説明

バランス修正方法と装置

【課題】回転機械に備えられる回転体のバランス修正において、回転体の切削対象部の傾きを考慮して、切削対象部を切削することで、バランス修正の精度を向上させることにある。
【解決手段】切削データ取得ステップS1で、アンバランスを除くために切削対象部を軸方向に切削する位相角と、当該切削の深さとを、それぞれ、切削位相角と切削深さとして予め求める。傾き計測ステップS2で、軸方向に対する切削対象部の加工開始面の傾きを計測する。移動距離取得ステップS3で、切削位相角と切削深さと傾きとに基づいて、切削位相角において、加工用初期位置から加工具を軸方向に移動させる移動距離を求める。切削ステップS4で、切削位相角において、移動距離だけ、加工用初期位置から加工開始面側の軸方向に加工具を移動させることで、切削対象部を切削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械に設けられる回転体のバランスを修正するバランス修正方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願において、回転機械は、流体と力を及ぼし合う回転翼が回転体に設けられた流体機械である。回転機械には、原動機と被動機がある。原動機は、流体が回転翼に作用させる圧力により回転体が回転駆動されることで、流体の持つエネルギーを回転運動エネルギーに変換する。原動機としては、例えば、ガスタービン(軸流タービン、ラジアルタービン)がある。被動機は、回転駆動されている回転翼が流体に圧力を作用させることで、回転運動エネルギーを流体に与える。被動機としては、例えば、圧縮機(遠心圧縮機、航空エンジンなどに設けられる軸流圧縮機、斜流圧縮機、横流圧縮機、ポンプ)がある。また、回転機械には、原動機と被動機の両方の機能を持つ過給機もある。
【0003】
回転体のアンバランスを計測するために、回転機械を試運転する。この時、回転体の回転運動により生じる振動を検出するとともに、回転体の回転角を検出する。検出した振動と回転角から、アンバランスが存在する回転軸回りの位相角を求めるとともに、アンバランス量を求める。このようなアンバランス計測は、例えば下記の特許文献1、2に記載されている。
【0004】
回転体における切削位相角(例えば、アンバランスが存在する位相角)で、図1(A)のように、回転体5の切削対象部5aの加工開始面7(端面)から、アンバランス量に応じた切削深さだけ、切削対象部5aをラジアル軸受4の軸C方向に切削する。すなわち、図1(B)のように、エンドミル13aを加工用初期位置Prから、次式(1)の距離Ldだけ移動させることで、前記切削深さだけ切削対象部5aを切削する。

Ld=L0+D ・・・(1)

ここで、図1(B)のように、L0は、加工用初期位置Prから加工開始面7までの距離であり、Dは、前記切削深さである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−267907号公報
【特許文献2】特開2010−048588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、バランス修正時に、加工開始面7が傾いていることで、バランス修正の精度が低下する場合がある。加工開始面7の傾きの原因としては、回転体5のシャフト5bが曲がっていることや、加工開始面7の加工誤差などがある。
【0007】
加工開始面7が、図1(C)に示すように軸C方向に対して傾いていると、加工用初期位置Prから加工開始面7までの距離がL0からLxへ変動してしまう。従って、切削対象部5aを実際に切削する深さも変動してしまう。すなわち、上述の距離Ldだけ、エンドミル13aを加工用初期位置Prから移動させても、前記切削深さDだけ切削対象部5aを切削することができない。従って、バランス修正の精度が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、切削対象部(加工開始面)の傾きを考慮して、切削対象部を切削することで、バランス修正の精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によると、回転体をラジアル軸受で支持した状態で、回転体の切削対象部を、ラジアル軸受の軸方向に部分的に切削することで、回転体のアンバランスを低減するバランス修正方法であって、
