説明

フェロセン修飾抗体

【課題】総電流値の高いフェロセン修飾抗体を提供すること
【解決手段】一般式(化2) Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS (NHS:N‐Hydroxysuccinimide )または一般式(化3) Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS、または一般式(化4) Ferrocene‐CONH‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHSで表されるフェロセン化合物を、抗体のリシン残基にアミド結合によって結合させた構造であって、アミド基、PEG鎖を介して抗体に電子メディエーターであるフェロセンが結合していることを特徴とするフェロセン修飾抗体を用いることによって高い総電流値を獲得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体にフェロセン化合物を修飾した、フェロセン修飾抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素、微生物、抗体といった生体関連物質が有する分子識別機能を利用して、特異的な分子計測を行うバイオセンサの一般的な基本構成は、測定対象物質を特異的に認識する識別素子と、生体関連物質や微生物等が引き起こす物理化学的な現象を電気信号に変換する信号変換素子とからなっている。そのため、測定対象物質を抗体によって認識して捉え、反応した抗体量を、電気応答性を有するフェロセンで検出するバイオセンサにおいては、フェロセンが抗体に結合したフェロセン修飾抗体が必要となる。
【0003】
フェロセン修飾抗体と測定対象物質である抗原との結合活性の低下を抑えるため、予め活性基であるスクシンイミド基が導入され、さらに抗体への導入効率を上げるためにフェロセンと活性基の間にスペーサーとしてアルキル鎖が導入された一般式(化1)Ferrocene‐CONH‐(CH2)5‐CO‐NHS (NHS:N‐Hydroxysuccinimide )で表されるFerrocene amidopentyl carboxylic acid succinimidylester(emp Biotech GmbH製)を修飾した抗体が考えられる( 例えば、非特許文献1 参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
しかしながらこの修飾抗体の場合、アルキル鎖及びフェロセンの可溶性が低いため、修飾されたフェロセンの数が増加するにつれて抗体の回収率が低下し、最終的に得られる総電流値は増加しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第87/06007号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gilad Piperberg, Ofer I. Wilner, Omer Yehezkeli, Ran Tel‐Vered, and Itamar Willner,Institute of Chemistry, The Hebrew UniVersity of Jerusalem, Jerusalem 91904, Israel Received January 29, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高感度のバイオセンサを作製する場合、フェロセンの修飾数を増加させることで低濃度の抗体の電流値を測定することが可能となる。しかしながら上記のようなフェロセン修飾抗体を合成した場合、アルキル鎖及びフェロセンの可溶性が低いため、溶液中で修飾できるフェロセンの数には限界があり、修飾数を増加させると抗体の回収率も低下した。そのため一定量の抗体にフェロセン化合物を修飾した場合に得られるフェロセン修飾抗体の総電流値(フェロセンの修飾数と抗体の回収率を加味した値)を増加させることは困難であった。そこで、本発明はフェロセンの修飾数を増加させてもフェロセン修飾抗体の回収率が低下するのを抑え、高い総電流値を得ることができるフェロセン修飾抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明では、一般式(化2) Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS (NHS:N‐Hydroxysuccinimide )で表されるフェロセン化合物を、抗体のリシン残基にアミド結合によって結合させた構造であって、アミド基、PEG鎖を介して抗体に電子メディエーターであるフェロセンが結合していることを特徴とするフェロセン修飾抗体、もしくは一般式(化3) Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS (NHS:N‐Hydroxysuccinimide )で表されるフェロセン化合物を、抗体のリシン残基にアミド結合によって結合させた構造であって、アミド基、PEG鎖を介して抗体に電子メディエーターであるフェロセンが結合していることを特徴とするフェロセン修飾抗体、もしくは一般式(化4)Ferrocene‐CONH‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHS (NHS:N‐Hydroxysuccinimide )で表されるフェロセン化合物を、抗体のリシン残基にアミド結合によって結合させた構造であって、アミド基、PEG鎖を介して抗体に電子メディエーターであるフェロセンが結合していることを特徴とするフェロセン修飾抗体を用いることによって、PEG鎖部分の分極率が増加して水溶性も増加することができる。
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
この作用によりフェロセン修飾抗体の可溶性低下による変性を抑えることができるため、フェロセン修飾抗体の回収率を維持しながらフェロセンの修飾数を増加させことができる。
【発明の効果】
【0014】
