パルス噴霧熱分解方法及び装置
【課題】パルスジェットと噴霧原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させることができるため、噴霧器により得られた原料の噴霧液滴をパルスジェットに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる際、より結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産することができるパルス噴霧熱分解方法及び装置を提供する。
【解決手段】パルス燃焼器1から発生したパルスジェット9に、噴霧器22から噴霧した原料液滴23を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法である。パルス燃焼器1の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器22から噴霧された原料液滴23を、パルスジェット9の噴出方向Xの側面から接触させる。
【解決手段】パルス燃焼器1から発生したパルスジェット9に、噴霧器22から噴霧した原料液滴23を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法である。パルス燃焼器1の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器22から噴霧された原料液滴23を、パルスジェット9の噴出方向Xの側面から接触させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス噴霧熱分解方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料や光学機能材料の分野では、その原料粉末をナノスケール(100nm以下)に微細化を図ることで、微細加工、性能の向上などが期待されている。例えば、ガス・センサにおいては、原料粉末の粒径を微細化することにより、作動可能温度の低下、感度、応答性の向上が期待されている。
【0003】
例えば、酸化亜鉛のナノ粒子は、紫外線遮蔽能に優れ、また、特有の発光能を有すること等から、各種材料の充填材、顔料、紫外線遮蔽膜、反射防止膜、発光膜等の光学機能膜等として各種用途に用いられている。
【0004】
従来のナノサイズの金属酸化物微粉末の製造方法は、大きく分けて、気相合成法と液相合成法に分けられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、気相中で原料をプラズマにより化学反応させ粒子を生成させる方法(CVD法)等の気相合成法の技術が、特許文献2には、ゾルゲル法、均一沈殿法、水熱合成法等といった液相合成法の技術や原料液滴を高温の雰囲気下に噴霧して熱分解させることにより球状粒子を生成させる噴霧熱分解法が、引用文献3には、パルス燃焼ガスによる金属酸化物粉末の製造方法の技術が、引用文献4には、パルス燃焼システムによって得られたパルス燃焼ガスによるアルカリ金属の微粒子製造方法の技術がそれぞれ開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、製造コストが高く、工業化が困難であり、引用文献2の技術では、噴霧にネブライザーのような超音波振動子を利用し、その噴霧する液滴の大きさにより粒子径が決まるため、原料を希薄溶液から製造する必要があり、工業的にコストが高く、量産化が困難であった。
【0007】
また、特許文献3の技術では、パルスリアクタだけでの加熱では結晶化が不充分であり、後加熱処理を加えた場合においても、金属酸化物微粒子が粒子凝集しやすく、ナノサイズの金属酸化物微粒子を得るためには、後処理で得られた粉末をエアジェットミルなどの粉砕機を用いて粉砕する必要であり、製造システムが煩雑化するという問題があった。
【0008】
更に、特許文献4には、単にパルス燃焼システムによって得られたパルス燃焼ガスによるアルカリ金属の微粒子を製造することが記載されているにすぎず、特許文献3同様、パルス燃焼システムによる加熱では結晶化が不充分であるという技術的課題の認識がない。従って、特許文献4の技術では、ミクロンオーダーでの微粒子は得られるものの、ナノオーダーの単結晶を得るのは困難であった。
【0009】
以上の問題点を解決するために、特許文献5には、金属酸化物前駆体溶液を噴霧する工程、噴霧された金属酸化物前駆体溶液をパルス燃焼ガス(パルスジェット)に接触させると同時に高温雰囲気下で熱分解させる工程からなる金属酸化物微粉末およびその製造方法および製造システム(パルス噴霧熱分解装置)が開示されている。
【0010】
ここで、特許文献5の技術では、原料が瞬間的に微細な液滴に分割(噴霧)され、さらに同時に熱分解炉などの高温雰囲気下に微細化された液滴を滞留させることで、噴霧された原料無機金属前駆体を導入されている空気中の酸素と反応させることにより、凝集の少ない単結晶の分散した、結晶化度の高いナノサイズの金属酸化物微粒子を、原料の噴霧形態や処理量に影響されることが少なく、工業的に量産することを実現したものである。
【0011】
しかしながら、引用文献5の技術では、例えば、図4に示すように、パルスジェットを発生するパルスエンジン(パルス燃焼器)1の直下に、噴霧器106が設置されており、実使用時に、パルスジェットが噴霧器106(例えば、噴霧ノズル102、気体供給管104及び原液供給管105)に遮られてしまうため、パルスジェット9の効果が低減されるとともに、噴霧ノズル106の保護(火炎によるノズルの劣化防止)のため、パルスジェットの噴出口8から、パルスジェット9が減衰する離れた位置で原液の噴霧をしているため、パルスジェット9と原料液滴107との接触が効率的でなく、パルスジェット9と原料の噴霧液滴107とのエネルギー効率が良好でないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−132716号公報
【特許文献2】特開2003−19427号公報
【特許文献3】特表2004−526653号公報
【特許文献4】特開平8−40720号公報
【特許文献5】特開2008−303111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、パルスジェットと噴霧原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させることができるため、噴霧器により得られた原料の噴霧液滴をパルスジェットに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる際、より結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産することができるパルス噴霧熱分解方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下のパルス噴霧熱分解方法及び装置を提供するものである。
【0015】
即ち、本発明によれば、パルス燃焼器から発生したパルスジェットに、噴霧器から噴霧した原料液滴を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法であって、パルス燃焼器の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器から噴霧された原料液滴を、パルスジェットの噴出方向の側面から接触させるパルス噴霧熱分解方法が提供される。
【0016】
このとき、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、1〜10個(更に好ましくは、2〜6個)であることが好ましく、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、パルス燃料器の周囲に対して例えば対角線状、四方又は正三角形状のように均等配置されていることが好ましい。
【0017】
また、噴霧器から噴霧された原料液滴は、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°になるように噴霧することが好ましい。
【0018】
更に、パルスジェットは、周波数範囲100〜1000Hz、音圧100〜180デシベルおよび接触ガス温度100〜1000℃で、パルスジェットとの接触時間が0.01〜50秒であり、高温雰囲気が200〜1600℃であることが好ましい。
【0019】
尚、本発明で得られる原料由来の微粒子は、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有することが好ましく、その原料由来の微粒子から得られた製品の一次粒径は、2〜50nmであることが好ましい。
【0020】
また、本発明によれば、パルスジェットを発生させるパルス燃焼器と、前記パルス燃焼器の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴を前記パルスジェットの噴出方向の側面から噴霧する噴霧器と、前記パルス燃焼器と前記噴霧器とがそれぞれ配置され、且つ、前記パルスジェットと前記原料液滴とを接触させる接触乾燥室と、前記接触乾燥室の下部に連通され、且つ前記パルスジェットに由来する音波と高温雰囲気下で、前記原料液滴を熱分解させる熱分解炉と、前記熱分解炉で得られた原料由来の微粒子を捕集するための捕集装置と、を備えるパルス噴霧熱分解装置が提供される。