回転体の軸回り方向に関する回転体上の位置を位相角とし、回転体に存在するアンバランスを除くために切削対象部を前記軸方向に切削する位相角と、当該切削の深さとを、それぞれ、切削位相角と切削深さとして予め求める切削データ取得ステップと、
前記軸方向に対する切削対象部の加工開始面の傾きを計測する傾き計測ステップと、
前記切削位相角と前記切削深さと前記傾きとに基づいて、前記切削位相角において、加工用初期位置から加工具を前記軸方向に移動させる移動距離を求める移動距離取得ステップと、
前記切削位相角において、前記移動距離だけ、加工用初期位置から加工開始面側の前記軸方向に加工具を移動させることで、切削対象部を切削する切削ステップと、を有する、ことを特徴とするバランス修正方法が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によると、前記傾き計測ステップでは、
(A)前記回転体の回転角を計測し、
(B)計測用初期位置から前記加工開始面上の被計測位置までの軸方向距離を、距離計測装置を用いて前記軸方向に計測し、
(C)前記回転体を回転させることで、回転体の軸回り方向に関して回転体における基準点と前記距離計測装置との相対位置を変化させ、
前記(A)、(B)、(C)を繰り返すことで、複数の前記回転角と、複数の前記軸方向距離との関係を取得し、この関係に基づいて加工開始面の前記傾きを求める。
【0011】
本発明の他の実施形態によると、前記傾き計測ステップでは、
(A)回転体の軸回り方向に関する距離計測装置の計測用初期位置を計測し、
(B)計測用初期位置から前記加工開始面上の被計測位置までの軸方向距離を、前記距離計測装置を用いて前記軸方向に計測し、
(C)回転体の軸回り方向に関する距離計測装置の計測用初期位置を変化させ、
前記(A)、(B)、(C)を繰り返すことで、回転体の軸回り方向に関する複数の前記計測用初期位置と、複数の前記軸方向距離との関係を取得し、この関係に基づいて加工開始面の前記傾きを求める。
【0012】
前記(A)では、
回転体における前記軸方向の一端部を把持装置により把持した状態で、回転体における前記軸方向の他端部に、嵌合部材を嵌合させることで、当該他端部が前記軸方向に対する半径方向にずれないようにするとともに、当該嵌合部材を、当該他端部から前記一端部へ向けて押圧し、
この状態で、計測用初期位置から前記加工開始面上の被計測位置までの軸方向距離を、前記距離計測装置を用いて前記軸方向に計測する。
【0013】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、回転体をラジアル軸受で支持した状態で、回転体の切削対象部を、ラジアル軸受の軸方向に部分的に切削することで、回転体のアンバランスを低減するバランス修正装置であって、
回転体の軸回り方向に関する回転体上の位置を位相角とし、回転体に存在するアンバランスを除くために切削対象部を前記軸方向に切削する位相角と、当該切削の深さとを、それぞれ、切削位相角と切削深さとし、
前記軸方向に対する切削対象部の加工開始面の傾きを計測する傾き計測装置と、
計測した前記傾きと切削位相角と切削深さとに基づいて、前記切削位相角において、加工用初期位置から加工具を前記軸方向に移動させる移動距離を求める駆動量決定装置と、
前記切削位相角において、前記移動距離だけ、加工用初期位置から加工開始面側の前記軸方向に加工具を移動させることで、切削対象部を切削する切削装置と、を有する、ことを特徴とするバランス修正装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明によると、前記軸方向に対する切削対象部の加工開始面の傾きを計測し、この傾きと切削位相角と切削深さとに基づいて、切削位相角において、加工用初期位置から加工具を前記軸方向に移動させる移動距離を求め、この移動距離だけ、加工用初期位置から加工開始面側の前記軸方向に加工具を移動させることで、切削対象部を切削する。従って、切削対象部の傾きを考慮した切削加工が可能となる。その結果、バランス修正の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は、従来のバランス修正装置の概略図であり、(B)は、(A)の一部を拡大した説明図であり、(C)は、(A)の一部を拡大した図であるが、従来の問題を示す説明図である。
