説明

フォトニック結晶光ビットメモリアレイ

【課題】本発明の目的は、波長変換を介さず、シリアルデータを1ビット毎に共振器に取り込み、シリアルデータをパラレルデータに変換し、共振器に取り込まれたデータをパルス列として読み出すことも可能にするフォトニック結晶光ビットメモリおよびフォトニック結晶光ビットメモリアレイを提供することを目的とする。
【解決手段】複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、上記複数の共振器をシリアルに接続し多ビットメモリを構成するバス導波路と、上記複数の共振器のそれぞれの脇に配置される複数のドロップ導波路とを備え、上記バス導波路は、上記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播でき、上記ドロップ導波路は、上記3つの共振モードの全てを伝播できることを特徴とするフォトニック結晶光ビットメモリアレイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶を使用した光ビットメモリ、および光ビットメモリアレイ、及び、これらを使用したデータの書き込み方法、読み出し方法、及びシリアルパラレル変換に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、フォトニック結晶を使用したビットメモリ100を示す図である。図1において、フォトニック結晶共振器101を使用した光メモリフォトニック結晶中の共振器101の脇にバス導波路102を配置すると、バス導波路102より入力された光は共振器101に共鳴するとき、その光は共振器101にトラップ(共鳴)される。フォトニック結晶により構成される共振器101は、極めて小型であるため光密度が従来の光デバイスよりも極めて高くすることができ、双安定現象などの非線形効果を効率よく引き出すことが可能であるため、光メモリとして期待されている(非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、フォトニック結晶光メモリには、以下の問題点がある。
図2は、共鳴波長が同じである同一共振器をシリアルに配置した時の問題点を示す図であり、図2(a)は、問題点1を説明するためのフォトニック結晶200を示す図であり、図2(b)は、問題点2を説明するためのフォトニック結晶210を示す図である。
【0004】
図2(a)に示すフォトニック結晶200において、バス導波路202より入力された光は、共振器201にトラップされ(共鳴し)、反射される。多ビットメモリを構成するため、バス導波路202の脇に複数の共振器201を配置した場合、バス導波路202から導入された光は、一番手前の共振器201と共鳴し反射されるため、奥の共振器201に到達することができず、期待した多ビットの効果を得ることができないという問題点がある(問題点1)。
【0005】
また、図2(b)に示すフォトニック結晶210において、奥の共振器211に光を到達させるために、それぞれの共振器211に専用の導波路213を設置し、その導波路213より光を入力した場合、光はバス導波路212を伝わって隣の共振器に侵入することができる。つまり、隣り合う共振器211は、バス導波路212を介して互いに干渉しあう。例えば、“1”と“0”のデータを2つの共振器で記憶させた場合、この干渉により、データが消滅してしまうため、ビットメモリとしての機能を達成できないとい問題点もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Faith et al.,”High-contrast all-optical bistable switching in photonic crystal microcavities” Appl. Phys. Lett. 83, 2739 (2003))。
【非特許文献2】Paul E. Barclay et al., “Efficient input and output fiber coupling to a photonic crystal waveguide” OPTICS LETTERS 29, 697 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの問題を解決するためには、共振器は光学的に互いに十分に独立であり、かつ、それぞれの共振器を連結する1本のバス導波路を介して、入力されたシリアルデータを1ビット毎に共振器に取り込む機構を備えなければならない。
【0008】
このような上記の問題を解決する1つの方法として、シリアルデータをビット毎に波長の異なるパルス列に変換し、それらの波長に対応した共鳴周波数を有する共振器をシリアルに配置し、1本のバス導波路を介して、ビット毎に共振器に光を取り込む方法がある。これにより、共振器は光学的に互いに完全に独立とすることができ、かつ、入力されたシリアルデータを1ビット毎に共振器に取り込むことができる。しかし、この手法は、ビット毎に波長変換が必要になるため、技術的に難しく、消費エネルギーも高くなる。
【0009】
本発明の目的は、このような波長変換を介さず、シリアルデータを1ビット毎に共振器に取り込み、シリアルデータをパラレルデータに変換し、共振器に取り込まれたデータをパルス列として読み出すことも可能にする光ビットメモリおよび光ビットメモリアレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のフォトニック結晶光ビットメモリアレイは、複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、上記複数の共振器をシリアルに接続し多ビットメモリを構成するように上記フォトニック結晶の両側面を貫通し、かつ上記共振器の脇に配置されるバス導波路と、上記複数の共振器を上記バス導波路と挟むように上記複数の共振器のそれぞれの脇に配置される複数のドロップ導波路とを備え、上記バス導波路は、上記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播でき、上記ドロップ導波路は、上記3つの共振モードの全てを伝播できることを特徴とする。
