説明

パラジウム前駆体組成物

【課題】例えば電子デバイスまたは電子デバイスなどの種々の対象物にパラジウム層を形成するための組成物およびプロセスを提供する。
【解決手段】パラジウム層を形成するための組成物は、パラジウム塩およびオルガノアミンを含有する。基板上にパラジウム層を形成するためのプロセスは、パラジウム塩、オルガノアミン、および水不混和性の有機溶媒を含むパラジウム前駆体組成物を受容する工程と、前記基板を前記パラジウム前駆体組成物で溶液コーティングする工程と、前記パラジウム前駆体組成物を加熱し、パラジウム層を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、種々の対象物にパラジウム層を形成するための組成物およびプロセスに関する。この組成物は、例えば溶液であってもよく、対象物、例えば電子デバイスまたは電子デバイスの構成要素をコーティングするために使用されてもよい。
【背景技術】
【0002】
パラジウム(Pd)は、多くの独特の特性を有するレアメタルであり、結果として幅広い用途がある。例えば、パラジウムは、自動車の触媒コンバーターに使用され、燃焼副生成物を無害な物質に転化する。パラジウムはまた、多くの電子デバイス、セラミックコンデンサ、燃料電池などに使用される。パラジウム構造は、通常、電気めっき、スパッタリング、または化学蒸着(CVD)によってこうしたデバイスに形成される。これらのパラジウム構造を形成するために低コストの手法を使用することが所望される。パラジウム堆積に使用できる溶液処理可能な組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
種々の実施形態では、パラジウム層および/または構造を形成するために使用できるパラジウム前駆体組成物が開示される。
【0004】
一部の実施形態において、パラジウム塩、オルガノアミン、および水不混和性の有機溶媒を含むパラジウム前駆体組成物が開示される。
【0005】
パラジウム塩は、炭酸パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ヨウ化パラジウム、シアン化パラジウム、エチレンジアミン塩化パラジウム、テトラアミン臭化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジアミンジニトロパラジウム、およびこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0006】
一部の実施形態において、オルガノアミンは50℃未満の融点を有していてもよい。
【0007】
特定の実施形態において、オルガノアミンは、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、またはトリヘキシルアミンである。
【0008】
パラジウム塩は、前駆体組成物の約1〜約50重量%であってもよい。オルガノアミンとパラジウム塩とのモル比は、約1:1〜約5:1であってもよい。
【0009】
パラジウム前駆体組成物は、25℃にて33mN/m未満の表面張力を有する。
【0010】
水不混和性有機溶媒は、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、メチルイソブチルケトン、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、アニソール、シクロヘキサノン、またはアセトフェノン、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0011】
パラジウム塩およびオルガノアミンは、有機溶媒中に錯体を形成してもよく、組成物はさらに非錯化オルガノアミンを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、パラジウム前駆体組成物は、還元剤を含まない。
【0013】
いくつかの実施形態ではまた、基板上にパラジウム層を形成するためのプロセスを開示される。パラジウム塩、オルガノアミン、および水不混和性の有機溶媒を含むパラジウム前駆体組成物を受容する。基板は、パラジウム前駆体組成物で溶液コーティングされる。次いでパラジウム前駆体組成物は加熱されてパラジウム層を形成する。
【0014】