【図2】(A)は、本発明の実施形態によるバランス修正装置を示し、(B)は、(A)のB−B矢視図であり、(C)は、(A)のC−C矢視図である。
【図3】図2(A)において、接触検出部の図示を省略して加工具を示した図である。
【図4】図2(A)の一部を拡大した説明図である。
【図5】本発明の実施形態によるバランス修正方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態によるバランス修正装置を過給機に適用した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
本発明の実施形態によるバランス修正装置10は、回転機械の回転体5をラジアル軸受4で支持した状態で、回転体5の切削対象部5aを、ラジアル軸受4の軸方向に部分的に切削することで、回転体5のアンバランスを低減する(無くす)装置である。
【0018】
図2(A)に、バランス修正装置10の全体構成を示す。図2(B)は、図2(A)のB−B矢視図である。図2(C)は、図2(A)のC−C矢視図であるが、後述の接触検出部15a、加工具13a、可動部15b3のみを示す。図3は、図2(A)に対応するが、説明のため、接触検出部15aの図示を省略して、加工具13aを図示した図である。
【0019】
なお、図1(A)において、符号3は、ラジアル軸受4が内部に設けられたハウジングを示す。このハウジング3は、前記回転機械自身のハウジングであってもよいし、バランス修正専用のハウジングであってもよい。また、符号6は、ハウジング3を支持する支持体を示す。また、図2(A)において、バランス修正時において、図1(A)の場合と同様に、潤滑油が、上方(図1(A)の上側)から各ラジアル軸受4に供給され、ラジアル軸受4から下方(図1(A)の下側)に排出される。
【0020】
本願において、軸方向とは、切削対象部5aの傾きを計測する時、および、切削対象部5aを切削する時に、回転体5を半径方向に支持しているラジアル軸受4の中心軸Cの方向を意味する。また、半径方向とは、当該軸方向に対する方向である。
本願において、位相角は、回転体の軸回り方向に関する回転体上の位置を意味する。切削位相角は、回転体5に存在するアンバランスを除くために切削対象部5aを前記軸方向に切削する位相角を意味する。切削深さは、当該切削の深さを意味する。
【0021】
バランス修正装置10は、傾き計測装置9、駆動量決定装置11、および切削装置13を備える。
【0022】
傾き計測装置9は、軸方向に対する、切削対象部5aの表面(この例では平面)である加工開始面7(加工開始面7の法線)の傾きを計測する。本実施形態では、傾き計測装置9は、距離計測装置15、回転角変更装置16、回転角センサ18、および演算部17を有する。
【0023】
距離計測装置15は、接触検出部15a、駆動装置15b、計測部15c、制御部15dを有する。
【0024】
接触検出部15aは、加工開始面7との接触を検出し、その旨の接触信号を計測部15cに出力する。
【0025】
駆動装置15bは、該接触検出部15aを計測用初期位置から加工開始面7まで軸方向に移動させる。図2の例では、駆動装置15bは、図2のZ方向(図2の上下方向)に移動可能な第1の可動部15b1と、第1の可動部15b1を図2のZ方向に移動させる第1の駆動部(図示せず)と、第1の可動部15b1に取り付けられ第1の可動部15b1に対し図2のY方向(図2の紙面と直交する方向)に移動可能な第2の可動部15b2と、第1の可動部15b1に対し第2の可動部15b2を図2のY方向に移動させる第2の駆動部(図示せず)と、第2の可動部15b2に取り付けられ第2の可動部15b2に対し図2のX方向(図2の左右方向)に移動可能な第3の可動部15b3と、第2の可動部15b2に対し第3の可動部15b3を図2のX方向に移動させる第3の駆動部(図示せず)とを有する。
【0026】
計測部15cは、駆動装置15bにより接触検出部15aが計測用初期位置から軸方向に移動させられた距離を計測する。計測部15cは、適宜の手段(例えば、リニアスケール)で構成されてよい。
