説明

ヒーター

【課題】サイズが小さな場合であっても、潤滑系流体を過度に加熱することなく潤滑系流体の温度を速やかに上げることが可能なヒーターを提供する。
【解決手段】潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1、及び最外周に位置する外周壁3を有する筒状のハニカム構造部4と、ハニカム構造部4の側面に導電性接合部23を介して接合された一対の電極部21とを備え、隔壁1が、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱し、電極部21の形状が、電極部21の外周を取り囲む形状の面積より、電極部21の接合部分の面積のほうが小さい形状であるか、又は、電極部21の形状が、長方形において角部が曲線状に形成された形状であり、導電性接合部23は、導電性接合材が60〜200℃で焼成されて形成されたものであるヒーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒーターに関する。更に詳しくは、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を加熱するために使用することができるヒーターに関する。
【背景技術】
【0002】
機械の中には、部品同士を擦り合わせながら動作するものがある。例えば、エンジンなどの内燃機関においては、シリンダー内をピストンが上下運動する過程で、多くの部品が互いに擦れ合う。このように部品同士が擦れ合うと、部品に摩耗や発熱を生じ、機械に不具合が生じることがある。
【0003】
そこで、部品同士が擦れ合う際の摩擦を低減させて摩耗や発熱を抑えるために、潤滑系流体を使用する。例えば、エンジンにおける部品の摩耗や発熱の抑制には、潤滑系流体としてエンジンオイルを使用する。このように、部品同士を擦り合わせながら動作する機械を良好に動作させるためには、潤滑系流体が欠かせないものとなっている。但し、このような潤滑系流体が低温状態にある場合には、潤滑系流体の粘性が高くなってしまう。その結果、摩擦を十分に低減できないという問題が生じる。また、潤滑系流体の粘性が高くなってしまうと、潤滑系流体を目的の箇所まで供給できないという問題も生じる。
【0004】
この問題に対処するため、ヒーターを用いて潤滑系流体を加熱することが行われている。これにより、潤滑系流体の粘性を適当に低くすることができ、潤滑系流体によって摩擦を良好に低減することが可能になる。但し、潤滑系流体を過度に加熱してしまうと、潤滑系流体の劣化を引き起こしてしまうという不都合が生じる。そのため、潤滑系流体を過度に加熱しない仕組みを備えるヒーター等が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−74789号公報
【特許文献2】特開昭63−16114号公報
【特許文献3】実開昭63−12607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のヒーターでは、潤滑系流体を過度に加熱しない仕組みを有効にしたままで潤滑系流体の温度を速やかに上げることは困難であった。例えば、特許文献1には、ヒーターをシェルに収容して潤滑油を間接加熱する、潤滑油の凍結防止構造が記載されている。特許文献1に記載の凍結防止構造では、潤滑油を間接加熱する。そのため、潤滑油の劣化を防止することができる。しかしながら、特許文献1に記載の凍結防止構造においては、ヒーターがシェル内に収容されている。そのため、潤滑油の速やかな昇温が難しいと考えられる。
【0007】
また、特許文献2には、ヒーターに、自らは発熱しない放熱フィンが取り付けられた、エンジンオイルの加熱装置が記載されている。特許文献3には、ヒーターに、自らは発熱しない放熱部材が取り付けられた、オイルヒータが記載されている。特許文献2及び特許文献3のように、放熱部材等をヒーターに取り付けることにより、ヒーターの伝熱面積(熱交換面積)を大きくすることができる。但し、ヒーターに取り付けられた放熱フィンや放熱部材は、自ら発熱するものではない。そのため、潤滑油の速やかな昇温が難しいと考えられる。
【0008】
また、それでも敢えて速やかな昇温を実現するためには、ヒーターのサイズを大きくせざるを得なかった。しかしながら、自動車等においては、車両内の空間的な制約がある。そのため、大型のヒーターを、エンジン用の加熱装置として使用することは困難であった。このため、小型で、且つ速やかな昇温が可能なヒーターの開発が要望されている。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。本発明は、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を加熱するために使用することができるヒーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のヒーターを提供する。
【0011】
[1] 潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁、及び最外周に位置する外周壁を有する筒状のハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の側面に導電性接合部を介して接合された一対の電極部とを備え、前記隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱し、前記電極部の形状が、前記電極部の外周を取り囲む形状の面積より、前記電極部の接合部分の面積のほうが小さい形状であるか、又は、前記電極部の形状が、長方形において角部が曲線状に形成された形状であり、前記導電性接合部は、導電性接合材が60〜200℃で焼成されて形成されたものであるヒーター(第一のヒーター)。
【0012】
[2] 前記導電性接合材が、ポリアミド樹脂、脂肪族アミン及び銀フレークを含有する導電性ペースト、銀化合物、ケイ酸塩溶液及び水を含有する導電性ペースト、ニッケル粉末及びケイ酸塩溶液を含有する導電性ペースト、並びに、酸化アルミニウム、グラファイト及びケイ酸塩溶液を含有する導電性ペーストからなる群から選択される1種である[1]に記載のヒーター。
【0013】
[3] 潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁、及び最外周に位置する外周壁を有する筒状のハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の側面に導電性接合部を介して接合された一対の電極部とを備え、前記隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱し、前記電極部の形状が、前記電極部の外周を取り囲む形状の面積より、前記電極部の接合部分の面積のほうが小さい形状であるか、又は、前記電極部の形状が、長方形において角部が曲線状に形成された形状であり、前記導電性接合部は、溶射法、コールドスプレー法、またはメッキ法によって形成された、金属を含有するものであるヒーター(第二のヒーター)。
【0014】
[4] 前記隔壁が、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、及び金属複合Siからなる群から選ばれる1種を主成分とするものである[1]〜[3]のいずれかに記載のヒーター。
【0015】
[5] 前記電極部の外周を取り囲む形状の面積に対する、前記電極部の接合部分の面積の比率が、40〜95%である[1]〜[4]のいずれかに記載のヒーター。
【0016】
[6] 前記電極部の形状が、複数の孔が形成された板状である[1]〜[5]のいずれかに記載のヒーター。
【0017】
[7] 前記電極部の形状が、複数の帯状の電極素材が格子状に並ぶ形状である[1]〜[5]のいずれかに記載のヒーター。
【0018】
[8] 前記電極部の形状が、前記ハニカム構造部側の面が窪むとともに前記ハニカム構造部側の面に対して反対側の面が突き出るような凸条が形成された板状であり、前記板状の電極部には、前記凸条が格子状に並ぶように形成された[1]〜[5]のいずれかに記載のヒーター。
【0019】
[9] 前記電極部の形状が、複数の帯状の部分電極を有する櫛歯状である[1]〜[5]のいずれかに記載のヒーター。
【0020】
[10] 前記電極部の形状が、長方形において角部が曲線状に形成された形状である[1]〜[5]のいずれかに記載のヒーター。
【発明の効果】
【0021】
本発明のヒーター(第一のヒーター)は、導電性接合部が、「導電性接合材が60〜200℃で焼成されて形成されたもの」である。これは、導電性接合材が60〜200℃で焼成される際に、ハニカム構造部と一対の電極部とが、導電性接合材(焼成後は、導電性接合部)を介して接合されることを意味する。そのため、本発明のヒーターは、通電による発熱性能が良い。更に、本発明のヒーターは、セラミックスを主成分とするハニカム構造部と電極部とを接合した際に、当該ハニカム構造部にクラックが発生することを防止することができる。更に、本発明のヒーターは、電極部がハニカム構造部から剥れることを防止することができる。
【0022】
また、本発明のヒーター(第一のヒーター)は、電極部の形状が、「電極部の外周を取り囲む形状の面積より、電極部の接合部分の面積のほうが小さい」形状である。また、本発明のヒーターは、電極部の形状が、「長方形において角部が曲線状に形成された」形状であってもよい。そのため、本発明のヒーターにおける電極部の形状は、熱応力が低減される形状である。そのため、「電極部とハニカム構造部とを接合した後に、ハニカム構造部にクラックが発生したり、電極部がハニカム構造部から剥れたりすること」が、抑制される。更に、加熱と冷却とが繰り返される使用環境下においても、電極部がハニカム構造部から剥れたり、ハニカム構造部にクラックが生じたりすることを防止することができる。
【0023】
本発明のヒーター(第二のヒーター)は、導電性接合部が、「溶射法、コールドスプレー法、またはメッキ法によって形成された、金属を含有するもの」である。このような導電性接合部は、一対の電極部とともに「電極」としての機能を発揮する。また、このような導電性接合部は、ハニカム構造部の表面上に直接に形成されるものであり、電気抵抗の低いものである。そのため、大きな電流を流すことができる。
【0024】
また、本発明のヒーター(第二のヒーター)は、電極部の形状が、「電極部の外周を取り囲む形状の面積より、電極部の接合部分の面積のほうが小さい」形状である。また、本発明のヒーターは、電極部の形状が、「長方形において角部が曲線状に形成された」形状であってもよい。そのため、本発明のヒーターにおける電極部の形状は、熱応力が低減される形状である。そのため、「電極部とハニカム構造部とを接合した後に、ハニカム構造部にクラックが発生したり、電極部がハニカム構造部から剥れたりすること」が、抑制される。更に、加熱と冷却とが繰り返される使用環境下においても、電極部がハニカム構造部から剥れたり、ハニカム構造部にクラックが生じたりすることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のヒーターの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のヒーターの一の実施形態を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられる電極部を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明のヒーターの他の実施形態に用いられる電極部を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられる電極部を模式的に示す平面図である。
【図6】図5における、A−A’断面を示す模式図である。
【図7】本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられる電極部を模式的に示す平面図である。
【図8】図7における、B−B’断面を示す模式図である。
【図9】電極部の「電極部の外周を取り囲む形状」が長方形において角部が曲線状に形成された形状であることを模式的に示す平面図である。
【図10】電極部の「電極部の外周を取り囲む形状」が八角形であることを模式的に示す平面図である。
【図11】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図12】比較例3のヒーターを構成する電極部を、模式的に示す平面図である。
【図13】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図14】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、変更、改良等を加え得るものである。
【0027】
(1)ヒーター:
本発明のヒーター(第一のヒーター)の一の実施形態は、図1、図2に示されるように、筒状のハニカム構造部4と、一対の電極部21,21とを備えるものである。ハニカム構造部4は、「「潤滑系流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2」を区画形成する隔壁1」、及び「最外周に位置する外周壁3」を有するものである。一対の電極部21,21は、ハニカム構造部4の側面5に、導電性接合部23を介して接合されたものである。更に、本実施形態のヒーター100は、隔壁1が、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱するものである。更に、本実施形態のヒーター100は、電極部21の形状が、「電極部21の外周を取り囲む形状の面積より、電極部21の接合部分の面積のほうが小さい」形状であるか、又は、電極部21の形状が、「長方形において角部が曲線状に形成された」形状である。更に、本実施形態のヒーター100は、導電性接合部が、「導電性接合材が60〜200℃で焼成されて形成されたもの」である。本実施形態のヒーター100における電極部21の形状は、上記のような形状であるため、熱応力が低減される形状である。図1は、本発明のヒーターの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のヒーターの一の実施形態を模式的に示す平面図である。
