説明

フライスカッタ

【課題】 複数のインサートの位置調整を簡単かつ確実に行うことができ、切刃の振れ調整作業に要する時間と労力を大幅に削減できるとともに、高い切刃振れ精度を得ることができるフライスカッタを提供する。
【解決手段】 軸線回りに回転される工具本体12の先端部外周に複数の取付座15が形成され、取付座15に、切刃を有するインサート41が着脱自在に装着されてなり、インサート41の切刃が工具本体12から突出するように配置されたフライスカッタ11であって、複数形成された取付座15のうちのひとつの取付座15Aは、インサート41を装着したときの切刃が残りの取付座15Bに装着されたインサート41の切刃よりも大きく突出するとともに、インサート41の切刃の位置が固定された基準取付座15Aとされ、残りの取付座15Bには、インサート41の切刃の位置を調整する調整機構が備えられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具本体の先端部外周に複数のインサートが着脱可能に装着されたフライスカッタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被切削材に平面加工を施す転削工具として、切刃を有するインサートが複数装着されたフライスカッタが使用されている。この種のフライスカッタにおいては、円盤状の工具本体の先端部外周に形成された複数のチップポケット及び取付座に、超硬合金等の硬質材料より成るインサートが着脱可能に装着されており、前記工具本体をその軸線回りに高速回転するとともに軸線と交差する方向に送りを与えることによって、前記インサートの工具本体外周側及び工具本体先端側に向けられた切刃によって被切削材を切削加工するものである。
【0003】
ここで、複数のインサートを備えたフライスカッタにおいては、各インサートの切刃の突出量が異なって切刃の振れ(切刃の突出量の最大値と最小値との差)が大きい場合には、大きく突き出された切刃が優先的に磨耗してしまいインサートの交換頻度が高くなったり、被切削材の仕上げ面の面粗度が劣化したりしてしまうので、各インサートの切刃の工具本体からの突出量が同一となるように、高い切刃振れ精度が備わっていなければならない。すなわち、各インサートの切刃が描く工具本体の軸線O回りの回転軌跡が一致するようにインサートが装着されていなければならないのである。
【0004】
そこで、インサートの位置を移動させて各切刃の突出量を調整するための調整機構を備えたフライスカッタが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
インサートの位置調整機構としては、取付座の工具本体回転方向後方側の壁面と取付座の工具回転方向前方側に挿入されたクサビ部材との間でインサートを挟装し、このインサートの工具本体後端側を向く側面を、調整ネジの先端部で押圧したり調整クサビの押圧面で押圧したりして、インサートの切刃を工具本体から突出させるものがある。
【0005】
また、インサートを取付座にクランプネジにて装着し、やはり、このインサートの工具本体後端側を向く側面を、調整ネジの先端部で押圧したり調整クサビの押圧面で押圧したりしてクランプネジを弾性変形させて、切刃を工具本体から突出させる機構のものも提供されている。
従来のフライスカッタでは、前述のような調整機構がすべての取付座に備えられ、取付座に装着されたすべてのインサートの位置調整を行うことができ、切刃の振れを小さくすることができるものである。
【0006】
このような調整機構が備えられたフライスカッタは、調整ネジや調整クサビによってインサートの位置を移動させて切刃の突出量を調整したのちに、工具本体をその軸線O回りに高速回転されつつ軸線Oと交差する方向に送られることにより、インサートの工具本体径方向外側及び工具本体先端側に向けられた切刃によって被切削材を切削していくものである。
【特許文献1】特開2001−252813号公報
【特許文献2】特開2001−246515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の調整機構が設けられたフライスカッタにおいては、切刃の振れ調整は次のような手順で行われている。まず、すべての取付座にインサートを装着し、それぞれのインサートの切刃の突出量を確認する。最も切刃が突出した取付座のインサートを強固に固定した後に、この取付座に装着されたインサートの切刃の突出量を基準として、他のインサートの位置調整を行うのである。