【0027】
計測部15cは、接触検出部15aを計測用初期位置に位置決めした旨の計測開始信号を制御部15dから受け、接触検出部15aが加工開始面7に接触した旨の接触信号を接触検出部15aから受ける。計測部15cは、計測開始信号を受けた時点から、接触信号を受ける時点まで、接触検出部15aが計測用初期位置から加工開始面7側の軸方向に移動させられた距離を軸方向距離として計測する。
制御部15dは、駆動装置15bを制御する。
【0028】
回転角変更装置16は、把持装置16aと回転駆動装置16bとを有する。把持装置16aは、回転体5と同軸に配置され、回転体5の端部を把持する。把持装置16aは、例えば、コレットチャックであってよい。回転駆動装置16bは、回転体5の端部を把持した把持装置16aを中心軸C周りに回転させ、これにより回転体5を回転させる。回転駆動装置16bは、例えば、図2のように、サーボモータにより構成されてよい。サーボモータ16bの出力軸にはピニオン16b1が固定されている。把持装置16aには、回転シャフト16a1が結合され、この回転シャフト16a1は、図示しない軸受により中心軸C周りに回転可能に支持されている。また、回転シャフト16a1には、ピニオン16b1に噛み合うギア16a2が固定されている。サーボモータ16bは、ピニオン16b1とギア16a2を介して把持装置16aを回転させる。
【0029】
回転角センサ18は、回転体5の回転角を計測する。この回転角は、回転体5における前記基準位相角(基準点)の軸C周りに関する位置を示す。なお、回転角センサ18は、図2(A)の例では加工開始面7に対向する位置に配置されるが、距離計測装置15または切削装置13を使用する時には、適宜の手段により、距離計測装置15または切削装置13に干渉しない位置へ退避させられてよい。
【0030】
回転角変更装置16により、回転体5の回転角を複数の値に変化させ、当該各値毎に、距離計測装置15により上述の軸方向距離を計測する。この計測においては、本実施形態では、回転角の複数の値の間で、上述の計測用初期位置は、上述のX方向、Y方向およびZ方向に関して同じである。
【0031】
演算部17は、計測部15cから複数の前記軸方向距離を受け、回転角センサ18から複数の回転角を受け、それぞれ互いに対応する当該複数の前記軸方向距離と当該複数の回転角との関係に基づいて、後述のステップS25のように、前記軸方向に対する加工開始面7の傾きを算出する。具体的には、演算部17は、軸方向に対する加工開始面7の傾き方向と傾き角度を算出する。
【0032】
駆動量決定装置11は、切削位相角と切削深さと計測した前記傾きとに基づいて、切削位相角において、加工用初期位置から加工具13aを前記軸方向に移動させる移動距離L1を求める。駆動量決定装置11は、例えば、次の近似式(2)により当該移動距離L1を算出する。

L1≒Xsinθ+L0 ・・・(2)

この式において、X、θ、L0を図4に示す。Xは、ラジアル軸受4の中心軸Cを含む直線から加工用初期位置Prまでの半径方向距離である。θは、中心軸Cから加工開始面7に沿って切削位相角に延びる直線と、中心軸Cと直交する平面とのなす角度である。L0は、加工開始面7が傾いていない場合における、加工用初期位置Prから加工開始面7までの距離である。なお、図4において、破線は、軸方向に傾いていない(自身の軸がラジアル軸受4の軸方向を向いている)状態の回転体5を示す。
【0033】
切削装置13は、切削位相角において、前記移動距離だけ、加工用初期位置Prから加工開始面7側の前記軸方向に加工具13aを移動させることで、切削対象部5aを切削する。これにより、切削位相角で前記切削深さだけ切削対象部5aを切削加工する。図3の例では、加工具13aは、自身の軸回りに回転駆動されるエンドミルである。エンドミル13の軸は、ラジアル軸受4の軸方向と平行になっている。
【0034】
切削装置13は、図3の例では、加工具13aと、上述した第1〜第3の可動部15b1、15b2、15b3と、上述した第1〜第3の駆動部と、上述した制御部15dとにより構成される。
加工具(エンドミル)13aは、図3の例では、第3の可動部15b3に設置される。従って、駆動装置15bにより、エンドミル13aを、加工用初期位置Prから前記移動距離だけ加工開始面7側の軸方向に移動させることができる。この場合、エンドミル13は、第3の可動部15b3において、接触検出部15aから図2(A)、図2(C)のY方向にずれた位置に設置される。これにより、エンドミル13を使用する時に、接触検出部15aが切削対象部5aに干渉せず、接触検出部15aを使用する時に、エンドミル13が切削対象部5aに干渉しない。
加工具13aの移動は、図3の例では、制御部15dに制御される。すなわち、制御部15には、駆動量決定装置11から前記移動距離が入力され、制御部15dは、当該移動距離に基づいて、加工具13aが加工用初期位置Prから当該移動距離だけ切削対象部5aの側へ移動するように駆動装置15bを制御する。
【0035】
好ましくは、加工具13aが切削対象部5aを切削する時(すなわち、後述の切削ステップS4を行う時)と、距離計測装置15が前記軸方向距離を計測する時(すなわち、後述のステップS22を行う時)に、回転体5における前記軸方向の端部(図2の例では、加工開始面7側の端部)に嵌合させる嵌合部材22が設けられる。嵌合部材22は、先端部が先細りした形状を持つ棒状部材であってよい。この場合、回転体5の端部(図2の例では、加工開始面7)には、軸方向(図2(A)の右方向)に開口した挿入孔7aが設けられる。この挿入孔7aは、嵌合部材22の先端部の形状に整合する形状を有する。すなわち、挿入孔7aは、その深さ方向(軸方向)に先細りした形状を有する。嵌合部材22の先端部が、挿入孔7aに軸方向に挿入されることで、嵌合部材22が回転体5の端部に嵌合する。
【0036】
上述したバランス修正装置10を用いて、本発明の実施形態によるバランス修正方法を行うことができる。このバランス修正方法では、回転体5をラジアル軸受4で支持した状態で、回転体5の切削対象部5aを、ラジアル軸受4の軸方向に部分的に切削することで、回転体5のアンバランスを低減する。
【0037】
図5は、本発明の実施形態によるバランス修正方法を示す。バランス修正方法は、切削データ取得ステップS1、傾き計測ステップS2、移動距離取得ステップS3、および切削ステップS4を有する。
【0038】
切削データ取得ステップS1では、切削位相角と切削深さを予め求める。本実施形態では、切削位相角は、回転体5においてアンバランスが存在するアンバランス位相角であり、切削深さは、当該アンバランスの量Uを除去するための深さである。このアンバランス量Uは、U=r×mで表わすことができる。ここで、rは、ラジアル軸受4の中心軸Cを含む直線と加工用初期位置Prとの半径方向距離である。mは、質量である。前記切削深さは、加工開始面7が軸方向に対し傾いていない場合に、加工開始面7から当該深さだけ切削対象部5aを切削することで、切削対象部5aから質量mだけ除去できる値である。なお、切削深さは、mと、切削対象部5aの密度と、加工具13aの寸法と、必要であれば切削対象部5aの形状とに基づいて予め求めることができる。
このような切削位相角と切削深さ(アンバランス位相角とアンバランス量)の求め方は、例えば、特許文献1、2に記載されている。
【0039】
傾き計測ステップS2では、傾き計測装置9により、前記軸方向に対する、加工開始面7の傾きを計測する。傾き計測ステップS2は、ステップS21〜S24を有する。
【0040】
ステップS21では、回転角センサ18により回転体5の回転角を計測する。
ステップS22では、ステップS21における回転体5の回転角を維持した状態で、距離計測装置15により、計測用初期位置から加工開始面7上の被計測位置までの前記軸方向距離を計測する。
ステップS23では、ステップS22を行った回数が設定数に達したかどうかを判断する。この判断がNOの場合には、ステップS24へ進み、この判断がYESである場合には、ステップS25へ進む。なお、前記設定数は、3以上の整数である(ただし、3回以上のステップS21において計測した回転角が互いに異なる)。このようにステップS21、S22、S24を繰り返すことで、それぞれ互いに対応する複数の前記回転角と複数の前記軸方向距離との関係を取得する。
