説明

ファイバヒューズ伝搬阻止方法

【課題】光ファイバ通信分野において発生が懸念される光ファイバヒューズを効率的に検知し、光源を停止すると共に外部に通報する。
【解決手段】光ファイバヒューズ発生時にコア部から放出される可視光を、光ファイバ側面に配置した光受光器3でモニタし、同モニタ3から出力される電気信号を用いて光ファイバヒューズの発生を判別器5で判断し、光ファイバヒューズ発生の要因となっているハイパワー光源1を停止するとともに、外部通報用インターフェース6を介して通報する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信で問題となっていたファイバヒューズ伝搬阻止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信分野では、光出力が数Wを有する高出力光ファイバ増幅器を用いた多分岐映像分配システムや、伝送ファイバに伝送信号と共に高強度の励起光を入射して信号光を増幅(ラマン増幅)する基幹伝送システムの導入が開始され始めた。これに伴い、強い光が光ファイバに入射すると、光ファイバの光散乱点や光ファイバ間を接続する光コネクタの端面汚れを起点にして、光ファイバのコアが破壊(コアに周期的あるいは非周期的に空孔が形成)される光ファイバヒューズ(以下FFと略す)が発生して、光伝搬が不可能になる(光ファイバのコアが破損(導波構造が破壊)するため)なるという大きな課題があった。図7にFF現象によって光ファイバのコア内に形成された空孔の観察写真を参考に示す。FF現象の発生により、光ファイバ・コアに空孔が形成され、導波構造が破壊されることが分かる。
【0003】
このため、偶発的にFFが発生した場合にもその被害が拡大しないように以下で説明するFF停止法が発明された。
【0004】
従来技術1は、光ファイバコアのモードフィールド径を拡大することにより、FFの伝搬する光閾値を増加することでFF伝搬を阻止する方法である。例えば、非特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】S.Yanagi,et.al.,“Fiber fuse terminator”,The 5th Pacific Rim Conference on Lasers and Electro−Optics, vol.1,p.386,2003
【0005】
図8に従来技術1を示す。FF伝搬光閾値は光ファイバのモードフィールド径(MFD:Mode Field Dimeter)に比例して増加する(図8(a)参照)。このため、光ファイバ中にMFDが拡大した部分のFF伝搬光閾値が増加する。すなわち、MFDを拡大した部分でFF伝搬が停止できる(図8(b)参照)。
【0006】
しかし、従来技術1では、光ファイバ全長に渡るFF現象によるコアの破壊(空孔形成)は阻止できるが、FF現象が発生したかどうかの情報を外部に通報できない(例えば、通報先としては光ファイバ通信システムの運用管理者)という課題を有した。このため、従来技術2が開発された。従来技術2は、FFの発生を検知して、FFを引き起こしている光を停止する方法である。図9に従来技術2を説明する図を示す。例えば、非特許文献2に記載されている。
【非特許文献2】K.S.Abedin,et.al.,“Backreflected radiation due to a propagating fiber fuse",Optics Express,vol.17,no.8,pp.6525−6531,2009
【0007】
本構成では、空孔形成部から反射される反射光をタップカップラで分岐して光受光器で受光後、その受光器から出力される電気信号を電気フィルタを通過させて電気パワーセンサ(判別器)に入力して、FFの発生を感知する。FF発生を感知した場合、同電気パワーセンサからFF発生となる高出力光を供給しているハイパワー光源に出力停止信号を送り(例えば、ハイパワー光源のインターロック入力へ停止信号を送り)、光源の出力を停止することでFFの伝搬を停止する。また、出力停止信号をモニタすることで、光ファイバ通信システムでFFの発生が外部から監視できる。
【0008】
しかし、従来技術2は、FFによって反射される戻り光を受光するためのタップカップラ、受光器、特定の帯域の電気スペクトルの増分を観測するための電気フィルタ、電気パワーセンサ