溶液コーティングは、基板上へパラジウム前駆体組成物をスピンコーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、フレキソ印刷、オフセット印刷、またはインクジェット印刷することによって行うことができる。
【0015】
加熱は、約80℃〜約350℃の温度にて、約0.1秒〜約30分間の期間行われてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態ではまた、電気伝導性パラジウム層を対象物上に形成するためのプロセスを開示する。少なくとも1つのパラジウム塩、少なくとも1つのオルガノアミン、および水不混和性有機溶媒から本質的になるパラジウム前駆体溶液を受容する。パラジウム塩およびオルガノアミンは、有機溶媒中に溶解した錯体を形成してもよい。基板は、対象物上に非晶質コーティングを形成するためにパラジウム前駆体組成物でコーティングされた溶液である。次いで非晶質コーティングは加熱されてパラジウム層を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本開示の基板(例えばワイヤ)をコーティングするプロセスを示す概略図である。
【図2】パラジウム層およびこのパラジウム層上のオーバーコート層を有するワイヤの断面図である。
【図3】パラジウムコーティングを有する銅ワイヤの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に開示される構成要素、プロセスおよび装置のより完全な理解は、添付の図面を参照することによって得ることができる。これらの図は、本開示を例証する便宜および容易さに基づいて概略的に示されているにすぎず、そのためデバイスまたはそれらの構成要素の相対的なサイズおよび寸法を示すことは意図されておらず、および/または例示的な実施形態の範囲を規定または限定することは意図されていない。
【0019】
明瞭性のために特定の用語が次の説明において使用されるが、これらの用語は、図面での例示のために選択された実施形態の特定構造だけを指すことを意図し、開示の範囲を規定または限定することを意図しない。図面および以下の次の説明において、同様の数字による指定は、同様の機能を有する構成要素を指すことを理解されたい。
【0020】
「室温」という用語は、約23℃の温度を指す。
【0021】
量に関連して使用される修飾語「約」は、記載される値を含み、内容によって指定される意味を有する(例えば、特定量の測定に関連した程度の誤差を少なくとも含む)。範囲の内容において使用される場合、修飾語「約」はまた、2つの端点の絶対値によって規定される範囲を開示すると考えられるべきである。例えば、「約2〜約4」の範囲はまた、「2〜4」の範囲を開示する。
【0022】
本開示は、対象物または基板上にパラジウム層を製造するための液体系堆積プロセスと共に使用できるパラジウム前駆体組成物に関する。本開示のパラジウム前駆体組成物は、パラジウム塩、オルガノアミン、および水に不混和性の有機溶媒を含む。それらは、低温にて高い伝導率および良好な接着性を有するパラジウム層に処理できる。
【0023】
パラジウム塩は、炭酸パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、ヨウ化パラジウム、シアン化パラジウム、エチレンジアミン塩化パラジウム、テトラアミン臭化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジアミンジニトロパラジウム、またはこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0024】
一部の実施形態において、パラジウム塩は、一般構造Pd(OOCR(OOCR2−xを有する炭酸パラジウムであり、式中、RおよびRは、独立に、水素、1〜11個の炭素原子を有するアルキル、2〜約13個の炭素原子を有するアルケニル、および2〜約13個の炭素原子を有するアルキニルから選択される。RおよびR上の水素原子は、別の官能基、例えばCHO、OH、ハロゲンなどで置換されてもよい。特定の実施形態において、炭酸パラジウムは酢酸パラジウムである。数字xは、0〜2のいずれかの数字、例えば0、0.01、0.1、1、1.5、1.57、2.0などであることができる。
【0025】