ステップS24では、回転体5を把持した把持装置16aを回転駆動装置16bにより回転させる。これにより、回転体5を回転させて、回転体5の軸回り方向に関して回転体5における基準点と距離計測装置15(すなわち、接触検出部15a)との相対位置を変化させる。また、ステップS24では、このように変化させた当該相対位置を一定に維持するように回転駆動装置16bによる回転体5の回転を停止させる。ステップS24を行ったら、ステップS21に戻る。なお、このステップS24で変化させた前記相対位置は、戻ったステップS21、S22においても一定に維持しておく。
ステップS25では、ステップS21、S22、S24を繰り返すことで取得した複数の前記回転角と複数の前記軸方向距離との関係に基づいて、演算部17により、軸方向に対する加工開始面7の前記傾きを算出する。
【0041】
好ましくは、ステップS22を次のように行う。まず、回転体5における軸方向の一端部を把持装置16aにより把持した状態で、回転体5における軸方向の他端部に、嵌合部材22を嵌合させることで、当該他端部が軸方向に対する半径方向にずれないようにする。これとともに、嵌合部材22を、適宜の手段で、当該他端部から前記一端部へ向けて軸方向に押圧し、これにより、回転体5が軸方向から傾かないようにする。この状態で、上述のように、距離計測装置15により、計測用初期位置から加工開始面7上の被計測位置までの前記軸方向距離を計測する。
【0042】
移動距離取得ステップS3では、駆動量決定装置11により、ステップS1で求めた切削位相角および切削深さと、ステップS2で計測した前記傾きとに基づいて、加工用初期位置Prから加工具13aを前記軸方向に移動させる上述の移動距離L1を算出する。
【0043】
切削ステップS4では、回転体5における基準位相角(基準点)に対する切削位相角において、前記移動距離だけ、加工用初期位置Prから加工具13aを前記軸方向に移動させることで、切削対象部5aを切削する。これにより、切削位相角において、切削対象部5aを、加工開始面7から、前記切削深さだけ軸方向に切削することができる。なお、加工用初期位置Prは、予め設定されている軸方向位置と、予め設定されている半径方向位置と、切削位相角とにより特定される。なお、切削ステップS4において、軸C周りに関して、回転体5における前記基準位相角の位置を回転角センサ18により計測し、当該計測値に基づいて、制御部15dが、前記基準位相角に対する切削位相角に相当する加工用初期位置Prに加工具13aを位置決めする。
【0044】
好ましくは、ステップS4を次のように行う。まず、回転体5が回転しないように回転体5における軸方向の一端部を把持装置16aにより把持した状態で、回転体5における軸方向の他端部に、嵌合部材22を嵌合させる。これにより、当該他端部が軸方向に対する半径方向にずれないようにする。これとともに、当該他端部に嵌合した嵌合部材22を、適宜の手段により、当該他端部から前記一端部へ向けて押圧することで、回転体5が軸方向から傾かないようにする。この状態で、上述のように、切削位相角において、前記移動距離だけ、加工用初期位置Prから加工具13aを前記軸方向に移動させることで、切削対象部5aを切削する。
【0045】
[実施例]
図6は、上述の実施形態によるバランス修正装置10を、回転機械としての過給機20に適用した場合を示す。
【0046】
過給機20の回転体5は、図6に示すように、エンジンの排ガスにより回転駆動されるタービン翼21と、タービン翼21と一体的に回転することで圧縮空気をエンジンに供給するコンプレッサ翼23と、一端部にタービン翼21が結合され他端部にコンプレッサ翼23が結合される回転軸25とを有する。また、過給機20は、回転体5を回転可能に支持するラジアル軸受4が内部に組み込まれたハウジング(軸受ハウジング)3を有する。また、過給機20は、タービン翼21を内部に収容するタービンハウジング29と、コンプレッサ翼23を内部に収容するコンプレッサハウジング(図6では取り外されている)とを備える。タービンハウジング29には、アンバランス計測時にタービン翼21を回転駆動する流体を流す流路(スクロール)が形成されている。タービンハウジング29は、支持体6の内部に取り付けられる。タービン翼21を駆動する流体をタービンハウジング29の前記流路へ供給でき、タービン翼21を駆動した当該流体を、支持体6の穴6aを介して支持体6の外部へ排出できるように支持体6が構成されている。
【0047】
