説明

フラッシュランプ

【課題】 電極から放射された電子が電極近傍の対向電極側の発光管内壁に衝突するのを防ぎ、発光管内壁の損傷の少ないフラッシュランプを提供する。
【解決手段】 発光管内に一対の電極が対向して配置され、内部に希ガスが封入されたフラッシュランプにおいて、前記発光管内の電極が対向する空間を、一部遮蔽する構造体を配置することを特徴とする。この遮蔽体は、発光管の陰極近傍の対向電極側に発光管の発光部の内径よりも小さい内径の円筒体である事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルスによる紫外線殺菌の光源として利用されるフラッシュランプに関する。
【背景技術】
【0002】
希ガスとして代表的なキセノンが封入されるフラッシュランプは特徴として紫外域から赤外域まで幅広い発光波長を有することが知られ、様々な応用分野に使用されている。特にその分光エネルギー分布は太陽光の波長と近似しているため、キセノンフラッシュランプは劣化促進試験機や紫外域を利用した樹脂硬化、殺菌・滅菌等に利用されている。キセノンフラッシュランプは上述した特徴よりさらに環境負荷化学物質である水銀が添加されないランプであるため今後の用途は拡大すると考えられている。
【0003】
フラッシュランプは円筒形の発光管の両端に電極が配置され発光ガスとしてキセノンが封入されている。該ランプの点灯方式は直流点灯であり、点灯回路内にあるコンデンサに電荷を溜め、その電荷を一気にランプへ供給させる。電極より電子が瞬時に対向する電極に向かって放射され、その電子とキセノンとの衝突によりキセノン原子が励起、発光を繰り返す。これにより瞬時に高照度の断続したパルス点灯を得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フラッシュランプは前記点灯方式の特性上、例えば瞬時に500Aから3000Aの大電流が流れる。そのため、その電極より放射される電子の初速度は非常に速い。電極より放射される一部の電子軌道は発光管中心軸へ修正がされないまま発光管内壁に近接し衝突してしまい、これにより発光管内壁が削られ、最終的には発光管の破損に至ってしまう問題があった。特に紫外線により滅菌用途に用いるランプの場合、滅菌に使われる波長を多く発光させるため瞬時により大きな電流をランプへ供給しなければならない。
【0005】
電極より大きな速度を持って飛び出した電子が発光管内壁に衝突しても、発光管内壁が削られないようにサファイア管を使用する構成も考えられるが、サファイア管は非常に高価で単価が高くなってしまう。
【0006】
また特開平8−250064には電極を保護スリーブで覆う構成が示されているが、電極のスパッタによる発光管の透過率の低下防止の目的であり、本発明は電極より大きな速度を持って飛び出した電子が発光管内壁に衝突するのを軽減させ発光管へのダメージを防止する事が目的となっており、従来の紫外線ランプや高圧水銀ランプにはない、フラッシュランプ特有の現象といえるため、電極のスパッタを防止するための構成とは大きく異なる。
【0007】
【特許文献1】特開平8−250064本発明は、上記問題を解消すべく、電極から放射された電子が電極近傍の対向電極側の発光管内壁に衝突するのを防ぎ、発光管内壁の損傷の少ないフラッシュランプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は発光管内に一対の電極が対向して配置され、内部に希ガスが封入されたフラッシュランプにおいて、前記発光管内の電極が対向する空間を、一部遮蔽する構造体を配置することを特徴とする。
【0009】
また、発光管内に一対の電極が対向して配置され、内部に希ガスが封入されたフラッシュランプにおいて、ランプ点灯中前記電極の陰極から陽極側へ放出される電子のうち、陽極に放出されず発光管内壁に衝突する電子を遮蔽する構造体を配置することを特徴とする。
【0010】
前記遮蔽体は、発光管の陰極近傍の対向電極側に発光管の発光部の内径よりも小さい内径の円筒体である事を特徴とする。
前記遮蔽体は、発光管の陰極近傍の対向電極側を発光管の発光部の内径よりも小さくシュリンクして構成することを特徴とする。
前記遮蔽体は、陰極の全周を被覆する円筒体である事を特徴とする。
前記遮蔽体は、石英、アルミナ、サファイアなどの高融点の無機物質からなることを特徴とする。
ここで示す石英、アルミナ、サファイアの融点はおおよそ以下のようになる。石英は1500度以上、アルミナは2050度、サファイアは2020度。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極より放射された電子を発光管の内管壁へ衝突するのを軽減させることで発光管の損傷を防止し、更には電極の発光管へのスパッタによる紫外線の透過率低下を軽減させることができるので、結果として長寿命のフラッシュランプを得ることができる。また前記作用により早期の発光管の損傷が無くなることから被照射物、つまり該ランプにより殺菌・滅菌される医療薬品・器具、食品の包装材等にランプ破損時の二次的な損害を軽減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明について図面を参照して説明する。
本発明の請求項にかかる例として、フラッシュランプの発光管形状及び電極構造を示す。図1は、請求項3にかかるフラッシュランプであり、発光管内において陰極近傍の対向電極側に円筒状の遮蔽体4を設けることで上述の問題点を解決する。図2は請求項4にかかるフラッシュランプであり、発光管の発光部一部をシュリンクさせ、遮蔽の機能を有するくびれ部5を設けることで上述の問題点を解決する。図4は請求項にかかるフラッシュランプであり、陰極の全周を被覆する円筒状の保護筒を設けることで上述の問題点を解決する。上記ランプの遮蔽体物は電子が放出される陰極側のみだけでなく陽極側にも設けてもよい。