用語「アルキル」は、式−CH2n+1を有する、全体として完全に飽和した炭素原子および水素原子を含むラジカルを指す。アルキルラジカルは、線状、分岐、または環状であってもよい。
【0026】
用語「アルケニル」とは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有する、全体として炭素原子および水素原子を含むラジカルを指す。アルケニルラジカルは、線状または分岐状であってもよい。芳香族環は、アルケニルであると考えられない。
【0027】
用語「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有する、全体として炭素原子および水素原子を含むラジカルを指す。
【0028】
パラジウム塩が分子化合物であることに留意すべきである。Pd−Pd結合が、分子化合物に存在し得る。しかし、パラジウム塩は、ナノ粒子または同様の材料であると考えられるべきではない。塩中のパラジウム原子は、価数が0ではないが、パラジウム原子はナノ粒子形態において価数が0である。
【0029】
オルガノアミンは錯化剤として機能し得る。オルガノアミンは、いずれかの一級、二級、または三級アミンであってもよい。オルガノアミンはまた、モノアミン、ジアミン、またはポリアミンであることができる。より詳細には、オルガノアミンは、1つ、2つまたはそれ以上の式(I)のアミン基を含有していてもよい。
【化1】

式中、A、BおよびCは、独立に、水素および有機基から選択され、少なくとも1つが有機基である。三級アミンがこうしたアミン基を複数含有する場合、窒素原子は互いに直接結合しない。有機基は、少なくとも1つの炭素原子を含有する。例示的な有機基としては、アルキル、アリール、置換されたアルキルおよび置換されたアリールが挙げられる。
【0030】
用語「アリール」は、全体として炭素原子および水素原子を含む芳香族ラジカルを指す。アリールは、炭素原子の数値範囲と関連して記載される場合、置換された芳香族ラジカルを含むように解釈されるべきではない。例えば、「6〜10個の炭素原子を含有するアリール」という語句は、フェニル基(6個の炭素原子)またはナフチル基(10個の炭素原子)だけを指すように解釈されるべきであり、メチルフェニル基(7個の炭素原子)を含むように解釈されるべきではない。
【0031】
用語「置換された」とは、指名されたラジカルの少なくとも1つの水素原子が、別の官能基、例えばハロゲン、ヒドロキシル、メルカプト(−SH)、−CN、−NO、−COOHおよび−SOHで置換されていることを指す。例示的な置換されたアルキル基は、ペルハロアルキル基であり、ここでアルキル基中の1つ以上の水素原子は、ハロゲン原子、例えばフッ素、塩素、ヨウ素および臭素で置換される。上述の官能基の他、アリールまたはヘテロアリール基は、アルキルまたはアルコキシで置換されてもよい。例示的な置換されたアリール基としては、メチルフェニルおよびメトキシフェニルが挙げられる。
【0032】
オルガノアミンの一部の特定例としては、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、またはトリヘキシルアミンが挙げられる。
【0033】
一部の実施形態において、オルガノアミンは、50℃未満の融点(室温未満の融点を含む)を有する。換言すれば、オルガノアミンは室温で液体である。液体形態/低融点は、均一パラジウムコーティングを得るために重要である。前駆体組成物の液体堆積後、非晶質コーティング層は、低融点を有するオルガノアミンが使用される場合に形成される。一方で、高融点のオルガノアミンは、前駆体組成物の堆積後に結晶化し、最終パラジウム層において表面ラフネスが高くなり、ホールを生じ得る。
【0034】
一部の実施形態において、オルガノアミンはアミノ酸化合物ではない。換言すれば、式(I)を参照して、A、BまたはCのいずれも−COOHで置換されていない。一部の他の実施形態において、オルガノアミンは、アミノ酸化合物である(すなわち、A、BおよびCの少なくとも1つは−COOHで置換されている)。
【0035】
より詳細な実施形態において、オルガノアミンは、一級モノアミン、すなわち式NH−Rの化合物であり、式中Rは、約2〜約18個の炭素原子(約5〜約14個の炭素原子、または7〜約18個の炭素原子を含む)を有するアルキルである。
【0036】
理論に限定されないが、パラジウム塩およびオルガノアミンはパラジウムアミン錯体を形成すると考えられる。このことは、通常、色変化が証拠となる。例えば、酢酸パラジウムは、トルエン中では赤みを帯びた溶液であるが、オクチルアミンのようなオルガノアミンが添加される場合、溶液は淡黄色に変化する。パラジウムアミン錯体は、パラジウム塩が有機溶媒中に溶解するのを助け、塩の高充填を可能にし、結果として前駆体組成物中のパラジウム含有量が高くなる。いくつかの実施形態において、パラジウムアミン錯体が溶媒中に溶解され、得られた前駆体組成物は透明溶液である。組成物はまた、錯化していないパラジウム塩分子も含んでいてもよいことに留意されたい。特定の実施形態において、組成物は、パラジウムアミン錯体、および錯化されていない形態で過剰量のオルガノアミンを含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、オルガノアミンとパラジウム塩とのモル比は約1:1〜約5:1である。より詳細な実施形態において、オルガノアミンとパラジウム塩とのモル比は、約2:1〜約5:1、または約2:1〜約3:1である。一部の実施形態において、アルガノアミンとパラジウムとのモル比は、溶媒中のパラジウム塩の良好な溶解を確実にするために少なくとも2:1である。
【0038】
いくつかの実施形態において、水と不混和性の有機溶媒が使用される。所与の有機溶媒をほぼ等体積量の水と混合する場合、沈降後に相分離が検出されるなら(視覚的にまたは光散乱または屈折率のような計器によって)、溶媒は水不混和性であると考えられる。パラジウム塩、オルガノアミンおよび得られたパラジウムアミン錯体は、選択された溶媒中に可溶性であるべきである。例えば、溶媒に添加される所与の構成成分の少なくとも0.5重量%の量(少なくとも1重量%または少なくとも10重量%の添加される量を含む)は、溶解すべきである。不溶性部分は、例えばろ過によって有機溶媒物から除去できる。
【0039】
いずれかの水混和性有機溶媒が使用できる。一部の実施形態において、有機溶媒は、炭化水素溶媒、例えば置換された炭化水素または芳香族炭化水素溶媒であってもよい。特に、炭化水素溶媒は、少なくとも6個の炭素原子、6〜約25個の炭素原子を有する。例示的な溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエンなど、またはこれらの混合物が挙げられる。他の実施形態において、有機溶媒は、ケトン、エステル、エーテルなどである。例示的な溶媒としては、メチルイソブチルケトン、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、アニソール、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどが挙げられる。一部の実施形態において、有機溶媒は、少なくとも80℃の沸点(少なくとも100℃を含む)を有する。一部の特定の実施形態において、溶媒は少なくとも150℃の高い沸点を有する。
【0040】
パラジウム塩は、通常、前駆体組成物の約1〜約50重量%(重量%)を構成する。より詳細な実施形態において、パラジウム塩は、前駆体組成物の約5重量%〜約30重量%を構成する。
【0041】
前駆体組成物はさらに、別の金属塩、例えば銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などを含むことができる。例えば、酢酸銀は、酢酸パラジウムと組み合わせて使用でき、Ag−Pd合金を形成できる。組成物中の追加金属塩は、例えば前駆体組成物の約0.1重量%〜約40重量%(約1重量%〜約20重量%を含む)の量で存在できる。
【0042】
パラジウム前駆体組成物は、33mN/m未満(30mN/m未満、または28mN/m未満、または例えば約23mN/m〜約30mN/mを含む)の表面張力を有する。この低表面張力は、基板上に形成されるべきパラジウムの均一コーティングを可能にする。好適な水不混和性有機溶媒の選択は、所望の表面張力を与える。パラジウム前駆体組成物は、約0.8〜約50cps(約2〜約30cpsを含む)の粘度を有する。
【0043】
