部分を遮光性のフィルムで覆う方法や、褐色等に着色されたバイアルを用いる方法、及びこれらを組み合わせた方法等がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイアルの胴の部分を遮光性のフィルムで覆った場合には、バイアルの肩から首にかけての部分が露出しており、該露出部分から光が浸入するため、光に対する安定性の非常に悪い内容物の場合には、遮光効果が十分であるとは言えず、浸入した光による内容物の分解等が起こってしまっていた。
着色されたバイアルを用いる場合には、遮光フィルムに比べて遮光効果が十分ではなく、また、バイアルの外側から内部が見えにくいため、内容物が溶解したかどうかを確認しずらく、更に溶解した注射液を吸い取る際に注射液の全量を正確に吸い取り難いという問題があった。
また、着色されたバイアルの胴部を遮光フィルムで覆った場合には、バイアル自体の着色及び遮光性フィルムによる遮光効果のため、内容物の光安定性の観点からは遜色のないバイアルを得ることができるものの、バイアル自体の着色及び遮光性フィルムのために、バイアルの内部を観察することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するべく、本願の発明者は鋭意研究を重ねた結果、本願発明を完成させたものである。本願発明の目的は、遮光性に優れており、かつ使用時に内容物の溶解を確認しやすい遮光包装、及び前記遮光包装を施したバイアル製剤を提供することにある。上述した従来のバイアル製剤の課題は、バイアル製剤の底面の観察開口部、及び調整時に遮光包装体の上部を取り除くことによって形成される採光部を有する遮光包装体によって解決される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の遮光包装体によると、遮光包装体を備えたバイアル製剤は、保存時においては、前記遮光包装体によってバイアルの全体が遮光されるので、外部の光によって内容物が分解等を起こさない。また、注射液の調整時においては、アンプル製剤の上部には採光部が、下部には観察開口部があるので、外部から若干の光を入れつつ、内容物の溶解及び注射器による吸い取りの様子を観察することができる。よって、本発明の遮光包装体は、保存時における遮光性と調整時における操作性の良さとを兼ね備えた遮光包装体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本願発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0008】
本願発明のバイアル製剤1は、例えば図2に示す構造を有しており、主薬成分を含んだ内容物2を含有するバイアル本体3、バイアル本体3の上部の開口を塞ぐバイアル蓋4及びバイアル本体3の外側を覆う遮光包装体5とからなる。図2においては、遮光包装体5の上端がバイアル本体の首部6に位置する例を示しているが、遮光包装体5の上端は、図3に示すように首部6よりも上の位置、例えばバイアル蓋4の横やバイアル蓋4の上端の位置にあってもよい。
【0009】
本願発明において用いることのできる内容物とは、光に対して不安定な化合物(光が当たることによって分解、転位、重合、異性化等の反応を起こして初期の化合物とは異なる構造になる化合物)を含むものをいい、光に対して不安定な化合物であれば特に限定されることはないが、例えば、メコバラミン(メチルコバラミン)等のビタミンB12、ビタミンE、ビタミンB、メナテトレノン等を挙げることができる。
【0010】
本願発明のバイアル製剤は、内容物を溶解させた後に用いられる製剤であり、例えば注射用の凍結乾燥製剤等の粉末製剤等が挙げられる。また、バイアルは、その大きさに関係なく、例えば1.5ml〜100ml程度の容量のものであれば、特に限定されることなく用いることができる。バイアルの素材としては、ガラス製のものがよく用いられるが、これに限定されることなく、他の素材、例えば透明な樹脂等であってもよい。図3に示すバイアル本体3は、円形のバイアル底面から円筒状に立ち上げて側壁が形成されている。側壁の上部は徐々に径が小さくなるように肩部8が形成されている。肩部8の上端には略垂直に立ち上げて首部6が形成されおり、首部6の上端は開放されており、開口部を形成する。内容物2を含んだ状態で図示しない開口がバイアル蓋4によって塞がれている。バイアル蓋4の内側には、図示しないパッキングを備えており、パッキングが開口部の内壁と密着してバイアル本体3の内部は密閉されている。
【0011】