【0028】
このように、本実施形態のヒーター100は、ハニカム構造部4の隔壁1が、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱する。そのため、サイズが小さな場合であっても、潤滑系流体を過度に加熱することなく潤滑系流体の温度を速やかに上げることが可能である。また、本実施形態のヒーター100は、導電性接合部23が、「導電性接合材が60〜200℃で焼成されて形成されたもの」である。これは、導電性接合材が60〜200℃で焼成される際に、ハニカム構造部と一対の電極部とが、導電性接合材(焼成後は、導電性接合部)を介して接合されることを意味する。そのため、本実施形態のヒーター100は、通電による発熱性能が良い。更に、本実施形態のヒーター100は、セラミックスを主成分とするハニカム構造部4と電極部21とを接合した際に、ハニカム構造部4にクラックが発生することを防止することができる。更に、本実施形態のヒーター100は、電極部21がハニカム構造部4から剥れることを防止することができる。また、本発明のヒーター100は、電極部21の形状が、「電極部の外周を取り囲む形状の面積より、電極部の接合部分の面積のほうが小さい」形状である。また、本発明のヒーター100は、電極部の形状が、「長方形において角部が曲線状に形成された」形状であってもよい。そのため、本発明のヒーターにおける電極部の形状は、熱応力が低減される形状である。そのため、電極部をハニカム構造部に接合した後に、電極部21がハニカム構造部4から剥れることを防止することができる。更に、電極部をハニカム構造部に接合した後に、ハニカム構造部にクラックが発生することを防止することができる。更に、加熱と冷却とが繰り返される使用環境下においても、電極部21がハニカム構造部4から剥れたり、ハニカム構造部にクラックが発生することを防止することができる。
【0029】
ここで、上記「熱応力が低減される形状」とは、セラミックスを主成分とするハニカム構造部4と電極部21に生じる熱応力を低減することが可能な、電極部21の形状である。「電極部21の形状が、熱応力が低減される形状」であることにより、電極部21がハニカム構造部4に接合された状態において、ハニカム構造部4と電極部21が受ける熱応力が低減される。また、「電極部21の外周を取り囲む形状」とは、「電極部に外接する環形状であって、周長(環の長さ)が最も短くなる形状」を外周形状とする形状である。例えば、図1に示されるヒーター100に配設される電極部21の場合、図9に示されるように、電極部の外周形状が長方形において角部が曲線状に形成された形状である。そのため、「電極部に外接する環形状であって、周長(環の長さ)が最も短くなる形状」(電極部の外周を取り囲む形状24)は、長方形において角部が曲線状に形成された形状になる。また、電極部の形状が、図4に示される電極部21Bのような格子状の場合、「電極部の外周を取り囲む形状24」は、図10に示されるように、長方形の角部が直線状に面取りされて形成された形状である。そして、当該「長方形の角部が直線状に面取りされて形成された形状」は、「電極部21Bが内接する」八角形である。また、「電極部21の接合部分の面積」とは、電極部21の中の、導電性接合部23を介してハニカム構造部4の側面5と接合されている部分(領域)、の面積のことである。図9は、電極部21の「電極部の外周を取り囲む形状」が長方形において角部が曲線状に形成された形状であることを模式的に示す平面図である。図10は、電極部21Bの「電極部の外周を取り囲む形状」が八角形であることを模式的に示す平面図である。
【0030】
また、本実施形態のヒーター100によれば、潤滑系流体を過度に加熱することなく、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。また、ヒーター100のサイズが小さな場合であっても、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。即ち、本実施形態のヒーター100においては、通電によって隔壁1自体が発熱する。このため、潤滑系流体がセル2内を流通する過程で、隔壁1によって潤滑系流体を加熱し続けることができる。
【0031】
例えば、ハニカム構造部の隔壁自体が発熱せずに、別の熱源によってハニカム構造部を加熱するヒーターでは、潤滑系流体の良好な加熱が困難である。即ち、ヒーターによって潤滑系流体を加熱する過程においては、セル内を流通する潤滑系流体と、隔壁との間で、熱交換が行われる。隔壁自体が発熱しないヒーターでは、別の熱源による隔壁の加熱が追いつかず、潤滑系流体の速やかな昇温が困難である。また、隔壁自体が発熱しないヒーターにおいては、別の熱源を大きくして、隔壁に伝達する熱を多くすることも考えられる。しかしながら、このような方法では、ヒーター全体のサイズが大きくなってしまう。自動車等においては、車両内の空間的な制約があり、大型のヒーターを、エンジン用の加熱装置として使用することは困難である。
【0032】
また、ハニカム構造部4が、複数のセル2を区画形成する隔壁1を有するハニカム構造であるため、潤滑系流体との接触面積を大きくすることができる。このため、セル2内を流通する潤滑系流体を良好に加熱することができる。そのため、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。即ち、本実施形態のヒーター100においては、ヒーター内に流入した潤滑系流体が小分けされ、小分けされた潤滑系流体が各セル2内を流通する。このように潤滑系流体が小分けされると、潤滑系流体と隔壁1との接触面積が大きくなる。これに伴って、隔壁1と潤滑系流体との接触による伝熱量も多くなる。更に、隔壁1と潤滑系流体との伝熱量が多くなると、その伝熱量が、潤滑系流体内での熱拡散によって散逸してしまう熱量よりも大きくなる。このため、潤滑系流体の温度が、より速やかに上昇し易くなる。
【0033】
また、本実施形態のヒーター100においては、隔壁1の単位面積あたりの発熱量を少なくする場合であっても、潤滑系流体の温度を確実に上げることができる。これは、本実施形態のヒーター100が、セル2内を流通する流路中で、潤滑系流体を加熱し続けることができるからである。隔壁1の単位面積あたりの発熱量を少なくすると、潤滑系流体を過度に加熱することを防ぐことができる。したがって、本実施形態のヒーター100においては、潤滑系流体を過度に加熱することなく、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。また、このように潤滑系流体を過度に加熱しないので、潤滑系流体の劣化を有効に抑制することができる。
【0034】
本明細書において、「潤滑系流体」とは、機械系部品の潤滑に用いられる流体の総称を意味する。機械系部品の潤滑に用いられる流体としては、例えば、エンジンオイル、トランスミッションフルード、ギアオイル、デフオイル、ブレーキフルード、パワーステアリングフルード等を挙げることができる。
【0035】
本実施形態のヒーターは、例えば、自動車のエンジンオイルやトランスミッションフルード等の潤滑系流体を加熱するためのヒーターとして使用することができる。一般に、自動車を冬季に走行させたり、寒冷地で走行させたりする場合には、上記潤滑系流体が低温になり易い。潤滑系流体が低温状態にあると、その粘性が高くなってしまう。その結果、エンジンやトランスミッションについては、部品に生じる摩擦が大きい状態のまま動作する時間が増えてしまう。このような状態でエンジンやトランスミッションを動作させると、燃費の悪化を招く。
【0036】
本実施形態のヒーターを使用すると、エンジンオイルやトランスミッションフルードの温度を速やかに上げることができる。これにより、エンジンオイルやトランスミッションフルードが低温になっている時間を短縮することができる。その結果、自動車の燃費を向上させることができる。
【0037】
また、一般に、トランスミッションフルードは、エンジンオイルよりも燃費悪化への寄与が大きい。従来のヒーターでは、トランスミッションフルードを十分に加熱するためには、大型のヒーターを使用しなければならなかった。本実施形態のヒーターにおいては、ヒーターを小型化した場合であっても、トランスミッションフルードを十分に加熱することができる。これにより、自動車の燃費をより向上させることができる。このように、本実施形態のヒーターは、自動車のような、ヒーターを設置するための空間の広さが限られている場合に、その効果を十分に発揮するものである。
【0038】
以下、本実施形態のヒーターについて、構成要素毎に更に詳細に説明する。
【0039】
(1−1)電極部:
図1に示されるヒーター100に配設された一対の電極部21は、ハニカム構造部4の隔壁1を通電するための電極である。本実施形態のヒーター100においては、一対の電極部21,21における一方の電極部21と他方の電極部21とが、ハニカム構造部4を側方から挟み込むように、ハニカム構造部4の側面5に配設されている。一対の電極部21,21間に電圧を印加することにより、隔壁1が通電して、ハニカム構造部4が発熱する。
【0040】
電極部21において、孔が開いている部分については、ハニカム構造部4の側面5には接合されていない。電極部21の接合部分は、ハニカム構造部4の側面5に、導電性接合部を介して接触している部分であり、孔の部分を除いた部分である。そのため、電極部21は、孔が開いている分だけ、「電極部21の外周を取り囲む形状の面積より、電極部21の接合部分の面積のほうが小さい」形状になっている。そして、電極部21は、このような形状であるため、熱応力が低減される。また、例えば、図4に示される電極部21Bは、格子状に形成されている。そのため、格子形状における孔や「外周部分の凹凸」の部分については、ハニカム構造部4の側面5には接合されていない。そのため、電極部21Bは、孔や「外周部分の凹凸」が形成されている分だけ、「電極部21の外周を取り囲む形状の面積より、電極部21の接合部分の面積のほうが小さい」形状になっている。そして、電極部21Bは、このような形状であるため、熱応力が低減される。
【0041】
本実施形態のヒーター100は、ハニカム構造部4と、ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接合された一対の電極部21,21と、を備えるものである。そして、電極部21の形状が、複数の孔が形成された板状である。
【0042】
電極部の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、アルミニウム、モリブデン、タングステン、ロジウム、コバルト、クロム、ニオブ、タンタル、金、銀、白金、パラジウム、及び、これらの金属の合金等を挙げることができる。更に、これらの金属単体または合金とセラミックスとの複合材、これらの金属単体または合金と炭素との複合材などを挙げることができる。具体的には、銅とタングステンの複合材(Cu/W)、銅とモリブデンの複合材(Cu/Mo)、銀とタングステンの複合材(Ag/W)、セラミックス(例えばSiC、Al)とアルミニウムとの複合材(SiC/Al、Al/Al)、セラミックス(例えばSiC、Al)と銅との複合材(SiC/Cu、Al/Cu)、炭素と銅の複合材(C/Cu)等を挙げることができる。この際、電極部の材質としては、電気抵抗が低く、熱膨張係数が小さいことが望ましい。電気抵抗が高いと、通電時に電極部自身の発熱により問題が発生することがある。また、熱膨張係数が小さいことが好ましい理由は、以下の通りである。すなわち、電極部の材質の熱膨張係数がセラミックスに対して大きい場合には、電極部を接合した時に発生する熱応力が、大きくなる。そのため、電極部とハニカム構造部との界面が剥離したり、ハニカム構造部にクラックが発生したりすることがある。このため、電極部の熱膨張係数は、セラミックスに近いことが更に望ましい。また、電極部は、上記複合材からなる場合、金属のみからなる場合に比べて熱膨張係数が小さく、セラミックスを主体とするハニカム構造部との熱膨張係数差が小さくなる。そのため、上記複合材から構成すると、冷熱サイクル時における熱応力を低減することができる。また、電極部の表面は、表面粗化処理をすることで接合後の密着性を高めることができる。表面粗化処理は、例えば、サンドブラスト等を用いる処理を挙げることができる。
【0043】
電極部の厚さは、100〜3000μmが好ましく、200〜1000μmが更に好ましい。電極部の厚さの好ましい範囲は、電極部の材質によって変化することがある。100μmより薄いと、電極部自身の抵抗発熱により問題が発生したり、接合強度が低下したりすることがある。3000μmより厚いと、ハニカム構造部及び電極部の熱応力が大きくなり、ハニカム構造部にクラックが発生したり、ハニカム構造部と電極部との界面が剥離したりすることがある。
【0044】
図1に示されるヒーター100においては、「電極部の外周を取り囲む形状の面積」に対する、「電極部の接合部分(接合面)の面積」の比率(接合部分面積比率)が、40〜95%であることが好ましい。これは、電極部の材質や電極部の厚みによって変化することがある。熱応力を低減するために接合部分(接合面)の面積を小さくするのが望ましい。しかし、面積を小さくしすぎるとヒーター(ハニカム構造部)の通電性能を低下させてしまう場合がある。このため、通電性能を落とさず、熱応力を低減させて電極接合部(電極部の接合部分)の機械的信頼性を確保するよう、バランスを取ることが好ましい。