いくつかの実施形態において、パラジウム前駆体組成物は、還元剤を含有しない。還元剤の一部の例としては、ギ酸およびギ酸塩またはエステル、ヒドラジン、アンモニウム化合物、アミンボラン化合物、アルカリ金属ホウ化水素、シュウ酸、アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩などが挙げられる。
【0044】
パラジウム前駆体組成物は、コーティング溶液として使用されて、パラジウムコーティングまたは層をいずれかの基板または対象物上に適用できる。パラジウム前駆体組成物は、基板を溶液コーティングするために使用できる。「溶液コーティング」および「溶液処理」とは、液体が基板に適用されてコーティングを形成するプロセスを指す。これは、例えばプレートを溶液中に含浸させ続け、次いで電流に曝してプレート上に金属コーティングを形成する電気めっきとは対照的である。
【0045】
例示的な溶液コーティングプロセスとしては、浸漬コーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、フレキソ印刷、オフセット印刷、またはインクジェット印刷(パラジウム前駆体組成物は、インクジェットのプリントヘッドによって基板に放出される)が挙げられる。特定プロセスは、基板をパラジウム前駆体組成物で溶液コーティングし、基板上にコーティングを形成することを含む。いくつかの実施形態において、コーティングは、約10ナノメートル〜約50マイクロメートル(約10nm〜約30マイクロメートル、または約50nm〜約5マイクロメートル、または約80nm〜約1マイクロメートルを含む)の厚さを有する。
【0046】
次いでパラジウム前駆体組成物は加熱されて基板上にパラジウム層を形成する。加熱により、パラジウムアミン錯体またはパラジウム塩が熱分解して固体のパラジウム層を形成する。対照的に、無電解めっきでは、パラジウム塩または錯体は、パラジウムに化学的に還元される。加熱は、約80℃〜約350℃の温度にて行われてもよい。他の実施形態において、加熱は、約120℃〜約300℃、または約150℃〜約250℃の温度にて行われる。使用される基板に拘わらず、加熱温度は、望ましくは、予め堆積されたいずれかの層または基板の特性に負の変化を生じないものである(単一層基板または複数層基板に拘わらず)。加熱は、30分までの期間で行われてもよく、パラジウム層のサイズおよび加熱方法に依存して、0.1秒程度の短期間であることもできる。加熱は、空気、不活性雰囲気(例えば窒素またはアルゴン下)、または還元雰囲気(例えば1〜約20体積%の水素を含有する窒素下)中で行われることができる。加熱はまた、標準大気圧または、例えば約1000ミリバール〜約0.01ミリバールの減圧下で行うことができる。加熱技術の例としては、熱加熱(例えば、ホットプレート、オーブン、およびバーナー)、赤外線(「IR」)放射線、レーザービーム、閃光、マイクロ波放射線、またはUV放射線、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0047】
本明細書に記載されるコーティング方法はまた、繰り返されて、より厚いパラジウム層を対象物上に構築できる。例えば、いくつかの実施形態において、最終層の厚さは、約10ナノメートル〜約50マイクロメートル、または約50ナノメートル〜約30マイクロメートル、または約50nm〜約5マイクロメートル、または約80nm〜約1マイクロメートルであってもよい。
【0048】
加熱の前に、パラジウム塩またはパラジウムアミン錯体を含有するコーティングは、電気絶縁性であってもよく、または非常に低い電気伝導率を有していてもよい。加熱は、パラジウムの電気伝導性層をもたらす。加熱によって生じたパラジウム層の伝導率は、例えば、約100ジーメンス/センチメートル(「S/cm」)を超え、約1000S/cmを超え、約2,000S/cmを超え、約5,000S/cmを超え、または約10,000S/cmを超え、または50,000S/cmを超える。
【0049】
一部の実施形態において、加熱の前に、パラジウム塩またはパラジウムアミン錯体を含むコーティングは、非晶質層である。
【0050】
他の実施形態において、パラジウム層は伝導性でない。加熱によりパラジウム錯体のパラジウムへの分解が生じるが、他のイオン(塩由来)の存在または残留量のオルガノアミンおよびその分解された形態の存在のために、または前駆体組成物中の絶縁添加剤、例えばポリマーの存在のために、パラジウム層は必ずしも伝導性でない場合がある。しかし、パラジウム層は、光沢のある金属性白色を有する。
