説明

フラーレン誘導体並びにその溶液及び膜

【課題】1価フェノールを付加置換基として有する多重付加フラーレン誘導体でありながら、PGMEA等のエステル溶媒に対して高い溶解性を有し、電気化学的に安定なフラーレン誘導体を提供する。
【解決手段】フラーレン骨格の式(I)で表わされる部分構造において、C1を水素原子又は任意の置換基と結合させ、C6〜C8を、アルキル基又はハロゲン基で置換されたヒドロキシフェニル基と結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のフラーレン誘導体並びにその溶液及び膜に関するものである。詳しくは、フラーレン骨格上に特定の置換フェノール基を部分構造として有するフラーレン誘導体と、そのフラーレン誘導体を含有する溶液及びそのフラーレン誘導体を含有する膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。その結果、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その多様な機能が明らかにされてきた。それに伴い、各種用途開発が進められている。
【0003】
フラーレン誘導体の中でも特に、フラーレン骨格の下記式(I)で表わされる部分構造において、C6〜C10のうち3つの炭素原子(例えばC6〜C8)に置換基が付加された部分構造(以下適宜、「3重付加部分構造」という場合がある。)や、C6〜C10の全てに置換基が付加された部分構造(以下適宜、「5重付加部分構造」という場合がある。)を有するフラーレン誘導体が種々合成され、報告されている。
【0004】
【化1】

上記式(I)中、C1〜C10は何れも、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。
【0005】
なお、以下の記載では、上記式(I)で表わされる部分構造のC1〜C10で表わされる炭素原子を、単に「C1」〜「C10」で表わす場合がある。
さらに、以下の記載では、上述の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造においてC6〜C10に結合する置換基を「付加置換基」という場合がある。
【0006】
また、上述の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を有するフラーレン誘導体を、付加置換基の総数に応じて呼ぶ場合がある。この呼び名に従えば、3重付加部分構造を一つ有するフラーレン誘導体は「3重付加フラーレン誘導体」、5重付加部分構造を一つ有するフラーレン誘導体は「5重付加フラーレン誘導体」、3重付加部分構造を二つ有するフラーレン誘導体は「6重付加フラーレン誘導体」、3重付加部分構造と5重付加部分構造とを一つずつ有するフラーレン誘導体は「8重付加フラーレン誘導体」、5重付加部分構造を二つ有するフラーレン誘導体は「10重付加フラーレン誘導体」となる。
また、上述の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を一つ以上有するフラーレン誘導体を、「多重付加フラーレン誘導体」と総称するものとする。
【0007】
5重付加フラーレン誘導体のうち、例えばC60骨格の5重付加フラーレン誘導体は、50電子系のπ電子共役になっており、60電子系のπ電子共役である無置換のC60とは異なる立体配置や電子的性質を有している。
【0008】
また、5重付加フラーレン誘導体より置換基の付加数が少ない3重付加フラーレン誘導体として、例えば66電子系のπ電子共役である3重付加C70誘導体も合成され報告されている。これらの3重付加フラーレン誘導体は、無置換のC60やC70だけでなく上記5重付加C60誘導体とも異なる物性を有している。このことから、それぞれのフラーレン誘導体において新たな電子伝導材料、半導体、生理活性物質等として期待されている。
【0009】
5重付加C60誘導体や3重付加C70誘導体等の多重付加フラーレン誘導体は、フラーレンの特定部位に集中的に有機基が付加した独特の構造で、且つ長いπ電子共役を有しているため、その電気化学的物性等に興味が持たれている。
【0010】
ところで、フラーレン誘導体を電子材料や金属錯体の配位子等に利用したり、他のフラーレン誘導体の中間体として使用するためには、フラーレン誘導体が有機溶媒に対して高溶解性を示すことが好ましい。
多重付加フラーレン誘導体の中には、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒などに溶解性を示すものが開発されている。
【0011】
さらには、安全面や揮発性等の観点から、取扱が容易で、一般に工業用途で使用されている、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(以下適宜「PGMEA」という場合がある。)等に代表されるエステル溶媒に高い溶解性を示す多重付加フラーレン誘導体も開発されている(特許文献1参照)。
【0012】
【特許文献1】特開2006−56878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、PGMEAへの高溶解性のみならず、電気化学的安定性や更なる反応を行なう際の反応制御が容易で、且つアルカリ溶媒への溶解性制御など種々の特性をあわせもつ多重付加フラーレン誘導体が望まれている。
【0014】
また、上述の特許文献1に代表される従来の技術では、各種の溶媒への溶解性を向上させる等の目的で、1又は2以上の水酸基を有するフェニル基(フェノール基)を付加置換基として有する多重付加フラーレン誘導体が合成されてきた。ところが、水酸基を一つのみ有するフェニル基(1価フェノール基)を付加置換基として有する多重付加フラーレン誘導体の場合、C1に結合している有機基が水素原子又はメチル基であると、PGMEA等のエステル系有機溶媒に対する溶解性が十分ではなかった。
【0015】
さらに、水酸基を二つ以上有するフェニル基(多価フェノール基)を付加置換基として有する多重付加フラーレン誘導体の場合、これらを原料として、更に目的物を得る中間体とした場合には、水酸基の数が多いために反応制御が困難である場合があった。また、その多重付加フラーレン誘導体が電気化学的に酸化されやすく、キノン構造を形成したり、水酸基にはさまれた水素原子は別の置換反応を受けやすかったりするなど、安定性が十分ではない場合があった。
【0016】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、1価フェノールを付加置換基として有する多重付加フラーレン誘導体でありながら、PGMEA等のエステル溶媒に対して高い溶解性を有し、且つ電気化学的に安定なフラーレン誘導体と、そのフラーレン誘導体を含有する溶液及びそのフラーレン誘導体を含有する膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定の置換基を有し且つ1個の水酸基を同時に有するフェニル基(置換フェノール基)を付加置換基として導入することによって、PGMEA等のエステル溶媒に対して高い溶解性を有し、安定性が高く且つ、反応制御が容易なフラーレン誘導体を開発し、本発明を完成させた。
【0018】
即ち、本発明の要旨は、フラーレン骨格の下記式(I)で表わされる部分構造において、C1が、水素原子又は任意の置換基と結合しており、C6〜C8が各々独立に、下記式(II)で表わされる構造の有機基と結合していることを特徴とするフラーレン誘導体に存する(請求項1)。
【化2】

(前記式(I)中、C1〜C10は何れも、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【化3】

(前記式(II)中、Rは有機基又は第3周期以前のハロゲン原子を表わし、mは1〜4の整数を表わす。但し、mが2以上の場合、Rは同種類であっても良く、異なる種類であっても良い。)
【0019】
このとき、前記C6〜C10が、各々独立に、前記式(II)で表される構造の有機基と結合していることが好ましい(請求項2)。
【0020】
また、前記mが1又は2であることが好ましい(請求項3)。
【0021】
さらに、前記式(II)中のフェニル基の4位の炭素原子にOH基が結合していることが好ましい(請求項4)。
【0022】
また、前記Rの少なくとも1つがアルキル基又は第3周期以前のハロゲン原子であることが好ましい(請求項5)。
【0023】
さらに、前記Rの少なくとも1つがメチル基、塩素原子又はフッ素原子であることが好ましい(請求項6)。
【0024】
また、前記フラーレン骨格がフラーレンC60であることが好ましい(請求項7)。
【0025】
本発明の別の要旨は、本発明のフラーレン誘導体が溶媒に溶解してなることを特徴とする、フラーレン誘導体溶液に存する(請求項8)。
【0026】
このとき、前記溶媒がエステル溶媒であることが好ましい(請求項9)。
【0027】
本発明の更に別の要旨は、本発明のフラーレン誘導体を含むことを特徴とする膜に存する(請求項10)。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、PGMEA等のエステル溶媒に対して高い溶解性を有し、反応制御が容易で且つ電気化学的に安定なフラーレン誘導体、並びに、それを含有するフラーレン誘導体溶液及び膜を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0030】
[1.フラーレン誘導体]
[1−1.フラーレン誘導体の構造]
本発明のフラーレン誘導体は、特定の部分構造を有するフラーレン誘導体である。
ここで、「フラーレン」とは、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンの炭素数は、通常60〜130の偶数である。
【0031】
フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスター等が挙げられる。
なお、本明細書では、炭素数i(ここでiは任意の自然数を表わす。)のフラーレン骨格を適宜、一般式「Ci」で表わす。
【0032】
また、「フラーレン誘導体」とは、フラーレン骨格を有する化合物又は組成物の総称である。即ち、フラーレン誘導体には、フラーレン骨格上に置換基を有したものの他、フラーレン骨格の内部に金属や化合物等を内包するもの及び他の金属原子や化合物と錯体を形成したもの等も含まれる。
【0033】
本発明のフラーレン誘導体が有するフラーレン骨格は制限されないが、中でもC60又はC70が好ましく、C60がより好ましい。C60及びC70はフラーレンの製造時に主生成物として得られるので、入手が容易であるという利点がある。即ち、本発明のフラーレン誘導体は、C60又はC70の誘導体であることが好ましく、C60の誘導体であることがより好ましい。
【0034】
本発明のフラーレン誘導体は、フラーレン骨格の下記式(I)で表わされる部分構造において、C1が水素原子又は任意の置換基と結合しており、少なくともC6〜C8が、各々独立に、下記式(II)で表わされる構造の有機基(即ち、置換フェノール基)と結合していることを特徴とする。なお、以下の説明において、C1に結合する水素原子及び置換基を総称して、適宜「R10」という。また、下記式(II)で表わされる構造の有機基を、適宜「R20」という。
【化4】

(前記式(I)中、C1〜C10は何れも、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【0035】