【0045】
本実施形態のヒーター100は、電極部21に端子部22が配設されている。端子部22は、外部電源等からの配線が接続される部分である。そして、外部電源等から電圧が印加される部分である。端子部の材質は、電極部の材質と同じでも異なっていても良い。また、端子部22の形状、大きさは、特に限定されない。端子部22の形状、大きさは、通電時に端子部自身の抵抗発熱が問題とならなければ、電極部21の形状、大きさに合わせて適宜決定することができる。
【0046】
本発明のヒーターの電極部の形状は、図4に示されるように、複数の帯状の電極素材25が格子状に並ぶ形状であることも好ましい。電極部21Bの接合部分は、帯状の電極素材25が、ハニカム構造部4の側面5に、導電性接合部23を介して接触している部分である。電極部21Bは、このような形状であるため、熱応力が低減される。図4は、本発明のヒーターの他の実施形態に用いられる電極部21Bを模式的に示す平面図である。
【0047】
図4に示される電極部21Bにおいては、熱応力を低減するため、電極素材25により形成された開口部(孔、及び、外周部分の窪み)の面積率(開口率)を概ね約60%程度まで大きくすることが出来る。電極素材25により形成された開口部の面積率は、「電極部の外周を取り囲む形状の面積」に対する「電極部の外周を取り囲む形状の面積から、電極部の接合部分の面積を差し引いた値」の比率である。この際、電極素材25の幅を小さくすることで、熱応力を低減することが出来る。しかし、電極幅(電極素材25の幅)を小さくしすぎると局部的な電極部自身の抵抗発熱による問題や電極部の接合強度が低下することがある。尚、電極部21Bの当該開口率の好ましい値は、電極部21Bの材質や厚みによって、変化することがある。
【0048】
本発明のヒーターの電極部の形状は、図5、図6に示されるように、「ハニカム構造部側の面31が窪むとともに「ハニカム構造部側の面に対して反対側の面32」が突き出るような」凸条33が形成された板状、であることも好ましい。この場合、板状の電極部21Cに、凸条33が格子状に並ぶように形成されていることが好ましい。電極部21Cの接合部分は、ハニカム構造部4の側面5に、接触している部分である。換言すると、電極部21Cの中の、「ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接触していない」凸条33を、除いた部分である。電極部21Cは、このような形状であるため、熱応力が低減される。図5は、本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられる電極部21Cを模式的に示す平面図である。図6は、図5における、A−A’断面を示す模式図である。
【0049】
図5、図6に示される電極部21Cにおいては、凸条33が形成されることにより、ハニカム構造部に接触しない非接触部分が形成される。この非接触部分の面積率を概ね約60%程度まで大きくすることが出来る。非接触部分の面積率は、「電極部の外周を取り囲む形状の面積」に対する「非接触部分の面積」の比率である。この際、電極部の接合部分の面積を小さくすることで、熱応力を低減することが出来る。しかし、小さくしすぎると電極部の接合強度が低下することがあるため望ましくない。尚、非接触部分は、「電極部の外周を取り囲む形状」から接合部分を除いた部分である。電極部21Cにおける「非接触部分」の面積率は、「電極部の外周を取り囲む形状の面積」に対する「電極部の外周を取り囲む形状から、接合部分を除いた部分」の面積の比率である。また、凸条33の高さH1については、熱応力に直接関係する部位でないため、特に限定されない。また、電極部21Bの当該開口率(「非接触部分」の面積率)の好ましい値は、電極部21Bの材質や厚みによって、変化することがある。
【0050】
本発明のヒーターの電極部の形状は、図7、図8に示されるように、複数の帯状の部分電極34を有する櫛歯状であることも好ましい。電極部21Dがこのような形状であるため、ハニカム構造部4及び電極部21Dの熱応力が、低減される。図7は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す平面図である。図8は、図7における、電極部21D及び導電性接合部23についてのB−B’断面を示す模式図である。
【0051】
また、部分電極34は、図8に示されるように、その一部が、外側に凸になるように、湾曲していることが好ましい。部分電極34における、外側に凸になるように湾曲した部分を、湾曲部36とする。「外側に凸になるように」は、「ハニカム構造部から離れて行く方向に突き出るように」ということもできる。これにより、よりハニカム構造部及び電極部21Dの熱応力が低減される。
【0052】
電極部21Dにおいて、熱応力を低減するため、「接合に寄与しない部位」の面積率を概ね約60%程度まで大きくすることが出来る。電極部21Dにおける「接合に寄与しない部位」の面積率は、「電極部の外周を取り囲む形状の面積」に対する「電極部の外周を取り囲む形状から、接合部分を除いた部分」の面積の比率である。この際、部分電極34の面積を小さくすることで、熱応力を低減することが出来るが、小さくしすぎると電極部の接合強度が低下することがある。尚、湾曲部36の高さH2については、熱応力に直接関係する部位でないため、特に限定されない。また、部分電極34の当該面積率(「接合に寄与しない部位」の面積率)の好ましい値は、部分電極34の材質や厚みによって、変化することがある。
【0053】
また、本発明のヒーターの電極部の形状は、図3に示されるように、「長方形において角部35が曲線状に形成された」形状であることも好ましい。電極部21Aは、このような形状であるため、熱応力が低減される。また、電極部21Aの形状は、長方形において、「角部35が円弧状に形成された」形状であることが更に好ましい。この場合、角部35の円弧の半径は、2〜10mm程度が好ましい。尚、図1に示されるヒーター100に配設された電極部21、図5に示される電極部21C、及び図7に示される電極部21Dにおいても、「角部を曲線状に形成する」ことにより、更なる熱応力低減効果を得ることができる。図3は、本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられる電極部21Aを模式的に示す平面図である。
【0054】
本発明のヒーターは、図11に示されるように、電極部21に、端子部22及び棒状端子部26が配設されていることが好ましい。棒状端子部26は、端子部22に電気的に連結されていることが好ましい。この場合、棒状端子部26に外部電源等からの配線が接続されることが好ましい。また、本発明のヒーターは、棒状端子部26を有するときには、図11に示されるように、端子部22は、ハニカム構造部の「電極部が配設されていない側面」に沿って配置されることが好ましい。
【0055】
図1、図2に示される本実施形態のヒーター100は、一対の電極部21,21が、ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接合されている。導電性接合部23は、導電性接合材が60〜200℃で焼成されて形成されたものである。これは、導電性接合材が60〜200℃で焼成される際に、ハニカム構造部4と一対の電極部21,21とが、導電性接合材(焼成後は、導電性接合部23)を介して接合されることを意味する。本明細書において、被焼成物(例えば、導電性接合材)を「焼成する」とは、加熱により被焼成物の一部を溶融させ、被焼成物の構成要素同士を結合させて、被焼成物を焼成物(例えば、導電性接合部)とすることを意味する。導電性接合材が、焼成されて焼成物である導電性接合部になる際に、ハニカム構造部及び電極部が、当該導電性接合部を介して接合される。
【0056】
ここで、「ポリアミド樹脂、脂肪族アミン及び銀フレーク」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストAとする。また、「銀化合物、ケイ酸塩溶液及び水」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストBとする。また、「ニッケル粉末及びケイ酸塩溶液」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストCとする。ここで、ニッケル粉末は、導電性ペーストC全体に対して30〜60質量%含有されていることが好ましい。また、「酸化アルミニウム、グラファイト及びケイ酸塩溶液」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストDとする。この場合、導電性接合材としては、導電性ペーストA、導電性ペーストB、導電性ペーストC、及び、導電性ペーストDからなる群から選択される1種であることが好ましい。従って、導電性接合部23は、導電性ペーストA、導電性ペーストB、導電性ペーストC、及び導電性ペーストDからなる群から選択される1種を焼成したものであることが好ましい。導電性接合部23の材質を上記のようにすることにより、本実施形態のヒーターは、通電による発熱性能が良好になる。更に、本実施形態のヒーターは、一般的なロウ接合などに比べて接合温度が低い。即ち、接合温度が200℃以下である。そのため、熱応力が低減されることから、セラミックスを主成分とするハニカム構造部と電極部とを接合した際に、ハニカム構造部にクラックが発生することを防止することができる。更に、本実施形態のヒーターは、電極部がハニカム構造部から剥れることを防止することができる。
【0057】
(1−2)ハニカム構造部:
ハニカム構造部4は、図1、図2に示されるように、「潤滑系流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1」、及び「最外周に位置する外周壁3」を有するものである。
【0058】
隔壁1は、セラミックスを主成分とする材料からなるものである。また、隔壁1は、セラミックスが90質量%以上であることが好ましく、セラミックスが99質量%以上であることが更に好ましい。ここで、本明細書において、「セラミックスを主成分とする」とは、セラミックスを50質量%以上含むことをいう。即ち、セラミックスを主成分とする材料からなる隔壁とは、セラミックスを50質量%以上含んだ隔壁のことを意味する。
【0059】
本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の比抵抗が0.01〜50Ω・cmであることが好ましい。本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の比抵抗が0.03〜10Ω・cmであることが更に好ましく、0.07〜5Ω・cmであることが特に好ましい。隔壁の比抵抗を上記数値範囲とすることにより、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を速やかに昇温することが可能なヒーターとすることができる。また、ハニカム構造部の小型化に十分対応可能なものとなる。
【0060】
本実施形態のヒーターにおいて、隔壁1は、通電により発熱するものである。隔壁1は、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、及び金属複合Siからなる群から選ばれる1種を主成分とするものであることが好ましい。これらの成分は、「通電により発熱するセラミックス」である。
【0061】
SiCには、再結晶SiC及び反応焼結SiCが含まれる。再結晶SiCは、例えば以下のように作製されるものである。まず、SiC粉体、有機質バインダー、及び「水または有機溶剤」を含有する原料を、混合、混練して坏土を調製する。次に、この坏土を成形して成形体を作製する。次に、得られた成形体を、不活性ガス雰囲気中において、1600〜2300℃で焼成して、焼成体を得る。このようにして得られたものが「再結晶SiC」である。そして、得られた焼成体は主に多孔質となる。再結晶SiCは、原料、粒径、不純物量などを変化させることにより比抵抗を変化させることができる。例えばSiC中に不純物を固溶させることにより、比抵抗を変化させることができる。具体的には、窒素雰囲気中で焼成することにより、SiCに窒素を固溶させて再結晶SiCの比抵抗を小さくすることができる。
【0062】
反応焼結SiCは、原料間の反応を利用して生成させたSiCである。反応焼結SiCとしては、多孔質の反応焼結SiC、及び緻密質の反応焼結SiCを挙げることができる。多孔質の反応焼結SiCは、例えば以下のように作製されるものである。まず、窒化珪素粉末、炭素質物質、炭化珪素及び黒鉛粉末を混合、混練して坏土を調製する。なお、炭素質物質は、窒化珪素を還元する物質である。炭素質物質としては、カーボンブラック、アセチレンブラック等の固体カーボン粉末、フェノール、フラン、ポリイミド等の樹脂等を挙げることができる。次に、この坏土を成形して成形体を作製する。次に、非酸化性雰囲気中において上記成形体を一次焼成して一次焼成体を得る。次に、得られた一次焼成体を酸化性雰囲気中で加熱して脱炭することにより、残存する黒鉛を除去する。次に、非酸化性雰囲気中において「脱炭された一次焼成体」を1600〜2500℃で二次焼成して二次焼成体を得る。このようにして得られたものが「多孔質の反応焼結SiC」である。
【0063】