【0008】
このように切刃の振れ調整を行う際には、まず、切刃が最も突出した取付座を見つけ出す必要があるが、工具本体から僅かに突出した切刃の突出量の違いを見つけ出すことは容易ではなく、振れ調整に多くの時間と労力を要するものであった。
また、基準となる取付座にもインサートの位置調整機構が備えられているので、インサートを強固に固定しようとした際にインサートが動いてしまうおそれがあった。インサートが動いてしまった場合には、切刃の突出量が変化してしまうので、再度切刃の突出量を確認する必要があった。特に、インサートをクサビ部材で挟装したものでは、インサートが動き易いために留意が必要であった。
【0009】
また、基準となる取付座がインサートを交換するたびに変わってしまうとともに複数の切刃の突出量を調整する必要があるので、切刃の振れ調整を行っている間に、基準とした取付座を取り違えてしまうおそれがあった。切刃の振れ調整が終了したと誤認したままで加工した場合には、被切削材が加工不良となってしまったり、インサートが破損したりするといったトラブルが発生するおそれがあった。
【0010】
本願発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであって、複数のインサートの位置調整を簡単かつ確実に行うことができ、切刃の振れ調整作業に要する時間と労力を大幅に削減できるとともに、高い切刃振れ精度を得ることができるフライスカッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、この発明は、軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に複数の取付座が形成され、該取付座に、切刃を有するインサートが着脱自在に装着されてなり、該インサートの前記切刃が前記工具本体から突出するように配置されたフライスカッタであって、複数形成された前記取付座のうちのひとつの前記取付座は、前記インサートを装着したときの前記切刃が残りの前記取付座に装着された前記インサートの前記切刃よりも大きく突出するとともに、前記インサートの前記切刃の位置が固定された基準取付座とされ、残りの前記取付座には、前記インサートの前記切刃の位置を調整する調整機構が備えられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
前記構成のフライスカッタにおいては、インサートの切刃の位置が固定された基準取付座が設けられ、この基準取付座に装着されたインサートの突出量が、残りの取付座に装着されたインサートの切刃の突出量よりも大きくなるように設定されているので、インサートをすべての取付座に装着した段階で、必ず基準取付座の切刃突出量が最も大きくなり、切刃の振れ調整を行う際に、基準取付座の切刃を基準として調整することができ、切刃振れ調整に要する時間と労力を大幅に削減することができる。
【0013】
また、基準取付座には切刃の位置を調整する調整機構が備えられていないので、基準取付座に装着したインサートが動いてしまうことがなく、基準となる切刃の突出量が安定することになる。よって、切刃の振れ調整作業中に基準となる突出量が変化することがなく、高い切刃振れ精度を得ることができる。
さらに、基準取付座に装着されたインサートの切刃が必ず最も突出して、この切刃を基準として切刃の振れ調整を行うことができるので、切刃の振れ調整作業中に基準となる取付座を取り違えることがなく、確実かつ簡単に切刃の振れ調整を行うことができる。よって、フライスカッタの切刃の振れを小さくできるので、被切削材の切削を容易に行うことができて仕上げ面を滑らかに仕上げることができるとともに、優先摩耗してしまうインサートがなくインサートの交換頻度を低くすることができる。
【0014】