【0021】
このとき、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、1〜10個(更に好ましくは、2〜6個)であることが好ましく、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、パルス燃料器の周囲に対して対角線状、四方又は正三角形状のように均等配置されていることが好ましい。
【0022】
また、噴霧器は、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°の角度になるように、パルス燃焼器の周囲に配置することが好ましい。
【0023】
更に、噴霧器は、二流体ノズル、加圧ノズル、加圧二流体ノズルのいずれか1種を用いたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、パルスジェットと噴霧原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させることができるため、噴霧器により得られた原料の噴霧液滴をパルスジェットに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる際、より結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例を示す要部概略図である。
【図2A】図1のA−A断面図の一例である。
【図2B】図1のA−A断面図の他の例である。
【図2C】図1のA−A断面図の別の例である。
【図3】本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例(図1参照)を示す概略図である。
【図4】従来のパルス噴霧熱分解装置の一例を示す要部概略図である。
【図5】従来のパルス噴霧熱分解装置の一例(図4参照)を示す概略図である。
【図6】実施例1、実施例2及び比較例で得られた金属酸化物微粒子のX線回折測定の結果である。
【図7A】実施例1で得られた金属酸化物微粒子の状態の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7B】実施例1で得られた金属酸化物微粒子の状態の他の例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8A】実施例2で得られた金属酸化物微粒子の状態の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8B】実施例2で得られた金属酸化物微粒子の状態の他の例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置を具体的な実施形態に基づき詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0027】
本発明のパルス噴霧熱分解方法は、パルス燃焼器から発生したパルスジェットに、噴霧器から噴霧した原料液滴を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法であって、パルス燃焼器の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器から噴霧された原料液滴を、パルスジェットの噴出方向の側面から接触させることにある。
【0028】
これにより、本発明のパルス噴霧熱分解方法は、パルスジェットと噴霧原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させることができるため、噴霧器により得られた原料の噴霧液滴をパルスジェットに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる際、より結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産することができる。
【0029】
次に、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置について、図面に基づいて更に詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例を示す要部概略図、図2A〜図2Cは図1のA−A断面図の各例であり、図3は本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例(図1参照)を示す概略図である。
【0031】
本発明のパルス噴霧熱分解装置は、図1及び図3に示すように、熱風と強力な音波から主に形成されるパルスジェット9を発生させるパルス燃焼器1と、パルス燃焼器1の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴をパルスジェット9の噴出方向Xの側面から噴霧する噴霧器22と、パルス燃焼器1と噴霧器22とがそれぞれ配置され、且つ、パルスジェット9と原料液滴23とを接触させる接触乾燥室24と、接触乾燥室24の下部に連通され、且つ前記パルスジェットに由来する音波と高温雰囲気下で熱分解させる熱分解炉30と、熱分解炉30で得られた原料由来の微粒子を捕集するための捕集装置50と、を備えたものである。尚、本発明のパルス噴霧熱分解装置には、熱分解炉30から得られた原料由来の微粒子を、捕集装置(バグフィルター)50へ搬送するための搬送路40とファン60が配置されている。
【0032】
尚、本発明のパルス噴霧熱分解装置は、図1に示すように、パルス燃焼器1及びその周辺機器を収容したパルスジェット発生ユニット10と、パルスジェット発生ユニット10の周囲に噴霧器22が配置された接触乾燥化ユニット20と、接触乾燥化ユニット20から得られた微粒化原料液滴を流通させる反応管32と、反応管32を加熱するため加熱ユニット34を有する熱分解炉30と、から主に構成されている。
【0033】
このとき、本発明のパルス噴霧熱分解装置の主な特徴としては、図1に示すように、パルスジェットを発生させるパルス燃焼器1と、パルス燃焼器1の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴23をパルスジェットの噴出方向Xの側面から噴霧する噴霧器22と、パルス燃焼器1と噴霧器22とがそれぞれ配置され、且つ、パルスジェット9と原料液滴23とを接触させる接触乾燥室24とを備えていることにある。
【0034】
これにより、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、従来のパルス噴霧熱分解装置(図4参照)のように、パルスジェットを発生するパルス燃焼器の直下に、噴霧器が設置されていないため、実使用時に、パルスジェットが噴霧器に遮られることなく、パルス燃焼器のパルスジェットの効果が十分得られる位置に、パルスジェットの側面から原料液滴を適切に導入することができるため、パルスジェットと原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴との接触効率を向上させることができる。その結果、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、従来のパルス噴霧熱分解装置(図4参照)と比較して、より結晶化度の高い製品(微粒子)を得ることができる。
【0035】
また、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、図1に示すように、パルス燃焼器1(パルスジェット噴出ノズル8)の周囲に配置された噴霧器22が1〜10個であることが好ましく、更に、2〜6個であることが好ましい。パルス燃焼器1(パルスジェット噴出ノズル8)の周囲に配置された噴霧器22は、パルス燃料器1の周囲に対して例えば対角線状(図2A参照)、四方(図2B参照)又は正三角形状(図2C参照)のように均等配置されていることが好ましい。これにより、パルスジェットに均等に原料液滴を接触させることができるからである。
【0036】
更に、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、図1に示すように、噴霧器22から噴霧された原料液滴がパルスジェット9の噴出方向Xに対して、10〜50°の角度θになるように噴霧するため、噴霧器22がパルスジェット9の噴出方向Xに対して、10〜50°の角度θになるように、パルス燃焼器1の周囲に配置することが好ましい。
【0037】
これは、噴霧器から噴霧された原料液滴の角度θが10°未満である場合、パルスジェットとの最適な条件での接触を十分に行うことができず、一方、噴霧器から噴霧された原料液滴の角度θが50°を超過する場合、パルスジェットとの接触が困難であるとともに、接触乾燥室24の壁面に付着して、安定運転に支障をきたす可能性があるからである。
【0038】
尚、本発明で用いる噴霧器は、二流体ノズル、加圧ノズル、加圧二流体ノズルのいずれか1種を用いることが好ましい。
【0039】