【0011】
また、上記ドロップ導波路は、上記バス導波路と同じ平面内に配置され、上記共振器に対して上記バス導波路の反対側に配置され、上記フォトニック結晶の側面のうち上記バス導波路の貫通していない側面から入力し同じ面に戻るようにU字型の形状を有するものとしてもよい。
【0012】
また、上記ドロップ導波路は、上記共振器の上側の面に配置され、上記フォトニック結晶の側面のうち上記バス導波路の貫通していない側面を貫通するように配置されるものとしてもよい。
【0013】
また、上述のフォトニック結晶光ビットメモリアレイを縦にパラレルに配置し、2次元多ビットメモリアレイを構成するものとしてもよい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明のフォトニック結晶光ビットメモリは、フォトニック結晶中に配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する共振器と、上記共振器をシリアルに接続し多ビットメモリを構成するように上記フォトニック結晶の両側面を貫通し、かつ上記共振器の脇に配置されるバス導波路と、上記共振器を上記バス導波路と挟むように上記共振器の脇に配置されるドロップ導波路とを備え、上記バス導波路は、上記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播でき、上記ドロップ導波路は、上記3つの共振モードの全てを伝播できることを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明のフォトニック結晶光ビットメモリアレイの書き込み方法は、複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、上記複数の共振器をシリアルに接続するために、上記複数の共振器の脇に配置され、上記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播できるバス導波路と、上記複数の共振器のそれぞれの脇に配置され、上記3つの共振モードの全てを伝播できる複数のドロップ導波路とを備えるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの書き込み方法であって、シリアルデータを上記複数の共振器に、上記バス導波路から供給する段階と、上記シリアルデータの所望のパルスが所望の共振器に到達するタイミングに合わせて上記複数のドロップ導波路から順次バイアス光を供給する段階とを備え、上記シリアルデータは、上記3つの共振モードのうち、上記バス導波路を伝播できる共振モードで供給され、上記バイアス光は、上記シリアルデータを伝播する共振モードとは別の共振モードで供給されることを特徴とする。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明のフォトニック結晶光ビットメモリアレイの読み出し方法は、複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、上記複数の共振器をシリアルに接続するために、上記複数の共振器の脇に配置され、上記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播できるバス導波路と、上記複数の共振器のそれぞれの脇に配置され、上記3つの共振モードの全てを伝播できる複数のドロップ導波路とを備えるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの読み出し方法であって、上記複数のドロップ導波路から、上記共振器がOFF状態の時のディップ位置に対応する波長を有するリードパルスを入力する段階と、上記複数のドロップ導波路の透過側で、上記リードパルスの波長を検出し、上記複数の共振器のON−OFFを読み取る段階とを備え、上記リードパルスは、上記シリアルデータを伝播する共振モードとは別の共振モードで供給されることを特徴とする。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明のフォトニック結晶光ビットメモリアレイのシリアルパラレル変換方法は、複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、上記複数の共振器をシリアルに接続するために、上記複数の共振器の脇に配置され、上記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播できるバス導波路と、上記複数の共振器のそれぞれの脇に配置され、上記3つの共振モードの全てを伝播できる複数のドロップ導波路とを備えるフォトニック結晶光ビットメモリアレイのシリアルパラレル変換方法であって、シリアルデータを上記複数の共振器に、上記バス導波路から供給する段階と、上記シリアルデータの所望のパルスが所望の共振器に到達するタイミングに合わせて上記ドロップ導波路から順次バイアス光を供給する段階と、上記ドロップ導波路で上記バイアス光の反射を読み取ることにより、上記シリアルデータのパルス列のパラレルデータを読み取る段階とを備え、上記シリアルデータは、上記3つの共振モードのうち、上記バス導波路を伝播できる共振モードで供給され、上記バイアス光は、上記シリアルデータを伝播する共振モードとは別の共振モードで供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、波長変換を介さず、共振器を光学的に互いに十分に独立とし、かつ、それぞれの共振器を連結する1本のバス導波路を介して、入力されたシリアルデータを1ビット毎に共振器に取り込む機構を備えるフォトニック結晶光ビットメモリアレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来技術によるフォトニック結晶を使用したビットメモリの構成を示す図である。
