説明

パーフルオロカーボン除去剤、およびパーフルオロカーボンの除去方法

【課題】 炭素数3〜10のパーフルオロカーボン(PFC)を室温で簡便に、効率よく除去する。
【解決手段】 バインダレスX型ゼオライトを含む除去剤にPFCを含むガスを接触させることによって、PFCを吸着除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロカーボン(PFC)を含有する排ガスを除去するために用いるPFC除去剤、およびPFCの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶の製造プロセスでは、ドライエッチング用ガス、クリーニングガス等として、例えばCF、C、C、Cなどのパーフルオロカーボン(以下「PFC」という)が多く用いられている。しかし、PFCは地球温暖化係数が格段に高いために、その排出量を削減することが世界的に求められている。
【0003】
そこで、PFCを分解する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、分解剤として無機酸化物、具体的にはシリカゲルまたはZSM−5をフッ化水素処理したものを使用し、吸着剤としてゼオライト等を使用したC等のガスの分解・除去方法が開示されている。特許文献2には、分解剤としてSiの酸化物、具体的には酸化ケイ素またはハイシリカゼオライトを使用し、吸着剤としてゼオライト等を使用したC等の気体状フッ化物の分解・除去方法が開示されている。しかし、PFCを分解するには1100℃〜1500℃といった高温での処理が必要である。また、分解により副生したフッ化水素は毒性が高く、その処理装置を含めた排ガス処理プロセスは複雑化する。
【0004】
また、特許文献3には、PFCを吸着させるPFC吸着部およびCOを酸化するCO酸化部を備える、PFCおよびCOを含有する化合物ガスを処理するガス処理装置が開示されており、PFC吸着剤としてはゼオライト、活性炭、シリカ、アルミナなどが挙げられている。
【0005】
特許文献4には、ハロゲン系ガスの除害剤(除去剤)としてバインダレスX型ゼオライトが開示されているが、ハロゲン系ガスとしてはハロゲン、ハロゲン化水素、ハロゲン化珪素、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化タングステン、ハロゲン化カルボニル、酸化ハロゲンが挙げられているのみで、PFCは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−116466号公報
【特許文献2】特開平7−132211号公報
【特許文献3】特開2009−50747号公報
【特許文献4】特開2008−229610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、炭素数3〜10のPFCを常温付近で簡便に、効率よく除去することができるPFC除去剤、およびPFCの除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の事項に関する。
【0009】
1. 炭素数3〜10のパーフルオロカーボン(PFC)を除去するために用いる除去剤であって、バインダレスX型ゼオライトを含むことを特徴とするPFC除去剤。
【0010】
2. 前記PFCは、炭素数が4または5である上記1記載のPFC除去剤。
【0011】
3. バインダレスX型ゼオライトを含む除去剤に炭素数3〜10のPFCを含むガスを接触させることによって、PFCを吸着除去することを特徴とするPFCの除去方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバインダレスX型ゼオライトを含む除去剤は、炭素数3〜10のPFCを室温で簡便に、効率よく吸着除去することができる。除去剤のゼオライトとしてバインダレスのX型ゼオライトを使用することにより、通常のバインダを使用したX型ゼオライトの成形体や、他のゼオライトと比較して高いPFC除去性能を得ることができる。また、バインダレスX型ゼオライトは、他のハロゲン系ガスよりもPFCの吸着除去に特に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のPFC除去剤は、バインダレスX型ゼオライトを含むことを特徴とする。ここで、バインダレスX型ゼオライトとは、X型ゼオライト含有量が98wt%以上であるゼオライト成形体である。また、本発明にいうPFCとは、CF4、C、C、Cなどの炭素とフッ素からなるパーフルオロカーボンをいい、除去剤に接触させるガスはPFC以外の他の種類のガスを含んでいても良い。
【0014】
バインダレスX型ゼオライトは、例えば、次のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0015】