(判別器)と多くの部品で構成されるため複雑でまた高価なものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、上記問題点を解決して低価格で且つ確実にFF現象を検知し、FF発生となる高出力光を供給しているハイパワー光源を停止する停止法とともに、FF発生を外部に通報できるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のFF停止法およびFF通報法は、FF発生時に高温に加熱されたコア部から放出される可視光を、光ファイバ側面に配置した光受光器でモニタし、同モニタから出力される電気信号を用いてFF発生となる高出力光を供給しているハイパワー光源を停止するとともに外部に通報することを特徴とする。すなわち従来技術2を構成するのに必要な構成部品を大きく削減でき、低価格を実現できる。また、光ファイバ側面から放出される可視光はFF発生時のみに発生するため、FF発生を確実にモニタできる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明のFF停止法およびFF通報法は、FF発生時に高温に加熱されたコア部から放出される可視光を、光ファイバ側面に配置した光受光器でモニタし、同モニタから出力される電気信号を用いてFF発生となる高出力光を供給しているハイパワー光源を停止するとともに外部に通報することを特徴し、従来技術2を構成するのに必要な構成部品を大きく削減でき、低価格を実現できるため、安価なFF停止法およびFF通報法の実現に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のFF停止法および外部へFF発生の通報を説明する図である。
【図2】本発明におけるFF発生をモニタする方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1を説明する図である。
【図4】本発明の実施例2を説明する図である。
【図5】本発明の実施例3を説明する図である。
【図6】本発明の実施例4を説明する図である。
【図7】現象によって光ファイバのコア内に形成された空孔の観察写真である。
【図8】従来技術1を説明する図である。
【図9】従来技術2を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照し本発明をより具体的に詳述するが、以下に開示する実施例は本発明の単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を何等限定するものではない。
【実施例1】
【0014】
本実施例1の伝搬阻止系としては図1に示す構成を採用した。1としては出力5W、波長1550nm、リモートインターロックコネクタ付きの高出力ファイバレーザ、2は透明のUVコート単一モードファイバ、3はシリコン系フォトダイオード(パッケージ:TO−5、受光面積:3mmφ、遮断周波数:100MHz)、4は、電流電圧変換と増幅率2〜1000倍の可変増幅可能な電気信号増幅器、5は電気信号増幅器からのFF検知信号より、TTLのHighレベルを出力する判別器、6はTTLのHighレベルにより、インターネット経由の問い合わせに対して、TTLレベルがHigh状態であることを通報できるインターフェースを用いた。図3に、光強度3Wによって発生したFFを検知した時のシリコン系フォトダイオード3の出力、その検知信号によって判別器5出力されたTTLのHighレベル信号を示す。FFの伝搬速度は〜0.4m/sであった。
【0015】
また、今回、このTTLレベル信号によって高出力ファイバレーザ1のリモートインターロックコネクタを制御することで、FF現象によってコア破壊部分が受光器前の通過を開始してから〜ms以下で高出力ファイバレーザ1の出力を停止し、FF伝搬阻止が速やかに実施できた。
【0016】
また、本FF発生はインターネット経由で通報用インターフェース6にアクセスすることで、FF現象発生しているとの情報を入手できた。なお、前記実施例1では、透明のUVコート単一モードファイバ2を用いたが、UVコートを除去した状態や、色つき(白、青、ピンク、黄色)のUVコート単一モードファイバでも、本伝搬阻止法が動作することも確認できた。ただし、色つきUVコートの場合は、電気信号増幅器4の増幅率を透明UVコート単一モードファイバに比べて大きくした。
【0017】
また、本実施例1では高出力ファイバレーザ1の出力を停止するためにリモートインターロックコネクタを制御したが、高出力ファイバレーザ1の光出力端に。外部制御減衰器、光スイッチを配置し、判別器5からの信号で前記外部制御減衰器、光スイッチを制御してFF発生の要因となっている高強度光の光強度を低下し、FF伝搬阻止が速やかに実施できた。
【実施例2】
【0018】
本実施例2は図4に示すように、実施例1で使用した光受光器3にコネクタ7とFF検知内光ファイバ9を一体化してFF検知部品8を作成したものである。FF検知部品8のような形状にすることで、高出力光を発生する光源の出力端に同FF検知部品8をコネクタ接続することで、簡便に伝搬阻止が実現できた。なお、使用したFF検知内光ファイバ9はUVコートを除去した単一モードファイバ、コネクタ7はSC型を用いた。本FF検知部品8を、実施例1の光受光器3と置き換えて、光強度3Wによって発生したFFを検知し、FF伝搬阻止が速やかに実施できた。
【実施例3】
【0019】
実施例1及び2では光受光器3あるいはFF検知部品8がFFを発生してから高出力ファイバレーザ1のリモートインターロックコネクタを制御するまでの遅延時間(〜ms)が発生し、その遅延時間により光ファイバのFF現象による破壊が進行する。このため、FF検知部品8とFF現象から保護したい部分の間に制御遅延時間に相当した光ファイバを付加して、FF現象から保護したい部分を保護する必要があり、FF伝搬速度が〜0.5msの場合、数m程度の光ファイバを付加することで、FF現象から保護したい部分を保護できた。