【化5】

(前記式(II)中、Rは有機基又は第3周期以前のハロゲン原子を表わし、mは1〜4の整数を表わす。但し、mが2以上の場合、Rは同種類であっても良く、異なる種類であっても良い。)
【0036】
以下、まずC1と結合している基(即ち、R10)について、詳細に説明する。
式(I)中、C1は水素原子又は任意の置換基(即ち、R10)と結合している。前記の置換基は、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、その種類に制限は無い。
【0037】
10が置換基である場合、その例としては、ハロゲン原子、有機基、その他の置換基などが挙げられる。
10がハロゲン原子である場合、その具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。なかでも、製造の容易さから塩素原子及び臭素原子が好ましい。
【0038】
10が有機基である場合、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基等の直鎖又は分岐状の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;アリル基等のアルケニル基;ベンジル基、p−メトキシベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、トルイル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリーロキシ基;モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノジエチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アリーロキシカルボニル基;チエニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基等の5員複素環基;ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピペリジル基、ピペラジル基、モルホリル基等の6員複素環基;チオホルミル基、チオアセチル基、チオベンゾイル基等のチオカルボニル基;トリメチルシリル基、ジメチルシリル基、モノメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジエチルシリル基、モノエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジイソプロピルシリル基、モノイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルシリル基、モノフェニルシリル基等の置換シリル基等が挙げられる。
【0039】
また、R10が有機基である場合には、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なわない限り、前記有機基は更に別の置換基を有していてもよい。R10の有機基が有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、水酸基(ヒドロキシ基)、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子等が挙げられる。また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。
【0040】
さらに、R10が有機基である場合、炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、また、通常30以下、好ましくは6以下の範囲である。R10が置換基を有する場合には、置換基を含めた炭素数が、上記規定の範囲を満たすことが好ましい。
【0041】
また、R10が他の置換基である場合、その具体例としては、水酸基(ヒドロキシ基)、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、シアノ基、シリル基、ニトロ基等が挙げられる。
【0042】
上記のうち、R10として好ましい基としては、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等のヒドロキシアルキル基;フェニル基;カルボキシル基;アルコキシカルボニル基;等が挙げられる。
中でも、R10としては、合成の容易さ及び空気中での安定性の観点からアルキル基がより好ましく、熱安定性やコストの観点からメチル基が特に好ましい。さらに、アルコールやエステル系溶媒などに対する本発明のフラーレン誘導体の溶解性をさらに高めることができる点、及び、更に別の官能基に置換しやすい点では、R10としては、水酸基またはアルコキシカルボニル基等の極性官能基を含むアルキル基が好ましい。
【0043】
続いて、式(II)で表わされる構造の有機基(即ち、R20)について、詳細に説明する。
20は、フェニル基に水酸基(OH基)と、有機基及び/又は第3周期以前のハロゲン原子とが結合した1価の基である。なお、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、他のあらゆる置換基が導入されていてもかまわない。
【0044】
式(II)において、フェニル基と結合している水酸基(OH基)の数は1個である。この際、水酸基がフェニル基に結合する位置は限定されず任意であるが、原料調達の観点から、フェニル基の4位の炭素原子に結合していることが好ましい。即ち、R20は、水酸基が4位に結合しているフェノール基であることが好ましい。
【0045】
一方、式(II)において水酸基以外でフェニル基と結合している基(即ち、式(II)のR)は、有機基又は第3周期以前のハロゲン原子を表わす。Rの例を挙げると、有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基等の直鎖又は分岐状の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;アリル基等のアルケニル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリーロキシ基などが挙げられ、第3周期以前のハロゲン原子としては、塩素及びフッ素が挙げられる。これらの中で、原料調達の観点からアルキル基、第3周期以前のハロゲン原子が好ましく、特にメチル基、塩素、フッ素が好ましい。なお、mが2以上である場合、Rは同種類であっても良く、異なる種類の組み合わせであってもよい。
【0046】
また、式(II)において、mはフェニル基に結合しているRの数を表わし、具体的には1以上、また、4以下の整数を表わす。中でも、原料調達の観点から2以下が好ましい。即ち、mは1又は2であることが好ましい。
さらに、式(II)において、Rがフェニル基に結合している位置は任意である。また、Rがフェニル基に複数個結合している場合は、水酸基の位置も併せて、それぞれの基の位置関係は任意である。なお、式(II)ではフェニル基を示しているが、フェニル基に換えてビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の他の芳香環基を用いることも可能である。この場合、芳香環基に結合する置換基の数は、芳香環基の種類に応じて適宜調整することが可能である。但し、原料調達の観点からはフェニル基が好ましい。
【0047】
本発明のフラーレン誘導体では、式(I)のC6〜C8は、各々独立に、上記式(II)で表わされる構造の有機基(即ち、R20)と結合している。エステル溶媒に対する溶解性を高める観点からは、C6〜C8のみならず、C6〜C10の全てが各々独立にR20と結合していることが望ましい。なお、R20は互いに同じ構造の基であってもよく、異なる構造の基であってもよいが、合成が容易である点から、R20は全て同じ構造の基であることが好ましい。
【0048】
本明細書では、式(I)のC1が水素原子又は有機基(即ち、R10)と結合し、C6〜C8が各々独立に式(II)で表される構造の有機基(即ち、R20)と結合した部分構造を、「本発明の3重付加部分構造」という場合がある。また、式(I)のC1が水素原子又は有機基(即ち、R10)と結合し、C6〜C10が各々独立に式(II)で表される構造の有機基(即ち、R20)と結合した部分構造を、「本発明の5重付加部分構造」という場合がある。
【0049】
本発明のフラーレン誘導体の例を以下に挙げる。ただし、本発明のフラーレン誘導体は、以下に挙げる例に制限されるものではない。
・フラーレン骨格上に本発明の3重付加部分構造を1つ有する、一般式Ci(R203(R10)で表わされる3重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の5重付加部分構造を1つ有する、一般式Ci(R205(R10)で表わされる5重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の3重付加部分構造を2つ有する、一般式Ci(R206(R102で表わされる6重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の3重付加部分構造を1つ、本発明の5重付加部分構造を1つ有する、一般式Ci(R208(R102で表わされる8重付加フラーレン誘導体。
・フラーレン骨格上に本発明の5重付加部分構造を2つ有する、一般式Ci(R2010(R102で表わされる10重付加フラーレン誘導体。
【0050】
これらの中でも、本発明のフラーレン誘導体としては、フラーレン骨格上に本発明の5重付加部分構造を1つ有する、一般式Ci(R205(R10)で表わされる5重付加フラーレン誘導体が、製造が容易であるため好ましい。
【0051】
なお、本発明のフラーレン誘導体において、上記式(I)の部分構造は、フラーレン骨格の閉殻構造の内側から観察される構造であってもよく、外側から観察される構造であってもよい。言い換えれば、あるフラーレン誘導体を、そのフラーレン骨格の閉殻構造の内側又は外側から観察した場合に、本発明の3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造が少なくとも1つ存在すれば、本発明のフラーレン誘導体に該当するものとする。
【0052】
[1−2.フラーレン誘導体の性質]
本発明のフラーレン誘導体は、エステル溶媒に可溶、即ち、エステル溶媒に対する溶解性が高い。
なお、本明細書において、フラーレン誘導体が「エステル溶媒に可溶」であるとは、フラーレン誘導体をエステル溶媒に混合し、超音波照射を10分かけた後、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことを意味する。具体的には、25℃、常圧下において、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(即ち、PGMEA)又は乳酸エチルの何れかのエステル溶媒に対して、エステル溶媒の単位体積(1mL)あたり、フラーレン誘導体が10mg以上溶解する場合には、そのフラーレン誘導体はエステル溶媒に対して可溶、即ち、エステル溶媒に対する溶解性が高いと判断する。
【0053】
