説明

フラボン骨格を有する新規殺菌剤

【課題】 本発明は、うどん粉病に対して格段に優れた防除効果を有する殺菌剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のうどん粉病用殺菌剤は、一般式(1)
【化1】


[式中、Rはハロゲン原子又はC1-4アルキル基を示す。]
で表されるフラボン化合物を含有する。特にRが塩素原子又はメチル基を示す一般式(1)のフラボン化合物が、うどん粉病に対してより一層優れた防除効果を発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うどん粉病用殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
今日まで数多くの殺菌活性成分を有する化合物が研究され、その幾つかの化合物が実用化されて農業生産効率の向上に貢献している。
【0003】
本発明者らは、自然界に存在するフラボンに着目して研究をした結果、優れた除草活性及び殺菌活性を有する一般式(2)
【0004】
【化1】

[式中、R1は水素原子又はC1-4アルキル基を示す。Xはハロゲン原子又はC1-4アルキル基を示す。Yはハロゲン原子、C1-4アルコキシ基又はC1-4ハロアルキル基を示す。mは0〜4の整数を示す。mが2〜4の整数を示す場合、m個のXは同一であってもよいし、異なっていてもよい。nは0〜5の整数を示す。nが2〜5の整数を示す場合、n個のYは同一であってもよいし、異なっていてもよい。但し、m及びnが同時に0を示さないものとする。]
で表されるフラボン化合物を見い出した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−269402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、うどん粉病に対して格段に優れた防除効果を有する殺菌剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、上記一般式(2)で表されるフラボン化合物の中でも、フラボン骨格の特定の置換位置に特定の置換基を有するフラボン化合物が、農園芸上問題となる病原菌、特にうどん粉病菌に対して格段に優れた殺菌活性を有することを見い出した。本発明は斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0007】
本発明は、下記に示すうどん粉病用殺菌剤を提供するものである。
1. 一般式(1)
【0008】
【化2】

[式中、Rはハロゲン原子又はC1-4アルキル基を示す。]
で表されるフラボン化合物を含有する、うどん粉病用殺菌剤。
2.Rが塩素原子又はメチル基である一般式(1)のフラボン化合物を含有する、上記1に記載の殺菌剤。
【0009】
本明細書において、ハロゲン原子としては、例えば弗素原子、塩素原子、臭素原子及び沃素原子が挙げられる。
【0010】
1-4アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。
【0011】
本発明の殺菌剤の有効成分となる化合物の基本構造となるフラボン骨格の置換位置番号は次の通りである。
【0012】
【化3】