【0020】
さらに、制御遅延時間に相当した光ファイバを付加するのではなく、実施例2で説明したFF検知部品8の構造を図5に示すように、コア拡大部あるいはホールアシスト構造部を備えたFF検知内光ファイバ10を用いることで、FFを受光器3で検出後、コア拡大部あるいはホールアシスト構造部を備えたFF検知内光ファイバ10のコア拡大部あるいはホールアシスト構造部においてFF伝搬を速やかに停止できる。本実施例ではコア拡大部のコア径を25μmにすることで、光強度3Wによって発生したFFを同コア拡大部で伝搬を阻止できた。
【0021】
また、コア拡大部あるいはホールアシスト構造部ではFF伝搬は停止できるが、その停止した部分に高強度光が入射し続けるとFFが停止した部分からの散乱光により光ファイバの被覆が燃える。このため、コア拡大部あるいはホールアシスト構造部近傍の光ファイバの被覆を除去し、目の安全を考慮に入れ、難燃性材質で覆うことも合わせて実施し、燃焼と安全の問題を解決できた。
【実施例4】
【0022】
実施例3で説明した、コア拡大部あるいはホールアシスト構造部を備えたFF検知内光ファイバ10を用いて構成したFF検知部品8に、FF伝搬を停止するためのコア拡大部あるいはホールアシスト構造部からの散乱光を観測するための光受光器11を配置した。この光受光器11からの電気信号を光受光器3と同様に電気信号増幅器(不必要の場合もある)を介して判別器に入力することで、FFが発生したことを再確認が可能となる。今回、FFを発生するために使用したファイバレーザ1の波長が1550nmであったため、光受光器11はInGaAs系光受光器を用い、光受光器3でモニタしたFF発生が光受光器11からのモニタ信号からも確認され、一層の検知信頼性の向上が図られた。
【符号の説明】
【0023】
1 ハイパワー光源
2 光ファイバ
3 光受光器
4 電気信号増幅器
5 判別器
6 外部への通報用インターフェース
7 コネクタ
8 FF検知部品
9 FF検知内光ファイバ
10 コア拡大部あるいはホールアシスト構造部を備えたFF検知内光ファイバ
11 光受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバヒューズの形成時に発光される可視光を光ファイバ側面に配置した光受光器でモニタし、前記モニタからの検出された光ファイバヒューズ発生信号を用いて光ファイバヒューズを発生させている光源を停止するファイバヒューズ伝搬阻止法。
【請求項2】
両端を光コネクタに接続可能な光ファイバの側面に光受光器が配置されファイバヒューズ検知部品。
【請求項3】
前記光受光器としてシリコン系フォトダイオードを用いることを特徴とする請求項1に記載のファイバヒューズ伝搬阻止法、または請求項2に記載のファイバヒューズ検知部品。
【請求項4】
前記光受光器が観測する光ファイバの被覆がUVコートあるいはUVコートを除去した光ファイバを用いることを特徴とする請求項1に記載のファイバヒューズ伝搬阻止法、または請求項2に記載のファイバヒューズ検知部品。
【請求項5】
ファイバヒューズから保護したい部分を保護するために、前記光受光器が観測する位置から、ファイバヒューズを停止するまでの遅延時間を加味した長さの光ファイバを挿入することを特徴とする請求項1に記載のファイバヒューズ伝搬阻止法。
【請求項6】
前記光受光器が観測する光ファイバに、コア拡大部あるいはホールアシスト構造部のファイバ構造を備えていることを特徴とする請求項1に記載のファイバヒューズ伝搬阻止法。
【請求項7】
両端を光コネクタに接続可能な光ファイバの側面に光受光器が配置されファイバヒューズ検知部品において、前記両端を光コネクタに接続可能な光ファイバの一部がコア拡大部あるいはホールアシスト構造部のファイバ構造を備えていることを特徴とする請求項2に記載のファイバヒューズ検知部品。
【請求項8】
前記コア拡大部あるいはホールアシスト構造部のファイバ構造を備えた光ファイバのコア拡大部あるいはホールアシスト構造部近傍が難燃構造となっていることを特徴とする請求項6に記載のファイバヒューズ伝搬阻止法、または請求項7に記載のファイバヒューズ検知部品。
【請求項9】
前記コア拡大部あるいはホールアシスト構造部のファイバ構造を備えた光ファイバのコア拡大部あるいはホールアシスト構造部近傍に、散乱光をモニタするための光受光器が配置されたことを特徴とする請求項6に記載のファイバヒューズ伝搬阻止法、または請求項7に記載のファイバヒューズ検知部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−127903(P2012−127903A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281559(P2010−281559)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(504243718)株式会社トリマティス (24)
【Fターム(参考)】