本発明のフラーレン誘導体をエステル溶媒に溶解させて用いる場合、エステル溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されない。エステル溶媒の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;γ―ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類等が挙げられる。
【0054】
中でも、直鎖状のエステル類やエーテルエステル類が好ましく、具体的にはプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(即ち、PGMEA)、乳酸エチルが好ましい。
なお、エステル溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても構わない。
【0055】
これらのエステル溶媒は、DVD、CD等の光ディスク材料の製造、半導体集積回路の作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路の作製、液晶画面製造用レジスト材料用等の溶媒として一般的に使用されているエステル溶媒である。また、前記のエステル溶媒は、特に、従来開発されているKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、EUV(極端紫外光)やEB(電子ビーム)などの光源短波長化に適応したフォトレジスト、反射防止膜の機能を有した下層膜材料としてのフォトレジスト、ナノインプリント及び層間絶縁膜用として好適に用いられる溶媒である。
【0056】
したがって、前記のエステル溶媒に可溶であること、即ち、前記のエステル溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、上記のような産業上広く使用されている溶媒に溶解することが可能であることを示している。また、フラーレン誘導体が前記のエステル溶媒に溶解する場合、そのフラーレン誘導体は同様に他の有機溶媒に可溶である場合が多い。したがって、本発明のフラーレン誘導体のエステル溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、例えば、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池等の有機太陽電池;有機トランジスタ・ダイオード、有機電界発光素子(有機EL素子)、非線形光学材等の有機デバイス全般;樹脂添加剤;潤滑剤;絶縁膜;Li2次電池、燃料電池、キャパシター等の電池における電池基材及びその添加剤、表面修飾等のコーティング材、その他セパレータ等の部材を構成する材料及び添加剤;金属、セラミクス等への添加剤;固体潤滑剤及び潤滑油添加剤等の摺動用途への添加剤;触媒;塗料;インク;医薬;化粧品;診断薬など、多方面での産業分野に適用可能であることを示している。
【0057】
また、上述のエステル溶媒に対するフラーレン誘導体の好ましい溶解度の値は、フラーレン誘導体の用途によって異なる。例えば、半導体集積回路作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路作製及び液晶画面製造用レジスト材料用途の塗膜を本発明のフラーレン誘導体を用いて形成するためには、本発明のフラーレン誘導体はエステル溶媒に対して、通常10mg/mL以上、好ましくは50mg/mL以上、より好ましくは100mg/mL以上の溶解度を有することが望ましい。
【0058】
本発明のフラーレン誘導体がエステル溶媒に対する高い溶解性を有する理由は定かでは無いが、本発明者が推察するところによると、R20のフェノール基が有する水酸基の酸性度に加え、フェノール基上に置換基が導入されることによって、近隣のフラーレン誘導体との分子相互作用が低下するためであると考えられる。
【0059】
ところで、本発明のフラーレン誘導体は、そのエステル溶液を用いて製膜した場合に、当該膜が特定の吸収スペクトルを有する。このように、上記溶解性に加えて、膜状態での特定の吸収スペクトルを有することで、本発明のフラーレン誘導体は、製造装置で使われる光源波長や装置に対して、全体として効率的な製造を実現する設計が可能になる。更に、液浸装置や洗浄装置においては、特定の接触角を有することで処理効果や液混合・拡散を防止する設計が可能になる。これら特定吸収スペクトルは、その他に光学フィルター等の光学部品等に、また、特定接触角は、塗布による保護膜等への応用が可能である。
【0060】
また、本発明のフラーレン誘導体は、通常、アルカリ溶媒に可溶、即ち、アルカリ溶媒に対する溶解性が高い。
なお、本明細書において、フラーレン誘導体が「アルカリ溶媒に可溶」であるとは、フラーレン誘導体をアルカリ溶媒に混合し、超音波照射を10分かけた後、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことを意味する。具体的には、25℃、常圧下において、水酸化ナトリウム水溶液に対して、水酸化ナトリウム水溶液の単位体積(1mL)あたり、フラーレン誘導体が50mg以上溶解する場合には、そのフラーレン誘導体はアルカリ溶媒に対して可溶、即ち、アルカリ溶媒に対する溶解性が高いと判断する。
【0061】
本発明のフラーレン誘導体をアルカリ溶媒に溶解させて用いる場合、アルカリ溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されない。アルカリ溶媒の例としては、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、メチルジエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)−7−ウンデセン、ジメチルエタノールアミン等のアルカリ有機溶媒や、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等のアルカリ水溶液等が挙げられる。また、アルカリ水溶液の場合、その溶質の濃度は任意である。
【0062】
中でも、アルカリ溶媒としては、アルカリ水溶液が好ましく、製品への金属混入を避けることが望ましい用途に関しては、非金属系のアルカリ水溶液であるアンモニア水溶液やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等の水溶液が好ましい。
なお、これらのアルカリ溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても構わない。
【0063】
また、上述のアルカリ溶媒に対するフラーレン誘導体の好ましい溶解度の値は、フラーレン誘導体の用途によって異なるが、アルカリ溶媒に対して、通常50mg/mL以上、好ましくは100mg/mL以上の溶解度を有することが望ましい。
【0064】
本発明のフラーレン誘導体がアルカリ溶媒に対する高い溶解性を有する理由は定かではないが、本発明者が推察するところによると、フェノール性の水酸基を含む基であるR20が3個以上、局所的且つ位置選択的にフラーレン骨格に結合していることにより、疎水性のフラーレン骨格を有していながらアルカリ溶媒に対する親和性が上がっているためと考えられる。
【0065】
また、本発明のフラーレン誘導体は、フェノール基を修飾する等の更なる反応を行なう際に水酸基の数が少ないため、修飾基の数と位置の制御が比較的容易である。
【0066】
また、本発明のフラーレン誘導体は、熱的安定性が非常に高い。これは、本発明のフラーレン誘導体がフラーレン骨格のπ電子共役を大量に保持しているうえ、炭素―炭素結合で置換基が結合しているためである。本発明のフラーレン誘導体は、通常の有機物では熱分解が始まる温度においても、分解することなく安定に存在することができる。そのため、通常の有機物では分解して用いることができない耐熱性を要する用途に関しても、本発明のフラーレン誘導体を好適に用いることができる。
【0067】
なお、本発明のフラーレン誘導体の熱安定性に関する評価は、高温による耐熱性試験を行なってもよいし、迅速に測定できるTG−DTA(示差熱熱重量同時測定)を用いて評価してもかまわない。なお、TG−DTAで評価する場合、流通させるガスの種類や量、パンの種類、昇温速度や測定上限温度、サンプル量などは測定したい物性に併せて、任意に選択することができる。
【0068】
[2.フラーレン誘導体の製造方法]
本発明のフラーレン誘導体を製造する方法には制限は無く、任意の方法により製造することができる。
【0069】
従来、C1に水素原子又は置換基が結合した3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を有するフラーレン誘導体の一般的な製造方法は既に確立されていた。具体的には、C1が有機基と結合している場合は、特開2005−15470号公報やChemistry Letters,2004年,p.328に記載されている方法等を参照することができる。また、C1が水素原子が結合している場合は、Nature,419,2002年,p.702−705に記載されている方法を参照することができる。さらに、C1がハロゲン原子が結合している場合は、特開2002−241389号公報に記載されている方法を参照することができる。本発明のフラーレン誘導体も上記文献記載の方法で製造することは可能であり、その場合の反応温度、溶媒の種類、試薬の配合順序、反応時間等の諸条件としては、上記文献記載の条件を採用することが可能である。
【0070】
中でも、本発明のフラーレン誘導体は、以下に例示する製造方法により製造することが好ましい。ただし、以下に例示する製造方法は本発明のフラーレン誘導体の製造方法の一例であり、本発明のフラーレン誘導体の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
【0071】
本発明の製造方法においては、フラーレン、遷移金属、グリニャール試薬(Grignrad試薬)、及び、R10を導入し得る原料(以下適宜、「R10導入剤」という)を用意し、これらを反応させて、本発明のフラーレン誘導体を得る。この際、通常は反応溶媒を用い、当該反応溶媒中で反応を進行させる。
【0072】
[2−1.フラーレン]
フラーレンとしては、上記[1.フラーレン誘導体]の欄でフラーレンの具体例として挙げた各種のフラーレンを用いることができる。なお、フラーレンは何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0073】
[2−2.遷移金属]
本発明の製造方法では、反応系に少なくとも一種の遷移金属を存在させる。遷移金属の種類は制限されないが、長周期型周期表の第10族及び第11族に属する金属から選択される遷移金属であることが好ましく、中でも反応性の観点から、第11族金属である銅金属が特に好ましい。
なお、反応系に存在させる遷移金属としては、何れか一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0074】
また、これらの遷移金属としては、反応が進行すれば、遷移金属の単体を使用してもよく、遷移金属の錯体を使用してもよく、その遷移金属を含有する金属化合物(遷移金属化合物)を使用しても良い。