【図2】従来技術による共鳴波長が同じ同一共振器をシリアルに配置した時の問題点を示す図であり、図2(a)は、問題点1を説明する構成を示す図であり、図2(b)は、問題点2を説明する構成を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリ300の基本構成を示す図であり、図3(a)は、光ビットメモリ300の構成を示し、図3(b)は、光子密度を示し、図3(c)は、バス導波路の透過率を示し、図3(d)は、ドロップ導波路の透過率を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイのシリアルデータの書き込み動作を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による光ビットメモリアレイのシリアルパラレル変換(シリアルデータの書き込み)動作を説明する図であり、図5(a)は、光ビットメモリアレイ500の構成を示し、図5(b)は、入力パルスを示し、図5(c)は出力パルスを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイのパラレルデータの読み出し動作を説明する図であり、図6(a)は、光ビットメモリアレイ600の構成を示し、図6(b)は、共振器の透過率の変化を示し、図6(c)は、入力パルスを示し、図6(d)は出力パルスを示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリの基本構成を示す図であり、図7(a)は上面図を示し、図7(b)は、手前側側面図を示し、図7(c)は、右側側面図を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリの基本構成を示す図であり、図8(a)は、光子密度を示し、図8(b)は、バス導波路の透過率を示し、図8(c)は、ドロップ導波路の透過率を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの書き込み動作を説明する図であり、図9(a)は、光ビットメモリアレイ900の構成を示し、図9(b)は、入力パルスを示し、図9(c)は出力パルスを示す図である。
【図10】本発明の第2の実施形態による光ビットメモリアレイの読み出し(パラレル)動作を説明する図であり、図10(a)は、光ビットメモリアレイ1000の構成を示し、図10(b)は、共振器の透過率の変化を示し、図10(c)は、入力パルスを示し、図10(d)は出力パルスを示す図である。
【図11】本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの2次元配列メモリの構成を示す図であり、図11(a)は、光ビットメモリアレイ1100の構成を示し、図11(b)は、縦配列毎にそれぞれ異なる共鳴波長を有する光子密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
まず、本発明の第1の実施形態を図3乃至図6を参照して説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリ300を示す図であり、図3(a)は、光ビットメモリ300の構成を示す図であり、図3(b)は、光子密度を示し、図3(c)は、バス導波路の透過率を示し、図3(d)は、ドロップ導波路の透過率を示す。
【0021】
図3(a)において、光ビットメモリ300は、1つの共振器301と、共振器301を挟むように配置された2本の導波路であるバス導波路302、ドロップ導波路303と、基板となるフォトニック結晶304とを備える。共振器301は、図3(b)に示すように3つの共鳴モード(共鳴波長λW、λR、λB)を有し、そのうちの2つ(λR、λB)がバス導波路302を伝播できないように、バス導波路の導波帯域が調整される(図3(c)参照)。これらの波長(λR、λB)のうち一方は共振器が双安定動作をするためのバイアス光λBとし、他方を、データ読み出しのためのリードパルスλRとする。メモリに書き込みたいシリアルデータは3つ目の共鳴モードの波長λWを有し、バス導波路302を通して共鳴モードに結合させる。
【0022】
図4は、本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイ400のシリアルデータの書き込み動作を説明する図である。
図4において、光ビットメモリアレイ400は、共振器301と、バス導波路302と、ドロップ導波路303とを有する光ビットメモリ300を、バス導波路302が連続するように2個配列した構成である。シリアルデータは、先頭から(1)、(2)・・のパルス列として入力され、それぞれ、C1、C2・・の共振器301に格納されるものとする。ここで、C1、C2・・へのバイアス光をB1、B2・・とする。バイアス光だけが共振器301に入っている時、共振器301は双安定のOFF状態にあり、シリアルデータのパルスが入ったときに、双安定のON状態になるものとする。共振器301がON状態になると、シリアルデータのパルスが1度共振器301にトラップされた後、入力ポートに反射される。これにより、後段のパルス列がすでにON状態にある共振器301に入ることを防ぐことができる。