まず、合成X型ゼオライト粉末、該合成X型ゼオライト粉末との合計に対して20〜25wt%の平均粒子径1.5μm以上のカオリン型粘土、および該カオリン型粘土中のアルミニウムに対してNaOH/Alモル比0.25以下の水酸化ナトリウムからなる混合物を水分の調整をしながら全てが均一になるよう混合混練した後、所望の形に成形する。次いで、得られた成形体を乾燥した後、カオリン型粘土が焼結し、メタカオリン型粘土に転移する温度550℃以上、好ましくは600℃で焼成する。そして、必要に応じて焼成した成形体を飽和水分吸着量程度まで加湿した後、濃度1.5〜2.5mol/lの水酸化ナトリウムと0.1〜0.2mol/lの珪酸ナトリウムとの混合水溶液と接触(浸漬)させ、通常X型ゼオライトを合成する温度条件、例えば40℃で1時間程度の熟成操作をした後、90℃で8時間程度保持して結晶化させて、成形体中のカオリン型粘土を純粋なX型ゼオライトに転化させる。転化終了後、成形体を水酸化ナトリウムおよび珪酸ナトリウム混合溶液中から取出し、水で十分洗浄した後、成形体を乾燥する。活性化するために、この乾燥品をさらに焼成してもよい。用いる合成X型ゼオライト粉末は、通常、NaX型ゼオライトでよく、公知の方法、すなわちアルミン酸ナトリウムと珪酸ナトリウムとから合成することができる。
【0016】
なお、バインダレスX型ゼオライトとしては、NaX型以外のバインダレスX型ゼオライトを用いることもできるが、好ましくはNaX型ゼオライトである。
【0017】
バインダレスX型ゼオライトは、例えば東ソー株式会社製、ゼオラムF−9HA等を使用することができる。
【0018】
用いるバインダレスX型ゼオライトは、SiO/Al比が2〜3であることが好ましい。また、バインダレスX型ゼオライトの陽イオンは、NaまたはKであることが好ましい。
【0019】
本発明のPFCの除去方法では、バインダレスX型ゼオライトを含む除去剤にPFCを含むガスを接触させ、PFCを吸着除去する。
【0020】
バインダレスX型ゼオライトを含む除去剤を用いる以外は公知の方法に従ってPFCの除去を行なうことができ、本発明の除去剤の使用量(充填量)、除去剤の形状および大きさ、PFCを含むガスの流量および濃度、接触させる際の温度および圧力などの処理条件は適宜選択することができる。除去剤にPFCを含むガスを接触させる際の温度は、特に限定されず、例えば0〜120℃、好ましくは0〜90℃であり、例えば常温でよく、敢えて加温および冷却する必要はない。通常の処理工程では、必要により適宜前処理した排ガスを、温度制御を行ってもよいが、通常は、そのまま接触させることができる。
【0021】
また、PFCを含むガスを除去剤に接触させるときの圧力も特に限定はされず、通常は常圧下でよく、または他の目的または前後の装置の都合で減圧または加圧下としてもよい。除去装置の容器の肉厚や材質は適宜設定される。
【0022】
PFCを含むガスを除去剤に接触させるには、一般的には、除去剤を充填した容器(例えばカラム状容器)の中を、PFCを含むガスを流通させることで行う。好ましい除去処理装置としては、例えば、特開2009−50747号公報に記載のガス処理装置が挙げられる。
【0023】
本発明の除去剤を充填する容器の形状は、特に限定されないが、例えば、円筒形、三角筒形、四角筒形、六角筒形等が挙げられるが、好ましくは四角筒形のものが使用される。
【0024】
前記容器の容量は、特に制限されないが、実用性を考慮すれば、好ましくは1〜500L、更に好ましくは10〜300L、特に好ましくは50〜200Lである。容器の材質としては、腐食しがたいものが使用されるが、好ましくはインコネル、ハステロイ、ステンレス鋼が使用され、市販されている一般規格としては、例えば、SUS304、SUS316等が通常使用される。
【0025】
除去剤を充填した容器の排ガス導入口は、容器の上部、下部のどちらかに設ければ良く、除去処理ガス導出口は、排ガス導入口の反対側に位置していれば、つまり、導入した排ガスが除去剤を通過する構成であれば、特に限定されない。
【0026】
容器の形状、大きさ、排ガス導入口の導入角度については特に限定されないが、容器は移動に便利な車輪が接続されていることが一般的である。
【0027】
容器に充填する除去剤は、好ましくは層状に充填され、その充填方法は、一般的に行われている方法であれば特に限定されないが、例えば、不活性ガスの雰囲気にて、容器の充填口から、そのまま投入する等の方法によって行われる。
【0028】
除去装置に供給する排ガスの線速度は、好ましくは毎分1〜300cm、更に好ましくは毎分5〜80cmである。また、排ガスの除去剤への接触時間は、好ましくは0を超え150分、更に好ましくは0を超え20分である。さらに、排ガスの空間速度は、好ましくは1〜1500h−1である。
【0029】