前記の遷移金属、遷移金属錯体及び金属化合物の例としては、臭化銅ジメチルスルフィド錯体、臭化銅ジブチルスルフィド錯体、ヨウ化銅ジメチルスルフィド錯体、ヨウ化銅ジブチルスルフィド錯体、塩化銅ジメチルスルフィド錯体、塩化銅ジブチルスルフィド錯体、シアン化銅、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、有機銅−ホスフィン錯体、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、フッ化金、塩化金、ヨウ化金、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金、ニッケルシクロオクタジエン錯体、パラジウムシクロオクタジエン錯体、白金シクロオクタジエン錯体、ニッケル−ホスフィン錯体、パラジウム−ホスフィン錯体、白金−ホスフィン錯体等が挙げられる。中でも、反応性の観点から11族金属でかつ1価の金属化合物及び金属錯体である臭化銅、臭化銅ジメチルスルフィド錯体が好ましい。
なお、遷移金属の単体、錯体及び金属化合物は、何れか一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
反応系中の遷移金属の含有量は、前記の反応が進行する限り任意であるが、フラーレンに対する比率で、通常4倍モル以上、好ましくは6倍モル以上、また、通常32倍モル以下、好ましくは16倍モル以下とすることが望ましい。遷移金属の含有量が多過ぎると製造上コストが増大するうえ、フラーレン誘導体との分離が困難となる場合があり、少な過ぎると反応が完結しない場合がある。なお、二種以上の遷移金属を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0076】
[2−3.グリニャール試薬]
本発明の製造方法では、反応系に少なくとも一種のグリニャール試薬を存在させる。上記の特許文献や非特許文献に記載されている手法に従って、反応系にグリニャール試薬を共存させることにより、フラーレン骨格にR20を付加することができる。
【0077】
これらのグリニャール試薬の配合時期は目的とするフラーレン誘導体が得られる限り制限は無い。ただし、本発明の製造方法では、R10を導入する前に、式(I)の部分構造のC6〜C8やC6〜C10に式(II)で表わされる構造の有機基(R20)を付加する反応を行なうことが望ましい。このため、通常、R10導入剤を作用させる反応の前に、グリニャール試薬を反応系に導入するようにする。
【0078】
グリニャール試薬としては、例えば、R20−MX’で表わされる化合物を使用することができる。
ここで、R20については上述の通りであり、目的とする本発明のフラーレン誘導体の構造に応じて選択すればよい。
また、Mは、金属元素を表わす。Mの例としては、Mg、Zn、Hg、Li等が挙げられるが、Mg(マグネシウム原子)が好ましい。
また、X’は、ハロゲン原子を表わす。X’の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
【0079】
また、上述のR20−MX’において、R20が有する水酸基には、通常、保護基を導入しておき、その保護基を導入した化合物をグリニャール試薬として使用することが望ましい。R20が有する水酸基に導入される保護基の例としては、メチル基、テトラヒドロピラニル基、シリル基等が挙げられる。なお、保護基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、保護基の導入方法は保護基によって異なる。例えば、保護基がテトラヒドロピラニル基である場合は、弱酸存在下でジヒドロピランを作用させる等の手法が挙げられる。
【0080】
なお、グリニャール試薬は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0081】
上述のグリニャール試薬を使用する場合、その使用量は、原料フラーレンに対する比率で、通常4倍モル以上、好ましくは6倍モル以上、また、通常32倍モル以下、好ましくは16倍モル以下とすることが望ましい。グリニャール試薬の使用量が多過ぎると製造上コストが増大するうえ、反応停止に使用するR10導入剤を大量に必要とする場合があり、少な過ぎると反応が完結しない場合がある。
なお、2種以上のグリニャール試薬を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0082】
[2−4.R10導入剤]
10導入剤としては、導入する基(即ち、R10)によって、それぞれ適切なものを使用すればよい。
例えば、R10が水素原子であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格に水素原子を導入することができれば、R10導入剤に他に制限はない。R10導入剤の例を挙げると、塩化アンモニウム水溶液、塩化水素水溶液などの酸性水溶液が挙げられる。また、酸化反応を抑制するためには、上記酸性水溶液の中に酸素が混入しないように、脱気などの酸化反応抑制操作を行なうことが好ましい。
【0083】
また、例えばR10が有機基であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格に当該有機基を導入することができれば、R10導入剤に他に制限はない。R10導入剤の例を挙げると、上述の有機基R10と脱離基Xとが結合した構造の化合物R10−Xを用いることができる。この際、脱離基Xとしては、求核置換反応の脱離基となり得る基であればその種類に制限はないが、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基等のアシロキシ基;メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基;等が挙げられる。中でも、反応性や原料調達の観点から、脱離基Xとしてはハロゲン原子が好ましく、特に臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0084】
さらに、例えばR10がハロゲン原子であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格に当該ハロゲン原子を導入することができれば、R10導入剤に他に制限はない。R10導入剤の例を挙げると、塩素、臭素、ヨウ素、N−ブロモコハク酸イミド、N−クロロコハク酸イミド、N−ヨードコハク酸イミド等のハロゲン化剤等が挙げられる。中でも、反応性の観点からN−ブロモコハク酸イミドが好ましい。
【0085】
なお、R10が有機基であるフラーレン誘導体を製造する場合、及び、R10がハロゲン原子であるフラーレン誘導体を製造する場合には、例えば、遷移金属が存在している系中にR10導入剤を導入しin situで製造する方法を用いてもよく、まずフラーレン骨格のC1に水素原子を導入した後、適切な塩基で処理し、その後上記R10導入剤により所望のR10を導入する方法を用いてもよい。この際、導入するR10によって適切な方法を選択すればよい。塩基を用いる場合は、特開2005−15470号公報に記載されている種類を参照することができる。
【0086】
10導入剤は、何れか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。ただし、単一の化合物を得るためには、何れか1種のみを単独で使用することが好ましい。
なかでも、R10導入剤に関しては、反応の容易さ、生成物の安定性並びにコスト削減の観点から、ヨウ化メチルを単独で用いることが好ましい。
【0087】
10導入剤の使用量は、フラーレンに対して、通常1倍モル以上、好ましくは5倍モル以上、また、通常100倍モル以下、好ましくは50倍モル以下とすることが望ましい。R10導入剤の量が多過ぎると製造コストの点で不利となる場合があり、R10導入剤の量が少な過ぎると反応系中に残存しているグリニャール試薬と反応して、反応が途中で停止し、目的とする化合物(本発明のフラーレン誘導体)が得られなくなる場合がある。なお、R10導入剤を2種以上併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0088】
[2−5.反応溶媒]
本発明の製造方法では、少なくとも上述のフラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR10導入剤を使用すればよいが、更に、反応溶媒を使用してもよい。
反応溶媒を使用する場合、上述のフラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR10導入剤を好適に溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類は任意である。
【0089】
反応溶媒の例を挙げると、オルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン置換芳香族溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル溶媒;ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン等のピリジン溶媒などが挙げられる。中でも、フラーレンを好適に溶解させることができるハロゲン置換芳香族溶媒と、グリニャール試薬を安定に溶解させることができるエーテル溶媒との組み合わせが好ましく、具体的にはODCBとTHFとを組み合わせて用いることが好ましい。
なお、反応溶媒は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0090】
反応溶媒を使用する場合、その使用量は、フラーレンに対する比率で、通常1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、また、通常40mg/mL以下、好ましくは20mg/mL以下とすることが望ましい。反応溶媒の使用量が多過ぎると原料濃度が薄くなり、反応速度が遅くなる場合があり、少な過ぎると原料並びに生成物が溶解できず、反応が完全に進行しない場合がある。
なお、2種以上の反応溶媒を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0091】
[2−6.操作及び反応条件]
上述のフラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR10導入剤、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒等を混合する順序や反応条件は、本発明のフラーレン誘導体が製造できる限り任意である。また、反応系には、反応の進行を阻害しない限り上述したもの以外の成分を含有させても良い。
【0092】
ただし、通常は、反応溶媒中に遷移金属の単体、錯体及び/又は金属化合物が懸濁している状態で、グリニャール試薬を配合した後、フラーレンを配合し、次いでR10導入剤を配合することが好ましい。この手順によれば、R10導入剤を配合する段階で、R20が付加されたフラーレン誘導体と遷移金属とが錯体構造を有する中間体を形成していると考えられるので、その段階でR10導入剤を加えることが効果的である。
なお、C60誘導体及び/又はC70誘導体と銅金属とで形成される中間体に関しては、「季刊・化学総説43 炭素第三の同素体 フラーレンの化学」169〜170ページに、その推定構造が記載されている。
【0093】
反応時の温度条件は反応が進行する限り制限されないが、一般的には、反応系にR10導入剤を加えた後の反応系の温度を、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは70℃以下とすることが望ましい。