本フェロセン修飾抗体を用いることによって、フェロセンの修飾数を増加させても抗体の損失が少なく、高い総電流値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の各工程を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態を用いて、フェロセン修飾抗体の合成方法について説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は本実施の形態1におけるにフェロセン化合物を修飾する工程を模式的に表した図である。図1(a)に示すように、抗体1を緩衝液中に分散させておく。次に、図1(b)に示すように、有機溶媒中に溶解させたFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS2を図1(a)に示す抗体1が分散した緩衝液中に混合し、30分以上攪拌して結合させ、図1(b)に示すようなフェロセン修飾抗体3を得る。
【0018】
図1(b)に示す緩衝液中には、フェロセン修飾抗体3の他に、抗体1と結合しなかった未反応のFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS2が存在する。このFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS2を図1(c)に示すように、脱塩処理によって分離する。また、緩衝液を変えたい場合はここで同時に目的の緩衝液へ交換し、必要に応じて濃縮を行う。
【0019】
上記と同様の方法で、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS、Ferrocene‐CONH‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHSを抗体に修飾したフェロセン修飾抗体も得ることができる。
【0020】
なお、反応に用いる緩衝液は、カップリング効率を著しく低下させる1級アミノ基(‐NH2)をもつ物質が混入していない、中性付近の生体用緩衝液であれば特に限定はしない。
【0021】
また、修飾物質を修飾する抗体は測定対象物質を特異的に結合することが可能なものであれば、特に限定されない。例えば、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDのいずれの抗体のサブクラスであってもよく、これらの混合物であってもよい。また、抗体の由来動物種に関しても、特に限定されないが、ウサギ、ヤギ、マウス由来の抗体が比較的入手も容易であり、使用例も多いため、好ましい。
【0022】
なお、本実施の形態における抗体濃度は、低濃度の場合は濃縮などの作業数が増え、また高濃度の場合は抗体の凝集がおきやすいことから、0.2mg/mL〜10mg/mLであることが好ましい。
【0023】
なお、本実施の形態における抗体1とFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS2との反応時の温度はスクシンイミド基の活性時間を考慮すると、4℃〜室温であることが好ましい。また、反応時間および攪拌速度は特に制限されないが、目的とする修飾数によって調整する必要がある。
【0024】
なお、未反応のFerrocene carboxylic acid succinimidylester2は、0.5 Mの1級アミノ基(‐NH2)を持つ低分子化合物(モノエタノールアミン、グリシン、トリスなど) 、0.5 M NaCl(pH8.3)によって、回収前に不活性化させておくとより好ましい。
【0025】
なお、脱塩処理は、透析、限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、脱塩カラム、沈殿/再懸濁によって行うことができる。
【0026】
次に、以下に示す方法で、上記の方法で合成したフェロセン修飾抗体の評価を行う。まず、BCA法またはBradford法によって溶液中の抗体濃度を測定する。次に、電気化学測定装置によりサイクリックボルタンメトリー(以下、CVと省略)測定を行う。CV測定は参照電極およびカウンター電極、作用電極を用いる3極構成で行う。この結果より、電流値が最も大きくなるピーク電流値を測定することができる。そして、それぞれのフェロセン修飾抗体のピーク電流値、タンパク濃度、抗体量をかけた値を比較し、総電流値の比較を行うことができる。
【0027】
なお、フェロセン修飾抗体溶液の濃度は、抗体の塩基性アミノ酸への結合を利用して計測するBradford法では、リシン残基に結合したフェロセン化合物の影響によってフェロセンの修飾数が増加するほど測定結果に誤差が生じる可能性があるため、BCA法の方がより好ましい。
【0028】
なお、電気化学測定で使用する作用電極は、測定対象酸化還元種の酸化還元電位が、電極の有する電位窓の範囲内に位置するものであれば特に限定されない。対極は作用電極の電子の授受を損ねないもの及び面積であれば、特に限定されない。また、参照電極も特に限定されない。
【0029】
以下に実施例を示し、本発明を詳しく説明する。これら実施例は例示であり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1 Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体の合成
0.2mg/mlの抗HSAマウスモノクローナルIgG1抗体(以下、抗HSA抗体と省略)溶液5mlをcarbonate buffer(0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl, pH8.3)を用いて調整する。次に、Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHSが222.3mM(DMSO最終濃度が3%、抗HSA抗体に対するフェロセン化合物の最終混合濃度比が200倍の場合)となるようにDMSOに溶解させ、このフェロセン溶液150μLを上記抗HSA抗体溶液に加える。室温で1時間攪拌させてフェロセンを抗HSA抗体に結合させる。1時間後同様にFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHSをDMSOに溶解させた222.3mMのフェロセン溶液150μLを上記溶液にさらに加えて1時間攪拌させて修飾し、修飾数を増加させる。攪拌後、10mM リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)(以下、PBSと略す)で平衡化したPD10カラム(GEヘルスケア社製)に上記抗HSA抗体溶液を2.5mL流し、さらに3.5mLのPBSを流して溶出する溶液を回収する。これにより、PBSにバッファーを交換すると共に、抗HSA抗体と結合しなかった未反応のフェロセンを取り除く。最後にアミコン(Milipore社製、30K)を用いて限外ろ過を行い、未反応のフェロセン化合物を完全に取り除く。