本発明によれば、炭素数3〜10のPFC、好ましくは炭素数が3〜5、特に好ましくは炭素数が4または5であるPFCを室温で簡便に、効率よく除去することができる。炭素数が4または5のPFCの具体例としては、C(ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン)、C(オクタフルオロシクロブタン)、C(オクタフルオロシクロペンテン)等が挙げられ、これらのPFCを高効率で除去することができる。また、半導体・液晶製造におけるエッチング工程およびクリーニング工程などから排出される排ガス中のPFCの除去に好適である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕
まず、ステンレス製カラム(内径16.1mm;断面積2cm)に、C吸着剤(除去剤)としてバインダレスX型ゼオライト(東ソー株式会社製、ゼオラムF−9HA)を50ml充填した。次いで、ドライエッチングガス用の排ガスを模した試験ガスとして、Cが2.4容量%のN希釈ガス(N:97.6容量%)を、ガス流量1025ml/min(C:25ml/min、N:1000ml/min)、常圧下、25℃で吸着剤を充填したカラムへ供給した。ガスの供給流量の制御には、STEC製のマスフローコントローラーを使用した。処理条件は線速度8.4cm/sec、接触時間3sec、空間速度1230hr−1である。そして、カラム出口側でCが許容濃度である5ppmを検出する(破過)までの時間(破過時間)をCの供給時間とし、この時間の間に排出されたガスのCの濃度を測定した。Cの濃度は、株式会社堀場製作所製のFT−IR分光器(型番:FT−730G、セル光路:10m、分解能:2cm−1)で測定した。また、破過までのCの供給量[C導入ガス流量(25ml/min)×破過までの時間]を求め、破過能力を示す破過流通量(mol/L)を次式から算出した。
【0032】
破過流通量(mol/L)=破過までのC供給量(L)/22.4(L)/吸着剤充填量(50ml=0.05L)
その結果を表1に示す。
【0033】
〔比較例1〕
吸着剤(除去剤)を、バインダを含むX型ゼオライト(東ソー株式会社製、ゼオラムF−9)とした以外は、実施例1と同様にしてCの吸着除去を行った。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
〔実施例2〕
試験ガスとして、Cに代えて、Cを使用した以外は、実施例1と同様な方法によりガスの吸着除去を行った。その結果を表2に示す。
【0036】
〔比較例2〕
吸着剤(除去剤)を、バインダを含むX型ゼオライト(東ソー株式会社製、ゼオラムF−9)とした以外は、実施例2と同様にして吸着除去を行った。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
バインダレスX型ゼオライトを使用した実施例1および実施例2は、バインダを含むX型ゼオライトを使用した比較例1および比較例2よりも、破過時間が長く、破過流通量も大きいことが明らかとなった。
【0039】
〔比較例3〕
試験ガスとしてCFを使用した以外は、実施例1と同様な方法により吸着除去試験を行った。この吸着剤(除去剤)として実施例1と同じバインダレスX型ゼオライト(ゼオラムF−9HA)を使用した吸着除去試験の破過流通量は0.02(mol/L)であった。これは、比較例1と同じバインダを含むX型ゼオライト(ゼオラムF−9)を使用した場合もほぼ同様であった。
【0040】
〔比較例4〕
試験ガスとしてCを使用した以外は、実施例1と同様な方法により吸着除去試験を行った。この吸着剤(除去剤)として実施例1と同じバインダレスX型ゼオライト(ゼオラムF−9HA)を使用した吸着除去試験の破過流通量は0.04(mol/L)であった。これは、比較例1と同じバインダを含むX型ゼオライト(ゼオラムF−9)を使用した場合もほぼ同様であった。
【0041】
〔比較例5〕
試験ガスとして塩素(Cl)を用いた以外は、実施例1と同様な方法により吸着除去試験を行った。その結果、破過流通量は0.47(mol/L)であった。実施例1および実施例2との比較から、バインダーレスゼオライトのPFCの除害能力は、塩素に比べて極めて大きいことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明の除去剤は高いPFC除去性能を有しており、炭素数3〜10のPFCを室温で簡便に、効率よく除去することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3〜10のパーフルオロカーボン(PFC)を除去するために用いる除去剤であって、バインダレスX型ゼオライトを含むことを特徴とするPFC除去剤。
【請求項2】
前記PFCは、炭素数が4または5である請求項1記載のPFC除去剤。
【請求項3】
バインダレスX型ゼオライトを含む除去剤に炭素数3〜10のPFCを含むガスを接触させることによって、PFCを吸着除去することを特徴とするPFCの除去方法。

【公開番号】特開2011−147839(P2011−147839A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8940(P2010−8940)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】