反応時間も制限されないが、一般的には、反応系にR10導入剤を加えた後、通常30分以上、好ましくは2時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは10時間以下に亘って反応させることが望ましい。
【0094】
また、R10導入剤は、通常、フラーレンの転化率が所定の数値以上になった段階で反応系中に加えられるが、生成物の酸化防止のために、窒素バブリングや真空脱気等脱気操作を行なってから反応系に加えることが好ましい。
なお、製造に関する他の操作は、これまで上述の特許文献や非特許文献等で報告されている方法を採用することが出来る。
【0095】
また、上述の反応において、グリニャール試薬としてR20の水酸基に保護基が導入された化合物を用いた場合、反応により生成する本発明のフラーレン誘導体は、R20の水酸基に保護基が導入された状態となっている(これを以下適宜「水酸基保護フラーレン誘導体」という場合がある)。よって、この場合は、得られた水酸基保護フラーレン誘導体に対し、保護基の種類に対応した脱保護剤を作用させ、保護基を脱離させる(この反応を「脱保護反応」という場合がある。)ことで、目的とする本発明のフラーレン誘導体を製造することができる。この際、脱保護剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0096】
例えば、保護基がメチル基である場合、脱保護剤の例としては、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、三塩化アルミニウム、トリメチルシリルヨージド等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、三臭化ホウ素、トリメチルシリルヨージドが好ましい。なお、これらの脱保護剤の取扱が困難な場合は、in situで発生させる方法を用いても構わない。
これらの脱保護剤の使用量は前記の保護基を脱離させることができる限り任意であるが、対応する保護基(メチル基)に対する割合で、通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、より好ましくは1.4倍モル以上、また、通常10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、より好ましくは3倍モル以下とすることが望ましい。脱保護剤の使用量が多過ぎると、製造コストの点で不利となる場合があり、脱保護剤の使用量が少な過ぎると、反応が完結しない場合がある。なお、脱保護剤を2種以上併用する場合、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0097】
また、例えば保護基がテトラヒドロピラニル基である場合、脱保護剤の例としては、パラトルエンスルホン酸、メタトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸等の酸性物質などが挙げられる。中でも、反応性の観点から、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸が好ましい。
これらの脱保護剤の使用量は前記の保護基を脱離させることができる限り任意であるが、対応する保護基(テトラヒドロピラニル基)に対する割合で、通常0.01倍モル以上、好ましくは0.03倍モル以上、また、通常2倍モル以下、好ましくは1倍モル以下とすることが望ましい。脱保護剤の使用量が多過ぎると、製造コストの点で不利となったり、得られるフラーレン誘導体へのコンタミ影響が大きくなったりする場合があり、脱保護剤の使用量が少な過ぎると、反応時間が長くなる場合がある。なお、脱保護剤を2種以上併用する場合、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0098】
上記の脱保護反応は、通常、水酸基保護フラーレン誘導体を有機溶媒に溶解又は懸濁させた状態で行なう。反応に使用する有機溶媒は、脱保護反応を阻害したり、好ましからぬ反応を生じるものでない限り、任意に選択して構わない。有機溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン等のハロゲン系炭化水素;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;等が挙げられる。これらの有機溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0099】
水酸基保護フラーレン誘導体に対して使用する有機溶媒の量は任意であるが、有機溶媒中における水酸基保護フラーレン誘導体の濃度が、通常1mg/mL以上、好ましくは10mg/mL以上、より好ましくは15mg/mL以上、また、通常1000mg/mL以下、好ましくは500mg/mL以下、より好ましくは100mg/mL以下となるようにすることが望ましい。
【0100】
また、何れの脱保護反応に関しても、反応が進行すれば、水酸基保護フラーレン誘導体、脱保護剤、有機溶媒等の混合順序は問わない。さらに、脱保護反応が進行すれば、反応条件も任意である。
ただし、その温度条件は、脱保護反応の種類によって大きく異なるが、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常180℃以下、好ましくは120℃以下とすることが望ましい。
また、反応時間は、通常30分以上、好ましくは2時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは10時間以下とすることが望ましい。
【0101】
反応終了後、通常は、生成した本発明のフラーレン誘導体を反応液から常法により単離する。単離操作は、各反応の種類によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液にイオン交換水や亜硫酸水溶液等を加えて反応を停止させ、そのまま適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去することにより、生成物を単離することができる。
【0102】
得られた本発明のフラーレン誘導体は、必要に応じて適宜、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、再結晶等の手法で精製してもよい。単離収率は、上述の好ましい反応条件で行なえば、通常60%以上、好ましくは80%以上である。
【0103】
なお、本発明のフラーレン誘導体は、通常、プロトン核磁気共鳴スペクトル法(以下適宜「1H−NMR」という場合がある。)、カーボン核磁気共鳴スペクトル法(以下適宜「13C−NMR」という場合がある。)、赤外線吸収スペクトル法(以下適宜、「IR」という場合がある。)、質量分析法(以下適宜「MS」という場合がある。)、元素分析等の一般的な有機分析により、その構造を確認することができる。この他、フラーレン誘導体の結晶性がよい場合は、X線結晶回折法によって構造を確認できる場合もある。
【0104】
[3.フラーレン誘導体溶液]
本発明のフラーレン誘導体は、適切な溶媒に溶解させて溶液とすることにより、上記記載の様々な用途に用いることができる。以下、本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させた本発明のフラーレン誘導体溶液を、適宜「本発明の溶液」という。
【0105】
本発明の溶液における溶媒の種類は任意であるが、好ましい例としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、これまで公知になっている任意の有機溶媒を用いることができる。中でも、本発明のフラーレン誘導体は水酸基を有することから極性有機溶媒に対して高い溶解性を示すので、本発明の溶液の溶媒としても極性有機溶媒を使用することが好ましい。
【0106】
極性有機溶媒の種類は制限されないが、例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類(エステル溶媒);テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のエーテルアルコール類;前記エーテルアルコール類と酢酸等の酸とのエステル化合物であるエーテルエステル類(エステル溶媒);N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
中でも、工業的な用途で用いられることが多い観点で、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン類やエステル溶媒を使用することが好ましく、特に、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)、乳酸エチル等の高沸点エステル溶媒を用いることが好ましい。
【0107】
また、本発明の溶液における溶媒として、アルカリ溶媒も好ましく用いられる。アルカリ溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されないが、例としては、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、メチルジエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)−7−ウンデセン、ジメチルエタノールアミン等のアルカリ有機溶媒;水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等のアルカリ水溶液などが挙げられる。なお、アルカリ水溶液の場合、その溶質の濃度は任意である。
【0108】
本発明の溶液において、溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。したがって、前記の極性有機溶媒及びアルカリ溶媒は、いずれも、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、両者を併用してもよい。
【0109】
さらに、本発明の溶液における本発明のフラーレン誘導体と溶媒との比率は任意である。
また、本発明の溶液において、本発明のフラーレン誘導体は溶媒に完全溶解していることが好ましいが、一部溶解できずに懸濁していてもよく、或いは沈殿していても構わない。
【0110】
本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、本発明の溶液は、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒に加えて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は1種のみを含有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
【0111】
本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させることができれば、本発明の溶液の調製方法に制限はないが、通常、所定の装置で攪拌しながら溶解させる手法、超音波を照射する手法などで調製できる。また、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒、並びに必要に応じて用いられるその他の成分の混合順序も、特に制限はない。