図3は、本願発明のバイアル製剤の使用前(保存時)における状態を表わした図であり、遮光包装体5はバイアル本体3の略全面を覆って内容物を保護している。図3(B)に示すように包装体底面7の中央部には、外側から内部を観察するための観察開口部9が形成されている。観察開口部9の形状は、外部から内容物の溶解を確認することが可能である限り、その形状は特に限定されることはなく、円形の他、楕円形、四角形、六角形等であってもよい。観察開口部9の大きさは、外部から内容物2の溶解を確認することができる程度の大きさであれば特に限定されず、観察開口部が円形の場合には、直径約5mm以上あれば十分である。また、観察開口部9としては、包装体底面7のうちの一部分に遮光包装体5が存在しない部分を設けて形成しても良いし、また、包装体底面7のうちの一部分のみを透明にしてこれを観察開口部9としてもよい。また、観察開口部9は、注射液の調整時に存在していればよく、必ずしも通常の保存時において存在する必要はない。例えば注射液の調整時に包装体底面7の一部を剥がしたり、切り抜いたりして観察開口部9を形成するようにしてもよい。もっとも、通常は、バイアルの底面は床に面しているためここから光が入り内容物が分解することはあまりないため、包装体底面7全体を観察開口部9としても差し支えはない。
【0012】
遮光包装体5は、バイアル本体3のバイアル底面から少なくとも肩部8までを覆う遮光本体部18と、遮光本体部18の上部の遮光上部17とからなる。使用時(注射液調整時)には、遮光上部17を取り除いて採光部11を形成して用いられる。採光部11を形成する方法としては、遮光上部17を剥がしたり、切り取ったりする方法が挙げられ、特に限定されることはない。その一例として、遮光上部17を切り取る形態のものについて図4を用いて説明する。この形態においては、図4(A)に示すように、遮光包装体5には、バイアルの肩部8よりも上の部分でバイアル本体3を水平方向に1周するように横切り出し線12が形成されている。また、前記横切り出し線12から遮光包装体5の上端に渡って2本の縦切り出し線13が形成されており、2本の縦切り出し線13の間には縦切り取り部14を形成している。縦切り取り部14の上端には摘み部15が形成されている。図4(A)に示す摘み部15は、遮光包装体5から上方に突出した形状を有しているが、縦切り取り部14を切り取るために指で摘める形状である限り、遮光包装体5から上方に突出させる必要はなく、その形状も特に限定されることはない。遮光上部17を切り取る手順としては、まず摘み部15を摘んで下方へ引っ張ることによって縦切り取り部14を切り取る(図4(A)〜(B))。次に横切り出し線12に沿って、遮光包装体5の上部を切り取ることによって、遮光本体部18の上方に採光部11が形成される(図4(B)〜(C))。横切り出し線12が肩部8よりも下方に位置すると、遮光包装体5がバイアル本体3から抜け易くなり、また、採光部11が大きくなってしまうために遮光効果も落ちてしまうため、横切り出し線12は肩部8よりも上方にあるのが好ましい。図4では、縦切り出し線を2本有する遮光包装体を示しているが、縦切り出し線は1本だけ存在していても、または3本以上存在していても構わない。
【0013】
本願発明において用いることのできる遮光包装体5の素材としては、例えば樹脂フィルム、紙、金属箔、塗装等及びそれらを組み合わせたものを用いることができるが、加工性等を考慮すると、樹脂フィルムを用いるのがよい。樹脂フィルムの具体例としては、PET(ポリエチレンテレフタラート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル等のシュリンク包装可能な包材を挙げることができる。これらのうち好ましい樹脂フィルムとしてはPETである。樹脂フィルムを用いる場合には、遮光成分を練り込んで加工した樹脂や、合成樹脂に顔料等の遮光成分を印刷したもの(ベタ印刷)、またはこれらの樹脂フィルムを互いに張り合わせたものを用いるのがよい。遮光包装体5としては、全体を一体として形成している必要はなく、2つ以上の部分から構成してもよい。この場合において、それぞれの部分は異なる素材を用いてもよい。例えば遮光本体部18を樹脂フィルムで構成して、遮光上部17を遮光紙製のシールとして、使用の際に遮光紙製のシールの部分を剥がして採光部11を出現させて用いるような構成であってもよい。
【0014】
(注射液の調整)
注射液を調整する際には、採光部11(及び場合によっては観察開口部9)を形成させた後、生理食塩水又は注射用滅菌水等の注射用溶媒を充填した注射器の針をバイアル蓋に刺して、バイアル内部に注射用溶媒を注入する。バイアル蓋から注射器の針を抜き取った後、内容物を注射用溶媒に溶解させる。必要に応じてバイアルを震盪させながら、採光部11から光を入れて観察開口部9からバイアル内部を観察したり(図5(A))、バイアルを逆向きにして観察開口部9から光を入れて採光部11からバイアル内部を観察したりして(同(B))、内容物の溶解を確認する。内容物が完全に溶解したことを確認した後に、前述の注射器を用いて調整された溶液(注射液)を吸い取る。注射液20を吸い取る際には、図6に示すようにアンプル蓋に注射器を刺した状態で上下逆向きにして、採光部11の側方からアンプル蓋4のパッキング21に形成された切れ目22を覗き込みながら吸い取ることにより、注射液20の吸い残しを防止することができる。