【0051】
一部の実施形態において、還元剤は、対象物または基板上にパラジウム層を調製および獲得するために必要でない場合がある。故に、こうした還元剤は、パラジウム前駆体組成物中に存在せず、追加の処理工程として別に添加されない。
【0052】
特定の実施形態において、パラジウム前駆体組成物は、1つ以上のパラジウム塩、1つ以上のオルガノアミンおよび1つ以上の溶媒から本質的になる。前駆体組成物は、溶液処理可能な基本的な特徴を有する。前駆体組成物は、還元剤を含有しない。特定の実施形態において、オルガノアミンは一級モノアミンである。
【0053】
本明細書に使用されるプロセスはワイヤをコーティングするために使用できることが、特に想定される。いかなるワイヤも、ワイヤの直径、形状、または長さに拘わらず、パラジウム組成物でコーティングできることに留意すべきである。有機材料(例えば、プラスチック)および無機材料(例えば銅)の両方は、ワイヤのための基板として使用できる。ワイヤは、そのまま(すなわち他の層で被覆されていない)であってもよい、またはコアの周りの他の層の追加によって絶縁されてもよい。ワイヤは、一本鎖(すなわち中実)、複数鎖、および/または捻じれていてもよい。例示的な無機材料としては、銅、アルミニウム、タングステン、酸化亜鉛、ケイ素などのような金属が挙げられる。例示的なプラスチックワイヤとしては、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミド(Nylor)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリアクリレートなどから製造されるワイヤが挙げられる。
【0054】
場合により、受容層は、パラジウム前駆体組成物を通して対象物(すなわちワイヤ)を引き込む前に適用できる。受容層は、対象物に前駆体組成物の接着を向上させてもよい。いずれかの好適な受容層が使用できる。例示的な受容層は、例えばシラン、特にアミノ基を含むシランから形成できる。
【0055】
所望により、追加の層は、パラジウム層の頂部に適用できる(追加の層は、オーバーコート層と称されてもよい)。当該技術分野において既知のいずれかの層、特に良好な引掻耐性を有する材料を適用してもよい。いくつかの実施形態において、オーバーコート層を形成するために使用できる材料としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリシロキサン、ポリ(シルセスキオキサン)などが挙げられる。ポリシロキサンおよびポリ(シルセスキオキサン)前駆体(例えば、ゾル−ゲル手法)は、高度に架橋したポリシロキサンまたはポリ(シルセスキオキサン)オーバーコート層を形成するために使用できる。一部の特定の実施形態において、オーバーコート層は、架橋ポリシロキサン、架橋ポリ(シルセスキオキサン)、またはポリ(ビニルフェノール)を含む架橋層およびメラミン−ホルムアルデヒド樹脂である。オーバーコート層の厚さは、例えば約10nm〜約10マイクロメートル(約10nm〜約5マイクロメートル、または約50nm〜約1マイクロメートルを含む)であってもよい。いくつかの実施形態において、オーバーコート層は可視光に対して透明である。換言すれば、オーバーコート層は無色である。これは、パラジウム層の視覚化を確実にする。
【0056】
図1は、本明細書に記載されるプロセスを例示する概略図である。工程100において、パラジウム前駆体コーティング溶液12は容器14にある。ワイヤ20は、ワイヤ上のコーティング22を形成するためにコーティング溶液中に引き込まれる。これによりワイヤの連続製造が可能になることに留意する。次に工程200において、コーティング22は熱への曝露によりアニーリングされる。成果物は、パラジウム層32を有するワイヤ30である。オリジナルワイヤ20は、パラジウム層が位置する基板として作用する。
【0057】
図2は、最終ワイヤ30の断面図である。オリジナルワイヤ20は中央にある。上述されたように、このオリジナルワイヤ20は、コア21、およびパラジウム層を受容する前の他の層を含んでいてもよい。例えば、オリジナルワイヤは、受容層23を含んでいてもよい。パラジウム層32はワイヤ20を覆う。オーバーコート層34はパラジウム層32を取り囲んでもよい。