【0112】
本発明の溶液は、安定性や操作性の観点から通常25℃程度で調製されるが、溶媒の沸点以下であれば、加熱しながら溶解させ、保管することができる。また、本発明のフラーレン誘導体が析出する可能性があるが、25℃以下の低温下で調製、保管することもできる。
【0113】
[4.フラーレン誘導体膜]
本発明のフラーレン誘導体は、上述した溶媒、特にエステル溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒等の有機溶媒に高溶解性を示すため、上記フラーレン誘導体溶液を塗布し、乾燥することでフラーレン誘導体を含む膜(以下適宜、「フラーレン誘導体膜」という)を製造することができる。この際用いるフラーレン誘導体溶液には、フラーレン誘導体及び溶媒のほか、本発明のフラーレン誘導体が有する優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、他の任意の化合物が含有されていてもかまわない。
【0114】
塗布方法は任意であるが、例えば、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法などを用いることができる。
また、塗布する対象に制限は無いが、通常は基板に塗布される。その基板にも制限はなく、例えば、有機被膜、シリコン基板、ポリシリコン膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜などのシリコン被膜、金属配線などの無機被膜などが挙げられる。
【0115】
形成した塗布膜の乾燥方法に制限は無いが、通常は加熱乾燥を行なう。具体的な加熱乾燥処理の内容は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は、80〜300℃で10秒から300秒の範囲で加熱を行なうことが好ましい。本発明のフラーレン誘導体は通常の有機化合物に比べて熱安定性に優れるため、熱分解することなく安定な膜を形成することができる。また、加熱は大気下や、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0116】
本発明のフラーレン誘導体膜における膜厚は、用途によって大きく異なり一律に限定することはできないが、通常10nm以上、好ましくは30nm以上であり、また、通常1,000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0117】
本発明のフラーレン誘導体膜は、通常は均一な膜となる。また、本発明のフラーレン誘導体膜は、分光エリプソメーターなどで屈折率(n値)及び消衰係数(k値)を測定することができる。また、これらの測定値を用い、本発明のフラーレン誘導体膜の誘電率や反射率を計算することができる。これらの光学定数は、そのフラーレン誘導体膜の用途によって求められる数値が大きく異なっている。さらに、前記の光学特性は、同じ用途でも、プロセスの種類や、フラーレン誘導体膜に含有される他の成分の種類や量によっても、求められる数値が大きく異なっている。よって、本発明のフラーレン誘導体膜が有する優れた物性を効果的に活用できる用途に用いることが好ましい。なかでも、本発明のフラーレン誘導体膜は、その成分であるフラーレン誘導体が、フラーレン骨格のπ電子共役を大量に保持しているうえ、置換基としてフェニル環が導入されているため、高エッチング耐性が期待できることから、フォトレジスト用途に好適に用いられる。
【0118】
[5.フラーレン誘導体、フラーレン誘導体溶液及びフラーレン誘導体膜の用途]
本発明のフラーレン誘導体、本発明の溶液及び本発明のフラーレン誘導体膜は、前述した用途に用いることができる。以下に、いくつかの用途の例に関して具体的に説明するが、本発明のフラーレン誘導体の機能が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
【0119】
[5−1.フォトレジスト用途]
従来、フォトレジストは、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系またはノボラック系の樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤や感光剤とを組み合わせた組成物が広く用いられている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、フォトレジストに使用される有機溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、フラーレン誘導体単独でもレジスト膜を形成することが可能である。
【0120】
このように本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をフォトレジストの分野に用いた場合、フラーレン骨格を有する事により、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現ができる。また、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いて形成したレジスト膜は、吸収スペクトルから明らかなように反射防止膜としての機能も有するので、多層膜の一層としても優れた機能を発揮することが期待される。
【0121】
[5−2.半導体製造用途]
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
【0122】
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行なう方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行なう方法;などが知られている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記熱可塑性重合体や硬化性物質に使用される有機溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、上記熱可塑性重合体に高濃度で充填することが可能である。
【0123】
このように本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いた場合、有機溶媒に対する本発明のフラーレン誘導体の溶解性が高いことから、本発明のフラーレン誘導体の熱可塑性重合体中での凝集が抑制され、分子状分散となる。このため、高解像度を実現することが可能である。さらに、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能であることから、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0124】
[5−3.低誘電率絶縁材料用途]
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来のより高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、かつ信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記用途に使用される有機溶媒への溶解度が高いことより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度で他の材料と複合化することが可能である。また、フラーレン誘導体単独で成膜することも可能である。この際、本発明のフラーレン誘導体は、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、複合化して用いる際にはフィラーとしての機械的強度の向上効果を有することができ、これにより、従来にない優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
【0125】
[5−4.太陽電池用途]
有機太陽電池への応用も可能である。この分野においては、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるもののエネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を克服するためのものとして、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン並びにフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれとが分子レベルで混じり合い、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
【0126】
本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される有機溶媒への溶解度が高いため、p型半導体と効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のフラーレン誘導体は、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質は保持している。これらのことにより、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いれば、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。
さらにこの高溶解性を利用し、本発明のフラーレン誘導体は、導電性高分子等を含有した電子供与体層との層分離制御や、誘導体分子の整列配向性・細密充填性などのモルフォロジー制御などを可能にし、これにより特性の向上が実現できる上、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、本発明のフラーレン誘導体を用いれば、製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
【0127】
[5−5.半導体用途]
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的にフラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される有機溶媒への溶解度が高いことにより、塗布による成膜が容易であり、また、n型半導体としてのフラーレンの本質的な性質は保持している。これにより、本発明のフラーレン誘導体は、低コスト、高性能な有機半導体として期待できる。
【0128】
[5−6:原料中間体としての用途]
本発明のフラーレン誘導体を出発原料として、その水酸基に特定の有機基(保護基)を導入する工程を経て、新たな機能を有するフラーレン誘導体を製造することができる。以下、その有機基の導入方法に関して代表例を記すが、以下の例に限定されるものではない。
【0129】
具体的な有機基の導入方法は、導入する有機基の種類に応じて様々である。その例を挙げると、以下のようなものが挙げられる。
(1)本発明の水酸基含有フラーレン誘導体をエステル化剤と反応させて、エステル化する。
(2)本発明の水酸基含有フラーレン誘導体をカーボネート化剤と反応させて、カーボネート化する。
(3)本発明の水酸基含有フラーレン誘導体をエーテル化剤と反応させて、エーテル化する。
(4)本発明の水酸基含有フラーレン誘導体をウレタン化剤と反応させて、ウレタン化する。
【0130】
