説明

バイト切削装置

【課題】 被加工物毎に厚みばらつきが大きくても切削の都度切削プログラムを作成する必要がないバイト切削装置を提供することである。
【解決手段】 チャックテーブルの保持面の高さ位置とチャックテーブルで保持された被加工物の上面の高さ位置とを測定する高さ位置測定手段と、切削送り手段と切り込み手段とを制御する制御手段とを備えたバイト切削装置であって、制御手段は、高さ位置測定手段で測定した被加工物の上面の高さ位置とチャックテーブルの保持面の高さ位置とから被加工物の最大厚みを算出する被加工物最大厚み算出部と、被加工物の最大厚みと仕上げ厚みとから被加工物の除去厚みを算出する除去厚み算出部と、最大切り込み量と被加工物の除去厚みとから切削回数を算出する切削回数算出部と、切削回数算出部で算出された切削回数に基づいて、切削送り手段と切り込み手段とを作動させる切削制御手段とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削して所定厚みへと加工するバイト切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの軽薄短小化を実現するための技術には様々なものがある。一例として、半導体ウエーハに形成されたデバイス表面に10〜100μm程度の高さのバンプと呼ばれる金属突起物を複数形成し、これらのバンプを配線基板に形成された電極に相対させて直接接合するフリップチップボンディングと呼ばれる実装技術が実用化されている。
【0003】
半導体ウエーハのデバイス表面に形成されるバンプは、メッキやスタッドバンプといった方法により形成される。このため個々のバンプの高さは不均一であり、そのままでは複数のバンプを配線基板の電極に全て一様に接合するのは困難である。半導体ウエーハのデバイス表面に形成されたバンプは一般的に樹脂封止される。
【0004】
また、高密度配線を実現するために、バンプと配線基板との間に異方性導電性フィルム(ACF)を挟んで接合する集積回路実装技術がある。この実装技術の場合には、バンプの高さが不足すると接合不良を招くため、一定以上のバンプ高さが必要となる。
【0005】
そこで、半導体ウエーハの表面に形成された複数のバンプを所望の高さへ揃えることが望まれている。バンプを所望の高さへ揃える方法として、特開2009−172723号公報に記載されたようなバイト切削装置を使用して、所定高さに位置付けられたバイト工具を回転させつつ被加工物とバイト工具とを水平方向に相対移動させて被加工物をバイト工具で切削する方法が実施されている。
【0006】
被加工物にバイト工具を深く切り込ませた状態で切削を遂行すると、加工負荷が高くなり被加工物の被切削面の品質が悪化するため、被加工物の材質や要求される切削面粗さに応じて、一度の切削でバイト工具を被加工物に切り込ませる切り込み量を適宜設定している。
【0007】
バイト切削においては、被加工物の除去すべき厚みが一度の切削でバイト工具を被加工物に切り込ませる切り込み量より厚い場合には、切削を複数回繰り返すことで被加工物を所定厚みへと切削加工するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−172723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、被加工物毎に厚みばらつきが大きい場合、被加工物を所定厚みへと切削するために要する切削回数が被加工物毎に変わり、従来のバイト切削装置では切削の都度切削プログラムを作成して装置に入力しなくてはならず、非常に手間が掛かるという問題があった。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被加工物毎に厚みばらつきが大きくても切削の都度切削プログラムを作成する必要がないバイト切削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、バイト切削装置であって、被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルと、該チャックテーブルで保持された被加工物の上面を切削するバイト工具を回転可能に支持するバイト手段と、該チャックテーブルの保持面に対して水平方向に該チャックテーブルと該バイト手段とを相対移動させる切削送り手段と、該チャックテーブルの該保持面に対して鉛直方向に該チャックテーブルと該バイト手段とを相対移動させる切り込み手段と、少なくとも該切削送り手段と該切り込み手段とを制御する制御手段と、該チャックテーブルの該保持面の高さ位置と該チャックテーブルで保持された被加工物の上面の高さ位置とを測定する高さ位置測定手段と、を具備し、該制御手段は、該バイト工具が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量を記憶する最大切り込み量記憶部と、被加工物の仕上げ厚みを記憶する仕上げ厚み記憶部と、該高さ位置測定手段で測定した被加工物の上面の高さ位置と該チャックテーブルの該保持面の高さ位置とから被加工物の最大厚みを算出する被加工物最大厚み算出部と、該被加工物最大厚み算出部で算出された被加工物の最大厚みと該仕上げ厚み記憶部で記憶された仕上げ厚みとから、被加工物の除去厚みを算出する除去厚み算出部と、該最大切り込み量記憶部で記憶された最大切り込み量と該除去厚み算出部で算出された被加工物の除去厚みとから、該除去厚みを除去するのに必要な切削回数を算出する切削回数算出部と、該切削回数算出部で算出された該切削回数に基づいて、該切削送り手段と該切り込み手段とを作動させる切削制御手段と、を含むことを特徴とするバイト切削装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の切削装置によると、算出した除去厚みと一度の切削でバイト工具を被加工物に切り込ませられる最大切り込み量とから必要切削回数を算出し、切削制御手段で切削送り手段と切り込み手段とを作動させるため、被加工物毎に厚みばらつきが大きくても切削の都度切削プログラムを作成する必要がなく、作業時間の短縮化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明実施形態に係るバイト切削装置の全体斜視図である。
【図2】切削送りユニットの斜視図である。
【図3】コントローラのブロック図である。
【図4】本発明の切削装置によるチャックテーブルの保持面高さ位置と被加工物の高さ位置とを測定する様子を示す側面図である。
【図5】制御手段の作用を説明する側面図である。
【図6】本発明の切削装置で切削するのに適した他の被加工物の断面図である。
【図7】本発明の切削装置で被加工物の切削加工工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明実施形態に係るバイト切削装置2の斜視図が示されている。4はバイト切削装置2のベースであり、ベース4の後方にはコラム6が立設されている。コラム6には、上下方向に伸びる一対のガイドレール(一本のみ図示)8が固定されている。
【0015】
この一対のガイドレール8に沿ってバイト切削ユニット10が上下方向に移動可能に装着されている。バイト切削ユニット10は、そのハウジング20が一対のガイドレール8に沿って上下方向に移動する移動基台12に取り付けられている。
【0016】
バイト切削ユニット10は、ハウジング20と、ハウジング20中に回転可能に収容されたスピンドル22(図7参照)と、スピンドル22の先端に固定されたマウント24と、マウント24に着脱可能に装着されたバイトホイール25とを含んでいる。バイトホイール25にはバイト工具26が着脱可能に取り付けられている。
【0017】
バイト切削ユニット10は、バイト切削ユニット10を一対の案内レール8に沿って上下方向に移動するボールねじ14とパルスモータ16とから構成されるバイト切削ユニット送り機構(切り込み手段)18を備えている。パルスモータ16をパルス駆動すると、ボールねじ14が回転し、移動基台12が上下方向に移動される。
【0018】
ベース4の中間部分にはチャックテーブル機構28が配設されている。チャックテーブル機構28は、図2に示すように、支持基台30と、支持基台30に回転自在に配設されたチャックテーブル32を含んでいる。チャックテーブル機構28は更に、ウォーターカバー34を備えている。
【0019】
チャックテーブル32は、切削送り機構(切削送り手段)36により図1でY軸方向に往復移動される。切削送り機構36は、ボールねじ38と、ボールねじ38のねじ軸40の一端に連結されたパルスモータ42とから構成される。
【0020】
パルスモータ42をパルス駆動すると、ボールねじ38のねじ軸40が回転し、このねじ軸40に螺合した図示しないナットを有する支持基台30が、一対のガイドレール44にガイドされて切削装置2のY軸方向(前後方向)に移動する。
【0021】
よって、チャックテーブル32もパルスモータ42の回転方向に応じて、前後方向に移動する。図1に示されているように、図2に示した一対のガイドレール44及び切削送り機構36は蛇腹33により覆われている。