緻密質の反応焼結SiCは、例えば以下のように作製されるものである。まず、SiC粉体及び黒鉛粉末を混合、混練して坏土を調製する。次に、この坏土を成形して成形体を作製する。次に、この成形体に「溶融した珪素(Si)」を含浸させる。これにより、黒鉛を構成する炭素と、含浸させた珪素とを反応させてSiCを生成させる。上記のように、成形体に「溶融した珪素(Si)」を「含浸」させることにより、気孔が無くなり易い。すなわち、気孔が塞がれ易い。そのため、緻密な成形体を得ることができる。このようにして得られたものが「緻密質の反応焼結SiC」である。
【0064】
「金属含浸SiC」としては、Si含浸SiC、金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiC等を挙げることができる。上記「その他の種類の金属」としては、例えば、Al、Ni、Cu、Ag、Be、Mg、Ti等を挙げることができる。隔壁が、上述した「金属含浸SiC」を主成分とする材料からなる場合には、その隔壁が、耐熱性、耐熱衝撃性、耐酸化性、熱伝導性及び耐食性に優れたものになる。「耐食性」とは、酸やアルカリなどによって生じる腐食作用に対する対抗性のことを意味する。
【0065】
金属含浸SiCとしては、例えば、SiC粒子を主体とした多孔質体に、溶融した金属の含浸させたものを挙げることができる。このため、金属含浸SiCは、比較的に気孔が少ない緻密体とすることができる。
【0066】
「Si含浸SiC」とは、金属SiとSiCとを構成成分として含む焼結体を総称する概念である。金属Siとは、金属珪素のことを意味する。Si含浸SiCでは、SiC粒子の表面を、金属Siの凝固物が取り囲んでいる。これにより、Si含浸SiCは、金属Siを介して、複数のSiC粒子同士が接合した構造を有するものとなっている。
【0067】
「金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiC」とは、金属Siとその他の種類の金属とSiCとを構成成分として含む焼結体を総称する概念である。金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiCでは、SiC粒子の表面を、金属Siの凝固物やその他の種類の金属の凝固物が取り囲んでいる。これにより、金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiCは、金属Siやその他の種類の金属を介して、複数のSiC粒子同士が接合した構造を有するものとなっている。
【0068】
隔壁が、金属含浸SiCを主成分とする材料からなる場合には、一般に、含浸させる金属の量が多くなるにつれて、隔壁の比抵抗がより小さくなる。
【0069】
上述した「金属複合SiC」としては、Si複合SiC、金属Siとその他の種類の金属とを複合焼結させたSiC等を挙げることができる。上記「その他の種類の金属」としては、例えば、Al、Ni、Cu、Ag、Be、Mg、Ti等を挙げることができる。
【0070】
金属複合SiCとしては、SiC粒子と金属粉末とを混合焼結したものを挙げることができる。SiC粒子と金属粉末とを混合焼結する際には、SiC粒子と金属粉末との接触する接点において焼結が進行する。このため、金属複合SiCを、比較的多くの気孔が形成された多孔質体とすることができる。金属複合SiCでは、金属粉末からなる金属相を介してSiC粒子が相互連結した構造を取りつつ、多孔質体の気孔が形成されている。例えば、Si複合SiCでは、SiC粒子の表面に金属Si相が結合した形で、気孔を形成しながら、金属Siを介してSiC粒子同士が接合した構造が取られている。金属Siとその他の種類の金属とを複合焼結させたSiCにおいても、上記金属複合SiCと同様の構造が取られている。
【0071】
隔壁が、金属複合SiCを主成分とする材料からなる場合には、一般に、複合させる金属の量が多くなるにつれて、隔壁の比抵抗がより小さくなる。
【0072】
本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の単位表面積あたりの発熱量が、ハニカム構造部の大きさ、隔壁の比抵抗、隔壁の厚さ、セル密度等に依存している。例えば、ハニカム構造部の大きさが制限されている場合には、隔壁の厚さやセル密度を調整することによって、隔壁の単位表面積あたりの発熱量を調節することができる。これにより、潤滑系流体を過度に加熱しないようなヒーターとすることができる。また、ヒーターを配置する空間の広さに余裕がある場合には、ハニカム構造部の大きさを調整して、ヒーターの発熱量を調節することができる。ハニカム構造部の大きさとは、ハニカム構造部のセルの延びる方向の長さや、ハニカム構造部のセルの延びる方向に直交する断面の大きさのことを意味する。以下、「ハニカム構造部のセルの延びる方向の長さ」のことを、単に「ハニカム構造部の長さ」ということがある。また、「ハニカム構造部のセルの延びる方向に直交する断面の大きさ」のことを、単に「ハニカム構造部の断面の大きさ」ということがある。
【0073】
例えば、ハニカム構造部の長さを長くすることができる場合には、潤滑系流体を加熱する距離を長くすることができる。これにより、潤滑系流体を良好に加熱することができる。また、ハニカム構造部の長さを長くすることで、潤滑系流体を十分に加熱することができる場合には、隔壁の比抵抗を相対的に小さくしてもよい。
【0074】
一方、ハニカム構造部の長さやハニカム構造部の断面の大きさに制約がある場合には、隔壁の単位表面積あたりの発熱量を調節することが好ましい。その場合、隔壁の比抵抗、隔壁の厚さ、セル密度等を調整して、隔壁の単位表面積あたりの発熱量を調節することが好ましい。
【0075】
例えば、隔壁の気孔率を調整することにより、隔壁の比抵抗を調整することができる。一般に、隔壁の気孔率が小さくなるほど、隔壁の比抵抗がより小さくなる。
【0076】
また、隔壁の主成分によって、隔壁の気孔率の好ましい範囲が異なってくる。例えば金属複合SiCを主成分とすると、隔壁の気孔率は、30〜90%が好ましい。また、金属複合SiCを主成分とすると、隔壁に開気孔が多く存在し、気孔が大きくなる。そして、金属複合SiCを主成分とする隔壁は、隣り合うセル間を連通する連通気孔が多く存在する。そのため、この連通気孔によって潤滑系流体が隔壁内部を通過することが可能になる。従って、隔壁と潤滑系流体との接触面積が大きくなる。そのため、金属複合SiCを主成分とする隔壁を有するハニカム構造部を備えるヒーターは、加熱効率(すなわち、熱交換効率)が向上する。一方、例えば金属含浸SiCを主成分とすると、隔壁の気孔率は、0〜10%が好ましい。また、金属含浸SiCを主成分とすると、隔壁の気孔が小さくなり、開気孔が少なくなる。そのため、金属含浸SiCを主成分とする隔壁には、潤滑系流体が浸入し難い。そのため、隔壁の気孔内に留まって流れなくなる潤滑系流体が少なくなる。そのため、潤滑系流体が過熱されて劣化することを防止できる。また、セル間を連通する気孔が無いため、潤滑系流体が隔壁の内部を通過することが無くなる。そのため、潤滑系流体についてセル内のみを流動させることができる。
【0077】
また、隔壁に用いられるSiCの種類によっても、隔壁の比抵抗を調整することができる。SiCの種類としては、α−SiC、β−SiC等を挙げることができる。また、α−SiCやβ−SiCの混合割合を調整することによって、隔壁の比抵抗を調整することもできる。更に、SiCの純度(不純物量)によっても隔壁の比抵抗を調整することができる。
【0078】
また、隔壁に用いられる金属中の不純物の量によっても、隔壁の比抵抗が変化する。また、金属として、合金を使用することもできる。また、ハニカム構造部の作製時に、上記金属を合金化させることもできる。このようにすることにより、隔壁の比抵抗を変化させることができる。
【0079】
本実施形態のヒーターにおいては、ハニカム構造部の隔壁の厚さが、0.1〜0.51mmであることが好ましい。また、ハニカム構造部のセル密度が、15〜280セル/cmであることが好ましい。このように構成されたハニカム構造部を用いることにより、潤滑系流体を過度に加熱することなく、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の厚さが、0.1〜0.51mmであり、且つハニカム構造部のセル密度が、15〜280セル/cmであることがより好ましい。
【0080】
また、本実施形態のヒーターにおいては、ハニカム構造部の隔壁の厚さが0.25〜0.51mmであり、且つハニカム構造部のセル密度が15〜62セル/cmであることが更に好ましい。また、隔壁の厚さが0.30〜0.38mmであり、且つセル密度が23〜54セル/cmであることが特に好ましい。これにより、セル内を潤滑系流体が流通する際の圧力損失を小さくすることができる。
【0081】
ハニカム構造部の形状は特に限定されず、例えば、端面が円形の筒状(円筒形状)、端面がオーバル形状の筒状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の筒状等の形状とすることができる。図1に示されるハニカム構造部4の形状は、端面が四角形(正方形)の筒状である。
【0082】
外周壁は、ハニカム構造部の側面を構成する壁である。外周壁は、ハニカム構造部を作製する過程において、隔壁とともに形成されたものであってもよい。例えば、隔壁と外周壁とを一度に押出成形して作製してもよい。また、押出成形時には外周壁を形成しなくともよい。例えば、セルを区画形成する隔壁の外周部分に、セラミック材料を塗工して外周壁を形成することもできる。
【0083】
外周壁3は、セラミックスを主成分とする材料からなるものであることが好ましい。また、外周壁3は、セラミックスを90質量%以上含有することが更に好ましく、セラミックスを99質量%以上含有することが特に好ましい。外周壁3の材料(セラミックス)としては、例えば、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、金属複合Si等を挙げることができる。隔壁と外周壁とは、同一の材料からなるものであってもよいし、異なる材料からなるものであってもよい。外周壁の比抵抗は、隔壁の比抵抗と同様に、0.01〜50Ω・cmであることが好ましい。本実施形態のヒーターにおいては、外周壁の比抵抗が0.03〜10Ω・cmであることが更に好ましく、0.07〜5Ω・cmであることが特に好ましい。理由は、隔壁の場合と同様である。
【0084】
外周壁は、厚肉であると更に好ましい。外周壁が厚肉であるとは、外周壁が隔壁より厚いことを意味する。外周壁が厚肉であると、外周壁の構造体としての強度が増大する。そのため、電極の接合時における熱応力に対する耐性を向上させることができる。その結果、外周壁におけるクラックの生成などを抑制し易くなる。また、外周壁が厚肉であると、外周壁の熱容量が増大する。そのため、通電時における外周壁の温度上昇を減少させることができる。ここで、外周壁は、エンジンオイルなどの潤滑系流体との接触面積が小さいので過熱し易い。そのため、上記のように、通電時における外周壁の温度上昇を減少させることが好ましい。また、ヒーターのハウジングの少なくとも一部に樹脂が使用されている場合、ヒーターが局所的に過熱することによって当該樹脂が劣化し損傷することがある。そのため、ハニカム構造部の外周壁を厚肉にすることにより、当該樹脂の劣化による損傷を抑制することが可能になる。
【0085】
外周壁の厚さは、外周壁の気孔率などにも拠るが、0.3〜5mmが好ましく、0.5〜3mmが更に好ましい。
【0086】
また、外周壁は、緻密であると更に好ましい。外周壁が緻密であると、外周壁内部を通過して潤滑系流体がヒーターの外部に漏れ出ることを抑制できる。ここで、通常、ハウジング内にヒーターを収納する際には、ハウジング内に潤滑系流体が漏れ出ることを防止するために、ヒーターの外周にシール材が配置される。外周壁を緻密すれば、上記のように潤滑系流体がヒーターの外部に漏れ出ることを抑制できるため、上記シール材が不要になる。
【0087】
「緻密な外周壁」は、例えば、金属を含浸させることにより緻密化したものが好ましい。また、「緻密な外周壁」は、緻密な「Al、MgO、SiO、Si、AlN、又はBN」またはこれらの複合物により形成されても良い。
【0088】
このような「緻密な外周壁」を有するハニカム構造部は、例えば「隔壁を構成する材料」と、この「隔壁を構成する材料」と異なる種類の「外周壁を構成する材料」とを、共押出しすることにより作製できる。
【0089】
また、「金属が含浸されることにより緻密化した外周壁」を有するハニカム構造部は、乾燥後のハニカム成形体、または焼成後のハニカム焼結体に金属を含浸させて形成することが好ましい。なお、含浸させる金属としては、Siが好ましい。そして、上記乾燥後のハニカム成形体、または焼成後のハニカム焼結体に金属を含浸させるには、外周壁のみが含浸されるように、含浸させる金属の量(例えばSi量)を調整して金属を含浸させる方法がある。または、上記乾燥後のハニカム成形体、または焼成後のハニカム焼結の両端面に含浸阻害材をコーティングしたり、上記両端面に板状の治具を載置したりする方法がある。これらの方法により、外周壁に優先的に金属を含浸させることができる。含浸阻害材としては、例えば、酸化物系、特にAlなどを挙げることができる。
【0090】
本発明のヒーターは、潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁の表面に、絶縁破壊強度が10〜1000V/μmである絶縁層を有するものであることが好ましい。絶縁層の絶縁破壊強度は、100〜1000V/μmであることが更に好ましい。潤滑系流体は、部品から生じた金属性磨耗粉や水分などを含んでいることがある。特に、金属性磨耗粉はオイルフィルターなどにより大部分が除去されるが、除去されずに潤滑系流体中に残るものがある。そのため、ヒーターを長期間使用することより、除去されずに残った金属性磨耗粉が隔壁に付着したり、堆積して目詰まりすることがある。このような場合、ヒーターが短絡してしまう可能性がある。ハニカム構造部の隔壁の表面に、絶縁破壊強度が10〜1000V/μmである絶縁層を有すると、潤滑系流体に含まれる金属性磨耗粉が隔壁に付着や堆積して目詰まりすることに起因してヒーターが短絡してしまうことを防ぐことができる。