二流体ノズル方式は、液状原料に圧縮空気を衝突させ、微粒化させる方法を採用するものである。設置スペースをとらず、小型の微粒子乾燥装置に適している。また、比較的高粘度の微粒化に適しており、細かい粒子を得ることができる。他方、圧縮空気を使用するため、ランニングコスト面で負担がかかるため、微粒子の大量処理には不向きである。
【0040】
加圧ノズル方式は、中、高圧ポンプで送液された原料を、コア(旋回室)、オリフィスを内蔵したノズルで微粒化するものである。コア(旋回室)で旋回力を与えられた液状原料は、オリフィスの内壁で旋回し、乾燥室内の空気中、或いは窒素雰囲気中に飛び出すときに、円環状のホロコーンを形成する。このコーンの膜厚が薄いほど微粒化が促進され、細かい液滴径を得ることができる。加圧ノズル方式は単純な構造となるため、設備費、維持費を安くでき、条件が一定となる大量生産用として適している。また、噴霧される微粒子の平均径は、ポンプ吐出圧力で調整しやすいといった利便性を有している。
【0041】
加圧二流体ノズル方式は、加圧ノズルの先端から高速の空気を噴出させることによって、圧力ノズルで微粒化した液滴をさらに、微粒化可能とする。また、前述の加圧ノズルに比べ、噴霧圧を低くできる。例えば、空気圧を20〜30kPa程度の低い圧力でも微粒化可能であるため、利便性がある。更に、アシスト空気の導入により、運転中の液滴制御も可能となるため、好ましい。
【0042】
ここで、本発明で用いるパルス燃焼器は、燃焼室に燃料を供給する工程(1)、爆発による衝撃及び熱風が発生する工程(2)、吸気・混合工程(3)の三工程を、通常毎秒50〜1000回のサイクルで脈動させることにより、熱風と急速な脈動作用による物理的衝撃特性(音波力及び圧力を含む)を有するパルスジェットを発生させるものである。
【0043】
更に詳細には、本発明で用いるパルス燃焼器は、図1に示すように、燃焼室6に、空気供給管2を介して空気およびガス供給管3を介して燃料が供給される。次に、イグニッションプラグ4を用いて点火する。燃焼は爆発を伴い、燃焼室6下部につながるテール部(パルスジェット噴射ノズル8)から排出される。
【0044】
上記爆発により、燃焼室6の内部は高圧となり、一時的に空気および燃料の供給が止まる。また。爆発で生じる高温のパルスジェット9は、そのほとんどがテール部(パルスジェット噴射ノズル8)から接触乾燥室24(テール部)側へ排気される。その後、再び燃焼室6の内部の圧力が低下することにより、前述のパルスジェット9の一部が逆流するとともに、再び空気および燃料が供給され、燃焼室6自身の充分熱せられた壁との接触もしくはイグニッションプラグ4による点火により再び爆発が起こる。同様にして、この動作は連続的に繰り返され、一旦燃焼室6が所定の温度に達すると、以後はイグニッションプラグ4を用いずとも燃焼室内の残り火により自動的に点火する。
【0045】
このようにしてパルス燃焼器1内に発生するパルスジェット9は、主として燃焼室6から接触乾燥室24側の方向に伝わる強い音波を発生する。同時に、爆発の繰り返しによって高温ガスの衝撃流が得られる。
【0046】
パルス燃焼器1により発生するパルスジェット9の周波数範囲は、好ましくは100〜1000Hz、より好ましくは100〜900Hz、さらに好ましくは125〜550Hzである。周波数が100Hz未満であると、低周波数による振動障害を生じるおそれがある。また、周波数が1000Hzを超えると、充分な微細化効果を得ることができない傾向がある。
【0047】
パルスジェット9の音圧は、好ましくは100〜180dB、より好ましくは120〜160dB、さらに好ましくは140〜150dBである。音圧が100dB未満であると、分散した粒子近傍での音波による空気の繰返し減圧作用による充分な撹拌作用や乾燥作用が得られない傾向がある。また、音圧が、180dBを超えると、防音対策に多大の費用を要する傾向がある。
【0048】
パルスジェット9の接触ガス温度は、好ましくは100〜700℃、より好ましくは150〜600℃、さらに好ましくは200〜500℃である。接触ガス温度が100℃未満であると、衝撃波が安定せず、微粒子化が不充分となる傾向がある。また、接触ガス温度が700℃を超えると、装置として保温等の付帯設備が大きくなり、微細化させる速度以上に乾燥が進行するため、充分な微細化が行われない可能性がある。
【0049】
また、本発明で用いる熱分解炉は、電気炉、雰囲気炉、ガス炉または電磁誘導炉などがあげられるが、これらに限定されるものではない。またその形状としては、伝熱と気流の流れを考慮し、セラミックス等の耐熱性を持つ管状炉があげられるが、これに限定されるものではない。電気制御式のセラミックス製管状電気炉は、温度制御、耐熱耐食等の観点でより好ましい。
【0050】
尚、高温雰囲気は、空気中や酸素を含む気体中で行なわれる。雰囲気温度は、例えば、無機金属酸化物の場合、無機金属酸化物の結晶化温度以上であれば、用途に応じて、生成する結晶系、粒子の大きさおよび凝集の度合いなどが好ましい範囲となるよう適宜選択される。焼成温度としては、200〜1400℃が好ましく、300〜1000℃がより好ましい。焼成温度が低い場合は、結晶化が進まない傾向がある。一方、焼成温度が高すぎると、異常粒成長などが生じる傾向がある。
【0051】
得られた原料由来の微粒子の捕集方法としては、公知の捕集方法を用いることができ、例えば、サイクロンやバグフィルターを用いるフィルター式や、静電捕集器を用いる静電捕集式などがあげられる。得られる微粒子の粒径により、工業的にはバグフィルターが好ましい。
【0052】
ここで、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置では、パルス燃焼器1から発生したパルスジェット9に、噴霧器22から噴霧した原料液滴23を接触させることにより、パルスジェット9の音波と熱風で、原料液滴23を乾燥しつつ、更に熱分解炉30内で、パルスジェット9に由来する音波と高温雰囲気下で熱分解することにより、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有する原料由来の微粒子を得ることができる。
【0053】
本発明で得られた原料由来の微粒子は、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有しているため、捕集手段(サイクロンやバグフィルター)で回収される際、更に微細結晶粒がバラバラとなった状態の、最終的な製品を得ることができる。このとき、前記原料由来の微粒子の平均粒径は、1〜100μmであることが好ましく、さらに2〜50μmであることがより好ましい。これは、微粒子の平均粒径が100μmより大きい場合、最終製品を微細結晶粒として得ることが困難となり、また平均粒径が1μmより小さい場合、噴霧手段の効率が著しく低下するためである。
【0054】
即ち、本発明で最終的に得られる製品は、従来のパルスジェットを使用しない噴霧熱分解方法で得られた微粒子よりも更に、微粒子化されたものであり、結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの微粒子である。
【0055】
一方、従来のパルスジェットを使用しない噴霧熱分解方法で得られた原料由来の微粒子は、主に、結晶質よりもアモルファス等の非晶質構造を有しているため、結晶化度が低く、噴霧器で微粒化された以上に、製品の微粒子径を劇的に小さくことができない。
【0056】
尚、本発明で最終的に得られる製品(微粒子)の平均粒径は、原料の種類、調製した溶液、濃度、パルス衝撃波の条件、用途によって変化するが、1〜200nmが好ましく、さらに2〜50nmがより好ましい。一方、製品の平均粒径が1nmより小さい場合、粒子の凝集が起こりやすい傾向があり、また、製品の平均粒径が200nmより大きい場合、目的とした特性が出にくくなる。
【0057】
また、本発明で最終的に得られる製品は、従来法(例えば、引用文献5参照)と比較して、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察写真より、結晶構造がはっきり現れており、より高い結晶化度を有している。
【0058】
即ち、本発明で最終的に得られる製品(微粒子)は、より高い結晶化度を有することにより、例えば、本発明で最終的に得られる製品が金属酸化物微粒子の場合、従来法(例えば、引用文献5参照)で得られた金属酸化物微粒子と同じ厚さの導電膜を形成した場合、その電気的特性を向上することができるため、より薄い厚さの導電膜であっても同等の電気的特性を得ることができ、電子材料や光学機能材料の作動可能温度の低下、感度、応答性等の性能の向上が期待できる。
【0059】
尚、本発明で得られる原料由来の微粒子としては、例えば、金属酸化物微粒子であり、その金属酸化物としては、例えばZrO2、Y2O3、MgO、CeO2、CaO、Al2O3、SiO2、TiO2、Fe2O3、FeO、NiO、CoO、CuO、ZnO、MnO、PbO、BaO、SrO、Mn2O3、Cr2O3、La2O3、Pr2O3、In2O3、SnO2、WO3、NdO3、やその他の遷移金属酸化物を含めた無機金属酸化物があげられる。また金属酸化物前駆体としては、上記酸化物の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物、水酸化物、アルコキシド化合物などの塩などがあげられる。水溶性塩としては、例えば、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物、水酸化物、アルコキシド化合物などの塩などがあげられ、水難溶性ないしは不溶性塩としては、水酸化物、炭酸塩等があげられる。前駆体としては水溶性の塩が好ましい。これらの化合物は単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの化合物は単独で用いても2種以上の複合無機金属化合物として用いてもよい。