ここで、前記残りの取付座に装着されて前記調整機構による位置調整を行う前の前記インサートの前記切刃に対する前記基準取付座に装着された前記インサートの前記切刃の前記軸線方向における突出量Pを、0.01mmから0.1mmの範囲内に設定することにより、インサートを基準取付座に装着した際の突出量を切削加工に適した範囲内に設定することができ、切刃の突出量が大きすぎて切削時にインサートが破損するといったトラブルや、逆に切刃の突出量が小さすぎて工具本体が被切削材と摺動してしまうといったトラブルを防止することができる。
【0015】
さらに、前記工具本体に前記基準取付座を識別可能な表示を施すことにより、基準取付座を確実に識別することができ、切刃の振れ調整作業中に基準取付座を取り違えてしまうといったトラブルを未然に防止することができる。よって、切刃の振れ調整作業をさらに確実にかつ簡単に、しかも精度良く行うことができる。
【0016】
したがって、本発明によれば、複数のインサートの位置調整を簡単かつ確実に行うことができ、切刃の振れ調整作業に要する時間と労力を大幅に削減できるとともに、高い切刃振れ精度を得ることができるフライスカッタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。図1から図5に本発明の実施形態であるフライスカッタを示す。
フライスカッタ11は、鋼材等で構成されて概略円板状をなす工具本体12を有し、この工具本体12の先端側外周に、切刃42を有するインサート41が配置されている。
【0018】
工具本体12がなす円盤の中央部には、工具本体12をアダプタを介して工作機械の主軸端等に取り付けるための取付孔13が工具本体12の軸線Oに沿うように形成されている。そして、この工具本体12の先端側外周部には、工具本体12の外周面及び先端面に開口するように複数のチップポケット14が形成されており、さらにこれらのチップポケット14の工具回転方向Tの後方側には、それぞれ取付座15が設けられている。本実施形態では、図2に示すように6つのチップポケット14および取付座15が形成されている。
【0019】
取付座15の取付面16は、工具本体12先端側に向かうに従い工具回転方向T前方側に向かうように僅かに傾斜しており、この取付面16には、インサート41の移動方向を規制するガイド部として突条部が、図1および図5に示すインサート41の調整方向Xに沿って設けられており、本実施の形態においては、軸線O方向に対して工具本体12先端側が工具本体12径方向内側に向けて傾いた方向に延びるように設けられている。この突条部は、前記調整方向Xに直交する断面が凸V字状で取付面16上の調整方向Xに直交する方向に等ピッチで複数並列に形成されている。また、この取付座15の取付面16にはインサート41を取り付けるクランプネジ17が取付面16に垂直な方向に向けて螺着されている。
【0020】
複数設けられた取付座15のうち、1つの取付座15が基準取付座15Aとされ、この基準取付座15Aを除く残りの取付座15Bには、調整機構18が備えられている。ここで、前記残りの取付座15Bの工具本体12後端側には、工具本体12径方向外側に向けて開口するように工具本体12が切り欠かれた切欠部19が設けられている。この切欠部19はその断面が長円形状に形成され、取付座15B側の側縁部が該取付座15Bに向けて開口させられている。また、切欠部19の工具本体12外周側を向く底面には、工具本体12径方向内側に延びるネジ孔が形成されている。
【0021】
この切欠部19には調整ピース31が挿入される。この調整ピース31は、切欠部19がなす長円形断面に嵌挿可能な外形を有する筒体状をなし、取付座15B側を向く面が平坦面とされ、この平坦面が押圧部32とされている。調整ピース31がなす筒体の内面は断面円形状とされており、調整ピース31の挿入方向と反対側(本実施形態では、工具本体12径方向外側)に向かうに従い漸次径が拡大された拡径孔33が形成され、この拡径孔33よりも前記挿入方向側は拡径孔33と同軸で内径の小さい小径孔34とされ、調整ピース31を貫通している。なお、拡径孔33および小径孔34の中心軸線は押圧部32と平行とされている。
そして、この調整ピース31には、押圧部32に平行にかつ小径孔34の円形断面の中心軸線に沿うように延びるスリットが、小径孔34側から小径孔34の途中までの前記押圧部32が設けられた範囲に形成されている。
【0022】