【0091】
上記絶縁層としては、隔壁に含まれるセラミックス成分が酸化して作られる酸化膜を挙げることができる。このような酸化膜は、酸化雰囲気下で高温処理することにより形成することができる。
【0092】
あるいは、隔壁の表面を絶縁性樹脂によってコーティングすることにより、絶縁層を設けることも可能である。本発明のヒーターでは、隔壁の表面の絶縁層が絶縁性樹脂からなる場合、絶縁性樹脂としては、例えば、EPDM、エチレンプロピレン共重合体、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの一般的に用いられている樹脂を用いることができる。
【0093】
絶縁層として、セラミックコート層、SiO系のガラスコート層、または、セラミックと「SiO系のガラス」との混合物のコート層からなるものを設けることも可能である。
【0094】
セラミックコート層としては、Al、MgO、ZrO、TiO、CeOなどの酸化物を主成分とするものや、窒化物を主成分とするものを挙げることができる。酸化物を主成分とするものと窒化物を主成分とするものでは、酸化物を主成分とするものの方が大気中における安定性が高い。一方、窒化物を主成分とするものは、より熱伝導に優れる。SiO系のガラスコート層としては、SiOを主成分とするものを挙げることができる。セラミックとSiO系のガラスとの混合物のコート層としては、SiOと「Al、MgO、ZrO、TiO、CeOなどの成分」との混合物を主成分とするものを挙げることができる。尚、絶縁層の構成成分は、耐電圧の要求値に応じて適宜選択することができる。
【0095】
セラミックコート層、SiO系のガラスコート層、及びセラミックとSiO系のガラスとの混合物のコート層の形成には、それぞれ湿式による方法または乾式による方法を採用することができる。
【0096】
湿式による方法としては、ハニカム構造部を、絶縁層形成用スラリー、絶縁層形成用コロイド、及び絶縁層形成用溶液のいずれかに浸漬し、その後、余剰分を除去し、乾燥させた後、焼成する方法を挙げることができる。
【0097】
例えば、「酸化物を主成分とする絶縁層」を形成する場合、絶縁層形成用スラリー、及び絶縁層形成用コロイドとしては、Al、Mg、Si、Zr、Ti、Ce等の金属源またはその酸化物を含むものを用いることができる。「酸化物を主成分とする絶縁層」は、Al、MgO、SiO、ZrO、TiO、CeOなどを主成分とする絶縁層のことである。また、絶縁層形成用溶液としては、Al(OC、Si(OCなどの金属アルコキシド溶液を用いることができる。湿式による方法における焼結温度は、主成分によって適宜決定することができる。湿式による方法における焼結温度は、例えばSiOを主成分とする絶縁層の場合、1100〜1200℃であることが好ましい。また、Alを主成分とする絶縁層の場合、1300〜1400℃であることが好ましい。
【0098】
「窒化物を主成分とする絶縁層」を形成する場合、ハニカム構造部を、絶縁層形成用スラリー、及び絶縁層形成用コロイド、絶縁層形成用溶液のいずれかに浸漬し、その後、余剰分を除去し、乾燥させる。その後、窒素またはアンモニアを含む還元雰囲気にて窒化する。このようにして、窒化物を主成分とする絶縁層を形成することができる。窒化物としては、絶縁性を有しながら熱伝導が高いAlN、Si等を挙げることができる。
【0099】
乾式による方法は、静電スプレー法などを挙げることができる。静電スプレー法により絶縁層を形成するには、例えば以下ように行うことができる。まず、絶縁性物質の粉末(絶縁性粒子)または「絶縁性粒子を含むスラリー」に電圧を印加して負(または正)に帯電させる。その後、正(または負)に帯電させたハニカム構造部に、帯電させた「絶縁性粒子、または絶縁性粒子を含むスラリー」を吹き付ける。このようにして絶縁層を形成する。
【0100】
絶縁層の膜厚は、所望の耐電圧に応じて適宜設定することができる。絶縁層の膜厚が厚いと、絶縁性が高くなるものの潤滑系流体を加熱するには熱抵抗が大きくなる。これは、絶縁層が隔壁に比較して熱伝導が低くなりやすいためである。更に、ヒーターの圧力損失が大きくなる。そのため、絶縁層の膜厚は絶縁性が確保できる範囲内において薄い方が好ましい。具体的には、絶縁層の膜厚は、隔壁の膜厚よりも薄いことが好ましい。更に具体的には、材質毎の絶縁破壊強度に拠るが、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが更に好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。絶縁層の膜厚が上記範囲であると、熱抵抗を低く維持しつつ、ハニカム構造部の圧力損失が増加することを防止できる。絶縁層の膜厚は、絶縁層の平均膜厚を意味する。絶縁層の膜厚は、断面サンプルを用いて光学顕微鏡や電子顕微鏡により観察して計測した値である。ここで、「断面サンプル」は、ヒーターの一部を切り出したサンプルであり、隔壁の壁面に直交する切断面を有するサンプルである。また、例えば、絶縁層が酸化膜である場合に、上記のような厚さの酸化膜を形成するためには、焼成温度を1200〜1400℃とすることが好ましい。また、水蒸気雰囲気下で焼成し、酸化膜を形成することも好ましい方法である。更に、焼成時間を調整することにより、酸化膜の膜厚を調整することもできる。焼成時間が長くなるほど、酸化膜の厚さは厚くなる。
【0101】
一対の電極部21のそれぞれが、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に延びる帯状に形成されていることが好ましい。また、セル2の延びる方向に直交する断面において、一方の電極部21が、他方の電極部21に対して、ハニカム構造部4の中心を挟んで反対側に配設されていることが好ましい。図1においては、端面が四角形の筒状であるハニカム構造部4の「並行する(平行な)2つ側面」に、各電極部21,21が配設されている。このように構成することによって、一対の電極部21,21間に電圧を印加したときの、ハニカム構造部4の温度分布の偏りを抑制することができる。
【0102】
(2)ヒーターの製造方法:
次に、本発明のヒーターの一の実施形態(図1参照)の製造方法について説明する。
【0103】
Si複合SiC(セラミックス)を主成分とするハニカム構造部を作製する際には、まず、SiC粉体、金属Si粉体、水、有機バインダーなどを混ぜ合わせ、混練して坏土を作製する。そして、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する。その後、得られたハニカム成形体を不活性ガス雰囲気中において焼成することにより、Si含浸SiCを主体としたハニカム構造部を製造することができる。また、Si含浸SiCを主成分とするハニカム構造部を作製する際には、まず、SiC粉体、金属Si粉体、水、有機バインダーなどを混ぜ合わせ、混練して坏土を作製する。また、SiC粉体、水、有機バインダーなどを混ぜ合わせ、混練して坏土を作製してもよい。そして、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する。その後、得られたハニカム成形体を不活性ガス雰囲気中において焼成することによりハニカム構造体を形成する。その後、得られたハニカム構造体に、不活性ガス雰囲気中においてSiを含浸することにより、Si含浸SiCを主成分とするハニカム構造部を製造することができる。尚、再結晶SiC及び反応焼結SiCの作製については先述の通りである。
【0104】
また、外周壁及び隔壁を構成するセラミックス材料としては、炭化珪素、Fe−16Cr−8Al、SrTiO(perovslite)、Fe(corundum)、SnO(rutile)、ZnO(wurzite)等を挙げることができる。これらの材料は、比抵抗が0.01〜50Ω・cmの材料である。各材料の具体的な比抵抗については、以下の通りである。炭化珪素の比抵抗は、一般的に幅が広く1〜1000Ω・cmであり、SiC単独であれば、先述の比抵抗範囲内にするのが好ましい。Si及びSi系合金と複合化する場合では、微構造組織にもよるが、最大1000Ω・cmまで適用することが可能である。Fe−16Cr−8Alの比抵抗は、約0.03Ω・cmである。SrTiO(perovslite)の比抵抗は0.1Ω・cm以下である。Fe(corundum)の比抵抗は約10Ω・cmである。SnO(rutile)の比抵抗は0.1Ω・cm以下である。ZnO(wurzite)の比抵抗は0.1Ω・cm以下である。
【0105】
ここで、ハニカム構造部は、「金属Siの含有量/(Siの含有量+SiCの含有量)」の値が5〜50であることが好ましい。そして、ハニカム構造部は、「金属Siの含有量/(Siの含有量+SiCの含有量)」の値が10〜40であることが更に好ましい。これにより、外周壁や隔壁の強度を保ちながら比抵抗を適当な大きさにすることができる。
【0106】
更に、本実施形態のヒーター100では、隔壁の表面に、絶縁膜として、SiCが酸化して形成されたSiO膜(酸化膜)が形成されていることが好ましい。隔壁の表面に酸化膜を形成する際には、大気などの酸化雰囲気下で高温処理を施すことが好ましい。隔壁の主成分がSiC、Si含浸SiC、またはSi複合SiCである場合には、例えば、大気中、1200℃、6時間の条件で処理することが好ましい。これにより、隔壁の表面に酸化膜を形成することができる。
【0107】
次に、電極を形成するために、ハニカム構造部の側面から酸化膜層を、機械加工により除去することが好ましい。それにより、ハニカム構造部の側面に、Si−SiC層を露出させることが好ましい。ハニカム構造部における、酸化膜層が除去される側面は、電極部を配設する2つの側面である。そして、導電性を有するSi−SiC層を露出させた後に、当該2つの側面に、導電性接合材を塗布することが好ましい。
【0108】
上記と同様に、「ポリアミド樹脂、脂肪族アミン及び銀フレーク」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストAとする。また、「銀化合物、ケイ酸塩溶液及び水」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストBとする。また、「ニッケル粉末及びケイ酸塩溶液」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストCとする。ここで、ニッケル粉末は、導電性ペーストC全体に対して30〜60質量%含有されていることが好ましい。また、「酸化アルミニウム、グラファイト及びケイ酸塩溶液」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストDとする。この場合、導電性接合材としては、導電性ペーストA、導電性ペーストB、導電性ペーストC、及び、導電性ペーストDからなる群から選択される1種であることが好ましい。このような導電性接合材を用いて、電極部とハニカム構造部とを接合することにより、得られる本実施形態のヒーターは、通電による発熱性能が良い。更に、得られる本実施形態のヒーターは、熱応力が低減されることから、セラミックスを主成分とするハニカム構造部に、クラックが発生し難いものである。更に、得られる本実施形態のヒーターは、電極部がハニカム構造部から剥れ難いものである。
【0109】
従来、セラミックスと金属とを接合するための接合材としては、Alロウ、Agロウ、Auロウ、Pdロウ、Niロウ、Cuロウ、Pbフリー半田、In半田等が一般に存在する。この中で、例えばセラミックス接合に汎用的なAgロウ(またはAgCuTi活性金属ロウ)を用いる場合には、特開昭63−190773号公報に記載されるように850℃程度の高温にする必要があった。しかし、本発明のヒーターの製造において、ハニカム構造部に電極部を接合する場合には、850℃の高温まで昇温すると、その後に冷却したときに、ハニカム構造部にクラックが発生したり、電極部が剥れ易くなる問題があった。また、Alロウなどでも接合温度として約600℃程度が必要となる。そのため、接合時の残留応力によってクラック発生の確率が高くなるという問題があった。また、Pbフリー半田などでは、約200℃前後での接合が可能となる。しかし、セラミックスとの接合を行う場合、濡れ性を得るために表面処理(メタライズ)が必要であった。これに対し、本発明のヒーターの製造に用いるような導電性接合材を用いることで、表面処理(メタライズ)を行うことなく、200℃以下の低温で焼成することによりハニカム構造部に電極部を接合することが可能である。更に、電極部とハニカム構造部とを、これらの間に介在させた導電性接合材を焼成することにより接合させることにより、得られたヒーターは、200℃以下である焼成温度よりも、高い耐熱性を保持することが出来る。特に、本発明のヒーターの加熱対象は潤滑系流体である。そのため、潤滑系流体の劣化等の問題が生じないようにするために、過剰に温度を上げないようにすることが好ましい。尚、ハニカム構造部の内部には加熱の対象である潤滑系流体が流れ、この潤滑系流体が、ヒーターから熱を受け取る。別言すれば、潤滑系流体がヒーターから熱を奪うことになる。そのため、潤滑系流体がヒーターの冷却剤としても作用する。その結果、ヒーターが高温に発熱しても、ヒーターの外側にある導電性接合部における実温度は低くなる傾向がある。以上のことより、接合部分に対する耐熱性としては、約200〜250℃であれば問題無いことから、本発明では、各種接合材の中より、上記導電性接合材を選択した。そして、「接合後と冷熱サイクル後において、ヒーター特性に優れると共に信頼性が高いヒーター」を作製するため、熱応力を低減する構造について検討し、本発明に至った次第である。