【0060】
無機金属化合物の原料溶液またはスラリーは、これら原料とそれを溶解あるいは分散ないし懸濁させる媒体とを混合することにより調製される。ここで使用される溶媒としては、水、アルコール、水/アルコール混合溶液、メチルエチルケトン/水混合液、トルエンなどをあげることができる。これらの中でも、経済性、安全性の点から、水または水/アルコール混合溶液が好ましい。
【0061】
無機金属化合物を溶解または分散させて、原料溶液およびスラリーにするときの無機金属化合物の固形分濃度は、乾燥物換算で、0.01〜50重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。無機金属化合物の濃度が0.01重量%より小さいと、乾燥物が希釈されるために経済性の点から好ましくない。一方、無機金属化合物の濃度が50重量%より大きいと、スラリーまたは溶液の粘度が上昇し、噴霧することが困難になり、また得られる粒子径が大きくなる傾向がある。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1及び実施例2)
図1及び図3に示すパルス噴霧熱分解装置を用いて、1個の噴霧器22のみ用いた場合(図2A参照)で得られた酸化亜鉛の微粒子の結晶化度を図6に示すとともに、酸化亜鉛の微粒子の状態を図7A及び図7Bに示す(実施例1)。
【0064】
図1及び図3に示すパルス噴霧熱分解装置を用いて、2個の噴霧器22を用いた場合(図2A参照)で得られた酸化亜鉛の微粒子の結晶化度を図6に示すとともに、酸化亜鉛の微粒子の状態を図8A及び図8Bに示す(実施例2)。
【0065】
このとき、噴霧器22は、二流体ノズルを用い、且つ噴霧器22がパルスジェット9の噴出方向Xに対して、45°の角度θになるように、パルス燃焼器1の周囲に配置した(図1参照)。このときの噴霧流量は、(0.4kg/Hr)であった(実施例1及び実施例2)。
【0066】
(比較例)
図4及び図5に示すパルス噴霧熱分解装置を用いて得られた酸化亜鉛の微粒子の結晶化度を図6に示す。噴霧器106は、二流体ノズルを用い、且つ噴霧器106がパルスジェット9の噴出方向Xの直下になるように配置した(図4参照)。このときの噴霧流量は、(0.4kg/Hr)であった。
【0067】
尚、噴霧器から噴霧される原料は、酢酸亜鉛2水和物22gと水978gを混合して、調製された原料となる水溶液である。
【0068】
また、パルス燃焼器1(直径:40mm、長さ150mm)に、燃料(プロパンガス)と空気(供給量:約15L/min)を供給し、着火させた後、パルス燃焼器1内の燃焼にパルス(脈動)を与え、パルスジェットを安定化させて使用した。
【0069】
更に、熱分解炉30内の温度は、400℃に設定し、微粒子の捕集するための捕集装置50としてバグフィルターを使用した。
【0070】
(考察:実施例1及び実施例2、比較例)
図6の結果から、同一面におけるピーク強度及びピーク幅を比較すると、実施例1及び実施例2で得られたX線回折(XRD)測定は、比較例で得られたX線回折(XRD)測定よりもピーク強度が大きく、ピーク幅が小さかった。即ち、実施例1及び実施例2では、比較例よりも更に結晶化度が高い微粒子が得られることが判明した。
【0071】
また、図1及び図3に示すように、原料液滴をパルスジェット9の噴出方向Xの側面から噴霧する場合、図7A及び図7Bに示すように、噴霧器22を1個の場合(実施例1)よりも、図8A及び図8Bに示すように、噴霧器22を2個の場合(実施例2)の方が、より凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの微粒子を得ることを確認した。
【0072】
更に、実施例1及び実施例2は、表1に示すように、比較例と比較して、反応場の温度(熱分解炉(反応場)の入口温度及び出口温度)が高くなっていることから、パルスジェットの効果が低減されることなく、パルスジェットと原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させる可能性を見出せた。
【0073】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、例えば、酸化亜鉛や酸化チタン等の電子材料や光学機能材料である凝集の少ない単結晶の分散した、より結晶化度の高いナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産する上で、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1:パルス燃焼器、2:空気供給管、3:ガス供給管、4:イグニッションプラグ、6:燃焼室、8:パルスジェット噴出ノズル、9:パルスジェット、10:パルスジェット発生ユニット、20:接触乾燥化ユニット、22:噴霧器、23:原料液滴、24:接触乾燥室、30:熱分解炉、32:反応管、34:加熱ユニット、40:搬送路、50:捕集装置(バグフィルター)、60:ファン、100:接触乾燥化ユニット、102:噴霧ノズル、104:気体供給管、105:原液供給管、106:噴霧ノズル、107:噴霧液滴、108:接触乾燥室。
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス噴霧熱分解方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料や光学機能材料の分野では、その原料粉末をナノスケール(100nm以下)に微細化を図ることで、微細加工、性能の向上などが期待されている。例えば、ガス・センサにおいては、原料粉末の粒径を微細化することにより、作動可能温度の低下、感度、応答性の向上が期待されている。
【0003】
例えば、酸化亜鉛のナノ粒子は、紫外線遮蔽能に優れ、また、特有の発光能を有すること等から、各種材料の充填材、顔料、紫外線遮蔽膜、反射防止膜、発光膜等の光学機能膜等として各種用途に用いられている。
【0004】
従来のナノサイズの金属酸化物微粉末の製造方法は、大きく分けて、気相合成法と液相合成法に分けられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、気相中で原料をプラズマにより化学反応させ粒子を生成させる方法(CVD法)等の気相合成法の技術が、特許文献2には、ゾルゲル法、均一沈殿法、水熱合成法等といった液相合成法の技術や原料液滴を高温の雰囲気下に噴霧して熱分解させることにより球状粒子を生成させる噴霧熱分解法が、引用文献3には、パルス燃焼ガスによる金属酸化物粉末の製造方法の技術が、引用文献4には、パルス燃焼システムによって得られたパルス燃焼ガスによるアルカリ金属の微粒子製造方法の技術がそれぞれ開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、製造コストが高く、工業化が困難であり、引用文献2の技術では、噴霧にネブライザーのような超音波振動子を利用し、その噴霧する液滴の大きさにより粒子径が決まるため、原料を希薄溶液から製造する必要があり、工業的にコストが高く、量産化が困難であった。
【0007】
また、特許文献3の技術では、パルスリアクタだけでの加熱では結晶化が不充分であり、後加熱処理を加えた場合においても、金属酸化物微粒子が粒子凝集しやすく、ナノサイズの金属酸化物微粒子を得るためには、後処理で得られた粉末をエアジェットミルなどの粉砕機を用いて粉砕する必要であり、製造システムが煩雑化するという問題があった。
【0008】
更に、特許文献4には、単にパルス燃焼システムによって得られたパルス燃焼ガスによるアルカリ金属の微粒子を製造することが記載されているにすぎず、特許文献3同様、パルス燃焼システムによる加熱では結晶化が不充分であるという技術的課題の認識がない。従って、特許文献4の技術では、ミクロンオーダーでの微粒子は得られるものの、ナノオーダーの単結晶を得るのは困難であった。
【0009】
以上の問題点を解決するために、特許文献5には、金属酸化物前駆体溶液を噴霧する工程、噴霧された金属酸化物前駆体溶液をパルス燃焼ガス(パルスジェット)に接触させると同時に高温雰囲気下で熱分解させる工程からなる金属酸化物微粉末およびその製造方法および製造システム(パルス噴霧熱分解装置)が開示されている。
【0010】
ここで、特許文献5の技術では、原料が瞬間的に微細な液滴に分割(噴霧)され、さらに同時に熱分解炉などの高温雰囲気下に微細化された液滴を滞留させることで、噴霧された原料無機金属前駆体を導入されている空気中の酸素と反応させることにより、凝集の少ない単結晶の分散した、結晶化度の高いナノサイズの金属酸化物微粒子を、原料の噴霧形態や処理量に影響されることが少なく、工業的に量産することを実現したものである。