上記(1)〜(4)の方法をはじめとして、本発明のフラーレン誘導体に有機基を導入する条件は、特開2006−56878号公報他既存の方法を参照することができる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。なお、本明細書の記載において、THPはテトラヒドロピラニル基を表わし、THFはテトラヒドロフランを表わし、ODCBはオルトジクロロベンゼンを表わし、DMSOはジメチルスルホキシドを表わす。さらに、Meはメチル基を表わし、tBuはt−ブチル基を表わし、Phはフェニル基を表わす。
【0132】
[実施例1:C60(3−F−4−OH−C635(−CH3)の製造]
臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(12.96g、63.0mmol)のTHF懸濁液(112mL)を5℃まで冷却した後、3−F−4−OMe−C63MgBr/THF溶液(1mol/L;68mL)を加え、25℃まで昇温した。そこにC60(4.0g、5.56mmol)のODCB溶液(180mL)を加え、9時間攪拌した。MeI(3mL、48mmol)を加えさらに6時間攪拌した。反応液を濾過し、THFを除去した後、トルエンで希釈し、シリカカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン)を行なった。溶液を濃縮し、メタノール(700mL)、ヘキサン(300mL)で晶析を行ない、50℃で真空乾燥を行なうことで、C60(3−F−4−OMe−C635(−CH3)をオレンジ色固体(6.60g、4.85mmol、収率87.3%)の生成物として得た。
【0133】
次に、C60(3−F−4−OMe−C635(−CH3)(3.00g、2.21mmol)のオルトジクロロベンゼン溶液(126mL)を調製し、5℃まで冷却したのち、BBr3−塩化メチレン溶液(1.0mol/L、16.8mL)を加え、25℃まで昇温した。室温下で10時間攪拌したあと、イオン交換水(40mL)で反応を停止させ、酢酸エチル(100mL)を加え、分液漏斗にて抽出した。有機層をイオン交換水で2回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行なった。溶液を濃縮しヘキサン(300mL)で晶析を行ない、50℃真空乾燥を3時間行なうことで、表題化合物C60(3−F−4−OH−C635(−CH3)をオレンジ色固体(2.13g、1.65mmol、収率74.8%)の生成物として得た。
【0134】
得られた生成物を1H−NMR及びHPLCにて測定した。なお、1H−NMRはDMSO−d6を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、0.5mg/mLのメタノール溶液を調製し、以下の測定条件で測定した。
【0135】
カラム種類:ODS
カラムサイズ:150mm×4.6mmφ
溶離液:トルエン/メタノール=3/7
検出器:UV290nm
【0136】
HPLC測定の結果、リテンションタイム2.86minに、97.5(Area%)で観測された。
【0137】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
10.15ppm(brs,OH,4H),10.03ppm(s,OH,1H),7.45ppm(m,Ph,5H),7.02ppm(m,Ph,6H),6.75ppm(m,Ph,4H),1.48ppm(s,C60Me,3H)
【0138】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(3−F−4−OH−C635(−CH3)であることが確認された。
【0139】
更に、得られた生成物を、25℃、常圧下において、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)に溶解させ、溶解度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0140】
[実施例2:C60(3−Me−4−OH−C635(−CH3)の製造]
臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(12.96g、63.0mmol)のTHF懸濁液(112mL)を5℃まで冷却した後、3−Me−4−OMe−C63MgBr/THF溶液(1mol/L;68mL)を加え、25℃まで昇温した。そこにC60(4.0g、5.56mmol)のODCB溶液(180mL)を加え、5時間攪拌した。そこに、MeI(5mL、80mmol)を加えさらに12時間攪拌した。反応液を濾過し、THFを除去した後、トルエンで希釈し、シリカカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン)を行なった。溶液を濃縮し、メタノール(800mL)で晶析を行ない、50℃で真空乾燥を行なうことで、C60(3−Me−4−OMe−C635(−CH3)をオレンジ色固体(6.55g、4.89mmol、収率88.0%)の生成物として得た。
【0141】
次に、C60(3−Me−4−OMe−C635(−CH3)(1.0g、0.75mmol)のオルトジクロロベンゼン溶液(42mL)を調製し、5℃まで冷却したのち、BBr3−塩化メチレン溶液(1.0mol/L、5.6mL)を加え、25℃まで昇温した。室温下で12時間攪拌したあと、イオン交換水(15mL)で反応を停止させ、酢酸エチル(30mL)を加え、分液漏斗にて抽出した。有機層をイオン交換水で2回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行なった。溶液を濃縮しヘキサン(300mL)で晶析を行ない、50℃真空乾燥を3時間行なうことで、表題化合物C60(3−Me−4−OH−C635(−CH3)をオレンジ色固体(0.81g、0.64mmol、収率85.3%)の生成物として得た。
【0142】
実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0143】
HPLC測定の結果、リテンションタイム2.47minに97.0(Area%)で観測された。
【0144】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
9.50ppm(brs,OH,3H),9.45ppm(s,OH,1H),9.37ppm(s,OH,1H),7.51〜7.37ppm(m,Ph,8H),6.96〜6.74ppm(m,Ph,6H),6.54ppm(d,Ph,1H),2.05ppm(brs,PhMe,12H),1.99ppm(s,PhMe,3H),1.83ppm(s,C60Me,3H)
【0145】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(3−Me−4−OH−C635(−CH3)であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0146】
さらに得られたフラーレン誘導体のPGMEA溶液を調製し(5重量%)、アドバンテック製0.2μmのフッ素樹脂製のフィルターで濾過することによって塗布液を調製した。当該溶液をシリコン基板上に塗布して、回転速度500rpmで10秒間、その後1500rpmで40秒間回転させた。その後、コンタクトベーク100℃、1分間で乾燥させ、膜厚80nmの薄膜を形成した。この時点で目視により、その鏡面状態より膜塗布性を評価した。
【0147】
これをJ.A.ウーラム社の入射角度可変の分光エリプソメーター(M−2000)で波長193〜1680nmにおける屈折率(n値)、消衰係数(k値)を求めた。また、これらにより誘電率(実数部のみ記載)、入射角45度の反射率(193nmデータは195nmデータで記載。単位は0〜1の絶対値表示)を計算で求めた。その結果を表3に示す。また屈折率、消衰係数の波長スペクトルは図1に示す。
【0148】
更に得られた生成物のTG−DTAを測定した。その結果を図2に示す。なお、以下の条件で測定した。
【0149】
サンプル質量:5.040mg
ガス流量:窒素ガス、200mL/min
パン:Pt
昇温速度:10℃/min
測定温度:30〜900℃
【0150】
更に得られたフラーレン誘導体のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)溶液を調整し(5重量%)、1時間もしくは未溶解のものが無くなるまで攪拌した後、0.2μmのPTFEフィルターでろ過した。次に、30mmφ(厚さ2mm)の石英基板(円盤状)に上記溶液をスピンコートした(回転数は、最初500rpmで10sec、続いて3000rpmで40sec)。その後、減圧乾燥機にて、40℃で2時間かけて溶媒除去・乾燥させた。
これにより製膜したフラーレン誘導体薄膜の膜厚を測定し補正に使用するため、一部をアセトンにて剥離させ、剥離部分と健全部の段差を段差計(テンコール社製、alfa step500)にて測定した。次に、膜が形成された石英板を、可視・紫外分光光度計(島津社製、UV−17010)にて、190nm〜1500nmの領域をダブルビーム方式、光源はハロゲンランプと重水素ランプの切替方式、検出器はシリコンフォトダイオードにて測定した。そのデータを測定した膜厚を使って、50nm膜厚の吸光データへ補正した。その結果を図3に示す。
【0151】
更に得られたフラーレン誘導体のPGME溶液を調整し(5重量%)、1時間もしくは未溶解のものが無くなるまで攪拌した後、0.2μmのPTFEフィルターでろ過した。次に、4インチのSiウェハーに上記溶液をスピンコートした(回転数は、最初500rpmで10sec、続いて1500rpmで40sec)。その後、ホットプレートにて、100℃で60秒のコンタクトベークによる膜を形成させた。その膜上に超純水を滴下し、接触角計(協和界面科学社製CA−X150型)にて接触角を測定した。また、比較のため、4インチのSiウェハーの接触角も同様に測定した。その結果を表4に示す。尚、測定は滴下1分後の条件で繰り返し2測定を行い、その平均値で評価した。
【0152】
[実施例3:C60(2―Me−4−OH−C635(−CH3)の製造]
臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(12.96g、63.0mmol)のTHF懸濁液(112mL)を5℃まで冷却した後、2−Me−4−OMe−C63MgBr/THF溶液(1mol/L;68mL)を加え、25℃まで昇温した。そこにC60(4.0g、5.56mmol)のODCB溶液(180mL)を加え、8時間攪拌した。そこに、MeI(5mL、80mmol)を加え、更に12時間攪拌した。反応液を濾過し、THFを除去した後、トルエンで希釈し、シリカカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン)を行なった。溶媒を濃縮し、メタノール(800mL)で晶析を行ない、50℃で真空乾燥を行なうことで、C60(2―Me−4−OMe−C635(−CH3)をオレンジ色固体(6.24g、4.66mmol、収率83.8%)の生成物として得た。
【0153】