【0031】
合成後、フェロセン修飾抗HSA抗体の濃度をBCA法によって計測し、全て1mg/mlに調整する。
【0032】
実施例2 Ferrocene‐NHCO-CH2CH2O‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体の合成
0.2mg/mlの抗HSA抗体溶液5mlをcarbonate buffer(0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl, pH8.3)を用いて調整する。次に、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHSが222.3mM(DMSO最終濃度が3%、抗HSA抗体に対するフェロセン化合物の最終混合濃度比が200倍の場合)となるようにDMSOに溶解させ、このフェロセン溶液150μLを上記抗HSA抗体溶液に加える。室温で1時間攪拌させてフェロセンを抗HSA抗体に結合させる。1時間後同様にFerrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHSをDMSOに溶解させた222.3mMのフェロセン溶液150μLを上記溶液にさらに加えて1時間攪拌させて修飾し、修飾数を増加させる。攪拌後、PBSで平衡化したPD10カラム(GEヘルスケア社製)に上記抗体溶液を2.5mL流し、さらに3.5mLのPBSバッファーを流して溶出する溶液を回収する。これにより、PBSにバッファーを交換すると共に、抗HSA抗体と結合しなかった未反応のフェロセン化合物を取り除く。最後にアミコン(Milipore社製、30K)を用いて限外ろ過を行い、未反応のフェロセンを完全に取り除く。
【0033】
合成後、フェロセン修飾抗HSA抗体の濃度をBCA法によって計測し、全て1mg/mlに調整する。
【0034】
実施例3 Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体の合成
2mg/mlの抗HSA抗体溶液5mlをcarbonate buffer(0.2M NaHCO3, 0.5M NaCl, pH8.3)を用いて調整する。次に、Ferrocene‐NHCO‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHSが222.3mM(DMSO最終濃度が3%、抗HSA抗体に対するフェロセン化合物の最終混合濃度比が200倍の場合)となるようにDMSOに溶解させ、このフェロセン溶液150μLを上記抗HSA抗体溶液に加える。室温で1時間攪拌させてフェロセンを抗HSA抗体に結合させる。1時間後同様にFerrocene‐CONH‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHSをDMSOに溶解させた222.3mMのフェロセン溶液150μLを上記溶液にさらに加えて1時間攪拌させて修飾し、修飾数を増加させる。攪拌後、PBSで平衡化したPD10カラム(GEヘルスケア社製)に上記抗体溶液を2.5mL流し、さらに3.5mLのPBSバッファーを流して溶出する溶液を回収する。これにより、PBSにバッファーを交換すると共に、抗HSA抗体と結合しなかった未反応のフェロセンを取り除く。最後にアミコン(Milipore社製、30K)を用いて限外ろ過を行い、未反応のフェロセン化合物を完全に取り除く。
【0035】
合成後、フェロセン修飾抗HSA抗体の濃度をBCA法によって計測し、全て1mg/mlに調整する。
【0036】
実施例4 フェロセン修飾抗体の電気化学測定
1mg/mLに調整したFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体溶液、Ferrocene‐CONH-CH2CH2O‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体溶液、Ferrocene‐CONH‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体溶液をそれぞれ、電気化学測定装置によってCV測定を行った。電気化学測定装置には電気化学アナライザー(ALSモデル660A、BAS社)を使用する。なお、参照電極にAg/AgCl(飽和KCl)(RE‐1C 参照電極、BAS社製)、カウンター電極に白金電極(VC‐2用Ptカウンター電極、BAS社製)作用電極に金電極(SAUE金電極、外径3.0mm、内径1.6mm 、BAS社製)を用いる3極構成とし、25℃で測定を行う。VC‐2 ボルタンメトリー用セルにPBSを10mL入れ、VC‐2用テフロン(登録商標)キャップに参照電極およびカウンター電極をセットする。測定前に作用電極を研磨用アルミナ(BAS社製、PK‐3セル研磨キット)で研磨する。ケーブルの接続リード線を作用電極、カウンター電極、参照電極にそれぞれつなぐ。フェロセン溶液をサンプルホルダー(9mmφ、BAS社製)に100μL入れて上記キャップにセットし、金電極を測定対象の溶液中に入れて、ポテンシャルスイーパーによって作用電極の電位(0〜600mV)を走査速度10mV/分で掃引して電流を測定し、電流−電位曲線を得る。抗体に対する混合濃度比が120倍および200倍の条件で合成を行ったFerrocene‐CONH‐(CH25‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体それぞれのCV測定を行い、またベースラインとしてフェロセンを修飾していない1mg/mLの抗HSA抗体溶液も同様にCV測定を行った。そして、Ferrocene‐CONH‐(CH25‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体のそれぞれのサイクリックボルタモグラムからベースラインを差し引き、抗HSA抗体に結合したフェロセンのピーク電流値をそれぞれ算出した。Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、およびFerrocene‐CONH‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体溶液では走査電位が0.48Vのとき酸化反応のピーク電流となり、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体溶液では、走査電位が0.235Vのとき酸化反応のピーク電流となる。