【0022】
図1を再び参照すると、ベース4を横断するようにベース4の上面に門型の取り付け部材46が固定されている。この取り付け部材46には、チャックテーブル32の保持面の高さを測定する保持面高さ測定器48と、被加工物の高さを測定する被加工物高さ測定器50が搭載されている。保持面高さ測定器48と被加工物高さ測定器50はX軸方向に移動可能に支持部材46に取り付けられている。
【0023】
保持面高さ測定器48の触針の先端は点形状に形成されており、これによりチャックテーブル32の保持面32a上にごみがあっても噛みこんで計測することがない。一方、被加工物高さ測定器50の触針の先端は平面形状に形成されており、これにより被加工物11に高さばらつきがあっても最高点を検出できる。
【0024】
保持面高さ測定器48と被加工物高さ測定器50とで高さ位置測定手段を構成する。本実施形態では、高さ位置測定手段として二つの高さ測定器48,50を使用しているが、一つの高さ測定器でチャックテーブル32の保持面32aの高さと被加工物11の高さを測定するようにしてもよい。高さ測定器として非接触式測定器を採用してもよい。
【0025】
ベース4の前側部分には、第1のウエーハカセット52と、第2のウエーハカセット54と、ウエーハ搬送ロボット56と、複数の位置決めピン60を有する位置決め機構58と、ウエーハ搬入機構(ローディングアーム)62と、ウエーハ搬出機構(アンローディングアーム)64と、スピンナ洗浄ユニット66が配設されている。
【0026】
次に図3乃至図5を参照して、本発明の切削装置の制御装置機構について説明する。図3を参照すると、本発明の切削装置2の機能を実現するためのコントローラ(制御手段)70のブロック図が示されている。
【0027】
コントローラ70は、バイト工具26が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量を記憶する最大切り込み量記憶部72と、被加工物の仕上げ厚みを記憶する仕上げ厚み記憶部74を有している。
【0028】
最大切り込み量記憶部72に記憶する最大切り込み量及び仕上げ厚み記憶部74に記憶する仕上げ厚みは、図示しないオペレーションパネルからバイト切削装置2のオペレータが入力する。
【0029】
図4を参照して、チャックテーブル32に保持された被加工物11の高さを測定する高さ測定方法について説明する。チャックテーブル32の保持面32a上には被加工物11が吸引保持されている。
【0030】
この被加工物11は、セラミックス基板13上に搭載された複数のLEDチップ15を有しており、各LEDチップ15は透明樹脂17で封止されている。LEDチップ15を封止する透明樹脂17の高さは一様ではなく一般的には不揃いである。
【0031】
本実施形態のバイト切削装置2では、保持面高さ測定器48でチャックテーブル32の保持面32aの高さを測定し、被加工物高さ測定器50をX軸方向に移動させながら被加工物11の上面の高さを測定する。
【0032】
そして、図3に示したブロック図の被加工物最大厚み算出部76で被加工物11の最大高さから保持面32の高さを減じた値を算出し、これを被加工物11の最大厚みt1として記憶する。
【0033】
被加工物最大厚み算出部76で算出された被加工物11の最大厚みt1と、仕上げ厚み記憶部74で記憶された仕上げ厚みt2(図5参照)から、除去厚み算出部78で被加工物11の除去厚みt3を算出する。
【0034】
次いで、最大切り込み量記憶部72で記憶された最大切り込み量hと除去厚み算出部78で算出された被加工物の除去厚みt3とから、切削回数算出部80で除去厚みt3を最大切り込み量hで除することにより、除去厚みt3を除去するのに必要な切削回数Nを算出する。
【0035】
そして、切削制御部82では、切削回数算出部80で算出された切削回数Nに基づいて、切削送り手段36と切り込み手段18とを作動させて、最大切り込み量で切削回数N回だけ被加工物11の切削を遂行する。
【0036】
尚、除去厚み算出部78で算出された除去厚みt3を最大切り込み量hで割ると一般的に余りがでるが、この余り部分は最大切り込み量h未満の切り込み量で切削する。最大切り込み量未満の切り込み量での切削は、最後の切削工程で実施するのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0037】
最大切り込み量未満の切り込み量の切削が最後の切削工程で実施されるのが好ましい理由は、切削除去量が少ないと切削面がより平坦になるため、最後に実施することで切削仕上げ面をより平坦に加工できるからである。