次に、C60(2―Me−4−OMe−C635(−CH3)(2.15g、1.60mmol)のオルトジクロロベンゼン溶液(84mL)を調製し、5℃まで冷却したのち、BBr3−塩化メチレン溶液(1.0mol/L、10.8mL)を加え、25℃まで昇温した。室温下で12時間攪拌したあと、イオン交換水(50mL)で反応を停止させ、酢酸エチル(100mL)を加え、分液漏斗にて抽出した。有機層をイオン交換水で2回洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行なった。溶液を濃縮しヘキサン(500mL)で晶析を行ない、50℃真空乾燥を3時間行なうことで、表題化合物C60(2―Me−4−OH−C635(−CH3)をオレンジ色固体(1.64g、1.29mmol、収率80.7%)の生成物として得た。
【0154】
実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)
にて測定した。
【0155】
HPLC測定の結果、リテンションタイム2.55minに、92.0(Area%)で観測された。
【0156】
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
9.51ppm(s,OH,2H),9.46ppm(s,OH,1H),9.44ppm(s,OH,1H)9.34ppm(s,OH,1H),8.20ppm(d,Ph,2H),7.87ppm(d,Ph,1H),7.80ppm(d,Ph,1H),6.93ppm(d,Ph,4H),6.72ppm(d,Ph,1H),6.61ppm(d,Ph,1H),6.45ppm(m,Ph,4H),6.20ppm(d,Ph,1H),2.62ppm(s,PhMe,3H),2.49ppm(s,PhMe,3H),2.44ppm(s,PhMe,3H),2.42ppm(s,PhMe,3H),2.00ppm(s,PhMe,3H),1.90ppm(s,C60Me,3H)
【0157】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(2―Me−4−OH−C635(−CH3)であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0158】
[実施例4:C60(3,5−Me2−4−OH−C625(−CH3)の製造]
臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(12.96g、63.0mmol)のTHF懸濁液(112mL)を5℃まで冷却した後、3,5−Me2−4−OTHP−C62MgBr/THF溶液(1mol/L;68mL)を加え、25℃まで昇温した。そこにC60(4.0g、5.56mmol)のODCB溶液(180mL)を加え、10時間攪拌した。そこに、MeI(5mL、80mmol)を加えさらに6時間攪拌した。反応液を濾過し、THFを除去した後、トルエンで希釈し、アルミナカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン)を行なった。溶媒を濃縮し、MeOH(600mL)、ヘキサン(300mL)で晶析を行ない、50℃で真空乾燥を行なうことで、C60(3,5−Me2−4−OTHP−C625(−CH3)をオレンジ色固体(7.89g、4.48mmol、収率80.6%)の生成物として得た。
【0159】
次に、C60(3,5−Me2−4−OTHP−C625(−CH3)(3.00g、1.70mmol)の塩化メチレン(37.5mL)、メタノール(37.5mL)混合溶液を調製し、メタンスルホン酸(16.5μL)を加え、室温下で8時間攪拌した。反応液を塩化メチレン(30mL)で希釈したあと、ヘキサン(200mL)で晶析を行なった。その後、50℃真空乾燥を3時間行なうことで、表題化合物C60(3,5−Me2−4−OH−C625(−CH3)をオレンジ色固体(1.91g、1.42mmol、収率83.5%)の生成物として得た。
【0160】
実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMR(400MHz)にて測定した。
【0161】
HPLC測定の結果、リテンションタイム2.75minに93.5(Area%)で観測された。
【0162】
また、1H−NMRの測定結果は、以下のとおりであった。
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
8.42ppm(s,OH,2H),8.37ppm(s,OH,2H),8.29ppm(s,OH,1H),7.33ppm(s,Ph,4H),7.31ppm(s,Ph,4H),6.88ppm(s,Ph,2H),2.11ppm(s,PhMe,12H),2.06ppm(s,PhMe,12H),1.92ppm(s,PhMe,6H),1.35ppm(s,C60Me,3H)
【0163】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(3,5−Me2−4−OH−C625(−CH3)であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0164】
[比較例1:C60(4−OH−C645(CH3)の製造]
Nature,419,702−705,2002のSupplementaly Information記載の方法で、C60(4−OTHP−C645(H)を合成した。この水素化体に対して、特開2005−15470号明細書(実施例8)に記載の方法(THF溶液で、tBuOKを作用させた後、MeIを添加)でメチル基を導入し、上記Natureの文献に記載の方法で脱保護反応を行ない、上記表題化合物を合成した。
【0165】
HPLC測定サンプルの溶媒をTHFに変え、溶離液をトルエン/メタノール=2/8(V/V)に変更した以外は、実施例1と同様にして、得られた生成物をHPLC及び1H−NMRにて測定した。
【0166】
HPLC測定の結果、リテンションタイム4.11minに99.00(Area%)で観測された。
【0167】
更に、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(DMSO−d6,270MHz)]
9.60ppm(s,OH,4H),9.48ppm(s,OH,1H),7.58ppm(m,Ph,8H),6.96ppm(d,Ph,2H),6.77ppm(m,Ph,8H),6.49ppm(d,Ph,2H),1.47ppm(s,Me,3H)
【0168】
以上の結果から、得られた生成物が表題化合物C60(4−OH−C645(CH3)であることが確認された。
更に、得られた生成物について、実施例1と同様にして、溶解度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0169】
なお、下記表1において、「<1」との表記は、溶解度が1mg/mL未満であることを表わし、「>10」という表記は、溶解度が10mg/mLより大きいことを表わす。
【0170】
【表1】

【0171】
なお、本発明のフラーレン誘導体は、PGMEA以外の溶媒に対しても高い溶解性を示す。一例として、乳酸エチルとメチルエチルケトンに対する溶解性を表2に示す。
【表2】

【0172】
表3に実施例2で製造したフラーレン誘導体膜の光学定数を示す。なお、比較例1の化合物は溶解性が足りず製膜できなかった。
【表3】

【0173】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明のフラーレン誘導体は、任意の分野で使用することが可能である。中でも、本発明のフラーレン誘導体はPGMEA等のエステル溶媒に対して高い溶解性を有し、且つ、低コストで容易に製造可能であるという特徴を有することから、例えば、DVD、CD等の光ディスク材料の製造、半導体集積回路の作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路の作製、液晶画面製造用レジスト材料等の用途に好ましく使用することができる。なかでも、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、EUV(極端紫外光)やEBなどの光源短波長化に適応したフォトレジストや反射防止膜の機能を有した下層膜材料としてのフォトレジスト、ナノインプリント及び層間絶縁膜の用途に特に好ましく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】本発明の実施例2のフラーレン誘導体膜の屈折率及び消衰係数の波長スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の実施例2のフラーレン誘導体のTG−DTAの結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例2のフラーレン誘導体膜の吸光度の波長スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン骨格の下記式(I)で表わされる部分構造において、
1が、水素原子又は任意の置換基と結合しており、
6〜C8が各々独立に、下記式(II)で表わされる構造の有機基と結合している
ことを特徴とする、フラーレン誘導体。
【化1】

(前記式(I)中、C1〜C10は何れも、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【化2】

(前記式(II)中、Rは有機基又は第3周期以前のハロゲン原子を表わし、mは1〜4の整数を表わす。但し、mが2以上の場合、Rは同種類であっても良く、異なる種類であっても良い。)
【請求項2】
前記C6〜C10が、各々独立に、前記式(II)で表される構造の有機基と結合している
ことを特徴とする、請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
前記mが1又は2である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
前記式(II)中のフェニル基の4位の炭素原子にOH基が結合している
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
前記Rの少なくとも1つがアルキル基又は第3周期以前のハロゲン原子である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
前記Rの少なくとも1つがメチル基、塩素原子又はフッ素原子である
ことを特徴とする、請求項5に記載のフラーレン誘導体。
【請求項7】
前記フラーレン骨格がフラーレンC60である
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のフラーレン誘導体が溶媒に溶解してなる
ことを特徴とする、フラーレン誘導体溶液。
【請求項9】
前記溶媒がエステル溶媒である
ことを特徴とする、請求項8記載のフラーレン誘導体溶液。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含む
ことを特徴とする、膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−280323(P2008−280323A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205149(P2007−205149)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】