【0011】
しかしながら、引用文献5の技術では、例えば、図4に示すように、パルスジェットを発生するパルスエンジン(パルス燃焼器)1の直下に、噴霧器106が設置されており、実使用時に、パルスジェットが噴霧器106(例えば、噴霧ノズル102、気体供給管104及び原液供給管105)に遮られてしまうため、パルスジェット9の効果が低減されるとともに、噴霧ノズル106の保護(火炎によるノズルの劣化防止)のため、パルスジェットの噴出口8から、パルスジェット9が減衰する離れた位置で原液の噴霧をしているため、パルスジェット9と原料液滴107との接触が効率的でなく、パルスジェット9と原料の噴霧液滴107とのエネルギー効率が良好でないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−132716号公報
【特許文献2】特開2003−19427号公報
【特許文献3】特表2004−526653号公報
【特許文献4】特開平8−40720号公報
【特許文献5】特開2008−303111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、パルスジェットと噴霧原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させることができるため、噴霧器により得られた原料の噴霧液滴をパルスジェットに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる際、より結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産することができるパルス噴霧熱分解方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下のパルス噴霧熱分解方法及び装置を提供するものである。
【0015】
即ち、本発明によれば、パルス燃焼器から発生したパルスジェットに、噴霧器から噴霧した原料液滴を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法であって、パルス燃焼器の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器から噴霧された原料液滴を、パルスジェットの噴出方向の側面から接触させるパルス噴霧熱分解方法が提供される。
【0016】
このとき、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、1〜10個(更に好ましくは、2〜6個)であることが好ましく、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、パルス燃料器の周囲に対して例えば対角線状、四方又は正三角形状のように均等配置されていることが好ましい。
【0017】
また、噴霧器から噴霧された原料液滴は、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°になるように噴霧することが好ましい。
【0018】
更に、パルスジェットは、周波数範囲100〜1000Hz、音圧100〜180デシベルおよび接触ガス温度100〜1000℃で、パルスジェットとの接触時間が0.01〜50秒であり、高温雰囲気が200〜1600℃であることが好ましい。
【0019】
尚、本発明で得られる原料由来の微粒子は、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有することが好ましく、その原料由来の微粒子から得られた製品の一次粒径は、2〜50nmであることが好ましい。
【0020】
また、本発明によれば、パルスジェットを発生させるパルス燃焼器と、前記パルス燃焼器の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴を前記パルスジェットの噴出方向の側面から噴霧する噴霧器と、前記パルス燃焼器と前記噴霧器とがそれぞれ配置され、且つ、前記パルスジェットと前記原料液滴とを接触させる接触乾燥室と、前記接触乾燥室の下部に連通され、且つ前記パルスジェットに由来する音波と高温雰囲気下で、前記原料液滴を熱分解させる熱分解炉と、前記熱分解炉で得られた原料由来の微粒子を捕集するための捕集装置と、を備えるパルス噴霧熱分解装置が提供される。
【0021】
このとき、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、1〜10個(更に好ましくは、2〜6個)であることが好ましく、パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器は、パルス燃料器の周囲に対して対角線状、四方又は正三角形状のように均等配置されていることが好ましい。
【0022】
また、噴霧器は、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°の角度になるように、パルス燃焼器の周囲に配置することが好ましい。
【0023】
更に、噴霧器は、二流体ノズル、加圧ノズル、加圧二流体ノズルのいずれか1種を用いたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、パルスジェットと噴霧原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させることができるため、噴霧器により得られた原料の噴霧液滴をパルスジェットに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる際、より結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例を示す要部概略図である。
【図2A】図1のA−A断面図の一例である。
【図2B】図1のA−A断面図の他の例である。
【図2C】図1のA−A断面図の別の例である。
【図3】本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例(図1参照)を示す概略図である。
【図4】従来のパルス噴霧熱分解装置の一例を示す要部概略図である。
【図5】従来のパルス噴霧熱分解装置の一例(図4参照)を示す概略図である。
【図6】実施例1、実施例2及び比較例で得られた金属酸化物微粒子のX線回折測定の結果である。
【図7A】実施例1で得られた金属酸化物微粒子の状態の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7B】実施例1で得られた金属酸化物微粒子の状態の他の例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8A】実施例2で得られた金属酸化物微粒子の状態の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8B】実施例2で得られた金属酸化物微粒子の状態の他の例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置を具体的な実施形態に基づき詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0027】
本発明のパルス噴霧熱分解方法は、パルス燃焼器から発生したパルスジェットに、噴霧器から噴霧した原料液滴を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法であって、パルス燃焼器の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器から噴霧された原料液滴を、パルスジェットの噴出方向の側面から接触させることにある。
【0028】
これにより、本発明のパルス噴霧熱分解方法は、パルスジェットと噴霧原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させることができるため、噴霧器により得られた原料の噴霧液滴をパルスジェットに接触させると同時に高温雰囲気下に接触させる際、より結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産することができる。
【0029】
次に、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置について、図面に基づいて更に詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例を示す要部概略図、図2A〜図2Cは図1のA−A断面図の各例であり、図3は本発明のパルス噴霧熱分解装置の一例(図1参照)を示す概略図である。
【0031】
本発明のパルス噴霧熱分解装置は、図1及び図3に示すように、熱風と強力な音波から主に形成されるパルスジェット9を発生させるパルス燃焼器1と、パルス燃焼器1の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴をパルスジェット9の噴出方向Xの側面から噴霧する噴霧器22と、パルス燃焼器1と噴霧器22とがそれぞれ配置され、且つ、パルスジェット9と原料液滴23とを接触させる接触乾燥室24と、接触乾燥室24の下部に連通され、且つ前記パルスジェットに由来する音波と高温雰囲気下で熱分解させる熱分解炉30と、熱分解炉30で得られた原料由来の微粒子を捕集するための捕集装置50と、を備えたものである。尚、本発明のパルス噴霧熱分解装置には、熱分解炉30から得られた原料由来の微粒子を、捕集装置(バグフィルター)50へ搬送するための搬送路40とファン60が配置されている。
