説明

フラッシュランプ

【課題】発光管内で、陽極と、電子放射性物質を含有させた陰極とを対向配置させたフラッシュランプにおいて、陰極内の電子放射性物質の有効利用を図り、電子放射性物質が早期に枯渇することを防止した構造を提供することである。
【解決手段】前記陰極の先端の中央部には、先端に開口する複数の孔が穿設され、該孔間には隔壁が形成されていて、該隔壁が電子放射部を形成し、前記陰極先端の中央部の周縁部には先端環状部が形成され、前記隔壁の先端面が、前記先端環状部の先端面よりも後退していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフラッシュランプに関するものであり、特に、電子放射性物質を含有する陰極構造を改良したフラッシュランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの用途において、薄膜トランジスタ製造時にガラス基板上の非晶質シリコン膜を多結晶化するために、フラッシュランプが用いられている。
例えば、特開2003−209054号公報(特許文献1)には、液晶ディスプレイ用として、スイッチング素子に多結晶シリコン薄膜トランジスタ(TFT)が用いられており、これを作製する際に例えば非晶質シリコンに光を照射して多結晶化することが記載されており、その光源としてフラッシュランプを利用することが開示されている。
図4に一般的なフラッシュランプの構造が示され、石英ガラスなどよりなる発光管10内にはキセノンなどの希ガスが封入されるとともに、その内部には陽極11と、陰極12とが対向配置されている。通常、前記陰極12には電子放射性物質(以下、エミッターともいう)が含有されていて、仕事関数を低下させるようにしている。
【0003】
このようにエミッターを含有させた陰極構造においては、電極表面からエミッターが蒸発したときに、電極内部に含有させてあるエミッターがその表面にまで拡散して出てきて供給されることを期待するものである。しかしながら、電極表面の温度が内部の温度より高温であることもあって、内部からのエミッターの供給が電極表面での蒸発速度に追いつくことができず、結局は電極内部に含有させたエミッターを有効に利用できずに、電極表面でエミッターが枯渇してしまうという問題があった。
エミッターが枯渇すると、放電電圧が上昇してしまい、電極の蒸発による損耗が激しくなり、ひいてはランプ寿命の低下にもつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−209054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、発光管内で、陽極と、電子放射性物質を含有させた陰極とを対向配置させたフラッシュランプにおいて、陰極に含有させた電子放射性物質を有効に利用して、陰極表面で該電子放射性物質が枯渇するとこのないようにした構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係るフラッシュランプは、前記陰極の先端の中央部には、先端に開口する複数の孔が穿設され、該孔間には隔壁が形成されていて、該隔壁が電子放射部を形成し、前記陰極先端の中央部の周縁部には先端環状部が形成され、前記隔壁の先端面が、前記先端環状部の先端面よりも後退していることを特徴とする。
また、前記孔間に形成される隔壁の厚みが一定であることを特徴とする。
また、前記孔および隔壁はハニカム構造に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明のフラッシュランプによれば、前記陰極の先端の中央部に複数の孔が穿設され、該孔間には形成される隔壁が電子放射部を形成していることにより、その隔壁によって表面積が大きくなって、当該表面から電子放射性物質が放出されるので、電子放射性物質の有効利用が図られ、その枯渇が防止される。
また、前記陰極先端の中央部の周縁部には先端環状部が形成され、前記隔壁の先端面が前記先端環状部の先端面よりも後退していることにより、電極間のアークは該先端環状部にかぶるように形成されるので、前記隔壁が直接的にアークにかぶることがなく、その先端面がアークによって過剰に加熱されてしまうことがない。それにより、電子放射性物質の過剰な蒸発が抑制されて、陰極先端から長時間にわたり安定的な供給がなされる。
また、前記隔壁の厚みが一定であることにより、隔壁間の温度分布が均一になる。これにより、一部の電子放射性物質のみが蒸発してしまい、部分的に枯渇してしまうということがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のフラッシュランプにおける陰極の先端断面図。
【図2】図1の側面図。
【図3】他の実施例の側面図。
【図4】本発明の効果を表すグラフ。
【図5】従来のフラッシュランプの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1には、本発明のフラッシュランプに用いられる陰極が示されていて、該陰極1はタングステンよりなり、バリウム・アルミネート(Ba・Al)や、酸化ランタン(La)などのエミッターが含有されている。
この陰極1の先端の中央部2には複数の孔3、3が軸方向に設けられていて、該孔3は陰極先端に開口して、所定の深さにまで穿たれている。
図2に陰極1の先端面が示され、この実施例では、中央部2の孔3、3はハニカム構造をなし、その孔3間には隔壁4が形成されている。この隔壁4の厚さは一定であることが好ましく、ハニカム構造であれば一定となる。
孔3と隔壁4をハニカム構造とすることによって、隔壁4の表面積が最大化し、利用できるエミッターが増大する。
また、フラッシュランプは閃光放射時に大きな振動が発生するが、このハニカム構造は、隔壁4の厚みが薄くなっても、機械的強度が相対的に高いので、振動にも強く、破損しにくいという利点がある。
【0010】
そして、陰極1の先端面には、孔3が穿設された中央部2の周縁部には、孔の形成されない先端環状部5が形成されている。
図1に示すように、中央部2の孔3によって形成される隔壁4の先端面4aは、先端環状部5の先端面5aよりも軸方向に後退している。
【0011】
図3に先端中央部2の他の実施例が示されていて、この実施例では、中央部2に形成される孔3の形状が四角形であって、この実施例においても、孔3間の隔壁4はその厚みが一定である。
なお、このような孔3はレーザ加工によって形成される。
【0012】
上記構成において、陰極1先端からの電子放射性物質(エミッター)の蒸発は隔壁4の表面からなされるので、その表面積が増大して、陰極1内部に含有されるエミッターの有効利用がなされる。
また、図1に示されるように、電極間に形成されるアークAは、陰極1においては、その先端環状部5にかぶるように形成され、該先端環状部5より後退している隔壁4の先端に直接かぶることがない。
そのため、隔壁4がアークAによって過剰に加熱されることがなく、隔壁表面からのエミッターの拡散が過剰になることもない。
また、隔壁4の厚さを一定とすることによって、隔壁4間の温度分布が均一化し、エミッターの蒸発が局所的に偏ることがなく、部分的な枯渇状態を招来することがない。
【0013】
本発明の効果を実証するための実験を行った。
<ランプ仕様>
発光長:250mm
発光管内径:10.3mm
陰極:材料 エミッターとして酸化ランタンを含有するタングステン
電極径 φ8mm
長さ 6mm
<発光管>
材料:透光性サファイア
<発光条件>
ピーク電流:3.5kA
照射エネルギー:600J