また、支持体6は、タービンハウジング29を介して、または直接、軸受ハウジング3を支持する。図6では、回転体5の切削対象部5aは、コンプレッサ翼23側の端部にあり、この例ではナットである。この場合、上述の切削ステップS4において、ナット5aの外周部が切削される。
【0048】
把持装置16aは、支持体6に形成された軸方向に開口する穴6aを通して、タービン翼21側の回転体5における端部を把持する。把持装置16aは、アンバランス計測時には、当該端部を把持しない。
【0049】
また、挿入孔7aは、回転体5においてナット5aが螺合している雄ネジ部26の端面26aに形成されている。
【0050】
図6において、バランス修正装置10とバランス修正方法の他の点は、上述の実施形態と同じであってよい。
【0051】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記の変更例1〜5のから選択した組み合わせ可能な2つ以上の変更例を組み合わせてもよいし、下記の変更例1〜5のいずれかを単独で採用してよい。この場合、他の点は、上述と同じであってよい。
【0052】
(変更例1)
上述の実施形態では、距離計測装置15は、接触検出部15aを用いて、計測用初期位置から加工開始面7上の被計測位置までの軸方向距離を前記軸方向に計測するが、本発明は、これに限定されない。すなわち、距離計測装置15は、非接触に(例えば、撮像装置やレーザ距離計を用いて)、計測用初期位置から加工開始面7上の被計測位置までの軸方向距離を前記軸方向に計測してもよい。この場合、他の点は、上述と同じであってよい。
【0053】
(変更例2)
傾き計測装置9は、距離計測装置15の代わりに、撮像装置(例えば、CCDカメラ)を有していてもよい。この場合、傾いていない時の加工開始面7の画像を参照画像として予め取得しておき、ステップS2で、加工開始面7の画像を撮像装置により取得し、演算部17により、当該画像とこの参照画像とを比較することで、加工開始面7の傾きを求めてよい。
【0054】
(変更例3)
上述の実施形態では、切削位相角は、アンバランス位相角に一致していたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、上述のアンバランス量Uを除去するために、複数の位相角で切削対象部5aを軸方向に切削し、これらの切削により、全体として、アンバランス位相角においてアンバランス量Uが除去されるようにしてもよい。この場合、各切削位相角毎に、本発明のバランス修正装置と方法を適用してよく、他の点は、上述と同じであってよい。
【0055】
(変更例4)
上述の実施形態では、ステップS24で、回転体5を回転させたが、この代わりに、距離計測装置15(接触検出部15a)の位置(すなわち、前記計測用初期位置)を、上述の駆動装置15bにより軸C周りの方向に変化させてもよい。この場合、ステップS21において、適宜の手段により、軸C周りの方向に関する前記計測用初期位置を計測し、ステップS25では、各ステップS21で計測した複数の前記計測用初期位置と各ステップS22で計測した複数の前記軸方向距離との関係に基づいて、加工開始面7の傾きを求める。なお、ステップS2において、軸C周りの方向以外の方向に関する前記計測用初期位置は、一定に維持し、回転体5は回転しないように把持装置16aで把持しておくのがよい。
【0056】
(変形例5)
上述の実施形態では、加工具13aと接触検出部15aとを共通の駆動装置15bで移動させたが、加工具13aと接触検出部15aとを別々の駆動装置で移動させてもよい。この場合、接触検出部15aを、駆動装置により軸方向にのみ移動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
3 ハウジング、4 ラジアル軸受、5 回転体、5a 切削対象部、6 支持体、6a 穴、7 加工開始面、9 傾き計測装置、10 バランス修正装置、11 駆動量決定装置、13 切削装置、13a 加工具、15 距離計測装置、15a 接触検出部,15b 駆動装置、15c 計測部、15d 制御部、15b1 第1の可動部、15b2 第2の可動部、15b3 第3の可動部、16 回転角変更装置、16a 把持装置、16b 回転駆動装置、17 演算部、18 回転角センサ、19 把持装置、20 過給機、21 タービン翼、22 嵌合部材、23 コンプレッサ翼、25 回転軸、29 タービンハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体をラジアル軸受で支持した状態で、回転体の切削対象部を、ラジアル軸受の軸方向に部分的に切削することで、回転体のアンバランスを低減するバランス修正方法であって、