【0038】
図6を参照すると、本発明のバイト切削装置2で切削加工するのに適した他の被加工物11Aの断面図が示されている。本実施形態の被加工物11Aは、ウエーハ21上に樹脂膜23がスピンコートで塗布されている。このように樹脂膜23をスピンコートで塗布すると、外周縁に樹脂膜23が厚く形成される。
【0039】
このような被加工物11Aの切削加工では、被加工物高さ測定器50で被加工物11Aの高さを半径位置の異なる複数点で測定する。そして、測定ポイント中で最高位置h1と最低位置h2を検出し、検出した最低位置h2から所定の除去量を減じた位置を仕上げ厚みとして算出し、仕上げ厚み記憶部74に記憶しておく。
【0040】
除去厚み算出部78で最高位置h1から仕上げ厚みを減じて除去厚みを算出し、この除去厚みを最大切り込み量hで除することにより、切削回数算出部80で切削回数Nを算出する。
【0041】
次に、図7を参照して、コントローラ70により算出されたパラメータに基づく被加工物11の切削加工について説明する。この切削加工では、スピンドル22を約2000rpmで回転させつつ、バイト切削ユニット送り機構(切り込み手段)18を駆動してバイト工具26の切削刃26aを被加工物11の透明樹脂17に最大切り込み量hを切り込ませる。
【0042】
そして、チャックテーブル32を矢印Y方向に例えば1mm/sの送り速度で移動させながら、透明樹脂17を切削する。この切削加工時には、チャックテーブル32は回転させずにY軸方向に加工送りする。
【0043】
一回の切削加工が完了すると、チャックテーブル32をY軸方向に移動して元の位置に戻し、最大切り込み量hの切削をN−1回繰り返し、最後の切削加工では最大切り込み量h未満の切り込み量で切削を遂行して、被加工物11を仕上げ厚みt2に仕上げる。
【符号の説明】
【0044】
2 バイト切削装置
10 バイト切削ユニット
11 被加工物
13 セラミックス基板
15 LEDチップ
17 透明樹脂
18 バイト切削ユニット送り機構(切り込み手段)
32 チャックテーブル
36 切削送り機構
48 保持面高さ測定器
50 被加工物高さ測定器
70 コントローラ
72 最大切り込み量記憶部
74 仕上げ厚み記憶部
76 被加工物最大厚み算出部
78 除去厚み算出部
80 切削回数算出部
82 切削制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイト切削装置であって、
被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルと、
該チャックテーブルで保持された被加工物の上面を切削するバイト工具を回転可能に支持するバイト手段と、
該チャックテーブルの保持面に対して水平方向に該チャックテーブルと該バイト手段とを相対移動させる切削送り手段と、
該チャックテーブルの該保持面に対して鉛直方向に該チャックテーブルと該バイト手段とを相対移動させる切り込み手段と、
少なくとも該切削送り手段と該切り込み手段とを制御する制御手段と、
該チャックテーブルの該保持面の高さ位置と該チャックテーブルで保持された被加工物の上面の高さ位置とを測定する高さ位置測定手段と、を具備し、
該制御手段は、
該バイト工具が一回の回転で被加工物に切り込める最大切り込み量を記憶する最大切り込み量記憶部と、
被加工物の仕上げ厚みを記憶する仕上げ厚み記憶部と、
該高さ位置測定手段で測定した被加工物の上面の高さ位置と該チャックテーブルの該保持面の高さ位置とから被加工物の最大厚みを算出する被加工物最大厚み算出部と、
該被加工物最大厚み算出部で算出された被加工物の最大厚みと該仕上げ厚み記憶部で記憶された仕上げ厚みとから、被加工物の除去厚みを算出する除去厚み算出部と、
該最大切り込み量記憶部で記憶された最大切り込み量と該除去厚み算出部で算出された被加工物の除去厚みとから、該除去厚みを除去するのに必要な切削回数を算出する切削回数算出部と、
該切削回数算出部で算出された該切削回数に基づいて、該切削送り手段と該切り込み手段とを作動させる切削制御手段と、
を含むことを特徴とするバイト切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107144(P2013−107144A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252163(P2011−252163)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】