【0032】
尚、本発明のパルス噴霧熱分解装置は、図1に示すように、パルス燃焼器1及びその周辺機器を収容したパルスジェット発生ユニット10と、パルスジェット発生ユニット10の周囲に噴霧器22が配置された接触乾燥化ユニット20と、接触乾燥化ユニット20から得られた微粒化原料液滴を流通させる反応管32と、反応管32を加熱するため加熱ユニット34を有する熱分解炉30と、から主に構成されている。
【0033】
このとき、本発明のパルス噴霧熱分解装置の主な特徴としては、図1に示すように、パルスジェットを発生させるパルス燃焼器1と、パルス燃焼器1の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴23をパルスジェットの噴出方向Xの側面から噴霧する噴霧器22と、パルス燃焼器1と噴霧器22とがそれぞれ配置され、且つ、パルスジェット9と原料液滴23とを接触させる接触乾燥室24とを備えていることにある。
【0034】
これにより、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、従来のパルス噴霧熱分解装置(図4参照)のように、パルスジェットを発生するパルス燃焼器の直下に、噴霧器が設置されていないため、実使用時に、パルスジェットが噴霧器に遮られることなく、パルス燃焼器のパルスジェットの効果が十分得られる位置に、パルスジェットの側面から原料液滴を適切に導入することができるため、パルスジェットと原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴との接触効率を向上させることができる。その結果、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、従来のパルス噴霧熱分解装置(図4参照)と比較して、より結晶化度の高い製品(微粒子)を得ることができる。
【0035】
また、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、図1に示すように、パルス燃焼器1(パルスジェット噴出ノズル8)の周囲に配置された噴霧器22が1〜10個であることが好ましく、更に、2〜6個であることが好ましい。パルス燃焼器1(パルスジェット噴出ノズル8)の周囲に配置された噴霧器22は、パルス燃料器1の周囲に対して例えば対角線状(図2A参照)、四方(図2B参照)又は正三角形状(図2C参照)のように均等配置されていることが好ましい。これにより、パルスジェットに均等に原料液滴を接触させることができるからである。
【0036】
更に、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、図1に示すように、噴霧器22から噴霧された原料液滴がパルスジェット9の噴出方向Xに対して、10〜50°の角度θになるように噴霧するため、噴霧器22がパルスジェット9の噴出方向Xに対して、10〜50°の角度θになるように、パルス燃焼器1の周囲に配置することが好ましい。
【0037】
これは、噴霧器から噴霧された原料液滴の角度θが10°未満である場合、パルスジェットとの最適な条件での接触を十分に行うことができず、一方、噴霧器から噴霧された原料液滴の角度θが50°を超過する場合、パルスジェットとの接触が困難であるとともに、接触乾燥室24の壁面に付着して、安定運転に支障をきたす可能性があるからである。
【0038】
尚、本発明で用いる噴霧器は、二流体ノズル、加圧ノズル、加圧二流体ノズルのいずれか1種を用いることが好ましい。
【0039】
二流体ノズル方式は、液状原料に圧縮空気を衝突させ、微粒化させる方法を採用するものである。設置スペースをとらず、小型の微粒子乾燥装置に適している。また、比較的高粘度の微粒化に適しており、細かい粒子を得ることができる。他方、圧縮空気を使用するため、ランニングコスト面で負担がかかるため、微粒子の大量処理には不向きである。
【0040】
加圧ノズル方式は、中、高圧ポンプで送液された原料を、コア(旋回室)、オリフィスを内蔵したノズルで微粒化するものである。コア(旋回室)で旋回力を与えられた液状原料は、オリフィスの内壁で旋回し、乾燥室内の空気中、或いは窒素雰囲気中に飛び出すときに、円環状のホロコーンを形成する。このコーンの膜厚が薄いほど微粒化が促進され、細かい液滴径を得ることができる。加圧ノズル方式は単純な構造となるため、設備費、維持費を安くでき、条件が一定となる大量生産用として適している。また、噴霧される微粒子の平均径は、ポンプ吐出圧力で調整しやすいといった利便性を有している。
【0041】
加圧二流体ノズル方式は、加圧ノズルの先端から高速の空気を噴出させることによって、圧力ノズルで微粒化した液滴をさらに、微粒化可能とする。また、前述の加圧ノズルに比べ、噴霧圧を低くできる。例えば、空気圧を20〜30kPa程度の低い圧力でも微粒化可能であるため、利便性がある。更に、アシスト空気の導入により、運転中の液滴制御も可能となるため、好ましい。
【0042】
ここで、本発明で用いるパルス燃焼器は、燃焼室に燃料を供給する工程(1)、爆発による衝撃及び熱風が発生する工程(2)、吸気・混合工程(3)の三工程を、通常毎秒50〜1000回のサイクルで脈動させることにより、熱風と急速な脈動作用による物理的衝撃特性(音波力及び圧力を含む)を有するパルスジェットを発生させるものである。
【0043】
更に詳細には、本発明で用いるパルス燃焼器は、図1に示すように、燃焼室6に、空気供給管2を介して空気およびガス供給管3を介して燃料が供給される。次に、イグニッションプラグ4を用いて点火する。燃焼は爆発を伴い、燃焼室6下部につながるテール部(パルスジェット噴射ノズル8)から排出される。
【0044】
上記爆発により、燃焼室6の内部は高圧となり、一時的に空気および燃料の供給が止まる。また。爆発で生じる高温のパルスジェット9は、そのほとんどがテール部(パルスジェット噴射ノズル8)から接触乾燥室24(テール部)側へ排気される。その後、再び燃焼室6の内部の圧力が低下することにより、前述のパルスジェット9の一部が逆流するとともに、再び空気および燃料が供給され、燃焼室6自身の充分熱せられた壁との接触もしくはイグニッションプラグ4による点火により再び爆発が起こる。同様にして、この動作は連続的に繰り返され、一旦燃焼室6が所定の温度に達すると、以後はイグニッションプラグ4を用いずとも燃焼室内の残り火により自動的に点火する。
【0045】
このようにしてパルス燃焼器1内に発生するパルスジェット9は、主として燃焼室6から接触乾燥室24側の方向に伝わる強い音波を発生する。同時に、爆発の繰り返しによって高温ガスの衝撃流が得られる。
【0046】
パルス燃焼器1により発生するパルスジェット9の周波数範囲は、好ましくは100〜1000Hz、より好ましくは100〜900Hz、さらに好ましくは125〜550Hzである。周波数が100Hz未満であると、低周波数による振動障害を生じるおそれがある。また、周波数が1000Hzを超えると、充分な微細化効果を得ることができない傾向がある。
【0047】
パルスジェット9の音圧は、好ましくは100〜180dB、より好ましくは120〜160dB、さらに好ましくは140〜150dBである。音圧が100dB未満であると、分散した粒子近傍での音波による空気の繰返し減圧作用による充分な撹拌作用や乾燥作用が得られない傾向がある。また、音圧が、180dBを超えると、防音対策に多大の費用を要する傾向がある。
【0048】
パルスジェット9の接触ガス温度は、好ましくは100〜700℃、より好ましくは150〜600℃、さらに好ましくは200〜500℃である。接触ガス温度が100℃未満であると、衝撃波が安定せず、微粒子化が不充分となる傾向がある。また、接触ガス温度が700℃を超えると、装置として保温等の付帯設備が大きくなり、微細化させる速度以上に乾燥が進行するため、充分な微細化が行われない可能性がある。
【0049】
また、本発明で用いる熱分解炉は、電気炉、雰囲気炉、ガス炉または電磁誘導炉などがあげられるが、これらに限定されるものではない。またその形状としては、伝熱と気流の流れを考慮し、セラミックス等の耐熱性を持つ管状炉があげられるが、これに限定されるものではない。電気制御式のセラミックス製管状電気炉は、温度制御、耐熱耐食等の観点でより好ましい。
【0050】
尚、高温雰囲気は、空気中や酸素を含む気体中で行なわれる。雰囲気温度は、例えば、無機金属酸化物の場合、無機金属酸化物の結晶化温度以上であれば、用途に応じて、生成する結晶系、粒子の大きさおよび凝集の度合いなどが好ましい範囲となるよう適宜選択される。焼成温度としては、200〜1400℃が好ましく、300〜1000℃がより好ましい。焼成温度が低い場合は、結晶化が進まない傾向がある。一方、焼成温度が高すぎると、異常粒成長などが生じる傾向がある。
【0051】