回転体の軸回り方向に関する回転体上の位置を位相角とし、回転体に存在するアンバランスを除くために切削対象部を前記軸方向に切削する位相角と、当該切削の深さとを、それぞれ、切削位相角と切削深さとして予め求める切削データ取得ステップと、
前記軸方向に対する切削対象部の加工開始面の傾きを計測する傾き計測ステップと、
前記切削位相角と前記切削深さと前記傾きとに基づいて、前記切削位相角において、加工用初期位置から加工具を前記軸方向に移動させる移動距離を求める移動距離取得ステップと、
前記切削位相角において、前記移動距離だけ、加工用初期位置から加工開始面側の前記軸方向に加工具を移動させることで、切削対象部を切削する切削ステップと、を有する、ことを特徴とするバランス修正方法。
【請求項2】
前記傾き計測ステップでは、
(A)前記回転体の回転角を計測し、
(B)計測用初期位置から前記加工開始面上の被計測位置までの軸方向距離を、距離計測装置を用いて前記軸方向に計測し、
(C)前記回転体を回転させることで、回転体の軸回り方向に関して回転体における基準点と前記距離計測装置との相対位置を変化させ、
前記(A)、(B)、(C)を繰り返すことで、複数の前記回転角と、複数の前記軸方向距離との関係を取得し、この関係に基づいて加工開始面の前記傾きを求める、ことを特徴とする請求項1に記載のバランス修正方法。
【請求項3】
前記傾き計測ステップでは、
(A)回転体の軸回り方向に関する距離計測装置の計測用初期位置を計測し、
(B)計測用初期位置から前記加工開始面上の被計測位置までの軸方向距離を、前記距離計測装置を用いて前記軸方向に計測し、
(C)回転体の軸回り方向に関する距離計測装置の計測用初期位置を変化させ、
前記(A)、(B)、(C)を繰り返すことで、回転体の軸回り方向に関する複数の前記計測用初期位置と、複数の前記軸方向距離との関係を取得し、この関係に基づいて加工開始面の前記傾きを求める、ことを特徴とする請求項1に記載のバランス修正方法。
【請求項4】
前記(A)では、
回転体における前記軸方向の一端部を把持装置により把持した状態で、回転体における前記軸方向の他端部に、嵌合部材を嵌合させることで、当該他端部が前記軸方向に対する半径方向にずれないようにするとともに、当該嵌合部材を、当該他端部から前記一端部へ向けて押圧し、
この状態で、計測用初期位置から前記加工開始面上の被計測位置までの軸方向距離を、前記距離計測装置を用いて前記軸方向に計測する、ことを特徴とする請求項2または3に記載のバランス修正方法。
【請求項5】
回転体をラジアル軸受で支持した状態で、回転体の切削対象部を、ラジアル軸受の軸方向に部分的に切削することで、回転体のアンバランスを低減するバランス修正装置であって、
回転体の軸回り方向に関する回転体上の位置を位相角とし、回転体に存在するアンバランスを除くために切削対象部を前記軸方向に切削する位相角と、当該切削の深さとを、それぞれ、切削位相角と切削深さとし、
前記軸方向に対する切削対象部の加工開始面の傾きを計測する傾き計測装置と、
前記切削位相角と前記切削深さと前記傾きとに基づいて、前記切削位相角において、加工用初期位置から加工具を前記軸方向に移動させる移動距離を求める駆動量決定装置と、
前記切削位相角において、前記移動距離だけ、加工用初期位置から加工開始面側の前記軸方向に加工具を移動させることで、切削対象部を切削する切削装置と、を有する、ことを特徴とするバランス修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−21864(P2012−21864A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159326(P2010−159326)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】