【0110】
次に、導電性接合材の上から電極部を貼り付ける。これにより、ハニカム構造部の側面に、導電性接合材によって電極部が貼り付けられた状態となる。
【0111】
電極部としては、上記本発明のヒーターを構成する電極部と、同様の条件のものが好ましい。
【0112】
次に、電極部が貼り付けられたハニカム構造部を焼成して、本発明のヒーターを得る。
【0113】
焼成条件は、大気中、60〜200℃、0.5〜2時間とすることが好ましい。このように、上記のような導電性ペーストを用いてハニカム構造部と電極部とを接合する。そのため、100℃付近(60〜200℃)の低温で焼成(熱処理)することが可能となる。そして、これにより、焼成時にハニカム構造部が破損したり、電極部が剥れたりすることを防止することができる。
【0114】
(3)ヒーター:
本発明のヒーター(第二のヒーター)としては、図13に示すヒーター102のようなヒーターを挙げることができる。図13に示すヒーター102は、筒状のハニカム構造部4と、ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接合された一対の電極部21,21とを備えている。ハニカム構造部4は、潤滑系流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1、及び最外周に位置する外周壁3を有している。隔壁1は、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱するものである。電極部21の形状は、電極部21の外周を取り囲む形状の面積より、電極部21の接合部分の面積のほうが小さい形状である。または、電極部21の形状は、長方形において角部が曲線状に形成された形状である。そして、導電性接合部23は、溶射法、コールドスプレー法、またはメッキ法によって形成された、金属を含有するものである。ヒーター102は、電極部21に端子部22が配設されている。端子部22は、外部電源等からの配線が接続される部分である。
【0115】
このようなヒーター102は、導電性接合部23が、「溶射法、コールドスプレー法、またはメッキ法によって形成された、金属を含有するもの」である。導電性接合部23は、上記方法により形成されたものであるため、ハニカム構造部4の側面5に物理的に貼り付けられている。この導電性接合部23は、一対の電極部21,21とともに「電極」としての機能を発揮する。そして、導電性接合部23は、ハニカム構造部の表面上に直接に形成されるものであり、電気抵抗の低いものであるため、導電性接合部23は、大きな電流を流すことができる。また、ヒーター102は、電極部21の形状が、「電極部の外周を取り囲む形状の面積より、電極部の接合部分の面積のほうが小さい」形状である。または、ヒーター102は、電極部の形状が、「長方形において角部が曲線状に形成された」形状であってもよい。そのため、ヒーター102における電極部21の形状は、上記「熱応力が低減される形状」である。そのため、電極部21をハニカム構造部4に接合した後に、電極部21がハニカム構造部4から剥れることを防止することができる。更に、電極部21をハニカム構造部4に接合した後に、ハニカム構造部4にクラックが発生することを防止することができる。更に、加熱と冷却とが繰り返される使用環境下においても、電極部21がハニカム構造部4から剥れたり、ハニカム構造部4にクラックが発生することを防止することができる。その他、ヒーター100と同様の効果を奏するものである。
【0116】
本発明のヒーターは、上述したように、一対の電極部が、ハニカム構造部の側面に導電性接合部を介して接合されている。そして、この導電性接合部の大きさ(即ち、導電性接合部の外周を取り囲む形状の面積)は、特に制限はない。そのため、図13に示すヒーター102の導電性接合部23のように、導電性接合部23の外周を取り囲む形状の面積が電極部21の外周を取り囲む形状の面積よりも大きくてもよい。即ち、導電性接合部23が電極部21からはみ出していてもよい。
【0117】
図13に示されるヒーター102の導電性接合部23は、電極部21の面積(即ち、「電極部21の外周を取り囲む形状の面積」)よりも大きな面積を有するものである。そのため、このヒーター102の導電性接合部23は、ハニカム構造部4及び電極部21を接合すること以外に、一対の電極部21,21とともに「電極」としての機能を発揮するものである。即ち、ヒーター102の一対の電極部21,21間に電圧を印加すると、一方の電極部21から流れた電流は、この一方の電極部21とハニカム構造部4とを接合する導電性接合部23内に広がる。そして、一対の導電性接合部23,23の間に挟まれたハニカム構造部4全体に電流が流れることになる。このように、ヒーター102の導電性接合部23は、一対の電極部21,21とともに「電極」としても機能し得る。図13は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0118】
導電性接合部23が上記「電極部21の面積よりも大きな面積を有するもの」である場合、導電性接合部23は、上述した電極部21の形状、厚さ、材質と同様の形状、厚さ、材質とすることができる。以下、具体的に説明する。
【0119】
導電性接合部の形状は、「導電性接合部の外周を取り囲む形状の面積より、導電性接合部の接合部分の面積のほうが小さい」形状とすることができる。また、導電性接合部の形状は、「長方形において角部が曲線状に形成された」形状とすることができる。即ち、例えば、導電性接合部の形状を、複数の孔が形成された板状とすることができる。このように、導電性接合部の形状を上記形状とすると、ハニカム構造部と導電性接合部との間に生じる熱応力が低減される。なお、「導電性接合部の外周を取り囲む形状」とは、「導電性接合部に外接する環形状であって、周長(環の長さ)が最も短くなる形状」を外周形状とする形状である。
【0120】
導電性接合部の材質としては、金属を含有する材質とすることができる。具体的には、上述した電極部の材質と同様の材質を挙げることができる。導電性接合部の材質としては、電気抵抗が低く、熱膨張係数が小さいことが望ましい。電気抵抗が高いと、通電時に導電性接合部自身の発熱により問題が発生することがある。また、熱膨張係数がセラミックスに対して大きいと、導電性接合部とハニカム構造部との界面が剥離したり、ハニカム構造部にクラックが発生したりすることがある。このため、導電性接合部の熱膨張係数は、セラミックスに近くなることが更に望ましい。
【0121】
導電性接合部の厚さは、100〜3000μmが好ましく、200〜1000μmが更に好ましい。導電性接合部の厚さの好ましい範囲は、導電性接合部の材質によって変化することがある。100μmより薄いと、導電性接合部自身の抵抗発熱により問題が発生したり、接合強度が低下したりすることがある。3000μmより厚いと、ハニカム構造部及び導電性接合部の熱応力が大きくなり、ハニカム構造部にクラックが発生したり、ハニカム構造部と導電性接合部との界面が剥離したりすることがある。
【0122】
「導電性接合部の外周を取り囲む形状の面積」に対する、「導電性接合部のハニカム構造部に対する接合部分(接合面)の面積」の比率(接合部分面積比率)が、40〜95%であることが好ましい。これは、導電性接合部の材質や電極部の厚みによって変化することがある。熱応力を低減するために接合部分(接合面)の面積を小さくするのが望ましい。しかし、面積を小さくしすぎるとヒーター(ハニカム構造部)の通電性能を低下させてしまう場合がある。このため、通電性能を落とさず、熱応力を低減させて導電性接合部の接合部分の機械的信頼性を確保するよう、バランスを取ることが好ましい。
【0123】
なお、ヒーター102の電極部21としては、上述したヒーター100の電極部21と同様の電極部を適宜選択して用いることができる。また、ヒーター102のハニカム構造部4としては、上述したヒーター100のハニカム構造部4と同様のハニカム構造部を適宜選択して用いることができる。
【0124】
本発明のヒーター(第二のヒーター)は、図14に示されるヒーター103のように、電極部21に、端子部22及び棒状端子部26が配設されていることも好ましい。棒状端子部26は、端子部22に電気的に連結されていることが好ましい。この場合、棒状端子部26に外部電源等からの配線が接続されることが好ましい。また、本発明のヒーターは、棒状端子部26を有するときには、図14に示されるように、端子部22は、ハニカム構造部の「電極部が配設されていない側面」に沿って配置されることが好ましい。図14は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0125】
(4)ヒーターの製造方法:
次に、図13に示すヒーター102の製造方法について説明する。
【0126】
まず、上述した本発明のヒーターの一の実施形態の製造方法と同様にして、ハニカム構造部を製造する。次に、製造したハニカム構造部の側面に、溶射法、コールドスプレー法、メッキ法により「金属を含有する塗膜」を形成する。その後、この塗膜上に電極部を貼り付ける。これにより、ハニカム構造部の側面に、導電性接合部を介して電極部が貼り付けられた状態となる。このようにして、本発明のヒーター(図13に示すヒーター102)を得ることができる。
【0127】
なお、上述した本発明のヒーターの一の実施形態の製造方法と同様に、ハニカム構造部の側面から酸化膜層を除去し、酸化膜層が除去されたハニカム構造部の側面に、溶射法、コールドスプレー法、メッキ法により「金属を含有する塗膜」を形成することが好ましい。また、「金属を含有する塗膜」を形成するには、溶射法、コールドスプレー法、メッキ法のいずれかの方法を組み合わせた方法を採用することもできる。
【0128】
溶射法による導電性接合部の形成方法としては、具体的には、以下のような方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造部の側面のうち電極部を配設する2つの側面(電極部配設面)をサンドブラスト処理する。このサンドブラスト処理により上記電極部配設面を表面粗化するとともに上記電極部配設面から酸化膜層を除去する。次に、上記電極部配設面以外の側面にこの側面を覆うように保護カバーを配設する。次に、上記電極部配設面に、加熱溶融させた粉末原料を吹き付ける。このようにして上記電極部配設面上に導電性接合部となる塗膜を形成することができる。粉末原料としては、後述するように、例えば、純ニッケル、ニッケル合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、純モリブデン、純タングステンなどを挙げることができる。また、粉末原料を加熱溶融させる温度は、以下に示す各方法により異なり、適宜設定することが好ましい。
【0129】
このような溶射法によれば、導電性接合部が完全には緻密化し難い。即ち、溶射法によれば、導電性接合部の内部に複数の気孔が形成された導電性接合部を作製することができる。このような導電性接合部は、気孔が形成されていることによりヤング率が低下するため、熱応力に対する緩和機能が向上したものとなる。
【0130】
溶射法としては、例えば、プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法(HVOF法)、アーク溶射法、フレーム溶射法などを挙げることができる。
【0131】
プラズマ溶射法は、即ち、電気式溶射法である。このプラズマ溶射法を用いて粉末原料をハニカム構造部(電極部配設面)に吹き付ける方法を以下に具体的に説明する。まず、アルゴン、窒素、ヘリウムなどのガス中で、陰極−陽極間に電圧をかけて直流アークを発生させる。このように直流アークを発生させると、上記ガスが解離または電離して連続的にプラズマアークが発生する。次に、このプラズマアークを、冷却させたノズルにより絞り込むことによって、約10,000℃程度の高速ジェットガス(プラズマジェット)を噴出させる。次に、このプラズマジェット中に粉末原料を供給する。そして、プラズマジェット中に粉末原料を供給することによって、この粉末原料を溶融させながら加速させ、上記電極部配設面に、加熱溶融させた粉末原料を吹き付けることができる。本方法(プラズマ溶射法)によれば、セラミックスなどの高融点材料の溶射が可能である。また、プラズマ溶射法の中でも特に減圧プラズマ溶射法は、プラズマ溶装置内を真空引きした後にArガス等でガス置換して溶射すると、形成される導電性接合部に不純物や酸化物が混入し難いという利点がある。そのため、この減圧プラズマ溶射法は、電気抵抗が低い導電性接合部を形成する際に有用である。
【0132】
プラズマ溶射法により導電性接合部を形成する場合、粉末原料としては、例えば、純ニッケル、ニッケル合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、純モリブデン、純タングステンなどを挙げることができる。ニッケル合金としては、NiCr、NiAlなどを挙げることができる。アルミニウム合金としては、AlSiなどを挙げることができる。銅合金としては、CuNiなどを挙げることができる。
【0133】
また、プラズマ溶射法により導電性接合部を形成する場合、粉末原料としては、例えば、ニッケルとセラミック粒子を含む複合材(Ni/SiC、Ni/Alなど)、アルミニウムとセラミック粒子を含む複合材(Al/SiC、Al/Alなど)、銅とセラミック粒子を含む複合材(Cu/SiC、Cu/Alなど)などを挙げることができる。セラミック粒子としては、例えば、SiC、Alなどを挙げることができる。上述した各複合材を用いると、電気抵抗が低く、更に、その熱膨張係数が低く、その熱膨張係数がハニカム構造部を構成するセラミックに近い導電性接合部を得ることができる。このような導電性接合部は、冷熱サイクル時に生じる熱応力が低減されたものである。