以上の共通仕様のランプにおいて、本発明として陰極先端にハニカム状の孔を空けたものを準備した。
<本発明>
先端中央部の径:φ6mm
ハニカム構造:一辺の長さ 300μm
深さ 600μm
隔壁の厚さ 80μm
<従来例>
従来例としては、陰極先端に孔加工をしていないものを準備。
【0014】
その実験結果が図4に示されている。
従来例(◇)のものでは、10万回から20万回にかけて急激に照射強度が低下し、陰極側発光管の内壁に黒色の汚れが急速に発生。この黒色の汚れはエミッターの枯渇による黒化である。
更に、50万回を超えると発光管全体に黒化が進行し、照射強度が初期値比で80%となり、150万回では68%にまで低下した。
これに対して、本発明(□)では、10万回から20万回においては黒化は見られず、急激な照度低下はなく、更に150万回においても顕著な黒化は見られず、その照射強度も90%以上を維持している。
【0015】
以上説明したように、本発明のフラッシュランプにおいては、陰極の先端中央部に複数の孔を穿設して隔壁を形成したことにより、隔壁により表面積が増大し、陰極に含有させたエミッターの有効活用が図られるという効果を奏する。
また、隔壁の先端面を中央部の周縁の先端環状部の先端面より後退させたので、アークによって隔壁の先端が過剰に加熱されることがなく、エミッターの過剰な蒸発が防止される。
【符号の説明】
【0016】
1 陰極
2 先端中央部
3 孔
4 隔壁
4a 隔壁の先端面
5 先端環状部
5a 先端環状部の先端面
A アーク




【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管内で、陽極と、電子放射性物質を含有させた陰極とを対向配置させたフラッシュランプにおいて、
前記陰極の先端の中央部には、先端に開口する複数の孔が穿設され、該孔間には隔壁が形成されていて、該隔壁が電子放射部を形成し、
前記陰極先端の中央部の周縁部には先端環状部が形成され、
前記隔壁の先端面が、前記先端環状部の先端面よりも後退していることを特徴とするフラッシュランプ。
【請求項2】
前記孔間に形成される隔壁の厚みが一定であることを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプ。
【請求項3】
前記孔および隔壁はハニカム構造に形成されることを特徴とする請求項1に記載のフラッシュランプ。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−195265(P2012−195265A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60381(P2011−60381)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】