【0023】
ここで注意しなければならない点は、ゼロレベルのパルスが入ってきたときの取り扱いである。例えば、(2)パルスが“0”、(3)パルスが“1”の場合、(2)パルスはC2をON状態に切り替えることができないため、(3)パルスがC2にトラップされてしまう。この誤動作をなくすため、パルスが所望の共振器301に届いたときに、バイアス光が供給されるように、タイミングを調整する。つまり、パルスの繰り返し周期に対応した時間遅れでC1から順次バイアス光を供給する。これにより、(1)、(2)・・のパルスがそれぞれに対応した共振器301のC1、C2・・にトラップされ複数ビットデータが保存される。つまり、それぞれの共振器301を接続する1本のバス導波路302を介して、入力されたシリアルデータを1ビット毎に共振器301に取り込むことが可能である。さらに本構成では、バイアス光は各共振器301に独立に供給し、かつ、バイアス光がバス導波路302を伝播できない設定とすることにより、バイアス光で保持されている“0”、“1”の情報が混ざり合い、情報が消滅することを防ぐことができる。
【0024】
図5は、本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイ500のシリアルパラレル変換(シリアルデータの書き込み)動作を説明する図であり、図5(a)は、光ビットメモリアレイ500の構成を示し、図5(b)は、入力パルスを示し、図5(c)は出力パルスを示す。
【0025】
図5(a)において、光ビットメモリアレイ500は、共振器301と、バス導波路302と、ドロップ導波路303とを有する光ビットメモリ300を、バス導波路302が連続するように3個配列した構成である。上述したように、共振器301がON状態になると、入力光は一度共振器301にトラップされた後、入力ポートに反射される。つまり、シリアルデータの全ビット列が各共振器301に格納された後、バイアス光(B1、B2・・(図5(b)))の反射・透過を観測すれば、反射側では格納されたパルス列のパラレルデータ(Q1、Q2・・(図5(c)))を、透過側ではその反転を得ることができる。
【0026】
図6は、本発明の第1の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイ600のパラレルデータの読み出し動作を説明する図であり、図6(a)は、光ビットメモリアレイ600の構成を示し、図6(b)は、共振器の透過率の変化を示し、図6(c)は、入力パルスを示し、図6(d)は出力パルスを示す。
【0027】
図6(a)において、光ビットメモリアレイ600は、共振器301と、バス導波路302と、ドロップ導波路303とを有する光ビットメモリ300を、バス導波路302が連続するように3個配列した構成である。上述したバイアス光(B1、B2・・)の反射光をモジュレータでパルス状に切り出せば、パラレルデータをパルス列として取り扱うこともできるが、ここではその他の方法について述べる。図6(b)に示すように、共振器301がOFFからONに切り替わるとき、共振器301の屈折率(透過率)が変化するため、共鳴モードの透過スペクトルのディップ位置が変化する。ここでは、共振器301がOFF状態のときのスペクトルのディップに対応する波長の光をリードパルス(R1、R2・・(図6(c)))として入力し、このパルスでは共振器301が双安定OFFからONに切り替わらないように設定する。この場合、共振器301がOFF状態であれば、光は共振器301にトラップされ反射される。一方共振器301がON状態であれば、スペクトルのディップの位置がシフトし、透過率が高い状態に移行しているので、光は透過側に出力される。以上の方法により、リードパルス(R1、R2・・)により、パラレルデータをパルス列(Q1、Q2・・(図6(d)))として読み出すことができる。
【0028】
さらに、パラレルデータの反転を得ることも可能である。この場合には、共振器301がON状態のときのスペクトルのディップに対応する波長の光をリードパルスとして入力すれば、パラレルデータの反転をパルス列(Q1、Q2・・)として読み出すことができる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態を図7乃至図11を参照して説明する。
図3乃至図6に示される第1の実施形態の多ビットメモリでは、バイアスおよびリードパルス用のドロップ導波路303が共振器301と同じ面内に配置されているため、ビット数が多くなるとこれらの導波路303の配置がメモリの集積度向上のボトルネックとなる。第2の実施形態では、非特許文献2の手法を参考に、バイアスおよびリードパルス用のドロップ導波路を3次元的に配置することでこの問題を回避する。
【0030】
第1の実施形態では、共振器301内にトラップされた信号を共鳴トンネル現象により、隣接する導波路302に取り出している。この現象は、共振器301から染み出している消滅波が導波路モードとオーバーラップすることにより、また、逆に導波路から染み出している消滅波が共振器のモードにオーバーラップすることにより、達成される。つまり、図7、図8、図9、図10のように導波路が共振器の上に配置されても、共鳴モードとのフィールドの重なりがあれば、共鳴トンネル現象により光の出し入れが可能となり、図5、図6で示された原理により、シリアルデータの書き込み、読み出しを行うことが可能となる。
【0031】
図7は、本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリ700の基本構成を示す図であり、図7(a)は上面図を示し、図7(b)は、手前側側面図を示し、図7(c)は、右側側面図を示す。