【0015】
次に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
熱収縮性を有するPET製の遮光フィルム(厚み:60μm、4色ベタ印刷)を用いて、図7に示すような底面よりも大きな開口を有する植木鉢状に形成したシュリンク30を製造した。このシュリンクの底面は、バイアル本体の底面よりも若干大き目の大きさであり、シュリンクの底面には、観察開口部9が形成されている。また、シュリンク30には、図示していないが、あらかじめ縦切り出し線、横切り出し線及び摘み部が形成されている。
1.シュリンクの開口から、内容物(メコバラミンの凍乾剤)を密閉したバイアルを嵌め込む。
2.バイアル製剤を嵌め込んだ状態でシュリンクの底面に数秒間熱をかけることによって、シュリンクを収縮させてバイアル製剤の底面に密着させる。
3.次に、2.で得られたバイアル製剤を、寝かせた状態で回転ベルトコンベアー上で回転させながらトンネルシュリンク(トンネル内温度160℃)へ導入して全体に熱をかける。
4.トンネルシュリンク中でかけられた熱によって、シュリンクは収縮してバイアル製剤に密着する。
上記の操作によって、PET製の遮光フィルムにより全面を包まれたバイアル製剤を得た。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】通常のアンプルの使用状態を表わす説明図である。
【図2】本願発明のアンプル製剤を表わす説明図である。
【図3】本願発明のアンプル製剤の斜視図であり、(A)は上方から見た斜視図、(B)は下方から見た斜視図である。
【図4】本願発明の遮光包装体の採光部の出し方を表わす説明図である。
【図5】本願発明のアンプル製剤の注射液を調整する状態を表わす説明図である。
【図6】本願発明のアンプル製剤の注射液を注射器で吸い取る状態を示す側面図である。
【図7】本願発明の遮光包装体の製造過程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0017】
5 遮光包装体
9 観察開口部
11 採光部
12 横切り出し線
13 縦切り出し線
14 縦切り取り部
15 摘み部
17 遮光上部
18 遮光本体部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面の周縁に筒状に立ち上げて形成された側壁、側壁の上部に形成された肩部、肩部の上部に略垂直に立ち上げて形成された首部および首部の上部に配設されたバイアル蓋とを備えるバイアルの遮光包装体であって、
外部からの光の浸入を遮蔽するように、バイアルの底面から少なくとも前記肩部まで延在する遮光本体部であって、その底面の一部に、バイアルの下部よりバイアルの内部を観察できる観察開口部を有する遮光本体部と、
前記遮光本体部の上部にあって、バイアル蓋、首部とを覆い、遮光本体部の上端において、横切り出し線を介して接続される遮光上部、
とを備える遮光包装体。
【請求項2】
前記横切り出し線と略直交し、横切り出し線より上部から遮光包装体の上端まで延在する縦切り出し線をさらに備える、請求項1に記載の遮光包装体。
【請求項3】
少なくとも2本の縦切り出し線を有しており、いずれか2本の縦切り出し線の間に立て切り取り部を形成した、請求項2に記載の遮光包装体。
【請求項4】
前記縦切り取り部の上端に摘み部を有する請求項3に記載の遮光包装体。
【請求項5】
底面の周縁に筒状に立ち上げて形成された側壁、側壁の上部に形成された肩部、肩部の上部に略垂直に立ち上げて形成された首部および首部の上部に配設されたバイアル蓋とを備えるバイアルの遮光包装体であって、
外部からの光の浸入を遮蔽するように、前記バイアルの底面から少なくとも前記肩部まで延在する遮光本体部であって、前記本体部の底面の一部に、前記バイアルの下部より前記バイアルの内部を観察できる観察開口部を有する遮光本体部と、
前記バイアル蓋、前記首部とを覆い、前記遮光本体部と接するまたは重なり合い、前記遮光本体部から取り外し可能である遮光上部と、
を備える遮光包装体。
【請求項6】
前記遮光本体部と前記遮光上部とは、切り出し線を介して接続されている、請求項5に記載の遮光包装体。
【請求項7】
前記バイアルの内部の薬剤と、
前記バイアルを包装する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の遮光包装体と、
を備えるバイアル製剤
















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−131291(P2006−131291A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325094(P2004−325094)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】