本発明の殺菌剤組成物の有効成分となる一般式(1)で表されるフラボン化合物において、構造上の最大の特徴はフラボン骨格の3位にエチル基、6位にハロゲン原子又はC1-4アルキル基及び4’位に弗素原子を有することである。フラボン骨格の3位、6位及び4’位に特定の置換基を導入することにより、うどん粉病に対する防除効果が顕著に増大する。
【0013】
上記一般式(1)で表されるフラボン化合物の6位置換基がハロゲン原子である化合物が好ましく、塩素原子である化合物が特に好ましい。
【0014】
上記一般式(1)で表されるフラボン化合物の6位置換基がC1-4アルキル基である化合物が好ましく、メチル基である化合物が特に好ましい。
【0015】
本発明の一般式(1)で表されるフラボン化合物は、公知であり、例えば、特許文献1に記載の方法により容易に製造される。
【0016】
本発明の殺菌剤は、各種病害に対して効果を示すが、うどん粉病に対して卓効を示す。例えばカキうどん粉病菌(Phyllactinia kakicola)、ブドウうどん粉病菌(Uncinula necator)、オオムギうどん粉病菌(Erysiphe graminis f. sp. hordei)、コムギうどん粉病菌(Erysiphe graminis f. sp. tritici)、キュウリうどん粉病菌(Sphaerotheca fuliginea)、イチゴうどん粉病菌(Sphaerotheca humili)、タバコうどん粉病菌(Erysiphe cichoracearum)等の各種のうどん粉病菌の防除に有効に使用することができる。
【0017】
本発明の殺菌剤は、一般式(1)で表されるフラボン化合物を有効成分とし、他の成分を加えずにそのまま使用してもよいが、通常は液体状、固体状、ガス状等の各種担体と混合し、更に必要に応じて界面活性剤やその他製剤用補助剤を添加して、乳剤、水和剤、ドライフロアブル剤、フロアブル剤、水溶剤、粒剤、微粒剤、顆粒剤、粉剤、塗布剤、スプレー用製剤、エアゾール製剤、マイクロカプセル製剤、燻蒸用製剤、燻煙用製剤等の各種製剤形態に製剤して用いることができる。
【0018】
これら製剤において、有効成分の一般式(1)で表されるフラボン化合物の含有量は、その製剤形態、使用場所等の各種条件に応じて広い範囲内から適宜選択できるが、製剤中に通常0.01〜95重量%程度、好ましくは0.1〜50重量%程度とするのがよい。
【0019】
これら製剤を調製するに当たって用いられる固体状担体としては、例えば、カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等の粘土類、タルク類、セラミック、セライト、石英、硫黄、活性炭、炭酸シリカ、水和シリカ等の無機鉱物、化学肥料等の微粉末、粒状物等が挙げられる。
【0020】
液状担体としては、例えば、水、アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の酸アミド類、ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシド、大豆油、綿実油等の植物油等が挙げられる。
【0021】
ガス状担体としては、一般に噴射剤として用いられているものであり、例えば、ブタンガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス等が挙げられる。
【0022】
界面活性剤の具体例として、例えば、非イオン界面活性剤としては、ボリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリエチレンソルビタンアルキルエステル等を、陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルスルホサクシネート、アルキルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート、アリルスルホネート、リグニン亜硫酸塩等が挙げられる。
【0023】
製剤用補助剤としては、例えば、固着剤、分散剤、安定剤等が挙げられる。
【0024】
固着剤及び分散剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、多糖類(澱粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、糖類、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)等が挙げられる。
【0025】
安定剤としては、例えば、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールと3−tert−ブチル−4−メトキシフェノールとの混合物)、植物油、鉱物油、界面活性剤、脂肪酸又はそのエステル等が挙げられる。
【0026】
これら製剤は、有機及び無機染料を用いて着色してもよい。
【0027】
このようにして得られる製剤は、そのまま又は水等で希釈して用いることができる。但し、粒剤、粉剤等は通常希釈することなくそのまま使用される。また、乳剤、水和剤、フロアブル剤等を水等で希釈して使用する場合には、通常有効成分濃度が0.0001〜100重量%、好ましくは0.001〜10重量%程度となるようにすればよい。
【0028】
また、本発明の化合物は、他の除草剤、殺虫剤、殺線虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤、植物生長調節剤、共力剤(例えばピペロニルブトキシド等)、土壌改良剤等と予め混合して製剤化してもよい。或いは、本発明の製剤と上記各剤とを、使用の際に併用してもよい。
【0029】
本発明殺菌剤を用いる場合、その施用量は特に制限されず、製剤の形態、施用方法、施用時期、施用場所、施用作物の種類等の各種条件に応じて広い範囲から適宜選択される。
【発明の効果】
【0030】
農薬は、低薬量での使用を可能とすることで環境に対する負荷を低減することができ、且つ生産コストを下げることができるため、農薬開発メーカーにおいて高活性化合物の開発及び探索は必須事項である。特に殺菌剤においては、病原菌の防除が不完全であると防除漏れした病原菌が再度繁殖する虞れがあったり、薬剤耐性菌の発生機会が増大するため、病原菌を完全に防除できる薬剤の開発が望まれている。
【0031】
本発明殺菌剤の有効成分である一般式(1)で表されるフラボン化合物は、うどん粉病に対して低薬量で格段に優れた防除効果を示すため、本発明殺菌剤の使用によりうどん粉病原菌を十分に防除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、一般式(1)で表されるフラボン化合物の製造例を参考例として掲げ、更に製剤例及び試験例を掲げる。尚、以下において、単に「部」とあるのは「重量部」を意味する。
【0033】
参考例1
6−クロロ−4’−フルオロ−3−エチルフラボン(化合物A)の合成
4−フルオロ安息香酸2−ブチリル−4−クロロフェニル1.51g(5.0ミリモル)のテトラヒドロフラン3ml溶液に、カリウム−t−ブトキシド0.62g(5.5ミリモル)を加え、15分間加熱還流した。1M塩酸10mlを加えた後、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水洗後、硫酸マグネシウム上で乾燥した。乾燥後の抽出液を濾過し、濾液を減圧下に濃縮した。得られた粗1−(5−クロロ−2−ヒドロキシフェニル)−3−(4−フルオロフェニル)−1,3−ジオキソプロパンの酢酸5ml溶液に、濃硫酸0.5mlを加え、110℃で30分間加熱した。反応混合物に水20mlを加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水洗後、硫酸マグネシウム上で乾燥した。乾燥後の抽出液を濾過し、濾液を減圧下に濃縮した。濃縮して得られる残渣をカラムクロマトグラフィーで精製して、6−クロロ−4’−フルオロ−3−エチルフラボン0.72gを得た。
収率:48%
融点:149−150℃
1H−NMR(CDCl3,δppm):1.19(t,J=7Hz,3H)、2.57(q,J=7Hz,2H)、7.2−7.3(m,2H)、7.41(d,J=6Hz,1H)、7.5−7.7(m,3H)、8.21(d,J=2Hz,1H)。
【0034】
参考例2
4’−フルオロ−6−メチル−3−エチルフラボン(化合物B)の合成
4−フルオロ安息香酸2−ブチリル−4−クロロフェニルに代わりに、4−フルオロ安息香酸2−ブチリル−4−メチルフェニル1.41g(5.0ミリモル)を用いる以外は、参考例1と同様にして、4’−フルオロ−6−メチル−3−エチルフラボン0.66gを得た。
収率:47%
融点:110−113℃
1H−NMR(CDCl3,δppm):1.10(t,J=7Hz,3H)、2.37(s,3H)、2.50(q,J=7Hz,2H)、7.0−7.2(m,2H)、7.23(d,J=8Hz,1H)、7.37(d,J=8Hz,1H)。
【0035】
参考例3
対応する出発原料を用い、参考例1又は2と同様にして、以下に示す比較化合物1〜6を製造した。
比較化合物1:6−クロロ−4’−フルオロフラボン
比較化合物2:6−メチル−4’−フルオロフラボン
比較化合物3:6−クロロ−3−メチルフラボン
比較化合物4:6−クロロ−4’−フルオロ−3−メチルフラボン
比較化合物5:6−メチル−4’−フルオロ−3−イソプロピルフラボン
比較化合物6:6−ブロモ−4’−フルオロ−3−イソプロピルフラボン
これら比較化合物1〜6の化学構造式を表1に示す。
【0036】
【表1】