この調整ピース31内には、小径孔34及び拡径孔33を貫通するように調整ネジ35が挿通されている。この調整ネジ35は、先端側が雄ネジ部とされ、後端側が雄ネジ部よりも大径とされた頭部とされており、この頭部は、調整ネジ35の後端側に向かうに従い漸次径が拡大するテーパー状に形成されている。そして、調整ピース31を切欠部19に挿入し、調整ピース31の内周部分に調整ネジ35を挿通し、前記雄ネジ部を切欠部19の工具本体12外周側を向く底面に形成されたネジ孔にねじ込むことにより、テーパー状に形成された頭部と調整ピース31の拡径孔33とが当接するように配置されている。
また、取付座15Bの工具回転方向T後方側には、取付面16に螺着されたクランプネジ17の先端が露呈される貫通孔36が形成されている。
【0023】
一方、基準取付座15Aの工具本体12後端側には、インサート41の工具本体12後端側を向く側面が当接される当接面37が、工具本体12自体に直接形成されている。また、この基準取付座15Aにおいても、取付座15Aの工具回転方向T後方側に、クランプネジ17の先端が露呈される貫通孔36が形成されている。
【0024】
ここで、基準取付座15Aの取付面16に螺着されているクランプネジ17は、前記残りの取付座15Bの取付面16に螺着されているクランプネジ17よりも工具本体12先端側に0.01mmから0.1mm(本実施形態では0.05mm)ずれた位置に設けられており、図3および図4に示すように、基準取付座15Aの工具回転方向T後方側に設けられた貫通孔36も、取付座15Bの工具回転方向T後方側に設けられた貫通孔36よりも工具本体12先端側に0.01mmから0.1mm(本実施形態では0.05mm)ずれた位置に配置されているのである。
また、基準取付座15Aの周辺部(本実施形態では、取付座15Aの工具本体12後端側の側面)にはマーキング38が、工具本体12に刻設されたり塗装されたりしている。
【0025】
取付座15に取り付けられるインサート41は、超硬合金等の硬質材料により構成されており、平面視して正方形平板状に形成され、すくい面をなす平面状の上面部と着座面をなす底面部43と逃げ面をなす4つの側面部とを有する。4つの側面部は、底面部43から上面部に向けて漸次外側に広がるように形成されており、インサート41は、側面から見て等脚台形状に形成されており、側面部に逃げ角が付されたポジティブインサートとされている。
【0026】
上面部と4つの側面部との交差稜線からなる4つの辺稜部には、切刃42が設けられており、インサート41の上面部の中央部には、インサート41を取付座15A、15Bに取り付けるためのクランプネジ17が挿通される挿通孔が、上面部と垂直な方向に延びるように設けられており、インサート41は、この挿通孔の中心線に関して90°ずつ回転対称となるように形成されている。
【0027】
そして底面部43には、インサート41を底面部43側から見て、インサート41がなす正方形のそれぞれの辺稜部に設けられた切刃42に対して直交する方向に、互いに平行に延びる同形同大の断面V字状のセレーション溝44が等ピッチで設けられている。本実施の形態においては、インサート41が正方形平板状に形成されているので、セレーション溝44は、互いに直交する2方向に向けて設けられており、直交する2つのセレーション溝44同士も同形同大で等ピッチに形成されている。
【0028】
取付座15A、15Bの取付面16に軸線O方向に対して工具本体12先端側が工具本体12径方向内側に向けて傾いた方向に形成された突条部と、インサート41の底面部43に切刃42に対して直交する方向に形成されたセレーション溝44とが、互いに嵌まり込むようにインサート41が取付座15に装着されると、このインサート41が取付座15A、15Bに装着された際に工具本体12径方向外側に位置する切刃42が軸線Oに対して傾くように配置されることになる。
【0029】
そして、インサート41の挿通孔にクランプネジ17が挿通されて取付面16に螺着され、インサート41が取付座15A、15Bに装着される。基準取付座15Aでは、インサート41の工具本体12後端側を向く側面が当接面37に当接するように配置されて固定される。ここで、基準取付座15Aでは、クランプネジ17が残りの取付座15Bよりも工具本体12先端側に螺着されているので、基準取付座15Aに装着されたインサート41の切刃42が、残りの取付座15Bにクランプネジ17によって装着されただけの状態のインサート41の切刃42よりも工具本体12から突出することになる。このときの基準取付座15Aに装着されたインサート41の切刃42の前記残りの取付座15Bに装着されたインサート41の切刃42に対する軸線O方向の突出量Pは、0.01mmから0.1mm(本実施形態では0.05mm)となる。