【実施例1】
【0013】
実施例の代表として請求項3に於けるランプ構造を以下に説明する。
外径φ10mm、厚さ1mm、長さ300mmの石英製発光管の両端に一対の電極が配置されている。電極には電子放射性物質とタングステン基材とが混合された電極、本実施例ではトリエーテッドタングステン電極を陰極に用いて、陽極には純タングステンからなる電極を用いた。前記陰極および陽極を該発光管の両端に電極芯捧が溶着される。
【0014】
遮蔽体としては外径6mm、穴径3mm、長さ10mmの円筒形状のサファイアを使用する。この円筒形状のサファイアを陰極近傍の対向電極側に設置する。この時、該サファイアは陰極先端から8mmの距離に配置する。さらに真空に引いた発光管の外周から該サファイア部周辺をバーナーで加熱し、発光管を溶融収縮させ発光管と該サファイアを溶着する。
その後、発光管内をキセノンガスで置換し本発明を成し得るものとする。この実施の形態を本発明Aとする。
【0015】
上記フラッシュランプを以下の点灯方式で点灯させ、寿命実験を行った。電源内のコンデンサに蓄電された2000ジュールの供給エネルギーを0.5秒の間隔でパルス状にランプへ供給し点灯させた。結果を図5に示す。図5には本発明Aの比較例として従来の構成のフラッシュランプを上記点灯方法で測定を行ったものを従来例1、従来例2として示す。
【0016】
図5より、従来の構成では点滅回数が30万回から60万回で破損してしまい、その時の積算光量維持率が30%から40%まで落ち込んでしまった。一方、本発明の構成では点灯回数が100万回を超えても破損せず、積算光量維持率も70%を超えることができた。更に被照射物、つまり該ランプにより殺菌・滅菌される医療薬品・器具、食品の包装材等にランプ破損時の二次的な損害を軽減することもできる。また本発明は電極のスパッタによる発光管黒化をも防止する事が出来るので、発光管の透過率の低下も防止する事が出来、高維持率の発光が可能になった。
【実施例2】
【0017】
その他の構成として請求項4及び請求項5に示す実験を行った。
請求項4は該ビーズを用いずに石英製発光管を収縮させるのみとする。前記発光管の陰極近傍の対向電極側を発光管の外周からバーナーで加熱し、発光管のガラスを内部へ収縮させる。この実施の形態を本発明Bとする。またこの時、図3に示すように、発光管のガラスで肉溜り6を形成することにより強度をもたせるようにしても良い。
請求項5は電極芯捧にカップ形状のサファイアを設ける。この時、カップ状のサファイアが陰極の先端部を被覆し、更にこの被覆したカップ状のサファイアが陰極近傍の対向電極側に延長する。この実施の形態を本発明Cとする。
【0018】
上記フラッシュランプを実施例1と同様の点灯方式で点灯させ寿命実験を行った。結果を図6に示す。なお、図6は図5に実施例2のデータをプロットしたものである。
図6より、本発明B及びCの構成では点灯回数が100万回を超えても破損せず、積算光量維持率も60%を超えることができた。よって電子の方向成分を発光管中心軸に集める事により、発光管の損傷を軽減し、かつ積算光量維持率の高い長寿命のランプを得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態Aのフラッシュランプを表す図
【図2】本発明の実施の形態Bのフラッシュランプを表す図
【図3】本発明の実施の形態Bの変形例の一つとして、くびれ部分に肉黙りを構成している様子を表す図
【図4】本発明の実施の形態Cのフラッシュランプを表す図
【図5】本発明の実施の形態Aの寿命実験のデータを表す図
【図6】本発明の実施の形態B及びCの寿命実験データを表す図
【図7】従来のフラッシュランプを表す図
【符号の説明】
【0020】
1 発光管
2 陰極
3 陽極
4 ビーズ
5 くびれ部分
6 肉溜部分
7 電極を覆う円筒形状の遮蔽体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管内に一対の電極が対向して配置され、内部に希ガスが封入されたフラッシュランプにおいて、前記発光管内の電極が対向する空間を、一部遮蔽する構造体を配置することを特徴とするフラッシュランプ。
【請求項2】
発光管内に一対の電極が対向して配置され、内部に希ガスが封入されたフラッシュランプにおいて、ランプ点灯中前記電極の陰極から陽極側へ放出される電子のうち、陽極に放出されず発光管内壁に衝突する電子を遮蔽する構造体を配置してなるフラッシュランプ。
【請求項3】
前記遮蔽体は、発光管の陰極近傍の対向電極側に発光管の発光部の内径よりも小さい内径の円筒体である請求項1または2項記載のフラッシュランプ。
【請求項4】
前記遮蔽体は、発光管の陰極近傍の対向電極側を発光管の発光部の内径よりも小さくシュリンクして構成する請求項1または2項記載のフラッシュランプ。
【請求項5】
前記遮蔽体は、陰極の先端部を円筒体で被覆し、更にこの被覆した円筒体が陰極近傍の対向電極側まで延長している構成である請求項1または2項記載のフラッシュランプ。
【請求項6】
前記遮蔽体は、石英、アルミナ、サファイアなどの高融点の無機物質からなる請求項1項ないし5項記載のフラッシュランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−286455(P2006−286455A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105996(P2005−105996)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)