次に、製剤例を示す。
【0037】
製剤例1(乳剤)
参考例1又は2で製造した化合物の各々10部を、ソルベッソ150 45部及びN−メチルピロリドン35部に溶解し、これに乳化剤(商品名:ソルポール3005X、東邦化学株式会社製)10部を加え、撹拌混合して各々の10%乳剤を得た。
【0038】
製剤例2(水和剤)
参考例1又は2で製造した化合物の各々20部を、ラウリル硫酸ナトリウム2部、リグニンスルホン酸ナトリウム4部、合成含水酸化珪素微粉末20部及びクレー54部の混合物に加え、ジュースミキサーで撹拌混合して20%水和剤を得た。
【0039】
製造例3(粒剤)
参考例1又は2で製造した化合物の各々5部に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部、ベントナイト10部及びクレー83部を加え、十分撹拌混合した。混合物に適当量の水を加え、更に撹拌し、造粒機で造粒し、通風乾燥して5%粒剤を得た。
【0040】
製造例4(粉剤)
参考例1又は2で製造した化合物の各々1部を適当量のアセトンに溶解し、これに合成含水酸化珪素微粉末5部、PAP(酸性リン酸イソプロピル)0.3部及びクレー93.7部を加え、ジュースミキサーで撹拌混合し、アセトンを蒸発除去して1%粉剤を得た。
【0041】
製剤例5(フロアブル剤)
参考例1又は2で製造した化合物の各々20部と、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルトリエタノールアミン3部及びシリコーン系消泡剤(商品名:RHODORSIL(ローダジル)426R、RHODIA CHIMIE 社製)0.2部を含む水20部を混合し、ミル(ダイノミル、Willy A. Bachofen 社製)を用いて湿式粉砕後、プロピレングリコール8部及びキサンタンガム0.32部を含む水60部と混合し、20%水中懸濁液を得た。
【0042】
試験例1(キュウリうどんこ病防除効果試験)
試験化合物として化合物A、化合物B及び比較化合物1〜6を使用した。
【0043】
約2週間温室で栽培したキュウリ(品種「鈴成四葉」)苗に、製剤例2又は製剤例2に準じて調製した水和剤の所定濃度(200ppm、100ppm及び20ppm)薬液を十分量散布し、風乾した後、うどんこ病菌(Sphaerotheca fuliginea)分生胞子懸濁液を噴霧接種した。これを温室内に置き、10日後に発病状態を調査した。調査葉の病斑面積率に応じ、下記式に従い防除価を算出した。結果を表2に示す。
【0044】
【数1】

【0045】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、Rはハロゲン原子又はC1-4アルキル基を示す。]
で表されるフラボン化合物を含有する、うどん粉病用殺菌剤。
【請求項2】
Rが塩素原子又はメチル基である一般式(1)のフラボン化合物を含有する、請求項1に記載の殺菌剤。

【公開番号】特開2006−151819(P2006−151819A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339948(P2004−339948)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】