また、前記残りの取付座15Bでは、インサート41の工具本体12後端側を向く側面と切欠部19に挿入された調整ピース31の押圧部32とが当接するようにインサート41が配置される。
【0030】
前記の構成のフライスカッタ11は、工具本体12の取付孔13に取付ボルトが挿通されて、該取付ボルトの先端がアダプタにねじ込まれることによって、工具本体12がアダプタに接続され、工具本体12はアダプタを介して工作機械の主軸端に取り付けられ、軸線Oを中心として工具回転方向Tに向けて高速回転されるとともに軸線Oと交差する方向に送りを与えられることにより、インサート41の工具本体12径方向外側及び工具本体12先端側に向けられた切刃42によって被切削材を切削する。
【0031】
前記構成のフライスカッタ11においては、切刃42の振れ調整は次のように行われる。まず、基準取付座15Aの装着されたインサート41の切刃42の軸線O方向の位置を確認する。この基準取付座15Aの切刃42の突出量Pを基準として残りの取付座15Bに装着したインサート41の切刃42の位置調整を、調整ネジ35をねじ込んだり緩めたりすることにより行う。
【0032】
調整ネジ35をねじ込むと、調整ピース31の拡径孔33に当接した調整ネジ35の頭部が拡径孔33を押圧してスリットの終点を支点として調整ピース31が押し広げられるように弾性変形し、押圧部32がインサート41の工具本体12後端側を向く側面を押圧し、インサート41が取付座15Bの取付面16に形成された突条部に沿って工具本体12先端側へ突き出される。一方、調整ネジ35を緩めた場合には、押し広げられるように弾性変形していた調整ピース31が弾性復帰し、インサート41の工具本体12後端側を向く側面を押圧する力が小さくなり、インサート41が工具本体12後端側へ後退する。
【0033】
本実施形態に係るフライスカッタ11によれば、インサート41をすべての取付座15A、15Bに装着した際に、基準取付座15Aに装着されたインサート41の切刃42が残りの取付座15Bに装着されたインサート41の切刃42よりも確実に大きく突出するので、この基準取付座15Aに装着されたインサート41の切刃42を基準として切刃42の振れ調整を行うことができ、切刃42の振れ調整作業を簡単にかつ確実に行うことができる。
【0034】
また、基準取付座15Aが、装着されたインサート41の切刃42の前記残りの取付座15Bに装着されたインサート41の切刃42に対する軸線O方向の突出量Pが、0.01mmから0.1mm,本実施形態では0.05mmとなるように構成されているので、切刃42の突出量を切削加工に適したものとすることができ、インサート41の破損や工具本体12と被切削材との接触などのトラブルを未然に防ぐことができる。
【0035】
また、この基準取付座15Aにはインサート41の工具本体12後端側を向く側面が当接される当接面37が形成されているので、インサート41の位置が確実に固定され、切刃42の振れ調整作業中にインサート41が動いてしまうことがなく、基準となる切刃42の突出量が安定することになる。よって、切刃42の振れ調整を精度良くかつ確実に行うことができる。
【0036】
また、基準取付座15Aにマーキング38が施されており、基準取付座15Aを簡単に確認することができ、切刃42の振れ調整作業中に基準取付座15Aを取り違えることがなく、切刃42の振れ調整を確実にかつ簡単に行うことができる。なお、基準取付座15Aにマーキング38を施すのに代えて、残りの取付座15Bすべてにマーキングを施して基準取付座15Aにはマーキングを施さないようにして、この基準取付座15Aを識別できるようにしても良い。
【0037】
また、本実施形態では、インサート41が取付座15Bの取付面16に形成された突条部に沿って移動されるので、インサート41の調整方向X以外の方向にズレを生じず、インサート41の角度を一定に保持したままで切刃42の突出量の調整を行うことができる。また、インサート41の軸線O方向の位置を調整するだけでよいので、切刃42の突出量の調整作業に掛かる労力と時間を大幅に削減できる。