得られた原料由来の微粒子の捕集方法としては、公知の捕集方法を用いることができ、例えば、サイクロンやバグフィルターを用いるフィルター式や、静電捕集器を用いる静電捕集式などがあげられる。得られる微粒子の粒径により、工業的にはバグフィルターが好ましい。
【0052】
ここで、本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置では、パルス燃焼器1から発生したパルスジェット9に、噴霧器22から噴霧した原料液滴23を接触させることにより、パルスジェット9の音波と熱風で、原料液滴23を乾燥しつつ、更に熱分解炉30内で、パルスジェット9に由来する音波と高温雰囲気下で熱分解することにより、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有する原料由来の微粒子を得ることができる。
【0053】
本発明で得られた原料由来の微粒子は、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有しているため、捕集手段(サイクロンやバグフィルター)で回収される際、更に微細結晶粒がバラバラとなった状態の、最終的な製品を得ることができる。このとき、前記原料由来の微粒子の平均粒径は、1〜100μmであることが好ましく、さらに2〜50μmであることがより好ましい。これは、微粒子の平均粒径が100μmより大きい場合、最終製品を微細結晶粒として得ることが困難となり、また平均粒径が1μmより小さい場合、噴霧手段の効率が著しく低下するためである。
【0054】
即ち、本発明で最終的に得られる製品は、従来のパルスジェットを使用しない噴霧熱分解方法で得られた微粒子よりも更に、微粒子化されたものであり、結晶化度の高い、凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの微粒子である。
【0055】
一方、従来のパルスジェットを使用しない噴霧熱分解方法で得られた原料由来の微粒子は、主に、結晶質よりもアモルファス等の非晶質構造を有しているため、結晶化度が低く、噴霧器で微粒化された以上に、製品の微粒子径を劇的に小さくことができない。
【0056】
尚、本発明で最終的に得られる製品(微粒子)の平均粒径は、原料の種類、調製した溶液、濃度、パルス衝撃波の条件、用途によって変化するが、1〜200nmが好ましく、さらに2〜50nmがより好ましい。一方、製品の平均粒径が1nmより小さい場合、粒子の凝集が起こりやすい傾向があり、また、製品の平均粒径が200nmより大きい場合、目的とした特性が出にくくなる。
【0057】
また、本発明で最終的に得られる製品は、従来法(例えば、引用文献5参照)と比較して、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察写真より、結晶構造がはっきり現れており、より高い結晶化度を有している。
【0058】
即ち、本発明で最終的に得られる製品(微粒子)は、より高い結晶化度を有することにより、例えば、本発明で最終的に得られる製品が金属酸化物微粒子の場合、従来法(例えば、引用文献5参照)で得られた金属酸化物微粒子と同じ厚さの導電膜を形成した場合、その電気的特性を向上することができるため、より薄い厚さの導電膜であっても同等の電気的特性を得ることができ、電子材料や光学機能材料の作動可能温度の低下、感度、応答性等の性能の向上が期待できる。
【0059】
尚、本発明で得られる原料由来の微粒子としては、例えば、金属酸化物微粒子であり、その金属酸化物としては、例えばZrO2、Y2O3、MgO、CeO2、CaO、Al2O3、SiO2、TiO2、Fe2O3、FeO、NiO、CoO、CuO、ZnO、MnO、PbO、BaO、SrO、Mn2O3、Cr2O3、La2O3、Pr2O3、In2O3、SnO2、WO3、NdO3、やその他の遷移金属酸化物を含めた無機金属酸化物があげられる。また金属酸化物前駆体としては、上記酸化物の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物、水酸化物、アルコキシド化合物などの塩などがあげられる。水溶性塩としては、例えば、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、および塩化物、水酸化物、アルコキシド化合物などの塩などがあげられ、水難溶性ないしは不溶性塩としては、水酸化物、炭酸塩等があげられる。前駆体としては水溶性の塩が好ましい。これらの化合物は単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの化合物は単独で用いても2種以上の複合無機金属化合物として用いてもよい。
【0060】
無機金属化合物の原料溶液またはスラリーは、これら原料とそれを溶解あるいは分散ないし懸濁させる媒体とを混合することにより調製される。ここで使用される溶媒としては、水、アルコール、水/アルコール混合溶液、メチルエチルケトン/水混合液、トルエンなどをあげることができる。これらの中でも、経済性、安全性の点から、水または水/アルコール混合溶液が好ましい。
【0061】
無機金属化合物を溶解または分散させて、原料溶液およびスラリーにするときの無機金属化合物の固形分濃度は、乾燥物換算で、0.01〜50重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。無機金属化合物の濃度が0.01重量%より小さいと、乾燥物が希釈されるために経済性の点から好ましくない。一方、無機金属化合物の濃度が50重量%より大きいと、スラリーまたは溶液の粘度が上昇し、噴霧することが困難になり、また得られる粒子径が大きくなる傾向がある。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1及び実施例2)
図1及び図3に示すパルス噴霧熱分解装置を用いて、1個の噴霧器22のみ用いた場合(図2A参照)で得られた酸化亜鉛の微粒子の結晶化度を図6に示すとともに、酸化亜鉛の微粒子の状態を図7A及び図7Bに示す(実施例1)。
【0064】
図1及び図3に示すパルス噴霧熱分解装置を用いて、2個の噴霧器22を用いた場合(図2A参照)で得られた酸化亜鉛の微粒子の結晶化度を図6に示すとともに、酸化亜鉛の微粒子の状態を図8A及び図8Bに示す(実施例2)。
【0065】
このとき、噴霧器22は、二流体ノズルを用い、且つ噴霧器22がパルスジェット9の噴出方向Xに対して、45°の角度θになるように、パルス燃焼器1の周囲に配置した(図1参照)。このときの噴霧流量は、(0.4kg/Hr)であった(実施例1及び実施例2)。
【0066】
(比較例)
図4及び図5に示すパルス噴霧熱分解装置を用いて得られた酸化亜鉛の微粒子の結晶化度を図6に示す。噴霧器106は、二流体ノズルを用い、且つ噴霧器106がパルスジェット9の噴出方向Xの直下になるように配置した(図4参照)。このときの噴霧流量は、(0.4kg/Hr)であった。
【0067】
尚、噴霧器から噴霧される原料は、酢酸亜鉛2水和物22gと水978gを混合して、調製された原料となる水溶液である。
【0068】
また、パルス燃焼器1(直径:40mm、長さ150mm)に、燃料(プロパンガス)と空気(供給量:約15L/min)を供給し、着火させた後、パルス燃焼器1内の燃焼にパルス(脈動)を与え、パルスジェットを安定化させて使用した。
【0069】
更に、熱分解炉30内の温度は、400℃に設定し、微粒子の捕集するための捕集装置50としてバグフィルターを使用した。
【0070】
(考察:実施例1及び実施例2、比較例)
図6の結果から、同一面におけるピーク強度及びピーク幅を比較すると、実施例1及び実施例2で得られたX線回折(XRD)測定は、比較例で得られたX線回折(XRD)測定よりもピーク強度が大きく、ピーク幅が小さかった。即ち、実施例1及び実施例2では、比較例よりも更に結晶化度が高い微粒子が得られることが判明した。
【0071】
また、図1及び図3に示すように、原料液滴をパルスジェット9の噴出方向Xの側面から噴霧する場合、図7A及び図7Bに示すように、噴霧器22を1個の場合(実施例1)よりも、図8A及び図8Bに示すように、噴霧器22を2個の場合(実施例2)の方が、より凝集の少ない単結晶の分散したナノサイズの微粒子を得ることを確認した。
【0072】
更に、実施例1及び実施例2は、表1に示すように、比較例と比較して、反応場の温度(熱分解炉(反応場)の入口温度及び出口温度)が高くなっていることから、パルスジェットの効果が低減されることなく、パルスジェットと原料液滴との接触を効率的に行うことができ、パルスジェットと原料液滴とのエネルギー効率を向上させる可能性を見出せた。