【0032】
図7において、光ビットメモリ700は、共振器701と、バス導波路702と、ドロップ導波路703と、基板となるフォトニック結晶704とを備える。ドロップ導波路703は、図7(b)の前方側側面図710に示すように、共振器701の上に3次元的に配置され、図7(c)の右側側面図720に示すように、共振器701上方に配置される導波路と共振器701の相対距離は、共振器上部では距離が近く(間隔Δ<波長λ)、それ以外の部分では遠く配置される。これは、導波モードの消滅波が共振器701以外のフォトニック結晶704の部分に触れることは、導波モードの散乱の原因となるため好ましくないからである。
【0033】
図8は、本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリの基本構成を示す図であり、図8(a)は、光子密度を示し、図8(b)は、バス導波路の透過率を示し、図8(c)は、ドロップ導波路の透過率を示す。図8に示す、光ビットメモリの特性については、図3に示す第1の実施形態と同じである。
【0034】
図9は、本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの書き込み動作を説明する図であり、図9(a)は、光ビットメモリアレイ900の構成を示し、図9(b)は、入力パルスを示し、図9(c)は出力パルスを示す。
図9(a)において、光ビットメモリアレイ900は、共振器701と、バス導波路702と、ドロップ導波路703とを有する光ビットメモリ700を、バス導波路702が連続するように4個配列した構成である。その他については、図4、図5に示す第1の実施形態の書き込み動作と同様である。
【0035】
図10は、本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの読み出し(パラレル)動作を説明する図であり、図10(a)は、光ビットメモリアレイ1000の構成を示し、図10(b)は、共振器の透過率の変化を示し、図10(c)は、入力パルスを示し、図10(d)は出力パルスを示す。
図10(a)において、光ビットメモリアレイ1000は、共振器701と、バス導波路702と、ドロップ導波路703とを有する光ビットメモリ700を、バス導波路702が連続するように4個配列した構成である。その他については、図6に示す第1の実施形態の読み出し動作と同様である。
【0036】
図11は、本発明の第2の実施形態によるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの2次元配列メモリの構成を示す図であり、図11(a)は、光ビットメモリアレイ1100の構成を示し、図11(b)は、縦配列毎にそれぞれ異なる共鳴波長を有する光子密度を示す。
図11において、光ビットメモリアレイ1100は、共振器701と、バス導波路702と、ドロップ導波路703とを有する光ビットメモリ700を、バス導波路702が連続するように横方向にシリアルに4個配列し、さらにそれを、縦に4列パラレルに4列配置した構成である。
【0037】
図11において、ドロップ導波路703は、上述した共鳴トンネル現象を使用するため、反射ミラー、ハーフミラー等を使用してドロップ導波路703を伝播する光を垂直下方向に光を曲げる構造を必要としない。これは、バス導波路702方向にシリアルに共振器を接続できることを示唆するものであり、本構造の最大の利点である。
【0038】
図11に、縦方向にフォトニック結晶上空を走るドロップ導波路703により、その列の共振器701にバイアス光およびリードパルスが導入される。ここで、このドロップ導波路703を介して隣接する共振器701に保存された情報が混線しないように、シリアル接続されたフォトニック結晶の共鳴波長は、図11(b)に示すように、縦配列方向にそれぞれ異なるよう設定されている。
【0039】
以上の手法により、フォトニック結晶共振器で、2次元配列されたビットメモリアレイを構成し、入力されたシリアルデータを1ビット毎に共振器に取り込むことを可能にする。
【0040】
以上のように本発明によれば、ビット列毎に波長変換されたシリアルデータ群を、AWG等を使用して波長毎にシリアル接続フォトニック結晶メモリ列に振り分け、フォトニック結晶上方に配置された導波路により、記憶されたデータを読み取ることができる。また、シリアルデータをパラレルデータに変換することも可能にする。さらに本発明は、共振器に取り込まれたデータをパルス列として読み出すことも可能にする。
【符号の説明】
【0041】
300,700 フォトニック結晶光ビットメモリ
301,701 共振器
302,702 バス導波路
303,703 ドロップ導波路
304,704 フォトニック結晶
400,500,600,900,1000,1100 フォトニック結晶光ビットメモリアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、
前記複数の共振器をシリアルに接続し多ビットメモリを構成するように前記フォトニック結晶の両側面を貫通し、かつ前記共振器の脇に配置されるバス導波路と、
前記複数の共振器を前記バス導波路と挟むように前記複数の共振器のそれぞれの脇に配置される複数のドロップ導波路とを備え、
前記バス導波路は、前記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播でき、前記ドロップ導波路は、前記3つの共振モードの全てを伝播できることを特徴とするフォトニック結晶光ビットメモリアレイ。
【請求項2】