【0037】
比較例1
実施例1〜実施例3の方法と同様に、Ferrocene amidopentyl carboxylic acid succinimidylesterを抗体に対する混合濃度比200倍で抗HSA抗体に修飾を行い、Ferrocene‐CONH‐(CH25‐CO‐NHS修飾抗体を得た。BCA法によりフェロセン修飾抗HSA抗体の濃度を測定し、1mg/mlに調整した溶液を実施例4と同様にCV測定を行い、ベースラインを差し引いたサイクリックボルタモグラムからピークの電流値を算出した。
【0038】
実施例5
比較例1におけるFerrocene‐CONH‐(CH25‐CO‐NHS修飾抗体の抗体回収率を1とし、実施例1〜3におけるFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体の抗体回収率をそれぞれ比較した結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、同条件で合成を行った場合、Ferrocene‐CONH‐(CH25‐CO‐NHS修飾抗体と比較して、Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体は2.7倍、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体は1.6倍、Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体は2.6倍の抗体を獲得することができることがわかる。
【0041】
また、抗体の総電流値は、最終的に得られる溶液の量を同一にした場合のピーク電流値の値で比較することができる。溶液中の抗体濃度と電流値は比例するため、抗体濃度が一定の条件で測定したときに得られる電流値と抗体の回収率をかけた値でも比較することができる。Ferrocene‐CONH‐(CH25‐CO‐NHS修飾抗体の総電流量を1としたときの、Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体の総電流値の値をそれぞれ表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、Ferrocene‐CONH‐(CH25‐CO‐NHS修飾抗体と比較して、Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体は3.4倍、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体は2倍、Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体は1.7倍の総電流値を獲得することができた。
【0044】
以上よりFerrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体、Ferrocene‐CONH-(CH2CH2O)3‐(CH22‐CO‐NHS修飾抗体を用いることによって、フェロセンの修飾数を増加させても抗体の損失が少なく、高い総電流値を得ることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によるフェロセン修飾抗体は、高い総電流値を得ることができ、抗体の特異的相互作用を利用したバイオセンサにおける修飾抗体として有用である。また、医学、薬学、生物学、化学、食品学等の諸分野における免疫反応測定抗体等の用途にも応用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 抗HSAマウスモノクローナル抗体
2 Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS
3 Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS修飾抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(化2) Ferrocene‐CONH‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS(NHS:N‐Hydroxysuccinimide )で表されるフェロセン誘導体を、抗体のリシン残基にアミド結合によって結合させた構造であって、アミド基、PEG鎖を介して抗体に電子メディエーターであるフェロセンが結合していることを特徴とするフェロセン修飾抗体。
【請求項2】
一般式(化3) Ferrocene‐NHCO‐CH2CH2O‐(CH2)2‐CO‐NHS(NHS:N‐Hydroxysuccinimide )で表されるフェロセン誘導体を、抗体のリシン残基にアミド結合によって結合させた構造であって、アミド基、PEG鎖を介して抗体に電子メディエーターであるフェロセンが結合していることを特徴とするフェロセン修飾抗体。
【請求項3】
一般式(化4) Ferrocene‐CONH‐(CH2CH2O)3‐(CH2)2‐CO‐NHS(NHS:N‐Hydroxysuccinimide )で表されるフェロセン誘導体を、抗体のリシン残基にアミド結合によって結合させた構造であって、アミド基、PEG鎖を介して抗体に電子メディエーターであるフェロセンが結合していることを特徴とするフェロセン修飾抗体。

【図1】
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