【0073】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のパルス噴霧熱分解方法及び装置は、例えば、酸化亜鉛や酸化チタン等の電子材料や光学機能材料である凝集の少ない単結晶の分散した、より結晶化度の高いナノサイズの原料由来の微粒子を工業的に低コストで量産する上で、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1:パルス燃焼器、2:空気供給管、3:ガス供給管、4:イグニッションプラグ、6:燃焼室、8:パルスジェット噴出ノズル、9:パルスジェット、10:パルスジェット発生ユニット、20:接触乾燥化ユニット、22:噴霧器、23:原料液滴、24:接触乾燥室、30:熱分解炉、32:反応管、34:加熱ユニット、40:搬送路、50:捕集装置(バグフィルター)、60:ファン、100:接触乾燥化ユニット、102:噴霧ノズル、104:気体供給管、105:原液供給管、106:噴霧ノズル、107:噴霧液滴、108:接触乾燥室。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス燃焼器から発生したパルスジェットに、噴霧器から噴霧した原料液滴を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法であって、
パルス燃焼器の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器から噴霧された原料液滴を、パルスジェットの噴出方向の側面から接触させるパルス噴霧熱分解方法。
【請求項2】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、1〜10個である請求項1に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項3】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、前記パルス燃料器の周囲に対して対角線状、四方又は正三角形状のように均等配置されている請求項1に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項4】
前記噴霧器から噴霧された原料液滴が、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°になるように噴霧する請求項1〜3のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項5】
パルスジェットが、周波数範囲100〜1000Hz、音圧100〜180デシベルおよび接触ガス温度100〜1000℃で、パルスジェットとの接触時間が0.01〜50秒であり、高温雰囲気が200〜1600℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項6】
前記原料由来の微粒子が、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項7】
前記原料由来の微粒子から得られた製品の一次粒径が、1〜200nmである請求項6に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項8】
パルスジェットを発生させるパルス燃焼器と、
前記パルス燃焼器の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴を前記パルスジェットの噴出方向の側面から噴霧する噴霧器と、
前記パルス燃焼器と前記噴霧器とがそれぞれ配置され、且つ、前記パルスジェットと前記原料液滴とを接触させる接触乾燥室と、
前記接触乾燥室の下部に連通され、且つ前記パルスジェットに由来する音波と高温雰囲気下で前記原料液滴を熱分解させる熱分解炉と、
前記熱分解炉で得られた原料由来の微粒子を捕集するための捕集装置と、
を備えるパルス噴霧熱分解装置。
【請求項9】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、1〜10個である請求項8に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【請求項10】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、前記パルス燃料器の周囲に対して対角線状又は正三角形状のように均等配置されている請求項8又は9に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【請求項11】
前記噴霧器が、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°の角度になるように、前記パルス燃焼器の周囲に配置されている請求項8〜10のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【請求項12】
前記噴霧器が、二流体ノズル、加圧ノズル、加圧二流体ノズルのいずれか1種を用いたものである請求項8〜11のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【請求項1】
パルス燃焼器から発生したパルスジェットに、噴霧器から噴霧した原料液滴を接触させながら高温雰囲気下で熱分解し、原料由来の微粒子を得る噴霧熱分解方法であって、
パルス燃焼器の周囲に配置された少なくとも1個以上の噴霧器から噴霧された原料液滴を、パルスジェットの噴出方向の側面から接触させるパルス噴霧熱分解方法。
【請求項2】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、1〜10個である請求項1に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項3】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、前記パルス燃料器の周囲に対して対角線状、四方又は正三角形状のように均等配置されている請求項1に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項4】
前記噴霧器から噴霧された原料液滴が、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°になるように噴霧する請求項1〜3のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項5】
パルスジェットが、周波数範囲100〜1000Hz、音圧100〜180デシベルおよび接触ガス温度100〜1000℃で、パルスジェットとの接触時間が0.01〜50秒であり、高温雰囲気が200〜1600℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項6】
前記原料由来の微粒子が、微結晶粒から成る弱い凝集体構造を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項7】
前記原料由来の微粒子から得られた製品の一次粒径が、1〜200nmである請求項6に記載のパルス噴霧熱分解方法。
【請求項8】
パルスジェットを発生させるパルス燃焼器と、
前記パルス燃焼器の周囲に少なくとも1個以上配置され、原料液滴を前記パルスジェットの噴出方向の側面から噴霧する噴霧器と、
前記パルス燃焼器と前記噴霧器とがそれぞれ配置され、且つ、前記パルスジェットと前記原料液滴とを接触させる接触乾燥室と、
前記接触乾燥室の下部に連通され、且つ前記パルスジェットに由来する音波と高温雰囲気下で前記原料液滴を熱分解させる熱分解炉と、
前記熱分解炉で得られた原料由来の微粒子を捕集するための捕集装置と、
を備えるパルス噴霧熱分解装置。
【請求項9】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、1〜10個である請求項8に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【請求項10】
前記パルス燃焼器の周囲に配置された噴霧器が、前記パルス燃料器の周囲に対して対角線状又は正三角形状のように均等配置されている請求項8又は9に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【請求項11】
前記噴霧器が、パルスジェットの噴出方向に対して、10〜50°の角度になるように、前記パルス燃焼器の周囲に配置されている請求項8〜10のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【請求項12】
前記噴霧器が、二流体ノズル、加圧ノズル、加圧二流体ノズルのいずれか1種を用いたものである請求項8〜11のいずれか1項に記載のパルス噴霧熱分解装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【公開番号】特開2010−208917(P2010−208917A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59128(P2009−59128)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000206439)大川原化工機株式会社 (10)
【出願人】(302010884)パルテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000206439)大川原化工機株式会社 (10)
【出願人】(302010884)パルテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]