前記ドロップ導波路は、前記バス導波路と同じ平面内に配置され、前記共振器に対して前記バス導波路の反対側に配置され、前記フォトニック結晶の側面のうち前記バス導波路の貫通していない側面から入力し同じ面に戻るようにU字型の形状を有することを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶光ビットメモリアレイ。
【請求項3】
前記ドロップ導波路は、前記共振器の上側の面に配置され、前記フォトニック結晶の側面のうち前記バス導波路の貫通していない側面を貫通するように配置されることを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶光ビットメモリアレイ。
【請求項4】
請求項1に記載されたフォトニック結晶光ビットメモリアレイを縦にパラレルに配置し、2次元多ビットメモリアレイを構成することを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶光ビットメモリアレイ。
【請求項5】
フォトニック結晶中に配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する共振器と、
前記共振器をシリアルに接続し多ビットメモリを構成するように前記フォトニック結晶の両側面を貫通し、かつ前記共振器の脇に配置されるバス導波路と、
前記共振器を前記バス導波路と挟むように前記共振器の脇に配置されるドロップ導波路とを備え、
前記バス導波路は、前記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播でき、前記ドロップ導波路は、前記3つの共振モードの全てを伝播できることを特徴とするフォトニック結晶光ビットメモリ。
【請求項6】
複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、前記複数の共振器をシリアルに接続するために、前記複数の共振器の脇に配置され、前記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播できるバス導波路と、前記複数の共振器のそれぞれの脇に配置され、前記3つの共振モードの全てを伝播できる複数のドロップ導波路とを備えるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの書き込み方法であって、
シリアルデータを前記複数の共振器に、前記バス導波路から供給する段階と、
前記シリアルデータの所望のパルスが所望の共振器に到達するタイミングに合わせて前記複数のドロップ導波路から順次バイアス光を供給する段階とを備え、
前記シリアルデータは、前記3つの共振モードのうち、前記バス導波路を伝播できる共振モードで供給され、前記バイアス光は、前記シリアルデータを伝播する共振モードとは別の共振モードで供給されることを特徴とするフォトニック結晶光ビットメモリアレイの書き込み方法。
【請求項7】
複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、前記複数の共振器をシリアルに接続するために、前記複数の共振器の脇に配置され、前記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播できるバス導波路と、前記複数の共振器のそれぞれの脇に配置され、前記3つの共振モードの全てを伝播できる複数のドロップ導波路とを備えるフォトニック結晶光ビットメモリアレイの読み出し方法であって、
前記複数のドロップ導波路から、前記共振器がOFF状態の時のディップ位置に対応する波長を有するリードパルスを入力する段階と、
前記複数のドロップ導波路の透過側で、前記リードパルスの波長を検出し、前記複数の共振器のON−OFFを読み取る段階とを備え、
前記リードパルスは、前記シリアルデータを伝播する共振モードとは別の共振モードで供給されることを特徴とするフォトニック結晶光ビットメモリアレイの読み出し方法。
【請求項8】
複数のフォトニック結晶中のそれぞれに配置され、双安定動作を行い、3つの共振モードを有する複数の共振器と、前記複数の共振器をシリアルに接続するために、前記複数の共振器の脇に配置され、前記3つの共振モードのうちの1つの共振モードのみ伝播できるバス導波路と、前記複数の共振器のそれぞれの脇に配置され、前記3つの共振モードの全てを伝播できる複数のドロップ導波路とを備えるフォトニック結晶光ビットメモリアレイのシリアルパラレル変換方法であって、
シリアルデータを前記複数の共振器に、前記バス導波路から供給する段階と、
前記シリアルデータの所望のパルスが所望の共振器に到達するタイミングに合わせて前記ドロップ導波路から順次バイアス光を供給する段階と、
前記ドロップ導波路で前記バイアス光の反射を読み取ることにより、前記シリアルデータのパルス列のパラレルデータを読み取る段階とを備え、
前記シリアルデータは、前記3つの共振モードのうち、前記バス導波路を伝播できる共振モードで供給され、前記バイアス光は、前記シリアルデータを伝播する共振モードとは別の共振モードで供給されることを特徴とするフォトニック結晶光ビットメモリアレイのシリアルパラレル変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−7961(P2011−7961A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150273(P2009−150273)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人情報通信研究機構「全光パケットルータ実現のための光RAMサブシステムの研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】