【0038】
また、インサート41の軸線O方向の位置を進退可能に調整できるので、切刃42の突出量の調整を簡単に行うことができる。
また、調整ピース31が弾性変形することでインサート41を押圧するとともに調整ネジ35自体も締め付けられるように押圧されるので、このフライスカッタ11を高速回転した際に調整ネジ35が緩んでしまうことが防止され、切刃42の突出量を確実に維持しつつもインサート41を強固に固定することができる。
【0039】
また、切刃42の振れ調整が精度良くできるとともに、インサート41の角度を一定に保持したままでインサート41の位置調整ができるので、前記のフライスカッタ11によって被切削材を切削した際に形成される仕上げ面を滑らかに仕上げることができ、ワイパー刃(さらい刃)を別途設ける必要がない。
【0040】
なお、本実施形態においては、筒形の調整ピースを使用した調整機構を備えたフライスカッタで説明したが、調整機構の構成に限定はなく、例えば、調整ネジでインサートの側面を押圧して調整するものやクサビ材の側面でインサートを押圧して調整するような調整機構を備えたフライスカッタであってもよい。
また、フライスカッタの取付座に突条部が形成され、インサートの底面部に前記突条部に嵌合可能なセレーション溝が設けられたもので説明したが、この構成に限定されることはない。ただし、このような構成とすることにより、前述のようにインサートの角度を一定に保ったままで切刃の振れ調整を精度良く行うことができるので好ましい。
【0041】
また、インサートをクランプネジで固定するフライスカッタで説明したが、インサートをクサビ部材で工具本体との間で挟装して固定するものでも良い。ただし、クランプネジで固定したものではインサートがずれたりすることなく強固に固定されているので好ましい。
また、前記の実施の形態においては、インサートを超硬合金で構成された平面視正方形のもので説明したが、インサートの形状や材質に制限はない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態であるフライスカッタの側面断面図である。
【図2】図1のフライスカッタの底面図である。
【図3】図1のフライスカッタの基準取付座の側面拡大図である。
【図4】図1のフライスカッタの残りの取付座の側面拡大図である。
【図5】図4におけるA方向矢視図である。
【符号の説明】
【0043】
11 フライスカッタ
12 工具本体
15 取付座
15A 基準取付座
15B 残りの取付座
18 調整機構
38 マーキング(表示)
41 インサート
42 切刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される工具本体の先端部外周に複数の取付座が形成され、該取付座に、切刃を有するインサートが着脱自在に装着されてなり、該インサートの前記切刃が前記工具本体から突出するように配置されたフライスカッタであって、
複数形成された前記取付座のうちのひとつの前記取付座は、前記インサートを装着したときの前記切刃が残りの前記取付座に装着された前記インサートの前記切刃よりも大きく突出するとともに、前記インサートの前記切刃の位置が固定された基準取付座とされ、
残りの前記取付座には、前記インサートの前記切刃の位置を調整する調整機構が備えられたことを特徴とするフライスカッタ。
【請求項2】
前記残りの取付座に装着されて前記調整機構による位置調整を行う前の前記インサートの前記切刃に対する前記基準取付座に装着された前記インサートの前記切刃の前記軸線方向における突出量Pが、0.01mmから0.1mmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフライスカッタ。
【請求項3】
前記工具本体には、前記基準取付座を識別可能な表示が施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフライスカッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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