【0058】
パラジウム前駆体組成物中にワイヤを引き込む前にワイヤを洗浄するのが望ましい場合がある。これは、例えばワイヤをイソプロパノールで拭き取る、またはワイヤの表面にプラズマ処理を用いることによって行うことができる。これは、均一コーティングを維持するのを助ける。
【0059】
次の実施例は、本開示をさらに例示するためのものである。実施例は、例示にすぎず、開示に従って製造されたデバイスを、そこに記載される材料、条件またはプロセスパラメータに限定することを意図しない。
【実施例】
【0060】
(比較例)
酢酸パラジウム(トリマー)をAlfa Aesarから購入した。0.1グラムの酢酸パラジウムを0.7グラムのトルエンに添加した。塩は、部分的に可溶性であり、橙褐色を示した。
【0061】
(実施例1)
酢酸パラジウム(トリマー)をAlfa Aesarから購入した。0.1グラムの酢酸パラジウムを0.7グラムのトルエンに添加した。次いで0.22グラムのオクチルアミンを混合物に添加し、次いで混合物を振とうした。パラジウム塩の不溶性部分を溶解して、非常に安定な淡黄色溶液を形成した。
【0062】
(試験)
比較例および実施例1の溶液を、グラススライドにそれぞれスピンコーティングし、フィルムを形成した。実施例1の溶液は、結晶化も沈殿も生じることなく均一なフィルムを形成した。対照的に、比較例の溶液は、スピンコーティング後に塩の沈殿を伴って不均一なフィルムを形成した。
【0063】
200〜250℃で数分間加熱した後、実施例1のフィルムは、最初の黒色から、次いで艶のある金属色に変化した。パラジウム薄膜は、2つのプローブ測定によって、約1.0x104S/cmと見積もられる伝導率を有し、非常に伝導性であることが測定された。
【0064】
(実施例2)
銅ワイヤを、実施例1の溶液に浸漬させ、パラジウム前駆体組成物でワイヤ表面をコーティングした。溶液を徐々に引き出した後、ワイヤを、還元ガス(4.5%の窒素中水素)下、オーブン中で200℃に5分間加熱した。艶のある金属性白色ワイヤが得られたが、それは図3からわかる。パラジウムコーティングは、溶媒、例えばイソプロピルアルコール(IPA)およびトルエンで洗浄した場合、非常に堅牢性であった、すなわちコーティングは溶解も剥がれ落ちもしなかった。パラジウムコーティングはまた、機械的摩擦下での損傷に抵抗性であった。
【0065】
(実施例3)
酢酸パラジウム(トリマー)をAlfa Aesarから購入した。0.1グラムの酢酸パラジウムを0.7グラムの安息香酸ベンジルに添加した。次いで0.22グラムのオクチルアミンを混合物に添加し、次いで混合物を振とうした。パラジウム塩の不溶性部分を溶解して、非常に安定な淡黄色溶液を形成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム塩、オルガノアミン、および水不混和性の有機溶媒を含むパラジウム前駆体組成物。
【請求項2】
基板上にパラジウム層を形成するためのプロセスであって、
パラジウム塩、オルガノアミン、および水不混和性の有機溶媒を含むパラジウム前駆体組成物を受容する工程と、
前記基板を前記パラジウム前駆体組成物で溶液コーティングする工程と、
前記パラジウム前駆体組成物を加熱し、パラジウム層を形成する工程と、を含むプロセス。
【請求項3】
対象物上に電気伝導性パラジウム層を形成するプロセスであって、
少なくとも1つのパラジウム塩、少なくとも1つのオルガノアミン、および少なくとも1つの水不混和性有機溶媒を含むパラジウム前駆体溶液を受容する工程と、
前記対象物を前記パラジウム前駆体溶液で溶液コーティングし、前記対象物上に非晶質コーティングを形成する工程と、
前記非晶質コーティングを加熱して、電気伝導性パラジウム層を形成する工程と、を含むプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−251241(P2012−251241A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109710(P2012−109710)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】