【0134】
なお、純モリブデン、純タングステンは、他の金属と比較して熱膨張係数が低い。そのため、粉末原料として純モリブデン、純タングステンを用いることにより、電気抵抗が低く、更に、熱膨張係数が低く、その熱膨張係数がハニカム構造部を構成するセラミックに近い導電性接合部を得ることができる。このような導電性接合部は、冷熱サイクル時に生じる熱応力が低減される。また、粉末原料として純モリブデン、純タングステンを用いると、導電性接合部となる塗膜を良好に成膜することができる。このように、純モリブデン、純タングステンを用いた場合には、ニッケルとセラミック粒子を含む複合材などのようにセラミック粒子を含む複合材と同様に冷熱サイクル時に生じる熱応力が低減されるという効果が得られる。
【0135】
次に、高速フレーム溶射法(HVOF法)は、即ち、ガス式溶射法である。この高速フレーム溶射法を用いて粉末原料をハニカム構造部(電極部配設面)に吹き付ける方法を以下に具体的に説明する。まず、炭化水素系や水素ガスと酸素の混合ガスを燃焼させて燃焼ガスを発生させる。次に、この燃焼ガスを高温の超音速燃焼ガス(ガスジェット)とする。その後、このガスジェットに粉末原料を供給し、粉末原料をガスジェット中で溶融させるとともに加速させ、上記電極部配設面に、加熱溶融させた粉末原料を吹き付けることができる。なお、燃焼ガスを発生させる温度は、2000〜3000℃程度である。HVOF法によれば、緻密性・密着性に優れた導電性接合部を形成することができる。
【0136】
HVOF法により導電性接合部を形成する場合、粉末原料としては、例えば、純ニッケル、ニッケル合金、ニッケルとセラミック粒子を含む複合材などを挙げることができる。上記複合材を用いると、電気抵抗が低く、熱膨張係数が低く、更に、その熱膨張係数がハニカム構造部のセラミックスに近い導電性接合部を得ることができる。このような導電性接合部は、冷熱サイクル時に生じる熱応力が低減されたものである。粉末原料の粒子径は、0.1〜150μmとすることが好ましく、10〜50μmとすることが更に好ましい。
【0137】
コールドスプレー法による導電性接合部の形成方法としては、具体的には、以下のような方法を挙げることができる。まず、上記溶射法と同様にして、電極部配設面をサンドブラスト処理し、上記電極部配設面以外の側面にこの側面を覆うように保護カバーを配設する。次に、キャリアガスとして200〜600℃程度の窒素ガス、アルゴンガス、空気などのガスを用いて、粉末原料を上記電極部配設面に超高速で衝突させる。このように、超高速で粉末原料を上記電極部配設面に衝突させることにより、粉末原料が固相状態のまま塑性変形する。このようにして上記電極部配設面上に上記粉末原料に由来する塗膜を形成することができる。キャリアガスは、粉末原料の融点または軟化点よりも低い温度に設定される。
【0138】
コールドスプレー法において粉末原料として用いることができるものは、主に、上記溶射法で用いることができる粉末原料に比べて塑性変形し易い軟質金属である。また、コールドスプレー法は、粉末原料の溶融温度が上記溶射法に比べて低いため、粉末原料の熱変質や酸化が発生し難い。そのため、バルク(固体状の固まり)の材料特性に近いという利点がある。
【0139】
コールドスプレー法に用いる装置としては、例えば、以下に示すものを挙げることができる。即ち、上記装置としては、粉体原料を加熱・加速して加熱溶融させた粉末原料を噴射するガン、キャリアガスを加熱するヒーター、粉末原料を供給するフィダー、及びキャリアガスの圧力、温度、供給量を制御するコントローラーを備えるものが挙げられる。粉末原料の粒子径は、0.1〜150μmとすることが好ましく、10〜50μmとすることが更に好ましい。粉末原料の粒子径が小さいと、使用時に上記ガンの噴射口を閉塞してしまうおそれがある。
【0140】
粉末原料としては、例えば、純ニッケル、純アルミニウム、純銅などを挙げることができる。
【0141】
メッキ法による導電性接合部の形成方法としては、具体的には、以下のような方法を挙げることができる。まず、上記溶射法と同様にして、上記電極部配設面をサンドブラスト処理し、上記電極部配設面以外の側面にこの側面を覆うように保護カバーを配設する。次に、上記電極部配設面にメッキ処理を行う。このようにして上記電極部配設面上に導電性接合部を形成することができる。
【0142】
メッキ法としては、無電解メッキ法、電解メッキ法、またはこれらを組み合わせた方法などを挙げることができる。なお、無電解メッキ法では膜厚が厚い導電性接合部を形成することは困難になる傾向がある。そのため、無電解メッキ法により下層(導電性接合部からなる第1層)を形成した後、この下層上に電解メッキ法により上層(導電性接合部からなる第2層)を形成することができる。このように無電解メッキ法と電解メッキ法とを組み合わせることにより、膜厚の厚い導電性接合部を形成することができる。
【0143】
メッキ法に用いるメッキ材料としては、例えば、純ニッケル、純銅などを挙げることができる。
【0144】
なお、導電性接合部は、溶射法、コールドスプレー法、メッキ法などの方法を組み合わせて形成することができる。例えば、無電解メッキ法により上記下層を形成した後、この下層上にコールドスプレー法により上記上層を形成することができる。なお、この下層と上層とからなるものが導電性接合部となる。このように複数の方法を組み合わせることにより、導電性接合部を厚く形成することができる。なお、上記各方法において、サンドブラスト処理及び保護カバーを配設する操作は、適宜採用すればよい。
【0145】
次に、導電性接合部の上から電極部を貼り付ける。これにより、ハニカム構造部の側面に、導電性接合部を介して電極部が貼り付けられた状態となる。このようにして本発明のヒーターを得る。電極部を貼り付ける方法としては、特に制限はなく、汎用的な接合方法を利用することができる。例えば、半田付け、上述した導電性ペーストを用いた方法等を挙げることができる。なお、「導電性接合部を介して」とは、導電性接合部によって直接または間接的に電極部とハニカム構造部を接合することを意味する。例えばヒーター102は、導電性接合部によって間接的に電極部とハニカム構造部とが接合されているものである。
【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0147】
(実施例1)
まず、Si複合SiCを主成分とするハニカム構造部を作製した。具体的には、SiC粉体、金属Si粉体、水、有機バインダーを混ぜ合わせ、混練して坏土を調製した。次に、この坏土をハニカム形状に成形して、ハニカム成形体を作製した。次に、得られたハニカム成形体を、不活性ガス雰囲気中において焼成することにより、Si複合SiCを主成分とするハニカム構造部を作製した。得られたハニカム構造部の気孔率は約40%であった。
【0148】
ハニカム構造部の形状は、端面が四角形(正方形)の筒状であった。端面の四角形の一辺の長さは、38mmであった。ハニカム構造部のセルの延びる方向の長さは、50mmであった。隔壁の厚さは、0.38mmであった。外周壁の厚さは、0.38mmであった。ハニカム構造部のセル密度は、47セル/cmであった。隔壁及び外周壁の比抵抗は、30Ω・cmであった。
【0149】
ハニカム構造部の4つの側面のうち平行な一対の面、及び、2つの電極部の、それぞれの片方の面に、導電性接合材を塗布した。尚、ハニカム構造部の側面に塗布した導電性接合材のサイズは、36mm×48mm×約0.5mmとした。導電性接合材としては、ニッケル粉末及びケイ酸塩溶液を含有する導電性ペースト用いた。ハニカム構造部の外周壁の4面のなかの平行な一対の面のそれぞれに、導電性接合材を塗布した電極部を貼り付けた。このとき、導電性接合材を介して、電極部がハニカム構造部に貼り付けられた状態にする。そして、導電性接合材を塗布した電極部をハニカム構造部の平行な一対の面に貼り付けた後、焼成して、ヒーターを作製した。電極部は、図1に示されるヒーター100に配設されている電極部21のような形状とした。具体的には、電極部21は、複数の孔の開いた板状のものを用いた。また、電極部21には、端子部22を配設した。導電性接合材を焼成する(電極部をハニカム構造部に接合する)際の条件は、温度100℃、保持時間60分間とした。使用した電極部のサイズは32mm×43mm×0.2mmとした。また、電極部の材質は、純金属Ni(純度99.9%以上)とした。導電性接合部のサイズは36mm×48mm×約0.5mmであった。尚、電極部は、表面をサンドブラストにより表面粗化処理したものを用いた。その他の実施例及び比較例も同様に、表面をサンドブラストにより表面粗化処理した電極部を用いた。
【0150】
得られたヒーターについて、「接合試験」、「通電加熱試験」及び「冷熱サイクル試験」を行った。尚、「通電加熱試験」において、100Vでの最高温度(15秒後)は、118℃であった。
【0151】
(接合試験)
実施例及び比較例のヒーターの電極剥離やクラック発生状況について、外観観察と非破壊試験の超音波探傷試験による評価を行った。接合試験は、ヒーターの、電極剥離及びクラックの有無を判定する試験である。外観観察や超音波探傷試験で電極剥離やクラックが観られたものを不合格(B)とし、超音波探傷試験により電極剥離やクラックが観られなかったものを合格(A)とした。電極剥離とは、電極部の少なくとも一部が、ハニカム構造部から剥離したことを意味する。
【0152】
(通電加熱試験)
「接合試験」において結果が良好(合格(A))であったヒーターに対して、性能評価のために、大気中での通電加熱試験を行った。具体的には、ヒーターに印加する電圧(印加電圧)を表1の条件とした場合の、各電圧におけるハニカム構造部の温度を測定した。表1に示された所定の電圧を印加した後、60秒以内に100℃まで温度上昇したものを合格(A)とした。
【0153】
(冷熱サイクル試験)
実施例及び比較例のヒーターに対して冷熱サイクル試験を行った。具体的には、前記ヒーターに対して、1サイクルが約40分の温度サイクルを、50回かける操作を行った。1サイクルの操作は、「−40℃から+125℃の間で、温度の上昇、保持、下降を行う」操作とした。上記の冷熱サイクル試験後、ヒーターの電極接合部に対して上記「接合試験」を行い、クラック及び界面剥離の有無を確認した。クラック及び界面剥離が発生しなかったものを合格(A)とした。また、クラック又は界面剥離が発生したものを不合格(B)とした。
【0154】
【表1】

【0155】
(実施例2〜実施例58)
ヒーターの各条件を表1、2に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にしてヒーターを作製した。作製したヒーターについて、上記方法で、「接合試験」、「通電加熱試験」及び「冷熱サイクル試験」を行った。尚、各実施例における「隔壁の材料」としては、表1、2に示す「隔壁材料」を用いた。ここで、表1、2に示す各「隔壁材料」からなるハニカム構造部の作製方法をそれぞれ以下に示す。尚、隔壁の材料を「Si複合SiC」とした場合は、実施例1と同様の方法によりハニカム構造部を作製した。
【0156】
【表2】

【0157】
実施例23〜26においては、隔壁の材料を「Si含浸SiC」とした。Si含浸SiCからなる隔壁を有するハニカム構造部の作製方法は、以下の通りである。具体的には、SiC粉体、有機質バインダー、及び水を混ぜ合わせ、混練して坏土を調製した。次に、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製した。次に、得られたハニカム成形体上に金属Siの塊を載置し、減圧アルゴン(Ar)ガス雰囲気中においてハニカム成形体中にSi含浸させた。このようにして、Si含浸SiCを主成分とするハニカム構造部を作製した。
【0158】
実施例27〜38、48、50、52、54、56、58においては、隔壁の材料を「再結晶SiC」とした。再結晶SiCからなる隔壁を有するハニカム構造部の作製方法は、以下の通りである。まず、SiC粉体、有機質バインダー、及び水を含有する原料を、混合、混練して坏土を調製した。次に、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製した。次に、得られたハニカム成形体を、窒素ガス雰囲気中において、所定の温度(1600〜2300℃)で焼成した。このようにして、ハニカム構造部を作製した。
【0159】
実施例39〜42においては、隔壁の材料を「反応焼結SiC(多孔質)」とした。「反応焼結SiC(多孔質)」とは、多孔質の反応焼結SiCのことである。反応焼結SiC(多孔質)からなる隔壁を有するハニカム構造部の作製方法は、以下の通りである。まず、窒化珪素粉末、炭素質物質、炭化珪素及び黒鉛粉末を混合、混練して坏土を調製する。次に、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製した。次に、非酸化性雰囲気中において上記ハニカム成形体を一次焼成して一次焼成体を得た。次に、得られた一次焼成体を酸化性雰囲気中で加熱して脱炭することにより、残存する黒鉛を除去した。次に、非酸化性雰囲気中において「脱炭された一次焼成体」を所定の温度(1600〜2500℃)で二次焼成した。このようにして、ハニカム構造部を作製した。
【0160】
実施例43〜46においては、隔壁の材料を「反応焼結SiC(緻密質)」とした。「反応焼結SiC(緻密質)」とは、緻密質の反応焼結SiCということである。反応焼結SiC(緻密質)からなる隔壁を有するハニカム構造部の作製方法は、以下の通りである。まず、SiC粉体及び黒鉛粉末を混合、混練して坏土を調製した。次に、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製した。次に、このハニカム成形体に「溶融した珪素(Si)」を含浸させた。これにより、黒鉛を構成する炭素と、含浸させた珪素とを反応させてSiCを生成させた。このようにしてハニカム構造部を作製した。
【0161】
表1、2において、「接合部分面積比率」は、「電極部の外周を取り囲む形状の面積」に対する、「電極部の接合部分(接合面)の面積」の比率を意味する。また、「電極部」の「材質」の欄における、Ni、Cu、Al、Mo、Wは、それぞれ純金属である。なお、純度は、それぞれ、Niは99.9%以上、Cuは99.95%以上、Alは99.5%以上、Moは99.95%以上、Wは99.95%である。また、「SUS304」は、ステンレス鋼の種類の一つであるSUS304を意味する。また、「Cu/W」は銅とタングステンの複合材を意味する。「Cu/Mo」は銅とモリブデンの複合材を意味する。両材ともに、W及びMoの体積率が85%であるものを使用した。「SiC/Al」はSiCとアルミニウムの複合材を意味する。「C/Cu」は炭素と銅の複合材を意味する。両材ともに、SiC及びCの体積率が70%であるものを使用した。また、「電極部」の「構造」の欄には、図面の番号が示されているが、これは、「各図面に示された電極部」の構造と同じ構造であることを意味する。なお、表3においても同様とする。
【0162】
実施例15〜22、27〜34、39〜42、47〜58のヒーターについて、大気中にて、ヒーターの印加電圧を20〜60Vとして通電加熱試験を行った。その結果、上記各実施例のヒーターでも、実施例1のヒーターと同様に、良好に加熱昇温が可能であることが分かった。具体的には、例えば実施例15のヒーターは、20Vでの最高温度(15秒後)が、107℃であった。このように、ハニカム構造部の隔壁及び外周壁の比抵抗を調整することで、印加電圧を大幅に低減したとしても(印加電圧を弱電範囲(即ち、60V以下)とした場合であっても)、ヒーターの作動上(発熱性能など)において良好なことが分かった。
【0163】
(比較例1)
実施例1と同様にしてハニカム構造部を作製した。また、実施例1と同様にして電極部を作製した。得られた電極部を、活性金属ロウである「Ag−Cu−Ti」(田中貴金属社製、TKC−711)を用いて、得られたハニカム構造部に接合し、ヒーターを得た。従って、得られたヒーターは、電極部が活性金属ロウを介してハニカム構造部に接合されたものであった。活性金属ロウである「Ag−Cu−Ti」は、セラミック接合用の接合材として汎用的に使用されるものである。電極部の材質は、実施例1と同様の純金属Niとした。電極部とハニカム構造部との接合には、真空雰囲気炉を用いた。そして、電極部とハニカム構造部との間に活性金属ロウを挟んだ状態で、850℃で10分保持することにより、電極部とハニカム構造部とを、活性金属ロウによって接合した。得られたヒーターについて、上記方法で「接合試験」を行った。結果を表2に示す。接合試験の結果、ハニカム構造部の、両電極部が接合された電極端部付近に、クラックが発生していた。このクラックは、外観観察からも明瞭に確認できるものであった。これより、セラミックス(ハニカム構造部)側への熱応力が大きいものと考えられる。
【0164】
(比較例2)
電極部の材質をSUS304とした以外は、比較例1と同様にしてヒーターを作製した。得られたヒーターについて、上記方法で「接合試験」を行った。結果を表2に示す。比較例1と同様に、クラックの発生を確認した。
【0165】
(比較例3)
電極部(電極部21E)の形状を図12に示すような長方形にした以外は、実施例1と同様にしてヒーターを作製した。得られたヒーターについて、上記方法で「接合試験」、「通電加熱試験」及び「冷熱サイクル試験」を行った。結果を表2に示す。図12は、比較例3のヒーターを構成する電極部21Eを模式的に示す平面図である。表2に示されるように、電極部の形状が図12に示すような「長方形」(4つの角部が直角)の場合、「接合試験」においては良好に接合されていた。しかし、「冷熱サイクル試験」において、冷熱サイクル試験時に発生した熱応力によって、ハニカム構造部に接合された両電極部に電極剥離(界面剥離)が生じており、不合格(B)であった。
【0166】
表1に示される、実施例1,2のヒーターについての「通電加熱試験」の結果より、電圧が、10〜400Vのいずれの値であっても、ハニカム構造部が100℃まで良好に加熱されたことがわかる。尚、表1,2には示されていないが、印加電圧を高くするほど、常温から100℃までの昇温時間は短くなる結果であった。
【0167】
表1、2に示される「冷熱サイクル試験」の結果より、本発明のヒーター(実施例1〜58)については、界面剥離やクラックの発生はなかったことがわかる。一方、比較例3のように、電極部の形状を図12に示すような「長方形」(四つの角部が直角)にした場合には、電極角部への応力集中により冷熱サイクル後に角部から電極剥離(界面剥離)が生じていた。
【0168】
実施例1〜58のヒーターの製造においては、電極部とハニカム構造部との接合温度は100℃と低く、残留応力を低減するのに有効であった。これに対し、比較例1のヒーターの製造においては、活性金属ロウを用いた通常のセラミックス接合用ロウ付けを行っているため、電極部とハニカム構造部との接合温度が850℃と高く、熱応力によりクラックが発生した。実施例1〜58のヒーターは、低温で電極部をハニカム構造部に接合しているにも関わらず、通電性能に優れ、且つ、接合後及び冷熱サイクル試験後においてもクラックや電極剥離が生じ難いヒーターであった。
【0169】
(実施例59〜79)
「ヒーターの各条件を表3に示すように変化させた」こと及び「ハニカム構造部の平行な一対の側面に表3に示す方法で導電性接合部を形成し、この導電性接合部を介して電極部とハニカム構造部を接合した」こと以外は、実施例1と同様にしてヒーターを作製した。得られたヒーターについて、上記方法で、「接合試験」、「通電加熱試験」及び「冷熱サイクル試験」を行った。尚、導電性接合部のサイズは幅20mm×長さ36mmとし、厚みは表3に示すものとした。尚、使用した電極部は純金属Ni(純度99.9%以上)とし、そのサイズは、導電性接合部の長さの半分(即ち18mm)、幅は20mmとし、厚みは0.5mmであった。尚、各実施例におけるハニカム構造部としては、表3に示す「隔壁材料」からなるものを用いた。表3に示す各「隔壁材料」からなるハニカム構造部の作製方法は、それぞれ上述した方法と同様の方法である。
【0170】
表3において、「導電性接合部」の「材質」の欄における「SiC/Ni」はSiCとニッケルの複合材を意味する。「Al/Ni」はAlとニッケルの複合材を意味する。「SiC/Cu」はSiCと銅の複合材を意味する。「Al/Cu」はAlと銅の複合材を意味する。「Al/Al」はAlとアルミニウムの複合材を意味する。これらの複合材におけるセラミックス粒子の体積率は55%とした。Ni、Cu、Al、Mo、Wは、それぞれ純金属である。溶射法とコールドスプレー法では、純金属粉末を用いた。なお、粉末純度は、Niが99.7%以上、Cuが99.5%以上、Alが99.7%以上、Moが99.9%以上、Wが99.9%である。「導電性接合部」の「形成方法」の欄の「溶射法」は、減圧プラズマ溶射法を意味する。
【0171】
「溶射法」による導電性接合部の形成は、具体的には以下の方法で行った。まず、溶射装置内にハニカム構造部を載置後、真空にするため排気し、その後、Arガスによりガス置換した。次に、プラズマジェット中に粉末原料(表3中、「導電性接合部」の「材質」の欄に示す)を供給しながら、ハニカム構造部の所定の側面に、加熱溶融させた上記粉末原料を吹き付ける。このようにしてハニカム構造部の側面に上記粉末原料からなる薄膜状の導電性接合部を形成する。
【0172】
「コールドスプレー法」による導電性接合部の形成は、具体的には以下の方法で行った。まず、キャリアガスとして圧縮空気を用いて、粉末原料(表3中、「導電性接合部」の「材質」の欄に示す)をハニカム構造部の所定の側面に超高速で衝突させる。このようにしてハニカム構造部の側面に上記粉末原料からなる薄膜状の導電性接合部を形成する。
【0173】
「メッキ法」による導電性接合部の形成は、メッキ材料(表3中、「導電性接合部」の「材質」の欄に示す)を用意し、無電解メッキ法で成膜を行う。その後、電解メッキ法により成膜を行う。この電解メッキ法による成膜は、導電性接合部の膜厚を厚くするために行うものである。このようにしてハニカム構造部の側面に上記メッキ材料からなる薄膜状の導電性接合部を形成する。
【0174】
なお、「溶射法」、「コールドスプレー法」、及び「メッキ法」により導電性接合部を形成した場合には、実施例1と同様の導電性ペーストを用いて導電性接合部上に電極部を接合する。
【0175】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明のヒーターは、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を加熱するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0177】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、4:ハニカム構造部、5:側面、11:一方の端面、12:他方の端面、21:電極部、21A,21B,21C,21D,21E:電極部、22:端子部、23:導電性接合部、24:電極部の外周を取り囲む形状、25:電極素材、26:棒状端子部、31:ハニカム構造部側の面、32:ハニカム構造部側の面に対して反対側の面、33:凸条、34:部分電極、35:角部、36:湾曲部、100,101,102,103:ヒーター、H1,H2:高さ、D1,D2:距離、W1,W2:幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁、及び最外周に位置する外周壁を有する筒状のハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の側面に導電性接合部を介して接合された一対の電極部とを備え、
前記隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱し、
前記電極部の形状が、前記電極部の外周を取り囲む形状の面積より、前記電極部の接合部分の面積のほうが小さい形状であるか、又は、前記電極部の形状が、長方形において角部が曲線状に形成された形状であり、
前記導電性接合部は、導電性接合材が60〜200℃で焼成されて形成されたものであるヒーター。
【請求項2】
前記導電性接合材が、ポリアミド樹脂、脂肪族アミン及び銀フレークを含有する導電性ペースト、銀化合物、ケイ酸塩溶液及び水を含有する導電性ペースト、ニッケル粉末及びケイ酸塩溶液を含有する導電性ペースト、並びに、酸化アルミニウム、グラファイト及びケイ酸塩溶液を含有する導電性ペーストからなる群から選択される1種である請求項1に記載のヒーター。
【請求項3】
潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁、及び最外周に位置する外周壁を有する筒状のハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の側面に導電性接合部を介して接合された一対の電極部とを備え、
前記隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱し、
前記電極部の形状が、前記電極部の外周を取り囲む形状の面積より、前記電極部の接合部分の面積のほうが小さい形状であるか、又は、前記電極部の形状が、長方形において角部が曲線状に形成された形状であり、
前記導電性接合部は、溶射法、コールドスプレー法、またはメッキ法によって形成された、金属を含有するものであるヒーター。
【請求項4】
前記隔壁が、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、及び金属複合Siからなる群から選ばれる1種を主成分とするものである請求項1〜3のいずれかに記載のヒーター。
【請求項5】
前記電極部の外周を取り囲む形状の面積に対する、前記電極部の接合部分の面積の比率が、40〜95%である請求項1〜4のいずれかに記載のヒーター。
【請求項6】
前記電極部の形状が、複数の孔が形成された板状である請求項1〜5のいずれかに記載のヒーター。
【請求項7】
前記電極部の形状が、複数の帯状の電極素材が格子状に並ぶ形状である請求項1〜5のいずれかに記載のヒーター。
【請求項8】
前記電極部の形状が、前記ハニカム構造部側の面が窪むとともに前記ハニカム構造部側の面に対して反対側の面が突き出るような凸条が形成された板状であり、前記板状の電極部には、前記凸条が格子状に並ぶように形成された請求項1〜5のいずれかに記載のヒーター。
【請求項9】
前記電極部の形状が、複数の帯状の部分電極を有する櫛歯状である請求項1〜5のいずれかに記載のヒーター。
【請求項10】
前記電極部の形状が、長方形において角部が曲線状に形成された形状である請求項1〜5のいずれかに記載のヒーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−93302(P2013−93302A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−65283(P2012−65283)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】